Saturday, August 29, 2009

現代版「靴磨き少年」、スターバックスに集合

昨日の金曜日(28日)のウォール・ストリート・ジャーナルのMoney & Investmentの欄のトップニュースは、AIG、シティなど5銘柄だけが全般にトレードが薄い中でラリーしている、というニュースだった。
With Trading Light, 5 Stocks a Rally Makes (WSJ、8/28/09)

「薄商いの中で金融5銘柄だけトレーディングのターンオーバーが異常な激しさを増しワケわからんことになってる」というのは、22日にポストした前回のMurray Hill Journalに書いたので、MHJ読者の皆様にとっては、すでに古いニュースでありますね。(MHJを読みましょう!笑)

MHJ記事から一週間、依然、ワケわからん状態が継続してる。

なかでもAIG株は、木曜と金曜に、トレーディング前線で激しくターンオーバーしてるだけじゃなくて、株価自体もグングン上がり、50ドル超に!

木曜日には、AIGの新CEOに就任したばかりのロバート・ベンモシュ(Robert Benmosche)が、AIGを育て上げ(かつ、破壊した)旧CEOのハンク・グリーンバーグにいろいろ指南してもらいながらAIGの経営を進めてゆくつもりだと発言したことが市場で"好感”され、びょ~んと上昇。



これで、AIGは 【全米モラルハザード株ランキング】(←MHJ筆者が今作った)首位の座を手にいれたこと、間違いなし。(爆)

ウォール街ボーナス魔女狩り騒動の火付け役となり、わずか数ヶ月前には、ニューヨーク金融街のAIG本社ビルの前には大勢の一般市民が集まって「貪欲の豚 許すまじ!」と書かれたプラカード掲げて、こぶし振り上げて騒いでいたものである。(当時の反AIGヒステリアについては、3月19日のMHJ記事『議会は魔女狩りモード』参照。)

ところが、最近では、街角のスターバックスに行くと、失業して他にやることもない男たち(働き盛りの年齢層)がたむろして、ラップトップ持込んでWiFiでデイトレードしてて、5分足のチャート示しながら”テクニカル分析のおさらい会”なんかワイワイやっちゃったりしてる「にわかデイトレーダー」や、買うならこの株だぜと仲間に勧めてる「にわかアナリスト」が増えており、中でもAIG株は、彼ら「にわか組」のアイドル的存在になっている、という報告もあり。

「靴磨き少年」の現代版は、「スターバックス通いの失業者」なり。

3月ごろ、AIG本社前に座り込み「許すまじ!」と叫んでた人たちの中にも、いまになって、コーヒーすすりながらAIG株をデイトレードしてウハウハ喜んでる者が、少なからず含まれているかもしれんな。(笑) 人のうわさも75日、人の記憶は49日。

そして、誰よりもウハウハなのは、AIGの最大株主(実質80%オーナー)、米政府かも。

笑い止まらぬチーム・オバマから表彰状をもらえそうなぐらいの勢いである。

議会の連中も、「スペキュレーションは絶対に許さない!」とかワーワーわめいて、『空売り規制』のほうは積極的に動いてましたが、スペキュレーション買い(Speculative Buying)については、誰も何も言わないですな。株価が下がると政治介入、上がる分には文句なし。

   ★   ★   ★

28日の金曜日、引けの前に、ニュースブログ『24/7 Wall St』が、AIG株の暴騰と、現在のマーケットの【メンタリティ】について、面白い投稿記事を載せていた。

本文はここ:Trader Crack: AIG Goes To $100 (AIG, C, BAC, HIG, MET, YHOO)
(24/7WallSt.com 8/28/09)


(以下、MHJ筆者による抄訳)

メジャーなインデックスは3月の底から5割以上上昇し、市場では問題だらけの投機的な金融銘柄はゲットーで覚せい剤が売買されるように取引され、これが「ブル・マーケット」か「ベア・マーケット・ラリー」なのか、そのどちらかはわからないが、いずれにせよ強い上昇気流の中にわれわれはいる。そして、このAIG株高騰だ。ユーフォリア(陶酔感)にひたってみな頭がおかしくなってるのか、あるいは、もはや市場は恐れるに値しないもの、説明をつける必要などないかのどちらかだろう。AIG株は8月19日のレベルから倍増し、底値からみると400%増となった。いまでは、AIGは100ドルを超える可能性があるとまで関係者の間で囁かれ始めている。(中略)

