Sunday, June 27, 2010

ギリシャの悲劇6-悪化する銀行群のバランスシート

格付け機関のムーディーズがギリシャ国債を4ノッチ下げてBa1(ジャンク)にした今月14日、その翌日のロイターに、こんな記事が掲載された。

ギリシャ国債が主要グローバル指数から相次ぎ除外、資金流出に懸念
2010年 06月 15日 20:01 JST (全文はこちら

[東京 15日 ロイター] ギリシャ国債が再びジャンク級に格下げされたことで、市場ではユーロ圏から一段の資本流出が起こる可能性を指摘する声が上がっている。

今回の格下げで、世界の投資家が債券運用の基準とする主要なグローバル指数からギリシャ国債が除外される見通しとなったためだ。資本流出はすでに進行しており今後あらためて加速することはないとの見通しもあるが、実態の不透明さが市場の不安心理を助長している。

(中略)

複数の大手格付け会社がギリシャをジャンク等級へ格下げすれば、グローバルインデックスから除外される可能性があるとの話は、S&Pが格下げを行った4月頃から市場に出回り、多くの関係者が、指数を利用するファンドの運用総額などから、流出する可能性がある資産規模を割りだそうと試みた。一説には数兆円規模との試算もあるが、世界に広がる巨額マネーの実態は極めて不明確。「あるファンドは先を見越して早々と外したが、急速な価格下落に追いつけず、まだ投げ切れていない向きもある。パッシブ運用者には主要指数とのかい離を嫌い、あえて保有し続けている参加者もいる」(大手銀の顧客取引担当)と、対応もばらばらだ。

(後略)

(ロイターニュース 基太村真司記者、大林優香記者)


格下げのニュースが出た14日の自分のツイッターのつぶやき記録ログを読み返すと、格下げ直後に株市場はネガティブに反応したが、当の債券市場の反応は、どっちかといえば、シラケた反応だった。(以下、筆者のツイッターから)
  • ギリシャ格下げ後の、同国債イールド カーブの動きは、カーブ全体で上昇: 2yr 7.83% (+19bp); 5yr 8.77 (+11); 10yr 8.34(+16)    
  • 格下げ後に上昇してはいるけれど、昨今 のギリシャソブリンのレベルから言えば、20bps以下のワイドニングは、格下げニュースに「ショックを受けた」と言えるほどの動きとはいえない。クレジット市場では、M社の格下げは、大方は織り込み済みだったということ。
  • パッシブ運用のファンドから外されるにしても、買い手不在の状態。CDS規制のせいで、スペキュレーターも不在。 
  • ギリシャ債は【触らぬ神に祟りなし】カテゴリーに。市場での流動性は消滅する。いくらECBがギリシャ債を買い続けてくれても、そのうちギリシャの民間銀行にも、果ては民間企業にも、カネは回らなくなってくる。

格下げ直後は比較的シラケムードだったが、翌日からギリシャ債とその周辺国の国債の対独スプレッドがジワジワとワイドニング始めたことがブルームバーグ等で報道された。

冒頭のロイターの記事の内容どおり、パッシブ運用のファンドからの資金流出が加速。

この動きはその後も継続、ギリシャ債の対独スプレッドは月末に向けてさらに拡大が続き、同国債CDSは、いまや1000bpsを超えるようになってしまった。

このギリシャ債スプレッド拡大について、厭債害債氏がブログでその旨を書かれておられる。一読を薦めたい。

ただし、スプレッド拡大の背景はそうなのだけれども、わずか1~2週間で、国債の対ベンチマークスプレッドが200bps以上もワイドニングする、などという事態は、取引のボリュームがほとんどないことを示唆する。Bid と Ask が開きすぎてまともな値がつかないんである。

売ろうにも、いまさら市場に「買い手」はどこにもいない。



★     ★     ★



市場に買い手のいなくなったギリシャ国債を買い取ったり、それを担保に資金を銀行に貸してくれるのは、いまやECBしかいなくなった。


だが、ECBが流動性の後ろ盾をしてくれるからと言ったって、それも所詮は短期的な対処。

いくら利回りが魅力的に見えたとしても、正常化に目処が立たず、セカンダリー市場で自由に売買できない流動性のまったくない証券を、今、敢えて持ちたいと考える民間投資家が多く存在するとは、筆者には思えない。

