Friday, December 31, 2010

【年末備忘録】今年最後の暗い話特集

ニューヨークも、まもなく2010年を終えようとしています。

ブログ更新をサボり気味だった今年を反省し、大晦日の今日、カウントダウンの前に、あえて最後のエントリーに挑戦することにしました!

(と言っても、来年も注目すべき話題をいくつか備忘録としてまとめておいて、年があけてから、それぞれゆっくり考えよう、という魂胆です。笑)

(話題1)米株市場は来年も上がり続けるか?

前回のMHJにも書いたように、2010年には経済回復が明らかに進行したが、これが2011年も継続できるかどうか(Sustainableか)が注目ですね。

米株ファンドのマネージャー達は、なかなか強気な様子です。リーマンショック後の暴落の記憶が生生しすぎて、一昨年も去年も回復ストーリーを信じることができずに負けた人が少なくなかったので、来年は同じ間違いはしないぞ!と腕まくりらしいです。

<注目記事> Stock fund investors bank on 2011 (Market Watch, 12/31/10)

  • 米国の分散型株ファンドは2010年は19%アップ、とりわけ第4四半期の12%アップで大躍進。
  • SP500の15%アップ、ダウの14%アップを超えた。
  • 海外株ファンドは年14%アップ、第4四半期は7.4%アップに留まり、米株ファンドの好調さが目立った。
  • “We avoided sliding into the abyss. While the economy is still weak, Corporate America is in pretty good shape.”(深みにはまることは回避できた。経済はまだ弱いが、米の企業セクターは非常に調子がいい。)
  • …markets are volatile by nature, and so the real story of 2010 is that many investors missed the rally — again. More than $81 billion exited U.S. stock mutual funds in 2010 than came into them.((第2四半期は株価は13%も下降したが)市場というものはそもそもがボラが高いのが当たり前なのだ。2010年の話としてで覚えておくべきは、多くの投資家が2009年に続き「またもや」株のラリーを逃した、というポイントだ。今年、米国株ミューチュアルファンドからは、流入した額より$81billion(810億ドル)も多く流出したのである。)
  • … fund investors will have to live in the momentum. 2011 marks Year 3 of the four-year U.S. presidential cycle, and a president’s third year typically has been a winner for stocks. It’s also the third year of the bull market that began in March 2009, and every bull market since 1949 has seen a third year, according to S&P. (ファンドの投資家はモメンタムに乗らなければ始まらない。2011年は大統領任期の3年目にあたり、この3年目というのはたいがい株価にとっては勝ち年になる。また、2011年は2009年3月に始まったブル市場の3年目にもあたり、1949年以来、どのブルマーケットも、必ず3年間ブルが続いたのだ。)

と、まぁ、「大統領3年目はブルだ!」とかいう、ほとんど【おみくじ占い】のような予想話(笑)されてもこっちは困るわけだが、2011年も、経済指標が出される度に一喜一憂する年になりそうです。



(話題2)2013年以降PIIGS国債の債務リストラは現実になるか?

今年は年初から年末までソブリン・リスクにつきまとわれた年でありました。欧州当局とIMFとでまとめた超大型救済パッケージが用意されたにも関わらず、市場は落ち着くどころかそのバックストップ(Backstop=いざと言う時のための準備)を鼻でせせら笑い、ソブリンCDSは夏以降に再びワイドニング基調に入った。ギリシャなんて、今や10年対独スプレッドも960bpsまで行ってしまい、民間資金への独自アクセスはほぼ不可能な状態が続いている。

そんな中、年末に出てきた、この話。EU/IMFに返済期限延長を求めたギリシャが、EU/IMFのみならず、商業銀行や海外ファンドから借りた民間への債務に対しても返済期間延長を求めているらしいのだ。

<注目記事> Greece in talks on extending debt repayment: source (Reuters, 12/31/10)


  • EU/IMFの救済資金(€110billion)の期限は2013年、その期限が切れたら、高債務を患う国は債務リストラを余儀なくされるのではという懸念が市場を去らない。
  • ギリシャの債務の70%が海外筋のポートフォリオに保有されている。
  • ECBのヴァイス・プレジデントであるルカス・パパデモス氏が最近、ベルリン、フランクフルト、ロンドン、ブリュッセルを走り回っている、との情報を地元紙が入手。
  • 2013年から2015年に償還がくるペーパーを中心に、10年から最高30年までの返済期間延長のお願いではないか、と。
  • ギリシャは2021年までに€110billionのEU/IMF救済ローンの返済を行わなくてはならないそう。期間延長により経済回復の時間稼ぎで市場に安心感を与えるのが関係者の狙い。
  • ギリシャのGDP対比債務は2011年に152.6%(€348bn)になる。

そんな混乱続くユーロ圏に、1月1日から正式にエストニアが加盟。

クルーグマン氏が自身のブログに短いエントリーを載せています。

<関連記事> Congratulations to Estonia — or Maybe Condolences? (NYT, 12/31/10)

「エストニアよ、おめでとう――いや、お悔やみ申し上げますというべきか?」という記事タイトルだけで、中身はおわかりでしょう。


(話題3)米の住宅価格はまだ下がる?

まずは金利市場の話から。

<注目記事> Bonds' dramatic year sets stage for higher rates (AP, 12/31/10)

米国の金利状況については、いろいろ言われておりますが、上記記事のように、来年はトレジャリー・イールドは上昇するという見方は多いかと思います。ひとつは株市場と同じ「景気回復が本格化する」という見方、そして、「インフレ懸念が台頭する」という見方、いろいろあり。

ただし、拙ブログでも何度も書いてきたことでありますが、個人も、企業も、おカネは結構持っており、その資金が金融機関に回って国債買いにつながるという流れは、年が変わったからとて、そんなに急激に変化するものなのか。そこらへんについては、住宅と雇用の両面がまだまだ心もとないことから、筆者は株式サイドが考えているように単純な図式にはならないのでは・・・と感じています。ここらへんについては、筆者もよく読ませてもらっている、ブログ『金融市場Watch Weblog』のエントリー『2011年のマーケットを考える(2)』を一読されることをおススメします。

で、住宅市場のほうなのだが、米国の住宅価格はまだ20%は下がるだろうという暗い記事を読んだ。

<注目記事> Home Prices Are Still Too High (WSJ, 12/30/10)



以下引用:

In January 1998 the 10-City Index was at 82.7. If home prices had followed the 3.35% annual 100 year trend line, then the index would have arrived at 126.7 in October 2010. This week, Case-Shiller announced that figure to be 159.0. This would suggest that the index would need to decline an additional 20.3% from current levels just to get back to the trend line.
(1998年1月には10都市のインデックスは82.7だった。もし住宅価格が過去100年のトレンドラインどおり年率3.35%の成長だったら、2010年10月には同インデックスは126.7になるはずだ。今週出されてきたケース・シラーによると、10月の指数は159。トレンドラインに回帰するだけでも、現在の水準からまだ20.3%下落する必要がある、という意味だ。)

With a bleak economic prospect stretching far out into the future, I feel that a 10% dip below the 100-year trend line is a reasonable expectation within the next five years, particularly if mortgage rates rise to more typical levels of 6%. That would put the index at 114.02, or prices 28.3% below where we are now. Even a 5% dip would put us at 120.36, or 24.32% below current prices. If rates stay low, price dips may be less severe, but inflation will be higher.
(経済回復の見込みがまだよく見えていないことを考えると、住宅価格が100年のトレンドラインを向こう5年で10%下回るというシナリオはさほど無茶苦茶な話とも思えない。特に、住宅ローン金利が従来の典型的な水準である6%に上昇するとしたら、十分有り得る。住宅融資金利が6%になった場合、インデックスは114.02と試算され、それは現水準より28.3%下落を意味する。たとえトレンドラインを5%下回るとした場合でも、インデックスは120.36(現水準より24.32%下落)になる。もし、住宅融資で低金利が継続すれば、落ち込みは緩やかになるが、高インフレに繋がるだろう。)(引用終わり)

 「来年はオバマ3年目だーい!」とウキウキ踊ってる連中の顔に冷や水ぶっかけるような話ではある。(笑)

実際、住宅融資の世界では、

  1. オリジネーションの9割がいまだにGSE保証に依存している状態が続いていて、商品市場と株式市場にはリスク資金が流れ込んだ一方で、住宅リスクを取ろうという民間資金はほぼ不在の状態
  2. 第3四半期のフォークロージャ件数は第2四半期対比で30%以上の大幅増加でサプライは減少せず
  3. 米都市部20地域の10月の住宅価格は20地域すべてで低下、多くの地域で2006年のピーク以来底値更新が続いている。


それが、米住宅市場の実態である。

これはMHJ筆者が感じるところだが、議会のフォーカスが住宅問題から税金問題に移り、住宅市場をなんとかしようという「政治的意思(Political Will)」が目だって衰退していったのも、2010年の米政界の特徴だったように思う。



(話題4) 米国の高失業率は改善するのか?

米失業率は一進一退で10%に手が届きそうなあたりをウロウロしているが、失業期間のデュレーションが伸びている。いったん失業すると、復職できない人が増えているんである。

そこにこんなニュース。

<注目記事> Five years without work? Labor department will now track it (NBC News, 12/29/10)


  • 米労働統計局はこれまで失業期間2年までの統計を記録してきたが、2011年からは失業期間5年までを統計対象とする、と発表した。
  • 最近のデータでは、新しい仕事がみつかるまでの平均的な失業期間の長さは33.8週間(約7ヶ月)だったのだが、この期間は延びる一方。
  • また年齢の高い労働者ほど、期間が長くなる傾向がある。
  • さらに、最高99週まで出される失業保険を使い果たしてしまった労働者――彼らはナインティナイナーズ(99ers)と呼ばれる――の状況はさらに苦しく、99週間以上も失業してしまったら、まず職は見つからない。
  • 政府がいまからわざわざ統計対象の失業期間を2年から5年に延長するぐらい、現失業者の復職の見通しは立ってないということか。


これを聞いて、トホホ・・・と思ってたら、さらにこんなニュースが。

<注目記事>10,000 Boomers a Day Need Jobs (AP, 12/27/10)

2011年1月1日より米国では毎日1万人づつ65歳を迎えるというのである。べービーブーマーが定年退職の年齢に入るためで、これは向こう19年間も続くらしいんである。

バブル絶頂期には「ベビーブーマー需要」とかいって、ブーマーは退職後もおカネをガンガン使うという薔薇色シナリオに関係者は自分の頬も薔薇色に染めて期待していた。ところが、それもバブルと一緒にガラガラと崩れ落ち、彼らはおカネ使うどころか、退職に備えた準備が足りていないから65歳以降も働かなくちゃ食っていかれへん、というんである。


  • 1980年には民間セクターの39%が退職後に定額のペイアウトが保証された年金を有していたが、現在はその数字は15%に満たない。
  • ブーマーの42%が401(K)プランを持っているが、株式へのアロケーション比率が一般に高く、過去10年間S&P500は全然伸びなかった。
  • 退職後の虎の子として自宅不動産を暖めてきたが、自宅バリューは約3分の2になってしまった。現在ホームオーナーの22%にあたる1100万人が、家の価値より借金額が多いアンダーウォーター組。
  • 55歳から64歳の層の51%が退職後は生活水準を下げなければならないというボストンカレッジの調査あり。
  • 貯蓄が足りない。1970年~80年には個人の貯蓄率は10%近かったが2007年にはマイナス1%に落ちた。
  • 50代、60代で401(k)プランを持っているグループも、2009年末時点で平均残高は15万ドル以下だった。
  • 55歳から64歳のグループの約3分の2が2007年に住宅ローン残高$85000(メディアン値)
  • 4人に3人が社会保障年金を受け取れる62歳に即座に受け取りを希望したため、将来の受け取りフローが少なくなる。
  • 55歳で処方薬を必要とする典型的な男性の場合、国が補償するメディケアと追加的保険に加入する場合、将来のメディカルコストとして$187000が必要。65歳女性の場合はさらに多く$213000必要。
  • 55歳以上の失業者の平均失業期間は45週間で、若い層より12週間長い。リセッションが始まった2007年12月には20週間だったので倍増以上したことに。
  • 2011年に65歳になるグループの40%が、「動けなくなるまで働くつもり」という調査。

「動けなくなるまで働きたい」と言っても、職がないんじゃよ、職が・・・



(話題5) 中国はどうなる?

