Monday, March 30, 2009

グリーンスパンのじっちゃま、隠居渋る


80歳を超えて現役スターの座を守るのは、簡単なことではない。

グリーンスパン元連銀議長、83歳で、いまだにシッカリ健在である。3月6日生まれの魚座。

金融のマエストロ。

さすがである。

だが筆者としては、2月23日のMHJ記事(新聞買おうか、株を買おうか:NYタイムズ株4ドル割れ)でも言いましたけど、グリーンスパンのじっちゃまには、そろそろ引退してもらいたい。

だって、言ってること、変なんだもん。

週末の英フィナンシャル・タイムズ紙に、グリーンスパンの寄稿論文が掲載された。(全文はここ。)

マエストロの見解では、現在の株価は「グローバルで安い(Cheap)」そうである。そして、安い理由の大半は、みんながビクビクしてるから、らしいんである。だから、みんながビクビクしなくなれば株価は上がる、そういうロジックの論文なんである。

以下は、FTに掲載された彼の論文から――。


“A recovery of the equity market, driven largely by a receding of fear, may well
be a seminal turning point of the crisis. The key issue is when. Certainly by any historical measure, world stock prices are cheap, even after the recent run-up. But as
history also counsels, they may or may not get a lot cheaper before they
decisively return to more normal levels. What is undeniable is that stock market
prices today are being suppressed by a degree of fear not experienced since the
early 20th century (1907 and 1932 come to mind). But history tells us that there
is a limit to how deep, and for how long, fear can paralyse market participants.
The pace of economic deterioration cannot persist indefinitely.

『ひとびとが抱いている恐怖感が和らぐことで、エクイティ市場の回復はもたらされるであろうし、金融危機のターニングポイントになる可能性が高い。重要なのは、それがいつか、ということだ。歴史的に見て、現在の世界の株価水準は、ここ数週間の上昇を経た後でも、まだ安いしかし、正常なレベルに確実に回復する前に、株価はもっと安くなるかもしれないし、ならないかもしれない。それも歴史が示してくれている。否定できない点は、今日(こんにち)の株価は20世紀初頭に世界が経験した(1907年や1932年の状況が思い浮かぶだろう)のと同程度の恐怖感によって抑圧されている、ということだ。だが、恐怖感が市場参加者をどこまで深刻にどこまで長期間麻痺させ続けることができるかには限界がある、というのも歴史を見ればわかることだ。経済悪化のペースが永久に続くことは、ありえないのだ。』 (MHJによる拙訳)

.
もちろん、「ありえない」のはわかってますけど、果たして「安い」って言い切れるのか、そこは激しくクエスチョンマークなんじゃないの?

グリーンスパンの頭にあるのは、昔ながらの、歴史的データに依存する株価のバリュエーションのようだけれど、株のバリュエーションなんてのは、こういう異様なハイボラティリティが続く局面では、まったく無意味だと思いますけど

以前、オバマ大統領もPERで判断すれば株はいまこそ買い時、と言ってましたが(3月4日のMHJ記事参照)、PER(株価収益率)も古典的なバリュエーション手法のひとつの例。

オバマが「買い時」と言ってからまもなく株価は確かに上昇したから、オバマ君のセールスマンとしての「センス」は認めますが、PERで見て極端に安くなってるとマジに信じて買いに入った長期投資家が、ここ数週間のラリーでどれだけいたんだ、ってことよ、わたしが言いたいのは。

2002年から2007年にかけて顕著だったクレジット市場の異常なボリューム拡大とクレジットスプレッドの急激な縮小は、グリーンスパンのいう「20世紀初頭の株式市場」には、存在しなかった現象なんだ。金融工学の進歩によって「リスクを移転する理論とテクノロジー」が90年代後半に急激に広まって、あげくの果てが、AIGのていたらく、なんだから。

急激な信用収縮が一般の企業収益にとって何を意味するかというと、企業側も、調達コストの上昇をなんらかの形で顧客に転嫁できなければ当期利益は縮小する、ということ。PERの分母にあたる“E”(Earnings)は、シクリカルなインパクトだけじゃなくて、構造変化のインパクトも受けることになる。だって、この金融危機で、資金市場は、いやおう無しに【構造変化】を迎えるんだもん。つまり、一般企業の“E”だって、データとしては断絶するし、キャッシュフローは不恰好になる、という意味さ。

いま、みせかけの「安価なクレジット」が膨大な量のCDS契約の解消とともに「巻き戻し」を始めてるわけだが、どこまで巻き戻されればマネーフローが実態を反映した「正常」に戻るのか、この資金市場の構造変化が、企業収益にどう影響及ぼすのかも、いまの段階では、よく分からん。

今日のゼネラルモーターズ(GM)をめぐる動きとともに、シニアクラスの企業債も、エクイティと似たり寄ったりの損失を被ることが確認されて、クレジット市場の投資家心理はふたたび冷え込んできているからね。

グリーンスパンが執着してる「ヒストリカルに見れば安い」なんつー古臭いバリュエーションには、もう根拠がないのさ。

   ★   ★   ★

先週26日のMHJ記事に、筆者は「1ヶ月の間に200から1000という極端な幅でセンチメントが揺れ動くというのは、市場に確固たるファンダメンタルズのサポートがない証拠。金融セクター以外に株高の材料求めてるけど、金融セクターが弱いままで実体経済だけ持ち上がることなんて、ない。」と書いたけど、今日、モルガンスタンレーのストラテジストが、これと同じことを言ってた。


“We see a lack of fundamental support outside the financial sector, where
there is now a fast-growing belief that policy action and bank guarantees may
have finally backstopped the downside,”

『政府のアクションと銀行に出されるギャランティで、ついにダウンサイドに歯止めがかかるという思い込みが急速に広がっているが、金融セクターの外側に、それをサポートするファンダメンタルズが欠如している。』


(ブルームバーグの記事:http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601087&sid=aCEfLp6MMols&refer=home から引用)


このMSのストラテジストは、投資家は【カラー(Collar)】ポジション(インデックスのコールを売ってプットを買う)を考慮せよ、と勧めているけど、これって、いま筆者が自分のへそくりでチマチマお小遣い稼ぎやってるポジションだ。いまみたいにファンダメンタルズのサポートがないときは、方向感が失われやすく、市場のボラティリティは速く大きくなるんだから、上がっても、下がっても、どちらでもプロフィットを産むようなポジションを作っておくのがいいよね。いまは、投資ホライゾンがよほど遠くにある場合は除き、売るも買うも、超短期のスペキュレーションで動いてるんだから。

   ★   ★   ★

ファンダメンタルズのサポートがないときに、しかも、近年まれなスケールで資金市場が「構造変化」をくぐっている最中に、「歴史的なバリュエーションでみて安い」もへったくれも、ない。

じっちゃま・・・どんどん市場から、Out of Touch になってゆく・・・。

でも、じっちゃま本人は「米国金融市場のマエストロ」という役割を放棄する気はさらさらなく、3月11日付けのウォールストリートジャーナルに、『ハウジング・バブルは連銀のせいじゃないも~~~ん』と主張した論文を載せ、現役ぶりをアピールし、話題になった。

そのお返しとして、3月27日付けのウォールストリートジャーナルは、

『ハウジングバブルを引き起こしたのは連銀か否か?』
Did the Fed Cause the Housing Bubble?
http://online.wsj.com/article/SB123811225716453243.html

と題する紙面シンポジウムを開き、YesとNo両方の識者を集めて、あーだこーだ言っていた。

この命題に対する答えとして筆者は、「Out of Touchのマエストロがスターの座から引退するのを拒んだから」と言いたい。

★   ★   ★

2004年10月20日のウォールストリートジャーナルに、こんな記事が載った。


Greenspan Plays Down Fear of Housing Bubble

(October 20, 2004) --
Federal Reserve Chairman Alan Greenspan once again shrugged off concerns about a
housing bubble, maintaining that "a national severe price distortion seems most
unlikely in the United States, given its size and diversity."

The nation's top economist, speaking before a recent meeting of
America's Community Bankers, says he's not worried about speculative buying
because most of that activity is tied to second homes and rentals, which account
for only a fraction of overall mortgage origination.

He also says he believes most homeowners have enough equity to handle
record debt loads and withstand moderate regional declines in property prices.

"To be sure, some households are stretched to their limits, but the vast
majority appear to be able to calibrate their borrowing and spending to minimize
financial difficulties," Greenspan remarked.

According to a recent report from Goldman Sachs, housing is overpriced by
nearly 10 percent. Excess supply and speculation on the part of homebuyers
remain reasons for concern.

Source: Wall Street Journal (10/20/04)


グリーンスパン「ハウジング・バブルに対する懸念は無用」

(ウォールストリートジャーナル:2004年10月20日)グリーンスパン連銀議長は、ハウジングバブルへの懸念が高まっていることについて、またもや、それを否定した。議長は、米国の住宅市場が巨大かつ種類も多岐に渡っている点を挙げ、米国全体の住宅価格が極端に歪む可能性は極めて低いという従来の立場を崩さなかった。

米国トップのエコノミストである同氏は、全米コミュニティバンカーズの集会で講演し、投機的な住宅投資については心配していない、投機的な動きはセカンドホームと賃貸物件に集中しており、モルゲージローンのオリジネーション全体から見るとほんの一部に過ぎないから、と述べた。

さらに同氏は、米国人の借入額が記録的に高くなっていることについて、アメリカのホームオーナーズのほとんどが高い借入額をハンドルするに充分なエクイティ(←<注>住宅の市場価格と借入額の差を指す)を持っており、地域的な住宅価格の値下がりが生じても対処できるはず、と述べた。

同氏は「確かに、ホームオーナー達の中には一部には限度を超えるような借入をしている人たちもいるにはいるが、ほとんどのホームオーナー達は金銭的な困難が生じても、借り入れと消費をうまくやってゆく能力があるように見受けられる。」とも述べた。

ゴールドマンサックス社が最近発行したレポートによると、アメリカの住宅価格は適正価格を10%上回っており、過度な住宅供給と住宅購入者によるスペキュレーションに懸念が生じている、という。(MHJによる拙訳)

.
5年近くも前の古い記事であるが、この時からすでに、マエストロは Out of Touch であったことがよくわかる。じっちゃま、ここらで隠居してればよかったのに。

でも、「マエストロ」ですから。

いや、実際、「住宅融資が延滞してる」ってだけの話だったら、こんなことにはならなかったと、筆者も思う。

グリーンスパンが議長時代に経験した90年代初頭の銀行危機のときは、「融資が不良化して銀行の資本金がなくなった」という、極めてシンプルな、バランスシート危機だった。今回だって、その程度の問題だったなら、どの銀行だって、自前のキャピタルで損失吸収は可能だったと私も思う。

でも、問題は、融資が焦げ付きました、なんつー単純な話じゃないんだよね。

そうやってオリジネートされた住宅融資を「原資産」にして債券として作り変える「証券化」の動きが急成長し、さらに、その証券化商品をさらに何重にも証券化するという複雑なデリバティブスも出現して、そこにヘッジファンドらがたかりまくり、レバレッジがかかるにいいだけかかっちゃった、なのに、その異常なレバレッジに対して誰もキャピタル用意してなかった、ってのが問題なんである。で、それに対して、CDSがガンガン出されてる。

AIGのように「トリプルAついてればゴミでも何でも引き受けまっせ~~~!」と鼻の穴膨らましてホイホイとCDS書いてリスク取ってくれる保険会社が次々と出現したおかげで、2004年、05年、06年と、住宅融資を原資産とする証券化デリバティブス市場は、怒涛の勢いで拡大した。

でも、証券化でドンドコノリノリやってたのは「住宅ローン」だけじゃなかったんであるよ・・・。

つい数日前のニュースで、すっごく怖いグラフを見た。

【商業用不動産の延滞動向】である・・・これも証券化されてんだよ・・・ガクガク、ブルブル・・・。



どうすんのさ、これ・・・。マエストロに相談しろ?冗談いわんといて。


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Friday, March 27, 2009

司法長官のオブセッション、遂にCDS召還礼状へ

オブセッション
obsession
【名】
 -執念、妄想、取り付かれること、強迫、執着
 -強迫観念、考えや感情が頭から離れないこと  (アルク辞書より)

ニューヨーク州の司法長官、アンドリュー・クォモ(Andrew Cuomo)。

こやつは間違いなく、「オブセッション」患ってる。

3月21日付MHJ記事(墓穴を掘り続ける米国、火の粉はCDS履行にも)で筆者は、低脳議会のボーナス魔女狩り騒動の余波で、問題の核心部分にいる「クレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap=CDS)の履行」にまで糾弾の火の粉が飛びそうだと書いたが、覚えておいでか。

政治的思惑が「CDSの履行」にまで口挟むようになるとこれは厄介なことになる、と。

あのときから何となく嫌~な予感はしてましたけどさ・・・。

しかし、こんなに早く「やっぱり」な事態が訪れようとは。

昨日26日、クォモNY州司法長官が、AIGのCDS契約をキッチリ調べるために、裁判所から「召還礼状(Subpoena)」を発行させたらしいと報道された。

ロイターの記事:http://www.reuters.com/article/ousiv/idUSN2649738920090326

召還礼状には法的な拘束力がありますから、AIGもイヤと言えないんだよね。クォモはAIGのCDS履行の詳細を持ち出してきてネチネチ苛める許可を、法的に得たのである。

今回の礼状入手について、クォモ氏はこう述べた。

“Our investigation into corporate bonuses has led us to an investigation of
the credit-default swap contracts at AIG. CDS contracts were at the heart of
AIG’s meltdown. The question is whether the contracts are being wound down
properly and efficiently or whether they have become a vehicle for funneling
billions in taxpayer dollars to capitalize banks all over the world.”

