Saturday, November 27, 2010

CDSのImplied Ratingと市場パーセプション

PIGSのCDSプレミアムの上昇が止まらない。各国のCDS(5年Mid)のデータをみてたら、昨日の段階で、ギリシャ972bps、アイルランド598bps、ポルトガル502bps、スペイン322bps となっていて、ドイツの46bps とえらい違いである。

アイルランドなんて、1年前までは「欧州の優等生」とか呼ばれて持ち上げられていたのに、いまや、パキスタン(677bps)に迫る勢い、ドバイ(457bps)どころの騒ぎではない。

このCDSスプレッドだが、Mishのブログに掲載されていた表が面白いので、切り取って貼り付けておく。

CDSのスプレッドから示唆されているリスクに対応する格付け(Implied Ratings)と、格付け会社が実際につけている格付けの比較表。インプライド・レーティングと実際のレーティングに何ノッチ差があるか、というものだ。



よく市場では「格付け会社はノロい」とか「格付け会社は何もわかっていない」とか「いてもいなくても一緒」とか、いろいろ非難の声を耳にするが(またそう非難されても仕方ないぐらいドンくさいことやってる時も実際あるからネ・・・)、この①市場価格(市場がつけてるリスク評価)と②格付け会社がつけてるシンボルとの間には差があるのが実は普通なんである。

格付け対象となる先のクレジットクオリティが悪ければ悪いほど、市場心理が悪化するときであればあるほど、その「差」は開きがち、というのが過去の例をみても、たいがいそうなんである。

実際に格付け会社のレーティングを睨みながらクレジットの売買してるひとたちからすれば、その差があるからこそ、アービトラージやトレーディングの機会が生まれるわけで、格付け機関も含めた市場関係者が全員、常に同じパーセプションで同じオピニオンなら、Bid も Ask も同じになっちゃうわけでして。


差があること自体は、何の不思議もない。1~2ノッチ(ノッチ=notch =段階)程度の差は、あっても誰も別に驚かん。

しかし、その「差」が2ノッチどころか、8ノッチだの10ノッチだのとなると、何かがおかしい。

上の表で、PIIGSの5カ国のノッチ差に注目されたし。

スペインとアイルランドが10ノッチ差、ポルトガルとギリシャが8ノッチ差、イタリアが6ノッチ差。

市場は、とっくに、格付け機関によるレーティングのレベルなんて無視してプライスつけて取引している。

これだけの差がつく背景は、ひとつには巷(ちまた)の指摘どおり「格付け会社がドンくさい」というのがあろう。

市場は格付け会社がドンくさいんで、近い将来彼らが格下げアクションをするだろうと見越して、あらかじめプライスにその期待を反映させている、というのもある。

あるいは、格付け会社が「有り得ない」としているデフォルトのシナリオを、市場の方では「有り得る」と考えて、オピニオンの違いが明確になる場合も。

さらに、このCDSのプレミアムというのは、実際に該当国の国債現物を保有していなくても、その国の企業など他のクレジットリスクにエクスポーズされてるために、そのリスクをまるごとヘッジする目的で国債CDSを買う場合もあったりして、テクニカルな理由から需要が膨らむ場合もある。

そして、市場が興奮しすぎて、現実味を失ったシナリオで突っ走り、それが実現可能か否かの吟味をすることなくリスクを織り込んでCDSのプレミアムが上昇する、というのもある。

CDSスプレッドの拡大について、欧州の政府・当局関係者は、春のギリシャの騒動のときには、「スペキュレーターのせいだ」と決め付けて空売り規制してみたり、今回のアイルランド騒動では「問題なんてないのに、格付け機関が格下げするとかいうから、こんなことになるんだ」と格付け機関に八つ当たりして、格付け会社を規制すべしとか超アホなことを言い出して、無知+無能+無策ぶりをさらけ出した。この政府当局のギクシャクぶりに失望した市場は、「コリャだめだわ・・・」と投げ出した、つまり、「サポートを施す側に対する市場の信頼低下」が反映されたりもする。

他にもいろいろあるだろうが、筆者が思うに、今回のPIIGSのケースは、これらのファクターすべてがゴチャ混ぜになってる結果なのであろうね。


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ちょっと脱線するが、思えば、ちょうど一年前のドバイショックが、2010年に怒涛のごとく押し寄せた「欧州ソブリンリスク」の幕開けであったのだ。