今12月末に行われた中国の利上げは、彼の国のインフレ懸念が以前に増して強まっていることを示唆している。金利上昇は上記の米国のケースと同じく、中国不動産セクターに影響してくる話なので、2011年も中国経済の動向からは目が離せなくなりそう。それに、商品相場だってデマンドは中国、米国企業だってデマンドは中国ですんで。

2010年の初めは、米の経済回復が軌道に乗るかどうかがよく見えず、業務基盤が米国内に限定されるセクターは業績は期待できないけれども、成長高い海外での事業に強い米企業の業績には大いに期待できる、という話で持ちきりだった。

実際、マクドナルドだの、コカコーラだの、フェデックスだの、そこらへんの大企業はそのシナリオどおりに海外での売上げが業績好転に大きく貢献した2010年だったわけであります。で、その「海外の売上げ」と言う場合、多くは「中国およびアジア」の話をしてるわけなんである。

2011年についても、やはり同じような見方は存在していてあちこちで語られているのだが、2010年に語られていたストーリーラインで、2011年にも引き続き株価上昇をサポートするためには、中国経済の成長ぶりと米企業への利益貢献度が、2010年のそれを上回る「上方サプライズ」でも見せてくれないとね。だって、ある程度株価にもう織り込まれちゃってるわけだから、予定通り程度の成長でさらなる株価押し上げ要因になるのか?と思うわけである。

で、その中国ですが、あちこちでゴーストタウンがやたら出来てるらしいんだが・・・(参考:A Personal Tour Of China's Eerily Vacant Commercial Real Estate )


★    ★    ★

というわけで、年末の今日、2011年になっても引きずるであろう【暗い話】を特集してみました。

あと1時間ほどで、ニューヨークも年が明けます。これだけ暗い話ばっかしてて、ハッピーも何もないもんですが(笑)

★ HAPPY NEW YEAR!!! ★

今年は本当にお世話になりました。2011年も引き続き、Murray Hill Journalをよろしくお願いいたします。

Wednesday, December 29, 2010

リカバリーのモメンタムは継続するか

今日は12月29日。2010年も、あと二日で終わりです。今年もあっという間でした。

今年は、ブログ更新がサボり気味で反省。来年は、もっと書き溜めたい、と考えております。(ブログ更新はサボってますが、最近始めたフェースブックにチョコチョコ目に付く傍から記事などを貯めてます。そちらも、よろしければ、寄ってください。)

さて、今年のクリスマス直後のニューヨークは、数年ぶりの猛烈な雪嵐に見舞われ、JFKやニューアークなど近辺の主要空港は軒並み閉鎖。(写真は筆者のマンハッタン自宅付近で26日夜に撮影。)





連日、除雪車が繰り出しているものの、嵐から3日経った今日も、まだ道路脇は雪でグチャグチャのひどい有様である。大量の雪に弱い大都市の典型ニューヨーク市は、【雪かき要員】として昨日は700人、今日は1200人を臨時に雇い、日常生活の復旧に務めているが手間取っているらしい。

(動画は除雪車に引っ掛けられてズタズタにされる路上駐車の自家用車。撮影者のニューヨーカーFワード満載に注意。Hat Tip @gohsuket




それでも、クリスマスで貰ったプレゼントを「自分が本当に欲しい品物」と交換するために26日と27日にデパートに出かけてゆくという【全米年末のお約束行事】のために外出してた勇敢な人もいたようだが、ロイターによると、この週末は客足が例年の6.8%減少したとのこと。(当たり前。あの嵐で客足増えてたら、むしろ怖いだろw)しかし、売上げ自体は4%増加して、11月の強気のFedexの占いを裏切ることなく、今年の年末商戦はなかなか調子がよかったのである。


★    ★    ★

しかしね、消費者のみなさん、驚くほどお金を持ってるんですねー。

我が家なんかは、バブルの頃に調子こいて買い物ばっかして家中に不必要なものが溢れてしまった己の愚行を深く反省し、『モノがないのはいいことだ』を座右の銘に据え、以前なら衝動買いしてたようなものも、いまや買う前にしつこく品質・評判調査をし、本当に欲しい物なのか熟考に熟考を重ねて、価格もどこが一番安いかネットで調べ、グルーポンなども酷使して、徹底的に「家計ディフェンスモード」に入っているよ。

だが、我が家のように爪に火をともすような生活(笑)をしてる家庭はむしろ少数派らしく、アメリカ人の個人消費支出(Personal Consumption Expenditure)は、実際ズンズン上昇しているんである。(グラフはCalculated Riskから。)

(図1)



この第4四半期なんか、リセッションに入る寸前の07年の支出ピークを上回るほどの旺盛さなんである。

しかし、(1)米失業率は10%近くをウロウロしている、(2)政府からの住宅購入補助金がなくなった2010年は住宅価格は下がり続けている―これら2点を考えただけでも、クビをかしげてしまう。

次のグラフは、個人所得(Personal Income)から移転所得(Transfer Payments)※ を差っぴいたものだ。(グラフは2005年時点のドルで調整済み、縦軸は先立つピークからの落ち込み度。Calculated Riskより)

(図2)



(※ 移転所得とは、家計が受け取る失業保険や年金などのことで、給与のように生産に関係しない所得のこと。)

このグラフを見ると、2010年に入ってから移転所得を除く個人所得は確実に好転しているのがわかるが、それでも70年代半ばの景気冷え込み時の個人所得の落ち込み時と同程度のシビアさで、ピークの95%強程度しか回復していない

懲りずにまた借金増やしておカネ使ってるのかといえば、12月7日に出されたFRBのデータを見ても、消費者クレジットの残高は、昨年に続き2010年も一貫して減少傾向を辿っている。

それでも、ピークの2007年当時を上回る消費支出ができる理由は、これ如何に?答えは簡単、「移転所得が大きいから」に他なりませんね。

要するに「政府がくれたお金」を使ってるのである。


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これについて、経済コラムニストのJohn Lounsburyが「もしも移転所得がなかった場合、米国GDPはどの水準にいるか」を試算していた。移転所得そのものはGDPには含まれないが、それを使って消費者が支出すれば個人消費となってGDPを押し上げる、というのである。

以下が彼が示したグラフ。

(1)移転所得は、リセッション前のトレンドラインから、およそ$250bn上方に乖離。




(2)この移転所得の乖離分が「なかったもの」と仮定して調整を加えたGDP※。(グラフ青は発表された実質GDP、赤は調整後。)



※ 試算に用いられた前提は、マルティプライアーは1、他の経済活動への影響はない、という単純なもの。これについては、Lounsbury自身が反論・批判されても自分はデフェンスできないと述べているので、前提条件そのものに異論ある方は、ご自分でモデル組んで考察してください。


(3)1Q2008=1として横軸はその後の四半期、縦軸は累積GDPとし、リセッションからの回復度合いをオフィシャル実質GDPと上記調整後GDPとで比較したグラフ。


上のグラフから読めることとして:


  • 移転所得がない場合はGDPの落ち込み度合いは深いVの字になる。
  • 過剰な移転所得が、景気の落ち込みを2%以上緩和した。これは移転所得の恩恵。
  • しかし、6四半期後(2Q09)に縮小が底を打って拡大サイクルに入ってからの累積GDP(回復度合い)は、赤線・青線がパラレル(平行線)に推移する。
  • 上述した前提のもとでは、移転所得の恩恵は拡大フェーズでは消滅したようにも見受けられる。
  • 過剰移転所得がなかった状態では、累積GDPはいまだピークより3%近く低位置におり、オフィシャルなGDP数値が示すほどは、実体経済の部分で回復フェーズが完了したとは言い難い。


★    ★    ★


なるほど景気回復そのものはこうしてみると実際に起こっている。

起こってはいるんだが、問題は「政府からのおカネ」がこの先もらえなくなっても、現在のGDPリカバリーのモメンタムがこのまま続くかどうか、というところでありましょうね。

青と赤の線が底打ちしてからはパラレルで動いている(=個人所得は増加している)わけなので、モメンタム継続は実際可能なのかもしれない。市場(とりわけ株式市場)はそうした「持続的な景気の自律回復」への期待が非常に強く、(例によって)ウキウキ感で「気分はブル」になっている。

しかし、上の(図1)個人消費支出の推移グラフの「形状」から判断するに、消費がここからさらに一本調子で上昇できるかどうかは、12月の消費者信頼感指数が予想に反して鈍っていることを考え合わせると、やや心もとない。仮に、移転所得が今後減少する事になった時に、個人所得の増加も合わせて鈍化すると、必然的に消費は下降サイクルに入ってくるわけだ。

Loundsburyによると、2008年から2010年の約2年間で、米国債発行額はおよそ$570bn増加した。この額は、移転所得として国民の手に渡り同期間に消費された額にほぼ匹敵する、という。

この政府の【大盤振る舞い】が、過去のリセッションと比較して、どれほど強烈かを示唆する興味深いグラフがあったので、最後に貼っておく。(グラフはEconomPic Data、ソースはBEA






企業・個人・政府のそれぞれの貯蓄(Savings)がGDP対比でどう動いたか―1930年代からの推移である。グラフで点線になっているのは、これら3つの貯蓄のネットであるが、ここ2年ほどの米国の貯蓄は全体でネガティブ圏に入っているのであった。

個人は行く先の不安から貯金をし、企業もバランスシートにキャッシュ貯め込んで派手な投資は控えている。だが政府のそれは大きくマイナスに落ち込んでおり、全体まとめるとマイナス。

しかし、この「全体としてマイナス」というのは、1930年代以来アメリカでは初めての事態なのだ。80年代の銀行危機の時だって、90年代のデリバティブス危機のときだって、2000年代のハイテクバブル崩壊のときだって、アメリカは「全体としては」常にプラス圏にいた。


ブログEconomPicは、このグラフを示しながら、こう書いている。

What does this mean? It means the economy has been reliant on external sources of financing for our current level of consumption, which is sustainable… until it isn’t. Put another way, maintaining our current level of growth isn't completely in our hands at the moment.