『我々はボーナス支払いの件で調査を進めてきたが、その一環でAIGのCDS契約についても調査することに至った。CDS契約はAIG崩壊の核心的存在であった。我々は、これらCDSが正当かつ効率的に契約解消されているか、あるいは、米国納税者のお金を使って世界中の銀行に資本を提供するビークルになっていないか、を調べるつもりである。』



米国民のカネがAIG経由で世界中の銀行にばら撒かれてないかチェックする、ですと・・・。

まさに「デターーーッ!」「キターーーッ!」である。

AIGのCDS契約とその解消プロセスについては、つい数日前に、中央議会のAIG問題のヒアリングで、ガイトナー司法長官とバーナンキ連銀議長が「AIGのCDS解消に伴う公的資金の使用を最小限にするために合法的な対処法をさまざま模索したが、現在のCDS市場にはこの事態に対処するキャパシティがなく、市場の混乱を回避するためにも、額面どおりの支払いを行うのが最善、と判断した」と証言したばかりなんであるよ。

また、CDSと保険会社の規制については、一昨年に、アムバック(Ambac)など、モノラインと呼ばれる、金融・金利商品にプロテクションを提供する会社群が大混乱に陥ったときから、ニューヨーク州政府の保険業界監視役エリック・ディナロがあちこちに登場し、連銀等と連携組んで頭悩ませ続けてきてるんだよね。

ところが、ここに、鼻息荒く登場してきたのが、NY州司法長官クォモである。(ニューヨーク州はウォール街を州内に抱えてるので、州の段階でも、司法や規制に関し影響力が強い。)

さかのぼれば、去年のリーマンショックの直後の2008年10月から、ボーナス許せーん!と騒いでいた最初の人物は、このクォモ長官だった。彼は、さらに、AIGの幹部がプライベートジェット使ってるとか、顧客の接待のためと称して会社のカネでプロバスケのNYニックスやプロホッケーのレンジャーズの試合観戦してるとか、マジソンスクエアガーデン内の最高級客室スイートで豪華なパーティしてるとか、そういうタブロイド的なネタを暴(あば)き続け、

「ウォール街エグゼクティブ」=「ゴードン・ゲッコー」(←1987年のハリウッド映画『ウォールストリート』でマイケル・ダグラスが演じた悪者)

という図式を、マスメディア通じてガッツリ民衆の脳裏に植え付け、昨今の魔女狩り騒動の下敷き作るのに成功したお方である。

クォモ長官、自分はすっかり悪を倒す正義の味方になりきって、不正を暴くことにオブセッション。

ま、プライベートジェットやシュリンプカクテルがどうした、みたいな話なら、暴いてもらって一向に構わないです。ドシドシ暴いてやってください!

ただ、クォモが次に「暴こう」としているのは「CDS契約のウラのウラ!」だってんだから、ちょっとなー・・・と思うんである。彼って、なんだか思い込みの激しい人みたいだからさ・・・。

その昔、日本の書店に行くと、別冊宝島とか週間ダイヤモンドとかで『不良債権のウラのウラ!』とかいう特集で、どこそこの担保物件行ってみたらヤーさんがたむろしてた、とか、闇金と不良債権を繋ぐ謎の女の存在を追う、とか、そういう話満載の書籍や雑誌がやたら売れてましたけど、クォモの場合も、レベル感としては、この別冊宝島をやや彷彿とさせる。

クォモが召還礼状・・・んーー・・・嫌な予感がする・・・・。

それでなくっても、クレジット市場では「政界は何やらかすかわからない」というのが【リスク要因】に挙げられてて、警戒心がほぐれないで凍ったままだってのに、ここでふたたび、CNNのヒステリーキャスターとかが乗っかってきて、変な方向に展開しないか、それが不安だ・・・。

   ★   ★   ★

ヒステリーと言えば、海の向こうの欧州からも、ロイヤルバンクオブスコットランドの元CEOの自宅が襲撃されたり、フランスでは3M社のお偉いさんが工場労働者によって24時間監禁されたり、といった暴動ニュースが伝わってきてますね。欧州でも、エグゼクティブへの風当たりは暴風雨状態。

そんな中、渦中のAIGのフランス子会社Banque AIGのシニアエグゼクティブが辞表を提出したそう。他の従業員もみんなウンザリしてて、一斉に辞めるかもしれないって。

フン、辞めたきゃ辞めりゃ―いいじゃん、とお思いでしょう。

だが、そう簡単にいかないらしくて、フランスと米国の当局関係者がアタフタしてるみたい。

26日付けのウォールストリートジャーナルの記事によると、 この、パリにある子会社Banque AIGは想定元本2340億ドル(20兆円以上)に相当するCDSを発行しており、このエグゼクティブたちが急にいなくなると、CDS契約の契約詳細に従って信用事由が発生し、デフォルト扱いになっちゃうかもしれない、というんである。

CDSに詳しくない方には、いま書きかけの「小学生のための~」でそのうち説明する予定ですが、CDSというのは、なんだかんだ言って、それを発行した側と買った側の当事者間で交わされた一種の【契約書】なんであるな。

で、CDSという契約書には「これこれこういう事態が起こったら、デフォルト(債務不履行)になります」という内容がかならず書き込まれているものなんです。デフォルトを起こす事象のことを、専門用語で『信用事由』(Credit Event)といいます。

で、このパリの子会社が出していたCDSには、「Banque AIGのコントロールの変更」という項が信用事由に含まれていたらしく、現在の従業員がいなくなっちゃってフランスの当局が代わりとして他の誰かを指名すると、それは「コントロールの変更」という事象に相当するかもしれなくて、もしそうなると、額面20兆円規模のデフォルトが起こっちゃったらどうしよう、とかいう話に発展してるとかなんとか。

これまでも、CDS市場は、できるだけ契約書の内容を規格化・標準化し、契約上のカスタマイゼーションを少なくして、トランスアクションコストを下げよう、という動きは無くはなかったんだけど、市場の急激な拡大に規制やルール作りが追いついていけずに、ほったらかしになっていた。

たくさんの『盲点』を抱えたまま、CDS市場は急拡大しちゃったんだよね。

このAIGのパリの子会社の件にしても、こんなことが起こるかもしれないなんて、考えたことあるひと、これまで一人でもいるのかな。実際の問題が出てくるたびに、当事者も当局も、「えーっ!そんなこともあったんですかいッ!?」とアタフタしているのが実状。

連日アタフタしてる皆さんに代わり、筆者から、クォモ長官に言ってあげましょう。

「お願いだから、あんた、脇でおとなしくしてて。取り込み中だから、邪魔しないで。」

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Thursday, March 26, 2009

小学生のための「CDSとは何か」(2)

今朝(26日)は、エレクトロニクス小売全米最大手のベストバイ(Best Buy)(←日本で言えばビッグカメラみたいな)が、4Q業績が「予想されてたほど落ち込まなかった」というニュースで、取引開始直後に一気に11%上げ。

落ち続けてるときはドーンと暗くなって、「S&P500、このまま、200まで落ちるかも・・・」なーんて言ってた弱気のアナリストがいたのに、今朝のブルームバーグ記事読んでたら、こんどは「S&P500、このまま、1000まで突っ走っても不思議はない」なーんて言ってる強気のマネージャーがいた。

どちらも「ありえない」とは言い切れないよね。

「可能性はゼロ」と言い切れないし、言い切らない

それが投資の基本である。

「AIGの悲劇」の原因を突き詰めれば、この投資の基本を忘れ、「可能性はゼロだと決め込んでた(だって、トリプルAなんだもん)」というところにあるんであるな。リスクのない投資など、ない。従って『必勝法』などというものは絶対に存在しない。

とはいえ、1ヶ月の間に200から1000という極端な幅でセンチメントが揺れ動くというのは、市場に確固たるファンダメンタルズのサポートがない、という証拠である。

ベストバイ社の業績が「予想より良かった」と言ったところで、伸び率はマイナスいう事実には変わりないわけでして。ここのところ、住宅関連でも、「明るいニュース」が出てきたと言ってるが、こちらも、前月比では「よかった」かもしれないが、前年同期比ではやっぱりマイナスで、落ち込むスピードが落ちてるってだけで、やっぱり落ち込み続けているんである。

今日もNYの株式市場は上げた。でも、今日は、金融株は全般に弱く、その代わり、金融以外の株がけん引役になって上がった。

ここのところ、ずっと金融セクターに振り回されてきたマーケットも、そろそろ同じ話に飽きて、新しいストーリーを欲しているな。でも、金融セクターが弱いまま、実体経済だけ持ち上がることはありませんので。また相場の方向が見えずらくなってきた・・・。

   ★   ★   ★

さて今日は、3月23日のMHJ記事で書きかけになっていた「CDSとは何か」の続きを書こうと思う。

前回は、「クレジット(信用)リスク」について簡単に説明し、クレジット市場というのは、この「クレジットリスク」に値段をつけて売買する市場だ、というところまで述べた。

カネを貸した相手の会社が実際に「破綻」したり「デフォルト」起こしたりしなくても、「リスク」そのものは、日々、ビミョーに高くなったり、低くなったりする。

明日は遠足の予定だけど、お月様がボンヤリしてみえるし、遠足は延期になるかもしれないなぁと、なんとなく不安になる。空模様をながめ「遠足延期」という「リスク」を感じ取っているんである。翌朝になって遠足は予定どおり決行されるかもしれない。でも、その決定が下されるまでは、ボンヤリ不安を抱えている。

これと同じである。

この「ボンヤリとした不安」こそが「リスク」であり、それに従って、社債(企業が発行した債券)の値段というのは、セカンダリー市場で、上がったり下がったりするんである。

   ★   ★   ★

ここで、ちょっと寄り道して、プライマリー市場とセカンダリー市場について、少々説明しておこう。

ある会社Xが株式や社債を発行しようとする。ピカピカの新品の証券である。新証券発行にあたり、その会社は、現在の市場の動向や、ターゲットになってる投資家がどんな風に自分達のことをみているか、いくら位の値段を付ければ売りさばくことができるか、などを事前に調査する。事前調査は自分でやってもいいけれど、いちどきに何百億円何千億円という額の発行になると、売り出しに参加する投資家の数はすごく多くなるから、潜在的なバイヤーである機関投資家を顧客に多く抱えている証券会社に「どんなもんでしょ」と相談するのがフツウである。

で、証券会社のインベストメントバンカー達は、いろんなチャネル駆使して、その証券の発行条件を考えてあげて、「投資家はこんなこと言ってるし、いまの相場はこれこれこんな風だから、こんな風にして市場に持っていったら最適かと思いますけどねー」とかアドバイスして新規発行のお手伝いする。そのアドバイスに手数料取るんだ。

そして、会社Xと死ぬほど折衝を繰り返して(←“死ぬほど”というのは、あながち冗談ではない。インベストメントバンカーのみなさん、マジでときどき死にそうになってますから。)、いよいよ、新証券お披露目、となる。このときは、お披露目の席にお呼ばれした投資家しか、この証券を手に入れることはできない。

この「新証券お披露目」で登場する証券を扱う市場を、プライマリー市場(Primary Market)と呼ぶ。

いよいよお披露目式が終わりその証券がローンチされると、その証券はオープン市場で売買が可能になる。ここでは、お披露目式に呼ばれなかったその他投資家もワイワイ参加して売買できるマーケット、それが、セカンダリー市場(Secondary Market)である。一般の個人投資家が参加してどこかの会社の株を売ったり買ったりしてるのも、セカンダリー市場である。

証券のプライスというのは基本的にセカンダリー市場でのその証券への需要と供給で決定される

   ★   ★   ★

プライマリー市場で5%という利率が付いてきた債券は、100万円の額面に対して、毎年5%の利子を生みますね。これを5年間ジーと辛抱強く持ち続けてると、毎年5%づつ利子が払われ、5年目の満期で最初の100万円の元本も戻ってくる。これだけなら、フツウの定期預金と同じですね。

もちろん、そうやってジーと持ち続けていてもいいんです。

でも、満期までジーと持っているのが嫌なら、セカンダリー市場に持って行って、「中古の債券ですけど、買いたい人いませんかー?」と売りに出すと、買ってもいいよー、という誰かが現れる。

   ★   ★   ★

では、社債のセカンダリー市場で売りに出された債券は、どう取引されるのでしょうか。利率5%のクーポンがついてるからといって、買ってくれるひとが、そのまま5%の利率で満足するとは限りませんね。デフォルトのリスクが高くなってるとしたら、これからそれを保有しようという相手は10%の利子を欲しがるかもしれませんね。

つまり、ぼんやりした不安が確固たる不安になったとき、同じ会社に対しても、金利はボーンと跳ね上がるんである。社債セカンダリー市場では、プライマリー市場で発行条件として決められた当初の利率を無視して、「いま、この瞬間に抱えてる不安」の度合いを金利に反映させて取引が進められる。

社債マーケットというのは、個人投資家で賑わう株式市場とはずいぶん様相が異なり、ここは基本的にはプロの機関投資家限定の世界。取引するときも、一本何ドルとかの具体的な通貨価値で取引するのじゃなくて、【クレジットスプレッド】と呼ばれる金利の一種を提示することで、売買します。

たとえば、ゼネラルモーターズが発行した社債を持っている投資家がいるとします。この投資家は、ゼネラルモーターズに対して不安を抱いていて、デフォルトするリスクが高まっていると考え、いまのうちに売ってしまおうと思っている。

買い手はできるだけ安く買いたい、別の言い方をすると、それを保有している間は、できるだけ多く利子を受け取っておきたいから、高い金利になるように、できるだけ大きなクレジットスプレッドの数字を提示します。一方の売り手は、できるだけ高い値段で売りたいから、逆に、できるだけ低いスプレッドの水準を提示します。そうやって売り手と買い手は互いに「具体的な値段」じゃなくて「スプレッド」を提示し合い、そのせめぎ合いから最終的にプライスが決まるのです。

【クレジットスプレッド】とは、取引の対象になっている証券に内在している信用リスクに対して、市場がどう判断してるかを示す数字なのでありますね。スプレッドがどの水準なら「正常」とかいった“絶対値”は存在しない。そのときそのときの状況で、他のなにかと比べて“相対的”に高いか低いかが判断され、ゆるゆると(時には激しく)移動してゆく。

雨が降りそうだから遠足延期のリスクが高まっていると思うひとが多ければ、クレジットスプレッドは拡大する。逆に、心配ご無用きっと遠足は行われるさ、と思うひとが増えてくれば、クレジットスプレッドは縮小する。

【クレジットスプレッド】、次回はこれを説明します。

          (続く)

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Tuesday, March 24, 2009

ガイトナーのプット

昨日23日のNY株式市場は終始イケイケ、金融株に引っ張られ、一気に500ポイント近く上昇。ハイテク株も絶好調でナスダックも絶好調。


金融株急上昇は、ガイトナー財務長官が発表した不良資産買取りプログラムの「詳細」が出され、株式市場がそれを好感したというのが、その理由。

一ヶ月ほど前にガイトナー長官がプログラムの「概要」を発表した2月10日は、株市場は「詳細がない!」と怒りまくり、あの日一日でダウは388ポイント下げた。

で、今回は、(筆者からすると「詳細」というほどの「詳細」でもないと思うのだが)、株市場では「詳細だ、詳細だ」と叫んではしゃいでいた。ダウ497ポイント上げ。

ガイトナー効果、ネットでは、497-388=プラス109。

昨日の記事で、株式サイドの人たちというのは「アップサイドに希望を託し、打たれ強くて能天気、物事をあまり深く考えず、知ったかぶりが得意」と書いたけど、昨日の株式市場のハシャギ振りは、まさにこの記述そのもの。ともかく、詳細が出てきたんだから、これからはガンガンに不良資産が売却されるに決まってるという「思い込み」のみで、昨日一日を突っ走った、という印象だ。