ハイテクバブルの頃のユーフォリアと比較してみよう。たとえばヤフー株。1999年の10、11月の同株は株式分割調整済み50ドルで、それでもオーバーバリューと思われていた。しかし、翌12月までにはヤフーは100ドルに上昇。2001年3月には10ドル以下に下落。だが、AIGはヤフーとは違うし、直感的にヤフーとAIGの比較はできないと誰もが思う。AIGは7月9日のレベルからすでに400%上昇している。7月9日というのはAIG株が併合比率1:20でリバース・スプリット(株式併合)を行った日から数えて6日目だったが、株式併合有効日の7月1日の数日前にはAIG株はスプリット調整後30ドル近くに上昇していた。(中略)

では、どこの誰が、AIG株のターゲットを100ドルと言い出しているのだろう。AIGという会社は、いまだにリスクを抱えた会社ではないのか?米政府の支援がなければ経営継続困難な会社ではないのか?オペレーションの切り売りで骨抜きにされる会社ではないのか?ダウ平均株価から追い出された哀れな子豚じゃないのか?株価を表面上吊り上げるために株式併合を行った会社ではないのか?AIGは今後も引き続き政治的圧力を受け続ける会社じゃないのか?これらの質問への答えはすべてYESである。だが、今年に入ってから起こったことを見る限り、それらはすべてどうでもいいことのようだ。

現在の市場の流れにおいては、明らかにブルマーケット・メンタリティのひとり勝ちである。後年、これがベアマーケットラリーだったということがわかったとしても、そんなことは関係ない。トレーダー達の関心は市場が動いている間に儲けることが出来るか否か、それだけだ。そしてAIG株100ドルというクレイジーなターゲットが出てくるのは、ブルマーケットメンタリティの魔法にかかった者たちが、それが実現したらどんなことになるのだろうと思いをめぐらせているからだ。

木曜日(27日)の終値は$47.84だったが、スプリットを考慮して52週レンジをみると、AIG株の過去1年の最高値は$493.60、2年前の水準なら調整後一株1000ドル。だが、3年前当時の同社の株価は70ドルだった。投資家やトレーダーの中にAIGの企業価値がいくらなのかをはじき出せるものなど今の市場にはひとりもいない。同社のマーケット・キャップはわずか64億ドル。財務諸表上はAIGの営業利益は直近の四半期で339億ドルで黒字。6月30日現在の同社の総資産は8304億ドル、負債7724億ドル、株主資本は580億ドル、うち無形資産が515億ドル。これら財務諸表上の数字が正確かつ最終数字と考えることはできないし、さらに総額1700億ドルに上る同社への政府支援を考慮すると、もはや何がなんだかわからない。

AIGを古典的な意味においてカバーしているプロのアナリストは現在いない。だから、プライスターゲットというものはないし、収益見込みがどれぐらいになりそうなのかという予測値もない。つまり、AIGの株価予想を立てようとするものは、ガイダンスやレファレンスを全く欠いた状態にあり、しかも、AIGという会社の企業価値がどうなるのかというクルーすらない状態で予想を立てているのだ。

そして、AIGにブル予想を立てるものがよりどころにしているもうひとつの点は、新たにCEOに指名されたロバート・ベンモシュは保険業界では泣く子も黙る存在で
「彼ならやれる」いうストーリーだ。彼はMetLifeの英雄であり、AIGの資産をメッタやたらに切り売りしたりしないと言っている。(これが、AIGは骨抜きにはならないという意見につながっている。)また、前職のリディとは違って、(嫌がるペンモシュに頼み込んでCEOになってもらったという経緯から)彼は政治的圧力にも屈しない強い経営者だと考える者もいる。彼は政府に借りた金は必ずお返しすると言っているし、旧CEOのグリーンバーグの操作の仕方も知っている。これらは(パーセプションに)プラスに働くかもしれない。

AIGが$100になるなど、AIGが潰れかけてる会社だと考えているものにとっては、とうてい考えられないレベルだろう。だが、ブル市場ではクレイジーなことはいくらでも起こる。リアリティとパーセプションは、抱いているメンタリティ次第で、大きく差がつくものだ。AIG株はその一例なのだ。

折りしも今日、ダウジョーンズから、もしシティとAIGがダウ平均から外されていなかったら、ダウは1万ドルほぼ回復、というメモが出ていた。だが、市場では、誰もAIG株がどこまで上昇するか、正面切って意見を述べようとするものは見当たらない。100ドルになるかもしれないし、10ドルになるかもしれない。米政府の出方次第では無価値になるかもしれない。

(筆者による意訳は以上)

