Monday, April 26, 2010

ギリシャの悲劇・・・その後

前回のエントリーからずいぶん時間が経ってしまったが、話題は、まだ、ギリシャである。

前回の記事では、「ギリシャが本当にデフォルトすると市場が考えていたら、CDSのスプレッドは400程度ではすまない。現在のCDSスプレッドのレベルは、必ずサポートが提供されてデフォルトは回避されるという期待を市場がいまだに持っているという証拠。だがギリシャの流動性は相当逼迫しており、EUの貸し出し条件をどうするかなどとウダウダしてられない局面を迎えるのは時間の問題」だと締めくくった。

そしたら、案の定、同じ11日の午後になって、ユーロ圏の代表らが緊急融資の条件に合意、IMFも巻き込んでギリシャへ融資する用意があるという報道が出た。

その日出されたIMF/EU融資の「タームシート」はこちら。
FACTBOX-Terms of euro zone emergency loans to Greece (Reuters, 4/11/10)

この報道を受けた翌月曜(12日)の株市場は「事態の進展を受けて安心感が広がった」ようであるが、カネを実際に貸してあげる肝心の債券サイドでは、スプレッドは一時ショートカバーで350程度までタイトニングしたものの、再びワイドニング。(当日の関連Tweet

債券市場参加者は、まだまだ甘い、と受け取ったわけ。

それもそのはず、この記事にも書かれているように、この救済案が実行されるには、いくつものハードルがあると誰の目にも一目瞭然だったからだ。

(記事より引用)
Greece has to request the money, because it is unable to finance itself on the market. The ECB and the European Commission then assess if this is really the case. A unanimous decision of euro zone finance ministers is the final go-ahead. The ECB pays out the money while the Commission acts as a coordinator of the bilateral loans.

 1)市場調達が無理なことを理由にギリシャが自分で融資のリクエストを出すこと、
 2)要請受理後、ECBとECはその必要性を吟味、
 3)ユーロ圏の満場一致にて融資実行、
 4)(EC加盟各国のギリシャ支援融資の負担額はECBへのキャピタル提供額の割合に基づいて決定されるが)実際のローンはECBからの貸し出しの形を取り、ECはそれのコーディネーターとして機能する。

二転三転口からでまかせ風の発言で周囲を煙に巻いてきたギリシャが、果たして自分のほうから白旗を振るのか。

また、各国事情を抱えているユーロ圏加盟国がどれだけスンナリ満場一致を迎えられるものなのか。

これまでもそれがネックになって話が進展しなかったのに、「タームシート出てきたんだから、これで安心だね!」と考える能天気など、根暗の債券サイドの中にいるはずがないんである。

翌週からは例によって、各国による「あーでもねー、こーでもねー」が開始され、CDSのスプレッドは再び拡大基調に戻る。

さらにその翌週になると、ギリシャスプレッド拡大は他国にも飛び火して、みそっかす#2とされるポルトガルもずんずん拡大。アイルランド・スペインはもちろん、PIIGSの一味ではないフランスまで拡大基調。

ユーロ全体の調達コストに影響が出るのは必至という状態が明白になり、ストレスだけが高まっていった。

そして、期限の比較的短いギリシャ国債の対独スプレッドが900にリーチ!

ついに絶えられなくなったギリシャは23日の金曜日、みずから「どうか貸してください・・・」と進み出て【白旗を揚げた】のであった・・・。

Greece asks for EU-IMF aid (FT Alphaville, 4/23/10)

   ★   ★   ★

4月23日のBloomberg記事によると、ギリシャ国内では白旗を揚げた首相に対し国民の怒りが爆発しており、国内50万人の公務員を抱える職員組合ADEDYは27日にも大規模な反政府デモを予定しているそう。

IMF/EU融資を借りれば、いま尋常ならぬレベルに達してしまっている市場レート(期間10年で600超の対独スプレッド)よりも優遇されたレートで目先の支払いを回していけるわけではあるが、それはギリシャ国の財政の完全指揮権を失うことであり、厳しい緊縮財政の国民への強制による現政権の弱体化を意味する。