一方の債券サイドは、銀行債スプレッドは縮小したけど、全体としての反応はいささかクール。例によってウジウジと重箱の隅つついて「でも、どんなプライスになるのか、まだわかんないし~」とか「参加者がそんなに沢山集まるかもわかんないし~」とか「ローンの具体的な条件見るまでは何ともいえない~」とか、ともかくダウンサイドリスクばかりを気にしてて、まだまだ警戒心を解いてはいない様子。

ま、たしかに、この手の案は、骨子や概略がどんなに立派でも、いざエグゼキューション(実行)の段階になると鳴かず飛ばずになることは往々にしてあるので、「プライシング」と「エグゼキューション」という2大要素に高い不確実性を残している現時点では、この不良資産処理案の成功について安心するのは、スペキュレーションの域を出ないですね。

一夜あけた今朝は、ちょっと頭冷えたみたいで、今朝のダウは下がってる。

   ★   ★   ★

とはいえ、ガイトナー案は、投資家側の視点に立つと、かなりポジティブな内容ではあった。

2月11日付けのMHJ記事(「政府主導による市場メカニズム」の矛盾)で、筆者は、ガイトナーが先月10日の発表直後のインタビューで「プットオプションを用意する気はない」とコメントしたことが引っ掛かかる、と書いた。投資リスクを丸投げされても民間資金はなかなかその気にならないから、民間資金を呼び込むつもりというのなら、政府からなんらかのプットを提供してリスクヘッジのお手伝いをしてあげる必要がある、とも書いた。

で、今回のガイトナーの発表内容見てみたら、その「プット」があれこれ明示されていた。

たとえば、民間キャピタル$1ごとに政府が$1マッチする形をとり、政府は単なる資金の提供者としてだけではなくエクイティインベスターとしても参加するようだ。つまり、この買取り資産から損失が発生したとき最初に損失がヒットするエクイティ部分に国も半分参加することで、投資家が被る損失を制限してやる(=プット)効果がある。

また、銀行のバランスシートから不良化されたローン資産を買い取る際の資金には最高50%までのFDICの保証をつけることにより資金調達がより安価で可能になる。もし買取り資産の価値が予想以上に下落した場合、資金を調達した民間会社は高レバレッジ維持が困難になるが、そのリスクも国が負ってくれる(=プット)格好になる。

また連銀がノンリコースローンを駆使して投資家のリスクを限定するフィーチャーとかもありそうだ。

財務省が出したリリースをザッと斜め読みしただけなので理解不足だが、民間キャピタルにとっては、政府が資金流動性を確保してくれるうえに、損失シェアリングもやりましょう、ってことなので、これはなかなかのグッドディールじゃないか、という印象を持った。

しかし、この案は、基本的に【買い手(投資家)】側の面倒しかみてくれない案ですね。

なんだかんだ言っても、肝心の「プライス」がどうなるか、これがいまだに、一番のネックであることに変わりはないよなぁ・・・。

これも2月11日付けの記事にかいたように、買い手側の問題は、資金の流動性とロスを限定するプットオプションを提供することで集めてくることはできる。

だが、【売り手】にあたる金融機関の方は、売却価格のディスカウントの深さ次第では、逆に自己資本を傷つけてしまい、公的資金返済シナリオが遠のく。そこまで投資としてのアップサイドが高い資産なのなら、何故いまいま投げ売りする必要があるかという計算も働くだろうし。

昨日の午後、ゴールドマンが中国の銀行ICBCの持分を一部売却し、それを公的資金早期返済に充てるのではというニュースがWSJで流れ、GS株が急騰した。GSのように売却できる資産を持っている場合はいいけれど、そうじゃなければ、無理な資産売却は自己資本と営業基盤をかえって弱める場合もありますしね。

銀行側としてできることは当面、融資+投資資産のリスク量と、自己資本額を交互に見比べながら、政府プログラムに参加してオフバラすべきか、別の手段でリスク軽減図ろうかと、何がいちばん効率がいいかを見極めるために、銀行側は慎重になるのではなかろうか。売り手側の金融機関が果たして、ガイトナー案に率先して参加してくるかは、まだピンとこない。

それに、過去にCDOとして証券化されたToxic Assetsも買取り対象に含まれたようだけど(購入時にAAAだったトランシェのみ)、これ、政府が買い取ったとたんに、参照価格がひとつ生まれるわけですよね。でも、政府からの資金援助を受けられない小規模の投資家の場合は、調達側は高止まりしているわけだし、その参照価格に近いところで同じトリプルA格付けを付されてる証券の売買に買い手として積極関与するのは困難、とも、なんとなく思うんだよなあ。

国が関わったというだけで一部の証券だけが優遇されて、その他大勢も含めた一般のマーケットプライスから極端に外れたところでプライシングされると、市場全体としてみると、かえっていびつになるんではなかろうかという不安もあるんだけど・・・わたしの考えすぎでしょうか。

プライシングの問題・・・どうなるのだろう。


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Monday, March 23, 2009

小学生のための「CDSとは何か」(1)

昨日の日曜、CNN局の昼の番組を見ていたら、AIGのボーナス問題をメディアが意図的に焚き付けているのではないかと自己反省(?)するスポットがあった。筆者はすかさず、「大統領オフィスからCNNに文句でも行ったんかな」と感じた。

メディアは一揆ネタを提供するのに余念がない、とは前回のMHJ記事で書いたが、中でもCNNは、この騒ぎの中心に陣取って、煽るにいいだけ煽っていた、その張本人だったんだよ。

そのCNNが、日曜日になったら、急に態度を改めちゃって、

「確かにAIGに問題はある。しかし、メディアが民衆の怒りに油を注ぐような真似しちゃいけないですよ、ねぇ?」

とか、まるでヒトゴトのように、やたら殊勝なこと言っちゃってんである。

CNNのこのトーンダウンぶり。絶対に、昨日か一昨日、政府側からCNN本社のトップに文句入ったな。電話での声はあくまで明るく、しかし、「オメー達のせいで、Toxic Assetsの売却に支障が出たら、どうなるかわかってんだろーな」という内容で、ヤンワリ言われたんじゃないのかな。

2月11日のMHJ記事(「政府主導による市場メカニズム」の矛盾)で、筆者は、ガイトナーのToxic Assetsの処理案てのは、



『給料高過ぎると難癖つけた相手をアドバイザーとしてこきつかい、通称「ハゲタカ」(政界関係者が好む別名「庶民の敵」、「GREEDの代表」)と呼ばれてるディストレス(不良化した資産買取り)専門のプライベート・エクイティの力を借りないと一歩も先に進まない』


そういう案だと書いた。ウォール街は、政府の不良資産買取りプログラムの成功にとって、頼みの綱。

ところが、この数週間の政界とメディアの馬鹿騒ぎ(および、それにマンマ乗せられて、ウォール街近くのAIG本社の前でプラカード掲げてピケ張って騒いでるヒマな大衆)をここまでシツコク見せつけられたら、ウォール街関係者達は、

「政府が用意するカネに関わったが最後、議会とメディアの追求にあって火あぶりにされるのがオチ、そんなアホらしいことにわざわざ付き合ってられっかよ・・・」

というのが本音のところでありましょう。政府はそれじゃ困っちゃう。

CNNは金曜日も深夜までボーナスの件でギャーギャー騒いでたくせに、週末は手のひら返したように態度改め。

バレバレなんだよ、っつの。

ということで、今週の米市場はアホなボーナス問題から離れ、政府の官民共同不良資産買取りプログラムP.P.I.P.(Public-Private Investment Program)、そして、その資金源T.A.L.F.が、具体的にどう作用するかという重要な話に主眼が移る。

しかし、その「CNN殊勝に態度改めます番組」に出演していたビジネス担当の女性キャスターは、

「でも、AIGほか金融機関たちは今後も、情報の透明性(Transparency)をもっと改善すべきじゃないのかしらッ!」

と、あくまで食い下がった。

先週金曜日、NY時間の午前、ゴールドマンのCFOがコンファレンスコールを開き、AIGが公的援助を受けた後に多額のキャッシュをAIGからGSに支払った件につき市場関係者向けに説明した。

このCNNのキャスターは、その話を持ち出して、

「金曜付けのニューヨークタイムズにゴールドマンサックスが述べた内容が記事で紹介されてるけど、いい?その部分を読むわよ。(実際に新聞の記事の一部を声に出して読む) どぉ?このゴールドマン側の説明があなたに理解できる?わたしには、さっぱり理解できないわ!こんなの英語じゃない!透明性に問題があるのよッ!

とヒステリックに叫んだ。(CNNの女性キャスターが音読したNYT記事は、ここ。)

「さっぱり理解できない」か・・・なのに取材させられて、さぞかしイライラしながら取材してるんだろうな、彼女・・・。

   ★   ★   ★


だが、あのコンファレンスコールを聞いて、理解できたひともいるわけでして。

CNNの女性キャスターが理解できなかった理由は、おそらく彼女が債券やクレジットの知識がないのが原因で、「情報開示が悪い、透明性が低い」というのとはまた別の話じゃないかと筆者は思う。

基本的な知識が欠けてる相手に、詳細な内部情報を渡したからとて、どの道、理解できるはずがない。

今週以降、いよいよ、問題のToxic Assets(不良資産)のバランスシートからの切り離しが始まろうとしているが、これは100%債券の世界の話。

対象となる資産は「AAAの格付けが付された証券化債券」で、売り手は不良資産を抱えてしまった金融機関、買い取る側は民間投資家、買い取るための資金は連銀が用意するT.A.L.F.(Term Asset-Backed Securities Loan Facility)資金。民間が資金を提供したら、FDIC預金保険機構が、民間の資金提供者に対し保証を出す。

この証券化債券を買った投資家は、セカンダリー市場でフツウに取引し、売れたら連銀に借りた資金をお返しし、儲けは投資家のフトコロに。こうした流れを作ることで、低迷している証券化市場にカツ入れようとしてるんですな。

債券、クレジット、CDSなどの基本的知識をほんの少し齧っておくだけで、これから起ころうとしていることが理解しやすくなると思うので、クレジットの世界に長年籍を置いたひとりとして、ごくサワリの知識だけだが、紹介したい。

   ★   ★   ★

AIGの件で死ぬほど登場した、クレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap、略してCDS)だが、そもそも、CDSとは何か。

CDSをザックリ説明したサイトは結構ある。たとえば日本語のウィキペディアのCDSの項を参考にする手もあるが、あそこまでザックリしすぎると、かえってわからなくなるもんですね(笑)。

CDSがクレジット市場の取引で実際どう使われてるかの「実務偏」基本情報は、債券運用世界最大手のピムコ社のサイトのここが、どこよりうまくまとまっているので、参考にされたい。

しかし、世の中には、ピムコのサイトを読んでもチンプンカンプンというひとの方が少なくないだろうし、CNNの女性キャスターみたいにヒステリー起こされてもかなわないんで、MHJでは“小学生向け”に説明することにする。わかってるひとは飛ばしてください。

   ★   ★   ★

本題に入る前に、「債券」という証券について押さえておきたい。いっぱんになじみの深い株式と決定的に異なる点は、債券というのは、青天井で儲かる種類の投資ではない、ということだ。

株式なら、うまくいけば、元手の投資金額を何倍、何十倍、何百倍にすることだってできる。持とうと思えば20年だって30年だって、その会社が存在する限り持ち続けることもできる。一攫千金の可能性あり、夢いっぱいの投資だ。

しかし、債券というのは、(1)いくらの金額を(=額面)、(2)いくらの金利で(=クーポン)、(3)どれくらいの期間持つか(=償還期日)、という条件があらかじめ決まっていて、期間が過ぎれば、もっと持っていたくても、償還されてしまう。しかも、償還されるときに手元に戻ってくるカネは額面以上にならないんだから、夢のない世界なんです。

しかし、そんな夢のない証券も、日々、金融街でトレードされていている。たとえば期間10年という条件がついた債券を買っても、10年間ジーと償還期日が来るのを待ってる必要はない。債券にも、中古(?)の債券を売買する巨大なセカンダリー市場が存在する。債券市場の規模は株式市場とは比べ物にならないほど巨大なマーケットで、そこは1%の100分の1(1 basis point=1ベーシスポイント)という金利の小刻みな動きに一喜一憂し、リスクが上がった下がったとわめいているプロの投資家集団のたまり場。

だが、ひとことで「債券」と言っても、国債、社債、スワップ、証券化商品、などなど、債券の種類もたくさんあって、それぞれが極めて専門性が高いために、棲み分けがハッキリしており、国債関係者が証券化商品の取引にも関わるということは、まずない。それぞれの分野で、何がリスク量を左右するかがまったく異なるからだ。

(余談だが、筆者は現役中に株式サイドも債券サイドも両方経験したが、ハッキリ言って、債券サイドってのは、四六時中ウジウジとダウンサイドのリスクのことばっか考えているせいか、懐疑的で性格暗く、重箱の隅つついて一人ニタニタしてるオタクみたいなひとが多い。その点、株式サイドは、アップサイドに夢を抱いていられるせいか、打たれ強くて能天気、実はあまり深く考えてないんだが知ったかぶりは得意、みたいなひとが多い、という印象である。)

さて、社債投資であるが、あなたの手元にいま100万円の現金があるとしよう。ある会社があなたの100万円を借りたいと思っていて、10%の金利払いますから1年間貸して欲しいと言う。あなたは、額面100万円の債券を金利10%で額面と同じ100万円で買うのに合意したとしよう。債券というのは貸す側と借りる側とで結んだ「契約」なんである。

ところがその1年後、この会社が事業に失敗し、払うと言ってた10%の金利と元本を払う余裕がなくなった。

あなたが一年前に債券と引き換えに貸した100万円がどうなるかというと、この会社は、他のひとから新たに別の100万円借りてきて、約束した金利も付けて、あなたに返そうとする。契約どおり返してもらったら、あなたはハッピー。しかし、新たに100万円貸してくれた相手は、10%じゃ足りない、15%の金利付けろ、と言う。

同じ会社が同じ100万円借りるにも、支払う金利は高くなっちゃった・・・。だって、この会社、事業に失敗したんだもん。つまり、この会社の信用力は落ちてしまった。信用力が落ちると、高い金利を支払わされる。貸す側は相手が信用できない分、高い金利を請求し、取りっぱぐれるリスクを回避しようとする。取りっぱぐれる、すなわち、デフォルト(債務不履行)起こされたら困りますんで。

