Tuesday, April 28, 2009

資産評価のダブルスタンダード

NY株市場、ここ数日、【変】である。

何が変かというと、売買ボリュームでみたときに「売り」が「買い」の3倍や4倍になってても、S&P500のインデックスは、なかなか下がらないんである。

今朝(火曜日)は、「ストレステストの結果、連銀がバンカメとシティに追加的にキャピタルを発行するよう圧力かけている」というウォールストリートジャーナルの深夜の報道が朝から話題になっており、金融株への嫌気からSPフューチャーはNYの取引開始前から相当下がっていたから、S&P500のインデックスも相当下がると読んでた向きは少なくなかった。

で、ふたを開けてみると、開始直後は下がったが、インデックスはあっという間に持ち直し。

気味が悪いのは、取引中に何度も「売り」が優勢になるのに、インデックスが下がらない、ということだ。下がらないどころか、「売り」が圧倒的優位になると、誰が買い向ってるのか知らんが、決まってその直後にインデックスが跳ね上がる。

売られても、売られても、値が下がらないとは、これいかに・・・???

こんな気味悪いことが連日起こるのは、某大手証券の自己勘定プロップデスクらが市場価格よりも高い価格を提示して市場での価格形成を歪めてるからなんじゃないのかといった【憶測】が、こちら米国のブログやトレーダー同士のチャットルームでまことしやかに飛びかっている。

特に金融株が【変】・・・。ショートのポジションも急激に減った。一体誰が買ってるんだろう・・・。


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で、その話題の「銀行のストレステスト」である。連銀ら当局はテストの結果を5月4日に公表するらしい。

ウォールストリートジャーナルの今朝の記事は、「バンカメとシティはストレステストで自己資本不足に陥っているのが発覚、自己資本を充実しなくてはならない(←優先株を普通株に転換することで希薄化がおこる、という意味)」というリーク記事。

市場アナリストの中には、バンカメはさらに700億ドル(7兆円)規模の追加キャピタルが必要と試算するものもいたりして、憶測だけが飛び交っている。

以前からここで書いているように、筆者は、「ストレステストぐらい前提次第でどうにでもなるものはないので、どうせ、公表される結果はアッと驚くようなドラスティックなものにはならない」と考えているのだが、ちまたでは、ストレステストの結果にいまだに興味深々(つーか、それをダシにして無理やり話題つくってるという感じ)である。

明日(水曜)はバンカメの株主総会だそうで、最大株主のひとつCalpersがその意図を示したことからCEOケン・ルイスの在任が否認されるのではという観測も高まっている。

(そのケン・ルイスは先日、メリルを買ったのはポールソンとバーナンキに脅されたせいで「ボクの一存じゃないもん」と発言し、ポールソンは「ボク知らないもん」と言い、ルイスにクビにされたメリルの元CEOジョン・セインは「ボクのせいじゃないもん」と言ったりで、みんなで指の指し合い。当事者のみなさん、見苦しいですよっ!)

いずれにしろ、サブプライムローン米国最大手のカントリーワイドを吸収し、さらに、CDO投資でニッチもサッチもいかなかくなったメリルも買取り、バンカメのキャピタルが不足しているのは火を見るより明らか。

米国最大規模の預金ベースがあるから、これまで流動性を保って何とかやっていられるものの、これ、調達サイドが市場調達頼みの銀行だったら、とっくに潰れていても不思議はない。

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さて、この「銀行自己資本(キャピタル)」であるが、ちょっとウンチクを述べたい。

銀行の自己資本というのは、【将来の損失】に備えたバッファーという役割を持っている。

融資なり、投資証券なり、銀行のバランスシートの資産側に内在しているリスク量に対し、そのリスクから想定以上の損失が将来発生すると、自己資本不足が露呈する。

仮に、いま、ある銀行が1兆円の貸出金ポートフォリオを抱えているとして、このポートフォリオから将来5%の損失が発生すると「見込まれている」場合、その銀行は5%に相当する500億円の「引当金」を蓄えて、バランスシート上に常に用意しておく必要がある。

しかし、不測の事態が生じて、損失額が予想されていた5%を上回り、額面の9%発生したとすると、予測されていた額を超える部分の4%(=9%-5%=400億円)は「特別損失」となり、当期利益を圧迫して自己資本を減少させるわけである。

もしも、その銀行が4%相当の「不測の損失」に対して十分な自己資本を持っていなかったら、どうなるだろうか。その銀行は自己資本不足に陥り、営業継続が困難になる。(企業が営業を続けられなくなる状態については、4月1日付けMHJ記事『GMの金融子会社GMAC、その後』にて説明したので参照されたい。)

つまり、銀行の将来損失というのは、

(1) 過去の倒産データなどから予想可能な損失=Expected Loss(略してEL)=通常のオペレーションを営む上で発生する償却費用 

(2) 統計データからは予想できなかった損失=Unexpected Loss(UL)=通常のオペレーションから乖離した状況が発生したときに発生する償却費用

二種類に分かれ、(1)のELの部分は「引当金」として期中収益から経常費用の一部として積んでおく必要がある。

一方の「自己資本」というのは(2)のUL部分をまかなうバッファーであり、こちらは、予想される事態を超える強いストレスがかかった場合を想定し、そうした事態が発生してもキャピタルがネガティブに陥らないように、自己資本は常日頃から厚めに持っていることが好ましい、とされている。

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融資や投資証券などの資産からどれほどの将来損失が生じるかについては、資産評価を行い、市場性のあるものは時価評価して損失額相当の償却を行わなくてはならない。

ところが、時価評価をしようにも、市場での取引がまったく行われなくなってしまったような資産は、時価を求めるために無理やり売却しようとすると、【計量的に求められる証券の理論値】以上にディスカウントがかかるという問題があり、とくに、銀行のバランスシートにしこっちゃってる不良資産(いわゆるToxic Assets)のプライシングについては、取引自体が完全停滞してしまっているために、ファイアーセールでも無理やり売らざるを得ないといった売り手が出てくると、足元見られてとんでもない値段がついたりして、もはや何が市場価格なのかすらわからなくなっている、という状況である。(AIGが去年の暮れに無理やり解消しようとしたCDSが、まさに、この例である。)

そんなこと続けてたら、損失額だけが膨らんで、自己資本はもっともっと減ってしまう・・・。

で、FASBが「気を利かせて」(真相は、政治的圧力と銀行のロビィに負けて)、この時価評価のやり方を変更し、時価を見つけにくい投資資産については、極端なディスカウントをかけて無理やり期中損失として計上しなくてもよろしい、ということになった。

この会計方針の変更が、銀行が計上すべき損失額をどれほど減少するのかは、具体的な数字は筆者にはすぐにはわからないけれど、自己資本の減少度合いを幾分緩和してやる効果はありそうだ、というのがコンセンサス

   ★   ★   ★

しかし、これから発表になるというストレステストで用いられる「資産の評価方法」について今日のフィナンシャルタイムズ(FT)が興味深い記事を書いている。

とてもいい記事なので、億劫でなければ一読されることを勧めたい。
http://www.ft.com/cms/s/0/39565d82-32c4-11de-8116-00144feabdc0.html

この記事によると、先日公表された、連銀による「ストレステストに関するホワイトペーパー」では、この新会計基準は用いずに、新会計基準よりも厳しい評価基準を用いて、銀行群の自己資本水準の妥当性を計るという。

これについて、FTはこう書いている。


The decision means the US authorities are now maintaining two approaches to valuing securities - a hardline approach when it comes to establishing how much capital banks need to hold pre-emptively against risks, but a softer approach when it comes to reporting losses relating to the same risks as they materialise.

米国の規制当局は投資資産を評価するにあたり、ふたつの異なるアプローチを取る。(資産に内在している)リスクに対しあらかじめどれほどの自己資本をバッファーとして持つべきかを決定するにはより厳しいアプローチを取り、期末ごとの報告書に記録する際には、同じリスクから発生する損失なのに、より緩やかなアプローチを用いてもよい、とする。


FTの記事は、今後優先株を普通株に転換する際に、どちらの基準を用いて転換総額を決めるのか不透明だと問題提起している。たしかにそれもそうだが、筆者からしてみたら、そういうテクニカルな部分よりも、この話は「ダブルスタンダードにしてやらないといけないくらい既に自己資本が毀損していて、一部の銀行は実質債務超過になっており、Toxic Assets の処理にまったく出口が見えてない」という意味だという点のほうが、より重要じゃないか、と思うな。

会計方針の変更のたびに数字が変わる財務諸表の数字なんつーものは、ますますもって額面どおりに信頼してはいけないわけである。

金融セクターの将来損失に向けてのバッファーは極めて薄い。となると、バッファーが充分な厚みをつけるまでは、期ごとの収益のかなりの部分が「バッファーの厚みの構築用」に使われてしまい、株主に還元する「配当可能利益」として株主の手元に降りてくるまでには、利益は小さくなってしまう。

しかも、バッファーとして足りてないのは、自己資本だけではない。

昨日のFDIC預金保険機構のベアー総裁による講演会で、彼女は、ハッキリと「引当金」も足りてないと明言していた。

「EL」のバッファー(引当金)も「UL」のバッファー(自己資本)も、ともに足りていない。でも資産に内在するリスク量が減っている、という感触はどこにもない。つまり、米国の金融セクターは、薄氷を踏むようなオペレーションやっている、ってことである。

こういうのを、「ファンダメンタルズのサポートが全然ない」というんである。

バッファーが薄い銀行は、その分、将来損失に向けてキャピタルを温存しなくちゃならないから、なかなかリスクを取れない。でも、リスクを取らなきゃ儲からない。儲からなくてもよいのなら、それは「公益事業」だ。

いまの状況で金融株を買うのは、「単なる希望的観測」に乗っかった投資家が動いているだけだと思うな。公益事業なのに株価がグングン上昇することを夢見て銀行株を買っているひとがいたら、彼らは、公益事業がなんたるかを知らないひとたちか、スペキュレーターか、なんらかの理由があって買わなくちゃいけないひとたちだけ、だと思うな。

でも、「希望」だけで、ここまで上がるか?クールになって売ってるひとも少なくないのに?

なのに金融株上がりっぱなし。【買わざるリスク】を気にして買ってるのか?

それでも、やっぱり、【変】なんだよなぁ・・・。




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Monday, April 27, 2009

豚インフルエンザと911テロ・パニック

月曜の朝のニューヨークは、一時、パニックに襲われた。

「豚インフルエンザ」のせいではない。

ホワイトハウス関係者のボケのせいである。



今朝午前10時、2001年のテロで崩壊したワールド・トレード・センターが建っていた場所のすぐ横っちょの上空を、ボーイング747型旅客機が、米軍のF16戦闘機に追いかけられるようにして、低空飛行してきた。(写真はニューヨークタイムズの記事から)

旅客機がビルのすぐ近くにグーンと近づいてくるのを窓から見ていた地域のオフィス従業員達はみな、8年前のテロを思い出し、パニック起こしてウワーーーーッ!とオフィスを逃げ出して、周辺の高層ビルからはワサワサと人が路上に出てきた。泣いている女性もいたらしい。一部の金融機関では、トレーディングフロアから一時トレーダー達も避難させたところがあるという。

10時すぎ、この騒ぎのせいで、ダウもS&P500もナスダックも、インデックスはいっせいにガクンと下がった。

ニューヨークのブルームバーグ市長も、何が起こってるのかわからず、シティホールには強い緊張感が走った。

ところが・・・

これ、ホワイトハウスがアレンジした「エアフォース・ワンの写真撮影会」だった、というんである。

NY市警に木曜日遅くEメールで簡単な連絡が入ってたらしいんだが、ニューヨーク市長はじめ、市の交通局も、付近の空港の管制塔も、お隣のニュージャージー州の関係者も、だれも、この演習について直接連絡を受けていなかった。

市長も管制塔もパニック!

