Friday, May 28, 2010

米銀の破たん件数について

リーマンショック後は、ほぼ毎週、金曜日になると、FDICからどこそこの銀行が破綻した、という内容のリリースが出されてくる。

今日(28日)の金曜日も、ご多聞にもれず、フロリダ州の3行、カリフォルニア州とネバダ州それぞれ1行、合計5銀行が潰れたというリリースがFDICから出されていた。

例えば、フロリダ州の3行破綻を知らせるFDICのリリースによると、これら3つのBank of Florida破綻銀行の総資産はそれぞれ、US$595Mil、US$641Mil、US$245Milで、銀行としては比較的小さい銀行だ。だが、この3つの銀行破たんにより、FDICが被る処理コスト(=すなわち、国民負担)は3行合計で推計US203Mil、総資産対比で14%が、「もう戻ってこないお金」として、あの世に逝った。

銀行が破綻すると、破たん処理コストが莫大にかかる。今回の14%などというのは可愛いもんで、債務超過額が膨らんで総資産対比3割4割といった膨大な最終コストが発生することも、銀行破たんの世界ではザラである。

銀行というのは、なにせ、総資産額が大きい業種でありますから、破綻されたりすると国民負担が膨大になる。(「破綻させてしまえばいい」などと軽~く言ってるひとは、破綻後の処理コストが自分のフトコロを直撃することをよく考えてから、言いましょう。)

下は2008年、2009年、2010年それぞれの銀行破たん件数をグラフにしたものだ。2週間前のグラフだが、今年に入って破綻ペースがさらに速まっていることがわかる。(2010年だけなら、今日付けで78行)

Source: TheChartStore.com (hat tip Big Picture)

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28日のウォール・ストリート・ジャーナルに、米国北西部(シアトルのあるワシントン州やオレゴン州のあたり)の銀行の建設関連融資の不良化が進み、銀行破たんが地元の経済回復を妨げかねないという記事が載った。


地元新聞によると、ワシントン州では今年さらに9件の銀行破たんが起こる可能性があると懸念されているらしい。ワシントン州は全米でも破綻件数が多い州として上位にあがっており、もし実際に更なる破綻が続けば、金融危機勃発以来、この州では4分の1近くのコミュニティバンクが消滅したことになってしまうという。


ワシントン州やオレゴン州のような比較的こじんまりした州の小規模銀行らが、なぜそこまでの建設ブームに沸き、結果として深刻な不良資産を抱えることになったかというと、すぐ南に位置するカリフォルニア州の急激な住宅バブルが隣州の北西部へとスピルオーバーしたからだ。

上述のWSJの記事中に、米国で2008年からの銀行破たんが広がっていった様を非常にビジュアルに示す動画が掲載されている。動画の下には、総資産額とともに、これまで破綻した米銀一覧表もあり。



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北西部の銀行破綻について、少々触れておく。




上の円の面積は破綻銀行の資産額を示すが、米国の北西部が極端に大きな円で覆われている。

これは、2008年9月にJPモルガンチェースに吸収合併されたワシントン・ミューチュアル(Washington Mutual、通称WaMu)の本社がシアトルにあったせいだ。

WaMuは破綻時の総資産3000億ドル以上、米国最大のS&Lで、破綻規模としては米国史上最大だった。WaMuのフランチャイズは全国規模だったので、シアトル近辺でのみ生じた破綻ではない。

とはいえ、地元最大銀行の破綻は、当然、地域経済に悪影響を及ぼし、その後も地域の小規模銀行の破綻が続いている。


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米国では、今日5月28日だけで5行が破綻し、2008年危機年以降の破綻数累計は、240件を超えた。

240数行の多くが資産規模が比較的小さな地域金融機関。小規模銀行が多い理由は、(1)システミックリスク懸念がない、(2)受け皿を見つけやすく迅速に破たん処理を進められる、等の理由から、小規模地域金融機関に対しては、一般に救済措置は講じられないからだ。

FDICのシーラ・ベア会長も、商業不動産へのエクスポージャは、中小金融機関に集中している点を指摘している。

現在のところ、FDICの「問題ある銀行」リストには700以上の金融機関がリストされ、このリストに載った銀行の23%が過去に実際に破綻したという。


以下は記事から抜粋。

Time: Commercial real estate lenders have about $1.4 trillion in loans coming due in the next few years. Midsize and regional banks have big exposure. Worried?