つまり、これが「信用リスク」、「クレジット・リスク」という概念である。

この信用リスクという【概念】に具体的に値段を付けて取引する市場、それがクレジット市場である。

        (続く)

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Saturday, March 21, 2009

墓穴を掘り続ける米国、火の粉はCDS履行にも

怒涛の一週間が終わった。

アメリカのメディアで今週、一体何度「ボーナス」という言葉が出てきたのだろう。

テレビはどのチャンネルつけても「ボーナス!」「ボーナス!」、新聞も連日紙面トップで「ボーナス!」「ボーナス!」、道歩いててすれ違いざまに聞こえてくる市民の会話も「ボーナス!」「ボーナス!」・・・

・・・いいかげんにしてほしい。

3月17日付けのMHJエントリー『AIGは死んでお詫びを:政治筋「ハラキリのススメ」』で書いたように、(1)AIGが払ったボーナス額=1億6千500万ドル、(2)米国がAIGに用いた公的資金総額=1730億ドル、(1)÷(2)=全体の0.1%以下。

「納税者のためズラ!」と御旗を掲げ、米議会総出で百姓一揆さながらの騒ぎを繰り広げているが、完全に優先順位を間違っておる。

昨夜の某局の討論番組でもAIG問題が議論されていたが、そこで、あるジャーナリストが、「政界はボーナスのことばかりに気を取られているが、それは問題全体からみれば氷山の一角、それよりもっと大きな問題に目を向けるべきではないのか」と発言し、筆者はその新鮮さに雷に打たれたようになり、一瞬、噛んでたパスタを飲み込むのも忘れたね。(←またもや「パスタの夕食」か・・・)

口の端からスパゲティ垂らしてTV画面を食い入るように見つめ、その先を息を殺して待っていたら、そのジャーナリストは、こう続けた。

「AIGにこれまでに使われた公的資金総額のおよそ3分の2が、他の大手金融機関に流れたことが判明した。しかし、AIG経由で金を受け取ったとされる金融機関たちは、すでに多額の公的支援を受けとっているではないか。公的支援を受けながら、なおもAIGを食い物にしようとしている、これらインベストメントバンク達の責任は追及しなくてもいいのか。」

この発言を聞いて、筆者はパスタ吐きそうになったよ。

期待に胸膨らませていたのに、こいつも、やっぱり全然わかってなかったんである。

このジャーナリストは、3月15日付けでAIGがリリースした「昨年秋にAIGに向けられた国からの緊急融資の使い道」のことを言ってるんだよね。

NYタイムズがまとめてくれたリストによりますと、AIGからお金受け取った金融機関とそれぞれの額は、

 ‐Goldman Sachs ($12.9 billion、129億ドル)
 ‐Merrill Lynch ($6.8 billion)
 -Bank of America ($5.2 billion)
 -Citigroup ($2.3 billion)
 -Wachovia ($1.5 billion)

たしかに、全員、公的資金のお世話になってる会社ばかりですわね。

リストには、米国のみならず、欧州の主要金融機関も入っていた。

 -Société Générale of France ($12 billion)
 -Deutsche Bank of Germany ($12 billion)
 -Barclays of Britain ($8.5 billion)
 -UBS of Switzerland ($5 billion)

ボーナスの百姓一揆にそろそろ飽きてきたのか、次に何を言い出すかと思えば、これだ。

AIGのリリースに書かれてあるとおり、これらのお金は、CDSという契約書に従って、債務を履行しただけのこと。ビジネスはビジネス、契約は契約、払うことになってたんだから払うまで。

しかし、ボーナス一揆の興奮ひきずる政界で、一揆ネタをフィードするのに余念のないメディアで、そして、ネタをフィードされるままにヒステリアに一緒に参加する一般大衆の間で、いま、ボコボコと噴出し始めているのが、

「納税者のカネで緊急支援してやったのに、それをエサにしてまだ金儲けしようとしているウォール街」

というトーンである。

海外勢については「ガイジンのくせに、米国納税者のカネにたかりやがって」というトーンも混じる。

これは危険な動きであるな・・・。

世間は、ボーナスの話題にはいいかげん飽きてきてるけど、ウォール街バッシング(=魔女狩り、火あぶりのアトラクション付き)そのものには、まだ、ぜんぜん飽きていない。

あらたに「追求すべきネタ」を探し、目をギラギラさせている。昨日のNYタイムズの記事(AIGが3億ドル相当の税金リファンドを求め国家を相手に訴訟を起こしている、という記事)などは、その最たる例である。

だが、いまになって、「AIGが、国から融資をしてやったカネを、他の金融機関に横流しした」といいがかりをつけるのは間違っている。

なぜなら、去年の秋、当時の財務長官ポールソンと連銀のバーナンキ議長がAIGに緊急融資を施す決定をした時点で、あの緊急融資は「それが目的だった」のだから。

ボーナス問題が火付けになって、そこから火の手はどんどん拡大し、いまや、問題の核心部分にいる「クレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap=CDS)の履行」にまで、【糾弾】の火の粉が飛びそうだ。

CDS、CDO といったクレジット市場での金融取引は、ウォール街で働くプロフェッショナル達ですら、それを専門に扱う部門で働いていなければ、ちゃんと理解はしていない。

ましてや、政界関係者や一般大衆が、CDSだのなんだの言われたって、何のことか理解できないのは当然である。

しかし、「CDSの履行」ばかりは、無知な集団が感情にまかせて「糾弾の対象」にして大騒ぎを始めると、これは、相当やっかいで重大な問題に発展する。

なぜならば、CDSというのは、現在政府当局が手を尽くして解凍させようとしているクレジット市場では要(かなめ)というか背骨に相当するプロダクトであり、政治的思惑がCDSの履行にまで口を挟み影響を及ぼすようなことになれば、クレジット市場のコンフィデンスはさらに失われ、グローバルで流れている資金市場そのものが崩壊してしまう、そういうリスクをはらんでいるから、である。

資金市場の完全崩壊・・・そのリスクこそが、いま最も恐れられているリスクなんである。

ボーナス問題で90%課税になるまで徹底的に叩かれまくり、こんなことが続くようでは、金融機関は誰も公的資金をもらいに来なくなるし、公的資金早期返済のために銀行の自己資本が減ることになれば、金融機関のリスクテーキング能力は限定され、クレジット市場の資金還流の回復が遅れ、結果として景気回復を遅らせるだろう、とは前回のMHJエントリー(『議会は魔女狩りモード』)で述べた。

しかし、CDS履行への米政界の介入は、自己資本早期返済の悪影響どころじゃないインパクトを世界中に産むよ。

どの国にいようとも、米国で繰り広げられてる集団ヒステリアの魔女狩りショーを、海の向こうからヒトゴトのように眺めていることはできなくなる。

CDSは、真の意味で「国境のない金融プロダクト」だからだ。

次回からクレジットとCDSについて、少し説明したいと思っている。

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Thursday, March 19, 2009

議会は魔女狩りモード

今日も前回に続き、AIG問題。

【空気の読めないズレ会社AIG】のせいで、ボーナス支払い問題は、議会でその後もどんどん火の手をひろげ、T.A.R.P.から公的資金を注入してもらった他の大手金融機関の従業員も巻き添え食うことになってしまった。

今日の米議会ではついに、AIGのみならず50億ドル以上T.A.R.P資金を受け取った会社の従業員について、「一家の収入が25万ドルを超える従業員にボーナス支払ったら、ボーナスに90%課税する」という前代未聞のアホルールが、328-93という大差で下院を通過してしまったんである。

つくづく、政治家ってのはアホばかりだな!



下院議長のナンシー・ペロシなどは、

「納税者のお金を一刻も早く回収するのが我々の使命」

とか、えらそーなこと言ってたが、この法案にYESの票を入れた奴らは全員、今後は名刺に「低脳なポピュリスト」というタイトルを、名前の横に刷り込むべきである。

もっともらしいことを議論してるフリしてるけど、議会で話合われているボーナス問題の実態は、単なる【魔女狩り】に過ぎない。

自分達が政治家としてずっと見逃していた問題にはほっかむりして、責任のすべてをウォール街になすりつけ、火あぶりの刑に処せと騒いでいるだけ。

サブプライムローンの問題も、一から十までこれら金融機関のグリードのせいであるようなことを言ってるが、サブプライム融資、とりわけ、所得が低い層に対して最初から返済不可能と見えるようなローンを借りさせてローン市場で売りさばき鞘を抜く悪徳業者については、2002年ごろから、いろんなところで問題視されていたんだ。

こういう悪徳業者を、こちらでは、プレデター・レンダー(=Predatory Lender、借り手を食い物にする貸し手)と呼ぶのだが、Predatory Lendingの問題は、AIGがCDO向けCDS市場で暗躍しはじめるはるか前から、あちこちで表面化していた。もっと厳しい取締りを全国的にやったほうがいいのではないか、という意見も、方々で上がっていた。にもかかわらず、

「それは、州ごとに勝手にやっててね~~、中央の政府と議会はイラクで忙しいからね~~」

と暢気に構え、州レベルに丸投げし、連邦レベルで取り締まりを強化して高リスクの住宅融資が拡大するのを抑えようという気なんて、当時の議会には、小指の先ほどもなかったんである。(うそだと思う方は、2002年から2006年ごろまでの、業界紙『American Banker』をお読みください。)

低所得者層を食い物にしてたPredatory Lendersをバブル破裂まで野放しにしてたのは他でもない、いま議会で連日「ウォール街焼き討ち」の陣頭指揮をとっている政治家たち、彼ら本人である。

毎日、ニュースで流れてくるのは、米議会で繰り広げられている、「誰のせいか」の指の指し合い。

ったく、見苦しいったら、ありゃしない。

   ★   ★   ★

25万ドル以上稼いだら90%課税されるとなったら、誰が、そんな仕事をしたいでしょうか?

以前から、ここで指摘してきていることだが、ウォール街に責任を押し付けるのは、何もわかっていない一般大衆には「受け」がいいかもしれないが、以下の3つで、米国には、結果としてネガティブに働く。

(1)政府がこれから大掛かりにやろうとしているToxic Assetsの買取りは、対称が複雑な仕組み債であるだけに、この特殊債券の分野で専門知識を持たない者には、セカンダリー市場で取引できない。つまり、オバマ政権は、特殊な専門知識と経験をウォール街で積んだ人間たちを絶対に必要としており、実際、アメリカ財務省は現在、T.A.R.P.のプログラムのためにこの分野での市場経験者を多数採用している最中である。しかし、どんなに働いても報われないとわかっていて、死ぬ気で働く馬鹿はいない。

(2)何十年も「ボーナス命」でやってきたアメリカ金融街の給与体系を、いま、ドラスティックに変えることは、タレントビジネスの側面を持つフィナンスのビジネスからの才能流出が起こり、結果としては、米国の金融機関の競争力を失わせることになる。(2月9日付けのMHJ記事『オバマの英雄物語につき合わされるのはごめん』参照)

しかし、これら2点よりも、今回の動きには、もっと深刻な【副作用】がある。

(3)上記(2)の才能流出を抑えるために、GS、MS、JPM、BACなど大手が何をしようとするだろうか。

この動きは、T.A.R.P.プログラムから注入してもらった公的資金をできるだけ早期に返済しようというインセンティブをこれら大手金融機関に産むんである。

それのどこが問題なの?とお思いでしょう。

それはですね、「金融機関のリスクテーキングというのは自己資本の厚みに直結している」からであります。

もう少し説明しよう。

現在、金融市場が直面している最大の問題は、株安でもなく、住宅価格が低迷してるという話でもなく、「クレジット市場が凍結してる」ということなんである。

昨日、バーナンキ率いる連銀が米国債を3000億ドル買い取るというニュースが出て、米国債長期金利がガタンと低下し、モルゲージローンの30年金利もつられて低下、一月以来ふたたび5%以下に落ちた。

しかし、金利がどんなに低くなっても住宅着工はパッとしない。その理由は、市場にコンフィデンスが欠如していて、たとえ借り手がいたとしても、貸し手が必要以上にリスクを回避しようとし、積極的に貸し出そうとしないから、である。

米クレジット市場がいまだにどれぐらい氷河期にいるかというのは、次のグラフをみてもらいたい。


このチャートは、CDR Counterparty Risk Index と呼ばれるデータの過去一年で、グローバルで取引を行う世界主要金融機関15社のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の取引水準をベーシスポイントで示したもの。

債券の取引、とりわけクレジット・デリバティブスというのはそれを専門にやってるプロ限定の市場のため、債券売買に関わったことのない人たちには、わかりずらいのであるが、一般に「金利というのはリスクが高まると上がり、債券というのは金利が上がると価値が下がる」と覚えていてもらいたい。

上のチャートはCDSの金利の水準ですから、取引のカウンターパーティ(相手)になっている銀行の信用力が下がっていて、銀行群のリスクは高まっていると市場でみなされている、という意味になる。

このチャートを見ると、一年前100のあたりをウロウロしていたCDSインデックスが、リーマンショックで乱高下、政府や連銀の対応などで年末にかけていったん落ち着いて見えたものの、今年に入ってから、金融機関発行のCDSは、ふたたび上昇トレンドを描いている。

世界中の政府当局が、銀行に公的資金を入れたり、中央銀行が貸し出し枠を広げたり、と、一生懸命金融機関のバランスシートが干上がってしまわないよう八方手をつくしているのに、金融機関の信用力は、株安によるセンチメント悪化も手伝って、回復しないどころか全体として悪化しているのである。

このチャートから読み取れるのは、いまのクレジット市場は、ものすごくリスクに対して萎縮しており、リスクを回避するのに頭が一杯になっている。誰もがリスクを積極的に取りたがらない。

つまり、たとえ手元に貸せるお金があっても、銀行は必要以上に慎重になっちゃってるから、スムーズに資金を提供しようとしない、すなわち、クレジット市場が凍りついている、ということなんである。

では、金融機関がリスクを取りやすくするには、どうしたらいいのであろうか。それは、自己資本に厚みをつける、のが最も効果的なんである。

金融機関のリスクテーキング許容量は、自己資本の厚みに比例するから。

国家がT.A.R.P.資金(公的資金)を用いて銀行に資本注入したのは、多額の損失が出続けて銀行の自己資本が厚みを失ってしまったため、それをふたたび厚くしてやって、金融機関のリスク許容量を増やしてやろうとしたんであるな。

