前回(11月30日)のMHJ記事で、ドバイの一件が本当に「たいしたことない話」かどうかはまだ誰にもわからない、個人的にはソブリンCDSのレベルはすぐには元に戻らないような気がする、と書きましたけどね。あの予感は的中したな。
ドバイワールドが、一般企業のリスクではなく、“擬似ソブリンリスク”とみなされていたために、ドバイショックは「たいしたことない」どころか、懸念は中東からスピルアウト(spilled out)して、ソブリンリスク全体に対する懸念へと広がって行ってしまった。
ソブリンリスクは為替にも影響与えますからね。ここしばらく、米株市場はドルの動きに引きずられて連動していたということもあり、今週に入ってからの米市場は、「ソブリンリスク」+「ドル」に翻弄されて、個別企業の業績なんて知ったことかという雰囲気。(Fedexの業績上方修正など明るいニュースもあったのにさ。)
8日(火)は、ドバイから、さらにドーンと暗くなるニュース、3連発。
1.ドバイの政府関係者が「ドバイワールドの子会社で不動産デベロッパーNakheelの債務リストラは当初想定していた6ヶ月よりもさらに時間がかかりそうだ」と述べた。
2.Nakheelの財務諸表が出てきて、今年度の上半期中に負債総額は7.2%増えて200億USドル相当まで増えており、期中損益も、37億USドル相当の当期損失。
3.Nakheelの兄弟会社Istithmar World (ドバイワールドの子会社でプライベートエクイティ担当)が所有するニューヨークのホテルチェーン『W』のユニオンスクエアのロケーションがフォークロージャとなり、火曜日にオークションで$2 million で落札された。ユニオンスクエアの『W』はIstithmarが2006年に購入したが、当時の投資総額は$282 millionだった。
Nakheelも債務の支払い原資を捻出するために資産整理を急ぐ予定であるが、資産オークションの現実はキビシイ・・・。
これらで、やや落ち着きかけていたドバイのソブリンCDSは再び急上昇。(下のグラフのオレンジ色がドバイソブリンCDS。過去半年の動き。グラフはFTより。)
筆者のNYの自宅からさほど離れていない場所にも、『W』ホテルチェーンのひとつがあるんですけど、すっごくステキで立派なホテルですよ。ユニオンスクエアのも、なかなか立派。あのオシャレなホテルが、たったの $2 million って・・・絶句。
★ ★ ★
サブプライム問題で叩かれてしばらくグッタリしていた格付け機関も、ドバイ問題勃発で水を得た魚のように元気になり、(っつーか、従来のソブリン格付け分析モデルの確認を再度せざるを得なくなったのか)、いきなり、あれもこれもと、ギャンギャン、見直しやら警告やらに入ってやんの。(暗い話で元気になるのが、債券オタクの常。)
7日(月):S&P、ギリシャのソブリン格付けをネガティブウォッチに。
8日(火):Fitch、ギリシャのソブリン格付けをA-からBBB+に格下げ。
8日(火):Moody's、英国と米国のソブリン格付け(ともにAaa)に圧力かかってると警告。
9日(水):S&P、スペインのソブリン格付けのアウトルック(見通し)をネガティブに変更。
株式市場は、普段はソブリンリスクなんて知ったことないわけだから、これらのニュース聞いて(例によって)過剰反応してるみたいだが、前回のMHJ記事で登場したように、ソブリンCDSのレベル一覧表をみると、2008年初めと比べると、グローバルでCDSの水準は上昇していた。
日頃こればっか暗くやってるソブリンCDS市場では、ギリシャ、英国、スペインなどは、すでにCDSプレミアムはジワジワ上昇続けていたわけである。
つまり、CDS市場参加者は、それらの国々の格付けに下方圧力がかかっていることを見越して、CDSのプライスにそれを織り込んできてたわけですね。
このように、債券市場では「格下げされるかもしれないリスク」というのは、格付け変更のアクションが実際に取られるずっと前からクレジットスプレッドに織り込まれて、格付け機関のほうがマーケットで取引されるスプレッド推移の【後追い】になることのほうが実は多い。エージェンシーに格下げされてからヨッコイショと腰上げてたら、間に合わんからな。
