Friday, December 31, 2010

【年末備忘録】今年最後の暗い話特集

ニューヨークも、まもなく2010年を終えようとしています。

ブログ更新をサボり気味だった今年を反省し、大晦日の今日、カウントダウンの前に、あえて最後のエントリーに挑戦することにしました!

(と言っても、来年も注目すべき話題をいくつか備忘録としてまとめておいて、年があけてから、それぞれゆっくり考えよう、という魂胆です。笑)

(話題1)米株市場は来年も上がり続けるか?

前回のMHJにも書いたように、2010年には経済回復が明らかに進行したが、これが2011年も継続できるかどうか(Sustainableか)が注目ですね。

米株ファンドのマネージャー達は、なかなか強気な様子です。リーマンショック後の暴落の記憶が生生しすぎて、一昨年も去年も回復ストーリーを信じることができずに負けた人が少なくなかったので、来年は同じ間違いはしないぞ!と腕まくりらしいです。

<注目記事> Stock fund investors bank on 2011 (Market Watch, 12/31/10)

  • 米国の分散型株ファンドは2010年は19%アップ、とりわけ第4四半期の12%アップで大躍進。
  • SP500の15%アップ、ダウの14%アップを超えた。
  • 海外株ファンドは年14%アップ、第4四半期は7.4%アップに留まり、米株ファンドの好調さが目立った。
  • “We avoided sliding into the abyss. While the economy is still weak, Corporate America is in pretty good shape.”(深みにはまることは回避できた。経済はまだ弱いが、米の企業セクターは非常に調子がいい。)
  • …markets are volatile by nature, and so the real story of 2010 is that many investors missed the rally — again. More than $81 billion exited U.S. stock mutual funds in 2010 than came into them.((第2四半期は株価は13%も下降したが)市場というものはそもそもがボラが高いのが当たり前なのだ。2010年の話としてで覚えておくべきは、多くの投資家が2009年に続き「またもや」株のラリーを逃した、というポイントだ。今年、米国株ミューチュアルファンドからは、流入した額より$81billion(810億ドル)も多く流出したのである。)
  • … fund investors will have to live in the momentum. 2011 marks Year 3 of the four-year U.S. presidential cycle, and a president’s third year typically has been a winner for stocks. It’s also the third year of the bull market that began in March 2009, and every bull market since 1949 has seen a third year, according to S&P. (ファンドの投資家はモメンタムに乗らなければ始まらない。2011年は大統領任期の3年目にあたり、この3年目というのはたいがい株価にとっては勝ち年になる。また、2011年は2009年3月に始まったブル市場の3年目にもあたり、1949年以来、どのブルマーケットも、必ず3年間ブルが続いたのだ。)

と、まぁ、「大統領3年目はブルだ!」とかいう、ほとんど【おみくじ占い】のような予想話(笑)されてもこっちは困るわけだが、2011年も、経済指標が出される度に一喜一憂する年になりそうです。



(話題2)2013年以降PIIGS国債の債務リストラは現実になるか?

今年は年初から年末までソブリン・リスクにつきまとわれた年でありました。欧州当局とIMFとでまとめた超大型救済パッケージが用意されたにも関わらず、市場は落ち着くどころかそのバックストップ(Backstop=いざと言う時のための準備)を鼻でせせら笑い、ソブリンCDSは夏以降に再びワイドニング基調に入った。ギリシャなんて、今や10年対独スプレッドも960bpsまで行ってしまい、民間資金への独自アクセスはほぼ不可能な状態が続いている。

そんな中、年末に出てきた、この話。EU/IMFに返済期限延長を求めたギリシャが、EU/IMFのみならず、商業銀行や海外ファンドから借りた民間への債務に対しても返済期間延長を求めているらしいのだ。

<注目記事> Greece in talks on extending debt repayment: source (Reuters, 12/31/10)


  • EU/IMFの救済資金(€110billion)の期限は2013年、その期限が切れたら、高債務を患う国は債務リストラを余儀なくされるのではという懸念が市場を去らない。
  • ギリシャの債務の70%が海外筋のポートフォリオに保有されている。
  • ECBのヴァイス・プレジデントであるルカス・パパデモス氏が最近、ベルリン、フランクフルト、ロンドン、ブリュッセルを走り回っている、との情報を地元紙が入手。
  • 2013年から2015年に償還がくるペーパーを中心に、10年から最高30年までの返済期間延長のお願いではないか、と。
  • ギリシャは2021年までに€110billionのEU/IMF救済ローンの返済を行わなくてはならないそう。期間延長により経済回復の時間稼ぎで市場に安心感を与えるのが関係者の狙い。
  • ギリシャのGDP対比債務は2011年に152.6%(€348bn)になる。

そんな混乱続くユーロ圏に、1月1日から正式にエストニアが加盟。

クルーグマン氏が自身のブログに短いエントリーを載せています。

<関連記事> Congratulations to Estonia — or Maybe Condolences? (NYT, 12/31/10)

「エストニアよ、おめでとう――いや、お悔やみ申し上げますというべきか?」という記事タイトルだけで、中身はおわかりでしょう。


(話題3)米の住宅価格はまだ下がる?

