Saturday, April 4, 2009

ナンピン買いも可能?それって、マズイんじゃ・・・

今日のMHJ記事は、前回のGMACの記事で言及したあおぞら銀行のGMAC投資の末路から得られる「教訓」から、始めたい。

【教訓】 公的資金を入れてもらった銀行は、耳をそろえて全額お返しするまでは、そのカネはあくまでも『納税者のお金』であるという事実を片時も忘れることなく、入れてもらったキャピタル(自己資本)をどういう風に使ってビジネス展開するかについて、できるだけ粛々とコンサバに取り組むべきである。

2004年には既に「アメリカの住宅投資、ヤバクなってきてね?」という声がチラホラ挙がっていたにも関わらず、サブプライム分野の雄ResCapに入れ込んでたGMACにピークの2006年に銀行がエクイティ投資するって、いったい・・・。

(2004年ごろのセンチメントは、当時のビジネスウィークの記事↓が参考になります。)
Is A Housing Bubble About to Burst? (2004.07.19)
http://www.businessweek.com/magazine/content/04_29/b3892064_mz011.htm

いくら金融界のマエストロが「住宅バブル?そんなの、なし、なし!」と言ったからといって、じっちゃまの戯言を鵜呑みにしたらダメである。

人間というものは「権威」に弱い。権威の「け」の字も持っていない筆者の言葉など誰も信用しちゃくれないが、グリーンスパンのじっちゃまが言ってるとか、元ナスダック会長のメードフ(5兆円ネズミ講の首謀者)が言ってる、とかなると、何故か安心して信じちゃうんである。

また、自分では信じてなくても、「権威がこう言ってたよ」と言えば、あちらに話は通っちゃうんである。

そして、公的資金入れてもらった銀行達は、高リスク案件扱うのが商売のプライベートエクイティやヘッジファンドと自分らが、同等の立場にいると勘違いするのも、やめたほうがよい。

さらに言えば、納税者のカネの使途を監視しリスクに暴走する金融機関を取り締まる立場にいるはずの規制当局が、公的援助受けた銀行がヘッジファンドの真似事したがるのを応援するのも、やめた方がよい。

何ゆえ公的資金を入れてもらわにゃならん羽目になったかの「そもそも論」から言えば、自己資本に対してリスク取りすぎてたからでしょ。

でも、銀行って、破綻したときのシステミックリスクが怖いという、ただそれだけの理由で「Banks are SPECIAL!」ってことで特別扱いされて、公的資金で救済してもらえるのに、その公的資金を銀行がふたたび高リスク投資に振り向けるのって、それって、どうよ。

再建中の一般銀行のキャピタルを、プライベートエクイティが手がけるような高リスク投資案件に使わせることに異を唱えなかった当時の日本の当局のみなさん、どうか、どっぷり反省してください。

・・・とか思っていたら、アメリカでも、似たような話が出てきた。

公的資金の注入を受けた金融機関達が、例の不良資産(Toxic Assets)の官民共同政府買い入れプログラムP.P.I.P.に、不良資産の「売り手」としてだけじゃなくて、買い手(すなわち投資家)としても参加したがってるらしいんである。

参照記事:Banks with taxpayer money could buy toxic assets (2009.04.03)
http://uk.reuters.com/article/burningIssues/idUKTRE53258J20090403?pageNumber=2&virtualBrandChannel=0&sp=true

このロイターの記事によると、モルガンスタンレーのCEOジョン・マック氏が社員とのやりとりで、不良資産流動化の政府プログラムに投資したいと社内の関係者に言ったという話が漏れてきてるのと、ゴールドマンサックスのCEOも同様の興味を示していることが先に報道された。また、3日付け英フィナンシャル・タイムズも、JPMやシティもP.P.I.P.にインベスターとして参加する意欲を見せていると伝えた。

で、政府当局の方はというと、「ヘルシーな銀行ならば、P.P.I.P.に投資家として参加してもよろしい。ただし、自分が売った資産を買うのはダメ。」(FDIC会長の言)とか言ってるというんである。

3月24日付のMHJ記事(ガイトナーのプット)で筆者は、P.P.I.P.の骨子をみると、これは、「買い手側の面倒しかみてくれない案」だと書いた。不良資産のリスクを一部政府にトランスファーすることで、投資家が取るリスク量を限定するプットがついてるから、と。しかし、「売り手」側は市場価格で売却すると自己資本不足が顕著になってしまうから、プライシングの問題は引き続きおこる、と。

「売り手」の銀行が「買い手」としても参加してくるとなると、現在最大の問題となっている「ビッドとオファーの差」をどう埋めるのか、ますますもって、よくわからなくなってきた。

ひとつの銀行が「売り手」にも「買い手」にもなる・・・?

「売り手」としては不良資産を売却して売却資産全体のリスクをバランスシートから外し、「買い手」としては、P.P.I.P.が組成する債券のうちスーパーAAAやAAAだけ買うから、キャピタル全体にのしかかるクレジットリスク量は減る、とかいう計算があるのであろうか・・・?