This will either reverse at some point in the future with:

- Absolute savings increasing through a higher savings rate, which will cause the economy to slow (all else equal) as we get our balance sheet in check (i.e. what is going on in Europe)
- The growth of the private sector, which will allow the absolute level of savings to increase without a large increase in the savings rate as a percent of GDP; the denominator will grow, rather than the numerator in the savings as a percent of GDP ratio (i.e. the goldilocks scenario)

このグラフが何を意味するだろうか。これは、現時点の消費水準を維持するために、米国は外部資金に依存している、という意味だ。この状況は、それを持続できなくなるまで持続する。言い方を変えれば、現在の経済成長の水準を維持できるか否かは、すでに我々の手を離れてしまっている。

以下のいずれかが起これば、将来どこかの時点で、(コントロールを自らの手に取り戻すよう)状況がリバースする可能性がある。

(A) 貯蓄率を上げることで貯蓄の絶対水準を上昇させる。わが国のバランスシートを改善させる間、(それ以外はすべて同じと仮定して)景気の回復を遅らせることに繋がる。(これは、まさに現在、欧州で起こっている状況だ。)

(B) プライベートセクターの成長。貯蓄率を大幅に上昇させることなくとも、貯蓄の絶対水準を上げる。分子の貯蓄を上げようとするよりも、分母のGDPを成長させる。(ゴールディロック経済のシナリオ。)


あと数日で2010年も終わりを迎えようという今、株市場で頻繁に語られている強気見解は、あきらかに(B)のシナリオで走っている。

ただし、債券市場のほうは、どうも、株市場と同じ意見を共有しているようには見えないのだが。

Monday, December 20, 2010

ワールドトレードセンターが完成したら

12月2日の当ブログ記事で建設が進むWTC跡地の写真を紹介したが、エリア全体の完成時の想像アニメーションが、ウォールストリートジャーナルにあった。か~な~りカッコいい。

来年2011年は10周年。建設用語で、建設中のビルのてっぺんに最後の梁を設置することを『Topping Out』と呼ぶそうなのだけど、WTCのメインビルは、2011年後半に、Topping Outすると予定されているらしい。(テナント入居は2013年から、他のビルも2015年まで完成の予定。)





ちなみに、こちらが9年前のテロ直後の様子。



そして、こちらが今月はじめの様子。


瓦礫からここまで来るのに10年かかりましたよ・・・(感慨)。

09年7月には、NY州とNJ州の財政難で、WTC再建プロジェクト自体が頓挫しかかったこともあった(去年7月のエントリーの最後のほう参照)けど、なんとかそれも乗り越えて、完成に向けて工事は進んでおります。


★    ★    ★


米国株も、この10年は、Buy & Holdでジー・・・と持ち続けていても、リターンはほとんどなかったという結果でしたよね。[参考:『主要株価インデックスの海外比較』(MHJ 9/8/10)]

さて、2011年からは、株価上昇フェーズになるだろうか。

少なくとも市場ストラテジスト達の予想は、おしなべて強気ですね。下は2011年のS&Pインデックス株価予想各社一覧。(図表はBespokeから)



平均では、2011年はS&P500は1370に10%上昇という見込み。(ドイチェ、26%って・・・今年も相変わらず強気ですねー。笑)

高失業や住宅市場などみても、米経済のマクロ環境は、まだ安心感を持つに至っているとは筆者には到底思えないのだが、企業ミクロレベルに降りてくると、前回のエントリーで紹介したようにシェアバイバックは着々と進んでいるし、このトレンドはおそらく2011年に入っても継続するだろうし、金融緩和のポリシーは継続される見込みだから優良企業の国内外での資金繰りはこれまで以上に楽になり、「強い企業はさらに強く」の二極化はさらに進んで、そういう一部の企業の株価はファンダメンタルズ的にも底堅く推移するような、そんな感じがしなくもないですな。

でも、ウジウジ組寄りの筆者としては、マクロがメタメタなままで株価だけが25%持ち上がる(by ドイチェw)と信じるほど、楽観視はもちろんしていない。病み上がりの状態から完全に脱しているわけではないのだから、当面ボラティリティは高いままではないだろうか。

Sunday, December 19, 2010

サルでもできる芸当、その後

3ヵ月ほど前に、当ブログで、こんな二つのエントリーを書いたのを覚えておられるだろうか。

2010年9月29日 『マクロ低迷下でミクロ企業体にはバイバックの好機到来
2010年10月1日 『米国の事業会社はCash Hoarders

米企業のバランスシートには、キャッシュがざぶざぶ積まれていて、自社株買戻しの好機を迎えており、今のペースで行くと、2010年は$300bnを越すバイバックが予想されている、という話。

これに関連して、18日のウォールストリートジャーナルが、第3四半期だけで、$92bnの自社株がバイバックされました、という話を伝えている。

Number of the Week: Cash for Shares (WSJ, 12/18/10)



このグラフで見る限り、2010年に$300bnを越すバイバックになりそうだという予想は、ドンピシャリと当たりそうですね。

長期米国債イールドが跳ね上がり、欧州市場もなんだかんだと心もとないニュースが続くが、米株については、ちまたでは、なかなか強気な発言が目立つ。「バリュエーションで見ると安い」というアナリストやエコノミストが多い。

そりゃー、安く見えるはずだよね、EPSが上がってるんだもの。

マクロの状況がこのザマで、ここで大きく将来のオペレーションのために投資しようというインセンティブは、米企業のCEO達には、まださほど芽生えていないと思われ。

ちなみに「シェアバイバックはサルでも出来る芸当(Share Buybacks are for Dummies)」と言ったのは、私ではなく、ブルームバーグのコラムニストDavid Paulyである。詳しくは冒頭にあげた9月29日の拙記事を読まれたし。

Tuesday, December 14, 2010

小売は予想通り好調(しかし、そこまでして買いたいか・・・)

今日(14日)は、米商務省から11月の小売統計が出されてきた。結果はなかなか明るく、前月比で0.8%増。10月値も上方修正されて、前月比1.2%から1.7%にアップ。11月は2007年11月以来の高水準(ただし名目)になったという。



だが、このセクターをマジメに追いかけてるわけではないこの筆者ですら、「小売はどうやらクリスマスまでイケそうだよ」という話は、『今年のホリデーショッピング動向』として11月の半ばのMHJエントリーに書いていたぐらいなんだから、「ええっ!それって、すっごく明るいニュースですよねっっ?!」と(無理して)驚いた顔して目を輝かせるのは、芝居がかっているぞ、そこのCNBC。

ってことで、個人的にはそこまではしゃいでみせなくともと思うものの、エコノミスト達はやっぱりはしゃいでいて、今日のウォールストリートジャーナル記事によると、同紙が聞き取りしたエコノミスト55人の第4四半期のGDP伸び予想の平均は、先週の段階2.6%(季節調整済み)だったのが、この明るい小売ニュースと10月の輸出増の報告を受けて、3%超に上方修正する動きが続いているらしい。(グラフは過去3年間のGDP推移、WSJより)





では、その明るいニュースの中身をもう少し詳しくみてみたい。

Bespokeのサイトに、わかりいいグラフがあったので、拝借することにする。

まずセクター別の前月比伸び(名目の数値)。Nonstore Retailers(店舗を持たない小売=ネットショップ)が、小売全体の0.83%の伸びに対して、2.07%と健闘。一方、Electronics & Appliances (電気機器・家電)はマイナス0.82%と落ち込んだ。



今日は、家電小売最大手のベストバイ(BBY)がアナリスト予想を下回った上、年間ガイダンスを下ぶれさせたこともあって株価が15%も叩き落ちた。



家電小売部門の、小売総売り上げ全体に占める割合は、2.27%と2001年10月以来の低水準。


ところが、ネット・リテーラーの同割合は一直線に伸びており、全体の8.33%になっている。この傾向は、米国では、ウォルマートやメイシーズといった大手小売もネット販売の増加率が全体の増加率を大きく上回る状態が継続しているので、この先も、割合は拡大しそうであるな。



今日出された数値で、ネットストアの雄アマゾンと、家電の雄ベストバイの明暗がはっきりついた感がある。ベストバイの場合、目玉商品のTVなどの価格が強い圧力を受けているのに加え、3DTVやネットTVなど次世代商品が、思っていたほど売れなかったことも原因のひとつ。

自分自身の生活態度を振り返ってみても、カウチポテトで受動的にTV見てるよりも、自分からネットに情報探しに行ったほうが楽しいモンね。消費者の普段の行動も変わってきていて、製品売上げにメリハリがついてきているのだろうな。

11月14日のエントリーで、Fedexがネットショップの売上げからくる年末商戦の小包配達動向に相当な自信を覗かせていたことを紹介したが、上の表は、その裏づけにもなったわけである。

というわけで、今年の年末商戦は(予想通り)まずまず、といったところだが、今年も残すところ、あと2週間。

来年も、この消費トレンドが継続回復できるかどうか、Sustainabilityがあるかどうかが、キーですね。(←この高失業率でどうやって、という極めて基本的な質問なのでありますが。)


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さて、以下はどうでもいい話。

筆者は毎年、ブラックフライデーに早朝から店の前に並んで開店とともに店になだれ込むドア・クラッシャー(Door Crushers)達の姿をTVで見て「よーやる・・・」と呆れているわけだが、先日ある動画をみつけて、そのすさまじさにゾッとした。

自分が買い物依存症候群を患わっていないことに、しみじみとした感謝の気持ちさえ湧いてきたほどである。

昨年のブラックフライデーに、(どこの店舗か知らないが)ウォルマートに朝4時の開店と同時に飛び込んで商品のエレクトロニクスを奪い合う、気の狂った人達の動画(↓)。



しかしね、繰り返しますが、これは「昨年の」様子だからね。

昨年末といったら、失業率はうなぎのぼり、暗い雰囲気漂う年末商戦で、いつもなら散財しちゃう浪費癖アメリカン達が必死に自分と戦って無駄遣いしないように心がけた、そういう年末だったんであるよ。

そういう年でも、INSANEな人達はやっぱりいて、この騒ぎ。しかも、どう見ても、どいつもこいつも、貧乏人風。

そこまでして、買いたいか・・・。

今年2010年のブラックフライデーにも、ミルウォーキー市のウォルマート店の入り口付近で「いらっしゃいませ係」を任されている100歳のお婆ちゃん従業員を、37歳の狂気買い物客女が「るっせーんだよ、ババァ!」と突き飛ばして怪我を負わせる事件が発生した。

この狂気買い物女は逮捕され、お婆ちゃんも軽い怪我で済んでよかったが、目の据わった太った買い物客が何百人・何千人も早朝から押し寄せるブラック・フライデーに、100歳のお婆ちゃんを入り口に立たせておくウォルマートがあるというのにまず驚いたし、それ以上に、失業率が9.8%になってるこの国で、100歳になっても働いてるひとがいるという事実にも、筆者は正直驚いた。(100歳の従業員って、雇用統計では、どう扱われるんだろう・・・と、これまた実にどうでもいいことを考えた。)

本エントリー最初のグラフからかいま見える、過去5年の推移:

  • 2006年のXmas=「もっと買え!もっと買え!」
  • 2007年のXmas=「まだまだ~!」
  • 2008年のXmas=「お先真っ暗」
  • 2009年のXmas=「お金貯めよ・・・」
  • 2010年のXmas=「自暴自棄」


カネもないのに互いを突き飛ばしてでも「買わにゃあかん!」と思い込んでるINSANEな人達の体力と財布の中身が、2011年にどこまで続くか、注目したいところである。

Thursday, December 2, 2010

12月、金融街再訪

12月に入り、昨日1日のダウは大幅上昇。今日2日も、朝から住宅や小売関係で明るいニュースが続き、さらなる続伸。ニューヨーク市場は11月末のウジウジ感を吹き飛ばす陽気さであった。

そんな今日、ちょっとした用事で、マンハッタンのダウンタウン(金融街)に出かける機会があった。

前回ここに来たのは9月の後半だったので、わずか2ヶ月前かそこらなのだが、その2ヶ月余りでワールドトレードセンターの跡地再開発が目に見えて進捗しており、びっくりした。

これが、今日現在の、ワールドトレードセンター跡地に建設中の新しいビル。



これが完成予想図。いま、どこらへんを建設中なのか、なんとな~く、わかりますね。



1987年に証券業界で仕事するようになってから2001年のテロ攻撃まで、筆者の職場はいつもワールドトレードセンターの近辺にあったので、911でツインタワーが壊れてしまったときは、長年の親友を失ったかのごとく悲しく感じたものだった。

だが、今日、その同じ場所に、新しいビルが空に向かってグングン背丈を伸ばしているのを目にして、なぜかわからないのだが、確実に「何か」が変わってきている、お前も変われと言われている・・・不思議とそんな殊勝な気持ちになったのであった。

ロウワー・マンハッタン(Lower Manhattan)は私の古巣。沈んでは浮き、浮いては沈む、の繰り返し。

そして、いままた、再生せんことを!