事実、数年前にIMFに救済資金提供を仰いだハンガリーの社会党政権は今月、同国の有権者に拒否されて倒れた、と記事は書いている。ギリシャのパパンドレウ首相の支持率も5割を切ったという。

   ★   ★   ★

ついに白旗は揚がった。

あがったんだから、あとはEU/IMF緊急融資のターム(条件)に合意したユーロ圏のみなさんが、粛々と貸してくれる手はずを整えてくれればよいものだが、ここでも、ハードルは高い。

IMF/EU融資は、提供される融資のうち3分の2をユーロ圏の国が、3分の1をIMFが、という割り振りになっているが、EU分はさらにユーロ圏の国々のECB資本金保有額割合に従って割り当てられる。(ユーロ圏加盟国の資本金割合は、このサイトページへ。)

ユーロ圏最大は当然ドイツで、割合は19%、続いてフランス、約14%。ギリシャへの融資額の2割近くをドイツ一国が貸してあげることになる。

そのドイツだが、EU担当者が「支援融資の実行を妨げるものはない」と延べ、初年度に最大450億ユーロの3年ローンパッケージ(金利5%超の優遇レート)は「速やかに実行に移されるだろう」と述べた【直後】に、近く選挙を控えるドイツのメルケル首相は、別の記者会見で、これとは異なる発言をした。

Merkel says Greek aid depends on 'credible' savings plan (Deutshe Welle, 4/24/10)

メルケル首相は、EU/IMF融資が実行に移されるには、次の2条件が同時に満たされていなければ発動されないと述べたのだ。

① ユーロ通貨の安定が脅かされたとき
② ギリシャが厳しい緊縮財政策を実際に実行に移すとき

「融資の実行(Execution)を妨げるものはなにもない」(by EU関係者)のはずが、ユーロ圏最重要のキーパーソンにかかると「口先だけ緊縮やるといってもカネは簡単には出しませんからねッ」という冷たい言葉・・・。

このギクシャクが、わずか2日前の24日。

"おい、俺が空港でピックアップして料金ダブルでとって、いとこのレストランに連れてってサラダにステーキの値段とってビールにシャンパンの値段ふっかけた、あのドイツの観光客、覚えてるか?あの女(Bxxxx)・・・!”

   ★   ★   ★

というわけで、ギリシャの悲劇、進展があったようで、なかったようで、相変わらず、グチャグチャ。

案の定「あーでもねー、こーでもねー」は継続されているが、問題は待っていてはくれない。

来る5月19日、85億ユーロのギリシャ国債が償還を向かえる、ということである。

予定していた米国での資金調達は、求められる市場金利がこのざまでは無理。

償還資金をIMF/EUに求めることになるにしても、その際、債務リストラを求められるのではという憶測が先週末は広がって、それが信用自由に相当するのではという懸念からCDSスプレッドが爆発。

そして、「仮にギリシャを救済したところで、他のヤバそうな国はどうするつもりだ」という肝心なポイントについては、ユーロ圏の皆様は見てみないフリ決め込んでいるが、市場はすでにそれを先読みして、他国のスプレッドが上昇中・・・。

スプレッド地獄に囲まれて、四面楚歌の様相を呈してきている欧州である。

   ★   ★   ★

最後に、MHJ筆者のコメントを添えて、グラフをいくつか紹介しておこう。

≪グラフ1≫ ギリシャ国債対独スプレッド2年(青)と10年(オレンジ)
          
  • 2年スプレッドが急激に上昇、イールドカーブは完全にインバートした状態。市場が長期よりも目先のリスク(債務リストラなど)をプライスに織り込んでいるため。


(Graph Source: Clusterstock)


≪グラフ2≫ 5年マイナス2年スプレッドの差-ギリシャ と ポルトガル
          
  • スプレッド差がマイナスになるとインバートしている状態。グラフ1で示唆されたように、ギリシャ(青)のスプレッド差は急降下しているが、ポルトガル(ピンク)も、期間の短い金利が上昇、インバートの状態に陥った。
  • 市場のスペキュレーター達が、ギリシャの次にポルトガルに目をつける流れに入ってきているのが見て取れ、スプレッドの上下幅がボラを増しながら動くことが予想される。


