民間テレビのこういう場に連銀議長が独占インタビューで出てくるのは極めて珍しい。
この話題のインタビューは、全編ここで見ることができます。
http://bubblemeter.blogspot.com/2009/03/ben-bernanke-on-60-minutes.html
このインタビューで、バーナンキ議長は「金融システムの正常化が進めば、2010年には米国はリセッションから抜け出ることができる」と、以前から述べている内容を繰り返した。
また、世間では政府による銀行救済への批判が高まっていることについて問われると、議長は、「隣家が火事のときに、消防車を呼ばずに、そのまま燃やしておけばいいと放っておくと、いつしか火の手は隣家に及び、被害はさらに大きくなる」というアナロジーを用い、大手金融機関救済はシステミックリスク顕現化を防ぐためには不可欠であることを強く主張。
3月11日のここのブログ記事で紹介したように、議長はあらためて、しかし今度は万人が観ているマスメディア上で、【Too Big To Fail(大きすぎて潰せない)】を認めた。
バーナンキの発言を日々追いかけている者たちには既に聞いた話ばかりかもしれないが、『60ミニッツ』のように米国人のお茶の間でも高い人気を誇る一般向けのテレビ番組に出演して、ここまでハッキリと【Too Big To Fail】を正当化する連銀議長は、過去にいなかったのではなかろうか。
【Too Big To Fail】というコンセプト自体モラルハザードという裏側の顔を持っているものだし、なにより、アメリカの自由市場主義とは最初から相容れない考え方ですからね。
バーナンキは「隣家の火事はまだ続いている。政府当局は今、火消しにやっきになっている。火を起こした犯人の処罰は火を消してから考えればよい。いまは火消しが最優先だ。」と述べた。
そうだ!そのとおりだ、議長!!(拍手)
WSJによるエコノミスト調査では、議長の成績は71点だったが、筆者は85点ぐらいあげてもいいと思うな。
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こうやって、連銀議長みずから、わざわざマスメディアにまで登場して、【世間の理解】を仰ごうと頑張ってるっつーのにだな、
AIGのアホンダラ
いまだに、そこのところが、ぜんぜん飲み込めていないようである。
政府から1780億ドルも公的資金入れてもらって、いまや80%政府保有になっているAIG、納税者の皆様のお金を受け取った「後」に、エグゼクティブクラスの従業員400名にボーナスとして$480ミリオン支払ったというのがバレて、またまた大騒ぎである。
今日はオバマ大統領までカンカンになって出てきて、絶対にボーナスは払わせるなとガイトナーに指示した、と表明。
ところが、AIG幹部は「でもぉ・・・先週の金曜日に、もう、みんなに支払っちゃった・・・・」とボケたこと言ってるんである。
筆者も、かつての古巣ウォール街には知り合いも多いことだし、ボーナスがないと生活できないファミリーを沢山知ってるんで、「ウォール街のボーナス体系については、巷では誤解されてるところある云々」と、それなりに擁護するようなことをここに書いたりもしたが、今回のAIGのボーナス騒ぎには、さすがに呆れ、AIGよ、調子こくのもええかげんにせぇ!と大声で叫びたくなったね。
かつてウォール街で「当たり前」とされてたロジックは、もはや通用しないんだってことが、どうしてこの期に及んでもわからんかな。AIG、つくづく、空気が読めない会社・・・。
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おっと、おもわず、AIGの件で脱線してしまった。
また、話題をバーナンキに戻す。
バーナンキは、現在金融システムの安定と景気回復への道を阻む最大のリスクは
Political Will
であると述べた。
“The biggest risk is that, you know, we don’t have the political will.(中略)Recovery is not going to happen until the financial markets and the banks are stabilized.”
