Saturday, July 17, 2010

方向感を失ったヨーヨー市場

今回は、前回のMHJエントリー『今日(13日)のマーケット開始前メモ』で書いた以下の内容をおさらいしておきたい。


ここで株市場が一時的なショートカバーだけではなくて、本格的な買いが戻り持続性のある上昇トレンドに入るとすれば、米国債市場は不安定になるのではないか。逆に米国債への需要が強いままで、株も一緒に上昇するとすれば、好決算への過剰反応。マクロのファンダ的にはとりわけ好材料はない。6:48 AM Jul 10th via HootSuite


で、市場でBellweather(先行きを示す銘柄)と呼ばれている大御所会社の数値が出てきて、株市場の反応はどうだったかというと・・・




13日(火曜日)

  • 13日は取引開始前に出されたアルコアからの好決算が好感され、同日の市場はポジティブムードで開始。
  • その日は一日、相場は上げ調子を崩すことなく安定推移。一部銘柄だけではなく、上場株のマジョリティが前場の段階で前日取引レンジのミッドポイントを上回って取引されていた様子。
  • 13日の取引が引けた直後にインテル決算発表。売り上げ、純利益、ともに市場予想を上回る好成績でインテル株はアフターアワーズで大幅上昇。インテルが株相場を持ち上げる起爆剤になるかと期待される。


14日(水曜日)

  • だが、翌朝、インテル決算は翌朝のテク株やナスダックを持ち上げる効果はあったものの、インデックスは前日終値を挟んで終日ダルダル。
  • 小売と不動産から弱い数値が出され、さらにはFOMCの頼りない議事録内容も出てきて、後場は全体に下落傾向、最後の小一時間で何とか「腕力で」前日終値に戻したような感じ。
  • そのインテルも後場はずるずる下げ調子になり、インテル効果は丸一日持たず。


15日(木曜日)

  • 早朝に金融株の行方を占うJPモルガン(JPM)が決算発表。最終利益は前年同期比7割増であったものの、償却前利益は銀行部門・証券部門ともに落ち込み。トップラインの落ち込みを償却コストの減少分で補って最終利益を膨らませるという格好。
  • JPMの決算から、ボトムの好調さよりも、『収益の質(Earnings Quality)』に疑問を投げかけるムードが市場を支配。センチメントは一気にネガティブに。
  • 午後に入り、GSがSECと$550milの罰金で和解というニュースや、BPが事故後初めて原油流出止めたというニュースが続けて入り、沈んでいたムードは再び興奮モードで舞い上がって引け。


16日(金曜日)

  • 早朝にバンク・オブ・アメリカ(BAC)とシティ(C)の決算発表。「トップライン減少」+「償却コスト減少」=「ボトム上昇」というフォーミュラは、前日のJPMと同じ。前日のJPMに続き、大手金融機関の『収益の質』の貧弱さがクローズアップ。
  • さらに、BACが出してきた金融改革法の銀行セクターへの悪影響の見込み値が、市場予想よりもはるかにネガティブだったことを受け、新法に対する懸念再燃で金融セクターに売りが集中。クレジットカードのMAやVも売り込まれた。
  • CPIが下降、消費者信頼感指数も大きく落ち込み、市場のコンフィデンスはそのままずるずる。ダウは前日比261ポイントの大幅下げ(マイナス2.52%)。

以上、今週は、舞い上がったり、沈み込んだり、米株市場のセンチメントは【重度の躁うつ病状態】であった。

金曜日は、iPhone4のアンテナ問題に関する記者会見を開いたアップル(AAPL)に市場は注目したが、これも賛否分かれて力及ばず。

市場のウェイトが高い金融株が錘(おもり)となって、ズブズブと沈んだ感じ。


★   ★   ★


以下は、決算結果が一時のオーバーリアクションをもたらしたものの、いずれも、株価上昇の起爆剤となるのに失敗した、の図。

アルコア(AA)の株価推移 7/12 - 7/16 

インテル(INTC)の株価推移 7/12 - 7/16 

JPモルガン(JPM)の株価推移 7/12 - 7/16


★   ★   ★


さて、一方の米国債市場のほうを見てみよう。



前回も書いたように、米国債市場は月曜(12日)に2年債、火曜(13日)に10年債、水曜(14日)に30年債、合計650億ドルの連続オークションが控えていた。

アルコア決算に元気付けられて終日株価が堅調に推移した火曜日は全体にイールドが持ち上がったものの、週のあいだに出されてきたマクロ関連指標はおしなべて米国の景気回復が進んでいないことを裏付ける格好となり、米国債市場はプライマリーディーラーらの予想通り、新発の米国債への需要は減退することはなかった。

