今年は「米国が第2の恐慌に陥るリスクに直面して始まり、回復への道を歩み出して終える年」(“This is a year that began with America facing the risk of a second Great Depression, but is ending with America on the road to recovery.”)だったとガイトナーは言い、米政府の様々な施策が功を奏し2010年に入っても経済回復は継続される見通しだと述べた。
「第2の金融危機はもう来ない」と言い切るガイトナーに、ラジオの司会者は「どうして、そこまで言い切れるのか」と食い下がった。それへの長官の答えは、スポ根的精神論。
When you have the will to act, we have substantial ability to prevent that, and we'll do what's necessary.
対処しようという意志さえあれば、それを阻止する多大な能力を我々は持っており、必要な手段に打って出る。
一心、岩をも通す。(財務長官が『史記』の愛読者だったとは・・・。笑)
ま、この場合の「will(意志)」というのは「Political Will」を指すのであろうけれど。
(Political Willの欠如については3月16日付MHJ記事『Political Willの欠如が最大のリスク』を参照。)
筆者からみると、今年は政界もジャーナリズムも(それに煽られる世間も)「ウォール街=邪悪」という図式に終始した年だとも思うし、その怒りの矛先として、ウォール街インサイダー出身であるガイトナーに非難が集中した、そういう年にも思う。
このNPRのインタビューでも、せっかく財務長官をゲストに迎えながら、金融システムの健全性やグローバル経済の現状などの重要な話題にはあまり触れず、どうでもいい下世話なトピックにやたら時間を割いていた。たとえば、こんなくだり。
What do you say to people who feel that you're too close to too many of these bankers. You often lunch with them. You socialize with them. There are - reporters have looked at your phone records and seen that they're the first calls you make in the morning and the last call you make in the evening and sometimes calls are made directly before important meetings or important decisions are made regarding their future. What do you say to that - is that appropriate?
あなたがウォール街のバンカー達と親しすぎると感じている人たちには何と言いますか?あなたは彼らとしょっちゅう昼食を一緒にとったりしているし、レポーターはあなたの通話記録を調べて、あなたが朝一番にかける電話も一日の終わりにかける電話もウォール街のバンカー達で、重要な会議の直前や、彼らの将来に関わる重要な決定がなされる前にも彼らに電話を入れていると言っている。それは(財務長官として)適切であると?
ランチ・・・通話記録・・・
NPRの一般視聴者の興味のあるところとはいえ、戦後最悪の金融危機をくぐり抜けた2009年という重要な一年の終わりにですよ、米国の財務長官が答えなくちゃならない質問が、これかよ?
いつからNational Public Radioは「徹子の部屋」になったのか。
経済であれ、外交であれ、軍事であれ、米政府が直面しているありとあらゆる問題には必ず「中国」が顔を出した2009年。来年はその脅威はさらに強まと予想される、そんな瀬戸際に来ているときに。米国債大量発行で金利上昇したらどうなるんだとみんなドキドキ始めてる、そういうときに、「電話かけてたでしょ」って、あんた・・・。
トランスクリプトのこの部分を読んだとき、筆者の脳裏に、あの名曲がBGMで流れたことは言うまでもない。
★ ★ ★
ガイトナーは、Newsweek誌の年末インタビューにも登場した。こちらのインタビューは、NPRよりマシな内容で、多分、日本版のニューズウィーク誌に掲載されてるんじゃないかと思うので本文はそちらで読んでもらうとして、ガイトナーはその中で、こんなことを言っている。
GROSS: There are other costs associated with these efforts, like the weak dollar and the Fed's large balance sheet. Shouldn't we be worried about them?
GEITHNER: I don't see that with the dollar. When fear was most acute, people wanted to be in Treasuries and hold dollars. Even today, when you have moments of darkness, people want dollars. The Fed's balance sheet is larger because it understandably decided to run a monetary policy to break the recession. But there are other costs not captured by what we've discussed. The government will bear losses in AIG, the automobile companies, and in Fannie and Freddie. But the losses there will probably be lower than what people think, too.