ギリシャの金融機関は、キャピタルマーケットから完全に閉め出されている。

ECBの緊急融資を受けながら流動性はなんとか保っている様子だが、それだけで資金繰りが安定するものだろうか。

ギリシャの銀行群のバランスシートがどうなっているのか知りたいと思っていたら、FT Alphavilleの過去記事に、それに関連した記事を見つけた。(10日以上前の記事で少々古いが、事態が好転しているとは思えないので、書き留めておく。)

Götterdämmerung for Greek banks 
FT Alphaville、6/14/10

同記事から、以下要約。

  • 負債サイド:ギリシャの銀行システムの預金総残高は09年4月から210億ユーロの減少、率にして7.5%減。
  •  資産サイド:民間セクターへの貸出の伸びは無し。だが、ギリシャ国債(GGB=Greek Gov't Bond)の買い入れは大幅増。今年4月時点のGGB残高は440億ユーロ、半年間で120億ユーロ増。

預金が減っているのに、GGBを買い増すことができるのは、ギリシャ国の中央銀行(BOG=Bank of Greece) からの借り入れを急増させているからである。

グラフ:ギリシャの銀行のギリシャ中央銀行からの借り入れ:資本項目を除く負債総額の割合



 以下、ふたたびFT記事より。

  • ギリシャ銀行群のBoGからの借り入れは900億ユーロ、拠出された担保の額は1230億ユーロ
  • しかし、4月末時点でギリシャの銀行は1020億ユーロしか有価証券残を持たず、うちソブリン債は480億ユーロ、残りの多くが証券化後に自己B/Sに保持した分。
  • 仮に、ブック上の有価証券全額がレポ用担保として受け入れられたと楽観的に仮定しても、有価証券残高だけでは中央銀行からの借り入れ担保としては不足しており、ギリシャの銀行群はすでに融資ブックを裏づけに資金調達している可能性が高い

インターバンク市場から完全に閉め出され、キャピタルマーケットでもリーズナブルなイールドで中・長期資金を民間から調達できなくなったギリシャの金融機関の資金繰りのポジションは、もはや、「厳しい」とか「きつい」とかいった中途半端な形容詞では表現できないレベルまで来てしまっているようだ。

- 預金が減少。

- レポ担保になる有価証券、使い果たし。

- さらなる担保になる新発国債の購入資金を、中央銀行からの借り入れに依存。

- その借り入れの裏づけに、融資ブックを提供。

- B/S構造で貸出と預金がともに減少し調達コストが上昇しているために、ネットインタレストマージン(NIM)が低下。さらに、不良資産増加で償却負担も増加しているため、純利益を下ブレさせる。

つまり、流動性のみならず、経済資本にも圧力がかかり、リスク許容量が狭まってきている。

銀行のバランスシートがこんな有様で、景気回復を後押しするための与信積極拡大などできるはずもなく。


こうした状態を、民間の金融機関が、この先果たしてどれだけ長く続けられるのであろうか。

ギリシャ国債に話を戻すと、取引が極端に薄い中で、パッシブ運用ファンドの売り圧力が乗っかり、それが対独スプレッドを悪化させているのは間違いない。

だが、同国の銀行システムのファンダメンタルズに目を向けると、ここで同国のマクロ経済を取り巻く状況が近々安定するとも考えにくい。

銀行システムが不安定なままで、マクロ経済が着々と回復に向かった国の例など、聞いたことがない。

となると不透明なのは、「下手すると、対独スプレッドがこのまま高止まりしてしまったらどうしよう・・・という話である。

カナダで行われているG8/G20サミットでは、合同声明を出し財政再建に世界的に取り組むとかいう話だが、それが、どれほど安心材料になるものだろうか。

欧州の債務危機は、筆者の目にはまだまだ出口から遠いように映って仕方がない。

Friday, June 11, 2010

IGクレジットのスプレッド移動平均

IMFは、欧州の信用不安は欧州内に留まっていると言っていたが、米国の企業クレジットスプレッドも、確実にワイドニングのトレンドに入っている。

以下は、6月8日にツイッターでつぶやいたことのまとめ―。

下のチャートは、米国の投資適格(IG=Investment Grade)クレジットのスプレッドの動きと、その50日および200日移動平均。

6月7日に、50MAラインが200MAのラインを超えた。

これが前回起こったのは、2007年夏。短期資金市場が息も絶え絶えになり、金融危機の本格化が夜明けを迎えた頃である。

MHJ筆者はテクニカルは得意ではないが、ファンダ的に考えたってここで強気にクレジットロングになれる投資家なんて、そんなにいない。

過去の経験からいって、ハイイールドは株のような動きをするので激しいワイドニングが起きても不思議はないとして、IGのクレジットに、こうして要注意のシグナルがつくと、本当に要注意である。