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ついでなので、今日写した、金融街の様子をここに貼り付けておきます。

WTC跡地のまん前にある、セント・ポール教会裏の古い墓地跡。1700年代のお墓があります。


ウォール・ストリートをNY証券取引所まで下り、ブロードウェイの方角に振り返ると、まっすぐ前にトリニティ教会が建っています。左のビルがNY証券取引所のビル。


現在のウォール・ストリートとブロード・ストリートが交わる場所で初代大統領ジョージ・ワシントンが宣誓した。その場所に今はワシントン像が立ち、ニューヨーク証券取引所を見つめている。


ワールド・トレード・センター前の広場からリバティ・ストリートの奥に入ると、ニューヨーク連銀が。

Saturday, November 27, 2010

CDSのImplied Ratingと市場パーセプション

PIGSのCDSプレミアムの上昇が止まらない。各国のCDS(5年Mid)のデータをみてたら、昨日の段階で、ギリシャ972bps、アイルランド598bps、ポルトガル502bps、スペイン322bps となっていて、ドイツの46bps とえらい違いである。

アイルランドなんて、1年前までは「欧州の優等生」とか呼ばれて持ち上げられていたのに、いまや、パキスタン(677bps)に迫る勢い、ドバイ(457bps)どころの騒ぎではない。

このCDSスプレッドだが、Mishのブログに掲載されていた表が面白いので、切り取って貼り付けておく。

CDSのスプレッドから示唆されているリスクに対応する格付け(Implied Ratings)と、格付け会社が実際につけている格付けの比較表。インプライド・レーティングと実際のレーティングに何ノッチ差があるか、というものだ。



よく市場では「格付け会社はノロい」とか「格付け会社は何もわかっていない」とか「いてもいなくても一緒」とか、いろいろ非難の声を耳にするが(またそう非難されても仕方ないぐらいドンくさいことやってる時も実際あるからネ・・・)、この①市場価格(市場がつけてるリスク評価)と②格付け会社がつけてるシンボルとの間には差があるのが実は普通なんである。

格付け対象となる先のクレジットクオリティが悪ければ悪いほど、市場心理が悪化するときであればあるほど、その「差」は開きがち、というのが過去の例をみても、たいがいそうなんである。

実際に格付け会社のレーティングを睨みながらクレジットの売買してるひとたちからすれば、その差があるからこそ、アービトラージやトレーディングの機会が生まれるわけで、格付け機関も含めた市場関係者が全員、常に同じパーセプションで同じオピニオンなら、Bid も Ask も同じになっちゃうわけでして。


差があること自体は、何の不思議もない。1~2ノッチ(ノッチ=notch =段階)程度の差は、あっても誰も別に驚かん。

しかし、その「差」が2ノッチどころか、8ノッチだの10ノッチだのとなると、何かがおかしい。

上の表で、PIIGSの5カ国のノッチ差に注目されたし。

スペインとアイルランドが10ノッチ差、ポルトガルとギリシャが8ノッチ差、イタリアが6ノッチ差。

市場は、とっくに、格付け機関によるレーティングのレベルなんて無視してプライスつけて取引している。

これだけの差がつく背景は、ひとつには巷(ちまた)の指摘どおり「格付け会社がドンくさい」というのがあろう。

市場は格付け会社がドンくさいんで、近い将来彼らが格下げアクションをするだろうと見越して、あらかじめプライスにその期待を反映させている、というのもある。

あるいは、格付け会社が「有り得ない」としているデフォルトのシナリオを、市場の方では「有り得る」と考えて、オピニオンの違いが明確になる場合も。

さらに、このCDSのプレミアムというのは、実際に該当国の国債現物を保有していなくても、その国の企業など他のクレジットリスクにエクスポーズされてるために、そのリスクをまるごとヘッジする目的で国債CDSを買う場合もあったりして、テクニカルな理由から需要が膨らむ場合もある。

そして、市場が興奮しすぎて、現実味を失ったシナリオで突っ走り、それが実現可能か否かの吟味をすることなくリスクを織り込んでCDSのプレミアムが上昇する、というのもある。

CDSスプレッドの拡大について、欧州の政府・当局関係者は、春のギリシャの騒動のときには、「スペキュレーターのせいだ」と決め付けて空売り規制してみたり、今回のアイルランド騒動では「問題なんてないのに、格付け機関が格下げするとかいうから、こんなことになるんだ」と格付け機関に八つ当たりして、格付け会社を規制すべしとか超アホなことを言い出して、無知+無能+無策ぶりをさらけ出した。この政府当局のギクシャクぶりに失望した市場は、「コリャだめだわ・・・」と投げ出した、つまり、「サポートを施す側に対する市場の信頼低下」が反映されたりもする。

他にもいろいろあるだろうが、筆者が思うに、今回のPIIGSのケースは、これらのファクターすべてがゴチャ混ぜになってる結果なのであろうね。


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ちょっと脱線するが、思えば、ちょうど一年前のドバイショックが、2010年に怒涛のごとく押し寄せた「欧州ソブリンリスク」の幕開けであったのだ。


<<一年前のドバイショックのときのMHJ関連記事>>




一年前に自分が書いた記事を読み直してみると、ギリシャのCDSは205bps、スペインなんて86bpsで、日本(当時81bps)と同程度のレベルだったんであるよ。(遠い目)

それがあれよあれよという間に、このザマである。

イギリスなんてユーロ圏じゃないのに、アイルランド救済に半身突っ込んでしまったし。

日本のCDSは現在、65ぐらいだけど、これも、何が引き金になって、ギャンギャンな騒ぎに発展するか、わかったもんではない。

それは米国ソブリンとて同じこと。今年一杯、ずっとファンダメンタルズはギクシャクしてるから、信頼感が失われたまま、株価があがってみたり、商品・為替が乱高下してみたり、背骨のないタコみたいで、わけわからん。



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話を上の表に戻すが、8ノッチや10ノッチの「差」は、今後、どう縮小するのであろうか。

まずは、ドンくさい格付け機関が格下げを続ける。でも、これが短期間で一気に10ノッチも下がるかというと、筆者としては少々疑問。

(ただし、先日、S&Pの銀行アナリストが、アングロ・アイリッシュ銀行の格付けを一気に6ノッチも下げてたんで、絶対有り得ないとはいいませんが、銀行シニア債の格下げ理由はちょっと特殊なんで注意。これは別の機会にでも書く。)

もうひとつには、いま過敏になりすぎてる市場側が、すこし落ち着きを取り戻し、デフォルトシナリオの実現性・実効性を鑑みたリスクの再考を行うことで、パーセプションのリセットとともにCDSスプレッドの一部が行き過ぎと判断される、というのも、あるでしょう。市場パーセプションが常に正しいとは限らないからね。

各国ごとにおかれている事情がことなるとはいえ、現在は、信頼失墜の感染(Contagion)が進み、PIIGSが地域ひとかたまりになってパーセプション悪化してるというのは、これら5カ国のレーティング差が突出してることから明らか。(ベルギーがこっそり追従中。)

当事者政府側は、債務リストラなど有り得ないと繰り返しているが、現在のスプレッドレベルは、市場は、政府のそういう態度を現状否認(Denial)と捉えて、2011年以降のリファイナンスの困難さとリストラ期待を明確に織り込んできているという意味。実際、現在のイールド水準ではギリシャやアイルランドはもとよりスペインだって、市中調達を継続するのは厳しいだろう。

でも、どこかがデフォればそれで解決、というのは短絡すぎる話。解決に向けては、政治的な側面が非常に強い話だけに、もう少し成り行きを見守らないと予測困難と思われ。


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ところで、上の表で、もうひとつノッチ差が大きく出ている国がある。

トルコである。

S&Pはトルコの格付けはBB+だと言ってるが、市場は「うんにゃAAだ」と言ってスプレッドがずいぶん潰れている様子。

これもやはり、格付け会社がいくらノロいといったって、ソブリンで一気に8ノッチも「格上げ」された国なんて、筆者の知る限り、きいたことないよ。

トルコに関しては、市場はちょっとポジティブな絵を描きすぎなのでは・・・と筆者などはつい思ってしまうのだが、どうであろうか。


Monday, November 15, 2010

今年のホリデーショッピング動向2

昨日の記事の続き。

月曜の朝を迎え、10月の小売統計が出されてきた。

10月米小売売上高は予想上回る、7カ月ぶり大幅な伸び (ロイター、11/15/10)

[ワシントン 15日 ロイター] 米商務省が15日発表した10月の小売売上高統計は、総売上高が前月比1.2%増と市場予想の0.7%増を上回った。4カ月連続で増加し、7カ月ぶりの大幅な伸びとなった。

自動車を除く売上高は前月比0.4%増で予想と一致。前月の0.5%増からはやや伸びが鈍化した。

自動車・ガソリン・建設資材を除くコア売上高は0.2%増。前月は0.4%増だった。

同統計を受けて、年末商戦や夏以来回復が減速していた経済全般への期待が強まった。

昨日のエントリーにも書いたが、小売に関しては、どうやらこのままクリスマスまで突っ走れそうな雰囲気なんである。オンラインショッピングの方も、けっこう元気(例:Fedex、鼻息荒いw)。

そして、昨日のエントリーに関連して、今日、もうひとつ目に留まった記事はこちら。

Amazon shares weighed down by rivals' free shipping (Reuters, 11/15/10)

昨日のMHJで、「全米小売最大手のウォルマートが、ホリデーシーズンの間送料無料キャンペーンで、アマゾンに殴りこみかけた」と書きましたが、今朝は、案の定、そのニュースに反応してアマゾン株が下げ。後場になってさらに下げ足加速、ナスダック全体の足かせとなった。

今週は小売り関連の数字がさらにいくつか続く予定なので、注目したいですな。


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昨日のエントリー最後にあげたポイント3つのうち、(1)と(2)に関しては、こんな感じである。

で、3つ目の「目玉は$500以下の家電」というやつですが。

週末、犬と散歩しながらブルームバーグラジオを聴いてたところ、番組のゲスト(最後までこのゲストが誰だったのかわからずじまいだったのだが、小売業に深く関わっているエグゼクティブ風)が、こんなことを言って印象に残った。

「アメリカの消費者は、去年はできるだけお金を使わないようにしてジーと殻の中に篭っていた(cocooned in)けど、いいかげん我慢するのが嫌になってきていて、またお金を使いたくなり始めている。でも、経済の先行きはまだ不安なので、いまどきの消費行動は【Frugality】(質素・倹約)がトレンドだ。」

去年のキーワードは「欲しがりません、勝つまでは!」だったんだが、今年のそれは「殻から出よう、質素にキメよう。」というわけだ。(笑)

このゲストはこうも続けた。

「多くの消費者の財布の紐は相変わらず硬いけれど、(ずっと我慢してた反動もあって)ちまたでウワサになってるもの、楽しいと評判のもの、そういう一部の商品には足踏みせずにピョン!と飛びつく傾向も見て取れる。たとえば、iPadとか電子書籍リーダーとかね。」


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(その1)電子書籍リーダー市場は、この年末が節目になる!

で、その「iPadとか、電子書籍リーダーとか」なのだが、ウォルマートや家電大手ベストバイなどが、今年の年末商戦では相当チカラ入れて売ろうとしている商品でもある。

アマゾンなどは、同サイトで買った商品の支払いに、アメリカン・エクスプレスのクレジットカードポイントを用いることができるプログラムを立ち上げ、「Amexのポイントでも、キンドル買えるよ!」と宣伝している。

大手書籍ライバル、バーンズ&ノーブルなども、店内に『Nook専用コーナー』を作り、リーダー販売に余念がない。

これについて、14日のNYタイムズは、$150以下で買えるe-reader(電子書籍リーダー)は、今年の年末商戦で、(商品としての)【重要な節目(tipping-point)】を迎えるだろう、と書いている。

Great Holiday Expectations for E-Readers (New York Times, 11/14/10)


“Last year, when you think of the e-reader category, it was Nook and Kindle and Sony, but primarily Nook and Kindle if you look at the sales,” said William Lynch, chief executive of Barnes & Noble. “The difference this year is, there’s a whole lot more choice.”