(インタビュアー)金融市場を下支えする施策には他のコストも伴いましたね。例えばドル安が進行したとか、連銀のバランスシートが膨れ上がったとか、これらについては不安はないのですか?
(ガイトナー)私はドルについては心配していない。不安が急激に高まったとき人々は米国債に投資して米ドルを持ちたがった。連銀のバランスシートが膨張した件についても、リセッションを阻止するために必要な金融政策を決断したのだから、そうなるのも無理はない。だが、ここでまだ話題に出てきていない別のコストがありますね。政府は、AIG、自動車会社、ファニーとフレディから出てくる損失は取らざるを得ないでしょう。でも、その損失額はまわりで考えられている金額よりはおそらく低い額で済むと思います。
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「損失額はまわりが考えてるより低い額になる。」
このインタビューがNewsweekのサイトにポストされたのが21日。この発言の舌の根も乾いていない数日後(正確には、クリスマスイブの24日午後3時)、財務省は、ファニーとフレディに対し、政府による救済措置の上限それぞれ2000億ドルを向こう3年撤廃し、2010年から開始されるはずだった両社のバランスシート縮小プランも当初予定より先延ばしすることにする、と発表した。
財務省発表のプレスリリースはこちら。
ファニーとフレディを監督している政府関係者が「今の救済措置じゃ足らないと財務省に泣きついて交渉しているらしい」という話は、今月半ばにブルームバーグなどですでに報道されてたので、今回の財務省の発表自体は、トータルサプライズというわけでもなかった。2社の抱える住宅融資のポートフォリオから損失発生が止まらないというのも、よく知られた話であったしね。
とはいえ、筆者にとってサプライズだったのは、「上限まるごと撤廃しちゃった」という部分ね。向こう3年リミットなしでサポートします、ってんだから、ギョッとするでしょ。「救済資金=No Limit」みたいなことって、財務省の一存で決められるもんなんですね、知らなかったけど。
本題に入る前にまずは、ファニー(FNM)とフレディ(FRE)救済資金についてのFACTSをいくつか整理しておきたい。
*2008年9月、両社に対する救済措置が取られた。措置の見返りに政府は8割株主となるワラントを受理。
*当初救済措置は3本立て:(a)「自己資本強化」が目的の、Preferred Stock Purchase Agreements (PSPAs)=資本注入する、(b)「MBS市場円滑化」が目的の、MBS Purchase Program=財務省が新発MBSを買う、(c)「短期流動性サポート」が目的の、GSE Credit Facility。
*このうち、(b)と(c)は今年12月末日で予定通り終了。(b)については財務省のエージェンシー債買取実績は総額2200億ドル。(c)は未使用のままクローズされる。
*今回変更対象となった(a)については、アグリーメント締結当初はそれぞれ1000億ドルを上限にしていたが、2009年5月に枠は倍の2000億ドルに増額され、2社合わせて救済資金枠は4000億ドルになっていた。
*今回出された変更箇所は、(1)4000億ドルの上限がかかっていたのを、「向こう3年間累積される損失により資本減少が起こった際は対処するに必要ないかなる額も提供する(to increase as necessary to accommodate any cumulative reduction in net worth over the next three years)」という文言に変更し上限撤廃。
*(2)さらに、両社が保有するモルゲージ資産額の段階的減少プランについても柔軟性を持たせ、2009年末時点の残高から一定率(毎年10%)で減少させてゆくという予定だったのを、保留額上限(それぞれ9000億ドル)を超えないようにするという文言に変更。←これは、削減目標値達成のためだけに「両社が資産売却に走らなくてもよいようにする」のが狙いである。
以下に、具体的な数字をいくつか。
*発生した信用コスト:2Q07から3Q09までの9四半期累損で、2社合算で$188.4bn。(←資本基盤が毀損しPSPAsから注入仰いだ。)
