これを【戦略的デフォルト(Strategic Default)】と呼ぶ。
11月24日にポストしたMHJ記事で、モルガンスタンレーが不動産投資部門でしこっていた「クレセント」という商業不動産デベロッパーの会社の担保物件の鍵を、融資したバークレイズにお渡しして借金から【Walk Away】した、という話を紹介しましたけど、覚えておいでか。
今日(17日)のブルームバーグ記事で、モルスタは、サンフランシスコにもつ10本のオフィスビルのうち5本のビルからも同様にWalk Awayする、と伝えられた。
Morgan Stanley to Give Up 5 San Francisco Towers Bought at Peak
(Bloomberg, 12/17/09)
同記事によると、モルスタ(MS)は2007年に、80億ドルの不動産投資を行った。今回Walk Awayする予定になっているプロパティというのは、MSが2007年5月にブラックストーングループから25億ドルで買収したオフィスビル10本のうち5本。
MSにそれらを売ったブラックストーンは、2007年初頭にシカゴの不動産王サム・ゼル(※)の会社Equity Office Propertiesを390億ドルで買収していた。不動産を買って数ヶ月後には売り払う・・・つまり、当時流行りの【フリップ(Flip)】やってたわけですね。
(※不動産王サム・ゼルについては、1月8日付MHJ記事にも登場。)
この大掛かりなトランスアクションでモルスタがどれほどプレミアム払ったのかは知らないが、同社はサンフランシスコのオフィス街の中心に390万スクエアフィート(36万平米)のオフィススペースを持つに至り、SF最大級のオフィスビル所有者となった。
しかし、MSの見込みとは裏腹に、商業不動産の価値は2007年10月にピークをつけて以来、現在まで43%の下落。
こうした大型不動産投資プロジェクトに必要な多額の資金を調達するには、CMBS(Commercial Mortgage Backed Securities=商業不動産の証券化)市場の存在が不可欠であるが、そのCMBS市場での発行額は2007年の2370億ドルから95%減という。
最近、GSやJPMなどが政府支援(TALF)を受けない形で独自にCMBS発行に漕ぎ着けたといって、CMBSへのリスクアペタイトが戻ってきたと言う者もいたが、発行したといったって、せいぜい5億ドルとかのサイズ。2007年の2370億ドルという発行額と比べたら、比較にならない。CMBS市場は実質的に閉鎖されたままなのだ。
また米国の商業不動産へ積極的に融資をしていた中小の金融機関の破綻が続いており、今後も破綻数は増えると見込まれているうえ、銀行自身の貸し出し姿勢の硬直化で、一般融資という形でも、資金調達は困難になっている。
記事によると、サンフランシスコ地区でのプライム・オフィス賃料は3Q09に前年同期比で37%下落し、これは2001年以来最大の下げ幅だという。空室率も14%に上昇し、こちらは2005年以来最高。2009年に入ってからの9ヶ月だけで、サンフランシスコでは、140万スクエアフィートのオフィス面積がアヴェイラブルとして戻ってきたのだそうだ。
そもそもの部分で、失業率が増加してるんだから、全米のオフィス賃貸が活発になるわけないよね。
ということで、商業用不動産市場は、需要減、供給増、調達難の3点セットで急激に悪化が続いている。
そこに持ってきて、モルスタみたいに、担保価値がまだ下がっている最中に、担保物件にリボンつけて融資元の玄関に置いてゆくようなマネする借り手も出てきたりして、貸し手の銀行からしてみたら、これじゃ、どれだけ最終損失見込めばいいんだよ、って話である。
ブルームバーグの上記記事に、モルスタのスポークスウーマンの言が載っているんだが、これが
“This isn’t a default or foreclosure situation. We are going to give them the properties to get out of the loan obligation.”
