Monday, March 30, 2009

グリーンスパンのじっちゃま、隠居渋る


80歳を超えて現役スターの座を守るのは、簡単なことではない。

グリーンスパン元連銀議長、83歳で、いまだにシッカリ健在である。3月6日生まれの魚座。

金融のマエストロ。

さすがである。

だが筆者としては、2月23日のMHJ記事(新聞買おうか、株を買おうか:NYタイムズ株4ドル割れ)でも言いましたけど、グリーンスパンのじっちゃまには、そろそろ引退してもらいたい。

だって、言ってること、変なんだもん。

週末の英フィナンシャル・タイムズ紙に、グリーンスパンの寄稿論文が掲載された。(全文はここ。)

マエストロの見解では、現在の株価は「グローバルで安い(Cheap)」そうである。そして、安い理由の大半は、みんながビクビクしてるから、らしいんである。だから、みんながビクビクしなくなれば株価は上がる、そういうロジックの論文なんである。

以下は、FTに掲載された彼の論文から――。


“A recovery of the equity market, driven largely by a receding of fear, may well
be a seminal turning point of the crisis. The key issue is when. Certainly by any historical measure, world stock prices are cheap, even after the recent run-up. But as
history also counsels, they may or may not get a lot cheaper before they
decisively return to more normal levels. What is undeniable is that stock market
prices today are being suppressed by a degree of fear not experienced since the
early 20th century (1907 and 1932 come to mind). But history tells us that there
is a limit to how deep, and for how long, fear can paralyse market participants.
The pace of economic deterioration cannot persist indefinitely.

『ひとびとが抱いている恐怖感が和らぐことで、エクイティ市場の回復はもたらされるであろうし、金融危機のターニングポイントになる可能性が高い。重要なのは、それがいつか、ということだ。歴史的に見て、現在の世界の株価水準は、ここ数週間の上昇を経た後でも、まだ安いしかし、正常なレベルに確実に回復する前に、株価はもっと安くなるかもしれないし、ならないかもしれない。それも歴史が示してくれている。否定できない点は、今日(こんにち)の株価は20世紀初頭に世界が経験した(1907年や1932年の状況が思い浮かぶだろう)のと同程度の恐怖感によって抑圧されている、ということだ。だが、恐怖感が市場参加者をどこまで深刻にどこまで長期間麻痺させ続けることができるかには限界がある、というのも歴史を見ればわかることだ。経済悪化のペースが永久に続くことは、ありえないのだ。』 (MHJによる拙訳)

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もちろん、「ありえない」のはわかってますけど、果たして「安い」って言い切れるのか、そこは激しくクエスチョンマークなんじゃないの?

グリーンスパンの頭にあるのは、昔ながらの、歴史的データに依存する株価のバリュエーションのようだけれど、株のバリュエーションなんてのは、こういう異様なハイボラティリティが続く局面では、まったく無意味だと思いますけど

以前、オバマ大統領もPERで判断すれば株はいまこそ買い時、と言ってましたが(3月4日のMHJ記事参照)、PER(株価収益率)も古典的なバリュエーション手法のひとつの例。

オバマが「買い時」と言ってからまもなく株価は確かに上昇したから、オバマ君のセールスマンとしての「センス」は認めますが、PERで見て極端に安くなってるとマジに信じて買いに入った長期投資家が、ここ数週間のラリーでどれだけいたんだ、ってことよ、わたしが言いたいのは。

2002年から2007年にかけて顕著だったクレジット市場の異常なボリューム拡大とクレジットスプレッドの急激な縮小は、グリーンスパンのいう「20世紀初頭の株式市場」には、存在しなかった現象なんだ。金融工学の進歩によって「リスクを移転する理論とテクノロジー」が90年代後半に急激に広まって、あげくの果てが、AIGのていたらく、なんだから。

急激な信用収縮が一般の企業収益にとって何を意味するかというと、企業側も、調達コストの上昇をなんらかの形で顧客に転嫁できなければ当期利益は縮小する、ということ。PERの分母にあたる“E”(Earnings)は、シクリカルなインパクトだけじゃなくて、構造変化のインパクトも受けることになる。だって、この金融危機で、資金市場は、いやおう無しに【構造変化】を迎えるんだもん。つまり、一般企業の“E”だって、データとしては断絶するし、キャッシュフローは不恰好になる、という意味さ。

