週明けに出された自動車関連のニュースで不安な気持ちに襲われて始まった今週のNY株市場。
しかし、どんなニュースでも「明るい材料」にしてしまう【あくまでもポジティブ思考の打たれ強い人々】のおかげで、火曜、水曜と続伸。
今日(水曜日)は金融株が再びドーンと上がってたが、「時価会計の変更が金融セクターにはポジティブかも」という憶測でウキウキ感に支えられ、打たれ強い人々がまたもや突っ走った模様である。
しかしね、悪いニュースにはすっかり飽きたのか、朝一で失業悪化を示す数字が出てきてもあまり反応しないのに、「会計処理の変更」なんていう実態のない水物の話には、異常に明るく反応するって、どうよ。
ま、ウキウキするのはぜんぜん構わないんですが、会計ルールをどう変更しようが、
「金融機関が取ってるリスク量に対し、キャピタル(自己資本)全然足りてねーぞ」
という事実ばかりは、曲げようはないからね。
会計ルール変更の数字いじりで「見てくれ」のキャピタルレシオが上昇して見えたとしたって、だから、どうした。時間稼ぎの効果だけ、でしょ。
それに、規制上の自己資本比率などは、すでに形骸化して久しいのである。2月6日のMHJ記事(米国最大の銀行が国有化?でも自己資本比率10%超もあるんですけど) でも指摘したとおり、Tier 1自己資本比率だけで10%以上もある銀行がどうして国有化になるんだよ、ってことである。
国有化になる!とワーワー騒いでいたころは、自己資本比率なんて信頼できないとか言ってた、それとまったく同じ人たちが、今度は、会計処理変わると自己資本比率上がるよ!と喜んでるんだから、やれやれ。
しかし、銀行の自己資本が「見てくれ」だけじゃなくて実質的にも充分足りていたら、そもそも、会計ルールを変更する必要など、ないではないか。
日本の過去の例を見れば、今のアメリカで何が起こっているのか一目瞭然である。日本でも、銀行群の自己資本が実質的に底を尽きかけた2002年とか2003年あたり、投資有価証券の会計処理ルールを急遽変更して、とりあえず「見てくれ」だけでも銀行の自己資本比率は大丈夫な風に見せておく、ってことにした。実質的には債務超過に近いのが現実だったけど、自己資本比率が最低限保っていられれば、破綻だけはまぬがれる。そうやって時間稼ぎをしてる間に、市場が正常化さえしてくれれば・・・というはかない望みを、会計ルール変更に託したんであるな。
あの時は、日本でも、ウキウキ打たれ強い人たちがゾロゾロ出てきて、一時的に金融株価は上昇したが、やがて「見てくれ」がどうであれダメなものはダメというのがバレて、株価は下がった。
今のアメリカも、あれと、まったく同じことやってるわけだな。
ウキウキ感溢れる投資家やトレーダーに、さらに順張り一筋のデイトレ連中も加わって、金融株がビョーンと上昇してるあいだに、ショート(空売り)のポジションもついでに仕込んでおきましょか。
★ ★ ★
さて、米自動車産業問題である。
ゼネラルモーターズに与えられた執行猶予は60日間。クライスラーは30日間。
いずれにせよ、両社とも、13階段の第1段目に片足乗っけたわけである。
GMのCEOをスケープゴートにしてクビにしたのと引き換えに、60日間という「時間」を与えたわけだが、オバマ政権には、最初からGMを救済する気はなかったのかもしれないなぁ、とかも思ったり。
どうして、そんなことを思ったというと、昨日(3月31日)のフィナンシャルタイムズ(US版)に、米国ノンバンク最大手のGMAC(GMの金融子会社)とCITがFDIC米預金保険機構の承認を得られないためにFDICから資金に対する保証を受けられず、資金流動性がキツキツになっていて業務に支障が出ている、という報道があったからだ。 http://www.ft.com/cms/s/0/d44090e6-1d53-11de-9eb3-00144feabdc0.html
去年のクリスマスの日、ここのブログで、GMACが銀行持ち株会社に変わったんで不足している資本金を公的資金から注入してもらって延命できることになった、という話を紹介した。(2007年12月25日のMHJ記事『GMAC悲願の銀行持ち株会社に(それでも日本政府はいいツラの皮)』参照。)
あのエントリーを書いたのち、筆者もGMACがその後どうなったのかフォローもせず、すっかり忘れていた。
だが昨日、ウォールストリートジャーナルのGM関連の記事を読んでいて、筆者がMHJ記事を書いた日から5日後、T.A.R.P.からGMAC向けに60億ドル(6000億円近く)の資本注入が実際に行われてたことに、いまさらながら気がついた。
注入日、12月30日。あの日、政府からの資本金援助がなかったら、年を越せずに破綻してたかもしれないね・・・。
しかし、資本金は助けてもらったけど、資金繰りは助けてもらえないとなると、振り出しに戻っちゃうのでは・・・。
★ ★ ★
ここで、ちょっと横にそれて、「企業が破綻するプロセスの基本」を押さえておきたい。
金融機関であろうがなかろうが、「企業体」というのは、以下の2つのどちらが起こっても、死ぬ。
(A)ひとつは、【自己資本の消滅】。損失が続くと自己資本が減少し続け、そのままにしておくと、いつか底をつき、債務超過に陥る。自己資本が底をついてしまわないよう、企業は新株を発行して民間からフレッシュな資本金を募ったり、あるいは、上記GMACのケースのように、政府から自己資本を注入してもらって、自己資本をプラスに保ち、延命できる。
(B) もうひとつは、【資金流動性の低下】。要するに、資金繰りに詰まっちゃう、という話である。従来なら借してもらえるはずのカネが貸し渋りで急に借りれなくなったり、予定していた収入が途絶えて返済できなくなったりして、資金繰りがフン詰まり起こすと、「資金の流動性が低下している」と言う。 仮に資本金がまだプラスであっても、資金繰りにメドつかなくなると、不渡り起こしてあっという間に倒産する。