<<一年前のドバイショックのときのMHJ関連記事>>




一年前に自分が書いた記事を読み直してみると、ギリシャのCDSは205bps、スペインなんて86bpsで、日本(当時81bps)と同程度のレベルだったんであるよ。(遠い目)

それがあれよあれよという間に、このザマである。

イギリスなんてユーロ圏じゃないのに、アイルランド救済に半身突っ込んでしまったし。

日本のCDSは現在、65ぐらいだけど、これも、何が引き金になって、ギャンギャンな騒ぎに発展するか、わかったもんではない。

それは米国ソブリンとて同じこと。今年一杯、ずっとファンダメンタルズはギクシャクしてるから、信頼感が失われたまま、株価があがってみたり、商品・為替が乱高下してみたり、背骨のないタコみたいで、わけわからん。



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話を上の表に戻すが、8ノッチや10ノッチの「差」は、今後、どう縮小するのであろうか。

まずは、ドンくさい格付け機関が格下げを続ける。でも、これが短期間で一気に10ノッチも下がるかというと、筆者としては少々疑問。

(ただし、先日、S&Pの銀行アナリストが、アングロ・アイリッシュ銀行の格付けを一気に6ノッチも下げてたんで、絶対有り得ないとはいいませんが、銀行シニア債の格下げ理由はちょっと特殊なんで注意。これは別の機会にでも書く。)

もうひとつには、いま過敏になりすぎてる市場側が、すこし落ち着きを取り戻し、デフォルトシナリオの実現性・実効性を鑑みたリスクの再考を行うことで、パーセプションのリセットとともにCDSスプレッドの一部が行き過ぎと判断される、というのも、あるでしょう。市場パーセプションが常に正しいとは限らないからね。

各国ごとにおかれている事情がことなるとはいえ、現在は、信頼失墜の感染(Contagion)が進み、PIIGSが地域ひとかたまりになってパーセプション悪化してるというのは、これら5カ国のレーティング差が突出してることから明らか。(ベルギーがこっそり追従中。)

当事者政府側は、債務リストラなど有り得ないと繰り返しているが、現在のスプレッドレベルは、市場は、政府のそういう態度を現状否認(Denial)と捉えて、2011年以降のリファイナンスの困難さとリストラ期待を明確に織り込んできているという意味。実際、現在のイールド水準ではギリシャやアイルランドはもとよりスペインだって、市中調達を継続するのは厳しいだろう。

でも、どこかがデフォればそれで解決、というのは短絡すぎる話。解決に向けては、政治的な側面が非常に強い話だけに、もう少し成り行きを見守らないと予測困難と思われ。


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ところで、上の表で、もうひとつノッチ差が大きく出ている国がある。

トルコである。

S&Pはトルコの格付けはBB+だと言ってるが、市場は「うんにゃAAだ」と言ってスプレッドがずいぶん潰れている様子。

これもやはり、格付け会社がいくらノロいといったって、ソブリンで一気に8ノッチも「格上げ」された国なんて、筆者の知る限り、きいたことないよ。

トルコに関しては、市場はちょっとポジティブな絵を描きすぎなのでは・・・と筆者などはつい思ってしまうのだが、どうであろうか。


Monday, November 15, 2010

今年のホリデーショッピング動向2

昨日の記事の続き。

月曜の朝を迎え、10月の小売統計が出されてきた。

10月米小売売上高は予想上回る、7カ月ぶり大幅な伸び (ロイター、11/15/10)

[ワシントン 15日 ロイター] 米商務省が15日発表した10月の小売売上高統計は、総売上高が前月比1.2%増と市場予想の0.7%増を上回った。4カ月連続で増加し、7カ月ぶりの大幅な伸びとなった。

自動車を除く売上高は前月比0.4%増で予想と一致。前月の0.5%増からはやや伸びが鈍化した。

自動車・ガソリン・建設資材を除くコア売上高は0.2%増。前月は0.4%増だった。

同統計を受けて、年末商戦や夏以来回復が減速していた経済全般への期待が強まった。

昨日のエントリーにも書いたが、小売に関しては、どうやらこのままクリスマスまで突っ走れそうな雰囲気なんである。オンラインショッピングの方も、けっこう元気(例:Fedex、鼻息荒いw)。

