Saturday, November 28, 2009

「政府保証債じゃなくても事後救済」の危険



さて、ドバイ、である。

ツイッターでも何度かアップデートしたように、売れそうな資産をアブダビがつまみ食い方式で買ってくれるんじゃないか、とか、アラブ首長国連邦の中央銀行が保証を出してくれるんじゃないか、とか、豪華客船クイーンエリザベス2号を売りに出すんだろうとか、いろいろ話は出てきておりますが、今、これを書いている段階では、基本的な流れとしては、周辺のアラブ諸国(とりわけ、オイルリッチなアブダビ)に支援を仰ぐ、という路線で進みそうだ。

(しかし、ドバイ関連の記事を読みながら思ったが、(1)資源がない、(2)ガンガンに借金してガンガンにインフラ作りと不動産開発、という2点のみ取り出すと、日本国に似ていると言えなくも無い。)

今週末のウォールストリートジャーナルは、ドバイの一件でソブリン債につくCDSの水準が広がり、これが信用力が相対的に低い国のソブリン債全体に対して危険信号を点すことになるのではないか、という記事を掲載した。

Dubai Jitters Spread, Infecting Debt of Sovereign (WSJ, 10/28/09)

このWSJ記事に、各国のソブリンCDSのプライスが11月20日から27日までの一週間でどう動いたかのグラフがある。




ちょっと横道にそれるが、CDSに不慣れな方のために、グラフの見方を少々説明しておくと、このグラフは参照になるキャッシュ債券$10ミリオンに対してCDSを買った場合、いくらのプレミアムを払うか、というグラフである。ドバイにつられて他国の国債に対するCDSも上昇したのがわかる。

CDSというのは、ある債券を参照にして、その債券に何かあったときに額面を満額保証しますという一種の保険だというのは、以前「小学生のためのCDS」シリーズで書いたが、CDSは一本$10ミリオンの債券に対しプレミアム(単位はベーシスポイント=bps=100分の1パーセント)で売買される。$10ミリオンに対して67万5千ドルのプレミアムがついている、ということは、そのCDSは675bps(=6.75%)で市場売買されている、という意味だ。

このグラフのドバイのソブリンCDSを見ると、ショック寸前までは、ドバイ市国が発行した債券に対するCDSは、プレミアムが325bps程度だった。ところがショック勃発とともに550bps程度まで跳ね上がり、その翌日はさらに上昇して675bpsになった。参照債券のリスクが高まったとみなされると、CDSのプレミアム水準は上昇する。

CDSのプレミアムは、参照債券のクレジットスプレッドそのもので、証券価値と原則ミラーイメージになっているから、(A)もしも、あなたがドバイ市国債を現金出して買って持っているだけ(リスクヘッジしていなかった)なら、あなたの投資は暴落で大損、(B)もしも、その保有する国債に対してCDSを買って保険かけてたら(ヘッジしてたら)あなたの損失分はCDSの売り手(ライター)が代わりに取ってくれるので、中和されて損失ゼロ、(C)もしも、あなたがCDSの売り手だったら、あなたは損失を引き受けるわけだから大損、(D)もしも、あなたが参照債券(ドバイ国債)そのものは保有していなくてもCDSだけを買っていたならば、300で買ったものが675になるんだから儲け、と言う風になる。

★   ★   ★

で、このソブリン債に話を戻すと、ドバイ・ショックのせいで、世界のソブリン債への信頼がゆらぐのではないかという見方がある。
ただし、報道ではゴッチャになってるけど、綿密にいえば、今回デフォルト起こしそうになってる問題の債券の【発行体】というのは、【ドバイ政府そのもの】じゃないんですよね。

債券(借入金も含む)の発行体は、Dubai World Group という持ち株会社と、その完全子会社である Nakheel という不動産デベロップメント会社であって、ドバイ政府はDubai World Groupの100%株主である、という位置づけなわけ。

Dubai World Groupが借金する際に、ドバイ政府が【明示的に】(←契約文書の中に明言してあり法的拘束力を持つ、という意味)、Dubai World Group自身が産むキャッシュフローで払えなくなったら、政府が替わりに立て替えます、という保証がつけているわけではないんですよね。

ただし、このDubai World Groupという組織の100%オーナーがドバイ政府である、というだけで、そこにあるのは、【暗黙の】保証関係なわけ。

基本的に不動産デベロップメント目的で借り入れた融資や債券であるからして、その資金が向けられる先は、「高リスク」だということは、あらかじめ、貸す側もわかっているんである。また借りる相手は、直接、政府自身ではなくて、「政府と関連のある企業」が借りているんである。