先週、3%を越えたといって潮流が変わったかのような扱いを受けていた10年債も、金曜日には再び3%を割り込むことに。

株下がり、債券上がり、ドル暴落。

★   ★   ★

筆者自身も、火曜日は、アルコアやインテルにやや勇気をもらい、続く木曜のJPMの決算も、たしかにワクワクする決算内容とは言い難かったが、信用ポートフォリオの改善はいちおう進んでおり、一年前と比べると財務体質は改善されていることが見て取れた。

しかし、米市場を覆っているネガティブ・センチメントは相当根強く、ミクロの企業財務が改善するために必須のマクロ改善の進捗が遅すぎて、Bellweatherの企業決算が多少期待値を上回っても、それが株市場全体のセンチメントを上向かせるには、威力がない。

そして、なんといっても、「金融株が冴えない」というのが重い。

金融改革法案は上院・下院とも通過、来週の水曜日にオバマ大統領が署名して正式に新法として成立する。

米市場では、同法が金融セクターに与える影響は限定的だという見方が多勢を占めていたが、バンカメが決算発表とともに述べた「見通し」が同法の影響で想定されていたよりも厳しかったことが、ある意味、極端な楽観視は禁物という【Wake Up Call】(目を覚まさせる事象)となった。

ゴールドマンが抱えていた不透明さが払拭され、それも織り込まれてしまったことだし、ここでさらに金融株を押し上げるファクターが残っているだろうかと見回すと、あまり見当たらない。

★   ★   ★


現在の米市場は、マクロ経済のファンダメンタルズという背骨を失っており、センチメントが一時的なストーリーに流されやすく、ヨーヨーのように、あっちに行ったりこっちに行ったりして方向感が定まらない。

債券市場はまだ弱気になっておらず、株市場に資金が継続的に流入する段階に至っていない。


過去3週間のS&P500のローソクチャートを見てみよう。(画像はZeroHedgeより)



前回の上昇フェーズ(6月中旬:左側の赤で囲った部分)でつけた最高値より、今回の上昇フェーズの最高値のほうが、低い。

また、前回の下降フェーズ(6月上旬)の最低値より、連休前の下降フェーズ(6月下旬)の最低値のほうが、低い。

Low Highs Low Lows は、典型的なベアマーケットの図。

このチャートからは、ヨーヨー市場はふたたび下降フェーズに入ったようにみえる。

来週は、月曜から連日住宅関連の数値発表が続く。

住宅関連がいま明るい数字になるはずがないので、それを押し戻す材料が、来週は果たして出てくるだろうか。

Tuesday, July 13, 2010

今日(13日)のマーケット開始前メモ

ブログ更新、サボってました、すみません。

今週から四半期決算発表本格化。先週末、Twitterで、以下のような内容を一連にブツクサつぶやいた。



  • 連休前に澱のように淀んでいた暗い雰囲気は少々払拭されたが、米国市場では、中期的には経済回復は遅々として進まず、頼りないムードは継続して残る、というのが基本的にコンセンサスになっている。6:31 AM Jul 10th via HootSuite

  • 来週は$65bilの米国債入札あり。月曜日に3年債$35 bil、火曜は10年債$21 bil、水曜は30年債 $13 bilという予定。国債プライマリーディーラーの見方としては、景気先行きにはまだ不透明さが強く残り、連銀が金利でおかしな動きをすることはないと確信、月曜は需要が旺盛だろうという見方。6:41 AM Jul 10th via HootSuite

  • ここで株市場が一時的なショートカバーだけではなくて、本格的な買いが戻り持続性のある上昇トレンドに入るとすれば、来週の米国債市場は不安定になるのではないか。逆に米国債への需要が強いままで、株も一緒に上昇するとすれば、好決算への過剰反応。マクロのファンダ的にはとりわけ好材料はない。6:48 AM Jul 10th via HootSuite

