以下は15日付けの日経ネットの記事。
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米の72兆円景気対策、法案成立へ 需要創出へ異例の早期決着
一度の規模としては世界でも過去最大級の財政出動が米国で動きだす。米上下両院が13日に約7870億ドル(約72兆5000億円)の景気対策修正法案を可決、オバマ米政権の最初の課題であった景気対策は政権発足から1カ月足らずという異例のスピード決着をみた。減税や給付金でさらなる景気悪化を防ぎつつ、全体の約6割を占める歳出追加で需要を刺激し、2年間で350万人の雇用創出を目指す。
景気対策修正法は近く大統領の署名を経て成立する見通しで、米政府は実質国内総生産(GDP)を3%以上押し上げると見込んでいるもよう。一方、民間の見通しを集計した最新のブルーチップ調査では、2009年の実質成長率は対策を考慮してもマイナス1.9%に沈む。(ワシントン=大隅隆、ニューヨーク=藤井一明)(15日 07:00)
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たしかに【異例の早さ】ではありますが、そりゃー早いはずだよ、民主党だけで決めたんだから。
共和党の議員からは法案支持、ゼロ。
前回の選挙で共和党側は議席数を大きく失い、現在の議会は過半数をはるかに超えて民主党が握っちゃってるもんで、「数のちから」で押し切られ、法案は金曜日にあっけなく成立した。
この結末に共和側の不満は爆発。週末のメディアでは、共和党員、みな怒る、怒る。
「民主vs共和と分裂対立するのはもう止めにして、BIPARTISAN(超党派の、党の違いを超えた、という意味)でやっていこうと言ってたのはオバマじゃないか!でも、オバマのやり方は一方的で、話合いをしようという姿勢も、こちらの言い分を聞こうという態度も、ないじゃないか!これのどこがBIPARTISANなんだ、聞いて呆れるーーっ!」と、各ニュース番組で叫びまくっていた。
たしかに、どこかの国みたいに、やれ「共和」だ、やれ「民主」だとやってたら、法案はいつまで経っても成立しませんからね。いまはシノゴノ言っている時じゃない。
とはいえ、今回の成り行きは、オバマ政権の今後にとって、決してプラスには働かないだろう。
この先、「失業率」と「住宅価格」の統計がわずかでも悪化の兆しを見せれば、その度に、オバマ政権は、議会で揚げ足取られて叩かれまくること、間違いなし。
いまのところ、オバマの支持率は7割を超えており、この高支持率に支えられて、ムチャも結構できている、と言えそう。現在はまだ新政権発足から日数が浅く、だれもが「オバマならなんとかしてくれる」という一縷の望みを捨て切っていないから我慢できてるけど、ひとの我慢は長続きしない。支持率も7割超をずっと継続させることなんて不可能だろうし、そうなってきたときに、議会が混乱しなければいいんだけどな・・・。
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ところで、上の記事にもあるように、この法案は「2年間で350万人の雇用創出をめざす」という、意欲的な(非現実的な、とも言う)プランなんだが、その「雇用創出の方法」について、「えっ、それって、マズくないすか・・・・???」と思われても仕方ない言葉がオバマの口から飛び出した。
法案をめぐり議会で共和と民主が対立してゴチャゴチャやっている最中、オバマはイリノイ州を訪れ、一般有権者を前に、まるで選挙の遊説のあのノリで、この法案がいかに米国にとって重要かを力説していた。
そこで、オバマはキャタピラー社(Caterpillar、ティッカーCAT)を引き合いに出し、
「CAT社のCEOが、この法案が成立すればキャタピラーは最近解雇した2万2千人の従業員を再雇用する、と自分に約束した」
と発言したのだ。
参考記事:Obama: Caterpillar to rehire if stimulus passes
http://www.msnbc.msn.com/id/29139938/
重機メーカー世界最大手のキャタピラー社(Caterpillar、通称CAT)は、先月末、経済鈍化による業績悪化を理由に、2万2千人の従業員を解雇したばかり。
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このオバマの発言に、いちばんビックラこいたのは、キャタピラーのCEO本人であるに違いない。
しかしね、考えてもごらんなさい、自動車産業を筆頭に衰退激しい米国製造業の中でいまだに世界シェアで圧倒的な強さをみせて「米国製造業の雄、アメリカの星」とも言える優良民間企業がですよ、
「オッケー、法案成立したら2万人再雇用するよ、まかしとき!」
なんてことを、常識で考えたって「約束する」わけがないではないか。
国営企業じゃないんだから。
オバマの【大衆向け法案売り込み作戦】にまんまと利用された、この哀れなキャタピラー社のCEOジム・オーウェンズ(Jim Owens)、オバマ発言の翌日12日に記者会見を持ち、「キャタピラー社が再雇用できるようになる前に、さらなる解雇が待っている」と述べて、オバマにそんな約束した覚えはないことを確認した。
しかし、ちまたで抜群の人気を誇る新大統領の発言を、こうして真っ向から否定して大統領に恥かかすのも立場上ヤバイと察したらしく、翌13日付けで、キャタピラー社はこの件についてステートメントを出している。
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"As I indicated yesterday, the President and I fundamentally agree that.
the U.S. stimulus package will be beneficial to the U.S. economy and
should spur demand for the types of products made by Caterpillar. The
passage of significant stimulus packages in the United States and abroad
would help move the global economy toward a recovery, and if these
packages are enacted quickly, they could stimulate demand for our products
that would likely, over time, provide Caterpillar the opportunity to
recall employees who have been laid off during this downturn. We know
this won't happen overnight, but I am confident that swift passage of the
stimulus will lay the important groundwork to rebuild our workforce."
『景気対策法案が米国に利益をもたらしキャタピラー社が製造しているような製品への需要を高める、ということについては、私と大統領とは基本的に見解を同じくしている。同法案が早急に成立することでグローバル経済は回復へと向うであろうし、製品への需要が高まってくれれば、この景気後退の余波を受け我が社から解雇された従業員を再び呼び戻す機会も、そのうち、生まれてくる可能性は高い。これが一夜にして起こることはないと我々は理解しているが、景気刺激策は我々の従業員ベースを再構築するための重要な布石になることは確かである。』(筆者による拙訳)
くーーーっ、かなり苦しいセリフだぜ、ジム・オーウェンズ!
オバマの見解に同意するといいながら、「再雇用します」とは言わない。いや、言えない。
「350万人の雇用創出をめざす」オバマを前にして、「でも、雇用の前に、我が社はもっともっとクビ切るつもりなんで」とは、口が裂けても、言えません。新政権に睨まれてもイヤだしな。
ここはナアナアで通して、ワシントンの政界とは距離置いておくほうが、民間企業の経営者としては、無難である。
しかし、オバマの「雇用350万人」の中に、まさか、「民間企業に口出して雇用増やさせる」なんて考えが入ってないでしょうね。
公的資金もらってる金融機関のエグゼクティブの給料にも口を出し、そうじゃない民間企業の雇用予定にも口を出す。
オバマよ、あなた、いつから、キャタピラー社の人事部長になったのさ?
オバマ政権の発足が「米国の金融社会主義への第一歩」にならないことを、切に願う筆者である。
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