往々にして、(A)と(B)はセットで起こる。損失続きで自己資本不足に陥りそうになってくると、その会社の信用リスクが高まって、誰もそんな会社にカネを貸してあげようとしなくなるからだ。
米政府が用意した金融市場救済プログラムのうち、T.A.R.P.は(A)の自己資本を援助するのが目的で財務省が資金源になり、T.A.L.F.は(B)の資金流動性を支援するのが目的で連銀が資金源になる。
政府が必死に金融機関にせっせと資本金や資金を提供してるのは、この(A)と(B)が発生して銀行破たんが起こりシステミックリスクが顕現化して大混乱になるのをなんとか堰きとめようとしてるんである。
★ ★ ★
さて、GMACの話にもどるが、昨日のフィナンシャルタイムズの記事を読んで、筆者が「??」と思ったのは、ノンバンクGMACを連銀がせっかく建前上「バンク」ってことにしてあげて、T.A.R.P.資金から(A)の資本金を入れてもらったのにも関わらず、肝心の(B)の方になると、その後、FDIC預金保険機構に提出した申請書の処理が遅れていて、3ヵ月後、ふたたび資金繰りが厳しくなってきてるらしいのだ。
例によって「お役所仕事」のせいでモタモタしてるのかというと、そうじゃない。だって、GEの金融子会社GEキャピタル(GECC)に対しては、FDICは、テキパキ書類を処理して、資金繰り助けてあげたんだもん。
その後2月のフォローアップ記事を読むと、12月末のT.A.R.P.自己資本注入で延命したGMACは、債務者の合意を得て債務を資本金に変えるデット・エクイティ・スワップ(=Debt Equity Swap=DES)のおかげで“会計上”の利益(ペーパーゲイン)が生まれ、救済後の収益は大幅に改善した。
http://www.ft.com/cms/s/0/933d2234-f1f8-11dd-9678-0000779fd2ac.html
でも、営業状況はというと、引き続き、サブプライム住宅融資子会社ResCapから損失がダダ漏れし続け、資金繰りも改善せず、今年2月でも苦しい状況は続いていた模様。
そして、3月も苦しみ一杯で終わった。
そんな状況を知りながら、GMAC向けの政府による資金繰り支援は、この3ヶ月間、宙に浮いたまま先に進んでいない、というんである。
本気でGMAC助けようとしたら、資本金(A)だけじゃなくて、資金繰り(B)も合わせて助けてあげなくちゃダメじゃん!!
GMから車を買うひとは、GMACからオートローンを借りる。GMの新車セールスの数字を少しでもよくするためには、GMACの財務内容もよくしてあげなきゃどうしようもない。なのに、GMACへの資金流動性援助には、速攻で手当てしてあげずに、グズグズ先延ばししている政府当局・・・。
この不気味な政府当局のGMACに対する態度を見ると、3ヶ月前からこの金融子会社を潰すつもりだった、すなわち、GMの救済は最初からシナリオにはなく政府は当初からGMを清算するつもりでいたという意味になるではないか。
60日後、会社更生を申請することになれば、GMは「優良資産」と「不良資産」に分けられて「不良」の方は完全清算される。「不良」の中にGMACも入れるのかな・・・。
いずれにせよ、あおぞら銀行のGMAC投資は、これで一貫の終わりであるな。去年の11月末のプレゼン資料に『GMACが銀行持ち株会社になればあおぞらにはプラス要因』と書いていたけど、そうは問屋は卸さなかったですね。
そして、もう一度言うが、あおぞらのGMACへのエクイティ投資の財源は、詰まるところは、「日本の納税者のカネ」であったことを覚えておきましょう・・・。
★ ★ ★
オバマは、秩序だてて清算する【Prepackaged Bankruptcy】が、GMにとって最良というスタンスでいる。
実際にGMが会社更生を申し出る前に、事前に関係者一同で取り決めを行い、合意のもとに清算プロセスに取り掛かり、素早くサクサクと会社更生を進めたいらしい。
「素早く、サクサクと」・・・か・・・。
GMの株式の投資家については、もはやゲームオーバー、さようなら。
しかし、債券投資家を含む債権者のほうは、会社が破産しても、そう簡単にゲームオーバーにはならないからね。
昨日3月31日と今日4月1日のウォールストリートジャーナルが、今後の清算過程について興味深い記事をいくつか掲載しているので、後日、回顧するときの参考のために、ここにリンクを張っておきたい。
‐ GM, Chrysler Face Some Messy Surgery (4/01/09)
http://online.wsj.com/article/SB123854579994476205.html
‐ For GM Bondholers, Time Is a Weapon (3/31/09)
http://online.wsj.com/article/SB123845605025971539.html
これらの記事によると、過去の大企業の会社更生の例では、債権者が会社側から提示された条件にウンと言わなければ、プロセスがいつまでも延々と続き、たとえば小売りのKマートの場合は決着に15ヶ月かかり、ユナイテッド航空の場合は実に3年間もグズグズと債権者とのやりとりが続いたそうである。
「素早く、サクサクとGMを清算処理する」というオバマ政権のもくろみ。
これからの60日間、果たして、どう展開するだろうか。
★ ランキングに参加してます。よろしければ投票クリックお願いします。★
↓↓↓↓↓
にほんブログ村 アメリカ経済
人気ブログランキングへ
1 comment:
ウキウキ打たれ強い方々の表現、ウケました~!
GMACのこと、すっかり忘れてました。良い情報ありがとうございます!
Post a Comment