  • (ミクロベースでみると)markethackの広瀬氏も書かれていたが、米企業のバランスシートはそこそこイケル状態。四半期決算でコンセンサスをはるかに下回る悪い決算が出てくるネガティブサプライズは、今期はそんなに沢山ないような気が、私もする。6:59 AM Jul 10th via HootSuite

  • 金融機関の決算についていうと、クレジット市場のボラが欧州問題のおかげで上がったり、また国債イールドが下がったりして、それらがトップライン収益に貢献したと思うし、不良債権関連損失は今期も発生するだろうが、それも期待値の範囲に収まるだろう。そこそこの決算結果出してくる大手金融機関が多いと予想。差がつくとしたら手数料の部分かもしれない。7:06 AM Jul 10th via HootSuite


★     ★     ★

上に書いた昨日(12日)の米国債オークションの結果はいかがだったかというと、プライマリーディーラー達の予想どおり、好調だった様子。(関連記事はこちら)一方の株市場のほうは、昨日は終日、ダルダルと冴えない動き。

さて、今日はどういう展開になるだろうか?

今朝のCNBCの記事が、現在米市場で気にされてるポイントを羅列してるんで、要旨を書き出しておこうと思う。

Futures Rise as Alcoa Trumps Portugal Cut
(7/13/10, CNBC)


  • 決算シーズン皮切りとなったアルコアの好決算を受けて、今朝のUS株式インデックスのフューチャーは上昇。欧州ソブリンの格下げがあったものの、センチメントは全体に明るく。

  • ムーディーズ、ポルトガルを2ノッチ下げてA1に。欧州株市場はほとんど反応しめさず。ギリシャでは、4月からイールドは高くなったが、6ヶ月国債$20.3億ユーロの売り出しにいちおう成功。

  • 今日発表される経済指標:午前8:30に5月貿易収支。4月は$40.3bilの赤字だったが、5月は$38.9bilとエコノミストらは予想。午後2:00は、6月の連邦経常赤字の数字。5月は$94.3bilだったが、エコノミストの6月のコンセンサスは$69.5bil.

  • 午後1:00過ぎ、10年米国債$21bilの売り出し結果。前日の3年債は成功。

  • 取引終了後はインテル、レストランのYum Brandsなど決算発表。

  • BP株:原油流出が続いているメキシコ湾で、新しいキャップ取り付けに成功。また、BPの処理コストは今後4年にわたり$10ビリオンの税金カットとFTが報道。昨日のNY市場ではBP株7.96%の大幅上昇、今朝のロンドン市場でも上昇。


どれも、今日のみに限らず、当面、自分にとっては興味が続きそうなトピックばかり。歳のせいか、最近すぐにいろんなことを忘れるので、自分への備忘録的にここに書いておく。

今日これからのNY市場の動きが、ちと、楽しみ。

【好決算への過剰反応フェーズ】が始まるだろうか。

Thursday, July 1, 2010

【備忘録7】 7月のスペイン国債発行スケジュール

今週に入り、NYダウは4日連続の下げ。S&P500もサポートラインとされた1040をあっさり割り込み、悲観ムード一杯のNY市場である。

米雇用統計も、住宅統計も、ともかく連日出されてくる統計が、どれもこれも(わかっちゃいるけど)暗闇で、アメリカ経済息切れ状態がモロ露呈。

さらに、ここ何年も、世界中で【呪文】のように唱え続けてきた「頼みの中国」もなんだかスローダウンしてるみたいで、これも暗さを助長してる。

そうやって、みんなで暗~い気持ちになってるときに俄然張り切り出すのは、昔からIMFと格付け機関と決まってるわけであるが、NY市場がどよーんとしてるまっ最中の30日の午後、ムーディーズはスペイン・ソブリンの格付け(現在Aaa)を格下げの方向で見直すと発表した。

マスコミ上では、昨日(30日)のニューヨーク市場が3時以降に崩れたのは、このムーディーズのアクションを嫌気したという解説が多かったようだが、正直なところ、取引時間中ずっとリアルタイムでモニターを睨んでいた自分には、この格下げニュースが引き金になったという感触は、ぜんぜんなかったんですよね。(スペインの大手銀行株のADRなどは、このニュースを受けても、前日比プラスで引けたぐらいだしね。)むしろ四半期末の最後の一時間に、「ダメだこりゃ」状態確認のうえ、ポジション整理で一斉に動いたような感じ。