*PSPAsに基く資本注入額:FNM=$60bn、FRE=$51bn、合計$111bn。
*保留モルゲージ資産額:FNM=$771.5bn(10月現在)、FRE=$761.8bn(11月現在)。(ともに上限は$900bn以下。つまり、新ルール下では資産拡大余地あり。)
*政府と連銀のエージェンシー債買取額:2社合算で、財務省=$220bn、連銀=$1.1tn。
*資金調達に関わる政府援助:調達として新規発行された債券の連銀による買取=$124.1bn。(これは連銀のMBS買取プログラムとは異なります。)
昨日のBusiness Weekの記事によると、米国の個人向け住宅モルゲージ債務は$11.8tn規模、うち$5.5tnがFNM/FREのいずれかに保有されているか保証を受けている、という。また、今年オリジネートされた新規モルゲージの75%はFNM/FREのファイナンスを受けたという。
GSEとその問題については、Murray Hill Journal 9月30日付の記事『自作自演の市場回復の果てはブラックホールの恐怖』で取り上げたので、Primerとして参照してください。
覚えておられる方もいると思うが、FNMとFREのほかにFHAってのもいるんだよね。FHAが新規にオリジネートされたモルゲージローンの20%に保険かけてやってたわけだから、FNM+FREで75%、これにFHA=20%加わって、今年は新規住宅融資の95%が「政府の息がかかってた」というわけ。
このMHJ記事で紹介したフレディの会長の言葉を借りると「政府系のGSEがなければ米国のモルゲージ市場は存在してない」。
★ ★ ★
それほど重要な役割を果たすGSEゆえ、この局面で「バランスシートに債務超過(Negative Net Worth)が表面化し、事業継続不可のため清算への道・・・」なーんてことになったら大事(おおごと)なんである。
ってか、そんなシナリオは、最初から存在“すら”していない、とでもいおうか。
ということで、必要とあらば支援拡大はなされる、と大筋が期待していたわけだが、上限完全撤廃するとはなぁ・・・。
財務省によるこの動きのインプリケーション(示唆するところ)としては、
1) FREやFNMの財務状況が、いよいよ大幅な債務超過が表面化しそうなところまで迫ってる。
2) 政府が、FREとFNMをビークルとして利用して、モルゲージ市場テコ入れの一段の政策拡大(しかも大規模)を目論んでいる。
3) 財務省は米国債イールドの上昇に伴う住宅ローン金利の急上昇を予想している。
まずは、1.の財務の現状としてFREの3Q09決算数値を実際に見てみた。
(続く)
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2 comments:
こんにちは。
MHJ、いつも大変楽しみにしています。
GSEs、問題の核心ですね。
続きの記事もワクワクです。
米国そのもののような住宅ローンの巨大プール、まるで超大型タンカーの動きのように着実に悪化していますが、反転するかそのまま港に突っ込むか。
“スローモーションで見るホラー映画”は続きますね。
>vespaさん
レス遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。記事の続きは、すぐ翌日書くぞ!と思ってたのですが、ダラダラしてたら、年が明けちゃいました。気合を入れないと、このまま、成人の日までダラダラしそうなので、がんばります。(笑)
ただし、データでは、2009年中に債券投資に向かった資金の巨額さに比べると、株式投資からは資金はもう何ヶ月も連続して流出している状態ですので、債券投資に回っていた資金が2010年に株式側に回ってくるというテクニカル要因が実際にドミナントになれば、また株価は上がるかもしれないですね。連銀の出口政策もリアリティ帯びてきましたし、2010年は個々の企業のミクロ的なファンダメンタルズよりも、マクロでの資金の流れに翻弄される傾向を増し、うねりの大きな年になるのでは・・・そんな風にいま感じています。
今年も引き続きよろしくお願いいたします。
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