Monday, December 28, 2009

GSEsへの政府支援拡大について

クリスマスホリデー突入前の22日、ガイトナー財務長官は公共ラジオ放送National Public Radio(NPR)の番組に出演し、2009年を振り返った。

今年は「米国が第2の恐慌に陥るリスクに直面して始まり、回復への道を歩み出して終える年」(“This is a year that began with America facing the risk of a second Great Depression, but is ending with America on the road to recovery.”)だったとガイトナーは言い、米政府の様々な施策が功を奏し2010年に入っても経済回復は継続される見通しだと述べた。

「第2の金融危機はもう来ない」と言い切るガイトナーに、ラジオの司会者は「どうして、そこまで言い切れるのか」と食い下がった。それへの長官の答えは、スポ根的精神論。

When you have the will to act, we have substantial ability to prevent that, and we'll do what's necessary.

対処しようという意志さえあれば、それを阻止する多大な能力を我々は持っており、必要な手段に打って出る。

一心、岩をも通す。(財務長官が『史記』の愛読者だったとは・・・。笑)

ま、この場合の「will(意志)」というのは「Political Will」を指すのであろうけれど。

(Political Willの欠如については3月16日付MHJ記事『Political Willの欠如が最大のリスク』を参照。)

筆者からみると、今年は政界もジャーナリズムも(それに煽られる世間も)「ウォール街=邪悪」という図式に終始した年だとも思うし、その怒りの矛先として、ウォール街インサイダー出身であるガイトナーに非難が集中した、そういう年にも思う。

このNPRのインタビューでも、せっかく財務長官をゲストに迎えながら、金融システムの健全性やグローバル経済の現状などの重要な話題にはあまり触れず、どうでもいい下世話なトピックにやたら時間を割いていた。たとえば、こんなくだり。

What do you say to people who feel that you're too close to too many of these bankers. You often lunch with them. You socialize with them. There are - reporters have looked at your phone records and seen that they're the first calls you make in the morning and the last call you make in the evening and sometimes calls are made directly before important meetings or important decisions are made regarding their future. What do you say to that - is that appropriate?

あなたがウォール街のバンカー達と親しすぎると感じている人たちには何と言いますか?あなたは彼らとしょっちゅう昼食を一緒にとったりしているし、レポーターはあなたの通話記録を調べて、あなたが朝一番にかける電話も一日の終わりにかける電話もウォール街のバンカー達で、重要な会議の直前や、彼らの将来に関わる重要な決定がなされる前にも彼らに電話を入れていると言っている。それは(財務長官として)適切であると?

ランチ・・・通話記録・・・

NPRの一般視聴者の興味のあるところとはいえ、戦後最悪の金融危機をくぐり抜けた2009年という重要な一年の終わりにですよ、米国の財務長官が答えなくちゃならない質問が、これかよ?

いつからNational Public Radioは「徹子の部屋」になったのか。

経済であれ、外交であれ、軍事であれ、米政府が直面しているありとあらゆる問題には必ず「中国」が顔を出した2009年。来年はその脅威はさらに強まと予想される、そんな瀬戸際に来ているときに。米国債大量発行で金利上昇したらどうなるんだとみんなドキドキ始めてる、そういうときに、「電話かけてたでしょ」って、あんた・・・。

トランスクリプトのこの部分を読んだとき、筆者の脳裏に、あの名曲がBGMで流れたことは言うまでもない。




   ★   ★   ★

ガイトナーは、Newsweek誌の年末インタビューにも登場した。こちらのインタビューは、NPRよりマシな内容で、多分、日本版のニューズウィーク誌に掲載されてるんじゃないかと思うので本文はそちらで読んでもらうとして、ガイトナーはその中で、こんなことを言っている。

GROSS: There are other costs associated with these efforts, like the weak dollar and the Fed's large balance sheet. Shouldn't we be worried about them?

GEITHNER: I don't see that with the dollar. When fear was most acute, people wanted to be in Treasuries and hold dollars. Even today, when you have moments of darkness, people want dollars. The Fed's balance sheet is larger because it understandably decided to run a monetary policy to break the recession. But there are other costs not captured by what we've discussed. The government will bear losses in AIG, the automobile companies, and in Fannie and Freddie. But the losses there will probably be lower than what people think, too.

(インタビュアー)金融市場を下支えする施策には他のコストも伴いましたね。例えばドル安が進行したとか、連銀のバランスシートが膨れ上がったとか、これらについては不安はないのですか?

(ガイトナー)私はドルについては心配していない。不安が急激に高まったとき人々は米国債に投資して米ドルを持ちたがった。連銀のバランスシートが膨張した件についても、リセッションを阻止するために必要な金融政策を決断したのだから、そうなるのも無理はない。だが、ここでまだ話題に出てきていない別のコストがありますね。政府は、AIG、自動車会社、ファニーとフレディから出てくる損失は取らざるを得ないでしょう。でも、その損失額はまわりで考えられている金額よりはおそらく低い額で済むと思います。

   ★   ★   ★

「損失額はまわりが考えてるより低い額になる。」

このインタビューがNewsweekのサイトにポストされたのが21日。この発言の舌の根も乾いていない数日後(正確には、クリスマスイブの24日午後3時)、財務省は、ファニーとフレディに対し、政府による救済措置の上限それぞれ2000億ドルを向こう3年撤廃し、2010年から開始されるはずだった両社のバランスシート縮小プランも当初予定より先延ばしすることにする、と発表した。

財務省発表のプレスリリースはこちら

ファニーとフレディを監督している政府関係者が「今の救済措置じゃ足らないと財務省に泣きついて交渉しているらしい」という話は、今月半ばにブルームバーグなどですでに報道されてたので、今回の財務省の発表自体は、トータルサプライズというわけでもなかった。2社の抱える住宅融資のポートフォリオから損失発生が止まらないというのも、よく知られた話であったしね。

とはいえ、筆者にとってサプライズだったのは、「上限まるごと撤廃しちゃった」という部分ね。向こう3年リミットなしでサポートします、ってんだから、ギョッとするでしょ。「救済資金=No Limit」みたいなことって、財務省の一存で決められるもんなんですね、知らなかったけど。

本題に入る前にまずは、ファニー(FNM)とフレディ(FRE)救済資金についてのFACTSをいくつか整理しておきたい。

*2008年9月、両社に対する救済措置が取られた。措置の見返りに政府は8割株主となるワラントを受理。

*当初救済措置は3本立て:(a)「自己資本強化」が目的の、Preferred Stock Purchase Agreements (PSPAs)=資本注入する、(b)「MBS市場円滑化」が目的の、MBS Purchase Program=財務省が新発MBSを買う、(c)「短期流動性サポート」が目的の、GSE Credit Facility。

*このうち、(b)と(c)は今年12月末日で予定通り終了。(b)については財務省のエージェンシー債買取実績は総額2200億ドル。(c)は未使用のままクローズされる。

*今回変更対象となった(a)については、アグリーメント締結当初はそれぞれ1000億ドルを上限にしていたが、2009年5月に枠は倍の2000億ドルに増額され、2社合わせて救済資金枠は4000億ドルになっていた。

*今回出された変更箇所は、(1)4000億ドルの上限がかかっていたのを、「向こう3年間累積される損失により資本減少が起こった際は対処するに必要ないかなる額も提供する(to increase as necessary to accommodate any cumulative reduction in net worth over the next three years)」という文言に変更し上限撤廃。

*(2)さらに、両社が保有するモルゲージ資産額の段階的減少プランについても柔軟性を持たせ、2009年末時点の残高から一定率(毎年10%)で減少させてゆくという予定だったのを、保留額上限(それぞれ9000億ドル)を超えないようにするという文言に変更。←これは、削減目標値達成のためだけに「両社が資産売却に走らなくてもよいようにする」のが狙いである。

以下に、具体的な数字をいくつか。

*発生した信用コスト:2Q07から3Q09までの9四半期累損で、2社合算で$188.4bn。(←資本基盤が毀損しPSPAsから注入仰いだ。)

*PSPAsに基く資本注入額:FNM=$60bn、FRE=$51bn、合計$111bn。

*保留モルゲージ資産額:FNM=$771.5bn(10月現在)、FRE=$761.8bn(11月現在)。(ともに上限は$900bn以下。つまり、新ルール下では資産拡大余地あり。)

*政府と連銀のエージェンシー債買取額:2社合算で、財務省=$220bn、連銀=$1.1tn。

*資金調達に関わる政府援助:調達として新規発行された債券の連銀による買取=$124.1bn。(これは連銀のMBS買取プログラムとは異なります。)

昨日のBusiness Weekの記事によると、米国の個人向け住宅モルゲージ債務は$11.8tn規模、うち$5.5tnがFNM/FREのいずれかに保有されているか保証を受けている、という。また、今年オリジネートされた新規モルゲージの75%はFNM/FREのファイナンスを受けたという。

GSEとその問題については、Murray Hill Journal 9月30日付の記事『自作自演の市場回復の果てはブラックホールの恐怖』で取り上げたので、Primerとして参照してください。

覚えておられる方もいると思うが、FNMとFREのほかにFHAってのもいるんだよね。FHAが新規にオリジネートされたモルゲージローンの20%に保険かけてやってたわけだから、FNM+FREで75%、これにFHA=20%加わって、今年は新規住宅融資の95%が「政府の息がかかってた」というわけ。

このMHJ記事で紹介したフレディの会長の言葉を借りると「政府系のGSEがなければ米国のモルゲージ市場は存在してない」。

   ★   ★   ★

それほど重要な役割を果たすGSEゆえ、この局面で「バランスシートに債務超過(Negative Net Worth)が表面化し、事業継続不可のため清算への道・・・」なーんてことになったら大事(おおごと)なんである。

ってか、そんなシナリオは、最初から存在“すら”していない、とでもいおうか。

ということで、必要とあらば支援拡大はなされる、と大筋が期待していたわけだが、上限完全撤廃するとはなぁ・・・。

財務省によるこの動きのインプリケーション(示唆するところ)としては、

1) FREやFNMの財務状況が、いよいよ大幅な債務超過が表面化しそうなところまで迫ってる。

2) 政府が、FREとFNMをビークルとして利用して、モルゲージ市場テコ入れの一段の政策拡大(しかも大規模)を目論んでいる。

3) 財務省は米国債イールドの上昇に伴う住宅ローン金利の急上昇を予想している。

まずは、1.の財務の現状としてFREの3Q09決算数値を実際に見てみた。

          (続く)



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Monday, December 21, 2009

米国債発行上限問題は来年も蒸し返し確実

米国債発行法的上限を今年中に上限引き上げておかないとヤバイという話が秋ごろから出てきていたというのは、9月12日付けMurray Hill Journalでお伝えしていましたが、いよいよ年の瀬も迫り、ギリギリまで伸ばされていたこの問題も、先週(12月17日)下院が上限引き上げにOK出して、ひとまず乗り切りそうである。

ただし、当初は2兆ドル引き上げの予定だったわけだが、先週下院を通過した額は(たったの)2900億ドル

House approves $290 billion increase of debt ceiling
(AP, 12-17-2009)

記事中にもあるように、民主党側は来年の中間選挙前に上限引き上げの採決を議会に再び持ち込むのは得策ではないと考え、できれば、今年中に一気に2兆ドル引き上げて余裕を持たせておきたいところだった。

しかし、これも前述のMHJ記事に書いたとおり、夏の終わりから共和サイドは保守勢力を中心に反オバマ色を強めていて、共和サイドの反発は必至だったし、さらには、民主党内でも財政赤字膨張に対する警戒モードが点滅し始めており、民主リベラル組も、当初の2兆ドルという目標は現実問題として無理、と悟ったようだ。

2兆ドルどころか、2900億ドルの引き上げ額ですら、今回の下院での投票数は、賛成218/反対214 という、ギリギリの綱渡り状態。

とはいえ、議会がダメって言うから米国債はもう発行できせませーん、などとは、口が裂けてもいえないのは、共和党とて事情は同じ。

ということで、共和側も、ひとまず、12月末まで足りない分だけでもなんとか、ってやつである。民主リベラルを政治的に料理するのは、中間選挙のあたりでジックリやりまひょか、ってね。

しかしね・・・

こうやって、米議会の連中が民主だ共和だと分かれてポリティカルゲームにいそしむばかりで、「国家財政、マジ大丈夫っすか?」という本質論の方は、わかったようなわからんような話ばっかやってて、期限が来るたびに、大昔の加藤茶みたいに「ちょっとだけよ・・・」とやってるうちに、あっという間に2兆ドルなんて行ってしまうんである。

国の税収増えなきゃ借金するっきゃないんだからな。失業率10%なんて言ってる国で、目先、どうやって税収増やすのさ?あるいは政府プログラム、削減しますか?

あれっ、目下最大の焦点「ヘルスケア改革法案」が最終的に通ったら、向こう10年間で8900億ドルの財政支出が追加で必要になるって先日言ってませんでしたっけ?

このヘルスケア改革だって、通ったからとて、筆者個人には、ほとんど何もアップサイドないよ。

新システムで保険会社対象に増税するそうだけど、保険会社たちは今から、増税されたらその分は個人のプレミアムに転嫁して徴収するって言ってるんだもん。それでなくても毎月高いプレミアム払わされてるのに月々の保険料はいま以上に高くなり、しかも個人の課税所得から税控除してくれるという話は聞こえてきてないんだから、保険会社の税金もプレミアムの形で肩代わりしてあげて、自分で払うプレミアムにも税金かけられ、【健康であるがゆえ】にダブル課税されるようなもんである。(←わたしの理解が間違っていたら、教えてください。)あれだけ鳴り物入りだった法案審議が、結局はこれだもんな。アホらしいを通り越して、脱力感すら漂っている。

アメリカ合衆国、【増税】へ向かって、まっしぐら。

一納税者としては、暗くもなるじゃーありませんか・・・。

(下画像はTime より)



   ★   ★   ★

政府の債務といえば、今年の3月に、モルガンスタンレーが、米国の債務全体のGDP対比のグラフ(Debt-to-GDP)を出して話題になってたのを思い出し、探してきた。

このグラフね。



このグラフを見ると、1933年当時は企業部門が抱える債務が全体の51%と圧倒的に大きかったが、2008年では個人部門の債務が全体の27%を占めて、ハッキリした違いが見て取れる。1934以降1944年ぐらいまでは、企業のデレバレッジ(deleveraging=債務を減少させること)が急速に進み、一方で政府の債務が割合として増加して調整が進んだ。

現在は、銀行による企業向け貸しが減少し続けているのと、個人向けもモルゲージ・消費者信用ともに縮小していて、コーポレートと個人の2部門はともに縮小している最中だが、その縮小をはるかに上回るペースで政府による借り入れが膨張しており(民間債務が公的債務に振り変わる格好)、国全体でみたときの債務の額は、依然として増加傾向にある。

(Debt-to-GDP Ratioの推移はここにもあり。)

政府と議会は銀行に圧力かけて、「もっと貸せ、もっと貸せ」とハッパかけているけれど、家計と企業の両部門では実際にデレバレッジが進行していて、資金需要自体が弱い。また上のグラフで長期トレンドの流れをみても、今、この局面で、プライベート部門が再び信用拡大に逆転するとは、ちと考えにくい、とMHJ筆者は感じるんである。

一方で、政府の債務は増え続ける。国債発行上限の引き上げも、今回で終わりにはならないと誰もが思っている。

この問題は来年も再び議会で蒸し返されるでしょう。だが、そのときには、オバマ政権はさらに強い逆風にさらされて、いま以上の足かせがかかるのでは、という予感がする。

   ★   ★   ★

ゴールドに強気なことで知られるMarc Faber(←このひとの長期の市場見解もかなり悲観的)の最近のインタビュー(by The Economic Times, 12-19-2009)を読んでたら、彼がこんなことを言っていた。

  • 米国の民間の債務は銀行貸出や消費者信用の縮小により減少している。
  • しかし国家の債務は民間減少分を上回るレベルで増加しており、財務全体は増えている。
  • 米国の(民間分も含めた)債務全体のGDPに対する比率(Debt-to-GDP)は375%。同比率は、1929年には186%だった。
  • ここに社会保障、公的保険などの隠れ債務、国有化されたファニーやフレディ関連債務も合わせると、米国全体が抱える債務はGDPの600%。

600%というのも、すごいね・・・。日本の場合は、同じ基準で測ったら、現時点でどれぐらいあるのだろうか。(日本も相当ひどい数字になりそうですよね。)

Faber氏の考えでは、この水準の債務は維持不可能(unsustainable)であり、向こう1年から3年の間に米国では国家財政悪化による長期金利上昇が顕在化して、米国債の金利払い負担はいずれ税収の35%から50%を占めるようになる。この状況から抜け出すためには、インフレに繋がるような景気刺激策が次々と出され、国民の生活は圧迫されるが、そこから国民の注意を逸らせるために米国は戦争により力を入れるようになり、どこかの時点で米国経済は崩壊し。。。

ウジウジ組のMHJ筆者ではあるが、その筆者ですらも、Faber氏の悲観論にはタジタジとなりましたわ。

それ故に、同氏はゴールドに対して非常に強気で、ゴールドの価格を支える要因として「世界の外貨準備は7兆ドル、うち70%がアジアの中央銀行に占められており、ゴールドの形で保有されているのは2%以下。そのため多くの中央銀行が、(ゴールド買いを進める)インドの準備銀行のモデルに従うと考えられるから。」

また氏は、2010年の投資アイディアとして、コモディティでは小麦と天然ガス、株式については、日本株への投資(!)を薦めている。

"I think as a contrarian, you really want the contrarian play. You should buy Japanese stocks and Japanese banks. This is the absolute contrarian play. Nobody is interested in Japan. All the funds have withdrawn money from Japan. They have given up on Japan and I guarantee you the economy would not do," Faber said "You can have an economy that does not do well but the companies do well. That is a big difference and I think the Japanese banks are very depressed".