引き続き、このIGスプレッドのトレンドは、要モニター。


IG Credit Sell Signal

Source: Credit Trader

Thursday, June 10, 2010

ダウが200ポイント以上動いた日

本日(6月10日)のダウは、前日比273ポイントも上昇。

下のチャートは、ダウが一日で200ポイント以上、アップ(青)あるいはダウン(赤)方向に動いた日数。 

これみると、リーマンショック前後のダウのボラは、本当にすさまじかったんですねぇ・・・。

今月6月はまだ8日間しか取引日数がないが、うち大幅に動いた日数は、3日ある。

さて、このチャートをみたあなたは、ウキウキしますか、それとも、ウジウジしますか。(笑)



Source: The Mess that Greenspan Made

欧州バンクの流動性は「痙攣の発作」を起こしている

約ひと月前のエントリー『バンクの流動性逼迫』のその後である。

EUとIMFによる【怒涛の7500億ユーロ救済パッケージ】が市場を落ち着かせるのに失敗し、信用不安はジワジワと、かつ、アチコチに、飛び火拡大してきているわけだが、(参考:『欧州一般企業の流動性への波及』)、スペイン10年国債のイールドは、あの怒涛パッケージ投入の寸前のレベルまで戻ってしまった。

質への逃避でドイツ国債のイールドの低下傾向が見てとれるため、スペイン国債の対独スプレッドとして見た場合は、スプレッドが上昇しているという意味になる。つまり、スペインに対するリスクプレミアムはEU/IMFパッケージ投入前よりも悪化しているわけである。

9日のロイターの記事によると、欧州のレポ市場では「スペイン外し」が進行中。

Spain small lenders struggling for funding: Interbank market freeze for Spanish banks
(Reuters, 6/9/10)

以下、記事よりコメント抜粋―

"The smaller Spanish banks cannot finance their positions in (Spanish) government bonds through the repo market outside Spain. This shows just how little appetite their is for Spanish government risk outside Spain,"

「スペインの小規模貯蓄銀行は、担保として提供できるのがスペイン国債しかないために、国外では資金繰りができない事態になっている。スペインの外に出ると、同国国債へのアペタイトはほとんどない。」

"Only the biggest Spanish banks are managing to get funding, but backed by bonds from other countries such as Germany. With our national bonds they are not managing to get anything," 

「(サンタンデール、BBVAのような)大手銀行の場合は資金調達は引き続き可能ではあるものの、それもドイツのような他国の国債で担保できる場合のみだ。大手といえども、スペイン国債では、レポ市場で資金は出てこない。」

"The markets are almost shut for Spain,"

「スペインの銀行群に対し、資金市場は閉鎖に近い状態。」



以前から、ナントカの一つ覚えのようにしつこく書いているが、今日も書いておこう。

金融機関というものは、一にも二にも資金繰り。
資金が命、資金が血。
流動性が止まったら、銀行は瞬く間にあの世行き。


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ということで、その流動性を市場で確保できなくなったら、飛び込む先は【最後の貸し手(Lender of Last Resort) 】、中央銀行と決まっておる。

しかし、流動性がアウトになりそうな欧州銀行が、次から次へとECBの窓口に飛び込んできてるのかというと、どうやらそうじゃないらしい。

銀行間の資金の貸し借りは、上記スペインの例にも示されているように、個別行レベルでは、一部で実際にフン詰まりを起こしている。

だが、欧州全体でみたときは、物理的に資金が不足する事態(←例えば、バンクランで資金が流出するケースとか)に直面する銀行が多発しているわけではない。

9日付のWSJに、一時的な資金不足をオーバーナイトで銀行が中央銀行から借りるためのファシリティ(=Marginal Lending Facility)はほとんど使用されていないが、余剰な預金を中央銀行にオーバーナイトで預けておくためのファシリティ(=Deposit Facility)の使用額は過去最高、という記事が。

(以下全文)

Banks Use Of ECB Deposit Facility Rises To Fresh Record
(Wall Street Journal, 6/9/10)

FRANKFURT (Dow Jones)--The amount of cash parked by banks at the European Central Bank's deposit facility increased further to a new record high, while the amount they borrowed from the ECB's marginal lending facility remained subdued, ECB data showed Wednesday.

The heavy use of the 0.25% overnight deposit facility together with the lacklustre use of the 1.75% marginal lending facility signals mistrust among banks rather than a lack of liquidity. Banks, in fear of counterparty failure, prefer to place their excess liquidity in a safe haven like the ECB, rather than to lend to each other.