『最大のリスクは、ご承知のように、今の政界にポリティカルウィル(政治的意思)がないことだ。フィナンシャル市場と金融機関が安定するまでは景気回復は起こらない。」
経済音痴マケインを筆頭に、問題の本質論なんぞはそっちのけで、マスコミに踊らされやすい世論のいちいちにポピュリスト的立場をとることで見せかけの正義を振りかざし、しかしその実、つまるところは「共和vs民主」といったポリティカルゲームに明け暮れるしか能がない政治家連中に、またもや牽制を送ったのだ。
しかし、筆者は、昨夜のバーナンキのこの発言を聞いたとたん、急に10年前にタイムスリップした。
これとまったく同じ言葉を、10年以上前に、どこかで確かに耳にした。
どこで誰が言ったのだろうと、手持ちの古い資料をひっくり返してみたら、あった。
1998年4月、ワシントンDCで開かれた某シンポジウムの席で、バブル崩壊後の泥沼から抜け出せなくなっていた当時の日本を、このフレーズを使って批判した米国の当局関係者がいたのだ。
1980年代のS&L危機当時、FDIC米預金保険機構のチェアマンとして、破綻銀行の処理を実際に手がけたウィリアム・サイドマン(William Seidman)である。
サイドマン氏の言葉は、こうだった。
“There is no political will to do any of the tough things that we were required to do.(中略) Eventually they will have to do something if they want their economy to recover."
『(日本では何故いつまで経っても金融システムが安定せず景気回復が起こらないか、その理由は)米国が危機当時やらざるを得なかった厳しい取り組みのどれでもいいから行おうという政治的意思が、日本には欠如しているからだ。経済復興をめざしたいというのなら、日本も、どこかの時点で何かをやるねばならないだろう。』
1998年4月の段階で、日本政府が何もしてなかったかというと、実はそんなことはなくて、当時の日本政府は、住専問題以来の政治的タブーを押し切り、1兆8千億円もの公的資金を銀行に資本注入してやったばかり、だったんである。
当時の日本では、どうして国民の血税をそんなことに使わなくちゃいけないんだという不満や、銀行なんて潰してしまえという世論の大合唱だったんだけど、97年に北海道拓殖銀行をちょっと試しに潰してみたら、システミックリスクが噴出してとんでもないことになっちまい、政府も世論に迎合するのはあきらめ、あわてて銀行救済に乗り出した。日本の1998年の春というのは、そういう頃だったんである。そして同年秋には長銀・日債銀のふたつが「国有化」。
それでも日本は「政治的意思がない」と批判された。第一ラウンドの資本注入だけじゃ足りないと言われ、そして、実際、後日足りなくなった。
これまでの米国の金融危機で起こっていることを見ると、当時の日本の流れと、いちいち、そっくりだな。歴史は繰り返す。アメリカも、きっと、公的資金はもっともっと、必要になるな。
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今日のニューヨーク市場は、「英国の大手銀行バークレイズ、2009年の業績は滑り出し好調」というニュースが入って、朝から米金融株は盛り上がっていた。
2009年の業績は滑り出し好調―。
先週シティが同じことをいい、それに続いて、JPモルガンも、バンカメもみーんな同じことを言い、金融株は上げ続けた。
ところが、午後になって、アメリカンエクスプレス社が、2月のクレジットカード延滞が増加傾向と述べたことで、午前の浮かれムードから、一気に現実に引き戻されて、金融株に引きずられる形でダウは後場に急降下。
「政治的意思が欠如してる」と言われた日本も、上記の1兆8千億円の公的資金注入直後は、株式市場は浮かれ気分になっちゃって、銀行株が牽引になって日経平均は上がったんだよね。でも、まもなく、銀行の不良資産から出てくる損失が止まらないという【現実に引き戻されて】、またもや、株価は落ち続け・・・。
バーナンキは昨夜のインタビューで「火はまだ燃えている」と言ったんだ。
金融機関が抱えているToxic Assetsの処理は、まだ始まってもいない。
浮かれるのは、まだ、ちと、早いよ。
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