しつこいようですが、CDSというのは、対象になる債券のデフォルト可能性に対して保険かけとく、そういう商品である。だから、「自分が持ってる現物債券に、いまから保険かけといたほうがいい(=リスクヘッジしといたほうがいい)」と思う市場参加者が増えれば、CDSへの需要が増えてプレミアムは上昇するんである。また現物債券持ってなくても、ギリシャのCDSに対する需要が増えると考えるスペキュレーターが増えれば、それもCDSのプレミアムを押し上げる。
前回、MHJ記事で書いたように、ギリシャのCDSスプレッドは、格付け機関がアクション取る10日前には、すでに200bps超までワイドニングしていた。(2年前のレベルは22bps。)
そこにダメ押しの格付け機関による格下げが到来して、ギリシャのクレジットの売り(CDSの買い)に勢いがつき、CDSプレミアムが上昇し250bpsまで近づこうとしている。
9日付けのFTに、ギリシャ、英国、スペインのソブリンCDS、そして、西欧ソブリンCDSインデックス(iTraxx SovX/WE)の過去1年間の推移グラフが載っている。
このFTの記事によると、月曜のS&Pと翌日のFitchのアクションで悲観度が増し、30bpsワイドニングした、という。(ギリシャはオレンジの線。)
市場はとりわけ、イギリスとアイルランド両国の国家財政のバランスがいま以上に悪化することを懸念して、9日に出された予算数字に非常に敏感になっていたらしい。サプライズは無かったものの、CDSはワイドニングし、コンフィデンスが低下してきているのが見て取れる。
また、スペインは、経済成長が低いくせに、古典的な不動産バブルに陥って、銀行システムが不動産関連融資の償却で体力を失うという懸念が、筆者の知っている限り、ここ2年ほど続いていた。その始末をつける前にリーマンショックに襲われてさらにドツボにはまっちゃったというケースである。
現在は、格付け機関も連日ガタガタ動いていることだし、市場全体がソブリンリスクに注目して悲観的な方向にムードが傾いているのが感じられるときでもあるので、CDSの値動きは激しくなりがちだが、ここから先、それぞれのCDSがどういうトレンドラインを描くか、それによって、CDS投資の勝ち負けも決まってくる。
★ ★ ★
さて、筆者もときどき拝見している為替ブログ『ロンドンFX』で、先週、ゴールドマンサックス(ロンドン)のスターエコノミストJim O'Nealとそのチームが先週2日に出した戦略レポート『Global Viewpoint:Unveiling Our Top Trades for 2010』と題されたレポートのことが紹介されていた。
同レポート(原文)にご興味あるかたは、こちら。
このレポートは、2010年に取るべきポジションの推奨リスト。ただし、この手のレポートがターゲットにしている読者層というのは基本的に、「グローバル投資+オールアセットのヘッジファンド」である。それ故、個人で読むにはつまんねー(笑)んだが、ここに、【CDS投資における〝教科書的”な実践ストラテジー】が登場するので、ちょっと紹介したい。
同レポートの4ページ目に、Top Trade #6として、こんなトレーディング・アイディアが出てくる。
Top Trade #6: Long 5-yr Credit Protection on Spain,
Short 5-yr Credit Protection on Ireland at 70.2bp, target 20bp
「スペイン国のソブリン債5年物CDSをロング、アイルランドのソブリン債5年物CDSをショート、両者のCDSプレミアム差は70.2ベーシスポイント、この差が20ベーシスポイントまで縮小するのを目標値にする」って意味である。(1 basis point = 100分の1%)
クレジットのトレーディングは、取引の「単位」がでかく(1本$10ミリオン)、一般投資家の出入りはほとんどなく、ベーシスポイントなんつー普段聞きなれない言葉で取引されるために、情報も世間にはほとんど出回らない。だから、このトレーディング・アイディアを読んでも「へ?」となるひとも多いことと思う。
ややこしいんですがね、自分が投資しているインストルメントが「現物(キャッシュボンド)」なのか「デリバティブス」なのかで、ロングとショートのポジションが逆転するので、慣れるまでは誰もが最初は混乱するんだよね。
オニールの推奨は、「Relative Value(相対価値)」に着目した投資手法。