まずは金利市場の話から。

<注目記事> Bonds' dramatic year sets stage for higher rates (AP, 12/31/10)

米国の金利状況については、いろいろ言われておりますが、上記記事のように、来年はトレジャリー・イールドは上昇するという見方は多いかと思います。ひとつは株市場と同じ「景気回復が本格化する」という見方、そして、「インフレ懸念が台頭する」という見方、いろいろあり。

ただし、拙ブログでも何度も書いてきたことでありますが、個人も、企業も、おカネは結構持っており、その資金が金融機関に回って国債買いにつながるという流れは、年が変わったからとて、そんなに急激に変化するものなのか。そこらへんについては、住宅と雇用の両面がまだまだ心もとないことから、筆者は株式サイドが考えているように単純な図式にはならないのでは・・・と感じています。ここらへんについては、筆者もよく読ませてもらっている、ブログ『金融市場Watch Weblog』のエントリー『2011年のマーケットを考える(2)』を一読されることをおススメします。

で、住宅市場のほうなのだが、米国の住宅価格はまだ20%は下がるだろうという暗い記事を読んだ。

<注目記事> Home Prices Are Still Too High (WSJ, 12/30/10)



以下引用:

In January 1998 the 10-City Index was at 82.7. If home prices had followed the 3.35% annual 100 year trend line, then the index would have arrived at 126.7 in October 2010. This week, Case-Shiller announced that figure to be 159.0. This would suggest that the index would need to decline an additional 20.3% from current levels just to get back to the trend line.
(1998年1月には10都市のインデックスは82.7だった。もし住宅価格が過去100年のトレンドラインどおり年率3.35%の成長だったら、2010年10月には同インデックスは126.7になるはずだ。今週出されてきたケース・シラーによると、10月の指数は159。トレンドラインに回帰するだけでも、現在の水準からまだ20.3%下落する必要がある、という意味だ。)

With a bleak economic prospect stretching far out into the future, I feel that a 10% dip below the 100-year trend line is a reasonable expectation within the next five years, particularly if mortgage rates rise to more typical levels of 6%. That would put the index at 114.02, or prices 28.3% below where we are now. Even a 5% dip would put us at 120.36, or 24.32% below current prices. If rates stay low, price dips may be less severe, but inflation will be higher.
(経済回復の見込みがまだよく見えていないことを考えると、住宅価格が100年のトレンドラインを向こう5年で10%下回るというシナリオはさほど無茶苦茶な話とも思えない。特に、住宅ローン金利が従来の典型的な水準である6%に上昇するとしたら、十分有り得る。住宅融資金利が6%になった場合、インデックスは114.02と試算され、それは現水準より28.3%下落を意味する。たとえトレンドラインを5%下回るとした場合でも、インデックスは120.36(現水準より24.32%下落)になる。もし、住宅融資で低金利が継続すれば、落ち込みは緩やかになるが、高インフレに繋がるだろう。)(引用終わり)

 「来年はオバマ3年目だーい!」とウキウキ踊ってる連中の顔に冷や水ぶっかけるような話ではある。(笑)

実際、住宅融資の世界では、

  1. オリジネーションの9割がいまだにGSE保証に依存している状態が続いていて、商品市場と株式市場にはリスク資金が流れ込んだ一方で、住宅リスクを取ろうという民間資金はほぼ不在の状態
  2. 第3四半期のフォークロージャ件数は第2四半期対比で30%以上の大幅増加でサプライは減少せず
  3. 米都市部20地域の10月の住宅価格は20地域すべてで低下、多くの地域で2006年のピーク以来底値更新が続いている。


それが、米住宅市場の実態である。

これはMHJ筆者が感じるところだが、議会のフォーカスが住宅問題から税金問題に移り、住宅市場をなんとかしようという「政治的意思(Political Will)」が目だって衰退していったのも、2010年の米政界の特徴だったように思う。



(話題4) 米国の高失業率は改善するのか?