でも、そんな「売り手」にとって都合のいいプライスで、他の「買い手」がウンと言うのだろうか。

うーん・・・よくわからん・・・。

   ★   ★   ★

銀行達がToxic Assetsの不良資産をバランスシートから外したいなら外せばいいではないか、何故そんなにプライス、プライスと言って売却価格にこだわらなくちゃならないのか、というのを、実例で説明したい。

企業は、保有する資産から将来発生するかもしれない損失に対し、あらかじめ予想を立てて、その分を「引当金」という形でよけておく。そうすることで、将来実際に損失が起こったときに、あらかじめ貯めておいた引当金を崩して使えば、それがバッファーになって、その期に計上する損失額を緩衝してやることができる。また、銀行の場合は、すでに延滞になっている債権資産については、引当金を積むことが義務付けられている。

したがって、P.P.I.P.に売却対象のToxic Assetsに、当初投資コストの10%相当の引き当てを積んでいる銀行があるとして、そのToxic Assetsを額面100に対して最終売却価格が90以上(ディスカウント10%以下)で売却できれば、その銀行は追加的な損失を計上する必要はない。しかし、逆に価格が90以下になると、売り手の銀行には引き当て不足だった分、追加で売却損が発生し、その期の当期利益を圧迫する。

さて、実際の数字をバンカメ(Bank of America)の例で見てみよう。

厳密には、Toxic Assets というカテゴリーに入れてよいかはわからないが、【予備軍】としては充分Toxicな資格(?)がある、個人向け融資の「ホームエクイティローン」と「クレジットカードローン」を例にとりたい。(これらはP.P.I.P.が買い取る対象になっている。)

バンカメの最近の資料によると、同社の融資残高総額およそ9300億ドルのうち、経営が傾きバンカメに昨年買収されたカントリーワイドから引き継いだ分も含むホームエクイティローン他は1730億ドル、クレジットカードローンは830億ドル、この2つのカテゴリー合計だけで2500億ドルほどをバランスシートに抱えている。

計算のために、まだ延滞していなくても、コンサバに見積もって10%の損失発生を見込んで引当金を積んでいると仮定しよう。(実際の引当水準はもっと低い。)もしも、この2500億ドルのローンを額面の90%で売却すれば、バンカメは引当金を積んであったおかげで追加損失を計上せずに済む。

しかし、これが額面の80%でしか売却できなければ、2500億ドルの10%、すなわち、250億ドルが追加で損失に加算され、当期利益をその分減少させる。当期利益の減少は、別の見方をすると、自己資本の減少、でもある。

バンカメの自己資本460億ドル。追加損失250億ドル。個人向け融資の“アブなそうな分だけ”を取り出して試算しても、最終売却価格が10%低下しただけで、自己資本の半分以上が吹っ飛ぶ、という計算だ。

個人向け融資のほかに、さらに、商業用不動産向け貸し出しが650億ドルあるんだからね。こっちの延滞状況も最近になって急激に悪化してるということは、先日のMHJ記事の最後の方にグラフ載っけたのでご参照あれ。

前々から、ここのブログで、「金融機関の貸し出し能力は自己資本の厚みに比例する」と繰り返し述べてきているが、自己資本がゴッソリ半分もなくなったら、バンカメは、政府が期待しているような「貸し出しの拡大」なんか、できるはずない。どうしても貸し出しを拡大してもらいたかったら、政府はふたたび、公的資金を注入して自己資本に厚みをつけてやるしかなくなる。また資本注入ですか?いつまで、そんなこと、続けられるの?

そして、このプライスと自己資本の関係は、その銀行が国有化になったからといって解決する問題じゃないのである。

ということで、金融機関がToxic Assetsを売却する際のプライスというのは、ものすごくセンシティブ。

高いリターン(IRR)を期待して参加してくる「買い手」のプライベートエクイティの買い手と、プライシングの加減次第で自己資本がゴッソリなくなっちゃう「売り手」の金融機関とで、どういう価格交渉が行われるのかが焦点だ、と言う理由は、そこにある。

   ★   ★   ★

公的資金でキャピタルに厚みをつけてもらった金融機関が、そのキャピタルを使って、ふたたび高リスクのToxic Assetsに投資する。仮にものすごくGood Dealがあって、銀行が、自分達が抱えているToxic Assetsよりもさらに安い価格で別の資産を買い取ることができたとしてもだよ、それって、いわゆる、

「ナンピン買い」

と似たような行為なのでは・・・?

ナンピン買い・・・価格が下がってしまった証券を、さらに低い価格で買い増すことによって、平均価格を下げ、後日、価格が上昇したときに利益が出るように狙う方法。(このサイトの説明がわかりやすいです。)

収益をあげて少しでも早く公的資金をお返ししたい、そのための「投資機会を探る」というと聞こえはいいけどさ、「公的資金は納税者の皆様のおカネ」なんつー意識は、この図式のどこにも見当たらない。

(あおぞら銀行のGMAC投資だって、「収益性向上のための投資機会を探る」わけだったからさ。)

でも、それって、その投資機会に内在しているリスクは政府に飛ばしてしまえ、という意味でもありまして・・・。

公的支援を受けている米銀が、P.P.I.P.に投資機会を探る――。

なんかなぁ・・・やっぱし、それって・・・マズイんじゃないのかねぇ・・・。



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