その後真相を知ったブルームバーグ市長は記者会見開いてカンカン。(←当たり前。)

ニューヨークシティの高校から豚インフルエンザの患者が20人も出て、それでなくてもクソ忙しいってのに、エアフォース・ワンの写真撮影会・・・って、あんた・・・。

しかもね、よりにもよって、ワールドトレードセンターの崩壊現場を写真撮影会の場所に選ぶって、ホワイトハウスよ、あんたら、【鈍感】【無神経】と呼ぶにもほどがあるよ。

ホワイトハウスの関係筋は午後になってから、「謝罪文」を発表した。

オバマ大統領、就任100日目にして、部下の不始末でテロ騒ぎ。わたしがオバマなら、これの責任者を即日クビにするけどね。


   ★   ★   ★


さて、豚インフルエンザである。

今朝、マーケットが開く前にCNBC局の番組を見ていたら、アメリカ人のキャスターが「フジャボー」「フジャボー」と連呼している。

「フジャボー」って何のことだ?とよく聞いてみたら、日本の医療用マスク製造会社「富士紡」が豚インフルエンザ関連銘柄として東京市場で株価が急上昇したと言ってると、ようやくわかった。

「フジャボー」・・・ま、発音ばかりは、しかたないですからネ・・・。

こちら米国市場でも、今日は、「豚インフルエンザ関連銘柄」として、豚肉を扱う食肉会社や航空会社が軒並み値を下げた一方で、バイオテクノロジー会社「ギリアド(Gilead)」(ティッカー:GILD)が値をあげた。

GILDは、スイスの医薬品大手ロシェが製造するタミフルのロイヤルティ(特許権)を持っているアメリカの会社である。そう、日本で「自殺者続出の嫌疑」をかけられたことで有名な、あのタミフル。日本で「タミフル」と「自殺者」の因果が一時マスコミ上で大問題になったのは記憶に新しいけれど、日本であれだけ大騒ぎしてたのに、こちらのメディアではほとんど話題にもならなかった。

この会社のかつての会長はブッシュ政権で国防長官を務めたラムズフェルド。同社の理事にはジョージ・シュルツ元国務長官とカリフォルニア州知事だたピート・ウィルソンの妻が名を連ねていた。これらは『米国陰謀説』が好きなひとたちの間には良く知られた話。

シュルツは同社のタミフルが品薄で株価が急上昇した2005年に700万ドル相当のギリアド株を売って現金化したことで一部で話題になり、ラムズフェルドも同年推定時価500~2500万ドル相当の同社株を売却しようとし、法的・倫理的な問題が生じないかどうか、法務省やSEC等に打診したという。これら公的な法務機関はラムズフェルド個人の株の売買に対して公的意見を提供するのをためらったため、ラムズフェルドは個人的に証券法専門の弁護士に相談し、その弁護士から「いま多額の売買をして多額のキャピタルゲインを得るのは、不必要に世間の注目を集めることになるから、いまは目立たないように何もしないほうがよい」というアドバイスを受け取り、そのまま株主として保有することにした、という報道も当時あったのを覚えている。

今日現在、ラムズフェルドがどれほどGILD株を個人的に保有してるのかは知らないが、まだ持っていたとしたら、ラムズフェルドはさらに儲かってる、ということであるな。

このGILDという会社は、以下の2点で特筆すべき会社だろう。

ひとつは、ラムズフェルドやシュルツに代表されるように、「政界とのコネクションに異常に長けている」という点。これほど政界と太いパイプを持ってる会社って、そう滅多にあるもんじゃないと思うな。

ラムズフェルドは2001年にブッシュ政権の主要閣僚となる際に、同社の会長職は退いているけれど、ギリアド社の製品はラムズフェルドらが作る太い政界パイプをつたって、米国政府御用達の会社になった。たとえばタミフルなどは、米軍の軍人用薬品というくくりでペンタゴンに大量に納められているし、日本政府もタミフルの大量買占めに走った。こうなると、バイオ株というより政治株、であるな。

もうひとつは、この会社の「過去10年の株価パフォーマンスは、過去10年で1400%成長した」という点だ。

10年で1400%ですよ、1400%! しかも恒常的に安定的に上昇トレンド、である。

薬品株やバイオテク株はもともとボラティリティの高い種類の株だけど、安定的に1400%となると、その他もろもろのバイオテクノロジー株とはレベルが違うでしょ。そんな小型株、あっていいのか。

GILDとNasdaqの相対株価でチャートにすると、ナスダックのインデックス(グラフ中赤線)がペッタンコになるくらいでして・・・。




世界貿易センターのテロも『あれは米国の陰謀だった』みたいな話に飛びつくひとは少なくない。しかし、筆者は、あの手の陰謀説は、安手のSF小説読んでるみたいで、正直言ってつまんないし、まったく興味がない。

政府関係者が私腹を肥やすために世界戦争を意図的に引き起こし・・・みたいな話を聞くと、「リスクとリターンの関係でみると、それってリスク高すぎ/リターン低すぎで成り立たないでしょうが。その程度のリターンでいいなら、なにもそこまで大掛かりなことしなくたって・・・」とすぐに思ってしまうんである。

それよりも、GILD株が今後、どういう動きをするかのほうが、よほど興味深い。

過去3年のパフォーマンスで見ても、Nasdaqインデックスが3割下がってるのに、GILD株は6割も上昇してる。この株、インデックスをアンダーパフォームしたことがほとんどないんである!

筆者は、バイオ関係やテクノロジー関係は畑違いで情報に疎いほうなので、どうやったら、GILD株みたいなチャートを長期で描く成長小型株をみつけられるのか、どなたか、そっと教えてください。(笑)

政界に知り合い作るってのも、ひとつの案かしらね・・・。



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Friday, April 24, 2009

ワースト・イズ・オーバー・・・ほんとか?

The Worst is Over.(最悪期は脱した。)だそうです。

ほんとか?

NY株市場、今日もハイテク・金融、ともに底堅く、ニュースの見出しだけ見ている分には楽観的な雰囲気で一杯である。数週間連続株価続伸ですからね。ウキウキ組じゃなくても、なんとなく、明るくなるのが人情というもの。

メジャーなニュースサイト開けると、目に飛び込んでくるのは、

  『最悪期は脱した』とか 
  『回復の兆し』とか
  『ボトムは近い』とか

キラキラ明るい見出しが目立つ。


  "CBI Says Worst of British Recession Over" (Reuters)  
  (CBI英国産業連盟、リセッションは最悪期を脱したと見解/ロイター)

  "China's Premier Says Economy Better than Expected" (Associated Press)
  (中国首相、経済は予想よりも良好との発言/AP)

  "Dubai's Ruler Says the Worst Is Over" (Financial Times)  
  (ドバイの指導者、最悪期は脱したと述べる/フィナンシャルタイムズ)

  "U.S. Officials Suggest Worst of Recession Is Over" (Reuters)  
  (米国のオフィシャル、リセッションは最悪期を脱したとの言/ロイター)

  "Italy Employers See Signs Worst Over in Crisis" (Reuters)   
  (イタリアの企業経営者達は危機の最悪期を脱した兆候を察する/ロイター)

  "Worst Over? Just Maybe" (Associated Press)  
  (最悪期は終了?まだ「多分」の段階/AP)

  "'Worst Is Over; India to Be on Recovery Path in 2-3 Quarters'" (Business Line)  
  (最悪期は脱した:インド経済は第2から第3四半期に回復の予想/ビジネスライン)

  "US Hopes the Worst Is Over" (The National)  
  (最悪期終了の期待高まる米国/ザ・ナショナル誌)


なかなかウキウキしない「ウジウジ組」に所属する筆者も、ここまでワーストイズオーバーを連呼されると、さすがに、ふと不安になり

「ベアなわたしが馬鹿なのか・・・」

と自問してしまうほどであった。

だが、筆者には強い味方がいた。

『Financial Armageddon』というブログサイトである。(注:上の見出し群も、ここの4月20日付けのサイト記事より拝借。)


この『フィナンシャル・アルマゲドン』というサイト、ちまたに氾濫する【The Worst is Over】の見出しに対抗し

「どこかで聞いたことあるような・・・あっ、思い出した!」

といって、リーマンショック以前の記事見出しのコレクションを、合わせて掲載してくれました。

  "Lehman CEO Says Worst Is Over, Yet Troubles Ahead" (Reuters, 4/18/08)
  (リーマンブラザーズのCEO、最悪期は脱したがトラブルは続くと発言/ロイター、08年4月18日)

  "Bear Stearns Says Worst Is Over After Writedown" (CNBC, 11/14/07)
  (ベアスターンズ、不良資産償却で最悪期は脱した/CNBC,07年11月14日)

  "Citigroup Chief Says Worst of Crisis Is Over" (Evening Standard, May 7, 2008)
  (シティグループ会長、最悪期は脱したと発言/イブニング・スタンダード、08年5月7日)

  "Legg Mason's Miller Sees Recovery for Stocks; 'Worst Is Behind Us,' Famed Fund Manager Tells Beleaguered Shareholders" (MarketWatch, April 23, 2008)
  (レッグ・メイソンのミラー氏、株価回復に期待:著名ファンドマネージャー「最悪期は過去のもの」と不安がる株主達に語る/マーケットウォッチ、08年4月23日)

  "Is the Worst Over for Detroit?" (SmartMoney, July 18, 2005)
  (デトロイトから最悪期は去ったか?/スマートマネー、05年7月18日)


・・・わろうた。

『フィナンシャル・アルマゲドン』よ、わたしの脳裏に1ミリほど芽生え始めた一抹の不安を払拭してくれて、ありがとう!ありがとう!!

教訓:新聞見出しで市場を判断するなかれ。

日頃、Murray Hill Journalを読んで下さっている皆様、筆者と共にウジウジしている読者の皆様、メディアの心理作戦に負けるな!まだまだくじけるのは早い、ともにウジウジし続けよう!(笑)

   ★   ★   ★

いや、真面目な話、ずっとブルサインが続いていたS&P500インデックスにも、今日ついに、ベアサインが出たとのことである。

3月9日からずっとポジティブ圏で動いてきたMACDが、本日(4月24日)、ついにネガティブ圏に!





MACDとは、テクニカルアナリストがよく使う、ブルとベアのシグナルを示すチャートの一種。

Moving Average Convergence / Divergence の略だが、このMACDがポジティブに出るとブル派優勢、ネガティブに出るとベア派優勢で、MACDがゼロより下に来ると、株価は下降トレンドに入っているというサインになる。

※ この日本語サイト(↓)がMACDについて上手にまとめてくれてます。
http://www.kabu-beginner.com/k140090.shtml

前回のMHJ記事では、S&P500に含まれる株式の90%が50日間移動平均を超えて取引されてる、ということも書きましたが、MACDも。いよいよ下降トレンドか・・・。


   ★   ★   ★


今日(金曜日)のニューヨーク市場は、銀行のストレステストの“デザイン(やり方)”について連銀から詳細が出されてくる、というんで、みな朝から固唾を呑んで待ってたんだが、連銀が出したホワイトペーパーには、別に内容的に目新しいものはなく、ハッキリ言って不透明感は何も払拭されなかった。(ホワイトペーパーを読みたいという物好きな人は、こちらへ。)

それでも、金融株は強かったな。「明るいメディア見出し効果」なのか。

あるいは、新聞の見出しを読んだ【ビギナー後発組】が、いまごろその気になって、買いに入ってきてるのかしら。

しかし、安心するのは、まだ早い。ウジウジ。

そんな中で、誰より安心してダラケまくってるのが、このお方である。

オバマの経済アドバイザー、ラリー・サマーズ。

昨日(23日)、ホワイトハウスでは、またまた銀行の経営者達を集め、オバマが懇談会を開き「クレジットカードの金利を上げてるそうじゃないか、上げるのやめろ」と銀行にプレッシャーかけた。そこに同席したサマーズったら、グースカ居眠りしてやんの。

ほらほら、サマーズさん、誰かに写されてますよ。(笑)



春眠暁を覚えず。

まさか、サマーズも「Worst is Over」と思ってるのだろうか。



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Wednesday, April 22, 2009

コレクション間近か?不穏な雰囲気

昨日(火曜日)は、議会T.A.R.P.公聴会で、ガイトナー財務長官が「ストレステストの結果はこれから発表になるが、(彼の認識としては)米国の金融機関の多くが自己資本は十分ある」と発言して、金融株を押し上げた。

今日(水曜日)は、大手金融機関の決算が出尽くし、市場の反応は

「なぁんだ、すっごく心配してたけど、金融機関、どこも結構大丈夫そうじゃーーん!」

というウキウキ感が残り、赤字出したモルガンスタンレー除けば、今日(水曜)の前場も金融株は全般に底堅い展開だった。(午後に崩れたけど。)

でも、今後の償却費用の源泉となる住宅市場動向に目を向けると、あいかわらず暗いニュースばっか。

下のグラフは、過去半世紀の、米国の住宅着工トレンドである。過去50年間で最悪。季節調整加えるとさらに悲惨。(ひ、ひでぇ・・・)



今日も、フレディマックとファニーメイの住宅ローンの「プライム」部分がさらに延滞悪化してるというニュースあり、カリフォルニア州でフォークロージャが8割増になったというニュースあり、フレディのCFOが首吊り自殺したというニュースあり・・・。暗いニュースのオンパレード。

でも、金融株の株価のほうは、どんなニュースだろうが、「どんとこい」状態。

何が「大丈夫そう」なのかは誰にもわからないが、ともかく「大丈夫そう」という【ムード】だけがゆらゆらはびこる、今日このごろ・・・。

ニューヨーク株市場、とりわけ金融セクターに漂う、この根拠のない安心ムードを端的に表せば、ワシントンポストに掲載された下のCartoonのような感じ、とでもいいましょうか。(爆)



米国経済の見通し
「ま、もちろん、データポイントをひとつかふたつ見て判断しただけですけどね。」


(画中のオバマの下に、ちっちゃな、ちっちゃな文字で「「ボトムに“希望”の文字を書け」と書いてあるのが、また泣かせる。)

