Thursday, December 25, 2008

GMAC、悲願の銀行持株会社に(それでも日本政府はいいツラの皮)


GMACは、現在銀行持ち株会社化の可能性について米国当局と協議中です。これが認められれば、公的資金の活用が可能になり、実現すれば、当行のGMAC関連投資についてもプラス要因となります。当行は、本件が議論の過程であり、追加損失のリスクが残っていることを認識しております。



認識しているそうですよ。

あおぞら銀行。

上記は、あおぞら銀行がひと月前の11月28日に行った中間決算インベスター向けプレゼン資料の6ページ目から引用した。(資料を全部見てみたいひとは、あおぞら銀行のサイトのここ(↓)に行って、プレゼンテーション資料「2008年度中間決算説明会」をダウンロードしましょう。(断っておきますが、【物好きなひと】限定です。)

http://www.aozorabank.co.jp/investors/ir/presentation/


GMACはご存知、GMの金融子会社。GMACはかつてはGMの完全子会社だったが、GMが2006年にもキャッシュ不足で死に掛けたとき、当時はクレジットバブルでイケイケだったこの子会社の持ち株の51%をプライベートエクイティ会社サーベラス(Cerberus)に売却し、70億ドルの売却額に加え、運転資金として3年間で140億ドルをサーベラスから融通してもらうという条件も確保して、三途の川を渡らずに済んだ。 (そう、GMが三途の川の手前まで来たのは、今回が初めてじゃない。今回、政府がGMにお情けで貸してあげる当座資金が140億ドル。2年前のクライシスのときも140億ドル。140億ドルという数字が好きなのか、GM!)

そのGMACだが、クリスマスイブの昨日、悲願の(?)銀行持ち株会社になるのをFRBから承認された、というニュースが伝えられた。

普通、銀行持ち株会社になるためには、銀行規制にのっとって充分な自己資本がなければいけないことになっている。だが、GMACの場合、資本金は20億ドル(2000億円近く)も不足していて、資本調達できる目処も立ってない。それでも銀行持ち株会社にしてやるんですって。

規制どおりの資本金は用意できなくても特別OKが出たのは、他でもない、そうしてやらなきゃ、GMACも破綻しそうだから。子会社が破綻したら、政府からの緊急融資でなんとか年末越そうとしてる親会社のGMも、政府援助のかいもなく一緒に三途の川を渡っちゃうかもしれないから、である。(GMACには、米国サブプライム問題の中心にいたResCapという住宅ローン子会社、GMにとっては孫会社もいて、こちらも、ヘロヘロ。)

で、GMACを買収したサーベラスといえば、これもご存知、日本が銀行危機ですったもんだしてるとき、現在のあおぞら銀行(旧日債銀)を当時のオーナーだったソフトバンクらから1000億円程度で買い取った、あの、米投資ファンドサーベラスである。


ガイジンに弱い日本政府のアゴの下に入ってゴロニャンし、同じく買い手になりたいと手を挙げてた三井住友銀行なんぞは蹴っ飛ばして、バナナの叩き売りみたいなお手ごろ価格(しかも、国民負担の瑕疵担保条項などという「体のいいプットオプション」付き)で大手邦銀を手に入れた、あの、サーベラス、である。(日債銀がソフトバンクを経由して米投資会社サーベラスに買われて行った過程にご興味のある「物好き」な方は、ここへ。)

2003年にサーベラスの手に渡った現あおぞら銀行は、2年前の2006年11月にIPO株式公開で上場した。

しかし、この会社の株(公開価格570円)、上場初日に超売り越しで10時を過ぎても買い手がつかず、ようやくついた初値が495円と公開価格を13%も割っちゃった。

その後も、この株、公開価格を上回ったこと、ないねん・・・・・・(涙)。

どーしよーもねー株は世に数あれど、あおぞら銀行株ほどみごとに、公開後下降一直線なチャートを描く会社ってのも、ちょっと珍しいよな。

昨日の終値は、91円でした。100円割れ、しとります・・・。主幹事の証券会社の言うことを鵜呑みにして売り出しに参加した機関投資家の皆様・・・涙をこらえてくださいね・・・。(涙)

で、もっと泣きたくなるのが、この株式公開の際に露わになった「日本国政府の無知ぶり、音痴ぶり」である。

この売り出しに関しては、売り出し人(Seller)には、サーベラスのみならず、日本政府の公的機関である「整理回収機構」も入っていた。

旧日債銀が実質的に破綻したのち、日本政府は「優先株」の形式で公的資金を注入して公的管理に入れたわけであるが、その公的資金の返済は上場時にもまだ終了していなかったんであるな。

この優先株は転換社債の一種であって、普通株式に転換することができた。整理回収機構(預金保険機構の傘下)は、総額3550億円の注入された公的資金の〝一部〝を優先株から普通株に転換し、その普通株をIPOの際に市場売却して返済してもらう、ってことにした。

下は、2006年11月6日に、あおぞら銀行株の上場について、日本の預金保険機構の「理事長談話」として記者発表された公式文書からの引用である。(全文はDICのサイトのここ。)

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3.今般、主幹事証券会社より売出価格等の条件が提示されたことを受け、最終的に「当面の対応」の判断基準である

   ・国民負担の回避
   ・金融システムの安定性
   ・金融機関の経営の健全性

の観点から見て特段の問題がないことを確認の上、本日、整理回収機構の取得請求権の行使及び処分の承認申請に対して承認を行ったところである。

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たしかに、この時点では、公開価格570円で、売り出し人は整理回収機構も含め全員ウハウハだった。だって、整理回収機構は、もともと1047億円分に相当する優先株を処分して1326億円を受け取ってるんだもん。(詳細はここの脚注番号41を参照。)