Bair: It is true that the smaller banks have more commercial real estate as a percentage of their assets and they will tend to be more impacted by the troubles in that sector. But we've known about it for some time, and the overwhelming majority of banks, even those that have commercial real estate concentration, have built up good-sized loan loss reserves to absorb the losses. So I think most banks will weather this just fine.


タイム:商業不動産貸付けのうち、向こう数年間で約1.4兆ドルの借り換えが起こります。このセクターには中小金融機関が大きなエクスポージャを抱えています。心配しておられますか?

ベア:総資産対比で見ると、小規模金融機関のほうが、より高い割合で商業不動産に貸し付けており、そのセクターで問題が生じれば彼らがインパクトを受けることになろうというのは事実です。しかし、それについては前々からわかっていることですし、商業不動産融資の集中度が高い銀行を含めても圧倒的多数の銀行がすでに損失を吸収するに必要な貸倒引当金を積み上げています。わたしはほとんどの銀行は、(次の2~3年を)耐えていけると考えています。

米国には8000を超えるFDIC参加金融機関が存在する。現在その10%近くが「問題あり」とFDICに認識されている、つまり、ベア氏が言う「圧倒的多数」というのは、残りの90%のことだ。

ただし、問題銀行リストに載る銀行数が、「FDICが発表するたび増えていく」という事実も、ついでに書き添えておきたい。

初頭のグラフで見たように、今年は最初の5ヶ月ですでに昨年数の半分以上の銀行が破綻した。今年も破綻数はかなりの数にのぼることが予想される。

  • FDICが把握している「非公式問題銀行リスト725行(5月14日付)」はこちら。(Source: FDIC via Calculated Risk)

Tuesday, May 25, 2010

ギリシャの悲劇5-欧州一般企業の流動性への波及

5月7日のブログ記事で、バンクの流動性が逼迫している様子であることを書いた。

その後、EUは、7500億ユーロの緊急救済パッケージという【怒涛のバックストップ】を用意することを10日に発表し、EUの関係者は、「これで、どうか、市場が落ち着いてくれますように、流動性が回復してくれますように・・・」と、皆でひざまずいて神に祈ったのであった。

だが、結局どうなったかというと、誰もが承知しているように、あの怒涛のパッケージは、市場を落ち着かせるのに失敗したんである。

ドイツの(ひとりよがりな)空売り規制の動きも手伝って、市場は落ち着くどころか、不安感はますます充満。

『流動性』の問題は、日を追うごとに主要メディアの見出しとなって出てくる頻度が増え、今週に入ってからは、クレジット市場のスプレッドの動きがグローバルでワイドニング、資金の流動性がさらに悪化していることを伝えるニュースがひっきりなしに目に飛び込んでくるようになってきた。

  • スペインの調達コスト上昇、短期証券入札で-銀行不安響く http://bit.ly/ak9bVT
  • 米企業の社債保証コスト、2日連続上昇-10カ月ぶり高水準に接近 http://bit.ly/bQTOWf
  • ドル建て3カ月物LIBOR、11日連続上昇し昨年7月7日来の高水準 http://bit.ly/cTtkQb
  • 欧州企業の信用リスク、10カ月ぶり高水準 http://bit.ly/9ydoe7
  • iTraxx日本180bpまで上昇、シリーズ最高値更新-CDS取引 http://bit.ly/bjlp3X
  • 米社債のCDSのビッド・アスク・スプレッド、9カ月ぶり高水準 http://bit.ly/9vxbVS
  • 欧州銀行のドル資金調達コストにプレミアム-WSJ http://bit.ly/cWO8hR

本日、過去数時間分のブルームバーグ記事の見出しを拾っただけで、こうであるよ。金融機関同士のみならず、銀行以外の一般企業の資金繰りにも影響が出始めており、極度のリスク回避が信用収縮のペースを速めているのが、見出しを眺めただけで、感じられる。

銀行というのは、『仲介業』ですから、銀行同士の資金のやりとりがフン詰まり起こすと、その資金フローの末端にいる一般企業らに必ずしわ寄せがいく、そういう業種であります。