   ★   ★   ★

実際、3月9日を折り返し点にして、S&P500は、ずっと上昇トレンドにある。

とりわけ、S&P500の金融株インデックスは、3月9日から実に59%の上昇。S&P500全体の上昇率の3倍だ、というんである。

もう一方の債券クレジット市場のほうでは、株式サイドの浮き浮きユーフォリア(Euphoria)とは無縁とばかり、あいかわらず暗~くウジウジとダウンサイドリスクの心配ばっかやってるらしく、銀行発行の債券やCDSのクレジットスプレッドは、ぜんぜん縮小していない。

株価のウキウキムードは、果たして、いつまで続くのか。

下のチャートを見ると、そろそろ、またコレクションがやってきそうな雰囲気ではないか。

4月17日の段階で、S&P500に含まれる株式の89.2%が、50日間移動平均を上回って取引されてる。



さらに、(インデックスをショートするのに使う)S&P500のETFが品薄になっているという話が、市場に流れている。(情報源は、ここ(英文))

うーん・・・不安定な話ばかりだなぁ・・・。

もし、ここで、ふたたびコレクションが来るとしたら、結構、激しく来るんじゃないのか・・・そんな不安が持ち上がってきたんで、いちおう書き留めておこうと思った。


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Tuesday, April 21, 2009

小学生のための「CDSとは何か」 (3)

前回のMHJ記事で、JPモルガンが政府保証を受けずに自力で30億ドルの債券を市場で発行し、それにつけられたスプレッドが350bps(=ベーシスポイント、1bpsは1%の百分の一)だった、と書いた。

それを書きながら、「小学生のためのシリーズ」を書きかけのままひと月近くもほったらかしにしていることを思い出した。

忘れてました・・・すみません・・・。

で、予告(?)どおり、今回は「スプレッド」の話をしたいと思う。

JPモルガンが発行するといってる社債の発行条件は、「期限10年、表面利率6.32%、スプレッド350bps」。

この6.32%という利率は、次の二つに分解される。

    (1) 発行時に参照となる10年米国債の金利、2.82%
    (2) 上乗せされる金利、350bps(=3.5%)

表面利率6.32%というのは、(1)と(2)の和、すなわち、2つの【別々の金利】で構成されているのである。

これは、「金利」が付いている金融商品には、すべてにあてはまる。

企業が発行する社債しかり、銀行が個人に貸し出す住宅ローンしかり、クレジットカードやサラ金のローンにつく金利しかり。

上の(2)の上乗せ金利こそが、信用プレミアム、とか、クレジット・スプレッドとか呼ばれるものである。単に「スプレッド」と呼ぶことも多い。

  ★   ★   ★

例をあげましょう。あなた自信が「金貸し業」を営んでおり、いま2億円の現金を持っている、と仮定しよう。

いま、X社とY社のふたつ別々の会社があなたの会社の門を叩き、それぞれが、1億円を10年間貸してくれないか、と頼んだとする。

X社は創業100年の老舗でその業界では常にトップの実力者、創業以来一度も財務で問題を起こしたことがなく、会社組織もしっかりしており、会社の規模からいって1億円の借金は年商規模からいってさほどの額ではない、そういう会社であるとしよう。

Y社は将来性ある分野で急成長し注目されている会社だが、会社組織になってから日が浅く、オペレーションも小規模で、やる気マンマンのオーナーは30歳の若者、会社実績という意味ではまだ立ち上げの段階、そういう会社であるとしよう。

おそらく、あなたは、1億円づつ10年間という同じ条件でカネを貸すにも、X社とY社の両方にまったく同じ金利で貸すのは、【直感的に】躊躇しますね?

おそらく、あなたの頭の中では、X社には年率5%で貸してもいいけど、Y社には年率15%はつけないと・・・みたいな、動物的な勘が働くはず。

あなたの、その【直感】は、まったくもって、正しい。

なぜなら、一見して、X社は信用力が高く、Y社は信用力が低いからである。

信用力が高い、ということは、すなわち、信用リスクが低くデフォルトする確率が低い、という意味である。逆に信用力が低い、というのは、信用リスクが高い、つまり、デフォルトする確率が高い、という意味だ。

あなたの動物的な勘は、すでに、相手の信用力を見抜き、それぞれが持ってる「デフォルト・リスク」に従って、クレジットスプレッドの厚みを変えているのである。


   ★   ★   ★


さて、あなたの手元の2億円のキャッシュの使い道であるが、あなたはそれをx社とy社に貸してあげる代わりに、「国家」に貸してやってもいい。つまり、「国債」に投資してもよい。

米国や日本や英国やドイツなどの経済大国と呼ばれる国家たちが、皆様からお借りした借金を、ある日とつぜん返済するのやーめたと言い出すとは、少なくとも当面は考えにくい。ジーと満期まで持ち続ければ、日本政府や米国政府は、きっと約束どおりの金利を、滞りなくあなたに支払ってくれることでしょう。

20世紀に入ってからの金融理論のほとんどが、米国債のデフォルトリスクは限りなくゼロに近いと考えて理論構築されており、それゆえ、米国債の金利は「リスクフリー金利」と呼ばれる。(日本国債や米国債もそのうちデフォルトするんじゃないのかと心配してるひとは結構いるけど、今回のトピックからズレるんで、パスね。)

だが、個人もそうだが、企業というものは、現在どんなに信用おける会社でも、将来なにが起こるかわからない。

戦後のアメリカのゴールデンエージのを支えた米自動車産業が、50年後に倒産するかもしれないと考えていたひとが、当時どれだけいただろうか。

だから、企業や個人にカネ貸すときは、「何が起こるかわからないというリスク」を敢えて取ることになる。その「敢えてリスクを取る」という勇敢な行為に対する対価として、プレミアムを要求するのは、金貸しとして当然の行為である。このリスクのことを「クレジット(信用)リスク」と呼び、そのリスクに対する対価を「クレジット・スプレッド」と呼ぶ。

一方、国債金利については、その企業がどうなろうが、まったく別の要因で上がったり下がったりする。国債金利の上げ下げのほうは「レート(金利)リスク」とよばれ、これは「クレジット(信用)リスク」とは異なるリスクとして区別される。

したがって、社債についている表面利率(クーポン)は、「金利リスク」と「信用リスク」の合わさったものであり、表面利率だけみても、その利率が相手の「信用力」に見合った水準なのかは、それらを分解して表示しないとわからないのである。

ここでふたたび、X社とY社の具体例にもどるとしよう。

いま10年国債の金利が2.5%だと仮定すると、あなたがx社から取ろうとしている利率5%は、国債2.5%+クレジットスプレッド2.5%、に分解される。

同様にY社に対する利子15%は、国債2.5%+クレジットスプレッド12.5%である。

クレジット市場では、表面利率の5%と15%を比較するのじゃなくて、クレジットスプレッドの2.5%(250 bps)と12.5%(1250 bps)を比較して、それがグッドディールかバッドディールかの判断をするのである。

   ★   ★   ★

ということで、「クレジットスプレッド」とはどんなもんかぐらいは、何となく、わかってもらえたと思う。

このシリーズの2回目で、お天気次第で遠足が延期になるかもしれない・・・というボンヤリした不安が、ある情報を得ることで強い不安になったり、安心感に変わったりするという話を出したが、信用リスクに対する評価や判断は、まさにそれと同じ。

X社には250bpsという信用プレミアム(スプレッド)をリスクフリーの国債金利に上乗せして貸してあげたけれど、その後、新たな情報が入ってきて、当初考えてたよりヤバい会社なんじゃないのかと思うようになってきたら、あなたはどうするでしょう。10年後X社が耳をそろえて返してくれるか不安になってきますね。一対一の個人的な契約書の場合、やべぇと感じても、貸してしまったら最後、一方的に破棄するわけにいかないですね。

でも、社債の場合、これもカネの貸し借りにまつわる「契約書」でありながら、自分はもう持ちたくないなと思ったら、株券みたいに、社債市場に出て行って他の誰かに売りさばくことができるんであるよ。

ただし、あなたが手放したくなったのと同じ理由で、買おうとしてる相手は、あなたが当初x社に払わせることにしたプレミアム(2.5%)では、x社の信用リスクに対して割りにあわない、と考えている。つまり、もっと高いプレミアムを払ってもらわない限り買いたくない、と思っている。

でも、社債の発行条件というのは売買のたびに変えることができない。その社債を手にしても、クーポン5%という最初に取り決めた条件どおりにしか金利の支払いは行われない。

だから、新たな社債の買い手は「この値段なら買ってもよい」という額まで社債の金銭価値を割り引いて(ディスカウントして)購入しようとするのである。

その「ディスカウント分」というのは、売り手であるあなたの「損」になる。

逆に、新興会社で信用力がないと思っていたY社が、逆にメキメキと市場シェアを拡大して、あっという間に業界一、二を争う会社に成長したとしよう。そうすると、Y社が発行した社債を買いたいと思うひとが出てくる。あなたは売ってもよいと考えているが、こんな優良企業が1250bpsものプレミアムを10年間払うと約束した債券を、みすみす手放すのは惜しいとも思う。相手はプレミアムが750bpsでもいいから買いたい、と言うとしよう。

すると、当初の1250bpsというクレジットスプレッドは、750bpsという低いスプレッドで取引され、その差500bps(=1250-750)のスプレッドの縮小分に見合う金銭価値は、あなたの「儲け」になるのである。

まとめると、x社の場合、(1)x社の信用力が下がる、(2)x社の信用リスクは上昇する、(3)x社に求められる信用スプレッドは拡大(ワイドニング)する、(4)x社が発行していた社債の金銭価値(【現在価値】という)はよりディスカウントがかかり低下する、(5)売り手のあなたは損をする。

逆にy社の場合は、(1)y社の信用力が上がる、(2)y社の信用リスクが低下する、(3)y社が借金するときに求められるクレジットスプレッドは縮小(タイトニング)する、(4)y社が発行していた社債の現在価値は上がる、(5)あなたは儲かる。

以前も申し上げたが、債券というのは、金利が高くなるとその証券の価値は低くなり、金利が下がるとその証券の価値は高くなる。

そして、クレジット投資というのは、信用リスクを反映したクレジットスプレッドが拡大、あるいは、縮小するのに従って上下する債券の【現在価値(Present Value)】を追い求める投資形態なのである。

ディスカウントがかかる、というのは、そういうこと。だから、「クレジットスプレッド」のことを「ディスカウント」と呼ぶこともある。

   ★   ★   ★

小口の個人投資家を相手にするときは、信用スプレッドだの何だの言ってもよくわかんないだろうし、個人は自分が一年間でいくらの金利をもらえるかだけわかれば十分ハッピーだから、大概の場合、個人向けに発行される債券は表面利率しか提示されない。

しかし、相手がプロの債券機関投資家の場合は、彼らは、「いくら利子もらえるのかな~~」と楽しみにしてるわけじゃなくて、スプレッドの動きを注視しながら、きわめて短時間に巨額のトレードを繰り返し、ボラティリティを利用して現在価値の上がり下がりでキャピタルゲインを狙う投資家群であるために、彼らには、キッチリと、クレジットスプレッドを提示してやらないと、取引できない。

ベーシスポイントなんつー、1%の100分の1の単位が上がった下がったと何を騒いでるのかしら、と思うだろうが、彼ら機関投資家は、一度の取引で動かす額が大きいために、スプレッドが数ベーシスポイント動いただけでも、損益は大きくなる。

金融機関の場合、バランスシートの資産側も債務側も、ともに「金利」に影響される構造をしているため、クレジットスプレッドの拡大は投資資産価値の下落と償却費用の急増のみならず、日常業務に必要な資金調達にも支障をもたらす。

実際の数値の一例として、みずほコーポレート銀行がサイトで公表している「国内普通社債発行実績」の一覧表をみてみてほしい。

この表の左から6番目に、「発行時国債スプレッド」という項目がある。これが、今回のMHJ記事で述べてきた、「クレジットスプレッド」である。みずほコーポレート銀行が何度かに渡り期間5年の社債を発行して市場で資金調達を行った(←みずほがお金を貸してもらう側にいた、という意味)わけだが、その度の発行条件として、日本国債の金利を基準として、それに何ベーシスポイントの【上乗せ金利】を支払うことに同意したかが明記されている。

第13回はリーマンショック前の2008年7月発行、第14回はその後の同年12月発行だが、リーマンショックの前後で、みずほコーポレート銀行が支払わされるプレミアムが、日本国内でもワイドニングして跳ね上がったことが見て取れる。

これは、みずほコーポレート銀行にとっては、資金調達のために支払う金利、すなわち調達コストが高くなり、その分金利収支が圧迫された、という意味になる。

みずほの例が特殊なわけではなく、リーマンショック直後は、世界中の銀行という銀行がクレジットスプレッドの急拡大に見舞われて、調達コストの急激な上昇で通常の資金調達が事実上困難になり、資金の流れがグローバルで停滞した。