なのに、低脳議会は、ナントカの一つ覚えみたいにボーナスボーナスとわめき続ける。政治筋がウォール街に敵意を向ければ向けるほど、銀行は、公的資金をできるだけ早期に返済しようという動きに出るよ。

しかし、公的資金の返済は、すなわち、自己資本が低下するという意味になり、その分銀行のリスクテーキング許容量は低下し、公的資金注入の大義名分だった「クレジット市場の流動化を促す」という本来の目的には、結果として【ネガティブ】に作用する

そういう一連の流れが、米議会の低脳どもには、ぜんぜんわかっていない。

銀行自己資本規制に明るいバーナンキとガイトナーには、わかっている。

数日前からカリフォルニアに行ってるオバマ大統領には、おそらく、いまごろ、バーナンキとガイトナーが電話口にぴったりくっついて、これはマズイことになってきた、議会の動きを阻止したほうがいい、と助言しているはず。

それでも、オバマが議会の決定を支持するようなことになったら、「オバマもしょせんは只のポピュリスト」であるということなので、筆者のオバマ大統領への信頼は瓦解する。

ダウも下がる。

市場が引けた後、AIGのボーナス問題の責任を取らされて、ガイトナー財務長官が辞任するのではという観測が流れていた。

問題の本質とはかけ離れたところで、【ヒステリア】だけが膨らんでゆく・・・。


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Tuesday, March 17, 2009

AIGは死んでお詫びを:政治筋「ハラキリのススメ」

昨日のエントリーで、【空気の読めない会社AIG】についてチラリ言及したが、一夜明けた今日、米議会と米メディアによるAIG叩きは、本気でものすごいことになってきた。

アメリカの今日のテレビは、CNN局を筆頭に、朝から晩まで「AIGのボーナス」の話題で持ちきり。

たしかに、AIG、どうしようもない会社である。失業率が10%目指して突進してる最中だってのに、一億円以上のボーナス受け取ったエグゼクティブが80人近くいたというニュース聞いて、世間が許してくれるわけがないではないか。

ニュースの詳細を聞いていると、問題の$165ミリオンの半分近くが80人程度のシニアエグゼクティブに渡り、残り半分をあとの320人で分け合った、ってことですね。

今日見たNHKのニュースでは、「一人当たり平均すると4000万円!」とか言ってたが、もう少し詳しい計算すると、トップ80人は別として、残り320人は平均25万ドル程度のボーナスだった、ってことですよね。

25万ドルのボーナスを多いと感じるか少ないと感じるかは、それぞれだろうけれど、前から言ってるように、ウォール街という業界は「ボーナス命」の業界で、ボーナス除いた「基本給」だけ見ると、実際少ないんであるよ。

そして、ニューヨーク・シティという街自体、テキサス州ヒューストンで5万ドル稼いでる人と同じ生活水準を保つにはニューヨークでは12万ドル必要、という統計もあるくらい生活費が高い街でもありまして、ニューヨークの住民がもらう25万ドルのボーナスが「法外」と言うのは、どうかとも思う。

筆者は別にAIGを擁護しようと思ってるわけでもないし、お金の“額”の問題じゃないことも、わかってる。この一件をどういう角度からながめようと、「AIGは空気の読めないボケ会社」という事実自体は変えようがないわけでありまして、このボーナス問題は政治的に尾を引きそうだ。


   ★   ★   ★

ワシントンDCの政治筋からは、怒りの声が次々とAIGに対しあがっており、今日は早速、

「公的資金を受け取った金融機関が従業員にボーナスを支払ったら、そのボーナスに高率の消費税(Excise Tax)を掛ける」

という方向で、議会で議論が進んでいる。

議員の中には、どうやっても怒りを抑えることができず、プルプル震えながら、

『AIGはジャパニーズスタイルでお詫びしろ!』

とテレビの画面いっぱいに叫ぶ議員までいた。

「ジャパニーズ・スタイルのお詫び」って何のことだよ、と思ったら、「自殺しろ」ですと。

アイオワ州選出の上院議員チャック・グラスリー(Chuck Grassley、共和)の言葉である。

"I would suggest that the first thing that would make me feel a little bit
better towards them [is] if they would follow the Japanese example and come
before the American people and take that deep bow and say I'm sorry and then
either do one of two things: resign or go commit suicide."

『AIGの幹部に勧めたいことがある。日本の慣例に従って、アメリカ国民の前に出てきて深々と首を垂れ、申し訳なかったと謝罪して、それから、次の二つのどちらかを選べ、と。二つの選択とは、辞任するか、自殺するか、だ。もしAIGがそうしてくれたら、わたしも少しは気分が晴れるというものだ。』

.
グラスリーはさらに、「たいていの日本人は謝罪する前に死を選ぶ」とまで続けた。

おい、いつから、「自殺する」が「ジャパニーズスタイル」になったんだよ。勝手に日本の慣例を作らないでほしいよな、ったく。

これだから、政治家ってのはダメなんだ。

こういうパフォーマンスで、有権者から点数稼ごうという、それしか能がないんだから。

AIG側は、このショッキングな(?)自殺のススメに対し「こういう感情的な発言が出てくることを遺憾に思う」とわざわざコメントまで出していた。

AIG問題、日に日に、「お茶の間コメディ」に姿を変えつつある・・・。

   ★   ★   ★

しかし、ここで冷静になり、考えて欲しい。

(a)米国政府がAIGに突っ込んだ公的資金の額は1730億ドル。

(b)議会総出で連日大騒ぎを繰り広げている問題のボーナスの額、1億6千500万ドル。

(b)÷(a)= 0.095%

このボーナスを全額返上させたところで、政府のフトコロに戻るのは、全体の0.1%以下。

0.1%にも満たない額に対し、ポリティカル・エネルギーのすべてを注ぎ込んでる暇が、一体どこにあるんだ、と筆者は言いたい。

チャック・グラスリー議員みたいのには、クレジット・デフォルト・スワップとか言ったって、何のことか全然わからないんだろうし、その他政界筋の多くが、AIG問題において【唯一理解できる】のはボーナスの話しかないんだろうから、ボーナスボーナスと騒ぐのは、それなりに理解できますけどさ・・・。

でも、朝から晩まで、ボーナスの話ばかりで、筆者はいささかウンザリである。

住宅関連の延滞問題が全然解決してないってのにですよ、次はクレジットカード支払い延滞の大問題がすぐ目の前まで迫ってる、そんな緊急時に直面してるってのに、ですよ。

サブプライム住宅ローンだけじゃなく、クレジットカードのローンをベースにして作った【仕組み債】(Structured Bonds)だって、ゴチャマンと世の中には流通しているんである。

このクレジットカードの仕組み債のデリバティブスに対しても、AIGはCDSを発行してるんだぜ。

仕組み債のデリバティブスというのは、レバレッジがものすごくかかってるので、延滞率がほんの少しでも「証券化された時点での“予想”延滞率」を上回ると、突如として、債券に内在するリスク量(=デフォルト可能性)がガーンと増え、債券価値はゴーンと下がる、そういう代物なんだよね。

AIGがサブプライムのCDOという複雑な仕組み債デリバティブスに対してCDSを発行し、そこから多額の損失が発生して公的資金を仰ぐ結果になったのも、経営者がアホだったから、とか、ボーナス払いすぎてたから、とか、そういう単純な話じゃなくて、サブプライムローンの延滞率が当初予想を上回ってしまったから、なんだから。

で、2008年4Qのクレジットカード延滞率ですけどね・・・これが、ビョ~ンと跳ね上がったんである。そして、前回の日記でも書いたように、今年2月の延滞は増加しているというアメリカンエクスプレス社の証言もあり。

AIGのCDS問題が、ここで出尽くしたと思うなよ、米議会。

クレジット市場の回復がさらに遅れたら、AIGの資本基盤はさらに毀損が生じ、またまた公的資金を入れてやらなくなるかもしれない。

0.1%の問題に延々と関わってるヒマなんて、いまのアメリカの政界には、どこにもないんだっつの!

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Monday, March 16, 2009

Political Will(政治的意思)の欠如が最大のリスク

アメリカでは毎週日曜日の夜7時からCBS局でインタビュー番組『60ミニッツ』が放映されるが、昨夜(15日)は、連銀議長バーナンキが登場した。

民間テレビのこういう場に連銀議長が独占インタビューで出てくるのは極めて珍しい。

この話題のインタビューは、全編ここで見ることができます。
http://bubblemeter.blogspot.com/2009/03/ben-bernanke-on-60-minutes.html

このインタビューで、バーナンキ議長は「金融システムの正常化が進めば、2010年には米国はリセッションから抜け出ることができる」と、以前から述べている内容を繰り返した。

また、世間では政府による銀行救済への批判が高まっていることについて問われると、議長は、「隣家が火事のときに、消防車を呼ばずに、そのまま燃やしておけばいいと放っておくと、いつしか火の手は隣家に及び、被害はさらに大きくなる」というアナロジーを用い、大手金融機関救済はシステミックリスク顕現化を防ぐためには不可欠であることを強く主張。

3月11日のここのブログ記事で紹介したように、議長はあらためて、しかし今度は万人が観ているマスメディア上で、【Too Big To Fail(大きすぎて潰せない)】を認めた。

バーナンキの発言を日々追いかけている者たちには既に聞いた話ばかりかもしれないが、『60ミニッツ』のように米国人のお茶の間でも高い人気を誇る一般向けのテレビ番組に出演して、ここまでハッキリと【Too Big To Fail】を正当化する連銀議長は、過去にいなかったのではなかろうか。

【Too Big To Fail】というコンセプト自体モラルハザードという裏側の顔を持っているものだし、なにより、アメリカの自由市場主義とは最初から相容れない考え方ですからね。

バーナンキは「隣家の火事はまだ続いている。政府当局は今、火消しにやっきになっている。火を起こした犯人の処罰は火を消してから考えればよい。いまは火消しが最優先だ。」と述べた。

そうだ!そのとおりだ、議長!!(拍手)

WSJによるエコノミスト調査では、議長の成績は71点だったが、筆者は85点ぐらいあげてもいいと思うな。

   ★   ★   ★

こうやって、連銀議長みずから、わざわざマスメディアにまで登場して、【世間の理解】を仰ごうと頑張ってるっつーのにだな、

AIGのアホンダラ

いまだに、そこのところが、ぜんぜん飲み込めていないようである。

政府から1780億ドルも公的資金入れてもらって、いまや80%政府保有になっているAIG、納税者の皆様のお金を受け取った「後」に、エグゼクティブクラスの従業員400名にボーナスとして$480ミリオン支払ったというのがバレて、またまた大騒ぎである。

今日はオバマ大統領までカンカンになって出てきて、絶対にボーナスは払わせるなとガイトナーに指示した、と表明。

ところが、AIG幹部は「でもぉ・・・先週の金曜日に、もう、みんなに支払っちゃった・・・・」とボケたこと言ってるんである。

筆者も、かつての古巣ウォール街には知り合いも多いことだし、ボーナスがないと生活できないファミリーを沢山知ってるんで、「ウォール街のボーナス体系については、巷では誤解されてるところある云々」と、それなりに擁護するようなことをここに書いたりもしたが、今回のAIGのボーナス騒ぎには、さすがに呆れ、AIGよ、調子こくのもええかげんにせぇ!と大声で叫びたくなったね。

かつてウォール街で「当たり前」とされてたロジックは、もはや通用しないんだってことが、どうしてこの期に及んでもわからんかな。AIG、つくづく、空気が読めない会社・・・。

   ★   ★   ★

おっと、おもわず、AIGの件で脱線してしまった。

また、話題をバーナンキに戻す。

バーナンキは、現在金融システムの安定と景気回復への道を阻む最大のリスクは

Political Will 

であると述べた。


“The biggest risk is that, you know, we don’t have the political will.(中略)Recovery is not going to happen until the financial markets and the banks are stabilized.”

『最大のリスクは、ご承知のように、今の政界にポリティカルウィル(政治的意思)がないことだ。フィナンシャル市場と金融機関が安定するまでは景気回復は起こらない。」


経済音痴マケインを筆頭に、問題の本質論なんぞはそっちのけで、マスコミに踊らされやすい世論のいちいちにポピュリスト的立場をとることで見せかけの正義を振りかざし、しかしその実、つまるところは「共和vs民主」といったポリティカルゲームに明け暮れるしか能がない政治家連中に、またもや牽制を送ったのだ。

しかし、筆者は、昨夜のバーナンキのこの発言を聞いたとたん、急に10年前にタイムスリップした。

これとまったく同じ言葉を、10年以上前に、どこかで確かに耳にした。

どこで誰が言ったのだろうと、手持ちの古い資料をひっくり返してみたら、あった。

1998年4月、ワシントンDCで開かれた某シンポジウムの席で、バブル崩壊後の泥沼から抜け出せなくなっていた当時の日本を、このフレーズを使って批判した米国の当局関係者がいたのだ。

1980年代のS&L危機当時、FDIC米預金保険機構のチェアマンとして、破綻銀行の処理を実際に手がけたウィリアム・サイドマン(William Seidman)である。

サイドマン氏の言葉は、こうだった。


There is no political will to do any of the tough things that we were required to do.(中略) Eventually they will have to do something if they want their economy to recover."