「私はコントラリアンだから、コントラリアン・プレイを薦めたい。日本株、特に日本の銀行株を買うべきだ。これは究極のコントラリアン・プレイだ。今は誰も日本に興味を抱いていない。海外ファンドの多くが日本市場から資金を引き揚げた。日本は多くのファンドに見捨てられたし、経済も良くはならないこと請け合いだ。だが、経済そのものがダメでも、会社(の株価)は伸びることがある。そこが大きな違いだ。わたしは日本の銀行株は下がりすぎだと思う。」


・・・だそうです。

たしかにコントラリアンだよな。たとえば、UBSのストラテジストの2010年市場アウトルックは、思いっきり日本をアンダーウェイトにしてたし。

【究極のコントラリアン・プレイ】・・・実践するには、ちょっと怖い?(笑)

米国が抱える債務の重圧に極端なほどに悲観的になっている氏が、国債発行残高のみでGDP対比200%超える日本国の株市場(しかも日本国債の最大の買い手である日本の銀行群)に強気になれるという、そのロジックが、私にはいまひとつよくわからんのだけれど(苦笑)、ま、こういう意見もある、ってことで紹介してみました。



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Thursday, December 17, 2009

近頃ちまたで流行るもの「戦略的デフォルト」

支払おうとすれば支払えないことないけど、支払わないほうが経済的にお得と判断されるので、敢えて支払わないことを選択する。

これを【戦略的デフォルト(Strategic Default)】と呼ぶ。

11月24日にポストしたMHJ記事で、モルガンスタンレーが不動産投資部門でしこっていた「クレセント」という商業不動産デベロッパーの会社の担保物件の鍵を、融資したバークレイズにお渡しして借金から【Walk Away】した、という話を紹介しましたけど、覚えておいでか。

今日(17日)のブルームバーグ記事で、モルスタは、サンフランシスコにもつ10本のオフィスビルのうち5本のビルからも同様にWalk Awayする、と伝えられた。

Morgan Stanley to Give Up 5 San Francisco Towers Bought at Peak
(Bloomberg, 12/17/09)

同記事によると、モルスタ(MS)は2007年に、80億ドルの不動産投資を行った。今回Walk Awayする予定になっているプロパティというのは、MSが2007年5月にブラックストーングループから25億ドルで買収したオフィスビル10本のうち5本。

MSにそれらを売ったブラックストーンは、2007年初頭にシカゴの不動産王サム・ゼル(※)の会社Equity Office Propertiesを390億ドルで買収していた。不動産を買って数ヶ月後には売り払う・・・つまり、当時流行りの【フリップ(Flip)】やってたわけですね。

(※不動産王サム・ゼルについては、1月8日付MHJ記事にも登場。)

この大掛かりなトランスアクションでモルスタがどれほどプレミアム払ったのかは知らないが、同社はサンフランシスコのオフィス街の中心に390万スクエアフィート(36万平米)のオフィススペースを持つに至り、SF最大級のオフィスビル所有者となった。

しかし、MSの見込みとは裏腹に、商業不動産の価値は2007年10月にピークをつけて以来、現在まで43%の下落。

こうした大型不動産投資プロジェクトに必要な多額の資金を調達するには、CMBS(Commercial Mortgage Backed Securities=商業不動産の証券化)市場の存在が不可欠であるが、そのCMBS市場での発行額は2007年の2370億ドルから95%減という。

最近、GSやJPMなどが政府支援(TALF)を受けない形で独自にCMBS発行に漕ぎ着けたといって、CMBSへのリスクアペタイトが戻ってきたと言う者もいたが、発行したといったって、せいぜい5億ドルとかのサイズ。2007年の2370億ドルという発行額と比べたら、比較にならない。CMBS市場は実質的に閉鎖されたままなのだ。

また米国の商業不動産へ積極的に融資をしていた中小の金融機関の破綻が続いており、今後も破綻数は増えると見込まれているうえ、銀行自身の貸し出し姿勢の硬直化で、一般融資という形でも、資金調達は困難になっている。

記事によると、サンフランシスコ地区でのプライム・オフィス賃料は3Q09に前年同期比で37%下落し、これは2001年以来最大の下げ幅だという。空室率も14%に上昇し、こちらは2005年以来最高。2009年に入ってからの9ヶ月だけで、サンフランシスコでは、140万スクエアフィートのオフィス面積がアヴェイラブルとして戻ってきたのだそうだ。

そもそもの部分で、失業率が増加してるんだから、全米のオフィス賃貸が活発になるわけないよね。

ということで、商業用不動産市場は、需要減、供給増、調達難の3点セットで急激に悪化が続いている。

そこに持ってきて、モルスタみたいに、担保価値がまだ下がっている最中に、担保物件にリボンつけて融資元の玄関に置いてゆくようなマネする借り手も出てきたりして、貸し手の銀行からしてみたら、これじゃ、どれだけ最終損失見込めばいいんだよ、って話である。

ブルームバーグの上記記事に、モルスタのスポークスウーマンの言が載っているんだが、これが

“This isn’t a default or foreclosure situation. We are going to give them the properties to get out of the loan obligation.”


「これはデフォルトでもなければ、フォークロージャでもありません。我が社は融資返済義務から抜け出すために、物件そのものを差し上げる、そういうことです。」


たしかに、法的な定義上は、デフォルトもしてなければ、フォークロージャにも至っていない。物件そのものも、おそらく、まだネットのキャッシュフローがかろうじて回っている状態なのだろうし(←そうじゃなきゃ、返せないでしょ)、すでに初期投資のエクイティ分は累積償却でぶっ飛んでしまったであろうモルスタからしたら、「実質」じゃなくて「実際」にバランスシート上債務超過が表面化する前に、ここらへんで足洗っておいたほうが得策、ってわけである。

それ故に「戦略的」。

しかしね、“戦略的”なんて言うとカッコいいが、要するに形を変えた【借金の踏み倒し】以外の何者でもないわけでして。

将来の価値下落のリスクを抱えるのは、他の誰でもない、物件をボーンと突っ返された銀行側である。

こういう動きが今後広がってくると、考えられることは、資金を提供する側は従来以上に慎重になる、すなわち、貸し出し金利に更なるリスクプレミアムが乗っかる、って意味だ。リスクプレミアムが厚くなると、それでディスカウントして現在価値が決まるんだから、プロパティの価値はさらに下落する。

モルスタのような【戦略的デフォルト】のプラクティスが一般化してくると、それは、一種の「構造変化」と見られるわけで、そうなると、たとえ需給の部分(シクリカル要因)が回復してきても、リスクプレミアムは厚いまま、という状況も想定しうる。

でも、それは、長期的には商業不動産市場にはプラスには働かない。

   ★   ★   ★

【戦略的デフォルト】の動きは、商業不動産に限ったことじゃない。あえて『Walk Away』のオプションを選択するという動きは、一般個人の住宅融資にも広がってきていることを、ウォールストリートジャーナルが伝えている。

Debtor's Dilemma: Pay the Mortgage or Walk Away
(Wall Street Journal, 12/17/09)

この記事によると、530万件のアメリカ家庭が家の市場価値より2割以上高いモルゲージ残高を抱えており、うち220万件が5割以上の債務超過。

また、同紙前日の別の記事では、賃料が大幅に下がってきていて、今住んでいるのと同じ地区で賃貸を探せば、月々のモルゲージの支払いよりもずっと安く家を借りることが可能になっているため、あえてローンを払わずに追い出されるまで住んで、追い出されたら借りればよいと考える者が増えている、という話。

American Dream 2: Default, then Rent
(Wall Street Journal, 12/16/09)

こうした動きは、いまはともかく住宅市場を活性化させたいという政治的欲求が多分に働いている最中だから、あまり問題視されずに済んでいるが、これも長期的に見た場合、住宅ローン市場の市場規律を歪め、融資の最終的なプライシングに悪影響を及ぼすと筆者は思う。

   ★   ★   ★

今週の月曜日、オバマはホワイトハウスに主要銀行のCEO達を呼び出して「もっと貸し出せ」と圧力をかけるつもりでいたが、呼ばれたCEOのうち3名(GS、MS、Citi)が「民間機で向かおうとしているが、DC空港の上空の天候が悪く着陸できない」と言い訳して、大統領からの呼び出しをドタキャンした。

JPMのCEOはニューヨーク本社から問題なく出席したが、彼は民間機は使わずにコーポレートジェットでワシントンDCに乗り付けた。公的資金も返したことだし、納税者のカネでプライベートジェット使っただのなんだのと、くっだらないことでチクチクやられることもなくなり、【敢えて】専用機を使うあたりが鼻っ柱の強いことで知られるJPMのジェイミー・ダイモンらしい、といいましょうか。(笑)

しかし、大統領直々の呼び出しに、そんな理由で不参加決め込むなんて聞いたことない。NYからDCなんて、東京ー大阪みたいなもの、行こうと思えば、電車だって車だって朝のうちに行けない距離じゃないよ。

今の政府と議会がやっていることは、モラルハザードの拡散は援護して、デフォルトリスク上昇は見てみないフリをする。ことあるごとに「納税者のカネで救済してやった」と皮肉くることは忘れずに、公的資金早期返済のインセンティブだけを強めるマネをしておきながら、一方では「貸し出せ、貸し出せ」と政治的圧力をかけ続ける。

これでは、銀行経営側だって、「やってられっかよ」となるでしょうよ。




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☆☆☆ 過去の関連ポスト ☆☆☆

Wednesday, December 9, 2009

ソブリンCDSについて(2)

前回(11月30日)のMHJ記事で、ドバイの一件が本当に「たいしたことない話」かどうかはまだ誰にもわからない、個人的にはソブリンCDSのレベルはすぐには元に戻らないような気がする、と書きましたけどね。あの予感は的中したな。

ドバイワールドが、一般企業のリスクではなく、“擬似ソブリンリスク”とみなされていたために、ドバイショックは「たいしたことない」どころか、懸念は中東からスピルアウト(spilled out)して、ソブリンリスク全体に対する懸念へと広がって行ってしまった。

ソブリンリスクは為替にも影響与えますからね。ここしばらく、米株市場はドルの動きに引きずられて連動していたということもあり、今週に入ってからの米市場は、「ソブリンリスク」+「ドル」に翻弄されて、個別企業の業績なんて知ったことかという雰囲気。(Fedexの業績上方修正など明るいニュースもあったのにさ。)

8日(火)は、ドバイから、さらにドーンと暗くなるニュース、3連発。

1.ドバイの政府関係者が「ドバイワールドの子会社で不動産デベロッパーNakheelの債務リストラは当初想定していた6ヶ月よりもさらに時間がかかりそうだ」と述べた。

2.Nakheelの財務諸表が出てきて、今年度の上半期中に負債総額は7.2%増えて200億USドル相当まで増えており、期中損益も、37億USドル相当の当期損失。

3.Nakheelの兄弟会社Istithmar World (ドバイワールドの子会社でプライベートエクイティ担当)が所有するニューヨークのホテルチェーン『W』のユニオンスクエアのロケーションがフォークロージャとなり、火曜日にオークションで$2 million で落札された。ユニオンスクエアの『W』はIstithmarが2006年に購入したが、当時の投資総額は$282 millionだった。

Nakheelも債務の支払い原資を捻出するために資産整理を急ぐ予定であるが、資産オークションの現実はキビシイ・・・。

これらで、やや落ち着きかけていたドバイのソブリンCDSは再び急上昇。(下のグラフのオレンジ色がドバイソブリンCDS。過去半年の動き。グラフはFTより。)



筆者のNYの自宅からさほど離れていない場所にも、『W』ホテルチェーンのひとつがあるんですけど、すっごくステキで立派なホテルですよ。ユニオンスクエアのも、なかなか立派。あのオシャレなホテルが、たったの $2 million って・・・絶句。

   ★   ★   ★


サブプライム問題で叩かれてしばらくグッタリしていた格付け機関も、ドバイ問題勃発で水を得た魚のように元気になり、(っつーか、従来のソブリン格付け分析モデルの確認を再度せざるを得なくなったのか)、いきなり、あれもこれもと、ギャンギャン、見直しやら警告やらに入ってやんの。(暗い話で元気になるのが、債券オタクの常。)

7日(月):S&P、ギリシャのソブリン格付けをネガティブウォッチに。
8日(火):Fitch、ギリシャのソブリン格付けをA-からBBB+に格下げ。
8日(火):Moody's、英国と米国のソブリン格付け(ともにAaa)に圧力かかってると警告。
9日(水):S&P、スペインのソブリン格付けのアウトルック(見通し)をネガティブに変更。

株式市場は、普段はソブリンリスクなんて知ったことないわけだから、これらのニュース聞いて(例によって)過剰反応してるみたいだが、前回のMHJ記事で登場したように、ソブリンCDSのレベル一覧表をみると、2008年初めと比べると、グローバルでCDSの水準は上昇していた。

日頃こればっか暗くやってるソブリンCDS市場では、ギリシャ、英国、スペインなどは、すでにCDSプレミアムはジワジワ上昇続けていたわけである。

つまり、CDS市場参加者は、それらの国々の格付けに下方圧力がかかっていることを見越して、CDSのプライスにそれを織り込んできてたわけですね。

このように、債券市場では「格下げされるかもしれないリスク」というのは、格付け変更のアクションが実際に取られるずっと前からクレジットスプレッドに織り込まれて、格付け機関のほうがマーケットで取引されるスプレッド推移の【後追い】になることのほうが実は多い。エージェンシーに格下げされてからヨッコイショと腰上げてたら、間に合わんからな。

しつこいようですが、CDSというのは、対象になる債券のデフォルト可能性に対して保険かけとく、そういう商品である。だから、「自分が持ってる現物債券に、いまから保険かけといたほうがいい(=リスクヘッジしといたほうがいい)」と思う市場参加者が増えれば、CDSへの需要が増えてプレミアムは上昇するんである。また現物債券持ってなくても、ギリシャのCDSに対する需要が増えると考えるスペキュレーターが増えれば、それもCDSのプレミアムを押し上げる。

前回、MHJ記事で書いたように、ギリシャのCDSスプレッドは、格付け機関がアクション取る10日前には、すでに200bps超までワイドニングしていた。(2年前のレベルは22bps。)

そこにダメ押しの格付け機関による格下げが到来して、ギリシャのクレジットの売り(CDSの買い)に勢いがつき、CDSプレミアムが上昇し250bpsまで近づこうとしている。

9日付けのFTに、ギリシャ、英国、スペインのソブリンCDS、そして、西欧ソブリンCDSインデックス(iTraxx SovX/WE)の過去1年間の推移グラフが載っている。



このFTの記事によると、月曜のS&Pと翌日のFitchのアクションで悲観度が増し、30bpsワイドニングした、という。(ギリシャはオレンジの線。)

市場はとりわけ、イギリスとアイルランド両国の国家財政のバランスがいま以上に悪化することを懸念して、9日に出された予算数字に非常に敏感になっていたらしい。サプライズは無かったものの、CDSはワイドニングし、コンフィデンスが低下してきているのが見て取れる。

また、スペインは、経済成長が低いくせに、古典的な不動産バブルに陥って、銀行システムが不動産関連融資の償却で体力を失うという懸念が、筆者の知っている限り、ここ2年ほど続いていた。その始末をつける前にリーマンショックに襲われてさらにドツボにはまっちゃったというケースである。

