先週のNY株式市場は、「その気になりやすい人たちのウキウキ感」が「真っ暗闇のリアリティ」を覆い隠す展開だったが、週明け昨日(6日)のNY株式市場は、最近ドイチェ証券からCLSA証券に移籍したばかりの銀行アナリスト、マイケル・メイヨ(Michael Mayo)が、「銀行株総売り」の推奨を出して、ウキウキ組に冷や水ぶっかけ、ゴーンと下がって始まった。
この、メイヨ氏だが、彼はこちらでは銀行アナリストランキングの上位常連。アメリカの金融セクターを長いこと見てる者には、メイヨ氏を知らないものはいない。
彼ったら、クレディ・スイス証券時代の1999年に1000ページのリサーチレポートを書き(百ページじゃないよ、千ページですよ、千ページ!)、当時「買い」推奨しかなかった銀行セクターに、ひとりで「銀行株は売りだーっ!」と殴りこみかけ、市場で注目された。
最初は異端児扱いだったが、後日、彼の予測どおりに銀行株は叩き落ち、彼はいちやく有名に。
(ちなみに、マイケルは、「トム・クルーズを醜くすると自分になる(I'm an ugly version of Tom Cruise.)」という迷言を吐いたことでも有名です。どうでしょう、似てるでしょうか。)
しかし、1000ページの分析が正しかったにも関わらず、金融機関すべてを敵にまわしたツケは大きく、その後、クビになったり、移籍しようとしてもシランプリされたりで、ウォール街のセルサイドのアナリストなら誰もが経験する【利益相反の苦しみ】を味わい続けたひとでもある。
今回も「ドイチェは自分の思うように意見を書かせてくれない!」と三行半たたきつけてドイチェ証券を飛び出したそうだが、移籍後しょっぱなから「売れー!」と来たもんだ。マイケル、持ち味全開。
この4週間、NY株市場のラリーを引っ張ってきた原動力は金融株ですかんね。そこにマイケル登場で、99年を覚えてるひとは、ゲーッ!と思うでしょ、そりゃ。
だが、筆者も、基本的に、マイケル・メイヨの意見に賛成である。
ここのブログで何度も述べているとおり、金融株が上昇するためのファンダメンタルズなんて全然揃っていない。不良資産から出てくる損失額もわからない、つまり、これから一体どれくらい自己資本(キャピタル)が足りなくなるかもわからない、だから希薄化の問題はつきまとう。
いまはウキウキ感で金融株上昇してるけど、これが継続する(Sustainable)と言える材料なんて、どこ探したって、ない。
昨日は後場に入って、買いがやや戻り、全体に持ち上がったけど、商いは薄かった模様。 決算見届けようというのも、あるのでしょう。
★ ★ ★
さて、今週あたりから、各社決算の数字がゾロゾロ出てきますね。欧米の大手金融機関はどこも、1月と2月の業績はすごくよかった、と言ってましたよね。
出されてくる数字は、実際、そこそこの数字になるのではなかろうか。(そうじゃなきゃ、いくら音頭取るのが仕事のCEOだといったって、あんな強気な発言、おいそれと言えませんって。)
ちなみに、ウワサに聞くところ(あくまでウワサであるが)、ゴールドマンサックスの今四半期Q1は、営業収入(Revenue)で120億ドル出した、とか聞いた。(ピークだった2007年度の同社の年間収入が500億ドルなんだから、現在のこのグチャグチャな金融市場で、四半期で120億出すってのは、すごいことであるよ。)
他の銀行のケースでも、この四半期だけで、債券のトレード部門から年間バジェットの4割以上をすでに稼いだ、という話も聞こえてきたよ。
やっぱり、1月と2月は、CEO達の空元気じゃなくて、実際に業績良かった気配濃厚であるな。
ところで、先月3月27日の金曜日に、米大手金融機関15行のCEO達がオバマ大統領に招かれてホワイトハウスで面談を持ったのですが、覚えてますでしょうか。ウォールストリートジャーナルは、「ボーナス魔女狩り」に参加して世間をあおってウォール街イジメに加担してたオバマもウォール街の助けなしには何も始まらないことに気づいて『仲直り(Truce)』のジェスチャー、とか伝えてた。
ウォールストリートジャーナルの記事:
Bankers, Obama in Uneasy Truce (2009.03.28)
http://online.wsj.com/article/SB123816459546857301.html
面談が終わり、ホワイトハウスから15人のCEO達がゾロゾロ出てきたんだが、その直後に、JPモルガンのCEOジェイミー・ダイモンがCNBCのTVインタビューに答えた。