(「去年、e-リーダーのカテゴリーと言えば、ヌック(Nook)かキンドルかソニーぐらいしかなくて、セールを見ると、基本的にはヌックとキンドルがほとんどだった。でも今年は違う。ものすごく多くの種類のe-リーダーが店頭に並んでいる。」バーンズ&ノーブルのCEO、ウィリアム・リンチはそう述べた。)

これまでなら、お母さんにはハードカバーの本をプレゼントしていたけれど、今年のプレゼントはe-リーダーにお母さんの好きそうな本をダウンロードしておいて、ラッピングして・・・。

小売店のそんな期待がまかり通る、今日このごろ。(笑)


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(その2)タブレット市場は、アップル依然として強し!

一方、昨年のクリスマスには「安価な小型ノートブック」として注目されてたネットブックのほうは、今年はiPadや他社タブレットに押されて、どうも盛り上がっていない雰囲気だ。

先日、某ネットサイトで「ネットブック市場を痛めつけるタブレットの需要」という調査記事を読んだので、MHJでも紹介したい。

Tablet Demand Hurting Netbook Market (Investor Place、11/2/10)

ChangeWave社が3108人の消費者を対象に、10月中に、「向こう3ヶ月以内に買うとしたら、どんなコンピュータが欲しいですか」という聞き取りをした結果である。(以下画像は記事より)

「向こう90日中にデスクトップを買う予定はありますか?」という質問には6%があると答え、8月の同調査時より1%上昇。一方「ラップトップを買う予定は?」という質問には8%があると答え、これは8月から変化なし。

ところが、「ネットブック購入予定」については、14%があると答えたが、昨年夏のピーク(24%)より10%も減少した。(参照:グラフ1/ネットブック需要)


グラフ1


ネットブック需要減少の背景にはリセッション終了という景気要因のほかに、タブレット型のコンピュータ、特にアップルのiPadの浸透が見て取れる。年末にかけての需要については、iPadに対する需要にモメンタムがついてきているのも、見て取れる。

重要なのは、現在iPadを所有しているひとのうち、およそ4分の3(73%)が「とても満足している」と答え、23%が「幾分満足している」と答えている、という点。(参照:グラフ2/iPad満足度)

グラフ2



将来の需要トレンド予測としては、いまだにiPadがダントツぽい。調査対象の26%が「将来タブレットを買う予定だ」と答えたが、うち80%がアップルのiPadを買いたいと答えた。(参照:グラフ3/買うとしたら、どのタブレットを買うか、ひとつだけ選択)

グラフ3


今年の7月~9月におけるタブレット市場でのアップルiPadのマーケットシェアが95%というロイター記事があって、筆者は「95%って、すごくね?」とたまげていたのだが、上の調査を見ても、10~12月も、やはりiPadのマーケットシェアは揺ぎ無い強さなのであろうな・・・と改めて思ったわけ。

しかし、それにしても、4人にひとりの消費者がタブレット欲しいと考えていて、うち8割がアップルというのは、やっぱり、すげー・・・と思わざるを得ない。

ちまたでは、iPadはピークを超えたとか言うひともいるらしいけど、この数字を見る限りでは、まだまだ人気は衰えてはいないよう。

うーむ・・・キンドルにしようか、iPadにしようか、それとも、お掃除ルンバにしようか・・・筆者にとっても悩ましいところ。

Sunday, November 14, 2010

今年のホリデーショッピング動向

はやいもので、今年の感謝祭まで、あと2週間たらず。

アメリカでは感謝祭が終わると、毎年恒例の「ブラック・フライデー」、ホリデー商戦本番である。

一昨年はリーマンショック直後の11月で、まだ事態の深刻さに気づいていない人もいたようで、殺到した買い物客に踏み倒されてウォルマートの従業員が死亡するという異常事態が起こっていた。

しかし、昨年に入ると失業率の連続悪化が消費者心理を冷え込ませ、気温が下がって消費者心理がさらに冷え込む前に買わせちまえ!と、夏休みの真っ最中の7月から早々と「クリスマスコーナー」なんぞをこしらえるトホホな小売店も出て、夏の盛りにクリスマス商戦の皮切りやったりしてたんである。

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では、今年の消費者心理はどんな具合か、というと、

以下、11月13日の日経新聞記事より:

ロイター通信が12日伝えた11月の米消費者態度指数(速報値、ミシガン大学調べ)は69.3となり、前月の確報値から1.6ポイント上昇した。同指数が改善するのは3ヶ月ぶりで、市場予想(69.0)もやや上回った。水準は金融危機後の最高である6月(76.0)以来の高さ。

現在の景況感を示す現状指数は79.7と2ヶ月ぶりに上昇。将来の景況感を示す期待指数は62.7と2ヶ月連続で上昇した。消費者の米経済の見通しは、小幅ながら改善している。米連邦準備理事会(FRB)が米国債の追加購入をきめたことを受け一年後のインフレ見通しは3%と、前月の2.7%から上昇した。

これらの数字を、エコノミストらがどう読んでいるか、というと、

以下、US Consumer Sentiment Rises More Than Expected (CNBC.com, 11/12/10) より抜粋

"The slight improvement in sentiment suggests that spending will continue at close to its current rate through Christmas, which is better than expected even a few months ago. But it's not going to be enough to make a material dent in the unemployment rate," said Christopher Low, chief economist at FTN Financial in New York.

「信頼感に若干の改善が見られたことは、クリスマスまでは現在の水準に近いところで消費が推移することを示唆する。数ヶ月前と比べると良くなっているといえるだろう。だが、これにより失業率が目立った減少を見せるかといえば、それには及ばない。」ニューヨークのFTNフィナンシャル社のチーフ・エコノミスト、クリストファー・ロー氏は言った。

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クリスマスプレゼントをお届けにあがる運送会社はどうであろうか。

Fedex社は、この年末ホリデーシーズンの配達量は、去年同時期より11%増えるだろう、などと明るいことを言っている。(以下、11月11日の同社のプレスリリースより)

Fedexによると、「例年12月中旬の週が一年で最も忙しくなる時期」だそうで、「一年で最も忙しかった日」と「その日一日」に配達された荷物の個数の過去5年の実績、および、今年の予想は、
  • Dec. 12, 2005 – 9.8 million shipments
  • Dec. 18, 2006 – 10.6 million shipments 
  • Dec. 17, 2007 – 11.5 million shipments 
  • Dec. 15, 2008 – 12.0 million shipments 
  • Dec. 14, 2009 – 14.2 million shipments 
  • Dec. 13, 2010 – 16.0 million shipments projected 

あれ?去年は消費者心理は冷え切っていたのでは?とお思いになる方もいるでしょう。重要ポイントはですね、この数字はFedexという小包配達屋の数字、つまり、彼らの配達個数の伸びの背後には、アマゾンのような大手ネットリテーラーの大活躍があったんである。

Fedex社は、今年もそうしたネットリテーラーの活躍をおおいにあてにしているらしく、リリースの中にこんなことを書いている。
Items such as books from large internet retailers and retail inventory such as apparel, personal consumer electronics and luxury goods will drive FedEx holiday volumes.
大手書籍リテーラーの本や、被服・消費者向けエレクトロニクス(家電)・高級アイテム(ジュエリーなど)のリテール商品在庫が今年の年末ホリデーシーズンの配達個数を延ばすであろう、とFedexは見ている。)


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アマゾンにばかりオイシイ思いをさせるものかと、今年は、リテール最大ウォルマートが、オンラインショッピングの拡大でアマゾンに殴りこみをかけ、話題になっている。

ウォルマートも、ずっと前からオンラインでの商品提供はやってきているが、話題になった理由は、全米に何千もの大店舗を構える最大級の小売店が、「12月20日まで、オンラインショップのホリデー商品6万点、送料無料、返品の際も同じく無料!」とぶち上げたからだ。

Wal-Mart May Help Usher In Permanent Free Online Shipping (Fox Business, 11/11/10)


この「送料無料」というのは、いまや米国でネットリテールを営むものなら誰もが避けて通れない道になりつつある。昨年のリテール業界でのアマゾン一人勝ちの背景には、アマゾンが大規模に進めた「送料無料サービス」の貢献が大きい。

上のFox Businessの記事で、調査会社ComScore社の調査によると、ネットでのリテール・トランスアクションの41%が送料無料となっており、ネットショッピングを楽しむ買い物客の55%が、もし送料無料のオファーがなければ、そこでは買い物はしない、と答えている、という。

また、同記事では、小売大手のMacy's(そう、昨年、「ブラックフライデー偵察ルポ」としてMHJで紹介した、あのMacy'sである)も、この第3四半期の会社全体の売上げは6.6%増に留まったが、ネットショップでの売上げだけなら24%増だった、というのである。

Macy'sのように、主要な消費圏に大規模店舗を構えているデパートでも、ネットショップの売上げが全体を引っ張ってくれているのがミエミエ。

Fedexがネットショップ経由の配達注文に、いまから胸躍らせてワクワクしてるのも、十分納得できるわけですね。

今回のウォルマートの送料無料オファーのニュースは、その流れにダメ押しをかけるという意味で注目された。

ウォルマートの送料無料オファーがついてる製品6万点の中には、SONYの大型フラットパネルTV42インチ型とか、結構大きな家電もはいってますし。

大手小売りのネットショップが、こういう嵩張る商品にも送料無料を打ち出すことで、大手にボリュームで対抗できない小規模ストアは、ネット上の送料無料化の流れから、さらなる痛手を被る可能性がきわめて高くなってきている。


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さらに、もうひとつ、ウォルマートの話題。

2010年のブラック・フライデー用広告がリークして、ウォルマートが今年売りまくろうとしている商品とその価格が見えてきた。

Wal-Mart's Black Friday 2010 ad: Electronics top deals (CNN Money, 11/13/10)

リークされた広告によると、以下のような$500以下の家電商品が、ドアバスター・バーゲン商品(Door Buster Bargains=ドアを蹴破って客が殺到するバーゲン、の意)としては、なんつっても目玉らしい。「家電が目玉」なのは毎年そうだけど、今年はさらに安くなってる気がするな。


  • Emerson製 32インチ 720p LCD HDTV $198
  • Emerson製 42インチ 1080p LCD HDTV $398
  • LG製 42インチ 1080p LCD HDTV $478
  • Magnavox製 WiFi ブルーレイプレーヤー $68
  • Apple製 8GB iPod Touch $225 (プラス、ウォルマートお買い物ギフトカード$50ドル分進呈)
  • Kodak製 C183 14メガピクセル 3インチ LCD デジタルカメラ $59
  • HP製 15.6インチ 250GBハードドライブ ラップトップ $298

ウォルマートは、感謝祭明けのブラック・フライデー、午前5時に開店、11時まで商品がなくなるまで売りまくる予定だそうである。


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ということで、今年のクリスマスショッピング動向として確実らしいことは、以下の3つ。

1) ネットショップは今年も元気、大手小売も参戦、競争圧力でプライス低下
2) 「ネットで買えば送料無料」の流れにダメ押しがかかりそう
3) ドアバスター、今年も狙い目は家電(ただし$500以下)

といったところでしょうかね。

(次回に続く)

What is Deflating Right Now?

