Monday, December 21, 2009

米国債発行上限問題は来年も蒸し返し確実

米国債発行法的上限を今年中に上限引き上げておかないとヤバイという話が秋ごろから出てきていたというのは、9月12日付けMurray Hill Journalでお伝えしていましたが、いよいよ年の瀬も迫り、ギリギリまで伸ばされていたこの問題も、先週(12月17日)下院が上限引き上げにOK出して、ひとまず乗り切りそうである。

ただし、当初は2兆ドル引き上げの予定だったわけだが、先週下院を通過した額は(たったの)2900億ドル

House approves $290 billion increase of debt ceiling
(AP, 12-17-2009)

記事中にもあるように、民主党側は来年の中間選挙前に上限引き上げの採決を議会に再び持ち込むのは得策ではないと考え、できれば、今年中に一気に2兆ドル引き上げて余裕を持たせておきたいところだった。

しかし、これも前述のMHJ記事に書いたとおり、夏の終わりから共和サイドは保守勢力を中心に反オバマ色を強めていて、共和サイドの反発は必至だったし、さらには、民主党内でも財政赤字膨張に対する警戒モードが点滅し始めており、民主リベラル組も、当初の2兆ドルという目標は現実問題として無理、と悟ったようだ。

2兆ドルどころか、2900億ドルの引き上げ額ですら、今回の下院での投票数は、賛成218/反対214 という、ギリギリの綱渡り状態。

とはいえ、議会がダメって言うから米国債はもう発行できせませーん、などとは、口が裂けてもいえないのは、共和党とて事情は同じ。

ということで、共和側も、ひとまず、12月末まで足りない分だけでもなんとか、ってやつである。民主リベラルを政治的に料理するのは、中間選挙のあたりでジックリやりまひょか、ってね。

しかしね・・・

こうやって、米議会の連中が民主だ共和だと分かれてポリティカルゲームにいそしむばかりで、「国家財政、マジ大丈夫っすか?」という本質論の方は、わかったようなわからんような話ばっかやってて、期限が来るたびに、大昔の加藤茶みたいに「ちょっとだけよ・・・」とやってるうちに、あっという間に2兆ドルなんて行ってしまうんである。

国の税収増えなきゃ借金するっきゃないんだからな。失業率10%なんて言ってる国で、目先、どうやって税収増やすのさ?あるいは政府プログラム、削減しますか?

あれっ、目下最大の焦点「ヘルスケア改革法案」が最終的に通ったら、向こう10年間で8900億ドルの財政支出が追加で必要になるって先日言ってませんでしたっけ?

このヘルスケア改革だって、通ったからとて、筆者個人には、ほとんど何もアップサイドないよ。

新システムで保険会社対象に増税するそうだけど、保険会社たちは今から、増税されたらその分は個人のプレミアムに転嫁して徴収するって言ってるんだもん。それでなくても毎月高いプレミアム払わされてるのに月々の保険料はいま以上に高くなり、しかも個人の課税所得から税控除してくれるという話は聞こえてきてないんだから、保険会社の税金もプレミアムの形で肩代わりしてあげて、自分で払うプレミアムにも税金かけられ、【健康であるがゆえ】にダブル課税されるようなもんである。(←わたしの理解が間違っていたら、教えてください。)あれだけ鳴り物入りだった法案審議が、結局はこれだもんな。アホらしいを通り越して、脱力感すら漂っている。

アメリカ合衆国、【増税】へ向かって、まっしぐら。

一納税者としては、暗くもなるじゃーありませんか・・・。

(下画像はTime より)



   ★   ★   ★

政府の債務といえば、今年の3月に、モルガンスタンレーが、米国の債務全体のGDP対比のグラフ(Debt-to-GDP)を出して話題になってたのを思い出し、探してきた。

このグラフね。



このグラフを見ると、1933年当時は企業部門が抱える債務が全体の51%と圧倒的に大きかったが、2008年では個人部門の債務が全体の27%を占めて、ハッキリした違いが見て取れる。1934以降1944年ぐらいまでは、企業のデレバレッジ(deleveraging=債務を減少させること)が急速に進み、一方で政府の債務が割合として増加して調整が進んだ。

現在は、銀行による企業向け貸しが減少し続けているのと、個人向けもモルゲージ・消費者信用ともに縮小していて、コーポレートと個人の2部門はともに縮小している最中だが、その縮小をはるかに上回るペースで政府による借り入れが膨張しており(民間債務が公的債務に振り変わる格好)、国全体でみたときの債務の額は、依然として増加傾向にある。

(Debt-to-GDP Ratioの推移はここにもあり。)

政府と議会は銀行に圧力かけて、「もっと貸せ、もっと貸せ」とハッパかけているけれど、家計と企業の両部門では実際にデレバレッジが進行していて、資金需要自体が弱い。また上のグラフで長期トレンドの流れをみても、今、この局面で、プライベート部門が再び信用拡大に逆転するとは、ちと考えにくい、とMHJ筆者は感じるんである。

一方で、政府の債務は増え続ける。国債発行上限の引き上げも、今回で終わりにはならないと誰もが思っている。

この問題は来年も再び議会で蒸し返されるでしょう。だが、そのときには、オバマ政権はさらに強い逆風にさらされて、いま以上の足かせがかかるのでは、という予感がする。

   ★   ★   ★

ゴールドに強気なことで知られるMarc Faber(←このひとの長期の市場見解もかなり悲観的)の最近のインタビュー(by The Economic Times, 12-19-2009)を読んでたら、彼がこんなことを言っていた。