米失業率は一進一退で10%に手が届きそうなあたりをウロウロしているが、失業期間のデュレーションが伸びている。いったん失業すると、復職できない人が増えているんである。

そこにこんなニュース。

<注目記事> Five years without work? Labor department will now track it (NBC News, 12/29/10)


  • 米労働統計局はこれまで失業期間2年までの統計を記録してきたが、2011年からは失業期間5年までを統計対象とする、と発表した。
  • 最近のデータでは、新しい仕事がみつかるまでの平均的な失業期間の長さは33.8週間(約7ヶ月)だったのだが、この期間は延びる一方。
  • また年齢の高い労働者ほど、期間が長くなる傾向がある。
  • さらに、最高99週まで出される失業保険を使い果たしてしまった労働者――彼らはナインティナイナーズ(99ers)と呼ばれる――の状況はさらに苦しく、99週間以上も失業してしまったら、まず職は見つからない。
  • 政府がいまからわざわざ統計対象の失業期間を2年から5年に延長するぐらい、現失業者の復職の見通しは立ってないということか。


これを聞いて、トホホ・・・と思ってたら、さらにこんなニュースが。

<注目記事>10,000 Boomers a Day Need Jobs (AP, 12/27/10)

2011年1月1日より米国では毎日1万人づつ65歳を迎えるというのである。べービーブーマーが定年退職の年齢に入るためで、これは向こう19年間も続くらしいんである。

バブル絶頂期には「ベビーブーマー需要」とかいって、ブーマーは退職後もおカネをガンガン使うという薔薇色シナリオに関係者は自分の頬も薔薇色に染めて期待していた。ところが、それもバブルと一緒にガラガラと崩れ落ち、彼らはおカネ使うどころか、退職に備えた準備が足りていないから65歳以降も働かなくちゃ食っていかれへん、というんである。


  • 1980年には民間セクターの39%が退職後に定額のペイアウトが保証された年金を有していたが、現在はその数字は15%に満たない。
  • ブーマーの42%が401(K)プランを持っているが、株式へのアロケーション比率が一般に高く、過去10年間S&P500は全然伸びなかった。
  • 退職後の虎の子として自宅不動産を暖めてきたが、自宅バリューは約3分の2になってしまった。現在ホームオーナーの22%にあたる1100万人が、家の価値より借金額が多いアンダーウォーター組。
  • 55歳から64歳の層の51%が退職後は生活水準を下げなければならないというボストンカレッジの調査あり。
  • 貯蓄が足りない。1970年~80年には個人の貯蓄率は10%近かったが2007年にはマイナス1%に落ちた。
  • 50代、60代で401(k)プランを持っているグループも、2009年末時点で平均残高は15万ドル以下だった。
  • 55歳から64歳のグループの約3分の2が2007年に住宅ローン残高$85000(メディアン値)
  • 4人に3人が社会保障年金を受け取れる62歳に即座に受け取りを希望したため、将来の受け取りフローが少なくなる。
  • 55歳で処方薬を必要とする典型的な男性の場合、国が補償するメディケアと追加的保険に加入する場合、将来のメディカルコストとして$187000が必要。65歳女性の場合はさらに多く$213000必要。
  • 55歳以上の失業者の平均失業期間は45週間で、若い層より12週間長い。リセッションが始まった2007年12月には20週間だったので倍増以上したことに。
  • 2011年に65歳になるグループの40%が、「動けなくなるまで働くつもり」という調査。

「動けなくなるまで働きたい」と言っても、職がないんじゃよ、職が・・・



(話題5) 中国はどうなる?

今12月末に行われた中国の利上げは、彼の国のインフレ懸念が以前に増して強まっていることを示唆している。金利上昇は上記の米国のケースと同じく、中国不動産セクターに影響してくる話なので、2011年も中国経済の動向からは目が離せなくなりそう。それに、商品相場だってデマンドは中国、米国企業だってデマンドは中国ですんで。

2010年の初めは、米の経済回復が軌道に乗るかどうかがよく見えず、業務基盤が米国内に限定されるセクターは業績は期待できないけれども、成長高い海外での事業に強い米企業の業績には大いに期待できる、という話で持ちきりだった。

実際、マクドナルドだの、コカコーラだの、フェデックスだの、そこらへんの大企業はそのシナリオどおりに海外での売上げが業績好転に大きく貢献した2010年だったわけであります。で、その「海外の売上げ」と言う場合、多くは「中国およびアジア」の話をしてるわけなんである。

2011年についても、やはり同じような見方は存在していてあちこちで語られているのだが、2010年に語られていたストーリーラインで、2011年にも引き続き株価上昇をサポートするためには、中国経済の成長ぶりと米企業への利益貢献度が、2010年のそれを上回る「上方サプライズ」でも見せてくれないとね。だって、ある程度株価にもう織り込まれちゃってるわけだから、予定通り程度の成長でさらなる株価押し上げ要因になるのか?と思うわけである。