現在は、格付け機関も連日ガタガタ動いていることだし、市場全体がソブリンリスクに注目して悲観的な方向にムードが傾いているのが感じられるときでもあるので、CDSの値動きは激しくなりがちだが、ここから先、それぞれのCDSがどういうトレンドラインを描くか、それによって、CDS投資の勝ち負けも決まってくる。

   ★   ★   ★


さて、筆者もときどき拝見している為替ブログ『ロンドンFX』で、先週、ゴールドマンサックス(ロンドン)のスターエコノミストJim O'Nealとそのチームが先週2日に出した戦略レポート『Global Viewpoint:Unveiling Our Top Trades for 2010』と題されたレポートのことが紹介されていた。

同レポート(原文)にご興味あるかたは、こちら

このレポートは、2010年に取るべきポジションの推奨リスト。ただし、この手のレポートがターゲットにしている読者層というのは基本的に、「グローバル投資+オールアセットのヘッジファンド」である。それ故、個人で読むにはつまんねー(笑)んだが、ここに、【CDS投資における〝教科書的”な実践ストラテジー】が登場するので、ちょっと紹介したい。

同レポートの4ページ目に、Top Trade #6として、こんなトレーディング・アイディアが出てくる。

Top Trade #6: Long 5-yr Credit Protection on Spain,
Short 5-yr Credit Protection on Ireland at 70.2bp, target 20bp



「スペイン国のソブリン債5年物CDSをロング、アイルランドのソブリン債5年物CDSをショート、両者のCDSプレミアム差は70.2ベーシスポイント、この差が20ベーシスポイントまで縮小するのを目標値にする」って意味である。(1 basis point = 100分の1%)

クレジットのトレーディングは、取引の「単位」がでかく(1本$10ミリオン)、一般投資家の出入りはほとんどなく、ベーシスポイントなんつー普段聞きなれない言葉で取引されるために、情報も世間にはほとんど出回らない。だから、このトレーディング・アイディアを読んでも「へ?」となるひとも多いことと思う。

ややこしいんですがね、自分が投資しているインストルメントが「現物(キャッシュボンド)」なのか「デリバティブス」なのかで、ロングとショートのポジションが逆転するので、慣れるまでは誰もが最初は混乱するんだよね。

オニールの推奨は、「Relative Value(相対価値)」に着目した投資手法。

スペインとアイルランドの2国は現在、スプレッドに70bps程度の差がついて取引されているのだが、これら二つの国家の信用力を分析すると、両者にはそこまで大きな差が出るのは正当化できない、スプレッドの差は20bps程度まで縮むのが妥当である、とオニールは言う。

オニールはスペインの経済状況は2010年さらに悪化すると考えており、スペインが直面しているリスク要因をふまえると、90bps前後という水準での取引は、【相対的に】プレミアム(保険料)安すぎ→CDSはロング→クレジットはショート。

逆に、アイルランドのは景気回復はスペインよりも早いと考えるから、今の160bps前後というプレミアム水準は【相対的に】高すぎ→CDSはショート→クレジットはロング。

つまり、スプレッドの絶対値ではなくて、2者の信用力の相対的な強弱で、将来のスプレッドの動く「方向」にベットするわけだ。

(MHJ筆者のオピニオンを言わせてもらうと、アイルランドとスペインについているスプレッド差には、それぞれの国の「銀行システムの柔軟さの違い」というエレメントも反映されており、はたして両者の信用力がそんなにすぐに20bpsまで縮小するかは、わたしは現時点ではやや疑問視。)

少なくとも、昨日の段階では、スペインとアイルランドのCDSは、アイルランドの上昇の仕方のほうが派手。二国間のCDSプレミアムの差は、縮まらずに、逆に拡大したように見える。

12月2日付けのオニールの推奨に従って、アイルランドのクレジットにロングに出た投資家がいたとしたら、9日には、おもわず「チッ」と舌打ちしたことであろう。(笑) 来年はどうなるかね。

   ★   ★   ★

前回のMHJで、筆者は、日本のCDSが81bpsにまで拡大してて、スペインの86bpsとさほど変わらないではないか、と述べた。

今週に入ってからの日本国のCDSの数字を調べてないんですが、日本もあれから7.2兆円の景気刺激パッケージを用意するとか、9.3兆円の国債増発することにしたとか、悲観派が喜びそうな話題多いね。

ここでオニールのようにRelative Valueで考えてみよう。米国のCDS32bps、英国69bps、中国87bpsに対し、日本81bpsだったとき、あなたなら、日本という国家の信用力は、過小評価されていると思いますか?日本のクレジットをロングする?

わたし?わたしなら、日本国CDSは買い(クレジットをショート)だね。

藤井財務相は、「国債を乱発することは国債市場の信頼を失うことになる。これは財政の健全化以上に大きな問題と認識しており、あらゆる努力をする」(元記事はここで読んだ。)と述べたそうですね。

でも、日本国債に対する市場の信頼(コンフィデンス)は、日本の「外」では、すでに壊れかけている、と筆者は思うね。

CDSのレベルが、そう語っている。




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Monday, November 30, 2009

ソブリンCDSについて

前回の続き。

ドバイワールドの件は、債務リストラに入るとのことで、債権者との話し合いが始まったようである。

昨夜寝る前にツイッターでも書いたが、UAE(アラブ首長国連邦)の中央銀行がサポートすると言っているのは、UAEで実務を営んでいる銀行(外銀の支店含む)の流動性であって、ドバイワールドやその子会社のNakheelが発行体となっている債務・債券ではない。そもそも、「銀行」でもない不動産のデベロッパーに対して中央銀行が直接保証を出せるわけないからな。

ドバイワールド発行の現物債券には、相当ディスカウントかかってるようだが、今日は買い手が現れず、売買は不可能だったとトレーダーが言ってた。(そろそろ年末ですし、どのファンドマネジャーも、ドバイワールドの名前なんて自分のポートフォリオに持ち越したくないよね。)

融資をしている銀行団の側からしても、できるだけ早くドバイワールドがらみの融資は回収したいはず。

一般に(あくまで一般に、ですが)、これだけ大規模な不動産開発をする場合は、たとえそのプロジェクトが問題がなくても、銀行団は自分達のバランスシートにプレインバニラ※の融資がドカーンと乗っかるままにしておくのを嫌うものなんですよね。

(※Plain Vanilla=“単純な、飾り気のない”を意味するスラングで、plain vanilla loansというと普通の貸付金のこと。)

なぜなら、(1)オンバランスの融資には規制で高いキャピタルチャージがかかり引当金の積立義務が生じるし、(2)商業用不動産は個人向けモルゲージ融資と異なり一本一本の金額が大きくて、(3)それ故にコンセントレーション(Concentration=集中)リスクが表面化しやすく、(4)それがオンバランスになってる間は資金の方もオンバランスで集めてきて割り当ててあげなくちゃいけない、ということで、金融機関のバランスシートをマネージするという観点からすると、できるだけオフバラ化して資金源を預金ベースの外に求めたくなる、そういう性質の融資なんである。(プロジェクトのサイズがでかくなればなるほど、なおさら、その傾向は高まる。)

数日前の報道では、HSBCとRBSを筆頭に英国の銀行がドバイワールドに対して5兆円規模のエクスポージャがあるとか言っていた。

これ聞いて、筆者は思わず「げっ!」と思ってたんだが、今日になったら「ドバイワールドに数百億ドル。でも、この程度のエクスポージャは、HSBC全体のバランスシートの大きさからしたら小さな数字だし、たいしたことない」と言ったTVのコメンテーターがいて、これにも「げっ!」と来た。

このコメントは完全に馬鹿げている。

そりゃーHSBCはバランスシートのサイズはでかいかもしれないよ。HSBCグループの連結総資産2.5兆ドル。三菱フィナンシャルグループの総資産190兆円より、まだデカイ。

でも、だからと言って、あるひとつの融資先に数兆円の融資を集中させるなど、その銀行の連結総資産がデカかろうがなんだろうが、これは「たいしたことない話」などではない。バンカーなら、5000億円ですら、「ん?ちょっとデカイな・・・」と誰だって一瞬感じるもんだよ。それが、今回は、数兆円規模なんですからね。

この金額を聞いただけで、HSBCが「ドバイワールド」というエンティティを「企業リスク」ではなくて「ソブリンリスク」とみなしていた、という証拠をつかむようなもんである。

HSBCのリスクマネージメントにおいては、彼らは政府からの【暗黙の保証】に思いっきり依存してた、だからこそ、こんな金額のエクスポージャになるんである。一般企業向けの融資だったら、こんな額のコンセントレーションリスクは、普通は怖くて取れませんっつの。

それが、フタあけてみたら、ドバイの政府高官から、「政府は保証した覚えありませーん」とか言われて、HSBCは絶句したろうな。でも、暗黙のサポートがあるはずだと見込んでドンドコ貸すのはHSBCの勝手なんだから、言い返す言葉も見つからず。

ま、いずれにせよ、UAEの中央銀行から昨日出されたプレスリリースによると、「UAEの銀行システムは、リテール銀行のみで構成されており、世界で最も優れたシステム」だそうである。

これはこれで、「世界で最良の安定的な銀行システムが、なにゆえ大規模バンクランの心配するんだよ」と思わず小声で突っ込みたくなるものの、そこは抑えて、今後この問題がどう収斂してゆくのか、当面、注目を続けたい。

★   ★   ★

さて、前回のMHJエントリーで紹介したソブリン債のCDSについて、Bespokeのサイトが世界のソブリン債のCDSプレミアム水準について、見やすい一覧表を作ってくれていたので、紹介したい。(以下、ふたつの画像はともに、Bespoke Investment Groupのサイト より拝借。)

まず、問題のドバイ。ドバイのCDSがクライシス報道の前後にビョーンと跳ね上がったということは前回のMHJで、WSJの記事を出して紹介した。下のグラフは、2008年暮れからのドバイCDSの「一年間の推移」を示したグラフだ。





ドバイの熱狂不動産開発バブルがピークを迎え、ドバイの資金繰り問題はかなり前から表面化しており、このマーケットに詳しいものなら今年の初めにもドバイがアブダビに支援を仰いでいたことはよく知られた話だったようだ。(筆者は知らなかったけど。)

このグラフでは、たしかに今回のショックでCDSは670台まで跳ね上がったものの、今年の初めには、ドバイCDSは1000bpsに近づいたときもあり、それと比べると、今回跳ね上がったといっても「たいしたことない」、つまりは、そういうことを言いたいグラフ、である。

Bespokeはさらに、世界39カ国のCDSのレベルを、現在、09年の初頭、08年初頭、と、それぞれ並べて示してくれた。(グラフをクリックすると拡大します。)



こちらは、左から、(A)最近のCDS取引水準、(B)08年12月31日の段階、(B)から(A)までの増減%、そして、08年はじめ、である。増減率のコラムに注目すると、各国のソブリンCDSは、金融危機が深刻さを増していた昨年末と比較すると、目立って低下しており、デフォルトリスクのパーセプションはグローバルで和らいだというのがわかる。今年はじめに金融市場を覆っていた危機感と、今回のドバイショックとでは、同じ危機感といえども、インパクトが全然違う。

ガイトナー財務長官などは、議会のヒアリングに呼ばれるたびに、世界中のクレジットスプレッドが目だってタイトニングしてきたことを話題にし、政府による危機対応策がいかに金融市場の正常化に効果を発揮したかを主張する。

従来、市場で民間の企業や金融機関が取ってきたデフォルトリスクを、危機勃発後にすみやかに政府(ソブリン)がせっせと吸収してくれたおかげで、破滅にむかって暴走していた金融市場が落ち着きを取り戻したというのは、それはその通りだから、ガイトナーの言葉を否定するつもりはない。

でも、リーマンショック後、株最安値をつけるまでの世界の金融市場の状態というのは、大震災直後の神戸みたいな大混乱の状態だったわけで、あれを基準にしたら、一年後には何でもよくなっているように見えるのは、ある意味【当たり前】

むしろ、危機の前のレベルと現在を比較したほうが、面白そう。

というわけで、約2年前と比べるとどうなったか、めぼしいところを比較してみた。

* アルゼンチン:460(01/02/2008) to 985(now) =114%UP
* ロシア: 87 to 218 =150%UP
* アイスランド:64 to 398 =521%UP
* ポーランド: 26 to 123 =373%UP
* メキシコ:70 to 159 =127%UP
* ギリシャ:22 to 205 =731%UP


この表にリストされた中で、2008年初頭よりも現在CDSレベルが下がっているのは、2007年~2008年の内乱で強い政情不安を抱えていたレバノンのみ。

2008年年初と比べ、国家レベルの信用力は、グローバル全体で、低下している。金融危機後の急激なグローバル景気後退により、どの国も、多額の景気刺激策を出し続け、国家レベルの財政状態は一般に苦しくなっている。

これらCDSのレベルがドバイ・ショック前のレベルにふたたび戻るかどうか。

個人的な感触に過ぎないが、筆者は、簡単には戻らないような気がしている。ドバイの一件は、国家(ソブリン)の保証能力にも限界があることを世に示してしまったわけだし、こういうことが一度起こると、クレジット市場というのは、なかなか忘れてくれないからね。

これが、ほんとうに「たいしたことない話」なのかは、今はまだ、誰にも判断できない。

それにしてもですね、今回のドバイショックで、ソブリンリスクに注目が集まって「次のドバイはどこだ?」みたいな話になったとき、こちら欧米のメディアで、エマージング市場以外に、ひときわ注目を浴びた国は、どの国だと思いますか?

日本国である。一笑に付すなかれ。

上のBespokeの表を見てたら、一番下に日本ソブリンのCDSの数字が出てきて、ギョッとした。

日本ソブリンのCDS1/2/08 = 8 bps
12/31/08 = 44 bps
Now = 81 bps

表にリストされてる39カ国の中で、一年前の金融危機の最中よりもCDSレベルが上昇した国は、日本だけ。2008年初頭からの上昇率をとると、実に912%。

ギリシャどころの騒ぎじゃない。

繰り返すが、CDSのレベルが上昇するというのは、債務の支払い能力(信用力)が低下している、すなわち、デフォルトリスクが増加していると【市場が判断している】という意味だ。

81bpsって、ほとんど中国(87bps)や不動産バブル破裂でニッチもサッチもいかなくなってるスペイン(86bps)のレベルであるよ。南米チリが69bpsである。先進国では、英国68bps、米国が32bsp、ドイツ24bps、オーストラリア34bps・・・グローバル市場における日本の国家の信用力は低下の一途を辿っている・・・。

ドバイ関連の記事を読んでたはずなのに、なぜか、最後は、暗く日本に行き着いてしまった・・・。




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Saturday, November 28, 2009

「政府保証債じゃなくても事後救済」の危険



さて、ドバイ、である。

ツイッターでも何度かアップデートしたように、売れそうな資産をアブダビがつまみ食い方式で買ってくれるんじゃないか、とか、アラブ首長国連邦の中央銀行が保証を出してくれるんじゃないか、とか、豪華客船クイーンエリザベス2号を売りに出すんだろうとか、いろいろ話は出てきておりますが、今、これを書いている段階では、基本的な流れとしては、周辺のアラブ諸国(とりわけ、オイルリッチなアブダビ)に支援を仰ぐ、という路線で進みそうだ。

(しかし、ドバイ関連の記事を読みながら思ったが、(1)資源がない、(2)ガンガンに借金してガンガンにインフラ作りと不動産開発、という2点のみ取り出すと、日本国に似ていると言えなくも無い。)

今週末のウォールストリートジャーナルは、ドバイの一件でソブリン債につくCDSの水準が広がり、これが信用力が相対的に低い国のソブリン債全体に対して危険信号を点すことになるのではないか、という記事を掲載した。

Dubai Jitters Spread, Infecting Debt of Sovereign (WSJ, 10/28/09)

このWSJ記事に、各国のソブリンCDSのプライスが11月20日から27日までの一週間でどう動いたかのグラフがある。




ちょっと横道にそれるが、CDSに不慣れな方のために、グラフの見方を少々説明しておくと、このグラフは参照になるキャッシュ債券$10ミリオンに対してCDSを買った場合、いくらのプレミアムを払うか、というグラフである。ドバイにつられて他国の国債に対するCDSも上昇したのがわかる。

CDSというのは、ある債券を参照にして、その債券に何かあったときに額面を満額保証しますという一種の保険だというのは、以前「小学生のためのCDS」シリーズで書いたが、CDSは一本$10ミリオンの債券に対しプレミアム(単位はベーシスポイント=bps=100分の1パーセント)で売買される。$10ミリオンに対して67万5千ドルのプレミアムがついている、ということは、そのCDSは675bps(=6.75%)で市場売買されている、という意味だ。