金融機関同士の資金の流れが止まると、実体経済にも資金が流れなくなり、大量の企業倒産を誘発する。

世界中の政府や当局が、現在も、あの手この手でクレジット市場を安定化させクレジットスプレッドを縮小させて調達金利を下げようとやっきになるのは、そのせいなのである。

おそるべし、クレジットスプレッド・・・。

          (次回に続く)




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Sunday, April 19, 2009

『緋文字』の汚名を晴らしたい:JPモルガン1Q決算

先週16日はJPモルガンの四半期決算発表があり、予想どおりの好成績であった。

前回のMHJ記事では、ゴールドマンの決算が債券部門が好調でアナリスト予想を上回ったと書いたが、JPモルガンも同様に、プロップデスク(自己勘定)の債券トレーディングがかなり好調だった様子。

ただし、ヘッジファンド的証券会社のゴールドマンとは異なり、JPモルガンのビジネスモデルは、銀行窓口で預金を受け入れる【一般商業銀行】でもありますからね。この銀行は、個人・法人ともに融資業務も全米トップクラス。だから、証券業務の手数料とトレーディング益のほかに、

『信用コスト、どうよ』という話と

『利ザヤ、どうよ』という話

を抜きには語れませんわ。

預金をメジャーな調達原資にしている商業銀行の場合は、この2点は、その銀行の健康度チェックでは最重要ポイント。決算のたびに要チェックの項目であります。(銀行決算内容をキチンと読んでみたいひとは、覚えておくといいです。)

   ★   ★   ★

まず、『信用コスト、どうよ』のほうである。

JPMから発表されたリリースをみてみた。

今四半期の同社の業績は以下のとおり。(a)-(b)-(c)=(d)

  (a)Net Revenue (業務収益)=269億ドル
  (b)Credit Costs (信用コスト)=101億ドル
  (c)Non-Interest Expense(非金利収支)=134億ドル
  (d)Net Income(当期利益)=21億ドル

(a)の業務収益というのは、本業の儲けのことである。手数料とか、トレーディング益とか、利ザヤ収益とか含まれる。

(b)の信用コスト、というのは、早い話が、金貸してやった相手に延滞されたり夜逃げされたりして、銀行が貸出金を全額回収できなくなって出てくる損失のことである。サブプライムローンやクレジットカードローンなどで借り手がデフォルトおこして損失が発生するのが見込まれると、それは「信用コスト」として経費処理される。

(c)の非金利収益というのは、本社ビルの維持費とか、従業員に支払わなくちゃならない給料やボーナスとかも、ここに入る。本業の儲けが弱ってくると、この部分をガンガン切り捨てて(=従業員クビにして)、コスト削減するんだよね。

これらにちょっと手を加えて、まず(a)から(c)を引いて信用コストを計上する「前」の儲けがいくらだったかを最初に把握し、それに対して(b)の信用コストがどれくらいかかったか、その比率をみてみよう。

JPモルガン全体では、この比率は、101÷(269-134)=75%。

つまり、あれだけ1月2月にガンガン債券トレードで稼いでも、バカスカ従業員を首切りしても、ボーナス半減で我慢させてコスト削減がんばっても、この3ヶ月間の収益の4分の3(75%)が、デフォルトや貸し倒れのために消えていきました、という切ない結果である。

これを部門別にみると、住宅ローン抱えてるリテール部門の同比率は83%で住宅延滞がズーンとボディブローのように効いている。

クレジットカード部門になると同比率は122%!カード延滞の悪化を抑えられず、収益全部吹っ飛んだどころか、それを大幅に超える損失出して大赤字。

以前紹介したことのある商業用不動産の延滞状況も急激に悪化してるから、法人向け不動産融資が含まれる法人部門の信用コストも、今後、重くなりそう。今回は35%で済んでるが、このレベルで済むかは、まだわからん。

今後資産内容がさらに悪化することを見込んで、多めに引当金を積んであるような雰囲気だけど、直近の住宅着工の数字がズタズタだったのを筆頭に、不動産関係の指標は、いまだにどいつもこいつもひでー有様なので、信用コストについては、現段階ではこれで十分とは言い切れない。

ということで、『信用コスト、どうよ』という点については、JPモルガンの今期決算数字から読み取れるのは「悲惨、かつ、まだまだ息抜けない」という状況である。(涙)

ただし、この先、短期的にでも住宅関連指標がちょっとでも上向けば、またウキウキ組のみなさんが繰り出してきて「引当金を積み過ぎたのでは!」という「期待と観測」が(例によって)高まり、それで株価は上がりますからね。引き続き、注視しましょう。

   ★   ★   ★

次は『利ザヤ、どうよ』という話。

「利ザヤ」というのは要するに「ある金利A」と「別の金利B」との差、のことである。

個人向け銀行サービスを例にとって説明しよう。一般のひとに住宅ローンなんか貸しちゃうと、この住宅ローンにかかる金利(=A)は「貸出金利」となるが、これは銀行にとっては「投資」であり、そこから得られるお金は「収入」となる。

一方で、一般預金者からお預かりするお金に支払う金利(=B)は、銀行にとっては「支出」であり、これを「調達金利」と呼ぶ。

この貸出金利(A)と調達金利(B)の差が、すなわち、リテールバンキング部門の「利ザヤ」となる。

で、JPMの今期だが、JPMから発表されたリリースには、個人向け・法人向けサービスともに「利ザヤの拡大が収益拡大につながった」と書かれてあった。

これは、債券トレーディング益が絶好調だったとかいう「一過性」の話じゃなくて、コア収益性に関わってくる、より本質的で重要なポイントである。

中央銀行がゼロ金利政策を推進して、全体的に金利水準は低くなってるはずなのに、どうして利ザヤが拡大するんだ、って?30年固定金利モルゲージを貸し出す際の表面利率だって、5%以下という歴史的な低金利水準が続いてるってのに、金利収入が増える?

答えは簡単です。貸出金利(A)の下がり具合より、調達金利(B)の下がり具合のほうが大きかったから、である。

米国政府と連銀がスクラム組んで、大量の資金を市場に放出したり、流動性がなくなってる短期資金を連銀がバランスシート使って買い取ってあげたり、TALFプログラムを用意して銀行が資金調達する際政府が保証をつけてあげたりして、米国の金融機関の調達金利ができるだけ低く済むように、四方八方手を尽くしてあげているから、である。

今回の決算で、金融機関がどこも好成績をおさめることができたのは、(1)自己資本強化(TARP)、(2)調達金利低下(種々の連銀プログラム)、(3)AIG関連損失に代表される信用リスクの一部政府移転、(4)ファニーメイ、フレディマックなど住宅融資証券化市場の政府による流動性補完・・・などなど、どれも、政府のてこ入れがあったからこそ。

つまり、今期業績は、政府サマサマの決算なのであった。

   ★   ★   ★

しかし、政府サマサマと喜んでる銀行トップは、ひとりもいない。

好業績も注目されたが、今回JPモルガンが注目されたもうひとつのポイントは、同社CEOジェイミー・ダイモンが、「公的資金受け取ったばかりに、政府や議会の監視下に置かれて自由度を失うのは、もうイヤだーーっ!」と言い放ったことである。

ライバルのゴールドマンが50億ドルの増資を行い公的資金返済の意図を明示したのに刺激されたこともあるだろうが、JPモルガンといえば、従来から、かなり政府には協力的な立ち振る舞いをしてきた銀行である。

ポールソン財務長官の時代には、サブプライム問題と流動性枯渇で潰れ掛けてたベアースターンズ社を、

「資金のほうは、連銀がシッカリお手伝いしますから、ベアスターンズ、倒れる前に買ってよね?ねっ?ねっ?」

と政府に泣きつかれ、ここで断ったら創始者JPモルガンさんの顔に泥を塗るとでも思ったのか、吸収合併した。

密会用の一室で、ポールソンとバーナンキが、「いまJPMがベアスターンズ買ってくれなきゃ、システミックリスクが、システミックリスクがぁぁぁぁあああ・・・・」とさめざめと泣き崩れ、ダイモンがふと気を許した隙を狙って羽交い絞めにし、合併吸収の書類にサインさせた・・・

・・・というのは、筆者の想像だが、ベアスターンズの新築ぴかぴかのNY本社ビルが通りをはさんで向かい側に立っていた、ということ以外は、JPMからしたら大してビジネス上のシナジーもなかったであろうに、内心は「ったく、仕方ねぇな・・・」と舌打ちしながらも吸い込んだと筆者は思うね。

野村證券が空中分解してしまったリーマンを(安いと思って)買ったのとは、ぜんぜん意味合いが違う。野村のケースは、誰に泣きつかれたわけじゃなし、独自の判断で法外に高い買い物しちまった、ってだけだから。

そのJPモルガンのCEOが、先週の投資家向けコンファレンスコールの席で、政府による銀行救済資金を

【緋文字(The Scarlet Letter)】

と呼び、「明日にでも全額返済したいぐらいだ」と吐き捨てたら、注目されるのはあたりまえ。

(関連記事:http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601087&sid=az0FiElfwtoM&refer=home )

ちなみに【緋文字】というのは、19世紀の小説家ナサニエル・ホーソンの同名の小説で、主人公とその愛人が焼け付くように真っ赤な「A」の文字を胸につけられて糾弾された、というストーリー。「A」の文字は「姦淫(Adultery)」を意味した。

ダイモンは、ホーソンのこの有名な小説を持ち出して、救済資金を受け取ったことが、まるで姦淫罪を犯したかのようだ、と揶揄したのであった。

で、【緋文字】の汚名を晴らすための第一弾としてJPMが何やったかというと、政府に舌突き出して、「TALFプログラムで政府保証つけてもらわなくたって、俺たち、自力で市場調達できるもんねーだ!」と、政府保証なしで30億ドルの長期シニア債を発行した様子である。

(関連記事:http://online.wsj.com/article/SB123993303411527893.html

発行条件は、期間10年、表面利率6.32%、基準金利は10年米国債で、スプレッド(信用プレミアム)は350bps

JPMという大銀行が支払うスプレッドとしては、決して安い値段じゃない。逆を言えば、投資家にとっては悪くないお値段。

手元にキャッシュあまってる債券投資のプロならば、「JPM10年シニアが350bps」と聞いて食指が動かぬはずがない、と直感した。案の定、30億ドルは即座に集まり、トレーディングのフロントでは、(グレイマーケットの段階で)すでにスプレッドはタイトニングしている模様。

政府にアッカンベーするのはかまわないけれど、現実問題として、こんな分厚いスプレッド水準で市場性資金を借り換えし続けたら、JPMといえども、調達コストが上昇して『利ザヤ』は圧迫されてしまうよ。この会社のビジネスモデルの場合、利ザヤの縮小=即座にコア収益の低下、ですから。

前回のMJHジャーナルで、企業決算は収益力に持続性を保てるかが一番重要、と述べた。

昨今の金融機関の収益性は今後の調達金利の安定にかかっている、と言っても過言じゃない。今後、政府援助がなくても調達金利を低下させ安定的な利ザヤを確保することが長期に渡って可能なのか。

たしかに、資金市場では、ところどころ、正常化の兆しが見えてきている。正常化の動きがもっとスピードアップしてくれたら、JPMの利ザヤは、政府の助けなしでも、安定できるかもしれない。

でも、その正常化のタイミングについては、いまはまだ「賭け」の段階だ。現在の資金市場は、まだ政府サポートつけてもらって、集中治療室で人工呼吸してるような状態だもん。

政府サマサマの決算発表の場で、政府にアッカンベー。

ボーナス魔女狩り事件以来、ワシントンの政府関係者と、金融機関トップたちとの官民リレーションシップが、微妙に揺れている。

先週のJPモルガンの言動に、それが透けてみえた。

しかし、JPモルガンのような強力な大手金融機関との不協和音は、いま、ガイトナー財務長官が必要としているものではない。


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Wednesday, April 15, 2009

ゴールドマン1Q09決算について雑感

あぁ・・・ゴールドマンサックス・・・。

昔も今も、ウォール街のトップスター。

月曜日(13日)の後場後半は、ゴールドマンの決算がアナリスト予想を大幅に上回ったという事前情報でショートスクイーズも招いてブイブイ、一時は一株130ドル超まで急伸。

翌火曜日(14日)の早朝、同社の決算結果が正式発表になった途端、公的資金返済原資にする目的で一株123ドルだかで50億ドルの新株発行が嫌がられ、瞬く間に115ドルまで急落。利益確定のみなさま、お疲れ様でした。

正式発表によると、ゴールドマンのトップライン(Gross Revenue=粗利益、金利費用を差し引く前)は118億ドル。先週あたりからウォール街のバイサイドを中心にあちこちで【ウワサ】になってた通りの数字であった。債券トレード部門が絶好調で、増益に貢献した。

日頃からMurray Hill Journalの熱心な読者のみなさんは、債券部門が絶好調でGSの粗利が驚愕の120億ドルになりそう、って話は、4月7日の時点で筆者が書いてましたから、すでに知っていましたね?