だから、貸す側(Creditor=債権者)は、それらのリスク要因を加味して、政府債よりも高めに金利を設定する、すなわち、リスクプレミアムを要求してたわけである。

政府関係機関が発行する債務で保証がつけられてるものは「政府保証債」と呼ぶんだが、このドバイ・ワールドのは「保証債」ではない、との話。

この点について、27日付けのフィナンシャル・タイムズで、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの教授のウィレム・ブイター(Willem Buiter)が『ドバイワールドの債権者を救済すべきではないとドバイ政府に物申す』と題した論説を書いて、正論を吐いている。

Polite suggestion to the Dubai sovereign that creditors of Dubai World not be bailed out (Financial Times, 11/27/09)

ブイター教授の論説から、以下一部引用。(翻訳byMHJ筆者)
It is of the utmost importance that governments throughout the world learn the lesson that providing free ex-post default insurance for any debt, including debt issued by 100 percent government-owned companies, is unwise and counterproductive. The sovereign is on the hook only for sovereign and sovereign-guaranteed debt - that’s why they are called that way.

世界中の政府はこれを機に学ぶべきである。政府が100%株主であるエンティティが発行する債務も含め、ありとあらゆる債務に対して、事後的にタダでデフォルト保険をかけてやることは決して賢いとは言えず、むしろ、非生産的である。国家(ソブリン)は、国家そのものが発行体である国債と、政府保証債にのみ責任を負う。だからこそ、それらはソブリン債と呼ばれるのだ。

(中略)
Given the severely-impaired fiscal-financial positions and prospects of so many countries, the notion of a sovereign of one of these countries assuming responsibility for any debt that is not sovereign or sovereign-guaranteed is ludicrous. Even banks and other financial institutions that would in the past (when fiscal pockets were deeper) have been considered too big and too systemically important to fail are now too big to save. Ireland’s government could not today afford to guarantee virtually all of the liabilities of its banking system, as it felt compelled to do at the beginning of this year.

多くの国々が非常に厳しい財政状態と財政見込みに直面するなかで、国債でもなければ政府保証債でもない債権をソブリン債として扱うこと自体が馬鹿げている。国家の財政の懐が豊かだったころなら「大きすぎてつぶせない」とか「システム上極めて重要」と考えられていた銀行ですらも、いまや、「大きすぎて救えない」に変わり果てたのだ。アイルランド政府などは、年初には同国の銀行システムは救済措置が必要と感じていたが、いまでは銀行システムが抱える債務をすべて保証するのは現実として無理になってきているのだ。

Fortunately, property companies don’t fall into the systemically important category. Their collapse is painful for their shareholders, creditors and, if the local labour markets are weak, their employees. They are not, however, systemically important. Their collapse will not threaten the delicate fabric of financial intermediation. They are fit to fail. Creditors beware.

幸いなことに、不動産デベロップメントの企業は、システム上重要というカテゴリーには入らない。崩壊すると、株主、債権者らには多大な痛みが引き起こされるであろうし、もしその地の雇用状況が弱弱しい場合はその企業の従業員にも痛みは及ぶだろう。しかし、不動産ディベロッパーはシステム上重要とはいえない。彼らが崩壊しても、デリケートな金融仲介という機能を脅かすことはない。デベロッパーは破綻してもかまわないのだ。債権者達よ、覚悟しておけ。



うむ・・・まさしく正論ですな。

Dubai Worldを救済することは、Too Big To Failを際限なく拡大していくことの危険にも等しい、と教授は言う。

とはいえ、【暗黙保証(Implicit Guarantee)】【明示的保証(Explicit Guarantee)】の境界線は、100%株主の場合、結構つけづらい。ここらへんは、信用格付けを付与している格付け機関も、何かあったときには暗黙のサポートが施されるという期待を、格付けシンボルの中に実際織り込んでいるわけだし、債権者と債務者の間でプライシングがなされるときも、暗黙の保証は、プライスに織り込まれるからね。

ブイター教授の言ってることは正論だけれど、潰してしまったら、資産価値が急激に悪化して最終的な債務超過額が何倍にも膨れるという別の側面もありますしね。
Dubai World、救済すべきか、すべきじゃないか。悩ましいところかも。


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6 comments:

Anonymous said...

はじめまして。
いつも非常に勉強になる記事を本当にありがとうございます。
ドバイの件、ニュースサイト見ても、今後株価や為替にどう影響してくるのかよくわからないことが多かったですが、明示の政府保証がないため、アブダビその他が救済するかしないかで大きく変わってくるということがよくわかりました。
非常に参考になる英語ソースの記事を訳して解説していただき、重ね重ね感謝しております。
毎週末記事がアップされるのを楽しみにしております。

日本のしがない一個人投資家より

現物くん said...