で、その中国ですが、あちこちでゴーストタウンがやたら出来てるらしいんだが・・・(参考:A Personal Tour Of China's Eerily Vacant Commercial Real Estate )


★    ★    ★

というわけで、年末の今日、2011年になっても引きずるであろう【暗い話】を特集してみました。

あと1時間ほどで、ニューヨークも年が明けます。これだけ暗い話ばっかしてて、ハッピーも何もないもんですが(笑)

★ HAPPY NEW YEAR!!! ★

今年は本当にお世話になりました。2011年も引き続き、Murray Hill Journalをよろしくお願いいたします。

Wednesday, December 29, 2010

リカバリーのモメンタムは継続するか

今日は12月29日。2010年も、あと二日で終わりです。今年もあっという間でした。

今年は、ブログ更新がサボり気味で反省。来年は、もっと書き溜めたい、と考えております。(ブログ更新はサボってますが、最近始めたフェースブックにチョコチョコ目に付く傍から記事などを貯めてます。そちらも、よろしければ、寄ってください。)

さて、今年のクリスマス直後のニューヨークは、数年ぶりの猛烈な雪嵐に見舞われ、JFKやニューアークなど近辺の主要空港は軒並み閉鎖。(写真は筆者のマンハッタン自宅付近で26日夜に撮影。)





連日、除雪車が繰り出しているものの、嵐から3日経った今日も、まだ道路脇は雪でグチャグチャのひどい有様である。大量の雪に弱い大都市の典型ニューヨーク市は、【雪かき要員】として昨日は700人、今日は1200人を臨時に雇い、日常生活の復旧に務めているが手間取っているらしい。

(動画は除雪車に引っ掛けられてズタズタにされる路上駐車の自家用車。撮影者のニューヨーカーFワード満載に注意。Hat Tip @gohsuket




それでも、クリスマスで貰ったプレゼントを「自分が本当に欲しい品物」と交換するために26日と27日にデパートに出かけてゆくという【全米年末のお約束行事】のために外出してた勇敢な人もいたようだが、ロイターによると、この週末は客足が例年の6.8%減少したとのこと。(当たり前。あの嵐で客足増えてたら、むしろ怖いだろw)しかし、売上げ自体は4%増加して、11月の強気のFedexの占いを裏切ることなく、今年の年末商戦はなかなか調子がよかったのである。


★    ★    ★

しかしね、消費者のみなさん、驚くほどお金を持ってるんですねー。

我が家なんかは、バブルの頃に調子こいて買い物ばっかして家中に不必要なものが溢れてしまった己の愚行を深く反省し、『モノがないのはいいことだ』を座右の銘に据え、以前なら衝動買いしてたようなものも、いまや買う前にしつこく品質・評判調査をし、本当に欲しい物なのか熟考に熟考を重ねて、価格もどこが一番安いかネットで調べ、グルーポンなども酷使して、徹底的に「家計ディフェンスモード」に入っているよ。

だが、我が家のように爪に火をともすような生活(笑)をしてる家庭はむしろ少数派らしく、アメリカ人の個人消費支出(Personal Consumption Expenditure)は、実際ズンズン上昇しているんである。(グラフはCalculated Riskから。)

(図1)



この第4四半期なんか、リセッションに入る寸前の07年の支出ピークを上回るほどの旺盛さなんである。

しかし、(1)米失業率は10%近くをウロウロしている、(2)政府からの住宅購入補助金がなくなった2010年は住宅価格は下がり続けている―これら2点を考えただけでも、クビをかしげてしまう。

次のグラフは、個人所得(Personal Income)から移転所得(Transfer Payments)※ を差っぴいたものだ。(グラフは2005年時点のドルで調整済み、縦軸は先立つピークからの落ち込み度。Calculated Riskより)

(図2)



(※ 移転所得とは、家計が受け取る失業保険や年金などのことで、給与のように生産に関係しない所得のこと。)

このグラフを見ると、2010年に入ってから移転所得を除く個人所得は確実に好転しているのがわかるが、それでも70年代半ばの景気冷え込み時の個人所得の落ち込み時と同程度のシビアさで、ピークの95%強程度しか回復していない

懲りずにまた借金増やしておカネ使ってるのかといえば、12月7日に出されたFRBのデータを見ても、消費者クレジットの残高は、昨年に続き2010年も一貫して減少傾向を辿っている。