上の記事は「トレーダーのクラック(麻薬)」と題された投稿だが、コカインや覚せい剤にはまると、必ず後で地獄が待ってますよ。お気をつけて。(実例:のりぴー)

   ★   ★   ★

そう、上の記事の言うとおり、AIG株のクレイジーな動きを「古典的な分析手法を用いて、理路整然と説明する」ことなんて実質不可能なんである。

ブルなメンタリティでいれば100ドルも夢ではないが、そうじゃなければゼロの悪夢も。ラショナルなんて、どっちにも、ない。

経営者に対する評価やパーセプションというのも、わかったようで、わからん話である。

そのとき市場がどんなメンタリティでいるか次第で、同一人物でも市場の評価や置かれる立場がぜんぜん変わってしまう。

AIGの旧CEOハンク・グリーンバーグなんて、全盛のころは「AIGの神様」と呼ばれ、AIG崩壊で「AIGを殺した男」と名を変え、引退後はAIGの新経営陣の悪口をメディア各地でしゃべりまくったために「往生際の悪い男」と呼ばれ、だが今度は彼が経営コンサルタントになってAIG立て直しに関与するという情報が出るや、AIG株急上昇。

ハンク・グリーンバーグって、本当に同一人物ですか?(笑)

だがそれは、日本も金融危機時に経験した。金融危機時に旧三井住友頭取をつとめ、後日、日本郵政社長に就いて政治的に叩かれまくった西川善文氏なども、その一例ではないのか。

2003年5月のりそな銀行救済後、日本の金融株は(モラルハザードで)急上昇するわけであるが、あの前後は、どの銀行が潰れそうだの、生き残りそうだの、連日連夜スペキュレーションの嵐であった。だいたい、邦銀不良債権がどれくらいあるのか、清算価値がいくらになるのか、純資産がいくらなのか、有形資産があるのかないのか、正直、誰にもわからない状態で、邦銀の企業価値をはじき出そうにも確固たる拠り所はなかった。

日本の金融危機が悪化の一途をたどっていた2001年、2002年当時、筆者は某米系大手のセルサイドにいてニューヨークやロンドンのヘッジファンドなどをよく訪問していたが、海外の投資家からは必ず「モデルや分析はどうでもええ、お前の【感触】としての意見が聞きたい。日本の銀行の不良債権は実際どれくらいあると思う?」と質問された。政府関係者とも強力なつながりを持つような有力ヘッジファンドですら、当時の邦銀の企業価値をどう把握すべきか、まったくのクルーレスだったんである。現在のグローバル市場がAIGの企業価値に対しクルーレスなのと、まったく同じ。

だが、当時の日本市場では、銀行によって、株価水準に差はついていた。その当時、三井住友銀行の頭取だった西川氏の経営者としての信頼度が高く、三井住友の株価は他のメガ銀行と比べて相対的に株価が高かった。ガイジン投資家はそれを指して「ニシカワ・プレミアム」と呼んでいた。

今のAIG株には、「ベンモシュ・プレミアム」がついている。

誤解ないよう付け加えるが、筆者は個人的には、西川氏は、その強烈な個性と決断力で三井住友という大組織を引っ張った類まれなる経営者だったと考えているし、いまも尊敬している。

ここで筆者が言いたいことは、市場のそのときそのときの経営者に対する評価というのは実にイイカゲン極まりないもので、日米問わずマスコミのトーンに流されやすく、それが「リアリティ」なのか「パーセプション」なのか区別をつけられないまま雰囲気に流されてゆき、その流れがいつしか「株価」という「バリュー」にトランスレートされていくと筆者は折々強く感じる、ということだ。ファンダメンタルズが揺らいでいるときほど、その傾向は増すような気がする。

市場がどのメンタリティにいるのか、そのメンタリティのもとでパーセプションがどう作用するか---それ次第で株価が決まることが、実際、多々ある。

だが、パーセプションは浮動なものという性格をぬぐえないゆえに、パーセプションで持ち上げられた証券価値の部分には背骨がない。

だからこそ、前回でも書いたように、「証券価格はファンダメンタルズで説明できるプライスレンジに、必ず回帰する」

どこをどういじってもファンダメンタルズで説明できないのに株価だけが100ドルになるような相場は、スペキュレーション相場以外のなにものでもない。スターバックスの靴磨き少年が推奨するような株は、なおさら気味悪い。

筆者はそう思う。



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Saturday, August 22, 2009

ファンダメンタルズに回帰する・・・のか?

