Tuesday, June 30, 2009

介入のかおりプンプンの2009年前半が終了

6月末日の今日、ダウは8447で引けた。前日比82ポイント下げだったものの、3月から数えて4ヶ月連続の上昇である。

今年2月からの月末S&P500の終値をみてみよう。

01/31  825.88
02/27  735.09
03/31  797.87
04/30  872.81
05/29  919.14
06/30  929.32


しかし、NY証券取引所での取引ボリューム(NYSE Listed Volume)をみると、減少の一途。


02/27  8,926,480,000
03/31  6,992,960,000
04/30  6,862,540,000
05/29  6,050,420,000
06/30  5,910,439,500


6月10日付MHJ記事『薄商いの株価上昇と「ダークプール」』でも述べたが、NY市場のトレードボリュームは減り続けていて、昨日(6月29日)には、今年1月以来の低ボリュームを記録した。

しかも、25日にNY証券取引所から出されたプレスリリース読んだら、6月中旬のボリュームのうち、4割以上が「プログラムトレーディング」から来てたというんだからね。

たしかに過去5日のS&P500を見たら、毎日、日中はほとんど取引されてなくて、取引時間の最後の一時間になると、急にトレードされて終了、というパターンの繰り返し。




6月中は、S&P500が200日移動平均線を超え、それはテクニカル上は「ブルサイン」だというんで強気になってたテクニカルアナリストもいるけれど、市場には「ブル」な雰囲気はどこにもなくて、200日移動平均を超えるレベルにどうにかこうにか【しがみついている】といった感じ。(右のグラフはFT記事より。)

でも、200日移動平均を超えたといっても、移動平均自体はまだ下がり続けているわけだし、3月9日の底から40%も上がったのは、典型的な「ベアラリー(Bear Rally=弱気相場で一時的に上昇すること)」と見るべき。

しかも、S&P500のボリュームパターンを観察してると【誰か】が株価が下がらないように買いを入れてるような気配濃厚で「気持ち悪い」のひとこと。

こんなオカルト入った相場で、思い切り買いモードに入れるかよ、と不参加決め込んでた筆者である。そうやって傍らで観察してるばっかだったから、5月と6月は思ったようにお小遣いを稼げなくて、残念だった・・・。

で、この【誰か】が株価が下がらないように買いを入れてる、って話なのだが、昨日29日のCNBC局で、フロア・トレーダーのLarry Livinが、TV電波上で、ズバッと「政府がマニピュレーションしてる」と明言してた。














Larry Livinは自身がシカゴ先物市場のベテランのフロアトレーダーで、S&P500フューチャーの取引に直接関わってるプロである。ものすごい早口でまくし立てる話し方は、さすが何十年もフロアトレーダーやってきただけあると思わせる(笑)。このクリップの2分目ぐらいからラリーの発言が始まるのだが、シカゴのフューチャー取引の現場にいるプロのトレーダー同士の間でどんな会話がなされてるのかが垣間見えて、おもしろい。

ラリーは、「今週は四半期末にあたって、ウィンドウドレッシングがなされるのもそうだし、独立記念日の休暇を控えた週だから低ボリュームで株価が上がる傾向にあるが、それにしても、連休直前の木曜日に雇用統計を出してくるなんて、もしかしたら、すごく数字が悪いのかとかんぐってしまうじゃないか。」とジョークなんだか本気なんだかわからないようなことを言った。そして、それに続いて、こう述べたんである。(以下のラリーの発言は、筆者による聞き取りなので、英語の一部は不正確かもしれませんが、意味はあってるはず。)

This market continues to be propped up by the government intervention and manipulation. Unfortunately, that continues to happen, I think this market can go higher, as the government has been doing a good job of keeping it that way, no matter what the underlying current is, unfortunately."