Banks parked EUR364.587 billion at the ECB's deposit facility Tuesday, ECB data showed Wednesday, compared with EUR361.69 billion the previous day. Banks, meanwhile, borrowed only EUR29 million compared with EUR9 million the previous day.


  • ECBの預金ファシリティに預けられるキャッシュの額が過去最高になった。(注:下グラフ参照)
  • 金利1.75%の貸出ファシリティ使用がほとんど使われていないのに、金利0.25%の預金ファシリティが活発に使われる。この組み合わせが何を表しているかというと、欧州銀行システムは、流動性が不足というよりも、銀行間の信頼が低下している、という意味。
  • カウンターパーティの破綻を懸念する銀行達が、自分達の間で資金を貸し合うよりも、ECBという安全な場所に余剰資金を置いておこうとしているからだ。
  • 預金ファシリティの火曜日(8日)の使用高はEUR364.587Bil、水曜日(9日)EUR361.69Bil。
  • 貸出ファシリティの火曜日の使用高はEUR29Mil、水曜日9Mil。



(グラフはZerohedgeより)


要は、「おカネは余ってるけど、他の銀行に貸して信用リスク取るくらいなら、金利つかなくても中央銀行にしまっておいたほうが、よっぽどマシだ」と、銀行が言ってるんである。

欧州インターバンク市場では、カウンターパーティ・リスクを強く警戒する銀行同士が、疑心暗鬼に陥っている。

ECBのファシリティに預けられる資金が増えている一因には、貸出が減って(=信用収縮が起こって)いるから、というのもあろう。

野村アジアのストラテジストPaul Schulteが、この状態をさして、「Liquidity Seizure」と呼んでいる。

流動性が痙攣の発作を起こしている、というのだ。

‘Liquidity Seizure’ May Renew Recession, Nomura Says
(Bloomberg, 6/10/10)

この記事でSchulteは、よほど慎重に取り掛からないと、我々は再びリセッションに突入する恐れがあると警告。前日IMFが、欧州の債務危機は拡大はしていない、今年の世界経済の成長率は4.2%を見込むという“明るめ”な発表をしていたが、それとは対照的な意見だ。

MHJ筆者の個人的意見は、Schulteの見解により近く、資金市場に流動性の懸念が残るうちは引き続き要注意だと考える。

資金の流れが停滞する・・・これが一番恐ろしいから。

どれほど強気の経済予測が出されようが、市場全体でみてカネがどんなに余っていようが、ひとたび資金がスムーズに流れなくなると、個別の金融機関のレベルで流動性枯渇のサインが点滅しはじめ、資金市場は崩壊へと向けて内部プレッシャーを高めてゆく。

それこそが、2007年から2008年にかけて、米国の資金市場で起こったことだったと、いまふたたび思い出す。

Tuesday, June 1, 2010

【備忘録6】中国の不動産市場

中国の不動産市場がバブっているという話が巷で語られるようになって、久しい。

中国当局は過熱気味の不動産マーケットを冷まさせるために、あれこれ施策を施してきてはいるものの、今年の2月末から再び住宅価格は上昇に転じ、過熱感はなかなか去ってはくれないようだ。

(チャートは中国70市町村の住宅価格インデックス、過去1年の動き。Source: Bloomberg




市場のほうでは今年あたまから警戒感が膨らんでおり、アジアのクレジット市場では、中国不動産デベロッパー会社が発行する社債のスプレッドがワイドニングしており、これらの会社群は今年に入ってからのアジアのドル建て社債市場で最悪のパフォーマンスだという話。

31日のブルームバーグで興味深い記事を読みついーとしたが、中国の不動産は今後ますます市場の注目を集めそうな気がするので、ブログのほうにも「備忘録」として貼り付けておく。

China Property Bubble Bursts in Bond Market as Kaisa Drops: Credit Markets
(Bloomberg, 5/31/10)