そして、昨日のエントリーに関連して、今日、もうひとつ目に留まった記事はこちら。

Amazon shares weighed down by rivals' free shipping (Reuters, 11/15/10)

昨日のMHJで、「全米小売最大手のウォルマートが、ホリデーシーズンの間送料無料キャンペーンで、アマゾンに殴りこみかけた」と書きましたが、今朝は、案の定、そのニュースに反応してアマゾン株が下げ。後場になってさらに下げ足加速、ナスダック全体の足かせとなった。

今週は小売り関連の数字がさらにいくつか続く予定なので、注目したいですな。


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昨日のエントリー最後にあげたポイント3つのうち、(1)と(2)に関しては、こんな感じである。

で、3つ目の「目玉は$500以下の家電」というやつですが。

週末、犬と散歩しながらブルームバーグラジオを聴いてたところ、番組のゲスト(最後までこのゲストが誰だったのかわからずじまいだったのだが、小売業に深く関わっているエグゼクティブ風)が、こんなことを言って印象に残った。

「アメリカの消費者は、去年はできるだけお金を使わないようにしてジーと殻の中に篭っていた(cocooned in)けど、いいかげん我慢するのが嫌になってきていて、またお金を使いたくなり始めている。でも、経済の先行きはまだ不安なので、いまどきの消費行動は【Frugality】(質素・倹約)がトレンドだ。」

去年のキーワードは「欲しがりません、勝つまでは!」だったんだが、今年のそれは「殻から出よう、質素にキメよう。」というわけだ。(笑)

このゲストはこうも続けた。

「多くの消費者の財布の紐は相変わらず硬いけれど、(ずっと我慢してた反動もあって)ちまたでウワサになってるもの、楽しいと評判のもの、そういう一部の商品には足踏みせずにピョン!と飛びつく傾向も見て取れる。たとえば、iPadとか電子書籍リーダーとかね。」


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(その1)電子書籍リーダー市場は、この年末が節目になる!

で、その「iPadとか、電子書籍リーダーとか」なのだが、ウォルマートや家電大手ベストバイなどが、今年の年末商戦では相当チカラ入れて売ろうとしている商品でもある。

アマゾンなどは、同サイトで買った商品の支払いに、アメリカン・エクスプレスのクレジットカードポイントを用いることができるプログラムを立ち上げ、「Amexのポイントでも、キンドル買えるよ!」と宣伝している。

大手書籍ライバル、バーンズ&ノーブルなども、店内に『Nook専用コーナー』を作り、リーダー販売に余念がない。

これについて、14日のNYタイムズは、$150以下で買えるe-reader(電子書籍リーダー)は、今年の年末商戦で、(商品としての)【重要な節目(tipping-point)】を迎えるだろう、と書いている。

Great Holiday Expectations for E-Readers (New York Times, 11/14/10)


“Last year, when you think of the e-reader category, it was Nook and Kindle and Sony, but primarily Nook and Kindle if you look at the sales,” said William Lynch, chief executive of Barnes & Noble. “The difference this year is, there’s a whole lot more choice.”

(「去年、e-リーダーのカテゴリーと言えば、ヌック(Nook)かキンドルかソニーぐらいしかなくて、セールを見ると、基本的にはヌックとキンドルがほとんどだった。でも今年は違う。ものすごく多くの種類のe-リーダーが店頭に並んでいる。」バーンズ&ノーブルのCEO、ウィリアム・リンチはそう述べた。)

これまでなら、お母さんにはハードカバーの本をプレゼントしていたけれど、今年のプレゼントはe-リーダーにお母さんの好きそうな本をダウンロードしておいて、ラッピングして・・・。

小売店のそんな期待がまかり通る、今日このごろ。(笑)


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(その2)タブレット市場は、アップル依然として強し!