スペインとアイルランドの2国は現在、スプレッドに70bps程度の差がついて取引されているのだが、これら二つの国家の信用力を分析すると、両者にはそこまで大きな差が出るのは正当化できない、スプレッドの差は20bps程度まで縮むのが妥当である、とオニールは言う。
オニールはスペインの経済状況は2010年さらに悪化すると考えており、スペインが直面しているリスク要因をふまえると、90bps前後という水準での取引は、【相対的に】プレミアム(保険料)安すぎ→CDSはロング→クレジットはショート。
逆に、アイルランドのは景気回復はスペインよりも早いと考えるから、今の160bps前後というプレミアム水準は【相対的に】高すぎ→CDSはショート→クレジットはロング。
つまり、スプレッドの絶対値ではなくて、2者の信用力の相対的な強弱で、将来のスプレッドの動く「方向」にベットするわけだ。
(MHJ筆者のオピニオンを言わせてもらうと、アイルランドとスペインについているスプレッド差には、それぞれの国の「銀行システムの柔軟さの違い」というエレメントも反映されており、はたして両者の信用力がそんなにすぐに20bpsまで縮小するかは、わたしは現時点ではやや疑問視。)
少なくとも、昨日の段階では、スペインとアイルランドのCDSは、アイルランドの上昇の仕方のほうが派手。二国間のCDSプレミアムの差は、縮まらずに、逆に拡大したように見える。
12月2日付けのオニールの推奨に従って、アイルランドのクレジットにロングに出た投資家がいたとしたら、9日には、おもわず「チッ」と舌打ちしたことであろう。(笑) 来年はどうなるかね。
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前回のMHJで、筆者は、日本のCDSが81bpsにまで拡大してて、スペインの86bpsとさほど変わらないではないか、と述べた。
今週に入ってからの日本国のCDSの数字を調べてないんですが、日本もあれから7.2兆円の景気刺激パッケージを用意するとか、9.3兆円の国債増発することにしたとか、悲観派が喜びそうな話題多いね。
ここでオニールのようにRelative Valueで考えてみよう。米国のCDS32bps、英国69bps、中国87bpsに対し、日本81bpsだったとき、あなたなら、日本という国家の信用力は、過小評価されていると思いますか?日本のクレジットをロングする?
わたし?わたしなら、日本国CDSは買い(クレジットをショート)だね。
藤井財務相は、「国債を乱発することは国債市場の信頼を失うことになる。これは財政の健全化以上に大きな問題と認識しており、あらゆる努力をする」(元記事はここで読んだ。)と述べたそうですね。
でも、日本国債に対する市場の信頼(コンフィデンス)は、日本の「外」では、すでに壊れかけている、と筆者は思うね。
CDSのレベルが、そう語っている。
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10 comments:
こんにちは。
暗い話で元気になるのが、債券オタクの常。ですね~。
更にデリバティブオタクは陰気~陰険の範囲に生息。
特に、アービトラージャーは右端。
で、
米国のCDS32bps、英国69bps、中国87bpsに対し、日本81bpsだったとき、あなたなら、日本という国家の信用力は、過小評価されていると思いますか?日本のクレジットをロングする?
ですが、
この中で、最初に崩れるのは英国ではないかな。
相変わらず経常収支赤字だし、基軸通貨じゃないし、銀行はよれてるし、損の開示は大陸よりもトーメーだといってるけど損が湧き出てくるバランス調整不況の恐怖を過小評価しているようだし....
ということで、英国のプロテクションをロングし、キャリーの負担を外すために日本のプロテクションをショート。
5年間も、日本のクレジットを取り続けるのはヤバイので英国が逝ったらクローズ。
はじめまして
クレジットスプレッドをみると株価の動きもわかるときいたことがあるのですがこのCDSなどさまざまなクレジットスプレッドをチャートでしめしているサイトがあれば教えていただきたいのですが。ドバイやさまざまな国のCDSのスプレッドなどみれるのももしご存知でしたら教えていただけませんでしょうか
よろしくおねがいします
ごぶさたておりました!