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先週の金曜日に、筆者の注意を引いた、こんな記事があった。

HEARD ON THE STREET: Europe's Corporate Funding Shut-down 
『金融街で耳にしたこと:欧州の企業ファンディングが閉鎖状態』
(Market Watch, 5/21/10)

以下は21日に、記事紹介を兼ねてTwitterにて連続ついーとした内容だが、筆者はこの記事は重要だと感じるので、ここにそのまま張っておく。

①欧州の企業資金市場、わたしが考えてた以上に、もっと深刻にやばそうだ。銀行債も企業債も、どちらも新規発行が困難になってるという話だ。日中のボラ高すぎて、ブック積み上げることできないらしい。そりゃ、そうだよな。


②この記事(英文)、重要→http://bit.ly/ap4cy1 記事によると、一般企業債のインベストメントグレードは2009年にかなり調達をスムーズにやっといたのでまだいいが、ハイイールドになると新発プレミアムがBBレベルで100+bp加算、Bレベルで200+bp加算もあり。

ハイイールドのさらにヤバイ点は、2004-07のレバレッジド・ローンブームのときに調子こいて借りた銀行ローンの借り換え需要があるらしいんだが、流動性が細っていていく先不安な雰囲気。これが何意味するかというと、欧州の銀行に損失出る確率高まって信用収縮に繋がる、って話だ。

銀行が発行体になるシニア債になると、最後にシニア債が発行されたのは一月以上前の話だってんだから。ECBのディスカウント・ウィンドウに、もしかして、すでに旺盛なタップ始まってるのかな・・・?

⑤ あと6週間で、欧州の皆様、バケーションシーズンを迎えて、それも市場をスローダウンさせるから、それまでに資金めぐりが回復してくれないと、資金需要が2010年の後半に集中することになる。やっぱりね、感じてたとおり資金のフローがいびつなんだよ。これは注意要する話。
(以上、ツイート終わり)

  
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上記記事の中で、筆者がどこにギョッとしたかというと、次のパラグラフだ。

Finally, and most worryingly, the bank funding market has shut down. The last senior bank debt issue came over a month ago; even the covered bond market, despite buying support from the European Central Bank, is at a near standstill. Of the 16 banks in the benchmark Markit iTraxx Europe index, only one, BNP Paribas, is trading tighter than the overall index, showing that systemic fears remain.

  • 銀行自身が資金調達する銀行債マーケットが閉鎖している。
  • 銀行シニア債が最後に発行されたのは1ヶ月以上前。
  • カバード・ボンドですら、ECBが買い入れでサポートしてるにもかかわらず、ほとんど停止状態。
  • ベンチマークになっているMarkitのiTraxx欧州インデックスに含まれる16銀行のうち、インデックスそのものよりもタイトな水準でトレードされているのはBNPパリバのみ。
  • これは、システム全体に恐怖感がはびこっていることを示している。

『銀行シニア債」というのは、銀行の負債項目の中で、流動性管理上「預金」の次に重要なアイテムである。それがほとんど新規発行されてないということは、銀行自身のバランスシートの流動性が低下しているという意味以外のなにものでもない。このままシニア債発行が困難な状況が継続するようであれば、銀行のデフォルトリスクは一気に高まる。

欧州のバンク流動性の状況は、筆者が前回ブログ記事を書いたときより悪化しているように、筆者には感じられる。

銀行シニア債発行の動向は、今後も注視を続けたほうがよさそうだ。

※ なお、25日の欧州市場では、欧州銀行シニア債CDSのインデックス(iTraxx Senior Financial) はワイドニングという、Markitからのついーと

Banks taking a battering across Europe - Markit iTraxx Senior Financials 181bp (+17)

“欧州全体で銀行信用力評価が悪化 - Markit iTraxx シニアフィナンシャルズは17bp拡大の181bp”

Monday, May 17, 2010

【備忘録5】ドイツ製造業ひとり勝ちの図

グラフは、欧州主要国の製造業新規受注比較(前年同期比%)

 
 