ネガティブニュースであるには違いないけれど、連日暗い話にまみれてしまってる市場関係者には、スペインの格下げ予告は「またひとつ暗い話が加わった・・・」程度の話。

それに、ムーディーズ社も、「下げるとしても1段階か2段階」とあらかじめ述べていて、格下げになったところで、ダブルA格の真ん中あたりになりそうだというのだから、あらためてショック受けるようなレベルじゃない。今年5月28日にフィッチはAAAからAA+に格下げしてるし、S&Pも去年1月にAAAをAA+に下げ、今年に入りさらにAAフラットにすでに下げている。

取引の現場では、ムーディーズがやると言ってる程度の格下げなら、とっくにセカンダリー市場で対独スプレッドに織り込まれているわけ。

(日本国債の格付けなんて、自慢じゃないが、ダブルA格よりまだ低いんだからな。笑)


★     ★     ★


さて、ムーディーズ社が格下げするかもしれないと発表した翌日の7月1日、かのスペインでは、スペイン国債(5年物)のオークションが予定されていた。

で、本日のオークションがどうだったかというと、無事成功した模様。

報道によると、スペイン政府は、今回の5年債発行で25億から35億ユーロの発行をもくろんでいたが、その上辺にあたる35億ユーロを発行、Bid-to-Coverレシオ (発行額に対する需要総額)は1.7倍で、需要もそこそこあった様子である。(利率は3.65%、5月発行の5年債は3.53%だった。)

ただ、6月10日のMHJエントリー『欧州バンクの流動性は「痙攣の発作」を起こしている』でも書いたように、スペインは基本的にインターバンク市場からシャットアウトされており、スペイン国債を担保として提供しても民間でのレポ取引では使えない状況になっている。

筆者は実際にスペイン国債の取引の現場を見知っているわけではないので、憶測に過ぎないけれど、市場での取引が自在にいかない国債を嬉々として買う他国の投資家がゴマンといるとも思えず、となると、多分、スペインの銀行達にバカスカ「買わせてる」のじゃないかと思ってしまうわけである。

前回のMHJエントリー『ギリシャの悲劇6:悪化する銀行群のバランスシート』では、市場から締め出されたギリシャの銀行達が、融資資産を裏付けに中央銀行から資金調達し、それでギリシャ国債をバカスカ買っているらしい、という話も紹介した。

スペインの対独スプレッドレベル(200bps台)は、ギリシャのそれ(1000bps超)と比べるとまだマトモだとはいえ、市中からの調達が困難になっている点は両国とも変わりなく、国内融資(スペインの場合特に不動産融資)が拡大基調にいるとは考えにくい点からして、おそらくスペインの銀行群も、ギリシャ同様に、バランスシート上の国債保有残高を増やしているのではないか、と推察する。(後日、要データ確認。)

ということで、7月最初のスペイン国債オークションがうまくいったと言っても、ここでぬか喜びは禁物であるな。


★     ★     ★


さらに、この7月という月は、スペイン国は国債償還時期が集中し、かなり旺盛な国債発行を目論んでいるとのこと。

今月から来月にかけて行われる可能性のあるオークションのスケジュールは、以下のとおり。



参照記事:
Spain's Debt Maturity Wave Hits Next Month And It's Already Obvious They Don't Have Enough Cash
(Money Game, 6/26/10)

GSの推計では、7月中に手当てが必要な額は217億ユーロとのことだが、以下にその根拠を簡単にまとめておく。

  • キャッシュ赤字額=135億ユーロ (A)←GS推計
  • 今月中に償還を迎える国債総額ネット=82億ユーロ (B)
  • 7月キャッシュ必要額(A+B)=217億ユーロ
  • 同国のキャッシュリザーブ残高=91億ユーロ (C)
  • 最低借り換え必要額(A+B-C)=126億ユーロ

キャッシュ不足に対処するため、スペイン政府が積極的に出費を抑えるなどしていれば(A)が減り、最低借り換え必要額もその分減る可能性はある。他にも代替手段はあるであろうし、すぐすぐデフォルトがどうしたという話に発展する可能性も低い。

だが、欧州市場で資金の流動性が全般的にタイトになっている最中での起債ラッシュなだけに、入札のたびに注目されることになろう。

ということで、備忘録として、このスケジュール表を記録しておきたい。