一方、昨年のクリスマスには「安価な小型ノートブック」として注目されてたネットブックのほうは、今年はiPadや他社タブレットに押されて、どうも盛り上がっていない雰囲気だ。

先日、某ネットサイトで「ネットブック市場を痛めつけるタブレットの需要」という調査記事を読んだので、MHJでも紹介したい。

Tablet Demand Hurting Netbook Market (Investor Place、11/2/10)

ChangeWave社が3108人の消費者を対象に、10月中に、「向こう3ヶ月以内に買うとしたら、どんなコンピュータが欲しいですか」という聞き取りをした結果である。(以下画像は記事より)

「向こう90日中にデスクトップを買う予定はありますか?」という質問には6%があると答え、8月の同調査時より1%上昇。一方「ラップトップを買う予定は?」という質問には8%があると答え、これは8月から変化なし。

ところが、「ネットブック購入予定」については、14%があると答えたが、昨年夏のピーク(24%)より10%も減少した。(参照:グラフ1/ネットブック需要)


グラフ1


ネットブック需要減少の背景にはリセッション終了という景気要因のほかに、タブレット型のコンピュータ、特にアップルのiPadの浸透が見て取れる。年末にかけての需要については、iPadに対する需要にモメンタムがついてきているのも、見て取れる。

重要なのは、現在iPadを所有しているひとのうち、およそ4分の3(73%)が「とても満足している」と答え、23%が「幾分満足している」と答えている、という点。(参照:グラフ2/iPad満足度)

グラフ2



将来の需要トレンド予測としては、いまだにiPadがダントツぽい。調査対象の26%が「将来タブレットを買う予定だ」と答えたが、うち80%がアップルのiPadを買いたいと答えた。(参照:グラフ3/買うとしたら、どのタブレットを買うか、ひとつだけ選択)

グラフ3


今年の7月~9月におけるタブレット市場でのアップルiPadのマーケットシェアが95%というロイター記事があって、筆者は「95%って、すごくね?」とたまげていたのだが、上の調査を見ても、10~12月も、やはりiPadのマーケットシェアは揺ぎ無い強さなのであろうな・・・と改めて思ったわけ。

しかし、それにしても、4人にひとりの消費者がタブレット欲しいと考えていて、うち8割がアップルというのは、やっぱり、すげー・・・と思わざるを得ない。

ちまたでは、iPadはピークを超えたとか言うひともいるらしいけど、この数字を見る限りでは、まだまだ人気は衰えてはいないよう。

うーむ・・・キンドルにしようか、iPadにしようか、それとも、お掃除ルンバにしようか・・・筆者にとっても悩ましいところ。

Sunday, November 14, 2010

今年のホリデーショッピング動向

はやいもので、今年の感謝祭まで、あと2週間たらず。

アメリカでは感謝祭が終わると、毎年恒例の「ブラック・フライデー」、ホリデー商戦本番である。

一昨年はリーマンショック直後の11月で、まだ事態の深刻さに気づいていない人もいたようで、殺到した買い物客に踏み倒されてウォルマートの従業員が死亡するという異常事態が起こっていた。

しかし、昨年に入ると失業率の連続悪化が消費者心理を冷え込ませ、気温が下がって消費者心理がさらに冷え込む前に買わせちまえ!と、夏休みの真っ最中の7月から早々と「クリスマスコーナー」なんぞをこしらえるトホホな小売店も出て、夏の盛りにクリスマス商戦の皮切りやったりしてたんである。

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では、今年の消費者心理はどんな具合か、というと、

以下、11月13日の日経新聞記事より:

ロイター通信が12日伝えた11月の米消費者態度指数(速報値、ミシガン大学調べ)は69.3となり、前月の確報値から1.6ポイント上昇した。同指数が改善するのは3ヶ月ぶりで、市場予想(69.0)もやや上回った。水準は金融危機後の最高である6月(76.0)以来の高さ。

現在の景況感を示す現状指数は79.7と2ヶ月ぶりに上昇。将来の景況感を示す期待指数は62.7と2ヶ月連続で上昇した。消費者の米経済の見通しは、小幅ながら改善している。米連邦準備理事会(FRB)が米国債の追加購入をきめたことを受け一年後のインフレ見通しは3%と、前月の2.7%から上昇した。

これらの数字を、エコノミストらがどう読んでいるか、というと、

以下、US Consumer Sentiment Rises More Than Expected (CNBC.com, 11/12/10) より抜粋

"The slight improvement in sentiment suggests that spending will continue at close to its current rate through Christmas, which is better than expected even a few months ago. But it's not going to be enough to make a material dent in the unemployment rate," said Christopher Low, chief economist at FTN Financial in New York.