いまのマーケットは政府の介入とマニピュレーション(操作)で上がり続けている。残念ながら、これからもこれは続くだろうし、たとえ実際の市場の動きがどうであれ、政府がすごく上手に(市場が上昇し続けるように)仕向けているから、まだ上がるかもしれないと思う。



司会者が「ということは、年の後半は、暗い現実が噴き出してくる、そういうこと?」と聞くと、ラリーは「政府が今のまま市場に介入し続ければ大丈夫なのじゃないか。ここのフロアにいるプロのトレーダーに誰に聞いたって、このまま一本調子で市場が上がり続けるはずがない、とみな言っていたけど、実際は政府のおかげであがリ続けた。」と言い、「サプライとデマンドという市場の力が株価形成に影響を及ぼすというのはもちろんだけれど、今起こっている状況は、そうじゃない。」

Every single day, we have some kind of backstop from the government. I mean, these markets are not free markets anywhere. You know, this whole year has been absolutely ridiculous. I don't know when it's gonna stop. But as far as I'm concerned, this continues to drive the market higher. It will continue. Again, I don't see any stop.

毎日のように政府からなんらかのバックストップ(株価の下支え)が入るんだ。今の市場は、どの市場をみたって、フリーマーケットからは程遠い。わかるだろう?今年に入ってから、完全に馬鹿げた相場になってるんだ。この状況にまもなく終わりが来るかはわからない。でも、自分が見る限りでは、(政府の介入が)マーケットを押し上げ続けているし、これからも続くのではなかろうか。繰り返すが、政府のバックストップが止まるようには私には見えないんだ。



4月29日付けのMHJ記事で、筆者は

「売りが買いの3倍もなってるのに株価が下がらない。下がりそうになってくると誰かが買い向かってくるみたいで、米株市場の動きがなんだか気味悪い」

と書いたのを覚えておられるでしょうか。筆者の場合は、部屋の片隅で小さなラップトップ見ながらチマチマお小遣い稼ぎしてるような「蚤以下の個人投資家」ですからね、その【なんとなく変】という感覚は、漠然としたフィーリングにしか過ぎないわけ。

でも、ラリーの場合は、実際に取引所のフロアでオーダーフローに関わってるひとだからね。そのひとが、ここまでズバリと「政府介入と株価操作」と言い切ってくれるのは、なかなか、すがすがしいではないか。筆者のような【なんとなくフィーリング】だけで、普通は、全国版TVでここまでハッキリ言えんだろ、ここまで。

そして、先月5月の中ごろに、別のTV局(FOX)のビジネスニュース番組で、あるTVインタビューがあって、そこで【驚愕の数字】が語られていたということを、つい数日前に発見したMHJ筆者である。(番組クリップはこちらへ。)

この番組にはゲストとしてShaffer Asset Management社長のDan Shaffer氏が出てて、そこで、彼は、こんなことを言ってたんである。

“Something strange happened during the last 7 or 8 weeks. Doreen you probably can concur on this -- there was a power underneath the market that kept holding it up and trading the futures. I watch the futures every day and every tick, and a tremendous amount of volume came in a several points during the last few weeks, when the market was just about ready to break, and it shot right up again. ・・・

「過去7~8週間ぐらい、何か奇妙なことが起きている。マーケットの背後に市場の上げを支えてフューチャーをトレードし続けるパワーが存在している。わたしは毎日フューチャーを観察しすべてのティックに気をつけているが、ここ数週間、数度にわたり、市場が下がりそうになると、ものすごいボリュームの取引が流れ込んできて、マーケットはまた跳ね上がるんだ。」



ふむふむ、MHJ記事と同じことを言っておる・・・。

Usually toward the end of the day – it happened a week ago Friday, at 7 minutes to 4 o’clock, almost 100,000 S&P futures contracts were traded, and then in the last 5 minutes, up to 4 o’clock, another 100,000 contracts were traded, and lifted the Dow from being down 18 to up over 44 or 50 points in 7 minutes. That is 10 to 20 billion dollars to be able to move the market in such a way. Who has that kind of money to move this market?