このグラフのドバイのソブリンCDSを見ると、ショック寸前までは、ドバイ市国が発行した債券に対するCDSは、プレミアムが325bps程度だった。ところがショック勃発とともに550bps程度まで跳ね上がり、その翌日はさらに上昇して675bpsになった。参照債券のリスクが高まったとみなされると、CDSのプレミアム水準は上昇する。

CDSのプレミアムは、参照債券のクレジットスプレッドそのもので、証券価値と原則ミラーイメージになっているから、(A)もしも、あなたがドバイ市国債を現金出して買って持っているだけ(リスクヘッジしていなかった)なら、あなたの投資は暴落で大損、(B)もしも、その保有する国債に対してCDSを買って保険かけてたら(ヘッジしてたら)あなたの損失分はCDSの売り手(ライター)が代わりに取ってくれるので、中和されて損失ゼロ、(C)もしも、あなたがCDSの売り手だったら、あなたは損失を引き受けるわけだから大損、(D)もしも、あなたが参照債券(ドバイ国債)そのものは保有していなくてもCDSだけを買っていたならば、300で買ったものが675になるんだから儲け、と言う風になる。

★   ★   ★

で、このソブリン債に話を戻すと、ドバイ・ショックのせいで、世界のソブリン債への信頼がゆらぐのではないかという見方がある。
ただし、報道ではゴッチャになってるけど、綿密にいえば、今回デフォルト起こしそうになってる問題の債券の【発行体】というのは、【ドバイ政府そのもの】じゃないんですよね。

債券(借入金も含む)の発行体は、Dubai World Group という持ち株会社と、その完全子会社である Nakheel という不動産デベロップメント会社であって、ドバイ政府はDubai World Groupの100%株主である、という位置づけなわけ。

Dubai World Groupが借金する際に、ドバイ政府が【明示的に】(←契約文書の中に明言してあり法的拘束力を持つ、という意味)、Dubai World Group自身が産むキャッシュフローで払えなくなったら、政府が替わりに立て替えます、という保証がつけているわけではないんですよね。

ただし、このDubai World Groupという組織の100%オーナーがドバイ政府である、というだけで、そこにあるのは、【暗黙の】保証関係なわけ。

基本的に不動産デベロップメント目的で借り入れた融資や債券であるからして、その資金が向けられる先は、「高リスク」だということは、あらかじめ、貸す側もわかっているんである。また借りる相手は、直接、政府自身ではなくて、「政府と関連のある企業」が借りているんである。

だから、貸す側(Creditor=債権者)は、それらのリスク要因を加味して、政府債よりも高めに金利を設定する、すなわち、リスクプレミアムを要求してたわけである。

政府関係機関が発行する債務で保証がつけられてるものは「政府保証債」と呼ぶんだが、このドバイ・ワールドのは「保証債」ではない、との話。

この点について、27日付けのフィナンシャル・タイムズで、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの教授のウィレム・ブイター(Willem Buiter)が『ドバイワールドの債権者を救済すべきではないとドバイ政府に物申す』と題した論説を書いて、正論を吐いている。

Polite suggestion to the Dubai sovereign that creditors of Dubai World not be bailed out (Financial Times, 11/27/09)

ブイター教授の論説から、以下一部引用。(翻訳byMHJ筆者)
It is of the utmost importance that governments throughout the world learn the lesson that providing free ex-post default insurance for any debt, including debt issued by 100 percent government-owned companies, is unwise and counterproductive. The sovereign is on the hook only for sovereign and sovereign-guaranteed debt - that’s why they are called that way.

世界中の政府はこれを機に学ぶべきである。政府が100%株主であるエンティティが発行する債務も含め、ありとあらゆる債務に対して、事後的にタダでデフォルト保険をかけてやることは決して賢いとは言えず、むしろ、非生産的である。国家(ソブリン)は、国家そのものが発行体である国債と、政府保証債にのみ責任を負う。だからこそ、それらはソブリン債と呼ばれるのだ。

(中略)
Given the severely-impaired fiscal-financial positions and prospects of so many countries, the notion of a sovereign of one of these countries assuming responsibility for any debt that is not sovereign or sovereign-guaranteed is ludicrous. Even banks and other financial institutions that would in the past (when fiscal pockets were deeper) have been considered too big and too systemically important to fail are now too big to save. Ireland’s government could not today afford to guarantee virtually all of the liabilities of its banking system, as it felt compelled to do at the beginning of this year.

多くの国々が非常に厳しい財政状態と財政見込みに直面するなかで、国債でもなければ政府保証債でもない債権をソブリン債として扱うこと自体が馬鹿げている。国家の財政の懐が豊かだったころなら「大きすぎてつぶせない」とか「システム上極めて重要」と考えられていた銀行ですらも、いまや、「大きすぎて救えない」に変わり果てたのだ。アイルランド政府などは、年初には同国の銀行システムは救済措置が必要と感じていたが、いまでは銀行システムが抱える債務をすべて保証するのは現実として無理になってきているのだ。

Fortunately, property companies don’t fall into the systemically important category. Their collapse is painful for their shareholders, creditors and, if the local labour markets are weak, their employees. They are not, however, systemically important. Their collapse will not threaten the delicate fabric of financial intermediation. They are fit to fail. Creditors beware.

幸いなことに、不動産デベロップメントの企業は、システム上重要というカテゴリーには入らない。崩壊すると、株主、債権者らには多大な痛みが引き起こされるであろうし、もしその地の雇用状況が弱弱しい場合はその企業の従業員にも痛みは及ぶだろう。しかし、不動産ディベロッパーはシステム上重要とはいえない。彼らが崩壊しても、デリケートな金融仲介という機能を脅かすことはない。デベロッパーは破綻してもかまわないのだ。債権者達よ、覚悟しておけ。



うむ・・・まさしく正論ですな。

Dubai Worldを救済することは、Too Big To Failを際限なく拡大していくことの危険にも等しい、と教授は言う。

とはいえ、【暗黙保証(Implicit Guarantee)】【明示的保証(Explicit Guarantee)】の境界線は、100%株主の場合、結構つけづらい。ここらへんは、信用格付けを付与している格付け機関も、何かあったときには暗黙のサポートが施されるという期待を、格付けシンボルの中に実際織り込んでいるわけだし、債権者と債務者の間でプライシングがなされるときも、暗黙の保証は、プライスに織り込まれるからね。

ブイター教授の言ってることは正論だけれど、潰してしまったら、資産価値が急激に悪化して最終的な債務超過額が何倍にも膨れるという別の側面もありますしね。
Dubai World、救済すべきか、すべきじゃないか。悩ましいところかも。


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ブラック・フライデー偵察レポート

今日はまず、筆者の「ブラック・フライデー偵察レポート」から始めたい。

NYマンハッタンには、どでかい駐車場にどでかい売り場スペースが隣接している、いわゆる「郊外型のモール」なるものはないのだが、34丁目と6番街に、自称「世界最大のお店(The World's Largest Store)」Macy'sがあり、その周辺に、K-Martがあったり、JCPennyがあったり、H&M、Gap、Victoria Secret、Old Navy、その他もろもろ、郊外型モール内に必ず入っているような店舗が固まってる地区がある。

だから、そこに行けば、マンハッタンにいながらにして、完全とは言わないまでも、おおよそのモールの疑似体験ができる、とでもいいましょうか。ま、要は、その一角は「ちょっとダサい庶民アメリカンの集うエリア」なんである。NYCにウォルマートがないのが残念なんだけどね。

で、今年のブラックフライデーがどんな按配なのか非常が興味があった筆者は、実地観察に行ってきた。

まず、米国ミドルクラスのショッピングメッカ、Macy'sから。Macy'sといえば、全米最大サンクスギビング・パレードのスポンサー、そして、全米最大独立記念日花火大会のスポンサーである。(写真は外と内部。クリスマス用飾りつけ。)

  

筆者が行った時間帯は、Door Crashers(ドアをぶち破る人たち)と呼ばれる「開店前から鼻の穴膨らまして店の前に並んでる皆様」が帰ってしまった午後の時間帯だったので、そのせいもあるのかもしれませんが、正直な感想として、さほど混んでませんでした。

クリスマスプレゼントとして人気の高いキッチン用品の階に最初に行ってみたんだけど、そこそこ人は入っているが、レジに長蛇の列ができている、というわけではなかった。並んでる人が何を買ってるのかも注意してみたけど、小型オーブントースターとか、調理用ボウルのセットとか、包丁セットとか、なんか実直。プレゼントにするの?と何気なく列のひとりに聞いてみたら「ううん、自分で使うの。」という返事。

続いて、婦人服売り場に行ってみた。絶句するほどガラガラ。だ、だいじょうぶですか、この階・・・。

家具売り場も、疲れて椅子にボーと座ってるひとはずいぶんいたけど、店員と家具の購入について相談してる客は、そんなにいない。シーツや枕などの寝具売り場も、レジに人が数人しか並んでいない。

かなり不安になってきて、次の階に移ったら、そこだけ、ものすごい人の数で熱気があふれていた。

その階とは、「婦人靴売り場」。老若女女(男女ではなくて女女)が、安売りになってる靴だのブーツだのを、形相変えて次々に履いて試してた。女はみんな、イメルダ症候群か。

そして、ちょっと悲しかったのは、イメルダ達がこれでもかこれでもかと安売り靴を次々試し履きしている間、無理やり買い物に連れてこられたらしき男性達が、婦人靴売り場の備え付けの椅子に座って、放心している姿だった・・・。

 

東京日本橋や銀座のデパートでも、これと全く同じ光景をよく見かけたものである。ロンドンのデパートでも、パリのデパートでも、妻が買い物終わるまで放心して座って待ってる男性をちょくちょくみかけた。これって、世界共通なんだな、きっと。

Macy'sに続いて、K-Martに行ってみたが、ここはもっと人が少なかった。フラットパネルTVが目玉商品として山積みになっていたけど、そんなに人が集まってる風でもなかった。

他の店もあれこれ入ってみたけど、普段の週末よりは人は多いけれど、年末商戦という熱気は、どこも、あまり感じられなかった。

筆者が入った店の中で唯一、レジに長蛇の列ができていた店は、Old Navy のみ。Gapグループのひとつだが、Gapブランドよりさらに一段安めの価格帯のカジュアルウェアを売るんですよね。(写真は混み合うOld Navy内の様子。)

Gap Inc.(NYSE:GPS)という会社は、収益部門としては、おなじみブランドGapのほかに、ちょっと高めの価格帯のBanana Republicというブランド、安めの価格帯のOld Navyというブランド、そして、国際部門の4つに分かれる。同社の3Q09業績は去る11月19日に発表になっているが、これら主要4部門のうち、3Qに唯一セールスを伸ばしたのが、Old Navyだった。消費者は安い服へ、安い服へと移行したのが見て取れる。

Gap Inc. 第3四半期の前年同期比ネットセールス増加率

   北米GAP: -7% (3Q08) → -7% (3Q09)
   北米Banana Republic: -11% → -6%
   北米Old Navy:  -18% → +10%
   インターナショナル: -1% → -6%


値段が安いだけあって品質も合わせて落ちるんだが、ジーンズ一本買うにしても、Banana Republicだと一本70~80ドル、Gapだと40~50ドルのところ、Old Navyだと20ドル前後でジーンズ買えちゃう。

混雑するOld Navyのお店の中で、しばらくジーとみんなどんなもの買ってるのか観察してたんだけど、どうやら「20ドル札一枚でもお釣りがくる服」が人気のようであった。客はたくさん入ってるんだけど、高めの商品には集まってないの。

何ゆえにMacy'sの婦人靴売り場だけあの時あんなに人が集まってたのかは知らないが、そのほかの場所では、今買っておかないと損する、みたいな焦燥感が、買い物客たちの側に感じられないわけですよ。「ま、バーゲンはここだけじゃないしぃ・・・」みたいな「ゆったり感」すら、そこには漂っていた。 50%OFF、60%OFFになっていても、さらなるディスカウントを期待している。

筆者も何か買おうかなと思ったが、何を手にとっても「これが無くても死なないし・・・」とすぐ考えてしまって買う気が起きない。結局、近所のスーパーよりKマートのほうが皿洗い機洗剤が1ドル安いってんで、それを買ってきた。だけど、それってクリスマス商戦と何の関係もないし、だいたいバス代往復4ドル50セントもかけて行ったのに、皿洗い洗剤で1ドルセーブ。なにしに行ったんだか・・・。

ということで、ニューヨーク34丁目界隈の、庶民のためのショッピングエリアにて、筆者が勝手に得た印象は、「やっぱ、今年は、全体的に、売れてないわさ・・・」である。

APの記事によると、今年のブラックフライデーの売り上げは、聞き取り調査で去年対比で0.5%増という推計だそう。筆者の実感も、そんなもんだったな。

0.5%のうち、0.3%ぐらいはTVや電子機器類、残りは婦人靴じゃないのかという疑問も一瞬湧いたが・・・。

ここから先は、実際の小売統計が出てくるのを待つとしよう。

何の役にも立たない偵察レポートですみません。

Friday, November 27, 2009

【お知らせ】ツイッター

筆者も一昨日からツイッターなど、始めてみました。

Murray Hill Journalのブログページとリンクされてますので、すでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、

@TrinityNYC 

です。



個人用のアカウントは以前から持ってたんですが、いまひとつ使い方がよくわからなくて(笑)、遠ざかっていました。しかし、やはり時代に乗り遅れてはいけないと改心し、再挑戦することにした。

で、一昨日から、あれこれ書いてみたが、リアルタイムで次々に情報発信できるから、これはいいですね。

しかし、なんだな、証券業界のアナリストやトレーダー同士が、もうかれこれ20年もブルームバーグの端末の【MSG】機能使って、リアルタイムで短めの情報を次から次へと発信し合って情報交換してますけど、このツイッターってのは、あのコミュニケーションスタイルに通じるものがありますな。

ドバイのこととか書きながら、なんだか現役時代に戻ったような錯覚に、一瞬陥りましたわ。

これまでどうもピンときてなかったが、ようやくツイッターの使い道に開眼しました。(遅いんだっつの。)

どうぞよろしく。

Tuesday, November 24, 2009

コンヴィクションをもてないなら買収候補探し

11月6日のMHJ記事で、筆者は自宅のキッチンにディッシュウォッシャーなどを買うためにコルゲート株(CL)を$80あたりで整理した、と書いたのを覚えておいででしょうか。

$80超えたから、かなりいい線いったと、あのときは、思ったんですよねー。

ところが、筆者がCL株を売って2週間もたたないうちに、コルゲートったら、イギリスの消費者向け製品で同規模の会社レキット社と買収話が持ち上がってるというニュースが出て、一気にびょい~~~~~んと$86まで上がってやんの。

んもー、そうならそうと、2週間ももったいつけてないで、さっさと言ってよ!ディッシュウォッシャーとガス台だけじゃなくて、冷蔵庫買う足しにもできたのに!(笑)

先週は、そういって地団駄踏んでた筆者である。


   ★   ★   ★

週明け月曜の米株市場は全般にイケイケモードに覆われたが、なんといっても筆者が思わず注目してしまった銘柄は Dietrich Coffee(DDRX)、今日一日で、29.47%の上昇である。

年商たかだか6000万ドルの小ぶりなコーヒー会社に何がおこってるのか。


「ディートリッヒ」という名になじみのある人は少ないだろうが、米国では「K-CUP」という商標で出ているコーヒープロダクトで、日本でも「キューリグのKカップ」というブランドで売られてるから、この会社がつくってる製品については見聞きしたことがある人はいると思う。コーヒー豆が一杯分づつ挽かれて小さなカップに収められてて、専用のコーヒーメーカーで一杯づつ淹れるようになっているんですよね。

コーヒー中毒の筆者は、スターバックスでずいぶんと散財してたのだが、2008年頃からなんとなく一杯4ドルも出してコーヒー飲むのは【もったいない】とセコク思うようになり、できるだけ現金貯めようと思って、スタバでコーヒー飲んだつもりという「つもり貯金」をめざしてた。だが、そういうみみっちい考えの人間は、筆者のほかにも世界中にいたらしく、スタバの業績は2008年から急降下した。(ここのところ、また盛り上がってきてるけどね。)

Kカップも2008年まではパッとせず、株価はズルズル下がりまくって、2009年はじめごろは一株20セントだの30セントだのという絶望的な水準にいたのだが、新しい経営陣を迎え、アメリカ中がいきなりK-Cupに目覚めたかのように、同社の業績は上向き始めた。

