メディアは一揆ネタを提供するのに余念がない、とは前回のMHJ記事で書いたが、中でもCNNは、この騒ぎの中心に陣取って、煽るにいいだけ煽っていた、その張本人だったんだよ。
そのCNNが、日曜日になったら、急に態度を改めちゃって、
「確かにAIGに問題はある。しかし、メディアが民衆の怒りに油を注ぐような真似しちゃいけないですよ、ねぇ?」
とか、まるでヒトゴトのように、やたら殊勝なこと言っちゃってんである。
CNNのこのトーンダウンぶり。絶対に、昨日か一昨日、政府側からCNN本社のトップに文句入ったな。電話での声はあくまで明るく、しかし、「オメー達のせいで、Toxic Assetsの売却に支障が出たら、どうなるかわかってんだろーな」という内容で、ヤンワリ言われたんじゃないのかな。
2月11日のMHJ記事(「政府主導による市場メカニズム」の矛盾)で、筆者は、ガイトナーのToxic Assetsの処理案てのは、
『給料高過ぎると難癖つけた相手をアドバイザーとしてこきつかい、通称「ハゲタカ」(政界関係者が好む別名「庶民の敵」、「GREEDの代表」)と呼ばれてるディストレス(不良化した資産買取り)専門のプライベート・エクイティの力を借りないと一歩も先に進まない』
そういう案だと書いた。ウォール街は、政府の不良資産買取りプログラムの成功にとって、頼みの綱。
ところが、この数週間の政界とメディアの馬鹿騒ぎ(および、それにマンマ乗せられて、ウォール街近くのAIG本社の前でプラカード掲げてピケ張って騒いでるヒマな大衆)をここまでシツコク見せつけられたら、ウォール街関係者達は、
「政府が用意するカネに関わったが最後、議会とメディアの追求にあって火あぶりにされるのがオチ、そんなアホらしいことにわざわざ付き合ってられっかよ・・・」
というのが本音のところでありましょう。政府はそれじゃ困っちゃう。
CNNは金曜日も深夜までボーナスの件でギャーギャー騒いでたくせに、週末は手のひら返したように態度改め。
バレバレなんだよ、っつの。
ということで、今週の米市場はアホなボーナス問題から離れ、政府の官民共同不良資産買取りプログラムP.P.I.P.(Public-Private Investment Program)、そして、その資金源T.A.L.F.が、具体的にどう作用するかという重要な話に主眼が移る。
しかし、その「CNN殊勝に態度改めます番組」に出演していたビジネス担当の女性キャスターは、
「でも、AIGほか金融機関たちは今後も、情報の透明性(Transparency)をもっと改善すべきじゃないのかしらッ!」
と、あくまで食い下がった。
先週金曜日、NY時間の午前、ゴールドマンのCFOがコンファレンスコールを開き、AIGが公的援助を受けた後に多額のキャッシュをAIGからGSに支払った件につき市場関係者向けに説明した。
このCNNのキャスターは、その話を持ち出して、
「金曜付けのニューヨークタイムズにゴールドマンサックスが述べた内容が記事で紹介されてるけど、いい?その部分を読むわよ。(実際に新聞の記事の一部を声に出して読む) どぉ?このゴールドマン側の説明があなたに理解できる?わたしには、さっぱり理解できないわ!こんなの英語じゃない!透明性に問題があるのよッ!」
とヒステリックに叫んだ。(CNNの女性キャスターが音読したNYT記事は、ここ。)
「さっぱり理解できない」か・・・なのに取材させられて、さぞかしイライラしながら取材してるんだろうな、彼女・・・。
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だが、あのコンファレンスコールを聞いて、理解できたひともいるわけでして。
CNNの女性キャスターが理解できなかった理由は、おそらく彼女が債券やクレジットの知識がないのが原因で、「情報開示が悪い、透明性が低い」というのとはまた別の話じゃないかと筆者は思う。
基本的な知識が欠けてる相手に、詳細な内部情報を渡したからとて、どの道、理解できるはずがない。
今週以降、いよいよ、問題のToxic Assets(不良資産)のバランスシートからの切り離しが始まろうとしているが、これは100%債券の世界の話。
対象となる資産は「AAAの格付けが付された証券化債券」で、売り手は不良資産を抱えてしまった金融機関、買い取る側は民間投資家、買い取るための資金は連銀が用意するT.A.L.F.(Term Asset-Backed Securities Loan Facility)資金。民間が資金を提供したら、FDIC預金保険機構が、民間の資金提供者に対し保証を出す。
この証券化債券を買った投資家は、セカンダリー市場でフツウに取引し、売れたら連銀に借りた資金をお返しし、儲けは投資家のフトコロに。こうした流れを作ることで、低迷している証券化市場にカツ入れようとしてるんですな。
債券、クレジット、CDSなどの基本的知識をほんの少し齧っておくだけで、これから起ころうとしていることが理解しやすくなると思うので、クレジットの世界に長年籍を置いたひとりとして、ごくサワリの知識だけだが、紹介したい。