あのMHJ記事を読みGS株を買い、決算発表直前に売り抜けた方がいらしたら、けっこう儲かったはず。おめでとうございます。あなたの儲け、分け前として筆者に少し恵んでください。(笑) 

昨日の決算発表後の投資家向け電話テレコンファレンスで、「AIG関連の収益」についてアナリストから質問が出たが、同社CFOはこの質問に対し「AIG関連については去年のうちに終了している。今期に入ってから、AIGとの取引はない」みたいなことを言った。

なるほど。たしかにAIGとの「取引」はなかったかもしれない。だけど、AIGとの「セトルメント(CDS解消)」はあったんじゃないの?今年に入ってからもAIGはやっぱりカネ足りなくなって、3度目の公的資金注入やってたんじゃなかったっけ?

仮に、AIGのカウンターパーティになってる会社達(含GS)が、前期のうちにこれらCDS契約の最終価値に対してディスカウント(価値毀損分)を見込んで償却済み、あるいは、引当金を積んでおいた、としよう。実際のセトルメントでは100%の支払いになったわけだから、これら「見込み」に基づいて事前償却しておいた毀損分というのは、「償却しすぎた分の戻り」ということになって、後日、利益計上されることもあるんだよね。

昨日GSから出された資料だけからでは、そこらへんの詳細は見えてこないから、「仮に、そういうこともある」としか、いまの筆者には言えませんけど。

   ★   ★   ★

それにしても、同社の債券のトレード部門は好調であったな。

ここで元プロのアナリストとしてひとつアドバイスすると、決算数値を見る上での最重要ポイントは、

「収益が持続可能か(Sustainabilityがあるか)」

って点である。決算のたびに問うべきは、あとにも先にも、これである。

(だから、会計基準変更で見てくれの自己資本比率がよくなる、なんつーバカバカしい話は、正直なところ、長期投資をする上ではどうでもいい話のひとつである。んなもん、超短期用ネタにしかならん。)

やはり4月7日のMHJ記事で、今年に入ってからAIG効果のあおりで、信用スプレッドのボラティリティが急激に上がった、ということを書いたが、債券トレードってのは、ボラティリティが高まるほど儲かるチャンスが巡ってくる、そういうトレードですかんね。

株式トレードってのは、なんだかんだ言ったところで、部門収益は株式市場の動きに忠実に連動する、そういうビジネス。株式市場がドツボにはまっているときに、ドンドコ設ける株式部門なんて、聞いたことない。でも、債券サイドってのは、儲け方もスケールも、株式とは全然違う。

これは余談だが、GSに限らず、米国のどの証券会社でも、株式のセールス&トレーディング部門というのは、大所帯で態度もエラソーな割りには、ハッキリ言ってあまり儲からない貧乏部門。

会社に持ってくる株式売買手数料は薄っぺら。規制強化でインベストメントバンキング部門からの収益の一部を共有させてもらえなくなってからの株式部門ってのは、債券部門からの儲けを横流ししてもらって、なんとかメシ食わせてもらってる、というのが実態である。

筆者がかつて属していた某大手証券会社でも、大所帯の株式グループが、NYの本社ビルの別の階に引っ越すための「引越し費用」を、何故か、債券グループが支払ってやってたんだからね。

当時、筆者は自身が債券部に所属していたから、貧乏な株式部の連中のために債券部がカネ使ったら自分らがもらえるボーナスの額がその分減るじゃねーかと思い、「自腹で払えないなら引っ越すな、古い机と汚れたカーペットで我慢しろ。」とか、内心不満であった。(←かなりセコイ話)

   ★   ★   ★

ハッ・・・いけない・・・ボーナスの話がからむと、つい冷静さを失ってしまう筆者である。

話をGS決算に戻す。

金利費用を差し引いた後の部門別総収益(Net Revenue)は、09年1月~3月の3ヶ月で94億ドル。GSのオペレーションは大きく分けると3部門に分かれるが、その内訳を見ると、

   - インベストメントバンキング部門 8.2億ドル
        (収益全体の割合9%、前年2月までの1Q08比で30%減)
   - トレーディング部門 72.5億ドル 
       (同76%、同40%増)
   - アセットマネージメント部門 1.4億ドル 
       (同15%、同29%減)

ということで、トレーディング部門がガンガン稼いできたおかげでゴールドマンの1Q09はブイブイだったんである。

そのトレーディング部門も、さらに、(1)債券部、(2)株式部、(3)自己資金売買部、と大きく3つの部署に分かれるのだが、(2)株式部の1Q09は前年同期比で20%減の20億ドル、(3)のプレップ部門は今四半期は15億ドルの赤字、というさんざんな結果であった。

にも関わらず、(1)の債券部だけは65億ドルで、前年同期比で倍以上もの増益となり、トレーディング部門の業務収益72.5億ドルのうち実に92%、会社全体の94億ドルのうち70%を債券トレーディング部門が稼いできた格好であった。

たしかに債券部(金利/コモディティ/クレジット/為替)はそれぞれの分野でボラティリティが高まって、債券トレーダーには儲けのチャンスは巡ってきたかもしれないが、それでも、前年同期比で倍以上になる、というのは、普通にボヨヨ~~ンとトレードやってて儲けられるレベルじゃない、と筆者なら感じるね。

そして、同社は今回から、会計年度を変えたので、GSの去年の12月一ヶ月だけの業績は四半期に含まれず、【別紙】で宙に浮いている。

その【別紙】をみると、08年12月一ヶ月で、債券トレーディング部は3.2億ドルの赤字だった。(GS会社全体でも大赤字。)

それに先立つ08年9~11月の3ヶ月(リーマンショックが最大だった期間)で同部門は34億ドルの赤字(月平均すると毎月11億ドルの赤字)。

そして、今期、09年1~3月の3ヶ月では、66億ドルの黒字(月平均22億ドル黒字)。

いくらなんでもブレすぎだっつの。

ということで、『ウジウジ』した性格の筆者は、もう一度、ここで結論付けることにする。

GSの出してきた今期の収益力には、「安心できる持続力」は、ない。

寝ぼけたようなウェルズファーゴの、利ざや拡大による収益力回復ストーリーのほうが、材料としてはよほど安心できる、ってもんである。

他の米大手金融機関の決算も今期は予想以上によくなりそうだが、コアの部分で持続力(Sustainability)のある収益パターンかどうか見極めるまでは、頭の隅っこででもいいから、ウジウジ感を残しておくことを、お薦めする。

とはいえ、GSのスターの座は持続する。公的資金の早期返済で、アホ議会によるボーナス監視のバカ騒ぎから解放され、業界のスター・トレーダーやスター・バンカーはGSに残るから。

前々から言ってるけど、ウォール街はプロスポーツや芸能界と同じ、タレントビジネス。強いプレーヤーが集まる会社は強い。そして、強いプレーヤーには高額のカネ払う、それがこの業界のルール。そして、それができるのは、目下ウォール街にはゴールドマンぐらいしか、いない。

そういう、決算数字だけでは表示できない【強み】、それを「フランチャイズ・バリュー」と呼ぶんだよね。

フランチャイズバリューは、将来の収益力を決定する。ゴールドマンは、やっぱり強い・・・。


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Sunday, April 12, 2009

波乗りトレーディング

先週の米株式市場は、前半は【ベアな気分】で始まったが、木曜日のウェルズファーゴによる決算発表前のポジティブコメントで、「金融セクターはついに底入れ!」とウキウキ感が一気に戻り、【ブルな気分】で終えた。

4月7日のMHJ記事でも「実際、今四半期の金融機関各社の業績は、そこそこよかった気配が濃厚だ」と書いた筆者であるが、ウェルズファーゴのコメントを読み、「やっぱり!」と、思わず膝をポンと叩いた。

とはいえ、まさか、木曜日の朝というタイミングで、ウェルズファーゴが正式発表より数日も前にこんなコメント出すなんて、誰が予想してたであろうか。

ウェルズによると、住宅関連ビジネスの数字がとりわけよかったことと、買収したワコビア関連の利益も出て、ボトムの当期利益はアナリスト予想を上回ったという。

住宅関連に関しては、政府からの低利資金のおかげで利ざやが拡大、その部分だけみると、なんだか住宅融資は底入れしたようなこと言ってた。

みんな住宅関連では明るいニュースに飢えてるから、インパクトは大きかった。

しかしですね、筆者には、このウェルズの発表は、政府と共謀したニオイが感じられたね。

だって、同じ木曜日、ホワイトハウスでは、オバマ大統領の会見があって、その場で彼ったら、今度は「モルゲージローンのセールスマン」になってたんだもん!

住宅ローンの金利は歴史的低水準にいる、この金利水準ならば7~9百万人の米国民が年間$1600~$2000程度は金利負担が低減するから、さぁ、みんな、どしどしモルゲージのリファイナンスをしましょう!って大統領が言ってました。

参考記事:Obama for Change (In Your Mortgage)(WSJ 2009.04.10)
http://online.wsj.com/article/SB123932215927307049.html

うーむ・・・万能選手オバマ君。ウェルズファーゴという全米一の「退屈な」(ゆえに痛みも少ない)銀行に、住宅関連で明るいニュースを発表させて株価を持ち上げ【露払い】させるなんざぁ、なかなか手が込んでるじゃありませんか。

「株式セールスマン」としてのオバマ君の能力は見上げたものがあったので(3月4日MHJ記事『オバマによると「株は買いどき」』参照)、今回も「モルゲージバンカー」としてのオバマ君の能力に、ぜひとも期待を寄せたいところである。


   ★   ★   ★

個人的なことを少々書かせてもらうと、筆者は持ってた金融株のショートポジションを火曜日のうちに全部オサラバしておいた。いやー、ホント、欲張らなくてよかったよー。(あのまま木曜日まで引きずってたら、怖ろしいことになってた。冷汗)

こういう値動きの激しい相場では、「サッと買ってサッと売る」が鉄則でありますね。

売却した後にさらに株価が続伸して、「あぁ、売るの、早すぎたかなぁ・・・」と思うことはよくあるけれど、自分であらかじめ目標にしていた利益が出たら、その段階で、スッパリ潔く売って利益確定したほうがよい。

ショートポジションも同じである。今回ショートしてた金融株は、狙ったほどの利益は出なかったが、マイケル・メイヨによる地獄からのメッセージで作られた負のモメンタムが消えてしまわないうちに、さっさとカバーして終了したのがよかった。

小口の一般個人投資家が一番陥りやすい失敗は、「もう少し待てばもっと儲かるかも」とか、「一度下がっても、いつかまた上がるはず」とかいう、根拠のない期待をしてるうちに、アッという間に叩き落ち、売るに売れない状況になり、そっと涙をぬぐう、というケースである。(そのいい例が、2月28日のMHJに書いた筆者のシティ株のケースである。笑わば笑え。)

筆者はかつて、いちおう金融機関の財務分析をメシの種にしてたこともあって、シティバンクについては、そこそこわかったつもりでいた。だが、「分析のしすぎ」は、ときに、こういう失態を演じるのである。そもそものところでファンダメンタルズがうまく機能してないときに、ファンダメンタルズを読み込みすぎると失敗するという、いい証拠である。

というわけで、筆者は最近はもっぱらトレンドトレーディングでお小遣い稼ぎにいそしんでいる。

日本では、市場のモメンタムの波に乗っかって超短期で細かくトレードを繰り返す手法は、もっぱら「デイトレーディング(Day Trading)」と呼ばれているけれど、米国では、そういう手法は「トレンド・トレーディング(Trend Trading)」という言葉も使われる。

「トレンド・トレーディング」は、その名の通り、市場のトレンドの波に一緒に乗っかって、そのモメンタムが続いているわずかの間に売買して稼ぐ。トレンド・トレーディングは長期投資ではないので、あーでもねぇこーでもねぇと分析しすぎてはいけない。

筆者と同じように短期間で資金をどんどん転がして小銭を稼ぐ個人投資家が、米国に最近やたら増えてきているらしいというのが3月8日のウォールストリートジャーナルの記事でも紹介されていた。彼らは年金の401(K)資金などでも躊躇せず、コロコロと転がしてるひとがいるようだ。

個人の年金資金は、多くがひたすら「バイ&ホールド」のストラテジーを取って、給料から天引きされたら最初に適当に決めておいたアセットアロケーションのままほったらかし、とか、ミューチュアルファンドの形で10年も20年も持ち続け、というひとは、筆者の周りにも案外多い。

「どうせリタイアしたときのためのお金だしぃ・・・」ということで「バイ&ホールド」してたけど、黙ってホールドしてたら、今回の暴落で価値がどっぷり減っちまった、というひとが続出。このままだと一生リタイアできない・・・と恐怖に駆られた一般人がゾクゾクと【にわかトレーダー】に化してるらしいんである。

トレードの頻度が上がってきているひとつの目安として、NY証券取引所とナスダックでは、証券のターンオーバー(回転率)が33%に上がっているということだ。ターンオーバーが33%ということは、およそ3年で、世に出回っている株式が投資家の手から手へと一巡する、という意味だが、同じ比率がハイテクバブル後の2004年時は、ターンオーバーは4年で一巡り、だったらしい。