「信頼感に若干の改善が見られたことは、クリスマスまでは現在の水準に近いところで消費が推移することを示唆する。数ヶ月前と比べると良くなっているといえるだろう。だが、これにより失業率が目立った減少を見せるかといえば、それには及ばない。」ニューヨークのFTNフィナンシャル社のチーフ・エコノミスト、クリストファー・ロー氏は言った。

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クリスマスプレゼントをお届けにあがる運送会社はどうであろうか。

Fedex社は、この年末ホリデーシーズンの配達量は、去年同時期より11%増えるだろう、などと明るいことを言っている。(以下、11月11日の同社のプレスリリースより)

Fedexによると、「例年12月中旬の週が一年で最も忙しくなる時期」だそうで、「一年で最も忙しかった日」と「その日一日」に配達された荷物の個数の過去5年の実績、および、今年の予想は、
  • Dec. 12, 2005 – 9.8 million shipments
  • Dec. 18, 2006 – 10.6 million shipments 
  • Dec. 17, 2007 – 11.5 million shipments 
  • Dec. 15, 2008 – 12.0 million shipments 
  • Dec. 14, 2009 – 14.2 million shipments 
  • Dec. 13, 2010 – 16.0 million shipments projected 

あれ?去年は消費者心理は冷え切っていたのでは?とお思いになる方もいるでしょう。重要ポイントはですね、この数字はFedexという小包配達屋の数字、つまり、彼らの配達個数の伸びの背後には、アマゾンのような大手ネットリテーラーの大活躍があったんである。

Fedex社は、今年もそうしたネットリテーラーの活躍をおおいにあてにしているらしく、リリースの中にこんなことを書いている。
Items such as books from large internet retailers and retail inventory such as apparel, personal consumer electronics and luxury goods will drive FedEx holiday volumes.
大手書籍リテーラーの本や、被服・消費者向けエレクトロニクス(家電)・高級アイテム(ジュエリーなど)のリテール商品在庫が今年の年末ホリデーシーズンの配達個数を延ばすであろう、とFedexは見ている。)


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アマゾンにばかりオイシイ思いをさせるものかと、今年は、リテール最大ウォルマートが、オンラインショッピングの拡大でアマゾンに殴りこみをかけ、話題になっている。

ウォルマートも、ずっと前からオンラインでの商品提供はやってきているが、話題になった理由は、全米に何千もの大店舗を構える最大級の小売店が、「12月20日まで、オンラインショップのホリデー商品6万点、送料無料、返品の際も同じく無料!」とぶち上げたからだ。

Wal-Mart May Help Usher In Permanent Free Online Shipping (Fox Business, 11/11/10)


この「送料無料」というのは、いまや米国でネットリテールを営むものなら誰もが避けて通れない道になりつつある。昨年のリテール業界でのアマゾン一人勝ちの背景には、アマゾンが大規模に進めた「送料無料サービス」の貢献が大きい。

上のFox Businessの記事で、調査会社ComScore社の調査によると、ネットでのリテール・トランスアクションの41%が送料無料となっており、ネットショッピングを楽しむ買い物客の55%が、もし送料無料のオファーがなければ、そこでは買い物はしない、と答えている、という。

また、同記事では、小売大手のMacy's(そう、昨年、「ブラックフライデー偵察ルポ」としてMHJで紹介した、あのMacy'sである)も、この第3四半期の会社全体の売上げは6.6%増に留まったが、ネットショップでの売上げだけなら24%増だった、というのである。

Macy'sのように、主要な消費圏に大規模店舗を構えているデパートでも、ネットショップの売上げが全体を引っ張ってくれているのがミエミエ。

Fedexがネットショップ経由の配達注文に、いまから胸躍らせてワクワクしてるのも、十分納得できるわけですね。

今回のウォルマートの送料無料オファーのニュースは、その流れにダメ押しをかけるという意味で注目された。

ウォルマートの送料無料オファーがついてる製品6万点の中には、SONYの大型フラットパネルTV42インチ型とか、結構大きな家電もはいってますし。

大手小売りのネットショップが、こういう嵩張る商品にも送料無料を打ち出すことで、大手にボリュームで対抗できない小規模ストアは、ネット上の送料無料化の流れから、さらなる痛手を被る可能性がきわめて高くなってきている。


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さらに、もうひとつ、ウォルマートの話題。

2010年のブラック・フライデー用広告がリークして、ウォルマートが今年売りまくろうとしている商品とその価格が見えてきた。

Wal-Mart's Black Friday 2010 ad: Electronics top deals (CNN Money, 11/13/10)