おかげでドルが(対ユーロで)上がってきましたねー。(ジムロージャースが手のひら返したようにドルは買いだといってたのに殴りそうになったけど)
円高&デフレの日本に明日からいってきまーす!ちょうどいいバランスのようで助かってますが(笑)
>vespaさん
「更にデリバティブオタクは陰気~陰険の範囲に生息。特に、アービトラージャーは右端。」
いや、ほんと、あたしも、デリバティブス部隊の近くには、なるべく寄らないようにしてました。(爆)
なるほど、英国CDSロングと来ましたか。確かに日本81で英国69ってのは、ちょっと、ね。「5年間も、日本のクレジットを取り続けるのはヤバイので英国が逝ったらクローズ。」←英国が【逝ったら】って・・・わろうた。(でも、ここで一緒に含み笑いしてるところからして、やっぱり、我らの性格は陰険か?笑)
アブダビの支援で、Nakheel発行の債券がジャンプしたとかラジオで聞きましたが、これで世界的なソブリンの財政状態がどうなるわけじゃないから、年が明けても当分油断は禁物ですね。
>Anonymousさん
コメントありがとうございます。いえ、実はですね、わたしも、そういうサイトがあれば教えてもらいたいんです!(笑)
債券(デリバティブス含む)の売買は、「カーブ(Curve)」(イールドカーブとか、クレジットカーブとかの、カーブ)というコンセプトに従ってプライシングされ、投資する対象になっている債券の「残存期間」や「種類」(シニア債か、劣後債か、など)によって、発行体が同じでも、一本一本の値が異なります。それゆえに、クレジットスプレッドは、株価のように株式市場から公開取引価格として流れてくるわけではなく、実際にそれらを扱う証券会社のセールストレーダーからプライスリストがブルームバーグ端末経由で直接顧客に送られて、顧客は複数のトレーダーから送られてくる値を見ながらRelative Valueを判断し取引します。そのため、クレジットスプレッドのリアルタイムのプライスの動きというのは、実際に取引をする当事者にしか見えず、われわれ外部者はリアルの取引価格の一部をまとめてプロキシー化されたトレンドを追う格好になります。そうしたデータは各証券会社が機関投資家の顧客に提供したりしていますが、一般投資家でも入手できるデータシリーズとしては、ブルームバーグやMarkitが有名かな。でも、残念ながら、どれも有料サービス(しかも、すごく高い)じゃないかと思います。
CDSの動きと株価の動きの相関性については議論あるところでしょうが、わたし自身の経験からいうと、クレジットスプレッドのタイトニング・トレンドは、株価上昇に先行することが少なくない、と感じます。
>haustinさん
そうですか、(またもや)手のひら返してましたか。殴ってやってください。(笑)
日本にご帰国なんですね。いいなー。わたしも今年の年末は帰りたかったのですが、来年の春まで持ち越しになりそうです。その時、為替はどんな動きに・・・(←手に汗にぎる。)楽しんできてください。
来年の春ご帰国の予定ですか?
3月中でしたらある程度余裕あるので、
ファンクラブ代表として歓迎致します(かなり本気 笑)。
NYCのようにパレードはできないけど(爆)。
>LuciFerさん
えっ、わたしのためのパレードは用意できない・・・?それは残念です。でも、パレードは無理でも、東京湾でTrinity歓迎打ち上げ花火、お台場借り切りで大パーティ、という手もありますよね。(うそ)
週末を挟んでいたため、準備および日程調整に手間取りましたw。
12,000発の花火とともに70万人がご帰還をお迎えできることと相成りました(笑)。
お台場パーティは、花火の前のVIPご招待の船上パーティ、サンセットクルーズ等考えております。
来年8月第二土曜日にご帰国ください(どう頑張ってもこれ以外の期日は無理でした。大爆)。
>LuciFerさん
せっかくそこまでご用意いただいておきながら恐縮ですが、その週はすでに、でHSBC主催のクイーンエリザベス号(←ドバイワールドの担保)船上大パーティに呼ばれており、クルーズ寄港地のひとつキプロス島のトルコ領側で、ギリシャ格下げ祝いをするという趣旨のお祭りに参加予定です。残念ですが。(爆)
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