昨日23日のNY株式市場は終始イケイケ、金融株に引っ張られ、一気に500ポイント近く上昇。ハイテク株も絶好調でナスダックも絶好調。
金融株急上昇は、ガイトナー財務長官が発表した不良資産買取りプログラムの「詳細」が出され、株式市場がそれを好感したというのが、その理由。
一ヶ月ほど前にガイトナー長官がプログラムの「概要」を発表した2月10日は、株市場は「詳細がない!」と怒りまくり、あの日一日でダウは388ポイント下げた。
で、今回は、(筆者からすると「詳細」というほどの「詳細」でもないと思うのだが)、株市場では「詳細だ、詳細だ」と叫んではしゃいでいた。ダウ497ポイント上げ。
ガイトナー効果、ネットでは、497-388=プラス109。
昨日の記事で、株式サイドの人たちというのは「アップサイドに希望を託し、打たれ強くて能天気、物事をあまり深く考えず、知ったかぶりが得意」と書いたけど、昨日の株式市場のハシャギ振りは、まさにこの記述そのもの。ともかく、詳細が出てきたんだから、これからはガンガンに不良資産が売却されるに決まってるという「思い込み」のみで、昨日一日を突っ走った、という印象だ。
一方の債券サイドは、銀行債スプレッドは縮小したけど、全体としての反応はいささかクール。例によってウジウジと重箱の隅つついて「でも、どんなプライスになるのか、まだわかんないし~」とか「参加者がそんなに沢山集まるかもわかんないし~」とか「ローンの具体的な条件見るまでは何ともいえない~」とか、ともかくダウンサイドリスクばかりを気にしてて、まだまだ警戒心を解いてはいない様子。
ま、たしかに、この手の案は、骨子や概略がどんなに立派でも、いざエグゼキューション(実行)の段階になると鳴かず飛ばずになることは往々にしてあるので、「プライシング」と「エグゼキューション」という2大要素に高い不確実性を残している現時点では、この不良資産処理案の成功について安心するのは、スペキュレーションの域を出ないですね。
一夜あけた今朝は、ちょっと頭冷えたみたいで、今朝のダウは下がってる。
★ ★ ★
とはいえ、ガイトナー案は、投資家側の視点に立つと、かなりポジティブな内容ではあった。
2月11日付けのMHJ記事(「政府主導による市場メカニズム」の矛盾)で、筆者は、ガイトナーが先月10日の発表直後のインタビューで「プットオプションを用意する気はない」とコメントしたことが引っ掛かかる、と書いた。投資リスクを丸投げされても民間資金はなかなかその気にならないから、民間資金を呼び込むつもりというのなら、政府からなんらかのプットを提供してリスクヘッジのお手伝いをしてあげる必要がある、とも書いた。
で、今回のガイトナーの発表内容見てみたら、その「プット」があれこれ明示されていた。
たとえば、民間キャピタル$1ごとに政府が$1マッチする形をとり、政府は単なる資金の提供者としてだけではなくエクイティインベスターとしても参加するようだ。つまり、この買取り資産から損失が発生したとき最初に損失がヒットするエクイティ部分に国も半分参加することで、投資家が被る損失を制限してやる(=プット)効果がある。
また、銀行のバランスシートから不良化されたローン資産を買い取る際の資金には最高50%までのFDICの保証をつけることにより資金調達がより安価で可能になる。もし買取り資産の価値が予想以上に下落した場合、資金を調達した民間会社は高レバレッジ維持が困難になるが、そのリスクも国が負ってくれる(=プット)格好になる。
また連銀がノンリコースローンを駆使して投資家のリスクを限定するフィーチャーとかもありそうだ。
財務省が出したリリースをザッと斜め読みしただけなので理解不足だが、民間キャピタルにとっては、政府が資金流動性を確保してくれるうえに、損失シェアリングもやりましょう、ってことなので、これはなかなかのグッドディールじゃないか、という印象を持った。
しかし、この案は、基本的に【買い手(投資家)】側の面倒しかみてくれない案ですね。
なんだかんだ言っても、肝心の「プライス」がどうなるか、これがいまだに、一番のネックであることに変わりはないよなぁ・・・。