ところで、このディートリッヒ・コーヒーだが、実は、我がMurray Hill Journalで、今年の5月29日のMHJ記事の中で、数週間で1500%上昇した「ありえねーだろ株」のひとつとして紹介したんである。2000年から9年近くただの一度も10ドルを超えたことのなかった小型株が、今年4月あたりから数週間でいきなり16ドルに!とトレーダー達が注目してたからね。

たしかに業績は上向いてる様子ではあった。みんなスターバックスに行くのを止めて、自宅やオフィスで、K-Cupでチマチマ一杯づつコーヒー淹れてたのだろうか。

だけど、売り物はコーヒーですよ、コーヒー。急に何十倍も消費増えるようなもんじゃないでしょ。

MHJ記事に書いた当時(5月ごろ)のDDRX関連ニュースを読み直しても、1500%上昇を説得できるような記事やコラムは見当たらず、某記事はこの株が上昇してる理由は(1)事業が上向いてきてること、(2)ショートカバーが入ってること、の2点という(浅~い)分析が語られている程度。しかし、その後も、株価だけは強含みで推移し続けた。




そんなこんなが半年も続き、DDRXは【夢の小型株】に!でも、さすがに、ちと、うますぎる話ということで、市場でも話題となり、今年の10月後半には、「ショートしたくなる株」として、あちこちでその名が語られるようになった。

筆者もときどき目をとおしている株ブログに『Seeking Alpha』というのがある。このサイトには多くのブログ記事投稿者が常連として登録していて、ネット上で読者と情報交換している。たま~に、耳寄り情報が出ることがあるんですよね。ここに、10月29日に「DDRXの株価操作をやってるやつがいるんじゃないか」という内容の記事(書き手は“自称”ヘッジファンドのアナリスト)が載り、センチメントが急激に悪化してDDRX株は25%ダウンした。

別のブログ『The Motley Fool』では「世界で一番ブキミな株:DDRX(World Scarist Stocks: Dietrich Coffee)」というタイトルの記事を10月30日に掲載したり、【夢の小型株】DDRXも、クリスピークリームドーナツ(KKD)と同じ末路を辿るのでは、とも言われてた。(クリスピー・ドーナツ、日本では行列ができるほどの人気フランチャイズだそうだが、こちら本国では、会計スキャンダルと経営陣不調和で本社はボロボロ。)

Jackson America という匿名ブロガーによって Seeking Alpha 上に掲載された記事は、記事の書き手の素性がわからず、「風説の流布」の恐れが取りざたされて、Seeking Alphaの管理者によって、記事そのものがブログページ上から削除された。

(でも、記事は削除されても、その記事につけられた当時のコメントはそのまま残っているんで、どんな内容だったか大体想像つくのが、ご愛嬌。笑。)

当時のコメントから判断するに、その投稿ブログ記事には、以下のような文章があったらしい。

"I’ll assume that most investors are aware of the pending Starbucks (SBUX) and Peet’s (PEET) K-Cup launches, which will likely destroy Diedrich’s market position"

「投資家の多くは、スターバックス(
SBUX)とピーツ(PEET、Peet'sはアメリカの別の大手コーヒー販売会社)の間でK-CUP(と同様の)プロジェクトを始める準備を進めておりそれが現在ペンディングになっていることはすでに承知していると思う。だが、もしこれが決まれば、ディートリッヒのマーケットポジションは甚大な打撃を受けることになろう。」

このブログ書き込みにより、この日DDRXの株価はパニック売りとショートで急落、翌取引日も続けて下落した。

ところが!である。

この『Seeking Alpha』への投稿記事が出た数日後の11月2日、その問題のPeet's社は、スターバックスと手を組んでK-CUP市場に参入するどころか、DDRXそのものを一株あたり$26で買収に出ることを正式発表、DDRXの株価はふたたびオファー額近辺まで急上昇するというローラーコースター状態。

このあたりのDDRXの株価推移は、以下のとおり。

10月26日(月) 29.75
10月27日(火) 28.65
10月28日(水) 25.96
10月29日(木) 26.80 ←Seeking Alphaにブログ記事
10月30日(金) 21.80
11月02日(月) 20.36 ←取引終了後に$26で買収と発表
11月03日(火) 25.83
11月04日(水) 25・04 

30日、2日と一気に25%落ちたところでDDRXを拾ってた者達は、笑いがとまらなかったことであろうな。

そして、DDRXをショートしてたトレーダーからは「SECに言いつけろ!」との声があがったが、それと同時に、この記事の書き手 Jackson America という投稿者は、雲隠れ。

Jacksonとは、果たして何者だったのか・・・?

DDRXが、こうした激しい株価の動きを示している間も、市場でこの動きに【正当な理屈】をつけることが出来るものはほとんどいなかったように見える。誰もコンヴィクション(Conviction=証券売買に際し、確固たる自己の意見を持つこと)を持てなかった、というのが正解だろう。

Seeking Alphaの記事コメント欄に、こんな文を見つけた。

"the market can remain irrational longer than you can remain solvent"
(市場は、あなたが支払い能力を保てる期間よりも長く、不合理な状態を続けることができる。”

言いえて妙。DDRXの株価は、株価の適正水準を図るツールのどれを使っても、IRRATIONAL(非合理的)だったのである。

Peet'sによるオファーが飛び出し、両者のネゴシエーションの期間は今月27日まで。それが過ぎたらディール終了の運びとなるはずだった。みんな11月2日から先週の金曜日(20日)まで、PEET’sによる$26オファーでケリがつくと思っていたら、ネゴ期間締め切りの一週間前、11月20日、今度は別の大手コーヒー販売会社グリーン・マウンテン・コーヒー(GMCR)が$30という新たなオファーを持ち出してきて、PEET vs. GMCR の一騎打ちという格好になり、ビッドアップを期待する市場は、ディートリッヒ買収劇の決着へのスペキュレーションで、月曜のDDRXの株価は一気に$33に29%アップ!

今年の3月は30セントとか言っていた株ですよん。それがいまや33ドルだもんね。実に100倍以上である。

あぁ、これぞ、まさに【夢の小型株】じゃぁ、ありませんか。

(※ しかし、ウジウジ型の筆者としては、素直に「へー、すごいねー」で納得はしないんである。ついつい考えてしまうのは、MHJ記事にとりあげた5月ごろからDDRXを着々と買い増していたのは、どこのヘッジファンドだろう、ってことが気になる・・・。 )


   ★   ★   ★


筆者はいまだに、ファンダメンタルズが株価に追いつかない、と強く感じている。

そう思って売ったコルゲート株だったのに、【買収話】でビョ~~~~ンと上昇。

ディートリッヒも、MHJ筆者のみならず、市場の多くが「ありえねーだろ」と思ってたのに、やっぱり【買収話】でビョ~~~~~ン。

現在のような状況では、そのときそのときの会社の業績やファンダメンタルズなんか見てても意味なし、ということか。買収ターゲットになりそうな先をせっせと漁ったほうが、手っ取り早いかも、などと考えてしまった。

それにしても、コルゲート、悔しいわ・・・。

買収話が公になる寸前に手放したCL。いい会社だと太鼓判押してたくせに、自分で買っとくの忘れたAMZNやNFLX。 どうも、ここ最近、不発続きの筆者である。 ま、タイミング取ろうとしても、情報収集力で個人がヘッジファンドにかなうわけないんだから、無理な話だけれど。 

  ★   ★   ★

しかし、筆者が考えてたとおりになったことも、(たまに)ある。

今日はそれのアップデートも書いておき、CL株やAMZN株で流した涙を忘れることとしよう。

10月22日のMHJ記事『モルスタ3Q09決算:商業用不動産という「おもり」』で、モルガンスタンレーにとっての目の上のタンコブ、Crescent という大型不動産投資がどうやら「ディープな債務超過状態」になっていると書いたのを覚えておいででしょうか。

あの記事で筆者が書いた段落をそのまま持ってくると、

『これは筆者の勝手な憶測だが、MSはクレセントからウォークアウェイ(Walk Away)する気だな。エクイティ分の95%がすでにあの世にいっちゃったんだもん。借金を全額耳をそろえてお返しするより、んなもん、バークレイズに熨斗紙つけてくれてやる、ってことか。』


で、このクレセントの一件についき、11月21日付けのウォールストリートジャーナルに「結末」が掲載された。

Morgan Stanley Ends Costly Crescent Phase: Barclays, Property Firm's Co-Founder Retake Assets (Wall Street Journal, 11/21/09)

同記事によると、筆者の憶測どおり、MSは、やはりクレセントからWalk Awayし、「バークレーズとの間に結んだ20億ドルの借り入れ契約を白紙に戻すのと引き換えに、物件の鍵はバークレーズにお渡しした」そうである。文字通り、「熨斗紙(のしがみ)つけてくれてやった」んである。(バークレーズの融資担当者がMS本社前で発狂して叫んでいたかは未確認。)

この不動産投資の失敗により、MSが取った累積損失は、エクイティ投資がパーになった分プラスその他諸々の償却経費も含めて9億5千100万ドルなり。

以下は21日のWSJより抜粋。

Morgan Stanley has been scaling back its risk exposure by trying to sell illiquid mortgage assets, while hiring in other areas of bond trading where securities are viewed as easier to trade and the company doesn't have to commit as much capital to serve investors and issuers. The firm had $4.4 billion in real-estate investments as of Sept. 30, down from $4.9 billion at the end of
March.

「モルガンスタンレーは流動性の低いモルゲージ資産を売却することでリスク・エクスポージャを減らしてきており、一方で、投資家や発行体のためにさほどのキャピタルをコミットしなくても済む分野で債券トレーディングの採用を増やすなどしてきた。9月末時点で同社の不動産投資額は44億ドルで、3月末時点の49億ドルから減少している。」

But bets made on real-estate before the bubble burst still are coming back to haunt the company. In 2006 and 2009, Morgan Stanley announced raising at east $14 million for its series of real-estate funds known as MSREF.

「しかし、バブルがはじける前に行った不動産投資への賭けはいまだに同社を悩ませている。2006年から2009年の間に、モルガンスタンレーはMSREFと呼ばれる不動産投資シリーズファンドとして140億ドルの投資資金を集めた。」

As the commercial-real estate market soured, clients took massive losses on investments in the funds. California State Teachers' Retirement System's $400 million investment in Morgan Stanley's MSREF VI International LP fund was own 80% as of March 31, and Calstrs's $137 million net investment in the MSREF V U.S. LP fund was worth just $300,000.

「業用不動産市況が悪化するに従い、同社のクライアントも巨額の損失を取る羽目になった。カリフォルニア州教職員退職システム(CalSTRS)は4億ドルをモルガンスタンレーのMSREF第6シリーズ・インターナショナルLPファンドに4億ドルを当初投資したが、3月末時点で価値は8割減となった。また同じくCalSTRSはMSREF第5シリーズ米国LPファンドに投資した1.37億ドルも価値は30万ドル程度まで落ちた。」

(中略)Still, Morgan Stanley hasn't lost its appetite for managing real-estate investments and is in the process of raising another fund for clients.

「それでも、モルガンスタンレーは不動産投資マネージメントへの意欲は失ってはおらず、クライアント向けの新たな不動産ファンド立ち上げの準備をしている最中である。」

(抜粋以上)


モルガンスタンレーという会社は、不動産の分野では、ウォール街の中でも最も伝統が長く、不動産が得意という自負もあるんだよね。だから、こと不動産投資にかけては面の皮の厚さは人一倍、クレセントごときに失敗したからといっていちいちドギマギするようなナイーブさなど、一切持ち合わせていないんである。リスクまみれの物件を相手に放り投げて借金帳消し。

しかし、商業用不動産はまだまだ悪化しそう(担保価値はまだ下がる)というのが市場のコンセンサスだというのに、どこもかしこも、モルスタみたいに「担保物件まるごと差し上げますから、借金は帳消し、お願いね~~~!さいなら~~~~!」なんてことになったら、誰が大変かといったら、そうした投資資金を「融資」という形で融通してあげた、一般商業銀行である。

バークレーズみたいな大手はまだいいですよ。2000億円分の不動産物件がポーンと降ってきても、それをマネージする人材もノウハウもあるんだもん。

しかし、商業用不動産向け(CRE=Commercial Real Estate)の資金は大手銀行の独壇場だったわけじゃない。いや、実際、中規模・小規模の金融機関にCRE融資はむしろ集中している。

先月半ばに、米預金保険機構のシーラ・ベア会長は講演でこんなセリフを吐いた。

The most prominent area of risk for rising credit losses at FDIC-insured institutions during the next several quarters is in CRE lending. While financing vehicles such as commercial mortgage-backed securities (CMBS) have emerged as significant CRE funding sources in recent years, FDIC-insured institutions still hold the largest share of commercial mortgage debt outstanding, and their exposure to CRE loans stands at an historic high. As of June, CRE loans backed by nonfarm, nonresidential properties totaled almost $1.1 trillion, or 14.2 percent of total loans and leases.

預金保険がかかっている金融機関が向こう何四半期にも渡って信用損失の増加を目の当たりにするリスクが最も高い分野は商業不動産向けの貸し出しである。近年、商業用モルゲージ担保証券(CMBS=Commercial Mortgage-Backed Securities)などのビークルがCRE向けの資金源として多大な役割を担っていたことは確かだが、それでも、預金保険機構の傘下にある銀行群が商業用モルゲージ残高の最大シェアを持っており、これら銀行のCREへのエクスポージャは高く、史上最高の水準にいる。6月末時点で農地を除いた個人住宅以外の物件を不動産担保としているCRE融資は総額で1兆1千億ドル、銀行システム全体の融資残高総額の14.2%に相当する。


この1兆1千億ドルの借り手が次々と、モルスタの真似っ子して「物件に熨斗紙つけてくれてやる」と言って、貸し手にリスク丸投げ作戦を取ることにしたら、どうなるのか。

答えは、金融機関の破綻はまだまだ続く、である。(ちなみに先週の金曜日で今年124件目の銀行破たん。)

「金融機関が次々に破綻してる最中に、信用拡大が勝手に起きて、企業の資金繰りは楽になり、失業も減って、経済拡張モードが芽生える」、そういう薔薇色のシナリオが起こりえるとしたら、どなたか、筆者に説明してください。

金融機関が次々に破綻してる最中に、信用拡大しようとするなら・・・

そう、銀行システムは、セクター全体でみると、もっともっとキャピタル(資本)を調達しなければならない、ということである。そして、資本調達は、単刀直入に、株式の希薄化を意味するのだ。




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Monday, November 16, 2009

「ヘマな投資」は「犯罪」ではない (3)

週明けの月曜、米株市場、引き続き好調であります。主要インデックス、この13ヶ月で最高。

足元のファンダメンタルズ?んなもん、知ったことか、という雰囲気であります。

このモメンタム、いったい、どこまで行くのか。

株式サイドのウキウキ組のみなさんは、いつもにまして元気一杯、今日もCNBC局に出演し、「雇用統計は所詮、遅行指標。バルティック・ドライ・インデックスは先行指標。先行指標をみてごらん、先行き明るいぜ、イェイ!」とか言ってました。(そういえば、「日本経済だって峠は越したよ、先は明るいよ、イェェイ!」と叫んでるアメリカンもいました。そうなの?)

