Tuesday, November 9, 2010

アムバックの盛衰

金融保証第2位のアムバック(ABK)が、11月8日、Chapter 11を申請した。

関連記事:Ambac Files Chapter 11;Shaes Down 60% (Barrons, 11/8/10)

金融保証(Financial Guranator)になじみのない人のために簡単に説明しておくと、どこかの会社なり地方自治体なりが債券を発行する際、もしも将来その発行体(債務者)が支払い不能の事態に陥ったら、発行体に替わって債権者に借金をお返ししましょう、という一種の保険サービスである。

プロテクション申請したのは持ち株会社、6月30日付総負債$1.68Bil、最大株主Vanguard 5.46%、最大債権者 Bank of NY Mellon、保険オペレーティング子会社Ambac Assuranceのライアビリティは$57.6Bil。

この会社の場合、春にはCDSのスプレッドが何万bpsとかいうレベルだったし、夏からすでにChapter11申請の可能性をほのめかしていたことだし、つい一週間ほど前にも、債権者との事前合意型破産手続きの話し合いが煮詰まってきているが最終合意に至らなければChapter11申請しますと明言していたので、昨夜このニュースを聞かされても、トータルサプライズではない。

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アムバックといえば、かつては地方自治体が発行する地方債のモノラインとして全米最大、その自治体そのものの財務体質がピカピカのトリプルA(AAA)ではなくっても、アムバックから保険を買い、その保険で発行する債券をくるむ(Wrappingする)ことで、ちちんぷいぷい、ピカピカのAAAになりますよ~、とやってたんである。

地方債を発行したい自治体は、保険料(A)をアムバックに支払い、債券を保険でくるみ、発行するときの金利(B)を低下させ、

支払うプレミアム(A) < 信用度上昇による金利低下の恩恵分(B)

の式が成り立てば、保険を提供する側にも、それを買う側にも、経済合理性が成り立つ、そういう商売であった。

アムバックが引き受けるリスクについては、それをプールして、まさに保険アクチュアリの世界でプールの将来の損失率を計算し、プレミアムを算出していた。地方債の場合は実際のデフォルトはあるにせよ、実際には極めて最終損失率の低い世界であったこと、また、その業界では最大かつ市場から最も信頼されていたアムバックという会社は、自身の企業格付けはもちろんトリプルA、毎年安定的な収益を確保できる「知るひとぞ知る」会社として、マンハッタン島の南端に何十年も君臨していたんである。

アムバックと言えば、その昔は、この会社ぐらい収益見通しを立てるのが楽チンな会社はないとまで言われ、あまりに収益が安定しすぎているんで、投資としてはちっとも面白くなく、株価もクレジットスプレッドもさほど動かない、そういう地味な会社だった。

しかし、そこが株式会社の悲しいところ、「もっと四半期の利益をあげんかい!」というプレッシャーは、この眠たくなるような安定ビジネスにも当然及び、そこでアムバックが【新たな収益源】として目をつけたのが、『証券化商品』のリスクもプレミアム次第で引き受けましょう、というものだった。

この【新たな収益源】は、米国の証券化市場とデリバティブス市場の拡大にともなって同社の重要な収益源と化した。寝惚けた地方債市場から事業拡大展開に成功し、リスクコントロールをうまくやりながら収益体質を高めたアムバックはエラい!と、市場のアナリストらもべた褒めだった。

しかし、2000年代中盤から、クレジットバブルが羽目を外してイケイケどんどんで踊りまくっているときに、CDOなどの高レバレッジのサブプライムモーゲージ商品化商品のギャランターとして積極的にリスクを引き受けるようになった。

あのAIGという巨象を死の一歩手前まで複雑骨折させた子会社AIGFPが手がけていたのと同じ世界で拡大しようとしたわけである。

そして、クレジットバブルの破裂。

その後は、AIGの顛末であまりに有名なので、あえて書く理由もない。

過去10年のアムバックの株価推移をみると、クレジットバブルの崩壊のすさまじさを物語る。






クレジットバブルとその崩壊は多くのひとびとや会社を奈落の底にひきずり込んだが、アムバックの盛衰もかなり劇的なものだった。

これから同社はChapter11のもと、腐った膿は切除して会社更生に取り組むわけだが、彼らが元々誇りにしていたスリーピーな地方債保証ビジネス、あれはどうなるのかというと、地方債市場そのものも、バブル崩壊後にずいぶんと様変わりしてしまった。

腐ってる証券化の部分と今後も十分やっていける地方債の部分を、Good Bank Bad Bank方式で早急に切り離し、地方債ビジネスの方のフランチャイズ・バリュー(Franchise Value - 事業基盤の価値)を温存せよという意見は、実は、株価が急落していた2007年後半には、すでに考慮されていたんである。

しかし、規制当局だの株主だの債権者だの格付け機関だの関係者がぐしゃぐしゃに入り乱れて、あーだこーだと言っているうち、同社の財務は取り返しのつかないこととなり、07年当時はまだ価値の高かった地方債保証ビジネスのバリューも一方的に減少した。

地方債マーケットの参加者も「保証をつけてもらわなくても発行に一切支障はないもん」などと強気なことを言い出して(いま、2008年当時のあの強気な言葉を後悔している自治体も中にはいるんじゃないかと思うけれど)、それまで一種の「慣習」となっていた「地方債に保証を付ける」というのをやらなくなってしまったわけだ。

この先アムバックにどんな未来が待っているかは筆者にはわからないが、バブルの後遺症は取り除くことはできても、残された事業のフランチャイズバリューも相当弱まってしまっており、かつてのような安定企業としての地位を取り戻せるかは、残念ながら、疑問が残る。

地方債市場そのもののあり方が、この数年間で大きく変化してしまったわけだからね。

あの安定的な優良会社が、わずか数年でChapter11を申請することになったという事実は、長年米クレジット市場に関わったひとりとしては、なにやら感慨深いものがある。

サプライズニュースではないけれど、それで書き残しておこうと思った。

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