QE2について、おもしろい動画をみた。

『Quantitative Easing Explained』



「何故、連銀はデフレーションが起こっている、なんて言ってるの?」

「それは、CPIを見ると、そうだからだよ。」

「食料品は一年前より値上がりしてるよね?」

「うん。」

「ガソリンは一年前より値上がりしてるよね?」

「うん。」

「ヘルスケアにかかるお金は一年前より値上がりしてるよね?」

「うん。」

「学費は一年前より値上がりしてるよね?」

「うん。」

「税金は一年前より上がってるよね?」

「うん。」

「地下鉄は一年前より値上がりしてるよね?」

「うん。」

「株価は一年前より上がってるよね?」

「うん。」

「債券は一年前より上がってるよね?」

「うん。」

Then, what is deflating right now? (じゃぁ、今、何がデフレーション起こしてるの?)」

The only thing deflating that I can see is the Fed's credibility(僕が見た感じでは、デフレ起こしてるのは唯一、連銀のクレディビリティだね。)」


(※ hat tip The Daily Capitalist )

Tuesday, November 9, 2010

アムバックの盛衰

金融保証第2位のアムバック(ABK)が、11月8日、Chapter 11を申請した。

関連記事:Ambac Files Chapter 11;Shaes Down 60% (Barrons, 11/8/10)

金融保証(Financial Guranator)になじみのない人のために簡単に説明しておくと、どこかの会社なり地方自治体なりが債券を発行する際、もしも将来その発行体(債務者)が支払い不能の事態に陥ったら、発行体に替わって債権者に借金をお返ししましょう、という一種の保険サービスである。

プロテクション申請したのは持ち株会社、6月30日付総負債$1.68Bil、最大株主Vanguard 5.46%、最大債権者 Bank of NY Mellon、保険オペレーティング子会社Ambac Assuranceのライアビリティは$57.6Bil。

この会社の場合、春にはCDSのスプレッドが何万bpsとかいうレベルだったし、夏からすでにChapter11申請の可能性をほのめかしていたことだし、つい一週間ほど前にも、債権者との事前合意型破産手続きの話し合いが煮詰まってきているが最終合意に至らなければChapter11申請しますと明言していたので、昨夜このニュースを聞かされても、トータルサプライズではない。

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アムバックといえば、かつては地方自治体が発行する地方債のモノラインとして全米最大、その自治体そのものの財務体質がピカピカのトリプルA(AAA)ではなくっても、アムバックから保険を買い、その保険で発行する債券をくるむ(Wrappingする)ことで、ちちんぷいぷい、ピカピカのAAAになりますよ~、とやってたんである。

地方債を発行したい自治体は、保険料(A)をアムバックに支払い、債券を保険でくるみ、発行するときの金利(B)を低下させ、

支払うプレミアム(A) < 信用度上昇による金利低下の恩恵分(B)

の式が成り立てば、保険を提供する側にも、それを買う側にも、経済合理性が成り立つ、そういう商売であった。

アムバックが引き受けるリスクについては、それをプールして、まさに保険アクチュアリの世界でプールの将来の損失率を計算し、プレミアムを算出していた。地方債の場合は実際のデフォルトはあるにせよ、実際には極めて最終損失率の低い世界であったこと、また、その業界では最大かつ市場から最も信頼されていたアムバックという会社は、自身の企業格付けはもちろんトリプルA、毎年安定的な収益を確保できる「知るひとぞ知る」会社として、マンハッタン島の南端に何十年も君臨していたんである。

アムバックと言えば、その昔は、この会社ぐらい収益見通しを立てるのが楽チンな会社はないとまで言われ、あまりに収益が安定しすぎているんで、投資としてはちっとも面白くなく、株価もクレジットスプレッドもさほど動かない、そういう地味な会社だった。

しかし、そこが株式会社の悲しいところ、「もっと四半期の利益をあげんかい!」というプレッシャーは、この眠たくなるような安定ビジネスにも当然及び、そこでアムバックが【新たな収益源】として目をつけたのが、『証券化商品』のリスクもプレミアム次第で引き受けましょう、というものだった。

この【新たな収益源】は、米国の証券化市場とデリバティブス市場の拡大にともなって同社の重要な収益源と化した。寝惚けた地方債市場から事業拡大展開に成功し、リスクコントロールをうまくやりながら収益体質を高めたアムバックはエラい!と、市場のアナリストらもべた褒めだった。

しかし、2000年代中盤から、クレジットバブルが羽目を外してイケイケどんどんで踊りまくっているときに、CDOなどの高レバレッジのサブプライムモーゲージ商品化商品のギャランターとして積極的にリスクを引き受けるようになった。

あのAIGという巨象を死の一歩手前まで複雑骨折させた子会社AIGFPが手がけていたのと同じ世界で拡大しようとしたわけである。

そして、クレジットバブルの破裂。

その後は、AIGの顛末であまりに有名なので、あえて書く理由もない。

過去10年のアムバックの株価推移をみると、クレジットバブルの崩壊のすさまじさを物語る。






クレジットバブルとその崩壊は多くのひとびとや会社を奈落の底にひきずり込んだが、アムバックの盛衰もかなり劇的なものだった。

これから同社はChapter11のもと、腐った膿は切除して会社更生に取り組むわけだが、彼らが元々誇りにしていたスリーピーな地方債保証ビジネス、あれはどうなるのかというと、地方債市場そのものも、バブル崩壊後にずいぶんと様変わりしてしまった。

腐ってる証券化の部分と今後も十分やっていける地方債の部分を、Good Bank Bad Bank方式で早急に切り離し、地方債ビジネスの方のフランチャイズ・バリュー(Franchise Value - 事業基盤の価値)を温存せよという意見は、実は、株価が急落していた2007年後半には、すでに考慮されていたんである。

しかし、規制当局だの株主だの債権者だの格付け機関だの関係者がぐしゃぐしゃに入り乱れて、あーだこーだと言っているうち、同社の財務は取り返しのつかないこととなり、07年当時はまだ価値の高かった地方債保証ビジネスのバリューも一方的に減少した。

地方債マーケットの参加者も「保証をつけてもらわなくても発行に一切支障はないもん」などと強気なことを言い出して(いま、2008年当時のあの強気な言葉を後悔している自治体も中にはいるんじゃないかと思うけれど)、それまで一種の「慣習」となっていた「地方債に保証を付ける」というのをやらなくなってしまったわけだ。

この先アムバックにどんな未来が待っているかは筆者にはわからないが、バブルの後遺症は取り除くことはできても、残された事業のフランチャイズバリューも相当弱まってしまっており、かつてのような安定企業としての地位を取り戻せるかは、残念ながら、疑問が残る。

地方債市場そのもののあり方が、この数年間で大きく変化してしまったわけだからね。

あの安定的な優良会社が、わずか数年でChapter11を申請することになったという事実は、長年米クレジット市場に関わったひとりとしては、なにやら感慨深いものがある。

サプライズニュースではないけれど、それで書き残しておこうと思った。

Saturday, October 16, 2010

アジアの二千年

Twitterは、驚くべき情報の宝庫。

今日ついったーのTLを流れてきた何百というつぶやきの中に見つけた、この地図。

http://www.ugoky.com/chizu/ugoky_chizu.swf


この二千年間に、アジアでどんな国が生まれ、そして、滅びていったのか――。

二千年という時間軸。

一見の価値あり。

Friday, October 1, 2010

米国の事業会社はCash Hoarders

【今日の英単語】hoarding【名詞】貯蔵(物)、蓄積(物)、買いだめ、秘蔵 (アルク辞書より

ともかく「溜め込むこと」を hoarding という。

よくモノを捨てることができなくて、家中がゴミだらけになり、そのうちそれが度を越して自力で整理できなくなり、ゴミとガラクタが積みあがった異様な空間に住み続けている人がいますよね。ああいう人のことを hoarder と呼びます。

前回のMHJ記事『マクロ低迷下でミクロ企業体にはバイバックの好機到来』で、キャッシュが潤沢な企業はその使い道のひとつとして、シェアバイバックでEPS上昇させる好機だ、と書いた。

今朝のFT Alphavilleを読んでたら、米国の非金融の企業達が、どうやらキャッシュをバランスシート上に貯め込むにいいだけ貯め込んでるらしいんである。

アメリカ企業による、前代未聞のCASH HOARDING。

前回のMHJ記事に関連して、参考として、同FTA記事からグラフを拝借して、ここに貼り付けておくことにする。(元ネタはUBSのリサーチレポートらしい。)

最初のチャートは、米企業(非金融部門)の総資産に占めるキャッシュの割合、および、金融資産に占めるキャッシュの割合。1950年代からの推移。



次のチャートは、キャッシュ残に、さらにキャッシュと同等に換金性の高い金融資産(Cash Equivalent=「現金同等物」=短期国債とかマネーマーケットとかコマーシャル・ペーパーとか)も含めた総額。


UBSリサーチによると、非金融部門の米企業のバランスシートに載ってるキャッシュ残高は、彼らの株式時価総額の12%に相当するという。

前回のMHJ記事では、昨年(09年)のバイバックは総額$137.6bn、今年2010年は$300bnを超えると予想されていることを述べたが、これだけキャッシュ溜め込んでるなら、$300bnと聞いても、驚かんな。

金融セクターのほうは、新しい自己資本規制がのしかかって、増配やバイバックにはブレーキかかるだろうから、あまり期待はできない。

でも、そういう縛りのない事業会社群は、この超低金利下で膨大なキャッシュを阿呆みたいに持ち続けていてもどうしようもないし、前回記事に書いたようにベンチマーク低下で直接調達もやりやすくなってるわけだから、なんらかの行動に出る可能性は高まっているよね。

FT Alphaville記事によると、UBSのアナリストの見解としては、これだけのCash Hoardingをやっているのは、(De-Leveragingのサイクルが終了し)ふたたびレバレッジを掛ける【Re-Leveraging】の予兆、とみなしているらしい。

MHJ筆者は、①クレジットカーブがまだスティープな状態にある、②ソブリン関係で不確定要素が残っている、③金融機関に対する金融新法や新規制の縛りがキツい、などの事情から、金融市場がすぐおいそれと派手なRe-Leveragingのフェーズに突入できるとは考えてはいないのだが、なにせ、ウォール街っつーところは、【懲りないひとびと】の集まりですからね。ジャンク債のスプレッドも目だってタイトニングしているそうだしな。

前回記事にも書いたように、米国債については、実際、長期的にみるとイールドが相当低下していることだし、「高値警戒」している市場参加者は少なくないはずである。でも、マクロ的に強気に出れる回復ストーリーがみあたらないから、ウジウジ全開やってるわけ。

ということで、個別企業の業績というミクロ的な視点からならば、近い将来に面白い話は出てくる「かもしれない」と筆者は感じているわけである。

さて、9月も終わった。

次回の米企業四半期決算発表の時期を控え、事業会社のミクロの財務ストーリーに注目したいと考えている。

Wednesday, September 29, 2010

マクロ低迷下でミクロ企業体にはバイバックの好機到来

前々回のMHJ記事『どっぷりベアマーケットの最中』で、超長期で米株市場を眺めると、現在の市場はまだまだベアマーケットの最中、P/Eがヒストリカルなレベルを大きく割り込むまでは相対株価は低下し続ける可能性がある、という話を紹介した。

ご承知のように、P/Eレシオ(PER=株価収益率)というのは、分子がPrice(株価)、分母がEarnings (収益)で、PERが低下するには、①株価が落ちる、あるいは、②(一株あたりの)収益が上がる、のどちらかが起こればよいのである。

①はともかく、②のシナリオは、一部の企業はミクロベースでは業績回復してきているのと、キャッシュが潤沢な企業の場合は株式のバイバックという選択をする企業も出てくるであろうから、EPS上昇は十分ありえると筆者は思う。

レバレッジがかかり過ぎた企業なら少しでもキャッシュがあれば借金返済の動きに出るところであろうが、デレバレッジング(deleveraging)もそこそこのレベルまでやりましたという会社なら、そこからの【キャッシュの使い道】を考えるだろう。

経済に不透明感が残る間はできるだけ財務の柔軟性を維持することに努め、キャッシュをじぃー・・・と持ち続け「機を待つ」という経営上の選択もあるだろうが、典型的な株投資家ならば、バイバックを期待するだろうね。

関連記事:
Right Now, I Prefer Buybacks To Dividends (The Motley Fool, 9/22/10)

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いずれにせよ、現在のところ、失業・住宅など米経済のマクロ環境がこのザマなので企業業績が力強く回復するといったシナリオにベットするのはこころもとない。とはいえ、ミクロレベルまで降りて観察・分析すると、米企業の多くはさほどギリギリな財務状態にはいない、というのが市場のコンセンサスになっている。

米株が方向感を失っているのも、不安定なマクロ環境に主眼を置くか、あるいは「さほどひどくもみえない」ミクロ分析に主眼を置くかで、市場参加者が受ける印象がずいぶん変わってしまうというのもあるのだろう。

しかし、マクロ要因で低金利が続く中で、ミクロ企業体としてバランスシートが良好であれば(つまり信用力が高ければ)、そういう会社にはおのずと「借りたければいくらでも借りられる」状態が生まれる。

今月初旬の記事だが、ウォール・ストリート・ジャーナルが、米ブルーチップの会社群が、まさに「借りたければいくらでも借りられる状態」-THE GOLDEN MOMENT -を迎えていると伝えている。

Blue-Chip Borrowers Issue Debt in Droves (WSJ, 9/8/10)

(WSJの記事より抜粋)

Corporate borrowers are enjoying a golden moment of super-low interest rates combined with a scramble by global investors for higher-yielding assets, given that cash is yielding nothing and the stock market stalled.