金曜日(21日)の米株市場は、またもやブイブイであった。

MHJの読者の皆様はご承知のように、筆者は5月からずーっとベア派的思考から抜け切れず、ウジウジし続けてきたのだが、そのウジウジがあだとなり、市場の上昇に乗り遅れたという思いが、最近は常に頭の中にある。

ファンダメンタルズを多少でも分析の基礎に置く者の多くは、この夏のラリーで、「やられた」という感を強くしているのではなかろうか。

株市場は、現状のファンダメンタルズを追い越して、常にその向こうを見通して(looking ahead)動いている、というのはよく言われること。

失業率などの経済指標や、銀行の不良資産の重みとか、商業不動産の問題とか、消費動向とか、在庫調整とか、そういった【現状を示すさまざまな数値】にリアルタイムで注目する限りは、【現状】のファンダメンタルズは、ぼろぼろ。

それでも、株価回復は続く。【現状】に反応してるんじゃなくて、【現状のさらに向こう】を見てるから、とみなが言う。

向こうを見越すのはいいが、「向こう」はいいことづくめでもないわけで、行き過ぎになった場合は、どこかの時点で必ずや、その修正が入る。ハイテクバブルが崩壊したように。住宅バブルが崩壊したように。

筆者は古い型のアナリストの一員だったのかもしれないけれども、証券というものは、株であれ債券であれ、一時的に必要以上に悲観的になったり、逆に必要以上に楽観的になったりするものの、必ずや、

「ファンダメンタルズで説明できるプライスレンジに回帰する」

と諸先輩たちから教えられ、それを信じてきたし、今も信じている。

で、ここ数ヶ月の米株式なんですけどさ。

現時点で、S&P500に含まれる会社の97%が、すでにQ2の決算発表が済んだそうである。その会社群の多くが第2四半期は【減益】という結果であった。少々の減益じゃなくて、急減、と言われるやつ。

せっせと人件費削減(←首切り=失業率アップ)に励み、在庫も調整しまくり、それでも減益。

Price (株価)が上昇し、Earnings (利益)が下落したら、当然のことながら、P/Eレシオは上昇しますよね。

Q2の企業の大幅減益がP/Eレシオにどれぐらいのインパクトを与えたのかというチャートがあった。(Chartoftheday.comより)




これを見ると、30年代から80年代までの50年間超、米株のP/Eレシオは20倍をピークに修正を繰り返してきた。90年代には後半のハイテクバブルがP/Eレシオのレンジをトレンドとして押し上げ、2000年代にはハイテクバブル崩壊でふたたび20以下には落ちたものの、80年代までのレンジの底まで落ちる前に、今度は低金利(クレジットバブル)を背景にした住宅バブルの到来でトレンドラインとしては上昇した。

このチャートを提供したサイトによると、S&P500の株は、ここ数ヶ月でPER最高144倍まで上り過去最高。97%の企業収益が出揃った段階でPERは129、という。

このチャートをみてしまった今、来週もブイブイ強気に買い進める勇気は、筆者には、ないね。

「株価は現状の先を見越している」というのは、もういい。

だが、それは80年代だって90年代だって、そうだったわけ、ですよね?

現在の異常ともいえるPERは、市場が『何』を見越している結果なの?誰か、教えてください。

PER129倍ということは、これが過去の正常レンジ20倍以内に戻るためには、収益はいまの6倍以上増やさんと駄目だよ。

でも、企業収益を取り巻く【現状】のファンダメンタルズから言うと、米企業の収益が近い将来6倍に跳ね上がるシナリオって、少なくとも企業の財務分析を長年メシの種にしてきた筆者の感触としては(あくまで“感触”ですが)、あまりリアリティないんだが。

現状の向こうにある「何か」を見越してEarnings の129倍払う株式投資家は、収益実績がともなわないというのが見えてきたら、当然、売りに動くんですよね?そのとき、その投資家は、どのレベルのPERが「適正」と考えるのだろうか。

   ★   ★   ★

東京UBS証券のシニアエコノミスト会田卓司氏が、最近の投資家向けメモに、こう書いていた。

信用バブル崩壊の後遺症としての構造的下降局面はまだ続いている。「持ち直している循環トレンドvs.下降している構造トレンド」の図式である。しかし、金融システムと米国経済は安定化へ順調に進んでおり、構造的トレンドが下げ止まる安定成長への道筋が見えてきている。



たしかに氏の言うとおり、金融システムに安定感は出てきている、と言える。(収益回復はすぐには無理だが、危機的状況にはもういない、という意味で。)