それでも、ピークの2007年当時を上回る消費支出ができる理由は、これ如何に?答えは簡単、「移転所得が大きいから」に他なりませんね。

要するに「政府がくれたお金」を使ってるのである。


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これについて、経済コラムニストのJohn Lounsburyが「もしも移転所得がなかった場合、米国GDPはどの水準にいるか」を試算していた。移転所得そのものはGDPには含まれないが、それを使って消費者が支出すれば個人消費となってGDPを押し上げる、というのである。

以下が彼が示したグラフ。

(1)移転所得は、リセッション前のトレンドラインから、およそ$250bn上方に乖離。




(2)この移転所得の乖離分が「なかったもの」と仮定して調整を加えたGDP※。(グラフ青は発表された実質GDP、赤は調整後。)



※ 試算に用いられた前提は、マルティプライアーは1、他の経済活動への影響はない、という単純なもの。これについては、Lounsbury自身が反論・批判されても自分はデフェンスできないと述べているので、前提条件そのものに異論ある方は、ご自分でモデル組んで考察してください。


(3)1Q2008=1として横軸はその後の四半期、縦軸は累積GDPとし、リセッションからの回復度合いをオフィシャル実質GDPと上記調整後GDPとで比較したグラフ。


上のグラフから読めることとして:


  • 移転所得がない場合はGDPの落ち込み度合いは深いVの字になる。
  • 過剰な移転所得が、景気の落ち込みを2%以上緩和した。これは移転所得の恩恵。
  • しかし、6四半期後(2Q09)に縮小が底を打って拡大サイクルに入ってからの累積GDP(回復度合い)は、赤線・青線がパラレル(平行線)に推移する。
  • 上述した前提のもとでは、移転所得の恩恵は拡大フェーズでは消滅したようにも見受けられる。
  • 過剰移転所得がなかった状態では、累積GDPはいまだピークより3%近く低位置におり、オフィシャルなGDP数値が示すほどは、実体経済の部分で回復フェーズが完了したとは言い難い。


★    ★    ★


なるほど景気回復そのものはこうしてみると実際に起こっている。

起こってはいるんだが、問題は「政府からのおカネ」がこの先もらえなくなっても、現在のGDPリカバリーのモメンタムがこのまま続くかどうか、というところでありましょうね。

青と赤の線が底打ちしてからはパラレルで動いている(=個人所得は増加している)わけなので、モメンタム継続は実際可能なのかもしれない。市場(とりわけ株式市場)はそうした「持続的な景気の自律回復」への期待が非常に強く、(例によって)ウキウキ感で「気分はブル」になっている。

しかし、上の(図1)個人消費支出の推移グラフの「形状」から判断するに、消費がここからさらに一本調子で上昇できるかどうかは、12月の消費者信頼感指数が予想に反して鈍っていることを考え合わせると、やや心もとない。仮に、移転所得が今後減少する事になった時に、個人所得の増加も合わせて鈍化すると、必然的に消費は下降サイクルに入ってくるわけだ。

Loundsburyによると、2008年から2010年の約2年間で、米国債発行額はおよそ$570bn増加した。この額は、移転所得として国民の手に渡り同期間に消費された額にほぼ匹敵する、という。

この政府の【大盤振る舞い】が、過去のリセッションと比較して、どれほど強烈かを示唆する興味深いグラフがあったので、最後に貼っておく。(グラフはEconomPic Data、ソースはBEA






企業・個人・政府のそれぞれの貯蓄(Savings)がGDP対比でどう動いたか―1930年代からの推移である。グラフで点線になっているのは、これら3つの貯蓄のネットであるが、ここ2年ほどの米国の貯蓄は全体でネガティブ圏に入っているのであった。

個人は行く先の不安から貯金をし、企業もバランスシートにキャッシュ貯め込んで派手な投資は控えている。だが政府のそれは大きくマイナスに落ち込んでおり、全体まとめるとマイナス。

しかし、この「全体としてマイナス」というのは、1930年代以来アメリカでは初めての事態なのだ。80年代の銀行危機の時だって、90年代のデリバティブス危機のときだって、2000年代のハイテクバブル崩壊のときだって、アメリカは「全体としては」常にプラス圏にいた。


ブログEconomPicは、このグラフを示しながら、こう書いている。

What does this mean? It means the economy has been reliant on external sources of financing for our current level of consumption, which is sustainable… until it isn’t. Put another way, maintaining our current level of growth isn't completely in our hands at the moment.