キャッシュで持っていてもリターンなし、株式市場は硬直状態 ―― そんな中で、借り入れした企業には、イールドを産む資産を求める投資家がグローバルで群がって、極めて低い金利条件で債券を発行できる黄金のモーメントが訪れている。

高格付けの企業は、期間10年という長期でも過去最低かそれに近い借り入れ金利でクーポン固定でロックインできるようになっていて、財務体質が健全な企業はイールド低下の恩恵を受けようと、企業債の発行が非常に旺盛になっているという話。

この起債ブームの皮切りになったのは、今年の8月、当時ツイッターでも紹介したが、ジョンソン&ジョンソン社が手がけた$1.1bnの起債だった。

このとき、非金融部門のトリプルA格優良企業による長期債発行は実に15ヶ月ぶりで、これより前にトリプルA格の企業が起債をしたのは、2009年5月にマイクロソフト社が$3.75bnを発行したのが最後だった。

J&J社の10年債はクーポン2.95%、30年債4.5%で、発行金額はそれぞれ$550mlづつ、このクーポンのレベルは、同社の発行金利レベルを1981年までさかのぼっても過去最低の水準だったという。

関連記事:
J&J Sells $1.1 Billion of Debt at Record-Low Rates (Bloomberg, 8/12/10)


システム全体でみたときの銀行融資残高があまり伸びていないので、政治家はギャンギャン銀行叩いてわめいているが、ブルーチップの大企業で信用力が高い企業であれば、直接調達であろうと、間接調達であろうと、資金はいくらでも出てくるわけである。

金利は安いし、ドル安でグローバル投資家はドル資産探して需要も旺盛、キャピタルコスト下げるためにも借り換え・借り入れを考慮しない手はない。コーポレートファイナンスの基本中の基本でありますね、これは。


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ここで話を、さきほどのシェア・バイバックに戻すとしよう。

数日前のブルームバーグの記事。シェアバイバックはサルでもできる芸当で、キャッシュの使い道として経営陣が想像力ゼロだといってるようなものだが、今ならバイバックは悪くないよ、という内容のブルームバーグのコラムニスト、David Paulyのコラムである。

Stock Buybacks Are for Dummies Except Right Now (Bloomberg, 9/27/10)

この記事によると、米株のシェアバイバックは実際増えていて、S&Pの調査では昨年(09年)のバイバックは総額$137.6bn、今年2010年は$300bnを超えることが期待されている、という。

そして、Paulyもこの記事中で書いているが、起債条件が緩んできているので、シェアバイバックを借り入れによってまかなう企業も結構出てきている。

そのひとつが、マイクロソフト社。

マイクロソフトの場合、もともとがキャッシュリッチな連結バランスシートをしているが、そのキャッシュのほとんどが海外オペレーションにあるため、自前のキャッシュを用いるよりも市場に出ていって資金調達するほうが有利と判断し、配当金を増やし、シェアのバイバックをすると言っている。

ここで懸念となるのが、2004年以降にクレジット市場のイケイケが嵩じて、企業は株式のバイバック資金としてがんがん借り入れしていたのが思い出され、「まさか、あの間違いを、再び辿るつもりではあるまいな・・・」ということであるが、当時と現在とで決定的に異なる点は、

クレジットカーブが、スティープな状態にいる、ということである。

(注:この場合のクレジットカーブというのは、縦軸は信用スプレッド、横軸を左から右に信用力の強いほうから弱いほうへ格付けでプロットしたもの、の話をしている。)

クレジットカーブは通常、明らかな右肩上がりの図になるのだが、クレジットバブルの頃は、このカーブがべったーーと寝てしまって、借り手の信用力の違いなどお構いなしに誰にでも貸しまくる、そういう状態にあったのである。

カーブがスティープな現在は、少なくとも、信用力の低い企業には、以前ほど簡単には資金は出てこない。

だから、筆者としては、「株バイバック資金を借金に頼るという不健全なサイクルが再び始まる」という懸念は、(いまのところは)さほど強くは持っていない。


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たしかに、クレジットのアベイラビリティは全般的に緩まっているという印象を筆者も受けるけれども、クレジットバブルが破裂してまだ数年、とりわけ銀行のような間接金融の世界では、そう簡単に貸す気はなさそう。

つまり、アベイラビリティの二極化が起こっている。(←これは日本もバブル崩壊後に経験した。)

強い企業にはジャブジャブ資金がまわるけど、弱小企業にはぜんぜん資金が回らない。

また小規模の企業は、一般に起債ロットが小さすぎて、直接調達の市場に出てくることも困難なこともあり、銀行が積極的に貸さないと中小企業の倒産が続き、そうした中小企業への貸し出しを扱う小規模金融機関の破綻も止まらないという悪循環になる。

そこで、オバマ政権は、つい先日、Small Business Job Bill というスモールビジネス向けに一部税控除と$30bnの融資保証を出して支援する法案に署名して新法が成立したが、どこまで効果があるかは、市場の見方は分かれている。

政策の決定打を見つけられないまま、株市場は夏休みを過ぎても出来高が下がり続けて、ダルダル。一方の米国債は、今年の春から一環して元気ハツラツ。

グラフは、上がS&P500、下が10年米国債イールド、ともに2010年YTDで同期間で並べてみた。




7月17日のMHJ記事『方向感を失ったヨーヨー市場』で、筆者は株が本格的に上昇トレンドに入るには米国債市場が不安定になるのではないか、米国債が強いままで米株が上昇しても一時的、と書いたのだが、7月以降は案の定の状態だ。

見方を変えれば、米国債がここまで強いのに、株価はけっこう踏ん張っているようにも見える。

ただし、米国債イールド推移を、もっと長期の過去5年で見ると(↓)、これまたずいぶんと下がってるんですよね。このトレンドがどこまで続くか、やや不安にならなくもない。




この10年債の過去5年推移のチャート眺めていると、なんとな~くエネルギー溜め込んでいるようにも感じるんだよなぁ。地震と同じく、溜めるにいいだけ溜め込んだエネルギーに耐え切れず、ある日、ビョ~~~ンと跳ね上がる、なんてことにならないといいんですが・・・。

いずれにせよ、こうしてベンチマークが下がりまくりで、企業債の起債ブーム。強い企業は、キャピタルコスト下げてバランスシートをさらに強くし、株バイバックでEPSを上げるミクロ的好機である。

でも、ここまで下がってもダメなところはダメ。二極化はさらに進むということか。

Tuesday, September 14, 2010

Ph.D.女子は増えたけれど・・・

14日付けのBloombergに、米国の博士号取得者は、いまや女性の方が多い、という記事。

Women Earn More Doctorates Than Men for First Time in U.S.
(Bloomberg, 9/14/10)

全米500以上の大学院が参加する Counsil of Graduate School が調査したところ、2008年―2009年にかけての学期のPh.D.取得者のうち、女性が過半数超えたとのこと。

同比率は、2000年の調査では女性44%、2007~2008年は49%だったということで、これまでも確実に「増加の道」を辿っていたわけですね。

これの背景として、専門家の説明は、

1)The milestone became inevitable because women have received the majority of bachelor’s and master’s degrees since the 1980s, building a pipeline of doctoral candidates.

(1980年代から、学士・修士ともに学生数は女性が過半数になっており、その下敷きを作ってきていたので、当然の結果が出たまで。)

2)The efforts of the women’s movement and increasing female participation in all parts of the labor market led to gains in Ph.D. programs.

(女性運動の後押しや、あらゆる分野における女性の労働市場への進出への努力が、博士課程での女性の地位向上をもたらした。)
などなど。

このサーヴェイは、全米の博士課程修了者の90%に相当する57600人のPh.D.を対象に調査された。

数は過半数を超えたという明るいニュースではあるのだが、その内訳詳細に踏み込むと、女性と男性とで、学問の分野などに「偏り」が顕著にみられる。

調査対象となったPh.D.取得者のうち、

  • 『教育学(education)』の分野でPh.D.を取得した者の67%が女性
  • 『看護学(nursing)』などを含む『健康科学(health science)』の分野の70%が女性
  • 『エンジニアリング』の分野では78%が男性
  • 『数学』および『コンピュータサイエンス』の分野では73%が男性

博士号を取得する女性の数は増えているが、高収入を得られる分野では女性の数は少ない。

また、アカデミックな分野での職業(例:教授)においても、女性はまだ男性よりも、数が少ない。

  • フルタイムの大学ファカルティに占める女性の割合は41%
  • シニアレベルの教授職になると、女性の割合は27%
  • 大学ファカルティに支払われる給与は、女性の平均は、男性ファカルティの80%

以上がこの記事の概略だ。

★     ★     ★

わたしの明治生まれの祖母は、自身ではさほど高い教育を受けたひとではなかったが、「女の子には教育がいちばん大事」と生前いつも口癖のように言っていたひとだった。

高等教育を受ける女性の数が、こうして増加していってることは、うちの祖母の時代からは考えられなかったことだろうし、たいへん、よろこばしい。

でも、理系の分野のPh.D.に女性が極端に少ないのは、ここアメリカにおいても、科学や工学の分野に女性を率先して送り込もうという態度は、社会的にまだ低いと筆者自身は感じるし、女性自身も、伝統的な性的役割(ジェンダー・ロール)において、そういう分野に抵抗感を感じるひとは、少なからず、いるのかもしれない。

筆者自身がテク関係は完全にアンポンタンで、自分でも呆れるほどのローテクなのだが、私が女性であるがゆえに、それは「不思議ではない」「あたりまえ」という社会的風潮があるのも、たしかだ。

ただし、そういう「あたりまえ」の社会的期待(Social Expectations)も、今後まだまだ変化してゆきそうだという予感を、昨年読んだ本の一冊に、感じた。

Alpha Girls:Understanding the New American Girl and How She is Changing the World』という、社会学の先生が書いた本。

この本は、ちょうど現在30代後半から40代ぐらいの母親達のもとに生まれてきたティーンエージャーのアメリカンな女の子達の現状をレポートしたもの。

彼ら若い女子たちは、自分の母親が抱いている性的価値観、女性観、女性の社会進出への欲求、その他もろもろを「実に古臭い考え方でついてゆけない、アホみたい」と切り捨て、「このわたしが、女性だからといって、できないことなんてある?あるわけないじゃん」とアッサリと言い切り、かつて母親達が壊そうと躍起になっていたグラス・シーリングなどの社会的バリアそのものの存在すら信じていない、というのだ。

すべての女の子達がそうだというわけではない。

だが、そういう中・高生の女の子達の数は目だって増えてきていて、そういう女子たちは、勉強もできるし運動もできる、なにやらせても自信にあふれてて、クラスの中でもリーダー格、男女ともにクラスメートから尊敬を集めたりして、本人も、自分がそういう立場にいることに何の違和感もない。