金融機関の調達コストに影響を与える債券発行時のスプレッドも過去の極端にワイドなレベルから、かなりタイトニングして実際の調達が可能になったのは事実。スプレッドが700だの800だのついてたころは、調達そのものが不可能でしたからね。

だから、多くのひとが「安定してきた」と感じるのは至極当然だと思う。

だが、安定感は出てきたばかりで、安定したと断言するのは難しい。「安定」といっても、それは、まだまだ「感覚的」なものだと筆者は思う。

金融機関というのは「調達」が命。金融機関が資金を調達する市場が不安定な状態のまま、金融システム全体の安定は絶対にもたらされない。わたしは、これだけは、自信持って言えるね。

銀行の株価が高くなったなんぞは、いわゆる「金融システムの安定」とは、ハッキリ言って無関係である。どんなに株価が高くなったって、調達できなかったら、その金融機関は早かれ遅かれふたたび危機に瀕する。

ちまたで言われる「金融システムの安定」がいかに「不安定」かを示す一例が、先週、アメリカン・エクスプレス社が発行すると発表した新発シニア債(期間5年、20億ドル)につけられたスプレッド。プライシングトーク※の段階だったが、ワケわからんプライシングになっていた。

※プライシングトーク(Pricing Talk)とは、市場参加者(主として機関投資家と金融機関のトレーダー)の間でおおまかなプライシングのレンジが語られ合うこと。証券のプライス形成の過程として不可欠であり、それが最終的な発行価格へとつながってゆく。トレーダーはプライシングトークで語られるレンジをひとつの目安にして、発行直後の15分程度で激しく行われるトレードのストラテジーを考えたりもする。

筆者が読んだ情報では、アメリカン・エクスプレスの5年債はトレジャリーをベンチマークとして、T+425、5月に発行された同条件の5年シニア債のプライス(T+580前後)と比較すると、かなりタイトで好条件に思えるが、その5月発行5年債の前週のプライスクォートはT+325だったそうなんで、今回のオファーでは100bpsワイド。

企業債市場に土地勘のないひとにはちとわかりずらい話で恐縮だが、要は、Amexみたいな巨大な金融機関の主力調達手段である長期シニア債券が、あっちに100bpsだの、こっちに150bpsだの、と、アチャコチャ大幅なブレをともなうプライシングレンジで取引されている、ということ自体、金融機関の調達市場はまだまだ安定感を欠いていると筆者の目には映る、ということを言いたいのである。

   ★   ★   ★

こちら米国の金融ブログ『Zero Hedge』が22日付けの記事のひとつに、先週のS&P500のラリーについて、興味深いことを書いていた。

米株市場のトレーディング・ボリューム(出来高)はここ2ヶ月ほど、全体では横ばいで推移しているが、その内訳を「金融株」と「非金融株」のふたつのグループに分けてみると、金融株だけがボリューム増になっている、という話。

金融株の中でも、シティ、AIG、CIT、ファニー、フレディ、の5社の取引が異常に活発になっており、金曜日(21日)の取引では、この5銘柄だけで、取引全体の3分の一を占めた、というんである。

(以下のグラフはZero Hedgeより)

*SPYのトレーディング・ボリュームは、じわじわと下降ぎみ(↓)。



*しかし、C、AIG、CIT、FNM、FREの5銘柄の取引は、ここ数ヶ月で異様な活発さ(↓)。



*AIGなどは、発行株式数全部が、きわめて狭いプライスレンジ内で、金曜日の一日で、グルリと一巡取引されたらしい。



この記事の書き手は、金曜日に取引されたこの5銘柄の合計は20億株だったが、NYSEの一日のボリューム平均が約60億株、米株市場全体の一日の平均出来高は100億株であることを踏まえると、たった5銘柄でNYSEの平均出来高の3分の1に相当した、というのである。

この5銘柄のうち4社は「実質国有化」された会社ばかり。それが、こうして、膨大な取引の対象になっている。

見方次第では、「国有化 = 普通株主厚遇への期待」を意味するというスペキュレーションが働いている、ともいえる。こういうの、モラルハザード、って言うんですけどね。

ファンダメンタルズを伴わないスペキュレーション取引がドミナントって、市場としては不健康だと、わたしには思えるのですが。

でも、そんなことばっか言ってたら、また上昇のタイミング逃すかもしれんし・・・悩ましい。



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Friday, August 21, 2009

(いまさら)個人消費

おかげさまで夏風邪からは全快しましたが、両親が8月いっぱい日本からアメリカに遊びに来ており、なかなか腰が落ち着かず、ブログ更新がとどこおっております。海外旅行を楽しみにしている親のため、数年に一度のささやかな親孝行ですので、ブログをサボリ気味なのは、どうかお許しを。