  • 米国の民間の債務は銀行貸出や消費者信用の縮小により減少している。
  • しかし国家の債務は民間減少分を上回るレベルで増加しており、財務全体は増えている。
  • 米国の(民間分も含めた)債務全体のGDPに対する比率(Debt-to-GDP)は375%。同比率は、1929年には186%だった。
  • ここに社会保障、公的保険などの隠れ債務、国有化されたファニーやフレディ関連債務も合わせると、米国全体が抱える債務はGDPの600%。

600%というのも、すごいね・・・。日本の場合は、同じ基準で測ったら、現時点でどれぐらいあるのだろうか。(日本も相当ひどい数字になりそうですよね。)

Faber氏の考えでは、この水準の債務は維持不可能(unsustainable)であり、向こう1年から3年の間に米国では国家財政悪化による長期金利上昇が顕在化して、米国債の金利払い負担はいずれ税収の35%から50%を占めるようになる。この状況から抜け出すためには、インフレに繋がるような景気刺激策が次々と出され、国民の生活は圧迫されるが、そこから国民の注意を逸らせるために米国は戦争により力を入れるようになり、どこかの時点で米国経済は崩壊し。。。

ウジウジ組のMHJ筆者ではあるが、その筆者ですらも、Faber氏の悲観論にはタジタジとなりましたわ。

それ故に、同氏はゴールドに対して非常に強気で、ゴールドの価格を支える要因として「世界の外貨準備は7兆ドル、うち70%がアジアの中央銀行に占められており、ゴールドの形で保有されているのは2%以下。そのため多くの中央銀行が、(ゴールド買いを進める)インドの準備銀行のモデルに従うと考えられるから。」

また氏は、2010年の投資アイディアとして、コモディティでは小麦と天然ガス、株式については、日本株への投資(!)を薦めている。

"I think as a contrarian, you really want the contrarian play. You should buy Japanese stocks and Japanese banks. This is the absolute contrarian play. Nobody is interested in Japan. All the funds have withdrawn money from Japan. They have given up on Japan and I guarantee you the economy would not do," Faber said "You can have an economy that does not do well but the companies do well. That is a big difference and I think the Japanese banks are very depressed".


「私はコントラリアンだから、コントラリアン・プレイを薦めたい。日本株、特に日本の銀行株を買うべきだ。これは究極のコントラリアン・プレイだ。今は誰も日本に興味を抱いていない。海外ファンドの多くが日本市場から資金を引き揚げた。日本は多くのファンドに見捨てられたし、経済も良くはならないこと請け合いだ。だが、経済そのものがダメでも、会社(の株価)は伸びることがある。そこが大きな違いだ。わたしは日本の銀行株は下がりすぎだと思う。」


・・・だそうです。

たしかにコントラリアンだよな。たとえば、UBSのストラテジストの2010年市場アウトルックは、思いっきり日本をアンダーウェイトにしてたし。

【究極のコントラリアン・プレイ】・・・実践するには、ちょっと怖い?(笑)

米国が抱える債務の重圧に極端なほどに悲観的になっている氏が、国債発行残高のみでGDP対比200%超える日本国の株市場(しかも日本国債の最大の買い手である日本の銀行群)に強気になれるという、そのロジックが、私にはいまひとつよくわからんのだけれど(苦笑)、ま、こういう意見もある、ってことで紹介してみました。



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4 comments:

Anonymous said...

経済の初心者ですみませんが、銀行株を買ったとしても値上がりしなければ意味がないのでは? と思いますが。
それに相手は日本の銀行たちですから、ぼこぼこにされると思います。どうしても欲しいと言うならば、FA-22ラプターを100機持って来て欲しいですね。

TrinityNYC said...

>Anonymousさん

コメントありがとうございます。Faber氏の推奨のことですよね?ええ、わたしも、Anonymousさんと同じく、どうしてここで邦銀株なんだろう・・・と思うのですけれど、ま、いろんな考えの人がいますから。

Hiroko said...

保険のプレミアがこれ以上あがったら、肩代わりしてる企業もたいへんですよね。。。でも、これ税金控除にならないんでしょうか?今は控除されてますから、プレミアが増えたらその分控除が増えるだけだと思うんですけど・・・?私ももう少し調べてみます♪

TrinityNYC said...

>Hirokoさん

コメントありがとうございます。現在、米国の個人所得税ルールにおいては、健康保険に払わされるプレミアムは全額控除にはなっていません。もし企業に勤めていてグループ保険が税控除対象プランに加入している場合は、その従業員はPre-Taxベースで給料から天引きになっていると思いますが、たとえば企業に勤めておらず個人でプライベートに保険を買っている場合は、まったく違います。現行ルールではItemized Decuctionの一部として、Adjusted Gross Income (調整後課税所得)の7.5%を上回る額に限り控除対象になります。

もちろん、各人の税前所得の水準にもよりますが、健康な納税者の多くが、控除が認められるラインを超えたメディカル費用が発生しないのが通常ですので、結局、全額課税扱いになるケースが多いのじゃないかと思います。

わたし自身もずっと大企業づとめで共稼ぎでしたから、健康保険はあるのが当たり前、という感じであまり気に留めてなかったのですが、サラリーマン生活を離れてみてようやく、この国の医療関連費用がいかに非人道的かつ異常であるかに気づいたところです。

その一方で、プレミアムは保険会社によって4半期に一度見直され、最近は一気に前年比20%増とかいうのも全然めずらしくなくなってます。デフレ下で税控除対象にならない出費が20%増になった場合、家計にのしかかる負担はものすごく大きくなりますよね。

ヘルスケア改革案では、保険会社がプレミアム増を被保険者に課す場合、インフレ率との兼ね合いで何かキャップがかかるのか、また、従来のAGIの7.5%以上という控除ラインはまったく馬鹿げているので、これがプレミアムに関して撤廃される見通しなのか、知りたいところです。わたしもちゃんと調べていないので、Hirokoさんのほうで何か発見があれば、ぜひ教えてください。