ここ最近、筆者が耳にした中で最もオプティミスティックなコメントは、先月末あたりだったと思うけど、ラジオ聞いていたら、Tishman というNYに本社のある大手不動産投資会社の役員が、商業用不動産の先行きに暗雲がかかってて銀行から開発用資金が出てこないのでは、という司会者の質問に対し、

「たしかに、商業用不動産市場に対する米銀の貸し出し姿勢には厳しいものがある。しかし、外国の銀行は必ずしもそうじゃない。彼らは、米国の不動産に強い興味を示しているから、資金は外銀から充分出てくる可能性があるし、そこまで悲観的にならなくてもよい。」

みたいなことを口走ったんである。

犬と散歩中にたまたま耳にしたので、正確なクォートではないが、内容はおおむね、こんな感じだった。

外国の銀行?どこ?中国の銀行とかでしょうか?まさか、ロシアの銀行とか?(汗)

日本の某銀行さんが一兆円増資するとかいうニュースを聞きましたが、米国で商業用不動産投資用に資金を融通するために日本勢が資本調達してるとは、筆者にはとうてい想定できないんで、ティッシュマンの言う「外銀」に、邦銀は含まれていないと思われる。

いや、邦銀まで将来の資金源の中に含めて言ってるとしたら、ティッシュマンという会社も、底なしの楽観主義者である。

ティッシュマンが、Blackrock Properties とともにマンハッタンで行った最大級($5.4ビリオン)の商業用不動産投資(Stuyvesant Townという大規模集合住宅プロジェクト)でコケて、つい先週"実質的”にデフォルトに陥り3000億円規模のローン・ワークアウトに入ったという事実なんぞ「どこ拭く風」状態である。$30億デフォルトしたって、次のプロジェクトには外銀がカネかしてくれるだろう、と期待する。

Mmmm....見上げた根性である。

しかし、この半年以上というもの、オプティミストの圧勝ですからね。

ヘレン・ケラーの名言に、「星の秘密を見つけた者に悲観論者はいない。(No pessimist ever discovered the secrets of the stars.)」というのがあるそうだ。

筆者もウジウジばっかしてないで、少しティッシュマンを見習ったほうがいいかもしれない・・・。

見上げてごらん、夜の星を・・・。(今夜、流星が見られるそうなので、朝3時に起きる予定。)

   ★   ★   ★

さて、前回の続きです。(この話、今日で終わりにします、ハイ。)

ジャネット・タヴァコリ氏が Huffingtonpost.com に掲載した自著からの抜粋文は、ここ(↓)で読めます。

Ralph Cioffi: Off the Hook for a Long Time Pattern of Behavior
(Huffington Post, 11/11/09)

[Excerpted with permission from the publisher, John Wiley & Sons, from Dear Mr. Buffett, What an Investor Learns 1,269 Miles from Wall Street, by Janet Tavakoli. © 2009 by Janet Tavakoli]

英語の原文のほうはHuffingtonのサイトで読んでもらうとして、以下は、MHJ筆者による抄訳です。(一部はしょってること了承ねがいます。)





『2007年5月9日、ビジネスウィークの記者マット・ゴールドスティンから電話が入り、エバークエスト・フィナンシャルという会社のIPOのレジストレーション文書に目を通す機会があったかと聞かれた。同社は2006年9月設立された非公開会社だった。私は仕事に追われていて、エバークエストの書類を読む時間はないと断った。だが、マット・ゴールドスティンは翌日も、翌々日も電話をしてきてコメントを求め、このIPOは重要なディールだと思うと言った。

彼の根気に負け、わたしはSECのサイトに行きドキュメントにザッと目を通してみた。そのとき、わたしの脳裏に浮かんだのは「ベアスターンズは、ついに、完全に気がふれたのか」という疑問だった。 クレヴァー(clever)とインテリジェント(intelligent)では意味が違う。

詳細を読むためにプリントアウトしながら、わたしは他の仕事を脇によけて言った。「マット、あなたは正しい。これは重要だわ。」BSAMがマネージしているファンドがCDOのファースト・ロス・リスク(エクイティトランシェ)に投資していることを知りわたしは驚いた。わたしの意見では、そのCDOが対象としている資産は一般投資家向けとしては適切な資産とは言えなかったからだ。すべての詳細に目を通す時間はなかったので、2007年3月にシティグループが組成したCDO投資に着目した。エバークエストがIPOで市場から集めた資金の一部はシティグループが同社に提供したクレジットライン2億ドルの支払いに充てられると思ったのだ。

エバークエストはシティによるCDO投資のトランシェの中で最もリスクが高いとされる“ファーストロス”リスクを取っていた。だがその頃までには、最もリスクが低いとされていた同CDOのAAA格のトランシェに投資していても問題になるであろうと私は感じていた。わたしのこうした懸念は後日その通りになった。このシティが組成したCDOは2008年2月にデフォルトを起こし、組成当初AAA格を付与されていたトランシェもS&Pによってジャンク格に格下げされたのだった。

エバークエストの投資資産は、サブプライムのモルゲージローンに相当のエクスポージャを抱えていた。ドキュメントによれば、同社がエクイティトランシェに投資していたCDOの大部分が、サブプライム住宅融資を担保プールにして組成されたRMBSをもとにして証券化されたものだった。わたしの大まかな試算では同社の投資総額の4割から5割が、こうした証券で占められていた

わたしは懸念に感じられるいくつかの点を、できるだけ一般的な内容にしてマットに伝えた。(1)IPOのプロシードはシティグループのクレジットライン$2億ドル支払いに使われるであろう点、(2)そのシティから受けた融資というのは、エバークエストがBSAMの二つのヘッジファンドからCDOやCDO-Squaredを含む投資資産を買い取るために使われていた点、(3)エバークエストの投資資産には相当高レベルのサブプライム・エクスポージャがある点、など。

マット・ゴールドスティンはその日のうちにビジネスウィークに記事を掲載した。掲載当初、この記事の見出しは「エバークエストのIPO:投資家よ、注意せよ」だったが、後にBSAMからクレームがつき、ビジネスウィーク誌は「ベアスターンズのサブプライムIPO」という見出しに変更した。

ラルフ・チオッフィは、ビジネスウィークに掲載された記事について話したいと、わたしにコンタクトを取ってきた。彼はエバークエストのようなIPOはこれまでもいくらでも市場にでてきている(ただし、ほとんどはSECとディールしなくて済むようにオフショアで行われていた。)といい、BSAMのヘッジファンドとStone Towerで合わせて70%の持分があるが、IPOが行われる日に自分達の持分を現金化する意図はないといった。IPOのプロシードはシティグループへの返済と提携関係のないプライベートエクイティの投資家からのバイアウトに使う予定であると。

わたしは、持分の現金化の意図がないという口頭での約束は何の意味もない、公開市場で売買される証券はいつだって売却できるのだから、と答えた。それに、たとえファンドが大株主でい続けても、リテール投資家にとっていいことなどない、マネージャーのやり方に異議があっても少数株主では何もできないのだから、とも言った。

ラルフはエバークエストの資産に含まれるサブプライムエクスポージャは「実際には非常に小さいパーセンテージしかない」と主張した。同社はサブプライム・リスクをヘッジしているので、時価ベースではサブプライムエクスポージャは実際ネガティブになる、といった。テクニカルに言えば彼の主張は正しいかもしれない。だが、わたしが読んだIPOドキュメントには、「サブプライムエクスポージャは完全にリスクヘッジされていない」と、ラルフの主張とは逆のことが書かれていた。

ヘッジ分を差し引いたネットエクスポージャについて語るのはかまわない。だが、ネットの話をするならば、ヘッジ前の実際の投資額であるグロスエクスポージャについても語るのが通常だ。それに、ヘッジにはコストがかかる。その分、投資リターンは減額されるのだ。

ラルフ・チオッフィはCDOのエクイティ部分は市場で自由に取引されておりマネージするのは困難ではないといった。あなたにとっては簡単かもしれないが、インベストメントバンクや会計事務所らはCDOエクイティ部分の時価評価が困難であると言っていると、わたしは彼に対抗した。もしこれがCDOの私募であるならば、この手の投資に精通しているソフィスティケートされたプロの投資家のみに売られる性格のものだろうが、これは一般公募(IPO)であり、資産が債券投資の場合SEC規制の目を逃れる方法はあるようだが、わたしの意見としては、これは一般のリテール投資家向きではないと思う、と私は述べた。

ラルフは、弁護士と相談して、サードパーティによる時価評価を行うという一文をIPOのレジストレーションに付け足すようにしようといった。私達の会話はどうも互いにずれているようだった。レジストレーションのドキュメントには引受け時にサードパーティによる時価評価を行うとすでに書かれてあったのだから。問題なのは、時価評価をする際、評価に不可欠な「前提条件」が、利益相反の立場にいるマネージャーから提供されるという点だった

ラルフがいつまでも会話を続けたがるので、わたしに何をしてほしくて電話してきたのか、私の方から彼に尋ねた。彼は、わたしにこう言った。「あのビジネスウィークに記事に掲載されたコメントは、あなたが言わんとした内容からずれていて、同記事にクレディビリティは与えたが、あなた自身にとってはいいことはないという内容のコメントを出してくれないだろうか。それに、自分自身でコメントを出したほうが、ご自分のためにもいいんじゃないですかね。」わたしは、底に軽い脅しの雰囲気を感じたが無視し、「自分でコメントを発行するなら、たったいまわたしとあなたが話し合ったポイントついて、さらに詳しく調べて問題提起することになると思うわ。」と言い返した。ラルフは不服そうだったが、わたしが頭の中で「ゾンビのヘッジファンドマネージャー」の姿に彼を重ねて想像していたことなど、彼にはどうでもよいことだった。

(※上記の抄訳に間違いがあれば、すべてMHJ筆者の責任です。)


   ★   ★   ★

陪審員には「乗客をひとりでも助けようと最後まで努力しつづけ海に散った船長」というイメージだった、その同一人物が、このひとにかかると「墓から出てきたゾンビのヘッジファンドマネージャー」( a hedge fund manager from Night of the Living Dead)。

陪審員が抱いたイメージ




ジャネットが抱いたイメージ



ラルフ・チオッフィ本人



どちらのイメージに近いかは、各自で判断ねがいます。

   ★   ★   ★

ジャネット・タヴァコリが言及しているビジネスウィークの記事はこちら。

Bear Stearns' Subprime IPO(Business Week, 5/11/07)

この記事中に、こんなくだりがある。


The sales pitch for the IPO, which Bear Stearns is also underwriting, is that Everquest will "provide attractive risk-adjusted returns" to shareholders by investing in collateralized debt obligations (CDOs)—a sophisticated bond that's made up of pieces of lots of other asset-backed bonds.

エバークエストのIPOの引受けにはベアスターンズも入っているが、本ディールのセールスピッチは、CDOに投資するエバークエスト社に株投資することで、魅力的なリスク調整後のリターンが得られるというものだ。CDOとは、証券化された債券をいくつも集めて作られた高度に複雑な債券のことだ。


このIPOには、ベアスターンズ本社も引受けに関わっていた。これはエクイティのIPOであるから、投資家にこのIPOを勧めてたのは、エクイティ・セールス部隊のはず。こういっちゃなんだが、基本的に株式しか売ったことのないエクイティ・セールス部隊に、エバークエストの資産(CDOのファースト・ロス)がどんな性格のリスクなのか、エバークエストの資産の【リスク調整後のリターン】がどうやって計算されたのかなどを、本当に理解し納得して顧客に勧めていた人間がどれくらいいたのだろう。

2007年も半ばになると、【モデルがはじく理論値】と【市場で実際に取引される際のディスカウント】との間に生じる乖離が大き過ぎて、それらの組成に実際に関わってる担当バンカー達も、それを市場でプライシングするのが仕事のボンド・トレーダー達ですら、内心困惑しきってたんだからね。

ちなみに、CDOのトリプルAのトランシェが、トリプルAの格付けもらえた理由は、AIGやMBIAなどの保険会社やギャランティ会社が、CDOのクレジットリスクに対して、CDSのライター(リスクの取り手)となり、リスクヘッジしていたからである。CDOに対してCDSを出しまくった結果が、あのAIGの顛末だったわけである。覚えておいてほしいのは、AIGが取っていたのは、CDOのトランシェの中でも最もリスクが低い「トリプルA格のリスク」が中心だったんであるよ。

エバークエストが抱えていたのは、トリプルAどころか、格付けすら付いていない「サブプライムCDOのエクイティ・リスク」だった。猛毒のクレジットリスクがさらに濃縮してた感じ。それをIPOするってさ・・・筆者なんかは、ウッと言葉に詰まったきり何も言えん。


   ★   ★   ★


その後エバークエストのIPOがどうなったかというと、5月にSECにドキュメントは提出したものの、6月にサブプライムリスクが急激に悪化、エバークエストのIPOブックには需要が集まらず、同社は6月21日にIPOの取り下げ申請し、ディールは中止になった。2007年6月22日のウォールストリートジャーナルがそれを伝えている

なんだかんだ言っても、BSAMのエグゼクティブ二人については、刑事事件としての判決は出てしまった。

陪審員はBSAMのスキームに問題があったとは見なさず、それどころか「自分のおカネをこの人たちに預けたい」と思うぐらい魅せられて、この事件の刑事裁判は終わりを迎えた。

「バリュエーション困難なCDOのエクイティリスクを、リテール投資家にオファーする」という行為が意味するもの-。

「従来一部のプロ限定で売買されていた特殊証券への投資機会を広く一般にも提供しようとした」と受けとれば、それは「犯罪」ではないかもしれない。しかし、仮にも、プロフェッショナルを自認しプライドある者ならば、そういうアイディア自体、果たしてどうよ。

そして、この判決で透けて見えた「陪審員制度の限界」と、金融史に残るサブプライム問題に加担したとして裁かれた者たちに自分のおカネを預けたいと考えてしまうような「素人投資家の危うさ」。

いろんな側面を持った判決だったと思うな。

次は民事事件として裁かれることになるが、被告の二人には損害賠償請求が生じるかもしれない。

話は飛ぶが、『FROST/NIXON』という映画をごらんになったことがあるでしょうか?ご承知のように、ウォーターゲート事件では、結局はニクソン本人は犯罪者として起訴されることはなく、彼は罷免されずに、大統領をみずから辞任した。

『Froxt/Nixon』トレーラー





あの映画のクライマックスで、自分は「犯罪」を犯したのではないと主張するニクソンに、インタビュアーのフロストが、こう切り込むシーンがある。


” I think the American people would like to hear you say ... One is: there was probably more than mistakes; there was wrongdoing, whether it was a crime or not; yes it may have been a crime too. ・・・(中略)・・・And I know how difficult it is for anyone, and most of all you, but I think that people need to hear it and I think unless you say it you are going to be haunted by it for the rest of your life.”

「アメリカ国民はあなたの口からじかに聞きたいことがある。ひとつは、たぶん、あなたの行為は単に過ちを冒したという以上の行為だったということ。それが(法的な意味において)犯罪であろうとなかろうと、やってはいけないことをやったのだ、と。いや、それは犯罪だったのかもしれない、と(中略)それを認めるのがどんなに困難かはわかっています。誰にとっても、特にあなたにとっては困難の極みでしょう。でも、国民はその言葉をあなたから聞きたがっている。あなたが自分の口からそれを言わなければ、あなたは一生、それに取り憑かれて生きてゆくことになるでしょう。」





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Saturday, November 14, 2009

「ヘマな投資」は「犯罪」ではない(2)

前回の続きである。

判決後にネット上で出回ってた記事とは、ジャネット・タヴァコリ氏が今年1月に出版した『Dear Mr. Buffet』という本からの抜粋であった。

ジャネット・タヴァコリはストラクチャード商品、とりわけ、クレジット・デリバティブスの分野のエキスパートとして知られ、クレジット・デリバティブス関連の著書も多く出している。(参考書のようなテクニカルな内容の著書が多く、日本でも『クレジット・デリバティブス取引事例集』という翻訳版が出されているようだ。)

彼女は80年代からベアスターンズやゴールドマンで証券化とクオンツリサーチの現場で経験を積み、今回の裁判で無罪判決を受けた被告のひとりラルフ・チオッフィとはベアスターンズ時代の同僚でもあった。氏は現在、ストラクチャード・ファイナンスのコンサルタント会社社長を務め、メディアにもコメンテーターとしてちょこちょこ顔を出す。

その彼女が2009年に出版した著書『Dear Mr. Buffet』の中に、BSAM崩壊前夜にあたる2007年春に、エバークエスト・フィナンシャル(Everquest Financial Ltd.)という非公開会社のIPOに関し、チオッフィと直接コンタクトを取った際のやり取りが記されている。

タヴァコリは、チオッフィらの無罪判決後、ニュースブログ 『Huffington Post』に自著からその部分を抜粋して掲載し、それが同日のうちに米国の多くの金融ブロガー達により転載された。

これがなかなか面白いので、MHJでも紹介したい。

   ★   ★   ★

タヴァコリの本文に入る前に、予備知識として、何点か触れておく。

まず、証券化について。

一般に、「証券化する」というと、金融資産をプールして「資産のカタマリ」を作り、それを対象資産として再構築することにより、そのプールが生み出すキャッシュフローを、リスク度合いの異なる複数の層(トランシェ)に切り分けて分配し、債券の形式に組み直すことを指す。

「金利キャッシュフローを生み出す資産」であれば、どんな資産でも証券化の対象となる。一般の企業融資でもいいし、クレジットカードローンでもいいし、住宅のモルゲージローンでもいい。 住宅ローンのサブプライム部分も当然証券化の対象となり、住宅バブル全盛期には、これらを対象資産とした証券化が活発に行われた。住宅ローンを担保プールにして証券化したものをRMBS〔Residential Mortgage Backed Securities)という。(ファニーやフレディがやってる業務ね。)

証券化されると、計量化されたリスク量に従って、各トランシェにそれぞれAAA格、AA格・・・などと格付けが付けられて、リスクの低いほうからシニア部分・メザニン部分・エクイティ部分とざっくり分類される。トランシェごとに期待リターンが大きく異なるために、それぞれのトランシェの投資家層も異なり、シニア部分は銀行などのコンサバでキャピタル規制が厳しい投資家が多いが、メザニン・エクイティ部分になるとヘッジファンドや銀行系の非連結子会社など、リスク許容量(Risk Tolerence)がより高いプロの機関投資家が占める。

延滞率が上昇するなど、対象資産のプールが生むキャッシュフローに乱れが生じると、まずはエクイティ部分がその損失を吸収し、エクイティ部分がこれ以上損失を吸収できない(=価値がゼロになる)という状態に陥って初めてメザニン部分に損失が発生する仕組みである。エクイティ部分は、プールに損失が実際に発生すると、いちばん最初に損失を吸収しなくてはならないため、ファースト・ロス・リスク(First Loss Risk)とも呼ばれる。

さて、「金利を生む金融資産ならば何でも証券化の対象になる」と上に書いた。ということは、証券化により作られた債券も金利を生むので、これらをさらに証券化することは【理論上】可能ですよね?