株式の売買頻度は高くなっている・・・個人投資家が手数料を落としまくっている・・・ということは、リテール客相手のディスカウントブローカーの業績は、今期はいいかもしれませんね。

リテール客が目の色変えてトレーダーごっこやってるとき、一方のプロはどうだったかというと、米国のヘッジファンドのパフォーマンスを分析するヘネシー・グループ(Hennessee Group)の最近の報告によると、今年3月のヘッジファンド達の成績は、平均して株価インデックスを下回っていた。金融株やハイテク株、小売り、などのセクターをショートしてたマネージャーが多く、これらセクターはどこも3月から急回復したセクターばかりで、株価の上げ下げが激しすぎて、ショートの手仕舞いが間に合わなかったのが主因らしい。

プロのファンドマネージャーやトレーダーですら、こうなんですからね。高ボラティリティの間は、筆者のような「蚤以下のサイズ」の個人投資家などは、プロの扱う額と違って一発で売り抜けられる程度の小額であることをむしろ幸運と捉え、【欲張らないが勝ち】を座右の銘としよう。

さぁ、蚤は蚤らしく、明日も粛々とトレンドに乗っかることといたしましょう・・・。


   ★   ★   ★


ところで、ちょうどひと月前の3月15日付けMHJの記事で、VIX指数が40~50の間をウロウロしていて、市場関係者の多くは、まだまだ警戒心を解いていない、と書いたのを覚えておられるでしょうか。

先週の株市場で、書き残しておきたい情報があるとすれば、このVIX指数が目だって低下した、ってことかな。



過去3ヶ月のグラフを見ると、先々週まで、株価が上昇してもVIXは40のラインがレジスタンス(抵抗線)になってそこから下に突っ切れなかったのに、先週はガタンと下がって、一気に37以下まで落ちた。

この低下トレンドがこのまま継続すると、長期買いの投資家も戻ってくるだろうから、株価は本格的な上昇気流に乗れるかもしれませんね。

ただ、下がったといっても、過去1年間の水準を見るとまだ高水準にいるから、ここで安心するのは、まだ早い。



一部のメディア報道では「いよいよ金融機関も最悪期を脱した模様」という見方が伝えられてたが、ウェルズファーゴのプレスリリースをちゃんと読むと、損失前のコア収益の85%が信用損失(貸出金などの資産から発生する損失)に消えていたことが読み取れる。

考えてもごらんなさい、給料の85%をサラ金に払ってたら、あなた、まともな生活できますか?

ってことで、コア収益に対する信用コストの比率がまだ8割だの9割だのと言ってる間は、「最悪期を脱した」なんてことは、とてもじゃないが断言できないんであるよ。現在が財務ファンダメンタルズの転換期かどうかは、今はまだ早々に判断すべきじゃありません。

だからこそ、分析はしすぎるな、今は超短期のトレーディングで、チャプチャプ波に乗るだけにしておけ、ってこと。(大波を狙いすぎると溺れる、ということも忘れずに。)

今週は金融機関の決算発表が続きます。


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Thursday, April 9, 2009

ストレステストでストレス感じてる当局

筆者がグースカ寝てる間に、ニューヨークタイムズのネット版に米金融機関のストレステストの結果が大丈夫そう、と伝えられ、今日(9日)は、日本でも、金融株が持ち上がったそうじゃないですか。

さっき読んだブルームバーグの記事から以下抜粋↓


『一方、米紙ニューヨーク・タイムズは8日、米政府によるストレステスト(健全性審査)の対象となっている米金融機関19社がすべて、審査に合格する見通しと報じた。昼に伝わった同報道は、世界的な金融システム不安後退につながり、午後に株価指数は先物主導で上げ幅を拡大。日経平均、TOPIXともこの日の高値圏で終えた。 』


ついでに、ニューヨークタイムズの原文も、どうぞ。
Banks Holding Up in Tests, but May Still Need Aid (2009.04.08)
http://www.nytimes.com/2009/04/09/business/09bank.html?scp=3&sq=bank%20stress%20test&st=cse

   ★   ★   ★

Murray Hill Journalを真面目に読んでくださっている読者の方なら、ひと月前に、ここに筆者が何と書いたか覚えてますね?

え?覚えていない?では、その日記からそのまま引用いたしましょう。


『・・・だから、当局のストレステストの結果がどうなるかという点については、いまから答えはわかってる。

ストレステスト対象になってる銀行のうち、最大手の数行については、程度の差こそあれ、自己資本は充分という結果となり、テストにパスするでしょう。

ここの2月6日付けのエントリー『米国最大の銀行が国有化?(でも自己資本比率10%超もあるんですけど)』で述べたとおり、自己資本が充分ある銀行が国有化されることは定義上ありえないんである。(「充分あります」=「国有化しません」、ってことの【つじつま】つけるためにストレステストやるんだからね。)

ただし、ストレステストに代表される計量モデルってのは、所詮、静的(static)な「モデル」であって、サイコロジーを伴って刻々と生き物のように動く市場のダイナミズムまでは把握できない。毎日テストやってても、「前提条件」からぶっとんだ事態が実際に発生したら、モデル上で推計されていた額をはるかに上回る損失が発生しちゃう、というのは言わずもがな。

だからストレステストの結果は、注目してもしなくても、どっちでもいいような気もする。発表直後はポジティブニュースとして一時的に株価を支えるかもしれないけど、本質的な問題には、関係ない。・・・』

3月11日のMHJ記事(『売り疲れのNY市場、はしゃいだ後ですぐに息切れ』)から引用


ね?言ったとおりでしょ?

さぁ~「ウキウキ組」のみなさん、またまた「キター!」なネタが来ましたよ~~~!

“発表直後はポジティブニュースになる”けれど、これから商業用不動産の話も待ち受けてますんで、金融株の激しいボラティリティはきっと続くよ。

デイトレ仲間の皆さん!!先週末に仕込んだ金融株のショートポジション、あたくし、うまくいきましたわよ(マイケル・メイヨさまさま)。ここでまた、金融株にプラス材料出ましたから、次の悪材料が出てくるまで、ウキウキ組の皆さんが作ってくれるモメンタムに素直に一緒に乗っかって、ともにお小遣い稼ぎ頑張りましょうネー!(笑)


   ★   ★   ★


しかし、昨日、こちらNY市場で話題になってたのは、お堅いNYタイムズによる報道より24時間前に流れた、もっと下世話でオイシイ記事の方である。

ニューヨークのタブロイド紙「New York Post」に8日掲載された記事。

FDIC Blasts Treasury's Stress Tests for Nation's Largest 19 Banks (2009.04.08)
http://www.nypost.com/seven/04082009/business/fdic_bair_s__teeth_163380.htm

NYポストの記事によると、FDIC米預金保険機構のインサイダー達が、「財務省と連銀が行っている銀行のストレステストは見せかけばかりで実はなし」とポストの記者に言ったそう。

FDICからこの件について正式なコメントは取れなかったそうだが(取れるわけない)、相変わらず、FDICと連銀は【犬猿の仲】やってますねー。

米国の銀行規制当局の仕組みというのは、FRB(連銀)あり、FDICあり、 OCCあり、OTSあり、これにさらに、クレジットユニオンの当局あり、州ごとに銀行当局ありと、実に「当局だらけ」である。さらには、証券がらみでSECは出てくるわ、保険がらみで州の保険担当規制当局は出てくるわ、横っちょからFASBなんかも参加して、みんなでワーワー口を出すもんだから、当局同士の権力争いは、いつも大変である。

中でも、国家の中央銀行FRBと、国家の銀行は全部握ってるFDICは、それぞれが、金融機関のお目付け役としてはかなりの権力持ってるから、お互いのことが昔から大嫌い。(FRBは銀行持ち株会社は権限あるけど、そうじゃなきゃ権限外だったから、全米の銀行という銀行に規制の権限持ってるFDICの顔色みながらやるしかなかったんだよね。)

また、SECも、自分達が何かやろうとするとすぐさまFRBやFDICが難癖つけてくるんで、大嫌い。

FRBは自分達で市場に直接入って金融調節やったりしてるから、市場の動きは自分達が一番よく知っているという自負があって、基本的に弁護士と会計士ばっかのSECに対しては「机の上でルールと法律いじくるだけの無能集団」と内心思っている。

財務省はFRBのことを「独立の2文字を振りかざしてなかなか中央政府の思い通りに動いてくれない目の上のタンコブ」と警戒している。

でも、いちおう、「金融市場の安定」に注力するのが当局の皆様のミッションでありますからして、表面上はニコニコ笑顔で協力し合うフリしてるけれど、今回のストレステストに対するFDICのインサイダーリークみたいに、時々こうして、日頃のウップン晴らしのつもりか、背中からバサーと切りつけたりするんである。

権力争いというのは、ホント、怖いですわね・・・。

しかし、今回の金融危機のガタガタで、彼らの力関係に幾分変化が生じた。

まず、FRB連銀が、業種を超えたスーパーレギュレーターとしての地位を得るのに財務省のお墨が付いて、これまで以上のパワーを持つことに。ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーなどの証券最大手も公的資金で助けてもらうために、去年銀行持ち株会社に変わりましたから、金融界の大御所はだいたい手中に収めた格好に。

逆に、メードフのネズミ講事件で10年以上も詐欺を見抜けなかったSECは、こころなしか、パワー後退ぎみである。

そして、90年代初頭からしばらくなかった銀行破たんが、ここにきて実際に何件も起こってきてるため、FDICの存在感も俄然高まってきた。破たん処理の実務はFDICのお仕事ですから。

ストレステスト――。

誰よりストレス感じてるのは、当局の関係者自身かも・・・。



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Tuesday, April 7, 2009

決算間際、どうしてもウジウジしちゃう


先週のNY株式市場は、「その気になりやすい人たちのウキウキ感」が「真っ暗闇のリアリティ」を覆い隠す展開だったが、週明け昨日(6日)のNY株式市場は、最近ドイチェ証券からCLSA証券に移籍したばかりの銀行アナリスト、マイケル・メイヨ(Michael Mayo)が、「銀行株総売り」の推奨を出して、ウキウキ組に冷や水ぶっかけ、ゴーンと下がって始まった。


この、メイヨ氏だが、彼はこちらでは銀行アナリストランキングの上位常連。アメリカの金融セクターを長いこと見てる者には、メイヨ氏を知らないものはいない。

彼ったら、クレディ・スイス証券時代の1999年に1000ページのリサーチレポートを書き(百ページじゃないよ、千ページですよ、千ページ!)、当時「買い」推奨しかなかった銀行セクターに、ひとりで「銀行株は売りだーっ!」と殴りこみかけ、市場で注目された。

最初は異端児扱いだったが、後日、彼の予測どおりに銀行株は叩き落ち、彼はいちやく有名に。

(ちなみに、マイケルは、「トム・クルーズを醜くすると自分になる(I'm an ugly version of Tom Cruise.)」という迷言を吐いたことでも有名です。どうでしょう、似てるでしょうか。)

しかし、1000ページの分析が正しかったにも関わらず、金融機関すべてを敵にまわしたツケは大きく、その後、クビになったり、移籍しようとしてもシランプリされたりで、ウォール街のセルサイドのアナリストなら誰もが経験する【利益相反の苦しみ】を味わい続けたひとでもある。

今回も「ドイチェは自分の思うように意見を書かせてくれない!」と三行半たたきつけてドイチェ証券を飛び出したそうだが、移籍後しょっぱなから「売れー!」と来たもんだ。マイケル、持ち味全開。

この4週間、NY株市場のラリーを引っ張ってきた原動力は金融株ですかんね。そこにマイケル登場で、99年を覚えてるひとは、ゲーッ!と思うでしょ、そりゃ。

だが、筆者も、基本的に、マイケル・メイヨの意見に賛成である。

ここのブログで何度も述べているとおり、金融株が上昇するためのファンダメンタルズなんて全然揃っていない。不良資産から出てくる損失額もわからない、つまり、これから一体どれくらい自己資本(キャピタル)が足りなくなるかもわからない、だから希薄化の問題はつきまとう。

いまはウキウキ感で金融株上昇してるけど、これが継続する(Sustainable)と言える材料なんて、どこ探したって、ない。

昨日は後場に入って、買いがやや戻り、全体に持ち上がったけど、商いは薄かった模様。 決算見届けようというのも、あるのでしょう。

   ★   ★   ★

さて、今週あたりから、各社決算の数字がゾロゾロ出てきますね。欧米の大手金融機関はどこも、1月と2月の業績はすごくよかった、と言ってましたよね。

出されてくる数字は、実際、そこそこの数字になるのではなかろうか。(そうじゃなきゃ、いくら音頭取るのが仕事のCEOだといったって、あんな強気な発言、おいそれと言えませんって。)

ちなみに、ウワサに聞くところ(あくまでウワサであるが)、ゴールドマンサックスの今四半期Q1は、営業収入(Revenue)で120億ドル出した、とか聞いた。(ピークだった2007年度の同社の年間収入が500億ドルなんだから、現在のこのグチャグチャな金融市場で、四半期で120億出すってのは、すごいことであるよ。)