『(日本では何故いつまで経っても金融システムが安定せず景気回復が起こらないか、その理由は)米国が危機当時やらざるを得なかった厳しい取り組みのどれでもいいから行おうという政治的意思が、日本には欠如しているからだ。経済復興をめざしたいというのなら、日本も、どこかの時点で何かをやるねばならないだろう。』

1998年4月の段階で、日本政府が何もしてなかったかというと、実はそんなことはなくて、当時の日本政府は、住専問題以来の政治的タブーを押し切り、1兆8千億円もの公的資金を銀行に資本注入してやったばかり、だったんである。

当時の日本では、どうして国民の血税をそんなことに使わなくちゃいけないんだという不満や、銀行なんて潰してしまえという世論の大合唱だったんだけど、97年に北海道拓殖銀行をちょっと試しに潰してみたら、システミックリスクが噴出してとんでもないことになっちまい、政府も世論に迎合するのはあきらめ、あわてて銀行救済に乗り出した。日本の1998年の春というのは、そういう頃だったんである。そして同年秋には長銀・日債銀のふたつが「国有化」。

それでも日本は「政治的意思がない」と批判された。第一ラウンドの資本注入だけじゃ足りないと言われ、そして、実際、後日足りなくなった。

これまでの米国の金融危機で起こっていることを見ると、当時の日本の流れと、いちいち、そっくりだな。歴史は繰り返す。アメリカも、きっと、公的資金はもっともっと、必要になるな。

   ★   ★   ★

今日のニューヨーク市場は、「英国の大手銀行バークレイズ、2009年の業績は滑り出し好調」というニュースが入って、朝から米金融株は盛り上がっていた。

2009年の業績は滑り出し好調―。

先週シティが同じことをいい、それに続いて、JPモルガンも、バンカメもみーんな同じことを言い、金融株は上げ続けた。

ところが、午後になって、アメリカンエクスプレス社が、2月のクレジットカード延滞が増加傾向と述べたことで、午前の浮かれムードから、一気に現実に引き戻されて、金融株に引きずられる形でダウは後場に急降下。

「政治的意思が欠如してる」と言われた日本も、上記の1兆8千億円の公的資金注入直後は、株式市場は浮かれ気分になっちゃって、銀行株が牽引になって日経平均は上がったんだよね。でも、まもなく、銀行の不良資産から出てくる損失が止まらないという【現実に引き戻されて】、またもや、株価は落ち続け・・・。

バーナンキは昨夜のインタビューで「火はまだ燃えている」と言ったんだ。

金融機関が抱えているToxic Assetsの処理は、まだ始まってもいない。

浮かれるのは、まだ、ちと、早いよ。

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Sunday, March 15, 2009

孤独なアトラス、苦肉の「派遣」採用

ニューヨーク市場の先週は、昨年11月以来で最高の上げ幅になった。

ウォールストリートジャーナルは土曜日(14日)朝の紙面のトップで、

『経済安定の兆候を受け株価上昇』
Signs of Stability Drive Up Stocks
http://online.wsj.com/article/SB123698782128925923.html

というタイトルの記事を掲載し、2月の米小売り統計が予想よりマシだったことを「兆候」のひとつに挙げていたけど、証券市場が『売り疲れ』気味なのと同様に、一般アメリカ市民もクリスマス以来ずーっと買い物控えてて、たとえ貯金があったとしても将来不安だからと言うんで大根の尻尾も煮て食う赤貧生活を敢えて送り(←うちだけか?)、そういう『我慢疲れ』が出てきてるんじゃないのかな。

実際わが身を振り返っても、12月と1月はグッと我慢してたけど、2月に入ったら、筆者は何故かお買い物しちゃった。新しい食器セットなんて、買っちゃった。いま無くては困るものではないにも関わらず、なぜか買いたくなった。46型のフラットスクリーンテレビも買っちゃった。「クリスマスには何も買わなかったし、1月も我慢したから、ご褒美ねー」とか、ワケわからん理由で、お買い物。

筆者の場合はまちがいなく、年末年始に消費を控え過ぎた挙句の反動、すなわち「我慢疲れ」である。

3月も引き続き小売統計に明るさが持続して見えたら、「兆候」と呼ぶことにしよう。

しかし、筆者が住むマンハッタンの街なかを歩きまわると、どの通りにも、前のテナントが店仕舞いして出て行ったきり空き家のままの店舗が目立つ。近所のバーの横を金曜日の夜に通りかかったら、客がひとりポツンとカウンターに座ってテレビ見てた。マンハッタンの街なかで、金曜の夜に、バーの客ひとりって・・・。

マンハッタンの街なかを歩く限り、少なくとも「明るさ」らしきものは、まだよく見えない。感触としてはむしろ、ますますひどくなっていってる、という印象のほうが強い。

   ★   ★   ★

現在のニューヨーク株式市場の特徴をひとことで言えば、

「インベスター市場ではなく、トレーダー市場」

だということだ。ファンダメンタルズで長期で本腰入れて買いに入ってくるインベスターは少なく、モメンタムを利用して小刻みに短期売買を繰り返すトレーダーばかり。

確かに先週ダウは上がりましたけどさ、そのパターン見たら、火曜日に上がったら水曜には息切れ、木曜にまた上がったら金曜は息切れ。

息切れ起こす日の朝は、決まって、取引開始前から買い注文がドッサリと積みあがっていた。そのおかげで寄り付き直後は前日の勢いのままゴーンと上がるけど、すぐに益出しの「売り」が集中して、ゴーンと下がる、その繰り返し。トレーディングのボリューム(出来高)は取引開始のベルが鳴った直後に集中し、午前11時ごろには、ボリュームの勢いはなくなってる。

ラリーが長続きしないんだ。

VIX指標は、今年に入ってから40~50のラインあたりをウロウロしている。先週も株価があれだけ上昇したのに、VIXは40のラインがレジスタンス(Resistance=抵抗線)になっていて、そこを突っ切ることはなかった。



つまり、世のトレーダー諸君は、まだまだ市場の様子を警戒しているらしく、今週以降は、下手すれば、ふたたびセルオフ(Sell-Off=大量の売り)が襲ってくる可能性もある、ってことだ。

あくまで「可能性」ではありますがね。

VIXについては、去年12月12日付けのブログエントリー(『合衆国の世紀は実際に終わっていたのか』)で言及したが、あれを書いた3ヶ月前はまだVIXが80だの90だのと騒いでいたんで、その頃と比べたら40まで下がってきたのは良くなってきたように見えるかもしれない。

しかし、VIXの40ラインってのは、2年ほど前にニューヨークの市場心理が目に見えて冷え込み始めたときに40ラインを突き抜けて「オーマイガッ、VIXが40行っちまったぜ、大丈夫かよ、おい!」とトレーディングフロアでたいそう話題になった、そういうラインですので注意が必要だ。

VIXがまだこんな水準にいるのに、週末に「景気回復の兆候でてきたよーん!」なんつー新聞見出しにウキウキ踊らされるようなプロのトレーダーはいない、と思うな・・・。

   ★   ★   ★

さて、そのウォールストリートジャーナル(WSJ)であるが、先週木曜日(12日)の紙面で、同紙が行ったアンケート結果を紹介していた。

どんなアンケートかというと、アメリカの著名エコノミスト54名に「オバマ大統領、ガイトナー財務長官、バーナンキ連銀議長について、景気回復に向けて彼らはうまくやれているか、3人それぞれに成績をつけてください」というアンケート。

結果によると、今回回答を得た49名のエコノミストの42%が、オバマ政権の経済対策には不満を抱いているそうだ。そして、3人それぞれにつけられた成績点は、

   ‐大統領オバマ君 59点
   -財務長官ガイトナー君 51点
   -連銀議長バーナンキ君 71点

アメリカの大学では一般に60点以上取れないと落第点ですからね、オバマ君もガイトナー君も、

「もっとがんばりましょう。」

筆者も、先日のブログで、「PER」の「P」が何かを言い間違ったオバマ君の成績を「B-」とつけましたがね、世の中のエコノミストは、オバマ君に対し、筆者よりさらに辛い点数をつけた模様である。

特に、ガイトナー君の場合、前代のヘンリー・ポールソン君の57点(今年1月の同調査結果)をさらに下回ってしまったので、もっともっと徹夜してがんばらなくてはなりませんね・・・。

しかし、このWSJの記事中にあった次の文章には笑ったよ。


"Many of the economists, however, have repeatedly miscalculated how severe the downturn would be. Indeed, they pushed ahead yet again their forecasts for when a recovery would begin. On average, they expect the downturn to end in October. Last month, they said the bottom would arrive in August."

『しかし、これらエコノミストの多くが、今回の景気後退がどれほどシビアなものになるか、繰り返し誤算してきた。実際、彼らは景気回復のタイミングをまたもや先に延ばした。平均すると、彼らは今年の10月には景気は底を打つと見ている。だが彼らは景気の底は8月にも訪れると先月言ったばかりなのだ。』




ま、自分のことは棚にあげ、相手を批判する分には、こんな楽なものないですからネ~。(笑)

   ★   ★   ★

それにしても、ガイトナー君、これ以上、徹夜なんてできるのか。

余計なお世話だが、ガイトナー財務長官、着任してから寝てないんじゃないかと筆者は心配している。

というのも、ガイトナーには着任以来、部下らしい部下がほとんど決まっていないのである。

財務省には、ガイトナー長官をトップにして、その下に「直属」として15のポストがあるそうなのだが、そのうち正式にポストが埋まったのは、今日現在で、まだひとつ。

ガイトナー氏、適任者と思う相手に、

「どうかね、財務省で重要なポストが空いてるんだけど、キミ、働く気ないかね?責任もやりがいもある仕事だよ。将来のために履歴書を磨くにも最高のポストだよ!」

と方々に誘いをかけたんだが、金融界緊急事態発生の連続と実態経済のあまりの無残さを前にして誰もが尻込みしちゃうのか、声をかけられた相手は「いまは家族と一緒にいたいから・・・」とかいうヘンテコな理由を挙げて、辞退しちゃったんである。

G-20の会議が開かれる直前になっても、ガイトナーの周囲にはほとんど側近がいない状態で、「ギリシャ神話で地球を背負わされることになったアトラス神」さながら。一人ぽっちで、崩れ続けるグローバルエコノミーを背中にしょって支えているような雰囲気である。

仕方ないんで、G-20用に、ガイトナーは6週間だけ「派遣要員」を調達したそうだ。

ワシントンDCのエコノミスト・サークルでは知らぬものなし、テッド・トルーマン氏(Ted Truman)、67歳。彼は連銀のボードメンバーを26年間も勤め、グリーンスパン前議長をして「自分はトルーマンの部下」と言わしめたほどの、経済学者界の重鎮である。米国以外のG-20の国々も米国並みに財政出動すべき、というのも氏の持論である。

しかし、トルーマン氏は6週間だけの派遣要員。フルタイムばかりでポストを埋めるのはいつになることか。

孤独なアトラス、すでに疲労困憊の色濃くなってきていて、見ていて、ちょっと気の毒である。

軽い腰痛で済めばいいが、アトラスの腰骨が複雑骨折起こす前に、はやく充分なスタッフが見つかるよう、お祈りしております。

写真:NYの五番街ロックフェラーセンターの前で地球を背負うアトラス像



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Wednesday, March 11, 2009

「売り疲れ」のNY市場、はしゃいだ後ですぐに息切れ



昨日10日のダウは一気に379ポイント上昇。前日までの鬱々とした雰囲気から一転、金融株を中心に買いが戻った。ショートカバー(空売りをカバーするための買戻し)のみならず、実際の買いもかなり入った様子である。

10日の急上昇の背景として、シティのCEOヴィクラム・パンディット(Vikram Pandit)が9日付けの社員向けメモで「2009年の2ヶ月は収益があがっている」と延べ、銀行セクターの業績悪化が底を打ったというスペキュレーションが蔓延したのが理由のひとつ。もうひとつは、取引開始前の米東部時間朝8時半から、ワシントンDCの某研究機関でバーナンキ連銀議長の講演があり、その講演内容がポジティブだったことも支えになった。

ここのところ、市場は【売り疲れ】状態でしたからね。

NY株市場、毎日暗いニュースばっかで、うんざり。これ以上売るものないってぐらい売りまくり、みんな脱力して、ぼんやり。

うんざり+ぼんやりしてたところ、『国有化になりそうな銀行リスト』のトップにいる銀行が「収益出せそう」と言ったひとことで、ギャンギャン盛り上がってはしゃいでしまう気持ちもわからなくもない。

しかし、今日11日には早くも息切れ、ラリーは長続きはしなかった。

   ★   ★   ★

シティのCEOパンディットのメモは、もう少し注意深く読む必要があるな。(メモの全文はこちら。)

メモで強調されていたのは次の2点。(1)シティの自己資本基盤は強い、(2)シティは収益上げられる会社だ、だから、現在の株価はシティの底力を正当に評価したものではない、と。

(1)と(2) について筆者の感想を述べてみたい。

まず(1)の自己資本について。

ここのブログの2月21日付けのエントリー『NYダウ2002年来の安値:国有化パニック』で、

【ストレステスト】というのは、幾通りかのプライス変動のシナリオをたて、そのシナリオに従って、金融機関が保有する資産に様々なストレスをかけてやり、予想される損失額が自己資本をどの程度毀損するか、「債務超過」になる可能性がどれくらいあるかを計測するテストのこと

と説明しましたが、覚えておられるでしょうか。

あの記事を書いた数日後に、当局が実際に損失シミュレーションをする際に用いる「前提条件」が公表になったが、次のような条件を「最悪シナリオ」としてストレスかけてみるそうだ。

1) GDPは、2009年にマイナス3.3%、2010年はプラス0.5%
2) 失業率は、2009年に8.9%、2010年に10.3%
3) 住宅価格は、2009年に22%さらに下落、2010年に7%さらに下落

現時点ですでにカリフォルニア州ほか数州では州内失業率が上記失業率を上回っているのと、住宅在庫も全米おしなべて過去最高水準にあり住宅価格の下げは当分止まらないと見られているため、これらの条件が果たして「最悪のシナリオ」に相当するかは米市場でも意見が分かれている。

シティのCEOバンディットによると、この政府が考えた最悪シナリオよりさらにひどい状況になったと仮定してさらに強いストレスをかけてテストをやってみたが、シティの自己資本の厚みは充分あり、債務超過に陥る可能性は低いそうである。

しかしね、筆者も現役でアナリストやってるころは、この「ストレステスト」ってのをずいぶんとやったものだが、ストレステストの結果というのは、前提条件の置き方次第で、実はどうにでもなるんである。

金融機関というのは、「リスク取ってリスクで稼ぐ」という商売であるからして、リスク管理の一環としてストレステストというのは、実際毎日やってるんですよね。

今回あらためてストレステストやってみたら、「あら不思議!気づかないうちに債務超過になってたわーっ!」とびっくらこくような金融機関なんていません、ってば。

だから、当局のストレステストの結果がどうなるかという点については、いまから答えはわかってる。

ストレステスト対象になってる銀行のうち、最大手の数行については、程度の差こそあれ、自己資本は充分という結果となり、テストにパスするでしょう。

ここの2月6日付けのエントリー『米国最大の銀行が国有化?(でも自己資本比率10%超もあるんですけど)』で述べたとおり、自己資本が充分ある銀行が国有化されることは定義上ありえないんである。(「充分あります」=「国有化しません」、ってことの【つじつま】つけるためにストレステストやるんだからね。)

ただし、ストレステストに代表される計量モデルってのは、所詮、静的(static)な「モデル」であって、サイコロジーを伴って刻々と生き物のように動く市場のダイナミズムまでは把握できない。毎日テストやってても、「前提条件」からぶっとんだ事態が実際に発生したら、モデル上で推計されていた額をはるかに上回る損失が発生しちゃう、というのは言わずもがな。

だからストレステストの結果は、注目してもしなくても、どっちでもいいような気もする。発表直後はポジティブニュースとして一時的に株価を支えるかもしれないけど、本質的な問題には、関係ない。

   ★   ★   ★

次に(2)の『収益性』について。

CEOのメモの中に、こんな一文があった。

"In fact, we are profitable through the first two months of 2009 and are having our best quarter-to-date performance since the third quarter of 2007. "

『実際、2009年の最初の2ヶ月は、シティは収益を出しており、四半期でみれば2007年第3四半期(3Q)以来の好成績です。』

.
メディアを筆頭に多くのひとが、ここだけ読んではしゃいじゃったみたいなんだよな。落ちついて次の文章も読みましょうね。


"In January and February alone, our revenues excluding externally disclosed marks were $19 billion."