   ★   ★   ★

さて、7月24日に始まった、Cash for Clunkers Program が、ちょうど1ヵ月後の8月24日で終了の運びになったという。

Clunkers とはポンコツの意味、つまり、あなたがポンコツ車を燃費の良い新車に買い換えたら最高4500ドルまで政府が現金あげますよ、というオバマ政権の【消費刺激策】である。

家の敷地のせまい日本では想像するのが難しいかもしれないが、アメリカではちょっと田舎にいけば、自宅の庭裏に使われなくなったボロボロのポンコツ車の2台や3台が停まってるのはごく普通。

「ゴミなら処分しろよ」とも思うが、敷地が広いからそのまま停めておいて、ポンコツ車の周りに雑草が生えるままにしてあるような家も、しょっちゅう見かける。


裏庭に停めてるだけなら構わないが、本当に、こういう車が高速走ってるのにも出くわすこと、あり。

こういうポンコツ車をディーラーに持っていって新車に買い換えると政府が最高45万円相当のリベートくれるというのですから、プログラム開始当初は大人気、開始直後5日間で政府の当初予算の10億ドル(1000億円)を使い果たした。

あっという間に予算がなくなってしまったため、ポピュリスト(阿呆)民主党政治家どもが中心になって、「んじゃ、もっと現金用意しましょか」と、さらに20億ドル予算追加を即決承認した。

枯れ木に花を咲かせましょうとばかりの、【花咲じじい状態】である。

ま、GMはいまや「国営企業」ですんで政府も大盤振る舞いしたくなるってのもわかりますが、このプログラムを利用して売れた人気小型車トップ10リストを見ると、トヨタカローラをトップに海外勢が圧倒的に多くランクインし、肝心のGMら米国勢が地味なのが、泣けるっちゃー泣ける。

しかし、それでも、GMの7月の売り上げは跳ね上り、削減するにいいだけ削減した在庫がこのペースじゃ間に合わないってんで、一時解雇していた従業員を1300人呼び戻して再雇用、現雇用者にもオーバータイムをガンガン付けてあげて、今年度予定より6万台多く生産すると久しぶりに息巻いていた。

それが、一昨日(19日)のニュース

   ★   ★   ★

ところが、昨日20日には、政府のほうから、プログラムは今月24日で終了というアナウンスメントがあり、自動車関連株は即座に下落。

政府によると、このプログラムによる新車購入はこれまで45万7千台、ディーラー経由のリベート請求は総額19億ドルに達したそう。政府側は30億ドルの予算を完全に使い果たす前に締め切ることにしたそうだが、政府が大成功だったと宣伝しているその陰で、開始直後のフィーバーは長続きせず、8月に入ってからは申し込み数が30%ダウンで日を追うごとに下降一直線、さらには、ディーラー達が「やってられっかよ」とプログラムから離れて行ったという裏事情がある。

さすが【お役所仕事】とでもいいましょうか、鳴り物入りのプログラムのくせに、現場のディーラー達には待てど暮らせどリベートチェックが政府から届かず、自動車メーカーとディーラーとの間で大騒ぎになってるんである。プログラム開始から一月近くたつというのに、政府側がトロトロやってるせいで、まだ請求分の4%しか処理されていないそうで、これまで積み上がったリベート総額19億ドルの96%はディーラーが自腹切って立て替えてる、という格好である。

そのために、ディーラーの中には政府プログラムに参加したばっかりに運転資金不足の危機にみまわれるところも出てきて、こんなアホらしいプログラムに参加するの、もうやだッ!と辞退するディーラーが続出。筆者の住むニューヨークだけでもディーラーの半分以上がそっぽ向いたらしい。

ディーラーが車売ってくれなくちゃどうしようもないため、困惑した自動車メーカー各社は、政府から支払いが届くまでのあいだ、自分たちの金融会社につなぎ融資させることにして、トヨタなども、金融子会社トヨタファイナンスが最高60日までディーラー達におカネ貸してあげることにして、「すねたりしないで新車売ってね、ねっ!ねっ!」とご機嫌取りに大わらわだそうである。

   ★   ★   ★

しかし、聞けば聞くほど、まぬけなプログラムであるな。

交通省では書類処理のためにスタッフを3倍に急遽増やして対処しようとしてるそうで、リベート遅延の問題は時間が解決するだろうけど、もっと根本的なクエスチョンは、

この景気刺激策が、本当に政府が目論んだとおり、【刺激】になるのか

というところじゃないでしょうか。

そもそものところで、政府によるこの手の『花咲じじいプロジェクト』が、これまで、長期的な経済効果をもたらして花咲かせたことが、過去にあるのか?