 
  • ユーロ圏というブロックを作ったことで最も経済的恩恵を受けたのはドイツ、というのは前々からいわれていることだが、製造業の新規受注トレンドをみると、ドイツのみ明確に上向き、他のユーロ国は下向き。(注:スウェーデンはユーロ圏ではない、あくまで比較参考。)
  • ひとりだけ経済成長のファンダメンタルズがここまで異なれば、ギリシャ問題解決策の話し合いにおいて、なかなか他国と歩調を合わせずらい、ということか。
  • この、ドイツ一人勝ちの図を、「ひとりだけユーロでうまい汁吸いやがって」と解釈するか、「それが実力」と解釈するか。
  • 同じユーロ圏内で、ここまで差が出る理由(産業構造の違いとか)は、どこに?←よく知らないので、今後理解したい点。

 
 
グラフ元:Citi,Inside the S&P 500, Steven Wieting, 17 May 2010 
(hat tip Business Insider)

 

Friday, May 7, 2010

ギリシャの悲劇4-バンクの流動性逼迫

昨日6日は、ギリシャ問題に端を発した市場の懸念が最高潮を迎え、その上、NY株市場では誤注文によるらしき理由でダウが一時1000ポイント近くも暴落し、パニックに油を注いだ。

NYの取引時間中に、目の前でダウがメルトダウン起こしてるのを見ながら絶叫していたMHJ筆者であるが、何にゾッとしたかと言えば、システムの誤作動でこんなことが起きるとかいう話よりも、それが株市場だろうが、債券市場だろうが、商品だろうが、為替だろうが、市場という市場が一斉に文字通りパニックを起こしてるのを見て、「現在の市場がショックを受けると簡単に総崩れになる地合いにいるのをハッキリと確認した」ことである。

いまの市場はもろくて崩れやすい。

NY市場が引けた後は、日銀が2兆円即日オペやるだの、G7財務相が電話会議を開くだのといったニュースが続き、筆者には、それもなんだか不安に感じられた。

というのも、金融当局というのは、株価が一時的に急落したぐらいでは、そう簡単には動かない。彼らが動きを速める時は資金市場に問題が生じているときとおよそ相場が決まってるからである。株価は待ってくれるが、資金繰りは待ってくれない。

前回のエントリーでは、筆者は「LIBORなどベンチマークとなる金利が上昇傾向にあり、(欧米の大手金融機関の)CDSスプレッドも一斉拡大になっているということは、グローバルの資金の流れに悪い変化が起こっていることを意味する」と書いた。

そこに、今度は、中央銀行やG7までも、なんだか慌ててガタガタ動いていると聞かされたら、不安になるなという方が無理ではないか。

欧州各国のソブリンのスプレッドが連日拡大を続け、Contagionが進行しているのは明白だったが、当局がここまで動くからには、きっとそれだけではないはず。資金市場のどこかで、何か異常事態が起こっているはず・・・。

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そう思って床に着き、翌朝7日に某ブログの朝コメントで読んだのが、これ

Contagion risks have hit European credit markets, with company bond sales slowed to a halt and the cost of protecting against European bank failures rising. One trader said yesterday he'd heard fixed-income desks in Europe shut down early because there was no liquidity, "similar to what took place pre-Lehman Brothers." (Friday, May 7, 2010 8:06 AM )

感染リスクは欧州クレジット市場を直撃、企業債セールスはほとんど取引がなくなるほどスローダウンし、欧州銀行のプロテクション・コスト(注:CDSスプレッドのこと)は上昇。聞くところ、欧州銀の債券トレードのデスクは流動性がまったくなくなり早々に店じまい、「リーマンショック前夜さながら」とはあるトレーダーの昨日の言。(5月7日、金曜日、午前8:06)


there was no liquidity・・・絶句・・・

そして、ロイターからは、こんな重要情報。

(記事引用)
・・・短期のインターバンク市場ではドルの供給が極端に細っており、ドルの資金調達コストは今後さらに上昇する見通しだ。「為替市場ではユーロに照準が当たっているが、資金市場でパニックが起きているのはドル」(前出の外国銀行)だという。「危機時は手元にドル・キャッシュを厚めに確保する動きがでる。キャッシュを確保していれば、決済困難に陥る事態を回避できる。…