住宅融資をまとめて証券化したRMBSの「メザニン部分」ばかりを集めてきてプールを作り、それを対象資産にして再び証券化したものが、CDO(Collateralized Debt Obligation)と呼ばれる、クレジット・デリバティブスの一種である。CDOもやっぱり、トリプルAから無格付けのファーストロスまで、複数のトランシェに分かれて債券として発行される。

RMBSを組成する際、サブプライム融資を中心に集めて資産プールをつくると、そのプール全体のリスク量は、プライム融資ばかりでつくったプールよりも高リスクになりますね?だって、もともと、「クズ」ばっか集めたんだから。

そして、メザニン部分ばっか集めて資産プールをつくると、シニア部分を集めて作った資産プールよりも、そのプールは高リスクになりますね?だって、メザニンのほうがシニアより信用力低いんだから。

でも、数学オタクの皆様による【金融工学】の進歩のおかげで、ジャンク並みの信用力しかないクズばっか集めたプールでも、証券化してリスクプロファイルの異なる複数の層に分けてやれば、トリプルA格をもらえるようなトランシェができちゃうんである。現代版錬金術。

そうやって作ったCDOのメザニン部分をまたまた集めてきてプールにして、それを証券化してデリバティブスのデリバティブスを作ると、CDO-Squared (CDOの2乗)というのが作れて、CDO^2のメザニン部分集めてさらに証券化すると、CDO-Cubed(CDOの3乗)というのがつくれて・・・と、鏡を向かい合わせて立てかけたように、「無限(∞)の奥行きを持つ数学美」の世界が展開されるんである。

このプロセスを延々と繰り返して、CDOのn乗(CDO^n)(nは自然数)を作り出すことは【理論上】は可能なわけですよ。あくまで【理論上】はね。

しかし、そうやってリスクの濃縮度が高いトランシェをわざわざ取り出しては証券化を繰り返すのだから、CDO、CDO^2、CDO^3・・・CDO^n と自然数nの数が大きくなるに従い、そのデリバティブスのリスク量は指数関数的に増大する、ってのは、数学オタクじゃなくたって【直感】としてわかりますよね?

そもそも、証券市場の動きってのは、サイエンスじゃないからね。

サイエンスで説明できない証券市場に、サイエンス理論のみで武装した商品を持ち込んだもんだから、自然数=2 あたりで、すぐにドバーーーーーン!!と破裂して空中分解した。

無限(∞)の奥行きを持つ理論にしては、ほころぶのがずいぶん早いな。(爆)

いったん相場が崩れだしたら、数学モデルがはじく理論値は、もはや意味をなさなかったのである。

   ★   ★   ★

さて、ベアスターンズ・アセット・マネージメント(BSAM)の話に戻ろう。

この会社がマネージしてたヘッジファンドの中に、〔1〕Bear Stearns High Grade Structured Credit Strategies Fund というのと、〔2〕Bear Stearns High Grade Structured Credit Strategies Enhanced Leverage Fund という、二つのファンドがあった。

〔1〕のほうは2003年に設立され、当時の金利低下に伴うクレジットバブルに乗って2006年まで二桁リターンを上げ続けた。これに気をよくして、2006年8月、BSAMは〔2〕をローンチ。この二つのファンドは、CDOやCDO-Squaredに積極投資してリターンを上げていた。

2006年というと、MHJ筆者は当時、某大手証券のニューヨーク本社のセルサイド債券フロアにいて、クレジットトレーディングのフロントの傍で仕事してたが、ウォール街の証券各社はどこも、利鞘が薄くなりすぎて企業債証券の多くがコモディティ化(=スプレッドに差がつかない)し、伝統的なクレジット商品では儲けることができなくなっていたのを思い出す。

そのため、セルサイドの証券各社は、一般企業債などよりも、マージンの高いストラクチャード商品やハイブリッド商品に力を入れ、CDOなどのエキゾチックな証券化商品(←後にToxic Assetsと呼ばれる)へと傾倒していった。中でもベアスターンズとリーマンは、エキゾチック商品の分野でアグレッシブに動いていて、みなハッキリ口には出さなかったが、ベアスターンズグループが「危ない橋渡ってる」という“印象”は当時ニューヨークでクレジット市場に関わるものなら誰もが抱いていた。

バイサイドも同様で、市場のクレジットスプレッドがタイトすぎて、クレジット物でリターンを揚げようとするならば、ファンドに高リスクのエキゾチック商品を組み込まない限り、魅力的なリターンを得るのは困難になっていた。そういう時期に、BSAMは積極的に高レベルのクレジットリスクにロングポジション取ってたんだな。

BSAMが〔2〕のファンドをローンチしてほどなく、サブプライム市場は暴落。2007年4月末までに〔2〕のファンドは2007年の年初から23%の下落を見ていた。同年6月にはファンド凍結が宣言され、ファンドの投資家は引き出しができず、損失が拡大し続けるのを黙ってみているしかなかった。そして同年7月には、BSAMは〔2〕のファンド価値は限りなくゼロに近く〔1〕のファンドも1ドルあたり9セントに下落したと投資家に告知した。

   ★   ★   ★

冒頭で紹介したタヴァコリの著書からの抜粋部分には、BSAMとStone Tower Debt Advisorsの2社が共同でマネージしていた非公開株式会社『Everquest Financial, Ltd.(以下、エバークエスト)』がIPOをしたときのことが書かれてある。

同社がIPOを行ったのは、BSAMのCDO投資ファンドの価値が下落していた4月とファンド引出し凍結宣言を出した6月のちょうど中間にあたる、2007年5月のことであった。

タヴァコリによると、IPO直前のエバークエストの資本構成は、BSAMのヘッジファンドとStone Towerのプライベートエクイティファンドが約7割、残り3割は両者と提携関係のないプライベートエクイティだった。

エバークエストはシティグループなどから融資を受けてレバレッジをかけ、それを資金にして、BSAM傘下の〔1〕と〔2〕の債券ファンドからCDOやCDO^2を買い取っていた。

タヴァコリが「驚愕した」と書いているのは、エバークエストにCDOを売却した側のBSAMの二つのファンドが、リスクの高いCDOやCDO^2のシニア部分“以外”にも投資をしていた、という事実だった。

ファンドの名称は「High Grade」ってことになってたんだよ。

普通、ファースト・ロス部分に「High Grade」という言葉は使わないんですけどね・・・。

BSAMは、トラブっていた二つのファンドから、CDOやCDO^2投資のハイリスク部分を関係会社のエバークエストに買い取らせ、要するに、【飛ばし】やってたんである。

売り手も買い手もBSAMなんだから、売買時の価格なんてわかったもんではない。

7月には価値がゼロになるぐらいサブプライムリスクを取ってBSAMのヘッジファンドの資産が大幅劣化していたことを知りながら、BSAMのヘッジファンドよりさらに高リスク資産を抱えていたであろう飛ばしビークルを、5月にIPOして資金を集め、シティグループへの借金返済とエバークエストの少数株主のプライベートエクイティ(筆者が想像するに、おそらくベアスターンズのクライアント)のバイアウトをしようとした。

5月にエバークエストIPO、7月にBSAMファンドの価値全損。

IPOですよ、IPO。私募じゃないんだよ。うちのお母さんだって買おうとおもえば買えるんだよ。

わたしから見たら、取り返しのつかない段階に来ていることを知りながら、「公募」の形をとって、一般投資家にそのリスクを持たせようとした、という図にしか見えないんですけどね。



        〔次回に続く〕



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Thursday, November 12, 2009

「ヘマな投資」は「犯罪」ではない

NYダウ、今週にはいり、なかなか好調であります。11000に行くという話が、ちまたでマジメに語られております。

この好調ぶりを反映し、ヘッジファンド業界に投資資金が戻り始めているようだ。

Deutsche Bank Sees Hedge Funds Topping $2 Trillion (Bloomberg, 11/10/09)

このブルームバーグの記事によると、ヘッジファンドに預けられた資産は関係者の予想を上回るペースで回復しており、残高推移は以下のとおり。

 -2008年6月  1.98兆ドル ←ピーク
 -2009年3月  1.33兆ドル ←近年最低
 -2009年9月  1.53兆ドル 

このペース回復が続けば、来年2010年の暮れまでには2兆ドルに達する見込み、という。

メードフの巨額詐欺事件や、先月摘発を受けたファンド「ガリオン・グループ」によるインサイダー取引スキャンダルなど、なんのその。

カネの儲かるところに、カネは流れる、か・・・。


   ★   ★   ★

ヘッジファンドといえば、10日の火曜日、旧ベアスターンズのヘッジファンドマネージャー二人に、【無罪】の判決が出された。

U.S. Loses Bear Fraud Case (WSJ, 11/11/09)

被告は、ベアスターンズ・アセット・マネージメント(BSAM)の元エグゼクティブ二人。原告はアメリカ合衆国、一般市民から選ばれた12人の陪審員が有罪かどうかを審議した。

検察が要求した罪状は、(1)サブプライム投資で回収見込みがないことを知りながら投資は問題なしとウソついて投資家に損失を負わせた、とか、(2)一般投資家から資金を募る一方で自分の資金は別のファンドに移すなどインサイダー取引を行った、とか、(3)一般投資家に損失が出ることを承知しながら無謀な投資を勧めたあげく、引き出しを困難にさせて損失を拡大させる陰謀を働いた、とか、罪の数は全部で6件。被害を受けた投資家は、機関投資家や富裕層の個人投資家など、総額15億ドル(1500億円)。

これに対し、被告弁護人によるディフェンスは、彼らに投資家をだましてやろうという「意図」はなく、むしろ損失の拡大を阻止しようと最大限努力したが、雪崩のように頭上から崩れ落ちてくる市場のちからに抗うことはできなかった、ファンドが破綻した直接原因は彼らの判断のせいではなくて銀行が貸付金の回収に走ったからだ、彼らはスケープゴートにされただけだ、というもの。

上のWSJ記事によると、検察側が提示した証拠の数々は「被告が明確な意図を持って金融犯罪を働いた」ことを【証明するには不十分】であり、疑わしきは罰せずの精神にのっとり無罪、ということらしい。

もしも有罪となったら、この二人の被告は、罪状一件につき20年の服役とかいう重い罰則に付されるところだったのだから、無罪という判決が出たとき、どんなにホッとしたであろうか。

イギリス発の硬派オピニオンブログBreakingviewsは、金融危機にウォール街がどう貢献したかを裁く裁判としてはこれ以上の好例はないとして、今回の無罪判決の「意味」を問い、こう書いていた。

There is little doubt they were guilty of excessive optimism - even of downright incompetence. But as Tuesday's acquittal of Tannin and Cioffi appears to make clear, neither is yet a crime.

「過度にオプティミスティック」だった点が有罪だというなら、この二人に疑いの余地はない。あるいは、「ファンドマネジャーとして無能だった」という点も、同様かもしれない。しかし、今回出された無罪判決は、そのどちらも【犯罪】には相当しない、という点を明白にした。


大きな損失こいたからといって、ファンドマネージャーを犯罪者にはできない。

自分でよく理解できないような商品には投資するな。投資は自己責任で。 結局はそこに戻ってゆくのである。


   ★   ★   ★


しかしね、この判決を伝える記事群に陪審員達の判決後のコメントがいくつも載っているんだが、それらのコメントが、筆者はどうもひっかかってるんである。

The verdict(中略)came after about six hours of deliberation by a mostly working-class jury of eight women and four men.

『女性8人男性4人の、ほとんどが労働者階級のメンバーで構成された陪審員により、6時間の審議を経て判決が出された。』


ある陪審員のコメント。

There "was nothing that was clear and convincing," said juror Tabasam Bhatti, a 31-year-old civil servant. The prosecution didn't provide "enough information," he said.

『陪審員のひとり、31歳の公務員タバサム・バッティさんは、(被告の二人が罪を犯したことを証明するには)何一つとしてクリアじゃなかったし、(意図的に犯行にいたったと)確信を持つことができなかった、検察側は十分な情報を提供しなかった、と述べた。』


また、別の陪審員は、こう言ってる。

Another juror, Aram Hong, a 27-year-old Korean immigrant, compared Mr. Cioffi to the captain of a ship, saying that while the ship was sinking, he and his colleagues were "working hard, 24/7...to stop the boat from sinking."

『別の陪審員、27歳の韓国からの移民アラム・ホングさんは、被告を船長に例え、「船は沈みかけていたが、被告とその仲間達は、なんとか沈没から船を救おうと、寝るヒマ惜しんで必死に働いていた」と述べた。』


このホングさんという人は、NYミッドタウンのホテルの裏方で飲み物を管理する仕事をしているそうだが、彼女は、被告がファンドを救おうと明け方まで必死に仕事していた点を引き合いに出し、『If this was really a fraud case, they wouldn’t have worked that hard.(彼らが不正を働こうとしていたのなら、あんなに一生懸命働いたはずない。)』と言った、とブルームバーグ記事が引用している。

あんなに一生懸命仕事をしたはずがない。「はずがない」かぁ・・・

ウォール街というところは、ホングさんの働くホテル業界(←労働組合が仕切る)とは似ても似つかぬ労働環境。朝の4時だろうが5時だろうが一切おかまいなし、一週間連続徹夜で働くなんてのはあたりまえ、仲間内のひとりやふたり心臓麻痺起こしてバッタリ倒れても、ディール完遂のためなら病人放置して働き続ける、そういう

【純粋タコ部屋業界】

だという事実を、ホングさんはきっと知らなかったんだろうな。

業界の人間が聞いたら「朝の4時?フツーだ」という反応しかないよ。

また別の陪審員は、判決後に、「彼らに罪はない、彼らはスケープゴートにされただけ」と言ったともいう。でもそれって、被告弁護人の主張のまんまでは・・・

うーーむ・・・

今回の判決は、たしかにBreakingviewsの言うとおり「投資マネージメントで【ヘマ】をやったとは認められても、意図的に損失を引き起こしたコンスピラシー犯罪にはならない」という前例を作り、知的犯罪の立件の難しさを世に示したわけであるが、それと同時に、これらの陪審員による判決後のコメントを読んだときに、筆者は、どうしてもぬぐえない「ある疑惑」を抱いてしまった。

もしかして、この陪審員たち、原告側・被告側双方から示された証拠物件や事件の背景説明を、公判通じてほとんど理解できてなかったんじゃないのか?