記事によると、

  • 日本を除くアジア社債市場で、2010年にドル建て発行された社債の45%が中国の不動産デベロッパー会社9社によるもの。
  • 中でも、珠江エリアに本拠地を置く Kaisa Group Holdings が発行した5年債$350milは発行時のイールド13.5%が16.52%まで上昇、債券価値にして15.5%の下落。他の不動産関連社債も同様に信用スプレッドがワイドニング傾向。
  • GSやクレディ・スイスの中国不動産株アナリストらも、当局による抑制政策を理由に収益見通しを大幅下方修正。
  • スプレッドがワイドニング傾向にあるため、新規のドル建て社債発行にはプレミアムが要求されており、同じ不動産デベロッパーでも、他のアジア国では平均9.2%、米国の平均6.2%のクーポンに対し、中国の会社の場合、平均10.875%のクーポン(14%になった会社あり)。
  • 2年前の流動性危機のときのような状況には市場は現在いないし、ミクロでみたときの各会社のキャッシュ・ポジションも改善しているため、流動性の手当てができずにデフォルトする見通しは実際には低い。
  • しかし、それでも、当局の今後の動きに不透明さが残り、それがリスク要因となっていて、機関投資家は警戒感を解いていない。
  • 一部のハイイールド銘柄には、市場は50%近いデフォルト確率を織り込んでプライシングしている。中国不動産関連社債のパフォーマンスが近い将来上向く可能性は低いとの市場関係者の見方。

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一方、金融当局の今後の動きだが、31日付けのFinancial Timesネット版に、「中国の不動産リスクは米国より深刻」と題する、当局関係者とのインタビュー記事が出ていた。

China property risk is worse than in US
(Financial Times, 5/31/10)

中国中央銀行金融政策委員Li Daokui氏のインタビューだが、非常に流暢で聞きやすい「模範的な英語」なので、ビデオもおススメです。インタビュービデオ(英語、5分程度)

インタビューの冒頭で、中国は過熱している住宅市場とスペキュレーターをコントロールできるかという問いに対し、彼は「コントロールは十分可能だ(It's very very likely)。」と最初に述べた上で、こう続けた。

It's very very likely, ok, in fact, it's necessary, it's inevitable that Chinese government has to further push for adjustments in the housing market. Why? Because the housing market problem in China is actually much much more fundamental, much much bigger than the housing market problem in the US and in the UK before, before your financial crisis.

コントロールすることは十分可能だ。実際、そうする必要があるし、中国政府が住宅市場の調整策を今以上に持ち込むことは避けては通れない。何故かというと、中国の住宅市場の問題は、あなた達米国や英国が金融危機に至る前の段階での問題と比べると、はるかに根は深く、はるかに大きな問題だからだ。

Li氏は、以下のような話を続けた。

  • 欧米と異なり、中国では住宅価格が上がったからといって国民がハッピーになるわけではない。中国の問題はバブルだけではない、もっと経済基盤そのものに関わる問題なのだ。
  • 中国国民は持ち家をまだ十分に持っていない。中国の住宅価格がこれ以上暴騰すると、社会問題と化して、とりわけ若い層には経済的負担になり、都市化による経済成長に影を落とす。
  • 住宅市場をコントロールするため中国政府がとる施策として、まず最初のステージは、スペキュレーターによる「需要」を押さえつけること。そして、第2のステージは、低中所得層向けの住宅の「供給」を後押しすること。
  • 現在、地方やローカル政府が低所得者向け住宅供給を行うための資金を調達しようとすれば、土地のオークションを通じて資金を作らねばならない。この方式では土地スペキュレーションを助長するだけ。そうではなくて、低所得者向けに開発する住宅を担保に地方ごとに公債を発行できるようにしてやる必要がある。
  • 不動産課税の導入については、相当慎重にやらねばならない。導入する初期段階は、非常に低い税率で始めなければならない。
  • 現在CPIは2.8%、対して、銀行預金の1年金利は2.25%。市場に安定をもたらすためには、預金金利を上方に調整する必要あり。
  • 個人消費はまだ伸びる。

(以下FTから)
He added that there were still signs that the economy was overheating and recommended modest increases in interest rates and the level of the currency.

氏は経済はいまだ過熱した状態で、金利と為替の水準をゆるやかに上昇させたほうがよいと考える、とも付け加えた。

彼は、銀行融資という形で不動産投資に資金が流れ込むのは止めるべきと考えている様子。

別の機会に、銀行側からみた不動産投資関連のデータも、少々あさってみたいMHJ筆者である。

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最後に、ぜんぜん関係ない話だが、このLi氏といい、今年のダボス会議で中国中央銀行副理事として出席し世界中の注目を集めたZhu Min氏(後日IMFのスペシャルアドバイザーに就任)といい、中国当局のエリート達の【英語の達者さ】には、心底感服する。

彼らがどういう教育を受け、どんなバックグラウンドなのかは存じ上げないが、要人が集まる国際会議の場で他国代表と互角にやりあうには、あれくらいの英語力は必要ではないかと筆者は思う。

参考: 英主要メディアをして「a man worth listening to」と言わしめた、Zhu Min氏のダボス会議での発言ビデオは、こちら