ご承知のように、P/Eレシオ(PER=株価収益率)というのは、分子がPrice(株価)、分母がEarnings (収益)で、PERが低下するには、①株価が落ちる、あるいは、②(一株あたりの)収益が上がる、のどちらかが起こればよいのである。
①はともかく、②のシナリオは、一部の企業はミクロベースでは業績回復してきているのと、キャッシュが潤沢な企業の場合は株式のバイバックという選択をする企業も出てくるであろうから、EPS上昇は十分ありえると筆者は思う。
レバレッジがかかり過ぎた企業なら少しでもキャッシュがあれば借金返済の動きに出るところであろうが、デレバレッジング(deleveraging)もそこそこのレベルまでやりましたという会社なら、そこからの【キャッシュの使い道】を考えるだろう。
経済に不透明感が残る間はできるだけ財務の柔軟性を維持することに努め、キャッシュをじぃー・・・と持ち続け「機を待つ」という経営上の選択もあるだろうが、典型的な株投資家ならば、バイバックを期待するだろうね。
関連記事:
Right Now, I Prefer Buybacks To Dividends (The Motley Fool, 9/22/10)
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いずれにせよ、現在のところ、失業・住宅など米経済のマクロ環境がこのザマなので企業業績が力強く回復するといったシナリオにベットするのはこころもとない。とはいえ、ミクロレベルまで降りて観察・分析すると、米企業の多くはさほどギリギリな財務状態にはいない、というのが市場のコンセンサスになっている。
米株が方向感を失っているのも、不安定なマクロ環境に主眼を置くか、あるいは「さほどひどくもみえない」ミクロ分析に主眼を置くかで、市場参加者が受ける印象がずいぶん変わってしまうというのもあるのだろう。
しかし、マクロ要因で低金利が続く中で、ミクロ企業体としてバランスシートが良好であれば(つまり信用力が高ければ)、そういう会社にはおのずと「借りたければいくらでも借りられる」状態が生まれる。
今月初旬の記事だが、ウォール・ストリート・ジャーナルが、米ブルーチップの会社群が、まさに「借りたければいくらでも借りられる状態」-THE GOLDEN MOMENT -を迎えていると伝えている。
Blue-Chip Borrowers Issue Debt in Droves (WSJ, 9/8/10)
(WSJの記事より抜粋)
Corporate borrowers are enjoying a golden moment of super-low interest rates combined with a scramble by global investors for higher-yielding assets, given that cash is yielding nothing and the stock market stalled.
キャッシュで持っていてもリターンなし、株式市場は硬直状態 ―― そんな中で、借り入れした企業には、イールドを産む資産を求める投資家がグローバルで群がって、極めて低い金利条件で債券を発行できる黄金のモーメントが訪れている。
高格付けの企業は、期間10年という長期でも過去最低かそれに近い借り入れ金利でクーポン固定でロックインできるようになっていて、財務体質が健全な企業はイールド低下の恩恵を受けようと、企業債の発行が非常に旺盛になっているという話。
この起債ブームの皮切りになったのは、今年の8月、当時ツイッターでも紹介したが、ジョンソン&ジョンソン社が手がけた$1.1bnの起債だった。
このとき、非金融部門のトリプルA格優良企業による長期債発行は実に15ヶ月ぶりで、これより前にトリプルA格の企業が起債をしたのは、2009年5月にマイクロソフト社が$3.75bnを発行したのが最後だった。
J&J社の10年債はクーポン2.95%、30年債4.5%で、発行金額はそれぞれ$550mlづつ、このクーポンのレベルは、同社の発行金利レベルを1981年までさかのぼっても過去最低の水準だったという。
関連記事:
J&J Sells $1.1 Billion of Debt at Record-Low Rates (Bloomberg, 8/12/10)
システム全体でみたときの銀行融資残高があまり伸びていないので、政治家はギャンギャン銀行叩いてわめいているが、ブルーチップの大企業で信用力が高い企業であれば、直接調達であろうと、間接調達であろうと、資金はいくらでも出てくるわけである。
金利は安いし、ドル安でグローバル投資家はドル資産探して需要も旺盛、キャピタルコスト下げるためにも借り換え・借り入れを考慮しない手はない。コーポレートファイナンスの基本中の基本でありますね、これは。
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ここで話を、さきほどのシェア・バイバックに戻すとしよう。