『今年1月と2月だけで、外部公表されている評価損失を控除したシティの営業収入は190億ドルになりました。』


.
"REVENUE"というのはコストを考慮する“前”の、トップラインの収入のことである。でも株主にとって身になる利益ってのは特別損失その他あらゆるコストを差っぴいた“後”の収益のことですかんね。トップラインの稼ぎだけでキャイキャイ盛り上がって、どうすんの。

たしかに、「コスト前の稼ぎ」だけに着目すれば、シティはかなりがんばったみたいだ。

メモをさらに読み進むと、「かなりがんばった分野」というのはグローバルM&A業務の分野で、そこから挙げた手数料収入が収益を押し上げたらしい、というのが読み取れる。

3月6日付けのウォールストリートジャーナルの記事によると、2009年の世界M&Aランキングでシティは堂々1位、欧州の大型ディールを中心に、総額1383億ドル(約13兆円)に相当する37本のディールにアドバイザリーとして関わったらしい。イギリス政府が発行するロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)のディールも含まれていて、こうした大型のM&Aディールから、かなりの手数料を稼いできた、ということだろう。

でも、このWSJの記事には、もうひとつ重要なことが書かれていた。今年シティが手がけた大型ディールにおいては、シティは「ローンの貸し手」としてはプロファイルをできるだけ低めに保っているらしい。また債券ディールでは全然出る幕ないらしい。シティのような大銀行というのは通常、「コーポレーション向け貸し出し」ができる能力があるので、大型ディールではたいてい「ローンの貸し手」としても名を連ねるものなんだが、おとなしくしてるんですね。

銀行として多額の貸出金を提供するとバランスシートがその分膨らんじゃって、自己資本比率が下がるという、いまのシティにはありがたくない結果になっちゃうからね。

つまり、シティの1月2月の収益押し上げ要因は、大型ディールに助けられた【一発屋的特徴】があるってことだ。今後も継続的にこうした大型ディールに関わり続けることができればいいですけど、そうじゃなかったら手数料は入ってこないもんな・・・。

ということで、筆者は、シティの「収益あげてるぞ発言」に対しては、かなり冷めた目を向けてたわけである。

   ★   ★   ★

それよりも、筆者が朝から思わず身を乗り出してしまったのは、バーナンキ連銀議長の講演中の発言であった。

バーナンキの講演は、昨日の朝8時半からCNBC局でずっとライブで流されていたんだが、内容自体は、(1)銀行システムが安定し始めれば2009年内にリセッションからは脱出し2010年は回復基調の年になる、(2)FRB連銀は金融システム安定のため全力をつくす、といった骨子で、骨子だけなら、先月2月24日に米議会の公聴会で同氏が述べた内容と大差はなかった。

筆者がおっ!と思った発言とは、議長が自分の口から、

大手銀行群は大きすぎて潰せない(=Too Big To Fail)とハッキリ認めた

ということであった。

3月10日のバーナンキの講演全文はこちら



前回の2月24日の公聴会では、「大手銀行は<Too Big To Fail>なのか」という某議員の質問に対し、「そのフレーズは敢えて使う気はない」と言って議長はクネクネごまかした。

ところが3週間後、今度はハッキリと、【大銀行は潰せない、潰さない】という見解を議長自ら明示的に発言した。これは、筆者からみると、非常に重要だと思う。

クレジット市場がコンフィデンスを失って凍結したままになっている理由は「政府がさっさと国有化しようとしないから」ではなくて、「政府が何をしようとしてるか見えなくて不安だから」である。

こちらの週末のメディアでは、株価が下落し続ける状況にイライラを隠せない共和党議員たちが、オバマ民主政権への攻撃の一端に、「すぐにでも銀行を閉鎖するなり国有化するなり態度をハッキリさせろ、政府は手を尽くしているという強いシグナルをマーケットに示せ!」とわめき出していた。

TV番組に登場してワーワーわめいてた議員のひとりは、去年の大統領選でオバマと戦ったジョン・マケイン上院議員。マケインのほか、議会バンキング・コミッティのメンバー、リチャード・シェルビーも、国有化するのが市場を落ち着かせるのにいちばん手っ取り早いと騒いでいた。

だが、マケインは自他共に認める『救いようのない経済音痴』。

さらにシェルビーも、基本的にはクルッグマンなどの重量級マクロエコノミスト(←しかし、こと銀行問題については素人同然)の意見を読んだりして影響受けて、カッコいいから便乗してるってだけのヤツである。

バーナンキの昨日の朝の明示的な発言は、こうした「カッコいいから発言してみる」たぐいの政治家連中を黙らせるのが目的のひとつであったろうし、それと同時に、「米政府には大手銀行破綻を容認するチョイスはないのだ(だから何があっても大手銀行を破綻させない)」という強いメッセージを発信することにあったと思う。そして、そのメッセージを受け止めた市場関係者は少なくなかったとも筆者は思う。

   ★   ★   ★

株式市場もクレジット市場も、最後にモノを言うのは財務のファンダメンタルズであるという点では同じであるが、株式投資とクレジット投資では、投資家が着眼しているものや相場を動かす要因が必ずしも同じではない。

従って、クレジット市場が凍結しているのが問題の核心部分である現在は、当局が取るべき手段はクレジット市場の不安要因を取り除いてやること、である。それは必ずしも、株式市場が当局に期待しているものとは限らないし、マケインら経済音痴の政治筋が発する【ノイズ】のせいでポリシーサイドに不必要な遅延が起こったりしたら、市場にはそれこそ逆効果だよ。

昨日のブルームバーグニュースの記事で読んだのだが、企業債市場では、欧州の一般企業が発行するシニア債券のほうが大手金融機関25社が発行するシニア債券よりも安い値で取引されているというのだ。9日のウォールストリートジャーナルでも、金融機関発行の債券相場がふたたび不安定になっているという記事を見た。

先月24日の公聴会でバーナンキは「シニアクラスの債券の流動性と返済能力の確保が極めて重要(と認識している)」と発言したのを、筆者は実際この耳で聞いたのだが、これらの記事を読む限り、クレジット市場のトレーディングフロントでは、連銀議長のそうした態度も、安心して取引を開始するにはまだ足りないと判断されているらしい。

銀行が発行するシニア債券のスプレッドがこんな有様だというのは、銀行セクターに対するクレジット市場のセンチメントはまだまだ悲観論が圧倒しているということの証拠だ。クレジット市場が落ち着かなければ、株式市場が待ち望んでいる「収益回復」がもたらされることは、ありえない。

2009年中に米景気がリセッションから脱出できるか否かも、すべては金融セクターの安定次第、とバーナンキは言っている。そしてここで言う「安定」とは「株価の安定」ではなく「クレジットの流れの安定」を指す。

債券市場の動きを吟味せずして、株価のボラティリティだけを眺め、いよいよ金融株も底を打ったと判断するのは片手落ちというものだ。

   ★   ★   ★

今朝の取引開始直後は、前日からのギャンギャンな勢いがまだ余韻として残ってる気配だったので、筆者も、午前中はデイトレ参加。GSなど金融株を小一時間で小額売買し、ちょっとしたお小遣いを稼いだ。

こういう相場では、モメンタムに乗っかってデイトレで小遣い稼ぎするのが精一杯だ。長期買いに入るなんて、怖くて、できん。

デイトレは「投資」ではない。

真の意味での長期投資資金が戻ってこなければダウが恒常的に上昇局面に入ると断言するのは難しいよ。上がってもすぐに息切れしてしまう。今日のダウが息切れしたように。




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Saturday, March 7, 2009

ダウ低下は金融社会主義への抵抗か

昨夜は、パスタかっこみながら「あぁ・・・パスタ会社の株買っておけばよかった・・・」と涙ぐんでいた筆者であるが、あまりに非生産的なので、今日は、もうすこし真面目な記事を書くことにする。

昨日の金曜日は、マーケットがオープンする前に雇用統計が出された。2月の米失業者、さらに増えて失業率は8.1%に。この25年で最悪の数字。この調子でいくと、年内に10%行くんじゃないかとの見方も。

米失業率の推移


しかし、失業率8%超という数字自体は予想の範囲内、株価にはすでに「織り込み済み」で、取引開始直後は株価は上昇した。

上がり基調にあった株価が突然方向を変えてズルズル下げだしたのは、オバマ大統領のスピーチがライブでテレビに流れ出してからである。オバマ登場とともに、待ってましたとばかりに株価は下落。

オバマ大統領、金曜日の朝はオハイオ州のポリスアカデミーの卒業式で演説し、アカデミー卒業したての警察官達の前で、自分の景気刺激策は「すでに失業を抑える効果を発揮している」と力説した。


オハイオ州コロンバス市のポリスアカデミーでスピーチしたオバマ(写真:ロイター)


演説するオバマの背後に並んでたピカピカ新米警察官25名の給料は、政府の7870億ドルの景気刺激策パッケージに含まれている警官向け補助金プログラム20億ドルから直接彼らに支払われるんである。

しかしね、2月の新規失業者65万1千人。大衆の支持なしには成り立たない政治の世界ではスズメの涙にも値しないエピソードを膨らませるのは常套手段ではあるとはいえ、オハイオの警察官新規採用数十人を雇用の下支え効果に結びつけるには「シラけるな」と言う方が無理というもの。

ウォール街関係者のあいだでは、新政権の景気対策や金融市場安定策に対し概して懐疑的・批判的・否定的な見方が多く、一部の経済関連メディアでは、日を追うごとに「敵意」すら垣間見えるほどになってきている。

アメリカの金融街は、「自由主義経済は進化論と同じ、環境に適応できる強者のみが生き残る」というルールに忠実で、業界外からは法外とも見えるボーナスを「成功報酬」と呼び、文句をつけるものには「羨ましければお前もここで働け」と突き放し、富を目指してひたすら突っ走ってきた、そういうところだ。

だから多くのウォール街関係者にとっては、オバマ流の「強者も弱者もみんなで富も痛みも分け合おう」といったやり方は、

【金融社会主義(Financial Socialism)】

を連想させる以外のなにものでもない。

新政権の景気対策では、住宅ローン延滞者への優遇措置のための財源として、25万ドル以上の年収に対し増税する。失業保険受取額も大幅増加されるが、ファストフード店でミニマムウェイジで働くよりも、一切働かずに失業保険もらったほうが、収入は高くなる。

オバマ政策では、富めるものからそうでないものへの富の移転が急激かつあからさまで、「最初から返せもしない住宅ローンを組んで自滅した阿呆どもには救いの手を差し伸べ、家族と過ごす時間を削り夜も寝ずに働いて得た報酬にはケチをつけて取り上げる」・・・そんな不満が、金融業界関係者のみならず、いまや、保守層を中心に、一般の間にも広まり始めている。

ウォールストリートジャーナル紙で「最も読まれた記事」のトップを今朝まで走っていたのが、スタンフォード大学の経済学教授マイケル・ボスキン氏による、

オバマの急進主義がダウを殺しかけている/金融危機の最中にアメリカン・キャピタリズムの礎(いしずえ)を変えようとするのは時期として最悪」

と題された投稿論文だった。

Obama's Radicalism Is Killing the Dow
A financial crisis is the worst time to change the foundations of American capitalism.
http://online.wsj.com/article/SB123629969453946717.html


筆者も、新大統領の就任後の市場への対応や言動をみるにつけ、いくばくかの不安を感じ始め、ここのブログの2月15日付けのエントリーでも「オバマ政権の発足が米国の金融社会主義への第一歩にならないことを切に願う」と書いたが、やはり案の定、である。

だから、上で紹介したスタンフォード大教授の投稿には、うなづけるものがあった。

ダウ低下は金融社会主義への抵抗か。

   ★   ★   ★

脱線するが、オバマ政権がやろうとしていることを正当に理解してもらうために邪魔になっているのが、ホワイトハウスの主席報道官、ロバート・ギブス(Robert Gibbs)である。

ハッキリいって、このひとは、報道官としてまったくの役立たず。

彼ったら、口を開けば、現政権の経済政策を批判するメディアの論調をいちいち【名指し】で批判し返したりしているが、テレビやラジオの保守寄りコメンテーターが口走ったコメントをいちいち真面目に取り上げて、だからどうだというのか。

ギブスが、政府記者会見の場で、政治家でもないコメンテーター達(←要するに一般人)の反論や発言に、辛らつな皮肉を飛ばしてせせら笑うたびに、それを見ている者を不愉快にさせ、メディア側からは警戒され、さらには、オバマ政権自体のクレディビリティに傷がつくということが、主席報道官のくせにわからんのかな、こいつは。

数週間前のことになるが、24時間経済ニュースを流しているアメリカのケーブル局CNBCの某記者がオバマの経済策について番組中に批判したところ、ギブスはわざわざ記者会見の場でその記者のコメントを取り上げ、「彼は記者になる前はデリバティブスのトレーダーやってたようなやつ。トレーダーあがりにこの政策が理解できなくても当然」と、証券会社のトレーダーを見下したと受け取れる発言をして、それを聞いてた多くがギョッとした。

以前も述べたが、オバマ政権がどんなにうわべでウォール街をバッシングしようとも、問題の中心が証券化マーケットにある限りは、ウォール街の証券化分野のエキスパート達の協力無しには、金融市場の安定なんて絶対に絶対に不可能なんだからな。セカンダリーのマーケットでデリバティブスのトレーダーがいなかったら、どうやってプライシングできるのさ。

ギブスによるこの手のパッシブ・アグレッシブ(Passive Aggressive)な発言は、これで終わりになったわけではなく、CNBC局を筆頭に「オバマはアメリカン・キャピタリズムを壊そうとしている」という趣旨の発言をするプレス相手に、いちいちイチャモンつけ続けているんである。

挙句の果てには、ラジオトークショーのホスト、ラッシュ・リンボー(Rush Limbaugh)まで記者会見中に引き合いに出して、リンボーを「共和党の全国スポークスマン」と皮肉飛ばして攻撃することでオバマの立場を擁護しようとしたが、むしろ裏目に出てる、って感じ。