This will either reverse at some point in the future with:

- Absolute savings increasing through a higher savings rate, which will cause the economy to slow (all else equal) as we get our balance sheet in check (i.e. what is going on in Europe)
- The growth of the private sector, which will allow the absolute level of savings to increase without a large increase in the savings rate as a percent of GDP; the denominator will grow, rather than the numerator in the savings as a percent of GDP ratio (i.e. the goldilocks scenario)

このグラフが何を意味するだろうか。これは、現時点の消費水準を維持するために、米国は外部資金に依存している、という意味だ。この状況は、それを持続できなくなるまで持続する。言い方を変えれば、現在の経済成長の水準を維持できるか否かは、すでに我々の手を離れてしまっている。

以下のいずれかが起これば、将来どこかの時点で、(コントロールを自らの手に取り戻すよう)状況がリバースする可能性がある。

(A) 貯蓄率を上げることで貯蓄の絶対水準を上昇させる。わが国のバランスシートを改善させる間、(それ以外はすべて同じと仮定して)景気の回復を遅らせることに繋がる。(これは、まさに現在、欧州で起こっている状況だ。)

(B) プライベートセクターの成長。貯蓄率を大幅に上昇させることなくとも、貯蓄の絶対水準を上げる。分子の貯蓄を上げようとするよりも、分母のGDPを成長させる。(ゴールディロック経済のシナリオ。)


あと数日で2010年も終わりを迎えようという今、株市場で頻繁に語られている強気見解は、あきらかに(B)のシナリオで走っている。

ただし、債券市場のほうは、どうも、株市場と同じ意見を共有しているようには見えないのだが。

Monday, December 20, 2010

ワールドトレードセンターが完成したら

12月2日の当ブログ記事で建設が進むWTC跡地の写真を紹介したが、エリア全体の完成時の想像アニメーションが、ウォールストリートジャーナルにあった。か~な~りカッコいい。

来年2011年は10周年。建設用語で、建設中のビルのてっぺんに最後の梁を設置することを『Topping Out』と呼ぶそうなのだけど、WTCのメインビルは、2011年後半に、Topping Outすると予定されているらしい。(テナント入居は2013年から、他のビルも2015年まで完成の予定。)





ちなみに、こちらが9年前のテロ直後の様子。



そして、こちらが今月はじめの様子。


瓦礫からここまで来るのに10年かかりましたよ・・・(感慨)。

09年7月には、NY州とNJ州の財政難で、WTC再建プロジェクト自体が頓挫しかかったこともあった(去年7月のエントリーの最後のほう参照)けど、なんとかそれも乗り越えて、完成に向けて工事は進んでおります。


★    ★    ★


米国株も、この10年は、Buy & Holdでジー・・・と持ち続けていても、リターンはほとんどなかったという結果でしたよね。[参考:『主要株価インデックスの海外比較』(MHJ 9/8/10)]

さて、2011年からは、株価上昇フェーズになるだろうか。

少なくとも市場ストラテジスト達の予想は、おしなべて強気ですね。下は2011年のS&Pインデックス株価予想各社一覧。(図表はBespokeから)



平均では、2011年はS&P500は1370に10%上昇という見込み。(ドイチェ、26%って・・・今年も相変わらず強気ですねー。笑)

高失業や住宅市場などみても、米経済のマクロ環境は、まだ安心感を持つに至っているとは筆者には到底思えないのだが、企業ミクロレベルに降りてくると、前回のエントリーで紹介したようにシェアバイバックは着々と進んでいるし、このトレンドはおそらく2011年に入っても継続するだろうし、金融緩和のポリシーは継続される見込みだから優良企業の国内外での資金繰りはこれまで以上に楽になり、「強い企業はさらに強く」の二極化はさらに進んで、そういう一部の企業の株価はファンダメンタルズ的にも底堅く推移するような、そんな感じがしなくもないですな。

でも、ウジウジ組寄りの筆者としては、マクロがメタメタなままで株価だけが25%持ち上がる(by ドイチェw)と信じるほど、楽観視はもちろんしていない。病み上がりの状態から完全に脱しているわけではないのだから、当面ボラティリティは高いままではないだろうか。

Sunday, December 19, 2010

サルでもできる芸当、その後

3ヵ月ほど前に、当ブログで、こんな二つのエントリーを書いたのを覚えておられるだろうか。

2010年9月29日 『マクロ低迷下でミクロ企業体にはバイバックの好機到来
2010年10月1日 『米国の事業会社はCash Hoarders

米企業のバランスシートには、キャッシュがざぶざぶ積まれていて、自社株買戻しの好機を迎えており、今のペースで行くと、2010年は$300bnを越すバイバックが予想されている、という話。