いま、みせかけの「安価なクレジット」が膨大な量のCDS契約の解消とともに「巻き戻し」を始めてるわけだが、どこまで巻き戻されればマネーフローが実態を反映した「正常」に戻るのか、この資金市場の構造変化が、企業収益にどう影響及ぼすのかも、いまの段階では、よく分からん。

今日のゼネラルモーターズ(GM)をめぐる動きとともに、シニアクラスの企業債も、エクイティと似たり寄ったりの損失を被ることが確認されて、クレジット市場の投資家心理はふたたび冷え込んできているからね。

グリーンスパンが執着してる「ヒストリカルに見れば安い」なんつー古臭いバリュエーションには、もう根拠がないのさ。

   ★   ★   ★

先週26日のMHJ記事に、筆者は「1ヶ月の間に200から1000という極端な幅でセンチメントが揺れ動くというのは、市場に確固たるファンダメンタルズのサポートがない証拠。金融セクター以外に株高の材料求めてるけど、金融セクターが弱いままで実体経済だけ持ち上がることなんて、ない。」と書いたけど、今日、モルガンスタンレーのストラテジストが、これと同じことを言ってた。


“We see a lack of fundamental support outside the financial sector, where
there is now a fast-growing belief that policy action and bank guarantees may
have finally backstopped the downside,”

『政府のアクションと銀行に出されるギャランティで、ついにダウンサイドに歯止めがかかるという思い込みが急速に広がっているが、金融セクターの外側に、それをサポートするファンダメンタルズが欠如している。』


(ブルームバーグの記事:http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601087&sid=aCEfLp6MMols&refer=home から引用)


このMSのストラテジストは、投資家は【カラー(Collar)】ポジション(インデックスのコールを売ってプットを買う)を考慮せよ、と勧めているけど、これって、いま筆者が自分のへそくりでチマチマお小遣い稼ぎやってるポジションだ。いまみたいにファンダメンタルズのサポートがないときは、方向感が失われやすく、市場のボラティリティは速く大きくなるんだから、上がっても、下がっても、どちらでもプロフィットを産むようなポジションを作っておくのがいいよね。いまは、投資ホライゾンがよほど遠くにある場合は除き、売るも買うも、超短期のスペキュレーションで動いてるんだから。

   ★   ★   ★

ファンダメンタルズのサポートがないときに、しかも、近年まれなスケールで資金市場が「構造変化」をくぐっている最中に、「歴史的なバリュエーションでみて安い」もへったくれも、ない。

じっちゃま・・・どんどん市場から、Out of Touch になってゆく・・・。

でも、じっちゃま本人は「米国金融市場のマエストロ」という役割を放棄する気はさらさらなく、3月11日付けのウォールストリートジャーナルに、『ハウジング・バブルは連銀のせいじゃないも~~~ん』と主張した論文を載せ、現役ぶりをアピールし、話題になった。

そのお返しとして、3月27日付けのウォールストリートジャーナルは、

『ハウジングバブルを引き起こしたのは連銀か否か?』
Did the Fed Cause the Housing Bubble?
http://online.wsj.com/article/SB123811225716453243.html

と題する紙面シンポジウムを開き、YesとNo両方の識者を集めて、あーだこーだ言っていた。

この命題に対する答えとして筆者は、「Out of Touchのマエストロがスターの座から引退するのを拒んだから」と言いたい。

★   ★   ★

2004年10月20日のウォールストリートジャーナルに、こんな記事が載った。


Greenspan Plays Down Fear of Housing Bubble

(October 20, 2004) --
Federal Reserve Chairman Alan Greenspan once again shrugged off concerns about a
housing bubble, maintaining that "a national severe price distortion seems most
unlikely in the United States, given its size and diversity."