(Graph Source: FT Alphaville, 4/23/10)

≪グラフ3≫ ベルギー(ユーロ圏)と英国(非ユーロ圏)のスプレッドの推移
          
  • 過去一年ほどは英国よりもタイトな水準で推移したベルギーだが、先週あたりからスプレッドが急速にワイドニング、イギリスよりもワイドなレベルに。
  • 債務の状況でいうと、英国のほうが財務赤字幅は大きいが、ベルギーは対GDPでの債務残高が英国より大きく、財務的には強いほうではない。
  • ギリシャのスプレッド拡大の動きがPIIGSに含まれないユーロ圏参加国にもスピルオーバーしてきている点に注目。(救済がギリシャ一国で済まなくなれば、ユーロ圏全体に重い負担がのしかかることが予想されるため、救済を必要としない国でも、ユーロ圏内のソブリンにはスプレッドに影響が出ている。)


(Graph Source: FT Alphaville, 4/23/10)


今週も、欧州ソブリンは忙しくなりそうですな・・・。


≪過去のMHJ関連ポスト≫ 

Sunday, April 11, 2010

ギリシャの悲劇(いや、コメディか?)

話題としてはこのあたり脇役になってた(っつーか、欧州関係国からのリップサービスばかりで実質的には何も進展してないので飽きられていた)ギリシャだが、先週あたりからふたたび騒がしくなってきた。

2月7日のMurray Hill Journalで、『付け焼刃ノート「ギリシャ」』を書いてから2ヶ月が経過。

このMHJ記事の中で、ギリシャは「今年の4月と5月に借り換えの必要がある債務は200億ユーロ(280億ドル)」というのを書いたが、あの後、同国は10年債(50億ユーロ)、7年債(50億ユーロ)、12年債(4億ユーロ)、を発行した。

3月末に行った7年債50億ユーロの発行については、スプレッドは334bpsついたという。(ベーシスポイント=100分の1%、ベンチマークは同期間のドイツ国債。)



・・・earlier this month, Greek officials indicated that ideally they would like to pay no more than two percentage points above Germany.


“3月初旬にはギリシャの政府関係者は、対ドイツで200bps以上支払わなくてもよいというのが理想的と述べていた。”
 
へっ?200bps以下が理想的ですと?

この部分を読み「寝ぼけるのもいいかげんにせぇ、ギリシャ政府・・・」と思わずチッと舌打ちしてしまった筆者である。

一応言っておくと、債券価値の上昇・下落はイールドの上下と逆に動く。クレジット投資は、スプレッドがワイドニング(widening)するとその債券の価値は下がり、逆にタイトニング(tightening)すると価値は上がる。

この7年債、いちおう発行前のブックの段階ではオーバーサブスクライブ(oversubscribed=実際に集まった額が予定されてた募集額を上回ること)されて、50億ユーロの発行額に対し60億ユーロの募集があったそうだが、3月4日に発行された10年債(発行額50億ユーロ、対独スプレッド303bps)より募集倍率は低かった。

そして、334bpsで発行された7年債は、トレード開始直後からスプレッドが363bpsに拡大!

さらには、不意打ち的に7年債発行と同日に「12年債も発行しますよー!」と声かけたというのだから、さらに「へっ?」である。

こちらの12年債のほうは、発行額10億ユーロに対して半分以下の3億9000万ユーロしか集まらなかったという。


しかしね、筆者の経験から言って、トレード解禁直後にいっきに20ベーシスも30ベーシスもワイドニングするなんてのはですね、いちおう募集には参加したものの、買い手(機関投資家)の多くはギリシャ7年債を長期保有する気などさらさらなく、トレード開始直後に売り抜けようと最初から考えていた、という意味であるよ。