これに関連して、18日のウォールストリートジャーナルが、第3四半期だけで、$92bnの自社株がバイバックされました、という話を伝えている。

Number of the Week: Cash for Shares (WSJ, 12/18/10)



このグラフで見る限り、2010年に$300bnを越すバイバックになりそうだという予想は、ドンピシャリと当たりそうですね。

長期米国債イールドが跳ね上がり、欧州市場もなんだかんだと心もとないニュースが続くが、米株については、ちまたでは、なかなか強気な発言が目立つ。「バリュエーションで見ると安い」というアナリストやエコノミストが多い。

そりゃー、安く見えるはずだよね、EPSが上がってるんだもの。

マクロの状況がこのザマで、ここで大きく将来のオペレーションのために投資しようというインセンティブは、米企業のCEO達には、まださほど芽生えていないと思われ。

ちなみに「シェアバイバックはサルでも出来る芸当(Share Buybacks are for Dummies)」と言ったのは、私ではなく、ブルームバーグのコラムニストDavid Paulyである。詳しくは冒頭にあげた9月29日の拙記事を読まれたし。

Tuesday, December 14, 2010

小売は予想通り好調(しかし、そこまでして買いたいか・・・)

今日(14日)は、米商務省から11月の小売統計が出されてきた。結果はなかなか明るく、前月比で0.8%増。10月値も上方修正されて、前月比1.2%から1.7%にアップ。11月は2007年11月以来の高水準(ただし名目)になったという。



だが、このセクターをマジメに追いかけてるわけではないこの筆者ですら、「小売はどうやらクリスマスまでイケそうだよ」という話は、『今年のホリデーショッピング動向』として11月の半ばのMHJエントリーに書いていたぐらいなんだから、「ええっ!それって、すっごく明るいニュースですよねっっ?!」と(無理して)驚いた顔して目を輝かせるのは、芝居がかっているぞ、そこのCNBC。

ってことで、個人的にはそこまではしゃいでみせなくともと思うものの、エコノミスト達はやっぱりはしゃいでいて、今日のウォールストリートジャーナル記事によると、同紙が聞き取りしたエコノミスト55人の第4四半期のGDP伸び予想の平均は、先週の段階2.6%(季節調整済み)だったのが、この明るい小売ニュースと10月の輸出増の報告を受けて、3%超に上方修正する動きが続いているらしい。(グラフは過去3年間のGDP推移、WSJより)





では、その明るいニュースの中身をもう少し詳しくみてみたい。

Bespokeのサイトに、わかりいいグラフがあったので、拝借することにする。

まずセクター別の前月比伸び(名目の数値)。Nonstore Retailers(店舗を持たない小売=ネットショップ)が、小売全体の0.83%の伸びに対して、2.07%と健闘。一方、Electronics & Appliances (電気機器・家電)はマイナス0.82%と落ち込んだ。



今日は、家電小売最大手のベストバイ(BBY)がアナリスト予想を下回った上、年間ガイダンスを下ぶれさせたこともあって株価が15%も叩き落ちた。



家電小売部門の、小売総売り上げ全体に占める割合は、2.27%と2001年10月以来の低水準。


ところが、ネット・リテーラーの同割合は一直線に伸びており、全体の8.33%になっている。この傾向は、米国では、ウォルマートやメイシーズといった大手小売もネット販売の増加率が全体の増加率を大きく上回る状態が継続しているので、この先も、割合は拡大しそうであるな。



今日出された数値で、ネットストアの雄アマゾンと、家電の雄ベストバイの明暗がはっきりついた感がある。ベストバイの場合、目玉商品のTVなどの価格が強い圧力を受けているのに加え、3DTVやネットTVなど次世代商品が、思っていたほど売れなかったことも原因のひとつ。

自分自身の生活態度を振り返ってみても、カウチポテトで受動的にTV見てるよりも、自分からネットに情報探しに行ったほうが楽しいモンね。消費者の普段の行動も変わってきていて、製品売上げにメリハリがついてきているのだろうな。

11月14日のエントリーで、Fedexがネットショップの売上げからくる年末商戦の小包配達動向に相当な自信を覗かせていたことを紹介したが、上の表は、その裏づけにもなったわけである。

というわけで、今年の年末商戦は(予想通り)まずまず、といったところだが、今年も残すところ、あと2週間。

来年も、この消費トレンドが継続回復できるかどうか、Sustainabilityがあるかどうかが、キーですね。(←この高失業率でどうやって、という極めて基本的な質問なのでありますが。)


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さて、以下はどうでもいい話。

筆者は毎年、ブラックフライデーに早朝から店の前に並んで開店とともに店になだれ込むドア・クラッシャー(Door Crushers)達の姿をTVで見て「よーやる・・・」と呆れているわけだが、先日ある動画をみつけて、そのすさまじさにゾッとした。