他の銀行のケースでも、この四半期だけで、債券のトレード部門から年間バジェットの4割以上をすでに稼いだ、という話も聞こえてきたよ。

やっぱり、1月と2月は、CEO達の空元気じゃなくて、実際に業績良かった気配濃厚であるな。

ところで、先月3月27日の金曜日に、米大手金融機関15行のCEO達がオバマ大統領に招かれてホワイトハウスで面談を持ったのですが、覚えてますでしょうか。ウォールストリートジャーナルは、「ボーナス魔女狩り」に参加して世間をあおってウォール街イジメに加担してたオバマもウォール街の助けなしには何も始まらないことに気づいて『仲直り(Truce)』のジェスチャー、とか伝えてた。

ウォールストリートジャーナルの記事:
Bankers, Obama in Uneasy Truce (2009.03.28)
http://online.wsj.com/article/SB123816459546857301.html

面談が終わり、ホワイトハウスから15人のCEO達がゾロゾロ出てきたんだが、その直後に、JPモルガンのCEOジェイミー・ダイモンがCNBCのTVインタビューに答えた。

そのインタビューで、彼が言ったひと言、「3月のJPMの業績は、1月2月と比べると、いまひとつ冴えなかった。」

あのひと言が嫌がられ、あの金曜日は金融株が急落したんだよね。そして、その傾向は、JPモルガンのみならず、どうやら他の大手金融機関も同様だったみたいなんである。

1月と2月はすごくよかったのに、3月はダウン・・・何が違ったのか。

   ★   ★   ★

筆者が最近耳にした話によると、欧米金融機関がどこも1月と2月の業績がよかった理由は、どうやら、AIGにあるらしい。

AIGと、CDOなどのポートフォリオのCDSのカウンターパーティになっていた銀行群は、これらCDS契約の解消(Unwinding)を1月と2月に集中的に行ったらしいんだが、その対象となるポートフォリオの額がハンパじゃなくデカい額であったために解消のクォートで足元見られ、AIGは解消に伴い多額の損失を被った。しかし、AIGにとっての「損失」は、カウンターパーティにとっての「利益」。AIGがお困りでしょう・・・と手加減するようなディーラーはウォール街には一人もいないからな。

さらに、CDOなどのベースのポートフォリオに含まれてるシングルネームのクレジットリスクが、解消にともないカウンターパーティに戻ってくるために、金融機関達はシングルネームのプロテクションのために膨大なCDS買いに走り、シングルネームのCDSの金利レベルを吊り上げることになった。(金利が上がるとCDSの価値は下がる。)

AIGはどんなに損失を出しても政府が損失吸収してくれるのわかってるんで、流動性がまったくない市場で、無理やりCDS解消して、損失ドンドコ出しまくり。

その損失分が、1月と2月に、カウンターパーティになってた大手の利益に様変わり・・・と、こういうやり取りがあったらしいんであるな。(注:これは、あくまで、“小耳に挟んだ話”で確約は取れない。風説の流布のつもりはありませんので、あしからず。)

3月19日のMHJ記事で、CDSのレベルのトレンドについてチラリ言及したが、リーマンショック以降で乱高下したCDSのレベルも、米国の公的資金注入のニュースを受けて年末に向けていったん落ち着きを見せたが、今年1月2月にCDSのレベルは再び上昇トレンド(しかも急激な)に入った。(CDSのレベルが上昇するということは、クレジットリスクが高まってプロテクションへの需要が高くなっている、という意味。)

株式市場は、金融株に対するウキウキ感が芽生えて上昇したが、クレジットプロテクションは、なかなか株の動きと連動してくれない。上述の「小耳に挟んだ話」からすると、今年にはいってからのCDSの動きは、このAIGのCDS契約大量解消の余波というテクニカル要因がかなり作用してる模様・・・。

ということはですよ、AIGFPのCDS解消が完全に終了するまでは、AIGは政府にどんどん損失取らせて、カウンターパーティを潤わせる、という動きが継続する、という意味かも。それって、「ウキウキ組の皆さん」にとっては、いい話だよね。

といっても、これ、せいぜいもって、あと半年ぐらいの話ですよね。一過性の収益の話。

実際、こういう取引が少なかった(らしい)3月は、JPMのダイモンの言葉借りると「あまり業績よくなかった」みたいだし。

このAIGがらみの一過性利益が出なくなったら、その後は、どこから、利益出してくるんでしょう。

マイケル・メイヨやモルガンスタンレーの株ストラテジストや筆者みたいに、ウジウジと暗~い部分にばかり目が行く「オタク的」アナリストなら誰もが心配するのは、まさに、そこなんである。

「ウキウキ組」vs「ウジウジ組」・・・筆者は確実に、後者。


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Saturday, April 4, 2009

ナンピン買いも可能?それって、マズイんじゃ・・・

今日のMHJ記事は、前回のGMACの記事で言及したあおぞら銀行のGMAC投資の末路から得られる「教訓」から、始めたい。

【教訓】 公的資金を入れてもらった銀行は、耳をそろえて全額お返しするまでは、そのカネはあくまでも『納税者のお金』であるという事実を片時も忘れることなく、入れてもらったキャピタル(自己資本)をどういう風に使ってビジネス展開するかについて、できるだけ粛々とコンサバに取り組むべきである。

2004年には既に「アメリカの住宅投資、ヤバクなってきてね?」という声がチラホラ挙がっていたにも関わらず、サブプライム分野の雄ResCapに入れ込んでたGMACにピークの2006年に銀行がエクイティ投資するって、いったい・・・。

(2004年ごろのセンチメントは、当時のビジネスウィークの記事↓が参考になります。)
Is A Housing Bubble About to Burst? (2004.07.19)
http://www.businessweek.com/magazine/content/04_29/b3892064_mz011.htm

いくら金融界のマエストロが「住宅バブル?そんなの、なし、なし!」と言ったからといって、じっちゃまの戯言を鵜呑みにしたらダメである。

人間というものは「権威」に弱い。権威の「け」の字も持っていない筆者の言葉など誰も信用しちゃくれないが、グリーンスパンのじっちゃまが言ってるとか、元ナスダック会長のメードフ(5兆円ネズミ講の首謀者)が言ってる、とかなると、何故か安心して信じちゃうんである。

また、自分では信じてなくても、「権威がこう言ってたよ」と言えば、あちらに話は通っちゃうんである。

そして、公的資金入れてもらった銀行達は、高リスク案件扱うのが商売のプライベートエクイティやヘッジファンドと自分らが、同等の立場にいると勘違いするのも、やめたほうがよい。

さらに言えば、納税者のカネの使途を監視しリスクに暴走する金融機関を取り締まる立場にいるはずの規制当局が、公的援助受けた銀行がヘッジファンドの真似事したがるのを応援するのも、やめた方がよい。

何ゆえ公的資金を入れてもらわにゃならん羽目になったかの「そもそも論」から言えば、自己資本に対してリスク取りすぎてたからでしょ。

でも、銀行って、破綻したときのシステミックリスクが怖いという、ただそれだけの理由で「Banks are SPECIAL!」ってことで特別扱いされて、公的資金で救済してもらえるのに、その公的資金を銀行がふたたび高リスク投資に振り向けるのって、それって、どうよ。

再建中の一般銀行のキャピタルを、プライベートエクイティが手がけるような高リスク投資案件に使わせることに異を唱えなかった当時の日本の当局のみなさん、どうか、どっぷり反省してください。

・・・とか思っていたら、アメリカでも、似たような話が出てきた。

公的資金の注入を受けた金融機関達が、例の不良資産(Toxic Assets)の官民共同政府買い入れプログラムP.P.I.P.に、不良資産の「売り手」としてだけじゃなくて、買い手(すなわち投資家)としても参加したがってるらしいんである。

参照記事:Banks with taxpayer money could buy toxic assets (2009.04.03)
http://uk.reuters.com/article/burningIssues/idUKTRE53258J20090403?pageNumber=2&virtualBrandChannel=0&sp=true

このロイターの記事によると、モルガンスタンレーのCEOジョン・マック氏が社員とのやりとりで、不良資産流動化の政府プログラムに投資したいと社内の関係者に言ったという話が漏れてきてるのと、ゴールドマンサックスのCEOも同様の興味を示していることが先に報道された。また、3日付け英フィナンシャル・タイムズも、JPMやシティもP.P.I.P.にインベスターとして参加する意欲を見せていると伝えた。

で、政府当局の方はというと、「ヘルシーな銀行ならば、P.P.I.P.に投資家として参加してもよろしい。ただし、自分が売った資産を買うのはダメ。」(FDIC会長の言)とか言ってるというんである。

3月24日付のMHJ記事(ガイトナーのプット)で筆者は、P.P.I.P.の骨子をみると、これは、「買い手側の面倒しかみてくれない案」だと書いた。不良資産のリスクを一部政府にトランスファーすることで、投資家が取るリスク量を限定するプットがついてるから、と。しかし、「売り手」側は市場価格で売却すると自己資本不足が顕著になってしまうから、プライシングの問題は引き続きおこる、と。

「売り手」の銀行が「買い手」としても参加してくるとなると、現在最大の問題となっている「ビッドとオファーの差」をどう埋めるのか、ますますもって、よくわからなくなってきた。

ひとつの銀行が「売り手」にも「買い手」にもなる・・・?

「売り手」としては不良資産を売却して売却資産全体のリスクをバランスシートから外し、「買い手」としては、P.P.I.P.が組成する債券のうちスーパーAAAやAAAだけ買うから、キャピタル全体にのしかかるクレジットリスク量は減る、とかいう計算があるのであろうか・・・?

でも、そんな「売り手」にとって都合のいいプライスで、他の「買い手」がウンと言うのだろうか。

うーん・・・よくわからん・・・。

   ★   ★   ★

銀行達がToxic Assetsの不良資産をバランスシートから外したいなら外せばいいではないか、何故そんなにプライス、プライスと言って売却価格にこだわらなくちゃならないのか、というのを、実例で説明したい。

企業は、保有する資産から将来発生するかもしれない損失に対し、あらかじめ予想を立てて、その分を「引当金」という形でよけておく。そうすることで、将来実際に損失が起こったときに、あらかじめ貯めておいた引当金を崩して使えば、それがバッファーになって、その期に計上する損失額を緩衝してやることができる。また、銀行の場合は、すでに延滞になっている債権資産については、引当金を積むことが義務付けられている。

したがって、P.P.I.P.に売却対象のToxic Assetsに、当初投資コストの10%相当の引き当てを積んでいる銀行があるとして、そのToxic Assetsを額面100に対して最終売却価格が90以上(ディスカウント10%以下)で売却できれば、その銀行は追加的な損失を計上する必要はない。しかし、逆に価格が90以下になると、売り手の銀行には引き当て不足だった分、追加で売却損が発生し、その期の当期利益を圧迫する。

さて、実際の数字をバンカメ(Bank of America)の例で見てみよう。

厳密には、Toxic Assets というカテゴリーに入れてよいかはわからないが、【予備軍】としては充分Toxicな資格(?)がある、個人向け融資の「ホームエクイティローン」と「クレジットカードローン」を例にとりたい。(これらはP.P.I.P.が買い取る対象になっている。)

バンカメの最近の資料によると、同社の融資残高総額およそ9300億ドルのうち、経営が傾きバンカメに昨年買収されたカントリーワイドから引き継いだ分も含むホームエクイティローン他は1730億ドル、クレジットカードローンは830億ドル、この2つのカテゴリー合計だけで2500億ドルほどをバランスシートに抱えている。

計算のために、まだ延滞していなくても、コンサバに見積もって10%の損失発生を見込んで引当金を積んでいると仮定しよう。(実際の引当水準はもっと低い。)もしも、この2500億ドルのローンを額面の90%で売却すれば、バンカメは引当金を積んであったおかげで追加損失を計上せずに済む。

しかし、これが額面の80%でしか売却できなければ、2500億ドルの10%、すなわち、250億ドルが追加で損失に加算され、当期利益をその分減少させる。当期利益の減少は、別の見方をすると、自己資本の減少、でもある。

バンカメの自己資本460億ドル。追加損失250億ドル。個人向け融資の“アブなそうな分だけ”を取り出して試算しても、最終売却価格が10%低下しただけで、自己資本の半分以上が吹っ飛ぶ、という計算だ。

個人向け融資のほかに、さらに、商業用不動産向け貸し出しが650億ドルあるんだからね。こっちの延滞状況も最近になって急激に悪化してるということは、先日のMHJ記事の最後の方にグラフ載っけたのでご参照あれ。

前々から、ここのブログで、「金融機関の貸し出し能力は自己資本の厚みに比例する」と繰り返し述べてきているが、自己資本がゴッソリ半分もなくなったら、バンカメは、政府が期待しているような「貸し出しの拡大」なんか、できるはずない。どうしても貸し出しを拡大してもらいたかったら、政府はふたたび、公的資金を注入して自己資本に厚みをつけてやるしかなくなる。また資本注入ですか?いつまで、そんなこと、続けられるの?