☆ロイター記事(日本語)全文:『ドル不足が深刻化、欧州財政危機が金融危機に転化する兆候



これだもんなー、G7財務相が集まるはずだよ。

Contagionのリスクはスプレッド拡大という形で方々に伝染し、あらゆる経済活動の生命線ともいえる短期資金市場で猛威を振るい始めていたのであった。

わずか数日間で、リクイディティ(Liquidity=流動性)の逼迫は待ったなしの状態に追い込まれていたんである。


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7日のNY株市場も、FEAR(恐れ)が先に立ち、ナーバスで不安定な動きの末に連続下落。

欧州株市場はFTSE300が8.75%下がり、一週間の下げとしては、2008年11月以来とか。

欧州債券市場も、ギリシャへの手綱を緩めることなく、ギリシャの対独スプレッドはついに1000bpを日中一時突破した。

南半球でも、オーストラリアの銀行群が横並び一律CDSスプレッドが前日比50bps以上も拡大し、カレンシーも派手に動き、財務相が「豪州は欧州の影響には十分対処できる」と火消しにやっきになる始末。

☆ Sydney Morning Herald 『Australia in 'strongest position' to cope with Greece crisis: Swan


緊張が続くなか、7日欧州の取引時間終了間際に出てきたのが、このウワサである。


MKTS…Spec of 600bn EUR ECB loan facility to be announced over weekend, 1yr 1% loans to cover 1100 banks


ECBが週末に6000億ユーロ規模のローン・ファシリティ設置を公表する予定、利率は1年1%、1100の欧州銀をカバー、とのスペキュレーション

このウワサで市場はやや落ち着きを取り戻した。

だが、その後のウォールストリートジャーナルでは、ECB関係者はこの噂についてコメントを控えたとの報道。

☆ WSJ『ECB Declines to Comment On Bank Loan Package Rumor

筆者の長年のバンクアナリストとしての経験から、金融機関というものは、一にも二にも資金繰り。資金が命、資金が血。自己資本不足については、会計処理でごまかしたり、どこかに飛ばして先延ばししたり、となんとか時間稼ぎはできるもんなんである。

だが資金ばかりはそれができない。さっきも書いたが、資金繰りは待ってくれない。金融機関の場合は、非常にレバレッジのきいたバランスシートの構造をしているということもあり、資金繰りが逼迫すると瞬く間にあの世行きになることがある。そして、ひとつの銀行破綻が他行へのバンクランを併発させたり、銀行間の資金のやりとりが萎縮して、システム全体の流動性をさらに下げることにつながる。

ギリシャのソブリン・スプレッドの拡大を抑えることができなくなった先週以降は、ギリシャの金融機関がそうした流動性枯渇に陥らないようにと、ドイツ政府やフランス政府が、ギリシャ向けのラインは閉鎖せずに全開維持することを、自国の銀行群に確約させるという動きもあった。だがギリシャ向けだけライン確保しても、なにせ資金の流れは蜘蛛の巣のように入り組んでいるが故、Contagionが進んでしまっては効果が薄いのであろう。

それにだいたい、こういう「噂」が出てくること自体、多くの銀行で短期流動性に圧迫感を感じているという証(あかし)みたいなもんである。

ギリシャ救済ももちろん重要だが、目下最重要なのは、金融機関の短期流動性の確保だ。

この週末、バンクの流動性対策について、欧州当局からどんな話が出てくるだろうか。

Thursday, May 6, 2010

ギリシャの悲劇3-Contagion

先月23日に首相が白旗を挙げ、IMF/EU融資を仰ぐことになったギリシャ。その代償として、厳しい財政緊縮に着手せざるを得くなった彼の国では、連日公務員のストライキと暴動の嵐である。



昨日は火炎瓶が投げつけられた銀行で3名焼死するという惨事に。民衆は暴徒と化し、尋常ならぬ事態に発展している。

アテネの古代遺跡「アクロポリス」も反政府デモに参加する労働者達に占拠された。


アクロポリスに掲げられた垂れ幕には、

PEOPLES OF EUROPE RISE UP 
(ヨーロッパの国々よ、立ち上がれ!)