「これはデフォルトでもなければ、フォークロージャでもありません。我が社は融資返済義務から抜け出すために、物件そのものを差し上げる、そういうことです。」
たしかに、法的な定義上は、デフォルトもしてなければ、フォークロージャにも至っていない。物件そのものも、おそらく、まだネットのキャッシュフローがかろうじて回っている状態なのだろうし(←そうじゃなきゃ、返せないでしょ)、すでに初期投資のエクイティ分は累積償却でぶっ飛んでしまったであろうモルスタからしたら、「実質」じゃなくて「実際」にバランスシート上債務超過が表面化する前に、ここらへんで足洗っておいたほうが得策、ってわけである。
それ故に「戦略的」。
しかしね、“戦略的”なんて言うとカッコいいが、要するに形を変えた【借金の踏み倒し】以外の何者でもないわけでして。
将来の価値下落のリスクを抱えるのは、他の誰でもない、物件をボーンと突っ返された銀行側である。
こういう動きが今後広がってくると、考えられることは、資金を提供する側は従来以上に慎重になる、すなわち、貸し出し金利に更なるリスクプレミアムが乗っかる、って意味だ。リスクプレミアムが厚くなると、それでディスカウントして現在価値が決まるんだから、プロパティの価値はさらに下落する。
モルスタのような【戦略的デフォルト】のプラクティスが一般化してくると、それは、一種の「構造変化」と見られるわけで、そうなると、たとえ需給の部分(シクリカル要因)が回復してきても、リスクプレミアムは厚いまま、という状況も想定しうる。
でも、それは、長期的には商業不動産市場にはプラスには働かない。
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【戦略的デフォルト】の動きは、商業不動産に限ったことじゃない。あえて『Walk Away』のオプションを選択するという動きは、一般個人の住宅融資にも広がってきていることを、ウォールストリートジャーナルが伝えている。
Debtor's Dilemma: Pay the Mortgage or Walk Away
(Wall Street Journal, 12/17/09)
この記事によると、530万件のアメリカ家庭が家の市場価値より2割以上高いモルゲージ残高を抱えており、うち220万件が5割以上の債務超過。
また、同紙前日の別の記事では、賃料が大幅に下がってきていて、今住んでいるのと同じ地区で賃貸を探せば、月々のモルゲージの支払いよりもずっと安く家を借りることが可能になっているため、あえてローンを払わずに追い出されるまで住んで、追い出されたら借りればよいと考える者が増えている、という話。
American Dream 2: Default, then Rent
(Wall Street Journal, 12/16/09)
こうした動きは、いまはともかく住宅市場を活性化させたいという政治的欲求が多分に働いている最中だから、あまり問題視されずに済んでいるが、これも長期的に見た場合、住宅ローン市場の市場規律を歪め、融資の最終的なプライシングに悪影響を及ぼすと筆者は思う。
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今週の月曜日、オバマはホワイトハウスに主要銀行のCEO達を呼び出して「もっと貸し出せ」と圧力をかけるつもりでいたが、呼ばれたCEOのうち3名(GS、MS、Citi)が「民間機で向かおうとしているが、DC空港の上空の天候が悪く着陸できない」と言い訳して、大統領からの呼び出しをドタキャンした。
JPMのCEOはニューヨーク本社から問題なく出席したが、彼は民間機は使わずにコーポレートジェットでワシントンDCに乗り付けた。公的資金も返したことだし、納税者のカネでプライベートジェット使っただのなんだのと、くっだらないことでチクチクやられることもなくなり、【敢えて】専用機を使うあたりが鼻っ柱の強いことで知られるJPMのジェイミー・ダイモンらしい、といいましょうか。(笑)
しかし、大統領直々の呼び出しに、そんな理由で不参加決め込むなんて聞いたことない。NYからDCなんて、東京ー大阪みたいなもの、行こうと思えば、電車だって車だって朝のうちに行けない距離じゃないよ。
今の政府と議会がやっていることは、モラルハザードの拡散は援護して、デフォルトリスク上昇は見てみないフリをする。ことあるごとに「納税者のカネで救済してやった」と皮肉くることは忘れずに、公的資金早期返済のインセンティブだけを強めるマネをしておきながら、一方では「貸し出せ、貸し出せ」と政治的圧力をかけ続ける。
これでは、銀行経営側だって、「やってられっかよ」となるでしょうよ。
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2 comments:
Trinityさん N20です。私のブログをご紹介して下さって本当にありがとうございます。お礼がこんなに遅くなってしまい 穴があったら入りたいくらい恥ずかしいです!
3週間ほど前に車をぶつけ 先週やっと修理が完了したのですが、今度は 雪の為 道路がアイススケートリンク化して 運転出来ません。ここのところ 日中の最高気温が プラス1度以上にならないので 夜中に少し降った雪が朝には凍り そのまま また 夜を迎えるという悪循環。この2日間は 久し振りにバスを使って 移動しています。
来年春 一時帰国ですか?いいですねぇ。私も帰りたいけど 子供の大学受験が終わったら ゆっくり考えます。お台場借り切ってのパーティー 羨まし~~い!しかし 何十年 イギリスに住んでも 私は 日本の居酒屋で 厚揚げ豆腐などをつまみながら 飲むのが好きです。根っから 国際人になれない人間なんです、私(笑)
>N20さん
いえいえ、N20さんのブログ『ロンドンFX』は、ロンドン発ほやほや湯気立つ情報が多く、愛読させていただいてます。米市場はいまは、為替に引きずられる展開になってますし、為替をようやらないわたしも参考にさせていただいております。今後もどうぞよろしくお願いします。
ロンドンの冬はキツイですよねぇ。NYよりキツいです。湿度が高いってのか底冷えする感じで、空は一日中どんより暗いしで、冬にロンドン行かされるときはいつもウンザリしてました。
米東海岸も今週末は大雪に見舞われましたが、こういうときは下手に出歩かずにTVの前でジッとしてます。市場も休日モードで、もう誰も働いていないですしね。
お台場で大パーティするときは招待状をお送り致しますので参加してください。(って、そんなパーティ、ないっつの。笑)お子さんの大学受験、Good Luck!
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