The nation's top economist, speaking before a recent meeting of
America's Community Bankers, says he's not worried about speculative buying
because most of that activity is tied to second homes and rentals, which account
for only a fraction of overall mortgage origination.

He also says he believes most homeowners have enough equity to handle
record debt loads and withstand moderate regional declines in property prices.

"To be sure, some households are stretched to their limits, but the vast
majority appear to be able to calibrate their borrowing and spending to minimize
financial difficulties," Greenspan remarked.

According to a recent report from Goldman Sachs, housing is overpriced by
nearly 10 percent. Excess supply and speculation on the part of homebuyers
remain reasons for concern.

Source: Wall Street Journal (10/20/04)


グリーンスパン「ハウジング・バブルに対する懸念は無用」

(ウォールストリートジャーナル:2004年10月20日)グリーンスパン連銀議長は、ハウジングバブルへの懸念が高まっていることについて、またもや、それを否定した。議長は、米国の住宅市場が巨大かつ種類も多岐に渡っている点を挙げ、米国全体の住宅価格が極端に歪む可能性は極めて低いという従来の立場を崩さなかった。

米国トップのエコノミストである同氏は、全米コミュニティバンカーズの集会で講演し、投機的な住宅投資については心配していない、投機的な動きはセカンドホームと賃貸物件に集中しており、モルゲージローンのオリジネーション全体から見るとほんの一部に過ぎないから、と述べた。

さらに同氏は、米国人の借入額が記録的に高くなっていることについて、アメリカのホームオーナーズのほとんどが高い借入額をハンドルするに充分なエクイティ(←<注>住宅の市場価格と借入額の差を指す)を持っており、地域的な住宅価格の値下がりが生じても対処できるはず、と述べた。

同氏は「確かに、ホームオーナー達の中には一部には限度を超えるような借入をしている人たちもいるにはいるが、ほとんどのホームオーナー達は金銭的な困難が生じても、借り入れと消費をうまくやってゆく能力があるように見受けられる。」とも述べた。

ゴールドマンサックス社が最近発行したレポートによると、アメリカの住宅価格は適正価格を10%上回っており、過度な住宅供給と住宅購入者によるスペキュレーションに懸念が生じている、という。(MHJによる拙訳)

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5年近くも前の古い記事であるが、この時からすでに、マエストロは Out of Touch であったことがよくわかる。じっちゃま、ここらで隠居してればよかったのに。

でも、「マエストロ」ですから。

いや、実際、「住宅融資が延滞してる」ってだけの話だったら、こんなことにはならなかったと、筆者も思う。

グリーンスパンが議長時代に経験した90年代初頭の銀行危機のときは、「融資が不良化して銀行の資本金がなくなった」という、極めてシンプルな、バランスシート危機だった。今回だって、その程度の問題だったなら、どの銀行だって、自前のキャピタルで損失吸収は可能だったと私も思う。

でも、問題は、融資が焦げ付きました、なんつー単純な話じゃないんだよね。

そうやってオリジネートされた住宅融資を「原資産」にして債券として作り変える「証券化」の動きが急成長し、さらに、その証券化商品をさらに何重にも証券化するという複雑なデリバティブスも出現して、そこにヘッジファンドらがたかりまくり、レバレッジがかかるにいいだけかかっちゃった、なのに、その異常なレバレッジに対して誰もキャピタル用意してなかった、ってのが問題なんである。で、それに対して、CDSがガンガン出されてる。

AIGのように「トリプルAついてればゴミでも何でも引き受けまっせ~~~!」と鼻の穴膨らましてホイホイとCDS書いてリスク取ってくれる保険会社が次々と出現したおかげで、2004年、05年、06年と、住宅融資を原資産とする証券化デリバティブス市場は、怒涛の勢いで拡大した。

でも、証券化でドンドコノリノリやってたのは「住宅ローン」だけじゃなかったんであるよ・・・。

つい数日前のニュースで、すっごく怖いグラフを見た。

【商業用不動産の延滞動向】である・・・これも証券化されてんだよ・・・ガクガク、ブルブル・・・。



どうすんのさ、これ・・・。マエストロに相談しろ?冗談いわんといて。


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