しかし、ギリシャのために立ち上がるもなにも、この垂れ幕を見た他国の欧州人は「この騒ぎが、いったい誰のせいで起こったと思ってるんだ!」と思わず眉間に皺が寄ったに違いない。

2週間前にアップした前回のエントリーでは、ギリシャのソブリンスプレッド拡大の動きはすでにギリシャからスピルオーバーし、ポルトガルも2年5年スプレッドはネガティブ圏に突入、ベルギーやフランスなどPIIGSに含まれないユーロ圏の国々にもスプレッド拡大傾向が見られるようになっている、ということを書いた。

あの後もユーロ圏を中心にソブリンスプレッド拡大の動きは継続的に見られるようになり、ギリシャ問題の伝播(Contagion)の進行は火を見るよりも明らかとなった。

5日にはドイツ連銀総裁が、「ユーロ圏内でギリシャ財政危機の重大な感染効果が広がる恐れがある」と述べたという報道があったが、往々にして、金融当局のオエライさんが「~~の恐れがある」と口にする頃には、それは「すでに相当進行している」という意味であるのは、言うまでもない。

EU側の融資の鍵を握るドイツは「俺達が働いた金で、何故、怠け者のギリシャの尻拭いしてやらなくちゃいかんのだ!」という(もっとも至極な)国民感情に政治筋が翻弄され、いまだにドイツ国内でグダグダやってるようであるが、独連銀総裁は「Contagionを考慮すれば、ドイツが総額1100億ユーロ(約13兆5000億円)のギリシャ支援に貢献するのは正当だ」と主張して、今以上の事態の深刻化を防ごうとやっきである。

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この1100億ユーロのギリシャ支援パッケージについて、グダグダ言ってるのは、何もドイツだけではない。

このパッケージの3分の1はIMFの拠出金からの融資という条件なのだが、IMFへの拠出クオータは米国が17%でダントツで多い。パッケージの3分の1、即ちUS$40Bil相当の17%というと、US$6.8Bil(約6000億円)。

今朝(6日)のNYで伝えられたニュースによると、米国の政治家連中が「自分の国のことで手一杯なのに他国の救済までやってられるか!」と文句つけて、米国のIMF融資参加を阻止しようとがんばっている、というのである。

今朝のCNBCに出演していた政治家のオバサン(名前忘れた)は、「ギリシャで終わるという保証はないのよ!まだまだ後が控えているのよ!ここで前例を作ったら、その度に米国がカネ出す羽目になるのよ!キキーーーーッ!!!」と吼えていた。

ちなみに、日本のクオータは6.1%。金額にすると2000億円程度の日本国民のカネが、IMFを経由して間接的にギリシャ救済に渡ることになる。

IMFへの拠出金のクオータの詳細は、こちら

ギリシャ国内は暴動の嵐、EU側はいまだにウダウダ、IMF分も欧州圏外の国からぎゃーぎゃー。

たとえすべてクリアして、ギリシャがIMF/EU融資を受ける運びになったとしても、債権者側から求められる厳格な赤字削減と財政緊縮は、景気後退の最中にいるギリシャにとっては容易なことではない。

財政緊縮がさらなる景気後退を招き、GDP縮小の速度が債務削減の速度を上回ると、GDP対比の債務比率は現在の100%+から向こう数年一層悪化するシナリオもありえる。

そうなると、また、格付け機関とかがヌォーーーと妖怪のように登場してきて、「Debt-to-GDPレシオが悪化してるから格下げね~♪」なんてことを言い出したら、市場調達がまた困難になり・・・という悪循環に陥る可能性も目の前にぶら下がってるんである。

前途多難、滅茶苦茶・・・。

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「何で、オレが!」というドイツや米国の言い分はもっともなのであるが、この問題は、ギリシャを放っておいて解決する問題ではない。

資金市場というのは、世界中に資金の流れのルートが蜘蛛の巣のように張り巡らされているのだが、どこか一箇所で何か変なことが起こると、その悪影響が絡み合った蜘蛛の巣を伝って短時間で広範囲に伝播してゆくというContagionの側面を持っている。

伝播する前にうまく問題を一箇所に閉じ込めて抹殺するのに成功すればいいが、失敗すると、資金取引のカウンターパーティ達に次々問題が広がってゆき、その拡大スピードが尋常じゃないことから封じ込めるのが困難になる。

ギリシャのケースは、早いうちからContagionの問題が懸念されていたにもかかわらず、関係者がDenial(自己否定)のステージに何ヶ月も留まって、CDS市場のスペキュレーターのせいだと問題を摩り替えたり、リップサービスを繰り返して救済の実効性に疑問符をつけられるなど、早期の問題封じ込めに失敗した。