そのインタビューで、彼が言ったひと言、「3月のJPMの業績は、1月2月と比べると、いまひとつ冴えなかった。」
あのひと言が嫌がられ、あの金曜日は金融株が急落したんだよね。そして、その傾向は、JPモルガンのみならず、どうやら他の大手金融機関も同様だったみたいなんである。
1月と2月はすごくよかったのに、3月はダウン・・・何が違ったのか。
★ ★ ★
筆者が最近耳にした話によると、欧米金融機関がどこも1月と2月の業績がよかった理由は、どうやら、AIGにあるらしい。
AIGと、CDOなどのポートフォリオのCDSのカウンターパーティになっていた銀行群は、これらCDS契約の解消(Unwinding)を1月と2月に集中的に行ったらしいんだが、その対象となるポートフォリオの額がハンパじゃなくデカい額であったために解消のクォートで足元見られ、AIGは解消に伴い多額の損失を被った。しかし、AIGにとっての「損失」は、カウンターパーティにとっての「利益」。AIGがお困りでしょう・・・と手加減するようなディーラーはウォール街には一人もいないからな。
さらに、CDOなどのベースのポートフォリオに含まれてるシングルネームのクレジットリスクが、解消にともないカウンターパーティに戻ってくるために、金融機関達はシングルネームのプロテクションのために膨大なCDS買いに走り、シングルネームのCDSの金利レベルを吊り上げることになった。(金利が上がるとCDSの価値は下がる。)
AIGはどんなに損失を出しても政府が損失吸収してくれるのわかってるんで、流動性がまったくない市場で、無理やりCDS解消して、損失ドンドコ出しまくり。
その損失分が、1月と2月に、カウンターパーティになってた大手の利益に様変わり・・・と、こういうやり取りがあったらしいんであるな。(注:これは、あくまで、“小耳に挟んだ話”で確約は取れない。風説の流布のつもりはありませんので、あしからず。)
3月19日のMHJ記事で、CDSのレベルのトレンドについてチラリ言及したが、リーマンショック以降で乱高下したCDSのレベルも、米国の公的資金注入のニュースを受けて年末に向けていったん落ち着きを見せたが、今年1月2月にCDSのレベルは再び上昇トレンド(しかも急激な)に入った。(CDSのレベルが上昇するということは、クレジットリスクが高まってプロテクションへの需要が高くなっている、という意味。)
株式市場は、金融株に対するウキウキ感が芽生えて上昇したが、クレジットプロテクションは、なかなか株の動きと連動してくれない。上述の「小耳に挟んだ話」からすると、今年にはいってからのCDSの動きは、このAIGのCDS契約大量解消の余波というテクニカル要因がかなり作用してる模様・・・。
ということはですよ、AIGFPのCDS解消が完全に終了するまでは、AIGは政府にどんどん損失取らせて、カウンターパーティを潤わせる、という動きが継続する、という意味かも。それって、「ウキウキ組の皆さん」にとっては、いい話だよね。
といっても、これ、せいぜいもって、あと半年ぐらいの話ですよね。一過性の収益の話。
実際、こういう取引が少なかった(らしい)3月は、JPMのダイモンの言葉借りると「あまり業績よくなかった」みたいだし。
このAIGがらみの一過性利益が出なくなったら、その後は、どこから、利益出してくるんでしょう。
マイケル・メイヨやモルガンスタンレーの株ストラテジストや筆者みたいに、ウジウジと暗~い部分にばかり目が行く「オタク的」アナリストなら誰もが心配するのは、まさに、そこなんである。
「ウキウキ組」vs「ウジウジ組」・・・筆者は確実に、後者。
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2 comments:
本日の下げは、一説によればMichael Mayo氏の「シティグループは、第4四半期に繰延税金資産において100億ドルの評価損を計上する必要がある可能性」と指摘した事が金融全体の懸念に繋がり、株価下落やリスク回避に繋がっている模様、ってありました。でもCの危機的状況に関して言えば、MHJの方が早かった(笑)。
訂正
上のニュースは私が使っているブローカーが流していたニュースで、元ネタがよくわかりませんでしたが、発信源は会計の専門家ロバート・ウィレンズ氏、それに対してコメントしたのがMichael Mayo氏かもしれません。情報が錯綜しています。CNBCを見ていたら真相がわかるでしょう。私はもはや見てません(笑)。
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