   ★   ★   ★

公判が開かれていた期間は3週間。それに対して、陪審員が実際に判決を下すまで6時間。かなりのスピード判決である。

陪審員の多くが、提出された情報に消化不良を起こしていたとしても、無理はない。

この事件で、問題の焦点となったのは サブプライム融資やレバレッジのかかった企業融資などを対象資産とした CDO とか CDO-squared と呼ばれる「仕組み債」だったわけだからな。

こうした特殊証券は、それらがどんな風に組成されて、どんなリスクを抱えていて、みたいな話は、ウォール街で長いことプロとして働いていたって、この分野を専門にやってなければようわからん、そういう類の商品なんである。

筆者もクレジットの分野は専門として結構長くやりましたけどね、それだって、CDO-Squared だの、CDO-Cubed だの、CPDO(Constant Proportion Debt Obligation)だの、ここらへんの話になってくると、プロスぺクタスを斜め読みしたり一度さら~と説明受けただけでスイスイ頭に入ってくるような、そんな生易しい証券じゃ、おまへんて。この種の証券ってのは、高度なカスタマイゼーションだって、自由自在に効くんだもん、「CDO」というひとことで単純にくくれない。

トリプルAだの、ダブルAだの、いちおう格付け会社から格付けつけられて、市場参加者の多くは、その格付けをよりどころにしてリスクの度合いを測っていたわけだが、その格付け手法そのものがジョークだったというのは、いまや誰もが知ってる話。

市場での取引が薄く流動性の低い証券だったというのもあり、証券の価格ボラティリティが極端に高く、市場価値の把握が困難という別の問題もかかえていた。売買でメシ食ってるプロの債券トレーダーでも値付けに苦労するようなシロモノなんだもん、一般のリテール投資家向けじゃないのは言わずもがな。

ましてや、おそらくベーシックな金融知識を持ち合わせない陪審員達が、3週間やそこらの断片的なプレゼンで、肝心の証券そのものを理解するのはまず不可能。

そうした高度に複雑な金融商品が審議の中心にデーンと座ってて、被告が損失が発生するのを認識していたか否か、認識していたのに問題はないとして投資家に購入を勧めたのか、そこが検察側が強調したポイントだったはずなんだけど、肝心の対象証券がどんなものか全然わからない状態で判決出すのは、致命傷が刺し傷なのか銃創なのかも判断できていないままナイフしか保持していなかった被告を裁く、みたいなもんではないか。

だから、判決後の陪審員のコメントも、もっぱら「沈み行く船の船長として最後までがんばった」というタイタニック号さながらのヒーロー物語になっていたり、「スケープゴートにされただけ」という弁護側の主張をオウムのように繰り返していたり、しまいには、

『もし自分におカネがあったら、この人たちに預けて運用してもらいたいぐらいだ』

と判決後に述べた陪審員すらいた、っていうんである。

Bear Juror Says U.S. Case So Weak She’d Invest With Defendants
(Bloomberg, 11/11/09)

これらのコメントを読み筆者が感じるに、この12人の陪審員たちが判断のよりどころにしていたのは、もっぱら、被告弁護団がたたみかける「被告の人物評」であって、検察側が示すクソ面白くもない特殊証券の取引の話なんかは、聞いても脳内に膜がかかったようになってたのではなかろうか。

しかし、そうだったとしても、それは専門知識を持たない陪審員のせいじゃなくて、法廷内のパフォーマンスで明らかに差をつけられた検察側のせいである。

また、たとえ陪審員がこの道の専門家ぞろいであったとしても、Breakingviewsの見解どおりで、この二人の意図的な不正を証明することは困難だし、この二人の行為がサブプライム問題という世界中を巻き込んだドデカイ問題を拡大させたと持ってゆくことは、どだい無理なはなし。

そう、【ヘマな投資】は【金融犯罪】ではない。

しかし、この被告人たちは、ホングさんら陪審員たちが信じたように、タイタニック号の船長のような果敢なヒーローだったのだろうか。

2007年後半の段階といえば、USABCP(US Asset Backed Commercial Paper)市場が完全瓦解しSIVなどの証券化ビークルの短期資金繰りが事実上不可能になっており、CDOのトリプルA格も次々に格下げくらってたころだよ。メリルリンチらがCDO投資の含み損を大量償却して赤字に陥ったころなんだから。

そんな頃に、ほんとうに、心の底から当該証券の価値が回復するとオプティミスティックに彼らは信じ続けていた、とでも?

これは、犯罪か否かの問題というよりも、投資のプロとしてのモラルとか、ウォール街のカルチャーとか、そこらへんで「それって、どうよ・・・?」と疑問を投げかける問題じゃないのかな。

これについて、ある仕組み債の専門家から、非常に興味深い話が、判決直後にネット上で回されてきた。

         (次回に続く)





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Friday, November 6, 2009

今年の年末消費動向は・・・?

ご無沙汰しております。

日ごろスポーツにはあまり興味ないんですが、なにせ、9年ぶりに、我が街ニューヨークに世界一のタイトルが戻ってくるかどうかの大事なワールドシリーズってことで、試合に連夜釘付けとなり、Murray Hill Journalのほう、すっかり、さぼっちゃいました。ごめんなさい。


いやー、それにしても、今シーズンの松井選手の活躍、すばらしかったですねぇ。松井選手の打率「.615」って、1928年のベーブルースが打ち立てた「.625」に続く数字だというではないですか!

こうなるともう「すごすぎる・・・」という言葉しか思い浮かばないですよね。文句なしのM.V.P.。

米国のメディアはどこも、松井選手を「Professional」と呼び、「どんなときでも沈着冷静、プロとしての姿勢を崩さず頂点についた、突出したプレーヤー」と手放しで大絶賛。

ニューヨーク地元紙デイリー・ニュース(←スポーツニュースのカバレージでは最も影響力あり)は、Losing Hideki Matsui after MVP World Series performance may be wrong move for New York Yankees という記事を掲載して、「ヤンキースがMVP松井を手放すのは間違いだ」と主張してましたが、若返りをめざしたいチームの意向もわかるけど、ヒーロー松井にはわたしもニューヨークに残ってほしいなぁ。

(右写真は、優勝を祝し白とブルーのヤンキースカラーでライトアップされたエンパイア・ステート・ビルディング。自宅付近で昨夜撮影。筆者のフォトブログより。)

NYヤンキース、松井選手、優勝おめでとう!!!

   ★   ★   ★

筆者の自己資金の投資成績のほうは、松井選手のまばゆいばかりの「.615」とはえっらく対照的。

相場が上がり調子なところをみはからい、70で買って少し残ってたコルゲート株が80に近づいたあたりで整理したり、ブラジルETF(ティッカー:EWZ)をボコーンと下がったところでいったん拾い数日で回して、地味にお小遣い稼ぎ。稼いだお小遣いの一部で、自宅の台所で古くなってたディッシュウォッシャーを新品に買いかえたりした。(投資リターンでキッチン用品って・・・なんだか所帯じみた話ですな。笑)


金曜日の今朝は失業率統計が出てきて、ついに10%の大台に乗ったわけだが、キャタピラー社(CAT)のCEOが雇用についてはまだまだ慎重なことを先日も言ってたし、労働市場がそう簡単に回復しないというのはいまや市場のコンセンサスになっているので、サプライズはなし。ジョンソン&ジョンソン(JNJ)からも数千人のレイオフというニュースが続いた。

大企業による解雇はまだ続いている上に、加えて、先週のCITのチャプター11申請に代表されるように中小企業の資金繰りはまだまだ予断を許さないフェーズにいるんで、雇用市場から、近い将来明るい話が出てくると考えてる者は、どの道、少数派。10.2%という数字を聞いても、「あ、そうですか」ぐらいな感じ。

今回出された雇用統計のポイントは、

● 景気後退が始まった2007年12月から730万人が職を失った(A)
● 現在失業中は560万人、(A)の77%に相当
● 560万人のうち、6ヶ月以上失業してるのは36%で過去最高
● 就業可能な成人の59%しか職についていない
● 職探し自体をあきらめる人が増加し、労働市場そのものが縮小している
● 一週間のフルタイムの就業時間が33時間と低レベルにとどまっている
● パートタイム従業員数はやや増加している

一週間の就業時間が(本来なら40時間働くところを)33時間しか働いていない、つまり、ワークフォース(Workforce)は17.5%未使用の状態だから、今後、景気への見通しが明るくなって再雇用が進むことになったとしても、雇用の増加は、まずは40時間に近づくことから始まって、そこから雇用者数増加という順序を辿るので、どうしても、ゆるやかな回復にとどまってしまうことが今から見えている。

パートタイム従業員数は持ちこたえている様子だが、パートタイムだからといって安心してられるわけでもない。

全米の書店チェーンとしては規模で第2位のボーダーズ(Borders)社が、系列のWaldenbooksという書店200店の閉鎖を決定、従業員(ほとんどがパートタイム)1500人の解雇を発表していた。




ブログCalculated Riskが掲載していたこのグラフは景気後退が開始されたときをゼロとして雇用が水面下から浮上するまでどれくらいの期間がかかったかを過去のリセッションを並べて示したものだが、これをみても、今回のリセッションでの雇用をめぐる状況(赤線)は、まだ沈下が続いている。「あ、そうですか」で流せない話。

オバマの側近で経済アドバイザーのクリスティナ・ローマーなどは(←筆者はこのオバサンがニコニコ顔でテレビに出てきて楽しそうにしゃべるの見るたびに、決まって虫唾が走るので、彼女が出てくるとチャンネル変えることにしてるんだが)、企業のプロダクティビティ(生産性)は上がっているし、GDP拡大もしているとして、底打ち感をやたらと強調してる。だけど、GDPが拡大したのは一時極端に落ち込んだ反動として在庫調整で生産が増えたからでしょ。

企業のプロダクティビティが向上してるのを好感し、これが企業収益にプラスに働くとつなげて見ているひとも市場には結構いるみたいなんだが、(1)従業員の雇用時間が減少し、(2)在庫調整にともなう生産アウトプットが若干でもあがれば、(3)プロダクティビティは上がるに決まっている、わけですよね。(グラフはEconomPicより。)



ローマーみたいなマクロ経済学者は、ともかくGDPの最終数字が拡大すりゃそれでいいと思ってるフシがあるが、最も肝心なのは、「エンドユーザーの最終需要がどうよ」ってことですよね?それが【常識】。個人消費がGDP構成要素としていちばんデカイんだからさ。グローバル経済頼みの綱の中国だって、世界最大の消費市場アメリカ合衆国が中国製品買ってくれなきゃ、困るでしょ。

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昨日(11月6日)は、消費者信用バランスの統計が連銀から出された。連銀のリリースはこちら

リリースによると、第3四半期の消費者信用バランス(季節調整済み)は年率6%のペースで減少。リボルビングの残高は年率10%、ノンリボルビングは年率3.75%減少。9月の減少率は年率7.25%。

統計をざっと眺めただけで、コンスーマークレジットの縮小はペースを速めている感がある。

だが、これが果たして、(A)クリスマスショッピングのために今からせっせと借金返しておこうというインセンティブが一般消費者の中にはたらいていた結果であって、第4四半期には信用残高が再び膨れる方向に動く、のか、それとも、(B)今年の最初の9ヶ月で続いたトレンドは長期的な(secular)縮小トレンドであって第4四半期もこの流れが続くのか、いまのところ、見極めがつけにくい。

一方、木曜日に出されてきた10月の同店舗売り上げ(Same Store Sales)は、(前年対比で2%増の期待値は下回ったものの)実際には1.8%増という結果だった。小売業の一部では目だって売り上げ増になったところもあれば、逆に期待値を下回ったところもあり、という明暗分かれる結果で、全体としてみると、どちらのトレンドに流れているのか、これも見極めのつけにくい結果であった。

Retail October Sales Mixed (Wall Street Journal, 11/5/09)

冒頭で述べたように、筆者もディッシュウォッシャー買ったり、と、いちおう、それなりに消費はしてますんで。

でも借金してまで買おうという気は毛頭ないから、ちょっと軽~くデイトレなんぞでお小遣い稼いで、キャッシュが出来たら買う、みたいなことをしています。そして1ドルでも2ドルでも安くならないか、鬼のようにセールスを漁り、必要とあらば、「あんたのライバルのお店ではもっと安いよ」と切り出して、強気で値踏み交渉をする。これこそが、いまどきの典型的な米国民の消費のあり方ではなかろうか、と思うな。

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はたして、今年のクリスマス商戦は、どうなることやら・・・・。

アメリカの平均的な一消費者である筆者の目に、ハッキリと見て取れる今年の特徴は、

「クリスマス商戦の時期は、夏から始まっている」

ということである。またクリスマス用カタログも、今年はいつもより早く郵便受けに届き始めてる気もする。

アメリカで「クリスマス商戦」といえば、かつては、11月最終週の木曜日と決まっている感謝祭(Thanksgiving)の翌日から、と相場が決まっていたが、そんな不文律はもはや有名無実化している。小売同士の競争がし烈化して、売りたいときに売ってどこが悪い、とみんなで開き直っている。

実際、シアーズなどは7月から早々に店内に「クリスマスギフト用コーナー」を作ってた。
Christmas Sales ... in July! (ABC News, 7/10/09)

ウォルマートも、オンラインショップではすでにクリスマス商品を10月中にラインアップしたし、実際の店舗でも、いつもなら11月・12月に売りまくっていた家電やゲーム機、ゲームソフト、映画DVDなど、大幅値引きを開始している。

Wal-Mart's latest price cuts target turkey and TV (Reuters, 11/4/09)

ウォルマートは先月から毎週人気商品をいくつかピックして安売り大作戦を展開するとぶちあげて話題になった。この「特別値引きウィーク」はクリスマスまで毎週毎週続けます、といっている。

で、今週の目玉値引き商品はなにかというと、七面鳥や薄型テレビ、だそうである。

感謝祭までまだ3週間あるんですぜ。でも、いまから七面鳥の予約を開始し、12ポンド(6キロ)で5ドルという出血大サービスだそうである。12ポンドで5ドルって・・・うちのワンコに食べさせようかと思うぐらい安いではないか。

上のロイターの記事によると、ウォルマートの目玉商品には、シャープ製42インチ薄型TV(1080p画像)が$768から$498に35%引き!ソニー製ブルーレイ・プレーヤーも$197から$148に25%引き!(これだもん、ソニー商品にのしかかる価格低下の圧力が強すぎて、業績に響くはずだよ・・・。)

ウォルマートのライバル、ターゲットやアマゾンなども、負けてならじと、ギャンギャン値下げの嵐。

「うそーっ!」と思わず叫びたくなる値引き競争は、こうした大型店舗だけじゃない。

我が家のすぐ近所に、洗面台とかバスタブとかを売る小さい専門店があるんだが、そこが「今週限りの大サービス!300ドルお買い上げのたびに100ドルのキャッシュバック!!」という招待状を郵便でばら撒き、店舗のウィンドウにもでかいポスター貼って、今週から安売り合戦に突入した。

どこもかしこも、生き残りをかけての【玉砕モード】である。

でもいまから、みんなで、こんなに派手に値引き合戦やってたら、実際にクリスマスシーズンが始まったら、どうするつもりなんだろう。

こんなに前倒しでどんどんセールやってしまったら、肝心の年末商戦には、消費者の側だって、カネもエネルギーも残っていないのでは・・・。

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9月15日付けのMHJ記事『シンガポール沖の幽霊船、年末商戦を占う』で、世界の物流が停滞していて、大型貨物船が幽霊船化してる、通常ならばクリスマス商戦用の輸送の時期なのに肝心の輸送船が動いていない、という話を紹介したのを覚えておられるでしょうか。

つい数週間前のことだが、犬に散歩させながらラジオでブルームバーグのニュース聞いてたら、船舶セクターのアナリストとして常にランキングトップで実力派として定評のある、ナターシャ・ボイデン(Natasha Boyden、Cantor Fitzgerald社のエクイティアナリスト)が出演してて、このバルティック・ドライ・インデックスについてコメントしていた。興味があったので聞き入った。

彼女によると、ドライバルクの輸送状況はあいかわらずめっちゃ停滞しており「幽霊船」の状況は相変わらず。しかし、市場のほうは期待先行で盛り上がっててファンダメンタルズから乖離している、と彼女は言い、ここから回復基調に向かうとしてもその改善ペースは遅い、とボイデンは見ているようだった。

肝心のモノの流れは、年末めざして活発になってるわけでもない、か・・・。

ところで、ちょうど一年前の感謝祭のときに、『狂気のブラックフライデー』というMHJ記事を書いた。

去年の感謝祭翌日の大セールス開始日に、NYロングアイランドのウォルマート店従業員が店内になだれ込んできた客に踏み倒されて圧死する、という事件が実際に起こり、それについて書いた。朝の5時前から何百人もの低所得者層の客が店の前で押し合いへし合いして開店を待っていたというんだから、一年前は、リーマンショック後間もないこともあり、アメリカ人の多くは、これからどんな地獄が待ち受けているかピンときておらず、「買い物症候群」からまだ完全に醒めてはいなかったんである。

では、今年は?

クリスマス商戦は、とっくに開幕している。

異常な値引きがまかりとおっている。

失業は進んでいる。

消費者信用は絞られている。

消費者の財布の紐も固くなって消費者側が値引き交渉力をつけている。

2009年の年末消費動向がどうなるか。いまから非常に興味が湧く。

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Murray Hill Journalもまもなく丸一年を迎えます。夏ごろから更新ペースが鈍りどうもサボりぎみになってましたが、心を入れ替え(笑)書き続けたいと思ってますので、今後も、どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。




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