Saturday, February 21, 2009

NYダウ2002年来の安値‐国有化パニック

NYダウ平均、ついに7300台。ネットバブル崩壊後最安値をつけた2002年のラインまで落ちた。

金融株、とりわけ、バンカメとシティの株が【国有化懸念】で急落。

見てくださいよ、この2つの会社の90年代からの、株価の落ちようを。

グラフ上段がバンカメ(BAC)、下がシティ(C)の92年からの株価の動き
(情報は某ブログから拝借しました。)





すごすぎるっしょ・・・(絶句)。


この二つの銀行に関していえば、株式市場でのコンフィデンスは完全に失われたな。国有化されることを前提に株価が動いてる。

ここのブログでも紹介したけど、先週この2社の株価が急落したとき、米議会バンキング・コミッティーのクリス・ドッド議長が「国有化は考えていない」と発言してパニックを一時的に抑えた。ところが今回は、その同じドッド議長が「大手銀行の中に国有化される銀行も出てくるかもしれない」と発言したとたん、センチメントが一気に悪化、売り浴びせ。

そういえば、2002年ごろの日本でも、政府関係者や民間要人の発言、情報源も定かでないニュースなどでいちいち不安を掻き立てられ金融市場は右往左往していた。

筆者が当時書いてたレポートを引っ張り出して読んでみたら、2002年11月14日付のフィナンシャルタイムズだかどこだかに、当時日本経団連の会長だったトヨタの奥田氏が「2002年度中にもメガ銀行の一角が強制的に国有化される可能性が高い」と〝予言〝して、このニュースに反応した株式市場ではスペキュレーション花盛りで銀行株が乱高下した、という記録があった。(のちに奥田氏はこの報道を否定。)

いわゆる【ヘッドライン・リスク】ってやつである。

新聞の見出し(=ヘッドライン)などで流れてくる情報が、その真偽のほどを精査する前に市場が過剰に反応し、証券のボラティリティを高めてしまうリスクのことである。市場コンフィデンスが失われたとき、ヘッドラインリスクは大きくなる。

現在の米国株市場も当時の日本市場とうり二つ、コンフィデンスが失われた市場の特徴を呈していますね。


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一方のクレジット市場の連中は、この事態をどう見てるかというと、クレジット市場でも、バンカメとシティについては、ふたたび悲観論が台頭してきている模様。

21日付けの米債券市場情報によると、これら金融機関が発行する企業債の取引現場では、シティとバンカメはどちらも、金曜日1日で50bps(0.5%)も拡大し、5年シニアCDS(=Credit Default Swap)のクオートが、シティで750/700、バンカメで625/575だったという。

筆者もクレジット市場の前線に長く籍を置いてたことがありますけどね、総資産2兆ドルなどというとてつもない巨大商業銀行のクレジットにくっついてる値が、1日で50bpsも拡大したり、700bpsにも跳ね上がったり、なんつー事態は、そう頻繁にお目にかかれるわけではないんである。

債券サイドも、株サイドほどではないにしろ、相当パニくってるな。まさに異常事態。誰にも何も読めなくなってる。

シティ、バンカメ、ウェルズファーゴのCDSトレンド
(21日付ウォールストリートジャーナルから拝借)






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混乱が続く市場では、オバマ政権の「具体性に欠ける」アプローチに、ますます批判が高まってきた。

ガイトナーが先日発表した救済策では、金融機関に【ストレステスト】を実施して、大手金融機関が市場のさらなるストレスに耐えられるか否かを計ることになっているが、そのテストは来週から開始される。

【ストレステスト】というのは、幾通りかのプライス変動のシナリオをたて、そのシナリオに従って、金融機関が保有する資産に様々なストレスをかけてやり、予想される損失額が自己資本をどの程度毀損するか、「債務超過」になる可能性がどれくらいあるかを計測するテストのことだ。

そして、【債務超過】というのは、資産から発生する予想損失が自己資本を完全に侵食してしまい、負債額が資産額を上回る財務の状態を指す。

現在の株価の水準だけみれば「バンカメとシティの2社はすでに債務超過か、それに近い状態」と株式市場が判断している証拠だけど、以前もここに書いたように、「株式市場が債務超過だと思ってるみたいだから国有化しましょう」ってわけには、いかんのである。