日本の定額給付金、あれなんかも、「カネやるから、使え」というコンセプトとしては似たようなもんですよね。あれって、日本では効果ありと考えられてるのでしょうか?

アメリカの「花咲じじいプロジェクト」で記憶に新しいところでは、2008年春、当時のブッシュ政権が、各家庭にタックスリベートと称してカネをばらまき、消費しろー!と大号令かけたことがあった。

あのブッシュ策が、米国民の可処分所得に与えた影響をグラフで見てみると・・・

(青=個人所得、赤=可処分所得:グラフはEconomPicDataより)




グラフ中、2008年にびょ~~~んと跳ね上ってる部分が、昨年のブッシュ花咲じじいプログラムの結果である。

一時的に跳ね上って、おしまい。

どんなに「使えー!消費しろー!」と号令かけられても、失業して給料でなけりゃどうしようもなし。しかも、昨今、金融機関はクレジットカードなどの消費者向けローンの貸し出し基準の厳格化を進めており、頼みの綱だったホームエクイティローンは死に体、これでどうやって消費者にカネ使い続けろ、といえるのか。

ブッシュ政権の短命バラマキ策の末路をみてたはずだが、それでも懲りずにポンコツ車一台あたり45万円バラマキで「消費しろー!」と叫ぶ現政権。

現状の消費不振が「カネはあるけど心理的に萎縮していて、貯めるばかりで使えない」というならともかくも、使いたくてもカネはなしが現実で、【(消費を)刺激】もへったくれもないということぐらい、幼稚園児でもわかると思うんですけどね。

筆者もお金使うのは大好きなので、政府がカネくれるというなら断りはしないよ。どんどんお金ください。

でも、そんな場当たり的バラマキをどんなにやったって、マクロ経済として、マルティプライアーがどれだけかかるというのか。

   ★   ★   ★

「いまさら」であるが、先々週出された7月の米個人消費の統計内訳をみると、7月最終週のCash for Clunkersのかいあって、自動車関連の消費は大幅増。

しかし、消費全体では、0.7%増の市場予想に対し、0.1%マイナスだった。



米国民、車を買った分、他の物はいつも以上に我慢して、キューッと財布の紐を引き締めました、の図。

政府が起爆剤として目論んでたみたいに、新車買ったら、自分の中でなにかが吹っ切れ、「そうだ、もっとお金使おう!」という気持ちに・・・なるわけないだろ、っつの。

なのに、現政権のバラマキモードは、引き続き全開である。

なかなかエンジンがかかってくれない住宅販売に業を煮やしたのか知らんが、なんと今度は、

「家は無理して買わなくてもええ、政府が賃貸住宅を用意してあげますから、そこに住んでね」

と、40億ドル超の補助金を政府から出して、低所得者向けの賃貸用住宅の建設にとりかかるんだそうである。(関連記事はこちら。)

あのぉ・・・住宅在庫、だぶついてるんですけど・・・。

フォークロージャ物件を買い上げて低所得住宅にリフォーム、ってのも視野にはいちおう入ってるみたいだが、基本は、「新築の賃貸住宅に住めるように政府がカネだしてあげましょう」という話のようである。

「新車」の次は、「家賃」に補助金ですかい?オバマ、口を開けば、補助金の嵐。

家を追われたホームレス家族が増えてるから、社会的な側面からは意味あるかもしれないけれど、それやって経済効果はどれだけ期待できるというのか。

自分が米政府にせっせと払ってる税金が自分には直接恩恵のないことにばかりバラ撒かれてるようで、現政権と民主党議会に対し、不愉快度が増している。



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Tuesday, August 11, 2009

(いまさら)雇用統計

前回のMHJ記事エントリーから、すでに丸2週間が経ってしまった・・・。

3年ぶりに実家から家族がアメリカに夏休みで遊びにきたりしてるところに、ひどい夏風邪をひいてぶっ倒れ、ブログ更新ができませんでした。

今年の夏風邪はひどい。微熱がなかなか取れなくて、だるい感じがもう1週間も続いている。

先週だされた雇用統計、「いまさら」感が強いが、自分が何を考えてたのかの記録のためにも、書き残しておくことにする。

(グラフはすべてEconomPicData より。)

   ★   ★   ★

8月7日(金曜日)にDepartment of Labor(米労働省)から発表された7月の雇用統計のリリースを読んだ。

非農業部門月間雇用者数の増減については、昨年11月から今年4月までの月平均(マイナス64万5千人)に対し、7月はマイナス33万1千人と約半減。失業率も前月の9.5%から9.4%に!