生のレポート、お疲れ様でございます。NY庶民の購買意欲について、日本にいながら手に取るようにわかりました。インターネットってすごいなあ(笑)。

「まだ下がるだろうから、下がってから買えばいいや」ってのは、デフレ下の購買行動そのものですな。そのうちさらに冷静になって、「やっぱいらないかも」になったり「給料下がって買えなくなっちゃった」になったりするんですよね。あーやだやだ。

話変わって、まだ誰も指摘してるのを見たことないんですけど、9月高値以後のダウとナスダックのトレンドの違いを見るにつけ、ついにNYも3月以降のブンブン状態が弱まりつつあるなーと感じている今日この頃です。やっぱナスダックのほうが景気先行的でしょうし。半導体指数とか悪くないはずなのに・・・。

TrinityNYC said...

>Anonymousさん
コメントありがとうございます。今後も引き続きよろしくおねがいします。



>現物くんさん
生のNY庶民情報アップデートを申し上げますと、昨日、犬の散歩で通ったストリートは、どこも週末のお買い物の残骸パッケージがゴミとなって捨てられておりました。大型のフラットパネルTVの包装パッケージがどの道にも捨てられてましたので、やはり、みんなTVが欲しかったと思われます。(笑)しかし、メーカー別では、日本メーカーのパネルTVよりも、サムソン、LG、Vizioと言った少し安めの価格帯の箱ばかりがゴミの中に目立ち、洋服と同様に、エレクトロニクスも安いほう安いほうへと流れているように感じました。庶民感覚ゴミのアップデートですみません。(笑)

ナスダック、大御所がどこもパッとしないってのか。DELLも米国では台湾勢のネットブックに押されまくってて、なんかなーって感じですしね。従来どおりの経営を続けてたらダメってことなんでしょうね。戦略で目新しいものを出してこれそうなら、個人的には、注目したいところは数社ありますが。

LuciFer said...

最初ツイッターにてMacy'sに行くつもりと聞いたときは普段そんなところに行きそうにもないように見えたから
(思い込み入ってます 笑)

どうしてかな~と思いましたが、偵察に徹されていたようで脱帽です。このような目的でフィールドワークする場所の設定としては他所も含めて文句なし! また、百聞は一見に如かずで画像が多用されていてわかりやすいです。1920~30年代のシカゴ学派のかおりがします。

一番興味をひかれたのはMacy'sの婦人靴売り場総イメルダ化現象です。婦人服売り場はガラガラなのになぜ靴なのか?アメリカ人にとって服と靴はほとんど同じ意味を持つように思われるのになぜ靴か(この前提が間違っているのか)? 服よりも靴の方が直接身体に与える影響の方が大きいからか?ただ単に割引率が大きいとか、目玉商品があったからか? いろいろ思うところがありますが、これを解明するには(爆)さらなる調査が必要ですね(笑)。真実はこのようにえっ何でかな?、と感じるような現象の背後にあるように思います。
というわけで私にとってはかなり面白いレポートでした。

同様にツイッターにおけるブラックフライデー後に路傍で見かけた空き箱から「薄型テレビ売れ筋を推測する!」
も興味深かったです(この記事今探しても見つからなかったのですが、削除されたのですか?)。

後半(あるいはこれが本題?)ドバイ
CDSに不慣れな読者(例えば私)に対してとても分かりやすく親切に書かれています。特にCDSのプレミアムのあたりとか、そして最後にLSEのウィレム・ブイター教授がいっていること、私も正論だと思います。

追伸:上のコメントで注目したい数社って、どこでしょうか(笑)興味津々。DELLはHPQが勝ち組なのに対して、負け組になっているみたいです(私見)。

TrinityNYC said...

>LuciFerさん

庶民ゴミ感覚アップデートは、ツイッターではなく、このポストのコメントへのレスで書いたのです。LuciFerさんのコメントのすぐ上です。(笑)我が家のお隣さんの家にも、50インチのテレビが配達されました。メーカーは韓国LG。彼いわく、Sonyを買おうと思って行ったけど、お店で実物を見比べてみたら、日本製と違いがわからなかったから安いほうにした、だそうです。やっぱ、皆、プライスセンシティブになってるんですねー。

ところで、HPQは実は自分の注目してる一社です。(笑)新製品シリーズ投入で台湾勢とどこまで張れるか。価格的にはまだコスト競争力がないような気もするんですが・・・。2009年のアップル独壇場という図は、2010年に早くも崩れるという気がしてて・・・さて、どうなりますか。こんごも、庶民が集うエレクトロニクス販売店に足しげく通い、偵察を続けますわ!(爆)

Anonymous said...
This comment has been removed by a blog administrator.