募集時にブックの上位にどんなバイサイドの顔ぶれが並んだのかは知らないが、ブックビルディングに協力した投資家層の中にも、こんなシロモノを長く保有したいインベスターはいなかった、ということである。

自分たちの信用力は200bps以下だと思い込んでいるウブな発行体と、期間7年で334bpsでもリッチ(rich=“値が高すぎる”、“ディスカウントし足りない”という意味の相場スラング)な水準だと思っている市場のギャップ・・・。

このギャップを主幹事側が気づいていなかったはずがないのに、さらにサプライズで12年債も出して惨敗するなんて、余計なお世話ながら、「引受団はいったい何をやってたのか、顧客が夢見てるときは、きちんとアドバイスしてやれよ」と言いたくもなるではないか。

この2ヶ月、ギリシャの名前がニュースに出てこない日はなかったぐらいだが、結局、ここまで長くひきずって、関係者一同口出すだけでカネ出さない(出せない)というのがもう市場にバレバレなわけだから、この先スプレッドがタイトニングのトレンドに入るためには、救済案が口先介入ではなく具体性を持ち、必要とあらば実際にカネが動くことが明確にならなければ、無理。

ギリシャは9日に、1Qの赤字幅を40%削減することに成功したと発表したが、このニュースで「これでギリシャ問題にも一服感出るねー」などと喜んでたのは債券投資家じゃなくて株式投資家のみ。

でもね、ウキウキ組の株式サイドがどんなに喜んだところで何の意味もなし。株の投資家がギリシャ国債買ってくれるわけじゃない。問題は流動性なんだから、新規発行される債券を買ってもらえるかどうか、それが目下の問題なんだからね。

案の定、ウジウジ組の債券サイドは、40%がどうしたなどという安っぽい話で安心してくれるほど甘い人たちではなく、スプレッドがいったん450bpsを超えたあたりで、ロングのポジションに入り(=現物を買う、あるいは、CDSを売る)、CDSの利益確定の動きで380bpsまでいったんタイトニングしたが、その後格下げのニュースが伝えられるとあっという間に410bpsまで再びワイドニングした。

ギリシャ国債、完全におもちゃ状態。

だが、ギリシャ悲劇はこれで終わりを迎えない。

この7年債と12年債の【ぼろぼろのディール】の後、さらに涙を誘うニュースが入ってきた。

これからまだ起債しなくちゃいけない額は100億ユーロ以上あるというのに、「身内」の欧州内での需要がこれ以上見込めないため、ギリシャは米国に遠征して、「赤の他人」の米国の資金を集めようというんである。

赤の他人の皆様からお借りするのだから長期債は失礼、でも短期なら・・・とかいう思いやりでも持ったつもりなのか、来週米国に持ち込んでくる起債案件は期間12ヶ月のT-Billだという。

ところが、米国で起債するというニュースが出た後の4月7日時点のギリシャ国債のイールドカーブは、メッタメタ。期間6ヶ月の取引レベルなんて前日のクローズから300bps+も跳ねてやんの。(下チャートはBusiness Insiderより。上は6ヶ月のミッドプライス、下はイールドカーブ。)

・・・ダメじゃん・・・(号泣)。足元みられまくってんな。

嘘でもなんでもいいから、再び欧州の要人から口先介入でもしてもらわないことには、こんなカーブでT-Bill出すのは、ただのバカ。






   ★   ★   ★

4月7日の英テレグラフ紙は、Greece set for U-turn on hedge fund policy という記事を載せ、今後、米国で起債したいというなら、ギリシャはヘッジファンドにおもねるしかないと書いた。

思い出していただきたい。

ギリシャのCDSがデフォルト不安で急上昇したさなか、他の欧州ソブリンもつられてプレミアムが上昇し、ギリシャおよび欧州各国の政府関係者は全員で「CDSのプレミアムが急拡大しているのは、ヘッジファンドがCDSをオモチャにしているからだ!ヘッジファンド許すまじ!スペキュレーターを締め出せ!」と糾弾のこぶしを振り上げて騒いでいたのを。