つまり、この上場により、政府(すなわち、納税者)は、「1047億円の公的資金に対して280億円の儲け(プロフィット)」を受け取った、ってことになる。

6年ぐらいで26.7%、年率にしたら4~5%ぐらいの投資リターンでしょ。それ、悪くないよね。理事長さんの機嫌がいいのも、うなづけるな。

しかし、トホホなのは、この理事長さんコメントの日付が2006年11月6日だってこと。

預金保険機構が、280億円ごときの利益で「うわーい!損が出なかった、損が出なかった~!」と乾杯して喜んでる、まさにそのとき、肝心のあおぞら銀行では、Aozora GMAC Investment Limited という関連子会社をロンドンに設立して、サーベラスが組織した出資者グループに名を連ね、GMACに「500億円の出資」をする準備を着々と進めていた。

あおぞら銀行が2006年11月30日に発行した「GMACへの出資について」のプレスリリースを見てみましょう。これによると、Aozora GMAC Investment Ltd.の設立月日は11月6日。

キャッシュ不足で倒産の危機にあったGMは、難航に難航を重ねた末、虎の子GMACの51%をサーベラスへ売却すると4月に合意。サーベラスは買収資金の一部を、自分たちの息のかかった金融機関(シティバンクなど)にも、まかなわせたんである。あおぞら銀行は、そのうち500億円を担当させられた。

だが、ここで、ちょっと考えてみたい。

公的資金(=納税者のカネ)3550億円を受け取ったあおぞら銀行は、株式公開に合わせて、そのうち1000億円ちょっとをお返ししたわけではありますが、上場時点では、まだ2千億円以上も国家に返済しなくちゃならないカネが残ってたんである。

一部しかお返しできない、つまり、残りのカネがなければ、あおぞら銀行は困っちゃう、そういう状態だった。

にも関わらず、海外のノンバンクに500億円出資する、ですと???

そんなカネあったら、納税者に先に返せばよかったんじゃないの?

日本政府は、たかだか280億円程度のプロフィットに目がくらみ、残りの納税者のカネ2千億円をどうやって返してもらうかは後回しにして、サーベラスが500億円の投資資金を公的資金が入ったままの自己資本から『GMAC用に使い込む』ことに異議を唱えなかった、ってのと同じ意味だ。

サーベラスがGMAC買収資金の一部としてあおぞら銀行の資金を使うつもりだったことを、日本の当局が知らなかったとは言わせない。預金保険機構の理事長さんが「(あおぞらの)経営の健全性に特段問題はない」と太鼓判押した日付と、あおぞら銀行がGMACへの投資のみを行う特別目的会社を設立した日付が同じなんだからね。

どうせ、当局のことだから、「株価500円以上なら国側には損が出ないんですから、ね~」とか言って、株価が100円割れするかも、なんてシナリオは、これっぽっちも考えていなかったに決まってる。

しかも上場に伴って、普通配当まで、どうぞどうぞ、と言って許しちゃってるんだから。

配当金だって、本来なら、納税者に返済するための原資として内部留保に貯めとくべき、なのでは?(旧日債銀に課した優先株配当だって、信じられないくらい安い金利つけてやったんだからさ。)

ガイジンにはやたら気前いいなー、日本政府!

さて、その『使い込んだ5億ドル』の行方であるが。

先ほど紹介した、あおぞら銀行の2008年度中間決算プレゼン資料5ページ目によりますと、

(GMACへの)出資額5億ドルに対し、累計で70%、3億5千万ドル(円換算382億円)の損失処理を実施、2008年9月時点のバランスシート計上額は150万ドル(円換算155億円)

だそうである。

日本政府が、あおぞら上場で儲かった、儲かった、と小躍りしてた額280億円。

GMAC向け投資から発生した累損382億円。(下手すると、全損近くになるかも。)

そして、まだ残ってるあおぞら銀行の公的資金2千億円超の返済残高は、どうなるのか。

現在のあおぞらの株価91円、時価総額1500億円。いま普通株を全部現金化しても、公的資金の返済原資としては不足だよ・・・(シクシク・・・)

   ★   ★   ★

ところで、「公的資金完全返済のメドがキッチリ立っていなくても、普通株配当やってもいいよ」なんつーへっぴり腰当局は、日本の当局だけじゃない。

米国の7000億ドル救済資金T.A.R.P.からの大手金融機関への公的資金による資本注入、あれも、優先株についてるクーポン金利はめっちゃ低くてカネ入れてもらう銀行に有利にできてるわ、配当金やボーナスなどへの注文もほとんどつけないわ、で、同時期にイギリスがやった同様の注入案と比較したら、ポールソン率いる米国財務省のプランも、基本的には【納税者をバカにしくさっている】プランである。

今日付けの「GMAC銀行持ち株会社化」についてのニュースを読むと、資本不足のくせに銀行持ち株会社にしてもらう特別扱いの見返りとして、サーベラスは最大株主としての地位を捨てろ、とFRB連銀に言われたそうである。サーベラスのGMAC持ち株分51%のほとんどを外部投資家に配分し、サーベラスの議決権は大幅に低下するらしい。http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=newsarchive&sid=auUKiUZKeVMs

サーベラスの放出価格によっては、あおぞら銀行が負担しなくちゃいけないGMAC向け損失額も、もっと増える可能性がある、ってことだ。

でも、ResCapというサブプライム爆弾抱えてるGMACの株を欲しがる投資家って、どこの誰?そんなひと、いまどき、いるのか?

ブッシュが辞める前に、FRB連銀がサーベラスからGMACの普通株を買う、なんつーことを言い出しそうな一抹の不安・・・そんなことになったら、あたしゃ、マジ怒るよ!!!

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