この「9.5% → 9.4%に低下」という部分ばっかメディアでは報道されてましたけれどさ。

このリリースの1ページ目まではよかったんだが、2ページ目に移ると、ちょっとイヤな詳細情報が満載ではないか。

【イヤな情報その1】長期に渡り失業し続けてるひとの数、増える。3人に1人の割合で半年以上失業状態。

下のグラフみると、27週以上継続して失業しているひとの数だけ伸びてるんですよね。失業してもすぐ次の仕事みつかったひとはいいけど、だらだら半年以上仕事しないでいると、仕事がなかなか見つからないのであろうか。

ということは、MHJ筆者も結構だらだらしてるから、この先永遠に職場復帰はあきらめろ、ってことだろうか・・・。(あ・・・また熱出てきた。笑)




【イヤな情報その2】民間人の労働市場参加率が低下。人口に対する労働人口の割合も減る。

つまり、「俺は働くぜ!」とみずから進んで積極的に仕事探してるひとが減ってる、ってことである。

案外知られていないのだが、この手の統計では、定義上、積極的に仕事を探さないようなひとは失業率のレシオ計算には最初から分母にも分子にもカウントされないんである。

「失業率」というのは、労働省が(統計処理に必要とされる数のみ)各家庭に直接調査を行って失業してるか否かを尋ね、失業してます、と答えると失業率の【分子】となる。

一方、【分母】のほうは、Labor Force(=労働力)。Labor Forceの定義は、「就業に適した年齢で、かつ、仕事をやる気満々のひと」である。

仕事さえあれば今すぐ仕事に就くことができる状態で過去4週間積極的に仕事探しを行ったひとは、Labor Force の一員に加えてもらえるが、最初から仕事に就く気のないひとや、4週間以上職も探さずブラブラ遊んでたひとは Labor Force に入れてもらえない、そういう統計なんである。(よく考えてみれば、実にイイカゲンなレシオであるな。)

だから、失業率が低下してるといわれたら、単に分子だけじゃなくて、分母はどうよ、ってのも抑えておきたい。

で、今回の統計をみてみると、たしかに分子はちょっとよくなってますよ。

だけど、「(定義上)Labor Force から出て行ったひと」も増えてるわけ。

下のグラフは6月と7月のLabor Forceの増減率の比較であるが、「労働市場から出て行ったひと」はとくに20歳以上男子で目だって増えた。



人口全体に対する雇用数の割合はというと・・・過去25年で最低。「雇用市場そのものが縮小している」の図。



25年よりもっと長いスパンでみると、人口全体に対する雇用人口の割合は現在が最低なわけではない。



(だが、現在と比べると、60年代70年代は女性の社会進出がまだまだで、労働市場には構造変化があった。)

一週間の労働時間を雇用人口率に乗じて調整し、アメリカ人がどれほど就業に時間を費やしているかを示したグラフが、下。



結論:アメリカ人労働者は、過去40年で、いま、もっとも、働いてない。


【イヤな情報その3】パートタイムが増える夏場に、パートタイムの数は、季節調整前、前月比で横ばい。

このパートタイム労働者は involuntary part-time workers (経済的理由からパートタイムに就いてるひと)とも呼ばれる。要は、仕方ないんでパートで働いてるひとたち、である。

リリースによると、リーマンショック直後の去年の秋と冬は、パートタイムの数は急増したが、その後4ヶ月は連続で減りもせず増えもせず横ばい、だそうである。

春はともかく、夏も横ばい。

パートタイムが増えてないのは、パートの仕事口すらもないから、なんじゃないのか?

失業率は確かに0.1%【改善】したが、これを【改善】とよべるものだろうか。

ポール・クルッグマン教授が自己のブログで、今回の失業率【改善】のニュースについて、こう書いている。

The basic story is that things are sort of stabilizing — but they’re definitely not improving yet.

基本的に、(労働市場については)事態は【安定】してきたと言うことはできても、【改善】しているとは言えない。


まったく、そのとおり、と思う。

みなさんも、夏風邪にお気をつけください。



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