リークされた広告によると、以下のような$500以下の家電商品が、ドアバスター・バーゲン商品(Door Buster Bargains=ドアを蹴破って客が殺到するバーゲン、の意)としては、なんつっても目玉らしい。「家電が目玉」なのは毎年そうだけど、今年はさらに安くなってる気がするな。


  • Emerson製 32インチ 720p LCD HDTV $198
  • Emerson製 42インチ 1080p LCD HDTV $398
  • LG製 42インチ 1080p LCD HDTV $478
  • Magnavox製 WiFi ブルーレイプレーヤー $68
  • Apple製 8GB iPod Touch $225 (プラス、ウォルマートお買い物ギフトカード$50ドル分進呈)
  • Kodak製 C183 14メガピクセル 3インチ LCD デジタルカメラ $59
  • HP製 15.6インチ 250GBハードドライブ ラップトップ $298

ウォルマートは、感謝祭明けのブラック・フライデー、午前5時に開店、11時まで商品がなくなるまで売りまくる予定だそうである。


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ということで、今年のクリスマスショッピング動向として確実らしいことは、以下の3つ。

1) ネットショップは今年も元気、大手小売も参戦、競争圧力でプライス低下
2) 「ネットで買えば送料無料」の流れにダメ押しがかかりそう
3) ドアバスター、今年も狙い目は家電(ただし$500以下)

といったところでしょうかね。

(次回に続く)

What is Deflating Right Now?

QE2について、おもしろい動画をみた。

『Quantitative Easing Explained』



「何故、連銀はデフレーションが起こっている、なんて言ってるの?」

「それは、CPIを見ると、そうだからだよ。」

「食料品は一年前より値上がりしてるよね?」

「うん。」

「ガソリンは一年前より値上がりしてるよね?」

「うん。」

「ヘルスケアにかかるお金は一年前より値上がりしてるよね?」

「うん。」

「学費は一年前より値上がりしてるよね?」

「うん。」

「税金は一年前より上がってるよね?」

「うん。」

「地下鉄は一年前より値上がりしてるよね?」

「うん。」

「株価は一年前より上がってるよね?」

「うん。」

「債券は一年前より上がってるよね?」

「うん。」

Then, what is deflating right now? (じゃぁ、今、何がデフレーション起こしてるの?)」

The only thing deflating that I can see is the Fed's credibility(僕が見た感じでは、デフレ起こしてるのは唯一、連銀のクレディビリティだね。)」


(※ hat tip The Daily Capitalist )

Tuesday, November 9, 2010

アムバックの盛衰

金融保証第2位のアムバック(ABK)が、11月8日、Chapter 11を申請した。

関連記事:Ambac Files Chapter 11;Shaes Down 60% (Barrons, 11/8/10)

金融保証(Financial Guranator)になじみのない人のために簡単に説明しておくと、どこかの会社なり地方自治体なりが債券を発行する際、もしも将来その発行体(債務者)が支払い不能の事態に陥ったら、発行体に替わって債権者に借金をお返ししましょう、という一種の保険サービスである。

プロテクション申請したのは持ち株会社、6月30日付総負債$1.68Bil、最大株主Vanguard 5.46%、最大債権者 Bank of NY Mellon、保険オペレーティング子会社Ambac Assuranceのライアビリティは$57.6Bil。

この会社の場合、春にはCDSのスプレッドが何万bpsとかいうレベルだったし、夏からすでにChapter11申請の可能性をほのめかしていたことだし、つい一週間ほど前にも、債権者との事前合意型破産手続きの話し合いが煮詰まってきているが最終合意に至らなければChapter11申請しますと明言していたので、昨夜このニュースを聞かされても、トータルサプライズではない。

関連記事:




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アムバックといえば、かつては地方自治体が発行する地方債のモノラインとして全米最大、その自治体そのものの財務体質がピカピカのトリプルA(AAA)ではなくっても、アムバックから保険を買い、その保険で発行する債券をくるむ(Wrappingする)ことで、ちちんぷいぷい、ピカピカのAAAになりますよ~、とやってたんである。

地方債を発行したい自治体は、保険料(A)をアムバックに支払い、債券を保険でくるみ、発行するときの金利(B)を低下させ、

支払うプレミアム(A) < 信用度上昇による金利低下の恩恵分(B)

