Tuesday, February 28, 2012

向こう数年はダメダメが住宅不動産のコンセンサス

前回は、地域によっては(←ここ重要)、賃貸料が上昇してきてますね、という話をした。

しかし、住宅価格となると、どうも失速気味。今朝発表されたケース・シラー・インデックスは20都市平均で0.5%下がり、2003年1月以来の低水準に戻った。(グラフはCalculated Riskから)

グラフ1:ケース・シラー(87年以降、季節調整前ノミナル)


グラフ2:ケース・シラー(88年以降、季節調整後、YoY増加率)


ノミナルのチャートでみるとそこそこ下げ止まり感は見えるものの、持ち上がるのに苦労してる。(形状としては、富士山の格好をした日本の不動産価格のグラフにソックリですな。)

増加率でみても、オバマの政府補助プログラムでいったん水面上に出たものの、またマイナス圏に戻って、はい上がれない状態にいる。

前回のエントリーでは、アネクドータルにはやや底打ち感が出てるエリアがNYにはある、と書きましたけれど、ちょっと持ち上がってきたな~という雰囲気が出てくると、鳴りを潜めていたシャドーインベントリーが、待ち構えていたようにゴチャーッと市場に出てきたりする。

そのため、なかなか需給に硬さが出ない。全米でシャドーインベントリーは膨大な数に登ると言われているため、需給がソフトなままではなかなか価格上昇にモメンタムがつかない。住宅価格は、さらなる大幅下落は避けられたとしても、需給がヤワヤワのために、価格急上昇というシナリオは目下のところ存在していないも同じ。

今日のBBCでは、ニューヨーク・シティから東に向かって2時間ちょっとのところにあるロングアイランドの超高級リゾート住宅地のハンプトンズ(Hamptons)の不動産の状況がレポートされていた。




ハンプトンズといえば、フィッツジェラルドの名作『華麗なるギャツビー』のスノブな舞台。

昔から、富裕層の別荘地として知られたエリアで、ここはミリオン・ダラー・ホームが数多く建ち並ぶ。そんなハンプトンズで、30年来と言われる不動産不況が深刻化、富裕層でも持ち家を維持できなくなっている。価格が$1ミリオン以上のディストレス物件が、ハンプトンズだけで1000以上も売りに出ているというのだ。

米史上初めて富裕層が、他のどの層よりも速いレートで持ち家を失っている。

BBCニュースのビデオで紹介されているのは、当初$6ミリオンで売りに出された物件だが、もう5年も売れずにこうして空き家になっている。持ち主は銀行への借金返済のために何が何でも売らなくちゃならなくて、現在は当初の言い値の半分の$3.2ミリオン。銀行側もこの価格を承知してるそう。

NYエリアの不動産鑑定の専門家Miller SamuelのJonathan Millerは、このBBCのインタビューで「不動産に関して明るい数字がチラホラ踊って見えるものの、向こう数年はまだまだダメ、というのが市場コンセンサス」と語っている。


Saturday, February 25, 2012

住宅価格は上がらなくても家賃は上がる

住宅価格は下がっているが、賃貸のほうは上昇し続けているというNYタイムズの記事。

(NY Times, 2/24/2012)

ただし、どの街でもそうだというわけではなく、地域差はかなり明確。

下の図(NYタイムズから)によると、ワシントンDCはリセッションが始まって以来、リーマンショックもなんのその、一度もマイナスに陷ることなく上昇し続け。テキサス州経済が好調なオースティンも好調。ボストン、シアトルなども好調。サンフランシスコ、ニューヨークは一度激しく落ち込んだが急上昇で復活モード。

一方いまだに住宅市場の深傷が癒えていないLA、フェニックス(アリゾナ州)、ラスベガスはいまだディープにマイナス圏。フロリダ州オーランドも賃貸料の上昇鈍い。(図をクリックすると拡大します。薄い線が全米平均。)




ワシントンDCの場合は、民間がグシャッと潰れて虫の息だった間でも、やれ救済だ、新たな規制の作成だ、政府主導の景気刺激プログラムだ失業対策だ、なんだかんだ、と政府関係の仕事だけはワンサカあって、不況であればあるほど盛り上がるという、気味悪い地域キャラ(笑)が功を奏していると思われる。

サンフランシスコは、シリコンバレーのハイテク関係の職で盛り上がっているところは盛り上がっているそうで、レント急上昇なのもうなづけますね。

ニューヨークに関していうと、金融街はいまだ昔の元気は取り戻していないものの、「不動産はLocation! Location! Location!」の言われの通り近郊からマンハッタン内への移動も起こっていたりして、マンハッタン内の賃貸(レント)は実際目立って上昇していて、それに呼応するように、売買物件のほうも、賃貸が多いゾーン(60~70平米程度の居住面積の1ベッドルームから1.5ベッドルーム(Junior 4と呼ばれる)物件)の回転率が高まってきているのが、なんとなく感じられる。

筆者は去年から、Zillow.comTrulia.comStreeteasy.com などの不動産検索サイトを駆使して、かなり熱心にニューヨークとその近郊の物件価格を睨み続けてきているのだが、マンハッタンの中およびブルックリンの一部では、エリアによっては物件の価格下げ止まり感が顕著になってきているのがわかる。

賃料は上がり続けるうえに、モーゲージ金利も史上最低値のあたり(現在30年固定で4%以下)にあるということで、一部ではお買い得感が出たり潜在バイヤーの触手が動いていることは間違いない。

住宅を買った場合と賃貸をした場合とでどちらが有利かを考慮する際、住宅を買った場合のキャッシュ・アウトフロー(全額個人所得税の控除対象になっている住宅ローンの金利分を調整後の実質賃料換算値)と賃貸のキャッシュ・アウトフロー(毎月払う家賃)を対比させる【Rent Equivalence】で比較してみるのがアメリカでは一般的に行われているが、上記NYタイムズの記事で、どちらが有利かをビジュアル化してみせてくれる計算機のインターアクティブサイトがあったので、紹介しておく。

Is It Better to Buy or Rent?