でもですよ、それでなくてもリスクに敏感になってる米国の伝統的なバイ&ホールドのロングオンリーの機関投資家が、ギリシャ国債みたいな高ボラティリティのワケわからん債券を、為替リスクとってまでキャッシュボンド(現物)でじーと保有したいと思う理由が、どこにあるでしょうか。

テレグラフの言うとおりで、信用をすっかりなくした海外の発行体が米国で多額の証券をはめ込もうとするならば、ヘッジファンドにゴロニャンするしかないんである。

実際、このハチャメチャな状況下で、誰がギリシャが発行する新発のキャッシュ・ボンドなんぞをウハウハ買いたいかと考えると、アービトラージやりたい連中だけである。

現物よりもタイトなレベルで(たとえば200bpsとかで)CDSを買っておいた投資家が、400bpsのスプレッドがついた現物を買えば、それだけで400bps(クーポン=キャッシュのインフロー)と200bps(CDSプレミアム=キャッシュのアウトフロー)の差200bpsがネットインフローとして生じるため、クレジットリスクを中和しながらスプレッドの差をアービトラージで得ることができる。

上記は極めて単純化された例ではあるが、こういうアービトラージ取引は、ベーシストレード(Basis Trading)と呼ばれ、クレジット投資では基本的な手法。

つまり、ギリシャや欧州のおエライさんたちは、CDSのスペキュレーターに対しガーガー立腹していたが、取引の現場では、現物とデリバティブスのスプレッド格差にアービトラージ機会を見出しているCDS市場の参加者こそが、ギリシャが発行したがっている現物債券の買い手として興味を持っていてくれる、という皮肉な状況になっているんである。

CDSの取引を押さえ込もうとすればするほど、ギリシャ国債の流動性はさらに落ち、値付けはさらに困難になり、実際の発行も難しくなる。

(下グラフは、ギリシャソブリンCDS5年シニアの動き。4月8日のFTより。)


   ★   ★   ★

というわけで、口を開くたびに市場の信頼を失い、新規発行のたびに発行条件が悪くなり、日ごろ敵対視している相手(スペキュレーター)ばかりが新発債に興味を示してくれる、そんな「踏んだり蹴ったり」(っていうか、自業自得)のギリシャである。

この期に及んでも、ギリシャ首相ほか関係者は、「信用問題は終わった」だの「デフォルトはイッシューではない」だのと言ってるようだが、EU筋からは、実際にギリシャが資金繰りの問題に直面したら、緊急にローンを貸す用意はできている、と言う話が漏れてるらしい。

ただし、EUの身内だからといっても手加減はなし。最長3年ローンで、スプレッドは対独300bps超、それにさらに必要経費で50bps追加、つまり、EUからお借りしても、350bpsがギリシャ側の調達コストに跳ねかえるという話。


でも、この条件なら、アメリカンなスペキュレーターから借りても、大して差がないかもよ。とほほ。

自国政府の窮状を見るに見かねたギリシャの民間銀行が、Solidarity Account (連帯口座)なるものを作り、国家の借金返済を助けるためにこの口座に預金しましょうとネットで国民にキャンペーンして訴えているというFTのブログ記事を読んだときは、もらい泣きしながらも、笑った。

さらに、欧州系の外銀たちがギリシャの銀行とのレポ取引から手を引いているとかいう報道もあったりして、目先の流動性に困るのは、実は英雄的旗振りしてる民間銀行かもしれなかったり。

さらに駄目押しで、流動性がどーしたとか言ってるこのタイミングで、欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は、資金の供給オペの際の担保ルールを来年から変更して格付けの低い資産に適用する割引率を拡大するつもりとか言って、ギリシャの資金流動性に近い将来もっと圧力かかるだろうことを平然と言ってしまうし。

もうひとつオマケに、ここぞとばかり張り切ってる格付け機関もギリシャのソブリン格付けを下げて、投資適格から外れたら最後の貸し手のECBからも借りれなくなっちまうじゃんか・・・という新たな不安も生まれるし。