の式が成り立てば、保険を提供する側にも、それを買う側にも、経済合理性が成り立つ、そういう商売であった。

アムバックが引き受けるリスクについては、それをプールして、まさに保険アクチュアリの世界でプールの将来の損失率を計算し、プレミアムを算出していた。地方債の場合は実際のデフォルトはあるにせよ、実際には極めて最終損失率の低い世界であったこと、また、その業界では最大かつ市場から最も信頼されていたアムバックという会社は、自身の企業格付けはもちろんトリプルA、毎年安定的な収益を確保できる「知るひとぞ知る」会社として、マンハッタン島の南端に何十年も君臨していたんである。

アムバックと言えば、その昔は、この会社ぐらい収益見通しを立てるのが楽チンな会社はないとまで言われ、あまりに収益が安定しすぎているんで、投資としてはちっとも面白くなく、株価もクレジットスプレッドもさほど動かない、そういう地味な会社だった。

しかし、そこが株式会社の悲しいところ、「もっと四半期の利益をあげんかい!」というプレッシャーは、この眠たくなるような安定ビジネスにも当然及び、そこでアムバックが【新たな収益源】として目をつけたのが、『証券化商品』のリスクもプレミアム次第で引き受けましょう、というものだった。

この【新たな収益源】は、米国の証券化市場とデリバティブス市場の拡大にともなって同社の重要な収益源と化した。寝惚けた地方債市場から事業拡大展開に成功し、リスクコントロールをうまくやりながら収益体質を高めたアムバックはエラい!と、市場のアナリストらもべた褒めだった。

しかし、2000年代中盤から、クレジットバブルが羽目を外してイケイケどんどんで踊りまくっているときに、CDOなどの高レバレッジのサブプライムモーゲージ商品化商品のギャランターとして積極的にリスクを引き受けるようになった。

あのAIGという巨象を死の一歩手前まで複雑骨折させた子会社AIGFPが手がけていたのと同じ世界で拡大しようとしたわけである。

そして、クレジットバブルの破裂。

その後は、AIGの顛末であまりに有名なので、あえて書く理由もない。

過去10年のアムバックの株価推移をみると、クレジットバブルの崩壊のすさまじさを物語る。






クレジットバブルとその崩壊は多くのひとびとや会社を奈落の底にひきずり込んだが、アムバックの盛衰もかなり劇的なものだった。

これから同社はChapter11のもと、腐った膿は切除して会社更生に取り組むわけだが、彼らが元々誇りにしていたスリーピーな地方債保証ビジネス、あれはどうなるのかというと、地方債市場そのものも、バブル崩壊後にずいぶんと様変わりしてしまった。

腐ってる証券化の部分と今後も十分やっていける地方債の部分を、Good Bank Bad Bank方式で早急に切り離し、地方債ビジネスの方のフランチャイズ・バリュー(Franchise Value - 事業基盤の価値)を温存せよという意見は、実は、株価が急落していた2007年後半には、すでに考慮されていたんである。

しかし、規制当局だの株主だの債権者だの格付け機関だの関係者がぐしゃぐしゃに入り乱れて、あーだこーだと言っているうち、同社の財務は取り返しのつかないこととなり、07年当時はまだ価値の高かった地方債保証ビジネスのバリューも一方的に減少した。

地方債マーケットの参加者も「保証をつけてもらわなくても発行に一切支障はないもん」などと強気なことを言い出して(いま、2008年当時のあの強気な言葉を後悔している自治体も中にはいるんじゃないかと思うけれど)、それまで一種の「慣習」となっていた「地方債に保証を付ける」というのをやらなくなってしまったわけだ。

この先アムバックにどんな未来が待っているかは筆者にはわからないが、バブルの後遺症は取り除くことはできても、残された事業のフランチャイズバリューも相当弱まってしまっており、かつてのような安定企業としての地位を取り戻せるかは、残念ながら、疑問が残る。

地方債市場そのもののあり方が、この数年間で大きく変化してしまったわけだからね。

あの安定的な優良会社が、わずか数年でChapter11を申請することになったという事実は、長年米クレジット市場に関わったひとりとしては、なにやら感慨深いものがある。

サプライズニュースではないけれど、それで書き残しておこうと思った。