国有化したまではいいとして、そこからさらに巨額の損失が出続けたら、その損失は全額国民負担になるんであるよ。それでもいいのか? そんな国有化後の二次損失まで視野に入れてホイホイ国有化に取り掛かる政府なんて、世界中みまわしたって、どこにもいません、っつの。

結局のところ、問題は「最終的に損失額がいくらになりそうなのか」という点に尽きるんである。

いまみたいに異常にハイパーになってる市場では、ハイパーな価格しか形成されない。そんなハイパーな市場価格を、損失推計のための参照価格にするわけにいかん。それに、理論価値と市場価値の間にあまりにも開きがありすぎるときは、理論価格だけを参照にするわけにもいかん・・・。

困ったもんだ。

・・・と思ってたら、今日(土曜日)のウォールストリートジャーナルに、米国でまたひとつ銀行が潰れた、という小さい記事があるのを見つけた。

Regulators Shut Down Oregon's Silver Falls Bank
http://online.wsj.com/article/SB123518443389938945.html?mod=rss_whats_news_us

破綻したのはオレゴン州にあるSilver Falls銀行で、総資産・預金残高それぞれ、わずか1億ドル超程度の小さなコミュニティバンクで、銀行支店も3つあるきり、という。今年に入ってから破綻した米銀の数はここを含めて14行。

地元の中堅どころの銀行が受け皿となって優良資産と預金は全額引き継ぐので、この銀行と取引のあった会社や預金者たちには問題なし。

ここまでなら、別にどうでもいい話なんですが。

問題は、記事の中の、次の文章ね。

『The FDIC estimated that the bank's failure will cost the government's deposit-insurance fund $50 million.』

(FDIC銀行預金保険機構の試算では、この銀行破たんにより政府の預金保険基金への負担は$50ミリオンになる模様。)


よろしいか。総資産$131ミリオンしかない小さな銀行でも、破綻すると、政府への負担金は$50ミリオン。

総資産対比で実に38%。簿価で資産総額100億円以上あるはずなのに、潰してしまうと4割の資産価値が吹っ飛ぶ、って話である。

銀行破たんの怖いところは、ここ、なんだよな。金融機関というのは資産総額が膨大だからね。

最終損失額が総資産に対して3割、4割という額になってしまう。ひどいときには9割超とか。これは、このコミュニティバンクに限ったことじゃない。いつもそうなんである。日本の破綻した銀行の処理も、20年以上前の米国でも、スカンジナビアでも、欧州でも、いつも、そう。

「ダメ」と烙印押されたら最後、資産を売却処理する過程で不良資産のみならず優良資産にまで極端なディスカウントがかかり、債務超過額が増幅されちゃうから、なんだ。

ミニチュア銀行ひとつで50ミリオンダラーズの国庫負担。じゃ、巨大銀行が破綻したら、どうなる?

バンカメとシティの総資産、バランスシートに乗っかってるだけで、それぞれ1兆9000億ドル。オフバランスになってる資産(証券化された住宅ローンや消費者ローンなど)も加えたら、整理対象になる資産総額は4兆ドル(400兆円)どころでは済まないサイズである。2行だけで日本のGDPよりデカイぜ。

それを「国有化」という形で国の支配下に入れて、資産整理して、リストラして再生させる?

口で言うのは簡単だけど、そのプロセスに伴う損失(コスト)を誰が取るの?

ガイトナーはじめ政府関係者が、あくまでも国有化シナリオを否定しようとするのは、この【コストの問題】があるからである。

市場は政府にもっと明確な態度で対処してもらいたがっている。でも、政府はこれ以上、国庫負担を増やすわけにいかないから、のらりくらりと、はぐらかしている。

このジレンマ、来週はどう展開するであろうか。


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1 comment:

Unknown said...

実はこのニュースかなりどぎまぎで見ております。Googleの株価表もしょっちゅう見てるし。この2つの行を国有化となったら、まじ世界中に大きな打撃を与えそうですね。今までの努力が全て水の泡になるくらい。日本丸はまじ沈没してしまいますな。