そして、このプライスと自己資本の関係は、その銀行が国有化になったからといって解決する問題じゃないのである。

ということで、金融機関がToxic Assetsを売却する際のプライスというのは、ものすごくセンシティブ。

高いリターン(IRR)を期待して参加してくる「買い手」のプライベートエクイティの買い手と、プライシングの加減次第で自己資本がゴッソリなくなっちゃう「売り手」の金融機関とで、どういう価格交渉が行われるのかが焦点だ、と言う理由は、そこにある。

   ★   ★   ★

公的資金でキャピタルに厚みをつけてもらった金融機関が、そのキャピタルを使って、ふたたび高リスクのToxic Assetsに投資する。仮にものすごくGood Dealがあって、銀行が、自分達が抱えているToxic Assetsよりもさらに安い価格で別の資産を買い取ることができたとしてもだよ、それって、いわゆる、

「ナンピン買い」

と似たような行為なのでは・・・?

ナンピン買い・・・価格が下がってしまった証券を、さらに低い価格で買い増すことによって、平均価格を下げ、後日、価格が上昇したときに利益が出るように狙う方法。(このサイトの説明がわかりやすいです。)

収益をあげて少しでも早く公的資金をお返ししたい、そのための「投資機会を探る」というと聞こえはいいけどさ、「公的資金は納税者の皆様のおカネ」なんつー意識は、この図式のどこにも見当たらない。

(あおぞら銀行のGMAC投資だって、「収益性向上のための投資機会を探る」わけだったからさ。)

でも、それって、その投資機会に内在しているリスクは政府に飛ばしてしまえ、という意味でもありまして・・・。

公的支援を受けている米銀が、P.P.I.P.に投資機会を探る――。

なんかなぁ・・・やっぱし、それって・・・マズイんじゃないのかねぇ・・・。



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Wednesday, April 1, 2009

GMの金融子会社GMAC、その後

週明けに出された自動車関連のニュースで不安な気持ちに襲われて始まった今週のNY株市場。

しかし、どんなニュースでも「明るい材料」にしてしまう【あくまでもポジティブ思考の打たれ強い人々】のおかげで、火曜、水曜と続伸。

今日(水曜日)は金融株が再びドーンと上がってたが、「時価会計の変更が金融セクターにはポジティブかも」という憶測でウキウキ感に支えられ、打たれ強い人々がまたもや突っ走った模様である。

しかしね、悪いニュースにはすっかり飽きたのか、朝一で失業悪化を示す数字が出てきてもあまり反応しないのに、「会計処理の変更」なんていう実態のない水物の話には、異常に明るく反応するって、どうよ。

ま、ウキウキするのはぜんぜん構わないんですが、会計ルールをどう変更しようが、

「金融機関が取ってるリスク量に対し、キャピタル(自己資本)全然足りてねーぞ」

という事実ばかりは、曲げようはないからね。

会計ルール変更の数字いじりで「見てくれ」のキャピタルレシオが上昇して見えたとしたって、だから、どうした。時間稼ぎの効果だけ、でしょ。

それに、規制上の自己資本比率などは、すでに形骸化して久しいのである。2月6日のMHJ記事(米国最大の銀行が国有化?でも自己資本比率10%超もあるんですけど) でも指摘したとおり、Tier 1自己資本比率だけで10%以上もある銀行がどうして国有化になるんだよ、ってことである。

国有化になる!とワーワー騒いでいたころは、自己資本比率なんて信頼できないとか言ってた、それとまったく同じ人たちが、今度は、会計処理変わると自己資本比率上がるよ!と喜んでるんだから、やれやれ。

しかし、銀行の自己資本が「見てくれ」だけじゃなくて実質的にも充分足りていたら、そもそも、会計ルールを変更する必要など、ないではないか。

日本の過去の例を見れば、今のアメリカで何が起こっているのか一目瞭然である。日本でも、銀行群の自己資本が実質的に底を尽きかけた2002年とか2003年あたり、投資有価証券の会計処理ルールを急遽変更して、とりあえず「見てくれ」だけでも銀行の自己資本比率は大丈夫な風に見せておく、ってことにした。実質的には債務超過に近いのが現実だったけど、自己資本比率が最低限保っていられれば、破綻だけはまぬがれる。そうやって時間稼ぎをしてる間に、市場が正常化さえしてくれれば・・・というはかない望みを、会計ルール変更に託したんであるな。

あの時は、日本でも、ウキウキ打たれ強い人たちがゾロゾロ出てきて、一時的に金融株価は上昇したが、やがて「見てくれ」がどうであれダメなものはダメというのがバレて、株価は下がった。

今のアメリカも、あれと、まったく同じことやってるわけだな。

ウキウキ感溢れる投資家やトレーダーに、さらに順張り一筋のデイトレ連中も加わって、金融株がビョーンと上昇してるあいだに、ショート(空売り)のポジションもついでに仕込んでおきましょか。

   ★   ★   ★

さて、米自動車産業問題である。

ゼネラルモーターズに与えられた執行猶予は60日間。クライスラーは30日間。

いずれにせよ、両社とも、13階段の第1段目に片足乗っけたわけである。

GMのCEOをスケープゴートにしてクビにしたのと引き換えに、60日間という「時間」を与えたわけだが、オバマ政権には、最初からGMを救済する気はなかったのかもしれないなぁ、とかも思ったり。

どうして、そんなことを思ったというと、昨日(3月31日)のフィナンシャルタイムズ(US版)に、米国ノンバンク最大手のGMAC(GMの金融子会社)とCITがFDIC米預金保険機構の承認を得られないためにFDICから資金に対する保証を受けられず、資金流動性がキツキツになっていて業務に支障が出ている、という報道があったからだ。 http://www.ft.com/cms/s/0/d44090e6-1d53-11de-9eb3-00144feabdc0.html

去年のクリスマスの日、ここのブログで、GMACが銀行持ち株会社に変わったんで不足している資本金を公的資金から注入してもらって延命できることになった、という話を紹介した。(2007年12月25日のMHJ記事『GMAC悲願の銀行持ち株会社に(それでも日本政府はいいツラの皮)』参照。)
あのエントリーを書いたのち、筆者もGMACがその後どうなったのかフォローもせず、すっかり忘れていた。

だが昨日、ウォールストリートジャーナルのGM関連の記事を読んでいて、筆者がMHJ記事を書いた日から5日後、T.A.R.P.からGMAC向けに60億ドル(6000億円近く)の資本注入が実際に行われてたことに、いまさらながら気がついた。

注入日、12月30日。あの日、政府からの資本金援助がなかったら、年を越せずに破綻してたかもしれないね・・・。

しかし、資本金は助けてもらったけど、資金繰りは助けてもらえないとなると、振り出しに戻っちゃうのでは・・・。

   ★   ★   ★

ここで、ちょっと横にそれて、「企業が破綻するプロセスの基本」を押さえておきたい。

金融機関であろうがなかろうが、「企業体」というのは、以下の2つのどちらが起こっても、死ぬ。

(A)ひとつは、【自己資本の消滅】。損失が続くと自己資本が減少し続け、そのままにしておくと、いつか底をつき、債務超過に陥る。自己資本が底をついてしまわないよう、企業は新株を発行して民間からフレッシュな資本金を募ったり、あるいは、上記GMACのケースのように、政府から自己資本を注入してもらって、自己資本をプラスに保ち、延命できる。

(B) もうひとつは、【資金流動性の低下】。要するに、資金繰りに詰まっちゃう、という話である。従来なら借してもらえるはずのカネが貸し渋りで急に借りれなくなったり、予定していた収入が途絶えて返済できなくなったりして、資金繰りがフン詰まり起こすと、「資金の流動性が低下している」と言う。 仮に資本金がまだプラスであっても、資金繰りにメドつかなくなると、不渡り起こしてあっという間に倒産する。

往々にして、(A)と(B)はセットで起こる。損失続きで自己資本不足に陥りそうになってくると、その会社の信用リスクが高まって、誰もそんな会社にカネを貸してあげようとしなくなるからだ。

米政府が用意した金融市場救済プログラムのうち、T.A.R.P.は(A)の自己資本を援助するのが目的で財務省が資金源になり、T.A.L.F.は(B)の資金流動性を支援するのが目的で連銀が資金源になる。

政府が必死に金融機関にせっせと資本金や資金を提供してるのは、この(A)と(B)が発生して銀行破たんが起こりシステミックリスクが顕現化して大混乱になるのをなんとか堰きとめようとしてるんである。

   ★   ★   ★

さて、GMACの話にもどるが、昨日のフィナンシャルタイムズの記事を読んで、筆者が「??」と思ったのは、ノンバンクGMACを連銀がせっかく建前上「バンク」ってことにしてあげて、T.A.R.P.資金から(A)の資本金を入れてもらったのにも関わらず、肝心の(B)の方になると、その後、FDIC預金保険機構に提出した申請書の処理が遅れていて、3ヵ月後、ふたたび資金繰りが厳しくなってきてるらしいのだ。

例によって「お役所仕事」のせいでモタモタしてるのかというと、そうじゃない。だって、GEの金融子会社GEキャピタル(GECC)に対しては、FDICは、テキパキ書類を処理して、資金繰り助けてあげたんだもん。

その後2月のフォローアップ記事を読むと、12月末のT.A.R.P.自己資本注入で延命したGMACは、債務者の合意を得て債務を資本金に変えるデット・エクイティ・スワップ(=Debt Equity Swap=DES)のおかげで“会計上”の利益(ペーパーゲイン)が生まれ、救済後の収益は大幅に改善した。
http://www.ft.com/cms/s/0/933d2234-f1f8-11dd-9678-0000779fd2ac.html

でも、営業状況はというと、引き続き、サブプライム住宅融資子会社ResCapから損失がダダ漏れし続け、資金繰りも改善せず、今年2月でも苦しい状況は続いていた模様。

そして、3月も苦しみ一杯で終わった。

そんな状況を知りながら、GMAC向けの政府による資金繰り支援は、この3ヶ月間、宙に浮いたまま先に進んでいない、というんである。

本気でGMAC助けようとしたら、資本金(A)だけじゃなくて、資金繰り(B)も合わせて助けてあげなくちゃダメじゃん!!

GMから車を買うひとは、GMACからオートローンを借りる。GMの新車セールスの数字を少しでもよくするためには、GMACの財務内容もよくしてあげなきゃどうしようもない。なのに、GMACへの資金流動性援助には、速攻で手当てしてあげずに、グズグズ先延ばししている政府当局・・・。

この不気味な政府当局のGMACに対する態度を見ると、3ヶ月前からこの金融子会社を潰すつもりだった、すなわち、GMの救済は最初からシナリオにはなく政府は当初からGMを清算するつもりでいたという意味になるではないか。

60日後、会社更生を申請することになれば、GMは「優良資産」と「不良資産」に分けられて「不良」の方は完全清算される。「不良」の中にGMACも入れるのかな・・・。

いずれにせよ、あおぞら銀行のGMAC投資は、これで一貫の終わりであるな。去年の11月末のプレゼン資料に『GMACが銀行持ち株会社になればあおぞらにはプラス要因』と書いていたけど、そうは問屋は卸さなかったですね。

そして、もう一度言うが、あおぞらのGMACへのエクイティ投資の財源は、詰まるところは、「日本の納税者のカネ」であったことを覚えておきましょう・・・。

   ★   ★   ★

オバマは、秩序だてて清算する【Prepackaged Bankruptcy】が、GMにとって最良というスタンスでいる。

実際にGMが会社更生を申し出る前に、事前に関係者一同で取り決めを行い、合意のもとに清算プロセスに取り掛かり、素早くサクサクと会社更生を進めたいらしい。

「素早く、サクサクと」・・・か・・・。

GMの株式の投資家については、もはやゲームオーバー、さようなら。

しかし、債券投資家を含む債権者のほうは、会社が破産しても、そう簡単にゲームオーバーにはならないからね。

昨日3月31日と今日4月1日のウォールストリートジャーナルが、今後の清算過程について興味深い記事をいくつか掲載しているので、後日、回顧するときの参考のために、ここにリンクを張っておきたい。

‐ GM, Chrysler Face Some Messy Surgery (4/01/09)
http://online.wsj.com/article/SB123854579994476205.html

‐ For GM Bondholers, Time Is a Weapon (3/31/09)
http://online.wsj.com/article/SB123845605025971539.html


これらの記事によると、過去の大企業の会社更生の例では、債権者が会社側から提示された条件にウンと言わなければ、プロセスがいつまでも延々と続き、たとえば小売りのKマートの場合は決着に15ヶ月かかり、ユナイテッド航空の場合は実に3年間もグズグズと債権者とのやりとりが続いたそうである。

「素早く、サクサクとGMを清算処理する」というオバマ政権のもくろみ。

これからの60日間、果たして、どう展開するだろうか。


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