その結果、Contagionの問題が表面化、他国のスプレッドもワイドニングがとまらず、ポルトガルなどは、10日たたぬうちに400bp超という、ひと月前のギリシャの水準にまで拡大。

前回のエントリーでコメントしたとおり、スプレッドはボラティリティを高めながらワイドニングを続けている。

この「蜘蛛の巣のように絡み合った」資金の流れであるが、5月1日付けのニューヨークタイムズに、Europe's Web of Debt という、よくできた図が掲載されている。(クリックすると拡大します)

この図は、PIIGSの5カ国間の『貸し借り』の蜘蛛の巣だ。相手の国に貸したり、借りたり、5カ国だけでもこの複雑さ。この5カ国以外とも、同様の貸し借りの蜘蛛の巣があるわけだ。みーんな資金市場で複雑につながってるんである。


この図をみると、今問題になっているギリシャや、次に控えるポルトガルの債務の額が、いかに小さいかがよくわかる。

5月6日のPIIGSソブリンCDSのレベルを見てみよう。

ギリシャ 907bps
ポルトガル 443bps

このスプレッドが示唆するCPD(Cumulative Probability of Default)は、ギリシャ、ポルトガルそれぞれ52%と32%。ギリシャが向こう5年でデフォる確率は50/50という市場判断が織り込まれている、という意味だ。

PIIGSの他の3国はどうであろうか。

イタリア 217bps (前日比+30bps)
スペイン 267bps (同+38bps)
アイルランド 270bps (同+30bps)

どこも200bps台に乗っている。前日比でどこも30bps以上のワイドニングとなっている。

以前も書いたかもしれないが、クレジット投資の世界では、スプレッドの動きというのは、平常時は数ベーシスポイント程度しか動かないのが普通だ。とりわけソブリンCDSなんてのは、企業債CDSと異なりジャンク格付けがついてる国なんてそんなにたくさんないわけで、ハイイールドばかり集めたソブリンファンドなんて聞いたことないんである。そういう世界で、伊・西・愛といった先進国のスプレッドがわずか一日に30bpsも動くなんてのは、クレジット投資に関わる者なら誰でも、げーっ!となる数字であるよ。

Contagionは着実に進行しているのだ。

だが、前回も書いたとおり、85億ユーロの国債償還期日は再来週5月19日。

なんだかんだ言っても、償還スケジュールは待ってくれない。もし、そのときまでに償還資金(キャッシュ)を手当てできなければ、ギリシャ国債は【デフォルト】起こすのである。

米国もぎゃーぎゃー言ってるが、資金の流れはグローバル、米国だって蜘蛛の巣にすっぽり入っており、米国は無関係だなどと開き直ることなどできないのが現実だ。

実際、資金市場で実際に資金を動かしている金融機関たちのクレジットスプレッドがそれを示している。欧州の銀行群のCDSスプレッドが拡大しているのは当然としても、国際プレゼンスの高い大手米銀のCDSスプレッドも、一律拡大基調になっているのだ。

上の『貸し借りの蜘蛛の巣』で繋がり合ってる金融機関同士で、どの国のどの金融機関がどの国に対してどれだけのエクスポージャをもっているのか、互いに疑心暗鬼になって、みんなでリスク回避の方向に動いている。だから、金融機関のCDSが一斉に拡大するのだ。

LIBORなどベンチマークとなる金利が上昇傾向にあり、CDSスプレッドも一斉拡大になっているということは、グローバルの資金の流れに悪い変化が起こっていることを意味する。

Contagionがさらに進行すると、債務規模のはるかに大きなイタリアやスペインに火の手が移り、そうなると、Too Big To Bail(救済するには大きすぎる)で、救済策に頼ることができなくなり、ユーロ圏の複数国で実際のデフォルトが起こるというシナリオにも現実味が出てきてしまう。

Xデーは5月19日。今週末の欧州は、待ったなしの正念場。

筆者個人としては、混乱は続くものの、結局はギリシャがIMF/EU融資にタップして、少なくとも5月19日に予定されている85億ユーロの償還は予定通り行われデフォルトは回避される、せざるを得ない、と考えている。

5月19日以降どうなるかについては、正直、見当はつかないけれども・・・。