彼女達は、群れの中で【アルファ】になる。

すなわち「アルファ・ガールズ」というわけだ。

世代間の考え方の違いというのは、いつの世でもジェネレーション・ギャップとして存在していて、筆者が少女だったころも、「女の子として社会的に求められているもの」に窮屈さを感じていたものだ。

私の世代というのは、「男女平等はスローガンとしては当たり前だったけれど、統計的実態はそれを見事に裏切る時代」にいて、それを何とか壊したいという気持ちが一杯で、女性の社会進出をリキんで声高に叫ぶ世代であった。

でも、いまどきの女子達の中には、そういう母親達の世代を「うるさいオバサン達」、「古臭い」、「うっとおしい」と感じ、「何故、そんなことにこだわるのかしら。肩にチカラ入れ過ぎよ。バカみたい」と思っているわけだ。

「うるさいオバサン」のひとりとしては、そういうAlpha Girlsがたくさん出現してきているという報告を前にして、実は、なんだか非常に嬉しく頼もしく感じたわけであるよ。

女性は、男性は、と区別して叫ばなくちゃならないというのは、それぞれにくっついている性差の「社会的定義」が歴然と存在していて、それが窮屈だと感じるからに他ならない。

別に叫ばなくても、やりたいことあるなら、やりゃーいいじゃん、とさらりとフツーに言えることができる、それが「うるさいオバサン達」が、ン十年前に、理想としていた世界である。

★     ★     ★

ということで、最初に紹介した記事を読んで、「あー・・・Ph.D.の世界でも、まだ課題は結構あるんだなぁ・・・」という感想を持たずにはいられなかったわけではあるが、今後のアルファ・ガールズ達の活躍に大いに期待したい筆者である。

以前、元同僚が香港からNYに出張で来てて、彼にはローティーンぐらいの一人娘がいるのだが、彼にこの本のことをチラッと言及したら、「おぉ!それは、まさに、うちの娘のことだよ!」と叫んでいた。

アルファ・ガールの父親、ここにひとり発見。

彼は、そういう娘を持っていることを、すごく誇りにしているようであった。

おそらく、このブログエントリーを読んだ方の中で、そういうティーンな女子を持つ誇れる親御さんがいらしたら、手を上げてください。(笑)

さらに将来に期待を持ってしまうエピソードを最後に。

毎年、幼い女の子たちがあこがれる職業を選んで新作バービーちゃんを発表するマッテル社であるが、今年の2月に選ばれたのは、「コンピューターエンジニア」なバービーちゃんであった!

Barbie Becomes A Computer Engineer, Looks Nothing Like It
(URLESQUE, 2/12/10)

ギークな眼鏡なんかかけちゃってるわけなんだが(笑)、将来、コンピューターやエンジニアリングの分野でPh.D.取得する人たちの過半数がこういう【GEEK CHIC】な女子になるかは、いまのところ、まだ、定かではない。

Thursday, September 9, 2010

どっぷりベアマーケットの最中

前回のエントリーでは、10年間で見たらどうよ、という話で、米国株が日本株・欧州株と並んで、いかに冴えないことやってたかを確認し、暗くなっていたMHJ筆者である。

では、米国株式のトレンドを、さらに長期のトレンドで見ると、どうか。

Barry RitholtzのブログThe Big Pictureで、興味深い(しかし同時に気分も暗くなるw)チャートが紹介されてるのを読んだ。

Barry Ritholtzは、「カビ臭くなったP/Eレシオはそろそろ捨てる時が来たか」と題するウォールストリートジャーナルの記事に対して、この記事はポイントがずれている、正しく質問を投げかけるとすれば、「捨てる時が来たか」ではなくて「低下するP/Eレシオが何を意味するか」というものだ、と書いている。

Is It Time to Scrap the Fusty Old P/E Ratio?
(Wall Street Journal, 9/4/10)

この「正しい」質問に、ひとつの示唆を与えてくれるグラフが、これ。

(グラフは、Crestmont Research


1900年から最近まで、過去100年の株価およびP/Eレシオを対比させたグラフである。これによると、


  • 長期の株市場サイクルは、P/Eレシオの拡大・圧縮と一致する。
  • 長期のブル市場は、P/Eレシオが平均を下回って谷を迎えた後に始まる。
  • 長期のベア市場は、P/Eレシオが平均を上回ってピークを迎えた後に始まる。
  • 2000年に入ってからの株市場は下落しているが、P/Eレシオはいまだ平均を上回っており下降トレンドは続いている。
  • これが潜在的に意味するのは、現在の市場が長期にわたるベアマーケットの最中であるということ。

このグラフから読めることとして、Barry Ritholtz は、以下のように書いている。

Hence, a falling P/E ratio is not indicia of its lack of utility. Nor is it proof of “Fustyness.” Rather, it suggests that crowd is still feeling burned by the recent collapse in prices and increase in volatility. Thus, this is not about the market’s economic concerns, or sustainability of earnings. It is about psyche.

P/Eレシオが低下しているからといって、それがもう使えなくなったという意味ではない。P/Eレシオがカビ臭くなったわけでもない。むしろ、これが意味するところは、昨今の株価低下とボラティリティの上昇で人々が火傷したといまだに感じている(ためにある程度の価格を支払おうとする気持ちにならない)という意味だ。つまり、これはマーケットの経済的問題でも、利益の維持可能性の問題でもなく、精神状態とか気持ちの持ちよう(psyche)の問題なのである。

へ?「PSYCHE」の問題・・・?

その気になってきたら、人々は、もっと株を買うようになる・・・?

どうやら、Barry Ritholtzは、せっかくこのチャートを見る機会があったにもかかわらず、グラフをチラリと見ただけでCrestmont Researchのリサーチペーパーまでは、ちゃんと読むことはしなかったようであるな。


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Crestmont Research のサイトに行くと、Ed Easterling というアナリストによる米国株のP/Eレシオに関する四半期報告が掲載されていた。

The P/E Report: Quarterly Review Of The Price/Earnings Ratio
June 30, 2010 Update

実勢値によるP/Eレシオのヒストリカル平均は15倍付近、ピークは25倍付近、このレポートが書かれた今年6月末時点のP/Eは16.4倍だった。

このレポートの中に、1950年から現在まで60年間にわたる米国実質GDPの長期的伸び率のグラフがあった。


このグラフが示すように、米国のGDPの伸び率は、超長期でおよそ3%付近を推移していた。

それがここにきて、5年/10年/15年のトレイリングすべてで下降トレンドを示し、現在2%程度にディップしてきた。その理由に、2000年に入ってから2度のリセッションを経験したというのがある。

ここで、前述のBarryが出してきてた「正しい質問」に戻ろう。

過去のP/Eレシオ平均15倍が、超長期GDP増加率3%を前提としているならば、2000年からの10年間の2%という伸び率は、P/Eレシオにどういうインプリケーションを持つのだろうか?


(レポートより抜粋)

Stocks are simply financial instruments—a payment today for the right to future cash flows.(略)The level of return is determined based upon market rates (driven by expected inflation) and the probability of losses. For this discussion, let’s eliminate the impact of a change in inflation and the probability of losses…so it only leaves the future cash flows. For stocks, the future cash flow stream (over the longer-term) is driven by economic growth. Therefore, if economic growth slows, the future cash flows (i.e. dividends from earnings) from stocks also are reduced.

株式は単なる金融インストルメントに過ぎない。将来のキャッシュフローを得るために今日支払いをする。(略)リターンのレベルは、期待されるインフレーションで決定される市場レートと損失確率に基づいて決定されるが、議論のために、インフレ率の変化と損失確率はここでは省略し、将来のキャッシュフローのみを考慮することにしよう。株式にとっては、将来の長期に渡るキャッシュフロー・ストリームは経済成長によって決定される。従って経済成長が鈍化すれば、将来のキャッシュフロー(利益配当)も減少することになる。

The impact on stock market valuations—if we have down-shifted to 2% real economic growth—is a drop in the average P/E of about 6 points. As a result, the average would decline below 10 rather than the historical 15 (assuming a repeat of historical inflation cycles). The natural peak during periods of low inflation would be below 20 rather than near the mid-20s. Few economists, financial analysts, nor this author conclude that this has occurred, yet with the uncertainty of the expected future real economic growth rate, this issue should be better understood.

仮に実質経済成長率が下方にシフトして2%になったとすると、それの株市場のバリュエーションへのインパクトは、P/Eレシオの平均値が6ポイント程度低下することを意味する。その結果、ヒストリカルなP/Eレシオの平均は(過去のインフレサイクルをなぞると仮定して)これまでの15倍から10倍以下へと低下する。また、低インフレ下の期間の同レシオのピークも、20倍半ばから20倍以下へと落ちる。(経済成長率が2%にシフトしたまま今後も継続するのかどうか、)現時点で、エコノミストも、アナリストも、また自分自身も、それについては結論は出せずにいる。しかし、将来期待される実質経済成長率の行方がどうなるか不透明さは残っているため、この点についてはより深い理解が必要となろう。

このレポートでは、3つの今後の経済成長シナリオを立てている。


  1. Aberration (2%という数値は統計上の異常値である)
  2. Trend (2%の成長率に落ちてゆくというトレンドであり、このまま固定する)
  3. Reversion (一時的に落ちているが再び3%に戻って行く)


結論は、ここ10年間の実質経済成長率2%という数値の今後の行方が1と3のケースであれば、2%は再び3%に戻り、ヒストリカルのP/E平均15倍はそのまま生き続け、上述したようにいったん平均値15倍ラインを下回って谷を迎えれば、再びブルマーケットが始まる。(現在15倍を少々上回る程度だそうだから、ベアマーケットから脱出できるのは、そんなに遠い将来ではないかもしれないという期待が持てる。)

だが、これがもし2のケースで、超長期のトレンドとして、米国経済成長が鈍化のフェーズを迎えたとするならば、そこから暗示される妥当なP/Eレシオのレベルは、成長率3%のときの15倍ではなくて、平均ラインは10倍以下に低下、従って、P/Eレシオが新たにセットされた10倍というラインを下回るまではP/Eレシオは低下を続け、即ち、ベアマーケットは当分長期で続く可能性が残る、というものである。

キーになるのは、「精神状態(psyche)」というよりも、「GDPの長期実質成長率の行方」だということを、このリサーチは言いたいのである。

(より詳細は、レポート本文を読んでください。)

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このレポートの著者も言っているように、GDPの実質低成長が当分長期間で継続するかについては、現時点で断言できるものはない。

コンファレンス出席でいま日本に行っているらしいポール・クルッグマンが、8日付けのブログ記事で、日本のGDPの成長が落ち込んだ最大の理由は、高齢化による労働人口の減少というデモグラフィーが最大の原因である、という記述があった。

Japanese Demography
(Paul Krugman, NYTimes, 9/8/10)

米国の場合は、以前ここのブログで紹介したが、移民とその子孫のおかげで、40年後も労働人口が増加し続けるという推計がある。

米国の労働力は長期的に拡大する?
(Murray Hill Journal, 3/31/10)

クルッグマンの分析とこの推計をあわせて考えれば、米国のGDPの実質成長が超長期で2%に落ち込むと考えるほど悲観的になる必要はないような気もする。

今の段階ではわからない。

今日見たグラフで、唯一言えることは、「われわれは現在どっぷりベアマーケットの最中にいる」ということだけだ。

そして、経済成長率3%という超長期トレンドが維持されているというベターシナリオだとしても、一番最初に掲げたチャートをみれば、現在のP/Eレシオのレベルというのは、ブルマーケットに切り替わる寸前の「P/Eの谷」の過去のレベルよりもまだ高い。

つまり、現在落ち続けている米株のP/Eは、まだまだ落ちる余地があるわけである。