もう、どっち向いても、ぐちゃぐちゃ。

ギリシャ悲劇というより、ほとんど喜劇。

これらの情報をすべてひっくるめて、遠くニューヨークにいる筆者に感じられることとしては、

「ギリシャ国の流動性逼迫は、すでに相当進行している」ということだ。

筆者は、欧州がギリシャを見捨てる用意があるとは思っていないし、イザとなったら何らかの流動性の手当てが提供されると考えてはいる。

それに、ギリシャが実際に近い将来デフォルトを起こすと強く信じているひとが市場参加者のマジョリティだとすれば、スプレッドは400どころじゃすまないよ。クレジット投資というのは、デフォルトするか・しないかという「白黒の世界」ではなくて、白と黒の間に連続的に横たわるクレジット・スペクトラムがどんだけグレイかという、そこに投資するわけだから。

つまり逆を言えば、現在の400前後のスプレッド水準は、(確かに高いレベルにいるものの)ギリシャに対してどこかからサポートが提供されてデフォルトは回避されるだろうという「期待」を市場はいまだに抱いている、という意味でもある。

ただし、筆者には、政府要人がちまたに信じさせようとしている以上に、実態は緊急を要しているという風に感じられるな。

EUのローンの貸し出し条件だの、そんなことをウダウダ言って先延ばししていられない局面が実際に来るのは時間の問題のような気がする。

まもなく米国での起債。来たる週は、悲劇(喜劇?)の続きを見ることになりそうだ。

Saturday, April 3, 2010

【備忘録4】ジョブレス・リカバリー

3月の雇用統計Nonfarm Payrollが出てきた。それに対するオバマの言。

”Worst of the storm is over.” 

クリーブランド連銀の『Data Updates』4月2日付けコメントも、ポジティブなトーン。
  • 失業率は9.7%で横ばい
  • 3月の+162,000のうち、国勢調査人員分が+48000で押し上げられているのは確かだが、それだけじゃない。
  • 増加は産業全体で見られ、ヘルスケアと教育セクターでの雇用増が特に目立つ。
  • 週の労働時間も33.1時間から33.3時間の増加。
   ★   ★   ★

ただし、一度失業した者は、失業期間が延びている、つまり、再就職が難しくなっているという状況がみえる。

(以下ふたつのチャートは、NYタイムズの記事より。)

グラフ1:16歳以上の労働者の失業期間は31.2週間で、DOLが同統計を取り始めた1948年以降最高値。


グラフ2:失業者のうち永久解雇の対象の労働者の割合は51.8%。落ちてきてはいるが、過去トレンドよりかなり高い位置に。


なお、U-6の数字は、前月の16.8%から16.9%へと微増。

(注) 失業統計にはU-1からU-6まで異なる定義で測るレシオがあり、オフィシャルな失業率というと、U-3を指す。ただし、『あんまり仕事がないんで、やる気なくなって仕事探す気すら失せた』ような人はU-3の分母に含まれないため、そういう人や経済的理由からパートタイムに従事している人も含まれるU-6のほうが、米国の失業状況として実態により近いとして注目されている。

(下図は、The Daily Capitalistより。拡大できます。)
 
そして、すっかりおなじみ、Calculated Riskブログの『雇用ピークから水面下に落ち、再び水面上に戻るまでの期間』のグラフ。これをみると、ぐずぐずしてはいるが、一方的な下落は止まり、底のあたりを徘徊しているのがわかる。
 
 
 
 
国勢調査人員ファクターの効果が7月までは続くということなので、雇用統計は、少なくとも夏までは、その底上げ効果が期待されている。国勢調査要因を抜いて、この春、どこまで雇用が増えるか。
 
オバマがいうように、The worst is REALLY over? 
 
いまのところは、Too soon to conclude かも。
 
この統計を受けて、金曜日は米国債の10年イールドが上昇。株式市場も週明けは好感するはず。このウキウキ感が継続する間に“ホンワカとした”金利上昇をもくろむ、そのための下地が着々と作られている、という感触をどうしても持ってしまうな。急激な金利上昇はまだまだ無理としても。
 
引き続きトレンドに着目。