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AIGの件で死ぬほど登場した、クレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap、略してCDS)だが、そもそも、CDSとは何か。
CDSをザックリ説明したサイトは結構ある。たとえば日本語のウィキペディアのCDSの項を参考にする手もあるが、あそこまでザックリしすぎると、かえってわからなくなるもんですね(笑)。
CDSがクレジット市場の取引で実際どう使われてるかの「実務偏」基本情報は、債券運用世界最大手のピムコ社のサイトのここが、どこよりうまくまとまっているので、参考にされたい。
しかし、世の中には、ピムコのサイトを読んでもチンプンカンプンというひとの方が少なくないだろうし、CNNの女性キャスターみたいにヒステリー起こされてもかなわないんで、MHJでは“小学生向け”に説明することにする。わかってるひとは飛ばしてください。
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本題に入る前に、「債券」という証券について押さえておきたい。いっぱんになじみの深い株式と決定的に異なる点は、債券というのは、青天井で儲かる種類の投資ではない、ということだ。
株式なら、うまくいけば、元手の投資金額を何倍、何十倍、何百倍にすることだってできる。持とうと思えば20年だって30年だって、その会社が存在する限り持ち続けることもできる。一攫千金の可能性あり、夢いっぱいの投資だ。
しかし、債券というのは、(1)いくらの金額を(=額面)、(2)いくらの金利で(=クーポン)、(3)どれくらいの期間持つか(=償還期日)、という条件があらかじめ決まっていて、期間が過ぎれば、もっと持っていたくても、償還されてしまう。しかも、償還されるときに手元に戻ってくるカネは額面以上にならないんだから、夢のない世界なんです。
しかし、そんな夢のない証券も、日々、金融街でトレードされていている。たとえば期間10年という条件がついた債券を買っても、10年間ジーと償還期日が来るのを待ってる必要はない。債券にも、中古(?)の債券を売買する巨大なセカンダリー市場が存在する。債券市場の規模は株式市場とは比べ物にならないほど巨大なマーケットで、そこは1%の100分の1(1 basis point=1ベーシスポイント)という金利の小刻みな動きに一喜一憂し、リスクが上がった下がったとわめいているプロの投資家集団のたまり場。
だが、ひとことで「債券」と言っても、国債、社債、スワップ、証券化商品、などなど、債券の種類もたくさんあって、それぞれが極めて専門性が高いために、棲み分けがハッキリしており、国債関係者が証券化商品の取引にも関わるということは、まずない。それぞれの分野で、何がリスク量を左右するかがまったく異なるからだ。
(余談だが、筆者は現役中に株式サイドも債券サイドも両方経験したが、ハッキリ言って、債券サイドってのは、四六時中ウジウジとダウンサイドのリスクのことばっか考えているせいか、懐疑的で性格暗く、重箱の隅つついて一人ニタニタしてるオタクみたいなひとが多い。その点、株式サイドは、アップサイドに夢を抱いていられるせいか、打たれ強くて能天気、実はあまり深く考えてないんだが知ったかぶりは得意、みたいなひとが多い、という印象である。)
さて、社債投資であるが、あなたの手元にいま100万円の現金があるとしよう。ある会社があなたの100万円を借りたいと思っていて、10%の金利払いますから1年間貸して欲しいと言う。あなたは、額面100万円の債券を金利10%で額面と同じ100万円で買うのに合意したとしよう。債券というのは貸す側と借りる側とで結んだ「契約」なんである。
ところがその1年後、この会社が事業に失敗し、払うと言ってた10%の金利と元本を払う余裕がなくなった。
あなたが一年前に債券と引き換えに貸した100万円がどうなるかというと、この会社は、他のひとから新たに別の100万円借りてきて、約束した金利も付けて、あなたに返そうとする。契約どおり返してもらったら、あなたはハッピー。しかし、新たに100万円貸してくれた相手は、10%じゃ足りない、15%の金利付けろ、と言う。
同じ会社が同じ100万円借りるにも、支払う金利は高くなっちゃった・・・。だって、この会社、事業に失敗したんだもん。つまり、この会社の信用力は落ちてしまった。信用力が落ちると、高い金利を支払わされる。貸す側は相手が信用できない分、高い金利を請求し、取りっぱぐれるリスクを回避しようとする。取りっぱぐれる、すなわち、デフォルト(債務不履行)起こされたら困りますんで。
つまり、これが「信用リスク」、「クレジット・リスク」という概念である。
この信用リスクという【概念】に具体的に値段を付けて取引する市場、それがクレジット市場である。
(続く)
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