自分が買い物依存症候群を患わっていないことに、しみじみとした感謝の気持ちさえ湧いてきたほどである。

昨年のブラックフライデーに、(どこの店舗か知らないが)ウォルマートに朝4時の開店と同時に飛び込んで商品のエレクトロニクスを奪い合う、気の狂った人達の動画(↓)。



しかしね、繰り返しますが、これは「昨年の」様子だからね。

昨年末といったら、失業率はうなぎのぼり、暗い雰囲気漂う年末商戦で、いつもなら散財しちゃう浪費癖アメリカン達が必死に自分と戦って無駄遣いしないように心がけた、そういう年末だったんであるよ。

そういう年でも、INSANEな人達はやっぱりいて、この騒ぎ。しかも、どう見ても、どいつもこいつも、貧乏人風。

そこまでして、買いたいか・・・。

今年2010年のブラックフライデーにも、ミルウォーキー市のウォルマート店の入り口付近で「いらっしゃいませ係」を任されている100歳のお婆ちゃん従業員を、37歳の狂気買い物客女が「るっせーんだよ、ババァ!」と突き飛ばして怪我を負わせる事件が発生した。

この狂気買い物女は逮捕され、お婆ちゃんも軽い怪我で済んでよかったが、目の据わった太った買い物客が何百人・何千人も早朝から押し寄せるブラック・フライデーに、100歳のお婆ちゃんを入り口に立たせておくウォルマートがあるというのにまず驚いたし、それ以上に、失業率が9.8%になってるこの国で、100歳になっても働いてるひとがいるという事実にも、筆者は正直驚いた。(100歳の従業員って、雇用統計では、どう扱われるんだろう・・・と、これまた実にどうでもいいことを考えた。)

本エントリー最初のグラフからかいま見える、過去5年の推移:

  • 2006年のXmas=「もっと買え!もっと買え!」
  • 2007年のXmas=「まだまだ~!」
  • 2008年のXmas=「お先真っ暗」
  • 2009年のXmas=「お金貯めよ・・・」
  • 2010年のXmas=「自暴自棄」


カネもないのに互いを突き飛ばしてでも「買わにゃあかん!」と思い込んでるINSANEな人達の体力と財布の中身が、2011年にどこまで続くか、注目したいところである。

Thursday, December 2, 2010

12月、金融街再訪

12月に入り、昨日1日のダウは大幅上昇。今日2日も、朝から住宅や小売関係で明るいニュースが続き、さらなる続伸。ニューヨーク市場は11月末のウジウジ感を吹き飛ばす陽気さであった。

そんな今日、ちょっとした用事で、マンハッタンのダウンタウン(金融街)に出かける機会があった。

前回ここに来たのは9月の後半だったので、わずか2ヶ月前かそこらなのだが、その2ヶ月余りでワールドトレードセンターの跡地再開発が目に見えて進捗しており、びっくりした。

これが、今日現在の、ワールドトレードセンター跡地に建設中の新しいビル。



これが完成予想図。いま、どこらへんを建設中なのか、なんとな~く、わかりますね。



1987年に証券業界で仕事するようになってから2001年のテロ攻撃まで、筆者の職場はいつもワールドトレードセンターの近辺にあったので、911でツインタワーが壊れてしまったときは、長年の親友を失ったかのごとく悲しく感じたものだった。

だが、今日、その同じ場所に、新しいビルが空に向かってグングン背丈を伸ばしているのを目にして、なぜかわからないのだが、確実に「何か」が変わってきている、お前も変われと言われている・・・不思議とそんな殊勝な気持ちになったのであった。

ロウワー・マンハッタン(Lower Manhattan)は私の古巣。沈んでは浮き、浮いては沈む、の繰り返し。

そして、いままた、再生せんことを!


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ついでなので、今日写した、金融街の様子をここに貼り付けておきます。

WTC跡地のまん前にある、セント・ポール教会裏の古い墓地跡。1700年代のお墓があります。


ウォール・ストリートをNY証券取引所まで下り、ブロードウェイの方角に振り返ると、まっすぐ前にトリニティ教会が建っています。左のビルがNY証券取引所のビル。


現在のウォール・ストリートとブロード・ストリートが交わる場所で初代大統領ジョージ・ワシントンが宣誓した。その場所に今はワシントン像が立ち、ニューヨーク証券取引所を見つめている。


ワールド・トレード・センター前の広場からリバティ・ストリートの奥に入ると、ニューヨーク連銀が。