このサイトで「例」になってるケースは、現在月額家賃1,100ドル払っているひとが、17万2千ドルの家を年率5.5%のローンを組み頭金20%でプロパティ税1.35%の地域に購入した場合、5年で賃貸するより購入したほうがよくなる、という計算結果である。

住宅資産や賃料の年率上昇率、モーゲージ・ローンの借入期間や売却時のキャピタルゲインの税控除対象額など、いろいろ試算の前提を変えて計算することができるすぐれもの。

遊び始めると面白くて止まらなくなるかも・・・。


Monday, February 13, 2012

オバマの2012年度予算概要

【メモ】今日出された、2012年10月1日から始まる米国の年度予算。

わかりやすい図表。(単位:$ビリオン) WSJから

歳入:$2,902 
歳出:$3,803
赤字:$901

(クリックすると拡大します。)


財政赤字は2012年度にいったん膨らみ、2013年度から縮小してゆくという見込み。


赤字縮小のためには、歳入を増やして、歳出を縮める(という【予定】)。



内訳では、軍事費を削減しても、医療費は年々上昇し続ける。



さらに、別のWSJの記事から、以下のグラフ。歳入と歳出の過去トレンド。こちらもわかりやすい。



そして、Outlays(歳出)がReceipts(歳入)を上回った状態が続くと、国家の借金はどうなるかというグラフ。わかりやすい。




Saturday, February 11, 2012

預貸率の国際比較 from 日銀資料

さっき、日銀の白川総裁による講演の邦訳を読んでいた。

アジアにおける金融:バンキング・ビジネスと資本市場
(国際コンファレンス・前夜ディナーレセプション(日本証券業協会主催)における基調講演の邦訳, 2/9/2012)

(以下引用)

もともとアジアの金融機関は、「国内預金をベースに貸出を行う」という伝統的な――あるいはベーシックな――ビジネス・モデルに立脚してきました。実際、アジア各国の貸出/預金比率をみると、100%を下回る国が大半を占めています(図表1)。国内預金を主たる資金調達源とするビジネス・モデルは、ホールセール市場への調達依存度が高い場合に比べて、資金流動性リスクが低いと考えられますが、今回の金融危機においては、この点もアジアの金融機関にとってプラスに働いた可能性があります。


確かに、日銀総裁が言うとおり、アジアの銀行の預貸率は100%以下(=預金が貸出金を超えている)に固まっていて、この比率であれば、イザ!という時、バランスシートに急激に強い流動性ストレスがかかることは避けられるでしょうね。

しかし、このグラフで筆者がむしろ目を惹かれたのは、逆に、PIGS諸国がどこも預貸率で130%を超えている方で、市場資金への依存度が高い分、流動性リスクにモロにさらされているという点だな。

ソブリン危機が銀行B/Sの流動性に思いっきり悪影響を及ぼしているというのは、誰もが多かれ少なかれ“感触”としては抱いていただろうけれど、こうしてグラフにしてもらうと、その感触にハッキリと輪郭がついてくるような感じ。こんな格好のバランスシートしてて、ある日突然価値が半分になるかもしれないような某国の国債なんて、誰がホイホイ喜んで買えますか?

昨年11月末から世界中の中央銀行からリクイディティのプレゼントがドカンドカン落とされて、12月のサンタクロース・ラリーをもたらし、市場流動性への懸念は以来かなり落ち着いてきているようであるし、昨年夏・秋に「死に体」状態にあった欧州銀行シニア債の発行が可能になってきているということも、拙ブログの1月12日のエントリーで紹介した。

だが同時に、預貸率がこういう状態の銀行システムなのに、そこでシニア債が正常に発行できない状態が夏からしばらく続いたというのは、欧州銀行の当事者らにとってはどんだけシンドかったか、(いまさらながら)想像できるな。また、本当の意味で銀行債市場が正常化してくれないと、このストレスは容易にはなくならない、ということも。そして、ここから示唆されることとして、貸出側の強い締め付けは続きそうですよね、ということも。現状はECBのファシリティにおんぶに抱っこでいれるから、まだ首の皮は繋がってますけど。

先週は、ギリシャ救済資金の大前提となってる歳出カットでギリシャ政府はその案を最終承認したというニュース。

Papademos Gets Cabinet Approval for Second Greek Bailout
(Bloomberg, 2/11/2012)

しかし、市場では、もう2年も市場で取りざたされてきたソブリン危機がこれで収束に向かうと楽観的に考えている人は少数派のようにも見える。

Greek Bailout Gains Could Fade Fast
(Wall Street Journal, 2/10/2012)

Why the Greek Bailout Doesn’t Change Much of Anything
(Time, 2/10/2012)

まぁ、いろいろあるけど、その国の銀行システムが流動性不安抱えたままで、実態経済のほうはギクシャクしないで安定してゆく、というのはちょっとあり得ない組み合わせなように、わたしは個人的に思っているんで。