これも2月11日付けの記事にかいたように、買い手側の問題は、資金の流動性とロスを限定するプットオプションを提供することで集めてくることはできる。
だが、【売り手】にあたる金融機関の方は、売却価格のディスカウントの深さ次第では、逆に自己資本を傷つけてしまい、公的資金返済シナリオが遠のく。そこまで投資としてのアップサイドが高い資産なのなら、何故いまいま投げ売りする必要があるかという計算も働くだろうし。
昨日の午後、ゴールドマンが中国の銀行ICBCの持分を一部売却し、それを公的資金早期返済に充てるのではというニュースがWSJで流れ、GS株が急騰した。GSのように売却できる資産を持っている場合はいいけれど、そうじゃなければ、無理な資産売却は自己資本と営業基盤をかえって弱める場合もありますしね。
銀行側としてできることは当面、融資+投資資産のリスク量と、自己資本額を交互に見比べながら、政府プログラムに参加してオフバラすべきか、別の手段でリスク軽減図ろうかと、何がいちばん効率がいいかを見極めるために、銀行側は慎重になるのではなかろうか。売り手側の金融機関が果たして、ガイトナー案に率先して参加してくるかは、まだピンとこない。
それに、過去にCDOとして証券化されたToxic Assetsも買取り対象に含まれたようだけど(購入時にAAAだったトランシェのみ)、これ、政府が買い取ったとたんに、参照価格がひとつ生まれるわけですよね。でも、政府からの資金援助を受けられない小規模の投資家の場合は、調達側は高止まりしているわけだし、その参照価格に近いところで同じトリプルA格付けを付されてる証券の売買に買い手として積極関与するのは困難、とも、なんとなく思うんだよなあ。
国が関わったというだけで一部の証券だけが優遇されて、その他大勢も含めた一般のマーケットプライスから極端に外れたところでプライシングされると、市場全体としてみると、かえっていびつになるんではなかろうかという不安もあるんだけど・・・わたしの考えすぎでしょうか。
プライシングの問題・・・どうなるのだろう。
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2 comments:
いつも拝見させていただいております。プライシングの件は本石町さんがコメントしています。
http://hongokucho.exblog.jp/10580731/
米国が日本的な談合を導入すればプライシングの問題は無くなるでしょう。
takaさん、コメントありがとうございます。本石町さんのサイト、拝見しました。残念ながら、クレジット市場がでか過ぎるということに加え、いったん買い取ったものは、パブリックに出て行って再び売買される前提ですから、談合(飛ばし)はリアリティがありません。本石町さんがおっしゃってる発想は、わたしが2月23日付けのMHJ記事で言及したグリーンスパンの発言と同じです。
http://wholekernel.blogspot.com/2009/02/ny4.html
引き取って長いこと塩漬けにしておくならともかく、ふたたびセカンダリー市場に持っていって他の証券と同じテーブルに乗せて売りさばかなくてはならないのですから、談合方式では、市場に持っていったときの二次損失のリスク(エクイティポーションに50/50で参加する投資家の負担+国民負担)が大きすぎます。
そもそも、このプログラムの目的は「不良資産をバランスシートから切り離す」だけではなく「凍結しているセカンダリー市場の流動化を促す」ことに重きがおかれているのですから、セカンダリー市場のプライシングを無視することはできません。
日本のかつての不良債権処理の場合も、同様に「買取りの際にどうやってプライシングするか」でもめて、大変な思いをしたのです。キャッシュフローで現在価値に戻すなどいろいろ検討しましたが、その度に市場プライスという壁にぶつかったのです。談合に慣れてる日本ですら、プライシングの問題には頭を痛めたのです。
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