数日前のブルームバーグの記事。シェアバイバックはサルでもできる芸当で、キャッシュの使い道として経営陣が想像力ゼロだといってるようなものだが、今ならバイバックは悪くないよ、という内容のブルームバーグのコラムニスト、David Paulyのコラムである。
Stock Buybacks Are for Dummies Except Right Now (Bloomberg, 9/27/10)
この記事によると、米株のシェアバイバックは実際増えていて、S&Pの調査では昨年(09年)のバイバックは総額$137.6bn、今年2010年は$300bnを超えることが期待されている、という。
そして、Paulyもこの記事中で書いているが、起債条件が緩んできているので、シェアバイバックを借り入れによってまかなう企業も結構出てきている。
そのひとつが、マイクロソフト社。
マイクロソフトの場合、もともとがキャッシュリッチな連結バランスシートをしているが、そのキャッシュのほとんどが海外オペレーションにあるため、自前のキャッシュを用いるよりも市場に出ていって資金調達するほうが有利と判断し、配当金を増やし、シェアのバイバックをすると言っている。
ここで懸念となるのが、2004年以降にクレジット市場のイケイケが嵩じて、企業は株式のバイバック資金としてがんがん借り入れしていたのが思い出され、「まさか、あの間違いを、再び辿るつもりではあるまいな・・・」ということであるが、当時と現在とで決定的に異なる点は、
クレジットカーブが、スティープな状態にいる、ということである。
(注:この場合のクレジットカーブというのは、縦軸は信用スプレッド、横軸を左から右に信用力の強いほうから弱いほうへ格付けでプロットしたもの、の話をしている。)
クレジットカーブは通常、明らかな右肩上がりの図になるのだが、クレジットバブルの頃は、このカーブがべったーーと寝てしまって、借り手の信用力の違いなどお構いなしに誰にでも貸しまくる、そういう状態にあったのである。
カーブがスティープな現在は、少なくとも、信用力の低い企業には、以前ほど簡単には資金は出てこない。
だから、筆者としては、「株バイバック資金を借金に頼るという不健全なサイクルが再び始まる」という懸念は、(いまのところは)さほど強くは持っていない。
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たしかに、クレジットのアベイラビリティは全般的に緩まっているという印象を筆者も受けるけれども、クレジットバブルが破裂してまだ数年、とりわけ銀行のような間接金融の世界では、そう簡単に貸す気はなさそう。
つまり、アベイラビリティの二極化が起こっている。(←これは日本もバブル崩壊後に経験した。)
強い企業にはジャブジャブ資金がまわるけど、弱小企業にはぜんぜん資金が回らない。
また小規模の企業は、一般に起債ロットが小さすぎて、直接調達の市場に出てくることも困難なこともあり、銀行が積極的に貸さないと中小企業の倒産が続き、そうした中小企業への貸し出しを扱う小規模金融機関の破綻も止まらないという悪循環になる。
そこで、オバマ政権は、つい先日、Small Business Job Bill というスモールビジネス向けに一部税控除と$30bnの融資保証を出して支援する法案に署名して新法が成立したが、どこまで効果があるかは、市場の見方は分かれている。
政策の決定打を見つけられないまま、株市場は夏休みを過ぎても出来高が下がり続けて、ダルダル。一方の米国債は、今年の春から一環して元気ハツラツ。
グラフは、上がS&P500、下が10年米国債イールド、ともに2010年YTDで同期間で並べてみた。
7月17日のMHJ記事『方向感を失ったヨーヨー市場』で、筆者は株が本格的に上昇トレンドに入るには米国債市場が不安定になるのではないか、米国債が強いままで米株が上昇しても一時的、と書いたのだが、7月以降は案の定の状態だ。
見方を変えれば、米国債がここまで強いのに、株価はけっこう踏ん張っているようにも見える。
ただし、米国債イールド推移を、もっと長期の過去5年で見ると(↓)、これまたずいぶんと下がってるんですよね。このトレンドがどこまで続くか、やや不安にならなくもない。
この10年債の過去5年推移のチャート眺めていると、なんとな~くエネルギー溜め込んでいるようにも感じるんだよなぁ。地震と同じく、溜めるにいいだけ溜め込んだエネルギーに耐え切れず、ある日、ビョ~~~ンと跳ね上がる、なんてことにならないといいんですが・・・。
いずれにせよ、こうしてベンチマークが下がりまくりで、企業債の起債ブーム。強い企業は、キャピタルコスト下げてバランスシートをさらに強くし、株バイバックでEPSを上げるミクロ的好機である。
でも、ここまで下がってもダメなところはダメ。二極化はさらに進むということか。
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