ラッシュ・リンボーと言えば、アメリカでは知らぬ者なし、保守の中でも極めつけのウルトラ保守寄り発言であちこちでヒンシュク買ってるラジオ・パーソナリティ。人気ラジオ番組だけにマス(大衆)に影響力はあるものの、彼のような保守極論を売り物にしてるような人物の発言を政府高官が真面目に取り上げるなんて、どうかしている。「ホワイトハウスで何を話し合ってんだ・・・?」と、こちらはむしろ不安になってくるではないか。

それって、日本で言えば、自民党の幹事長が定例記者会見でタレントみのもんたの発言を持ち出してくるようなもんなんだからさ。

オバマよ、支持率をこれ以上落としたくなかったら、はやく、ギブスをクビにしろ。

  ★   ★   ★

さて、3月4日にここにポストされたエントリーで、GEの金融子会社GEキャピタル(GECC)の発行する債券がものすごいディスカウントかかって取引されている、というのを書いた。

「ものすごいディスカウント」がかかる理由は、ひとつにはGECCの倒産リスクが実際あがっているから、そして、もうひとつの理由としては、GECCの債券を買いましょうという買い手が市場にほとんどいないから、である。

買い手が資金市場に不在の状態では、リーズナブルな価格形成ができず、取引そのものが成立しないんだ。

こういう状態を「市場の流動性が低下している」と言う。

金融市場正常化を促すと言う意味は、この「市場流動性」の正常化、すなわち、資金の流れを円滑にしてやる、という意味である。

前からここのブログに書き続けているが、オバマの景気対策が効果を発揮するためには、まずは資金市場が正常化に向って動き出さなければ何も始まらない。心筋梗塞で血流が悪くなってるのに、マラソン走れといっても無理なのと同じ。

オバマ就任後、約2ヶ月が経ち、なかなか結果が見えてこないために、市場も一般市民も苛立ちを隠しきれずにいる。けれど、クレジット市場がフン詰まり起こしたままで資金が流れてこないのだから、結果を出そうにもなすすべはない。

国が給料出して警察官や消防士を雇ってあげたって、一部のホームオーナーが家を追い出されないように政府が一時的に助けてあげたって、そんなものは、焼け石に水。末端に注目しててもダメだと思う。

何度も言うが、問題は資金市場。

先週、ガイトナーとバーナンキによる金融市場安定策の目玉のひとつ、T.A.L.F.(Term Asset-Backed Securities Loan Facility)が動き出した。

T.A.R.P.が金融機関の自己資本充実が目的なら、T.A.L.F.は金融市場、とりわけ証券化市場の流動性促進が目的だ。

筆者は、実は、このプログラムに非常に期待を寄せている。

T.A.L.F.については次回にでも。


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Thursday, March 5, 2009

パスタで腹一杯、バッドニュースも腹一杯


NYダウ6600ドル下回る。

今日もいちにち、気分が真っ暗になる相場展開であった。

ムーディーズがJPM、ウェルズ、バンカメら大手米銀の格下げに動きだしたのと、GMの監査人が「破綻の可能性もあり」と書いたことで、しょっぱなからズズーンン・・・。

金融株はどれもこれも一割下げ。「ルーザー株」の筆頭シティグループなんて、今日の取引でついに1ドル以下。

$1ですよ、$1。かつて世界最大の銀行だった会社が、ですよ。

アメリカでは宝くじが一枚5ドル。株式営業部の新米営業マン小浜君でも、「宝くじ1枚分でシティ5株買ってお釣りきますよ!」とは、さすがに言えない雰囲気に包まれている。

新聞を読んでいても、明るいニュースを探すのが大変。っていうか、明るいニュースがみあたらない。

小売のウォルマートが予想以上に業績がよかったということで朝は上がっていたが、後場にはまたズルズル落ちた。

どこかに明るい話は転がってないのかーっ!

意地になって探したら、こんな会社がありました!

   ★   ★   ★

下のチャートは、過去3ヶ月間の某社の『相対株価』である。(3ヶ月前の株価を基準としたとき、3ヵ月後の今どうなってるか、というグラフ。)



この3ヶ月で、S&P500は20%近くも下落した。それに対し、この会社の株式は、3ヶ月前から120%近くも上昇しているというんである。

この会社の名は「アメリカン・イタリアン・パスタ・カンパニー(American Italian Pasta Company)」、全米最大のドライパスタのメーカーである。

今年1月2日末がQ1だったこの会社の四半期決算を見てみたら、トップラインの売り上げが前年同期比で4割増、コストも上昇したものの増加率を比較的低く抑えて、営業利益7%増。

バランスシートの方もみてみたら、営業利益の増加が当期利益の増加となって株主資本に厚みができ、長期借入金の返済に充てて、バランスシートの構造も、より健康的になっている。

ここ一年ほど、業績発表の時期がめぐってくるたびに、営業利益がマイナスになっちまった損益計算書だの、資産に時価調整加えたら実は株主資本がマイナスになっちゃうバランスシートだの、そういうグシャグシャに壊れた財務諸表ばっか見せられてた当方としては、このAIPCというカンサスの小さな会社の

【バラの香りを運ぶそよかぜのような財務諸表】

を前にして、一瞬まぶしさで目がくらみそうになった。

カンサスの田舎の、従業員600人の小さな会社だが、純粋に売り上げ増とコスト調整で業績あがってる・・・いまどき、こんな会社があったとは・・・。(感涙)

業績絶好調の理由は簡単、アメリカの一般家庭が外食を控えるようになり、食卓に安くて腹いっぱいになるパスタ料理が乗っかる頻度が高くなったから、である。

2006年のデータなので少々古いが、世界の国民一人当たりの年間パスタ消費量のデータがあった。

1位は当然、ダントツでイタリア(28kg)。その後、ベネズエラ(13kg)、チュニジア(11kg)、ギリシャ(10kg)、スイス(9.4kg)と続き、米国は一人当たりの消費量年間9kgで世界6位。(データ元:UN.A.F.P.A.←欧州パスタ製造業者協会、とでも訳すのか。)

(ちなみに日本人は1.7kgで、ランキングではずっと下で、「そんなにパスタを食べない国民」であるらしい。)

しかし、イタリア人、一年間にひとり28キロもパスタ食べるのか?!?

さすが本場ですわねぇ。感心しててどうする。

アメリカのパスタ消費量、2006年で9kgだったわけだが、2008年はどれくらい食べてるんだろう。

AIPCの四半期業績詳細を見ると、売り上げ増に寄与した要因としては、プライス効果が4割超、ボリューム効果が2割弱だった。スーパーで売ってるパスタの値段があがったという要因が大きいが、食べてる量そのものも、やっぱり増えている。

ということはですよ、毎年1割から2割ぐらいアメリカ人のパスタ消費量が増えていると仮定して見積もってみると、2008年には、アメリカ人はひとり年間12kg近くのパスタを食べてる、という推計になるな・・・ へぇえ・・・

・・・と、自分で持ってもいない会社のデータ見て計算機叩いているおのれの姿が、なんとなく哀しい。

明るいニュースを探そうとやっきになるのは、完全に「現実逃避」モードだから。

毎日毎日悪いニュースばかり聞かされて、バッドニュースでも腹いっぱい。

そうだ、今日のわが家の晩御飯は、パスタにしよう。

Wednesday, March 4, 2009

オバマによると「株は買いどき」

イギリスのブラウン首相が訪米していた。

昨日の米国のケーブルテレビでは、オバマとブラウンの共同フォトセッションの模様を延々と(実に延々と)映していた。

その場に居合わせたメディア関係者からいくつか質問を受け付けたが、これ、正式記者会見じゃないんだよ。メディアのために用意された【写真撮影会】ですよ。

さらには、ブラウンは米議会にも招かれて、米英が力を合わせて何ができるかを大演説。

オバマほか政府関係者には玄関先で軽くあしらわれ、米メディアにはほぼ完全無視されたニッポンの麻生首相と比べると、なんたる扱いの違いでしょうか。

片やランチもご馳走してもらえず、片や写真撮影会に一時間以上・・・。

ま、麻生さんとオバマじゃ波長が全然合ってないってのは傍(はた)で見ててもわかるけどさー、ここまでハッキリ差をつけられるのは、ちょっと哀しいじゃぁありませんか。サンドイッチとお茶ぐらい出せよな、ホワイトハウス。

イギリス経済だってアメリカと同じぐらいドツボにはまってるわけだが、仲良く並んで目をキラキラさせて見詰め合ってるブラウンとオバマの二人を見ていると、【ブッシュとブレアのアツアツぶり】を彷彿とさせるものがあった。

世代交代しても、アメリカとイギリスは「運命共同体」か。

そのフォトセッションの席で、オバマったら、しゃべる、しゃべる。

勢い余って、

「長期的には株は今が買いどき」

とまで、口走った。

先日ここのブログで、「オバマよ、あなた、いつからキャタピラーの人事部長に?」とたずねたが、今日も言わせてもらおう。

「オバマよ、あなた、いつから株のセールスマンに?」

   ★   ★   ★

オバマが昨日の会見で何と口走ったかというと、正確には以下のように言ったんである。(情報:ABCニュース

"What you're now seeing is ... profit (←筆者注:おそらく“price”の間違い)and earning ratios are starting to get to the point where buying stocks is a potentially good deal if you've got a long-term perspective on it,"

『長期投資の視点に立てば、株式は買い時で潜在的にグッドディールと呼べる水準まで株価収益率(PER)が落ちてきている。』

"Businesses are starting to see opportunities for investment and potential hiring. We are going to start creating jobs again."

『ビジネスは投資機会と潜在雇用を探り初めている。まもなく雇用再開の時期が来る。』

”I am not focused on the day-to-day gyrations of the stock market, but the long-term ability for the United States and the entire world economy to regain its footing. You know, it bobs up and down day to day, and if you spend all your time worrying about that, then you're probably going to get the long-term strategy wrong."

『株式市場のその日その日の上げ下げには私はさほど注目していない。注目しているのは米国及び世界経済が再び安定し力を盛り返す長期的な能力の方だ。株価は毎日上がったり下がったりする。ひがな、それだけに心を奪われていると、長期的なストラテジーを見失う。”


   ★   ★   ★

・・・うむ・・・・大統領の発言というより、まるで、今年営業部門に配属になったばかりの新人セールス君のセールストークのようである。

わたしも金融業界に就職したばかりのころは、先輩から「バリューはホライゾンを長期に置け」と耳にタコできるぐらい言われたのを思い出したよ。

投資のスタイルにはいろいろありますが、もっともオーソドックスなのが、

「ファンダメンタルズ分析を緻密に行うことで価値(Value)が過小評価されている証券を見つけ出し、長期保有することで将来的にキャピタルゲインを得る」

というスタイル。この投資スタイルは「バリュー投資(Value Investing)」と呼ばれます。

1930年代にコロンビア大学の教授だったグラハム(Graham)とドッド(Dodd)という二人により出版された名著『Security Analysis』(『証券分析の原理』)で世に知れ渡った分析手法ですが、この本は、いまだに【株式投資分析のバイブル】となっている。

グラハムの講義を実際に受けていた学生のうち、たったひとりだけ「A+」という優秀な成績を収めた学生こそが、かのウォーレン・バフェット氏であるというのは有名な話だけど、証券アナリストなら必読の書とされているこの古典書、どうやら、オバマも読んだね。本をまんま暗誦してるもんね。(笑)

オバマ、ザ・バリュー・インベスター。Obama, the Value Investor.

(でも、P/Eレシオの「P」を、「Price」じゃなくて「Profit」と間違ったんで、成績は「B-」。)

新人セールス小浜君の言葉を信じて、ここで「買い」に入るもよし、まだ下げは続くと見て慎重姿勢を崩さないでいるのもよし。投資は自己責任でやりましょう。

今日のダウは中国発のポジティブニュースで押しあがっていたが、センチメントは全体にまだ暗い。セールスマン・オバマのアドバイスに従おうとする投資家は、まだまだ少数派のようですね・・・。

ま、株セールスとしては見るからに経験少なそうだから、真剣に聞いてもらえないのはしかたないけどね。(爆)


   ★   ★   ★

ところで、昨日のオバマとまったく同じ発言を、別の記事で読んだ。

ゼネラル・エレクトリック(GE)のCEO、ジェフリー・イメルト(Jefferey Immelt)の言である。

GE株、ここのところズタズタである。(下のチャートは、GEの過去5年の株価パフォーマンス)



GEという会社は、冷蔵庫などのホワイトグッズとか原子力などエネルギー関連とかの分野で有名だが、その実態は、収益の半分以上を金融子会社(GECC)が稼いでくるという収益構造を長らくしていた会社であった。

クレジット市場でのリスクテイキングにどっぷり漬かっていたGECCの業績悪化が激しく、トリプルAの信用格付けの維持が難しいんじゃないかとウワサされている。

そのGEのイメルト会長が、先月、株主宛に出したレターの全文が公開された。(*イメルトの株主宛の手紙全文はこちらへ。)

その手紙の締めくくりが、オバマ発言とほとんどシンクロしておる。

“GE will be a better company winning through this crisis. Your GE teams have dug in and are dedicated to the tasks ahead. My thanks go out to all investors who continue to support our efforts. If you are a prospective investor, let me say, now is the time to invest in GE!

『この危機を乗り越えたとき、GEはより良い会社になっているでしょう。GE経営陣はすでに策を講じており、それに全力投球する所存です。我々の努力を引き続きサポートしてくれているすべてのインベスターに深くお礼を申し上げたい。そして、これから投資をしようと考えておられる方には、いまこそGEに投資する時が来た、と申し上げておきましょう!』

で、「いまこそ!」の「いま」がいつなのかというと、このイメルトの手紙の日付は、今年2月6日。

2月6日のGEの株価、$11.10。

今日(3月4日)午後1時過ぎのGEの株価、$6.38。

GE銘柄、株式だけじゃなくて、債券市場でも嫌われているみたいだ。

昨日伝わってきた債券側のトレーダー情報によると、GECCのCDS、昨日の午後だけで200bpsも拡大し、アップフロントペイメント(Upfront Payment=将来のキャッシュフローの一部を前払いさせる取引形態)なしにはトレードできなくなってるらしい。市場で格下げ懸念が高まっているとはいえ、まだトリプルAの会社ですぜ。トリプルA債券がアップフロントペイメント求められるなんて、聞いたことないよ。

たしかに、グラハム流の正統派投資分析では、株も債券も、オバマやイメルトの言うように「売られすぎ(Oversold)」なのかもしれない。

でも、この異常事態のもとでは、どこが底なのかが見えてこない。

ファンダメンタルズ分析だけに頼るのは怖いと誰もが思っちゃうんだよね・・・。


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