「そうした動きはたいがい、取引時間の終了間際に起こる。先週の金曜日(5月8日)も4時終了の7分前に、S&Pフューチャーのコントラクトが10万本トレードされたんだ。そして、終了4時までの最後の5分間で、さらに10万本のトレードが行われ、わずか7分間で前日比マイナス18だったのに、44から50ポイントも上げたのだ。
こんな風にマーケットを動かすことができるのは、金額にしたら100~200億ドル(1兆~2兆円)相当のトレードだ。誰がそんな巨額を使って市場を動かすことができるだろうか。」


ひゃ、ひゃ、100億から200億ドル、ですってーっ?!?!?

On top of that, the market has rallied up during the stress test uncertainty and moved the bank stocks up, and the bank stocks issued secondaries – they issues stock – they raised capital into this rally. It was perfect text book setup of controlling the markets – now that the stock has been issued…”

「それだけじゃない。ストレステストの結果が不透明だった期間もマーケットは上昇し続け、銀行株は上がった。そして銀行株がセカンダリー市場で発行された。ラリーが継続している間にキャピタル調達できたんだ。これは完璧なまでの市場操作のセットアップじゃないか。そうして銀行株が発行されたんで・・・」


ここで突然、もうひとりのスピーカーの馬鹿オヤジがシェーファー氏の発言を遮ってしまった。あーん、せっかくいいところだったのに・・・。

では、ここで問題です。

株価が200日移動平均をどっぷり下回っている最中に、取引時間最後の5分間に、【1兆円や2兆円のお買い物】ができる投資家の名前を挙げなさい。



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Saturday, June 27, 2009

金欠のカリフォルニア、IOUは回避できるか

先週は西海岸カリフォルニア州から悲報が相次いだ。

マイケル・ジャクソン50歳。ファラ・フォーセット62歳。




どちらも偉大なエンターテナーでしたね・・・。個人的に、70年代からずっとおふたりの大ファンだったので、訃報を聞き、とても残念です・・・。

ご冥福をお祈りいたします。

   ★   ★   ★

ふたりの訃報が入った翌日の金曜日、カリフォルニア州の州議会では、さすが「米国エンタ界のメッカ」ハリウッドを抱える州らしく、合衆国を代表する大物スターふたりの死にリスペクトを払おうと、州議員全員が立ち上がり黙祷をささげた後、審議(3時間)を終了してその日は解散になったという。

しかし、この「州議会が黙祷をささげた」というニュースに対して、地元カリフォルニア住民の間からは、怒りの声が続出。

記事の下には「ざけんじゃねぇ!」「黙祷してるヒマあったら仕事しろ、仕事!」「こいつら役立たず議員連中の給料に支払われた地方税、返しやがれ!」「いつから議会は一日3時間勤務になったんだ!」といった読者のコメントが並ぶ。

住民の怒りも無理もない。カリフォルニア州の財政は、このままいくとパンクすること間違いなしだからだ。

今月10日、同州の財政担当コントローラーJohn Chiang氏が、シュワルツネガー州知事および議会関係者宛てに手紙を出し、

「州予算の修正をさっさと決議・通過させなければ、カリフォルニア州財政は、あと50日以内に手持ちの現金が完全に底をつく。

という警告を出した。(6月10日付のレターはこちら。)

手紙には2009年7月から2010年6月までの会計年度における同州のキャッシュポジションが、現行の予算案通り走るとどんな悲惨なことになるかというのを示した生生しいグラフ付き。



Chiang氏によると、来月7月28日に予定されている債務支払いに必要なキャッシュが足りなくなることは必至で、7月末日までに同州のキャッシュはマイナス28億ドル(2800億円)になる見込み。キャッシュ不足は会計年度を通じて深刻さを増し、来年4月には253億ドル(2兆5千億円)までマイナス幅が広がる、という推計を出している。

同氏はこの6月10日付けの手紙の前にも、5月29日に「知事そして州議会のみなさん、はやく予算修正を出してくださいっ!そうしてくれなければ、ヤバイですーっ!マズイですーーーーっ!ギャオー!」という、ほとんど【絶叫口調】ともいえる別の陳情書を出していて、遅くとも6月15日までに議会で問題解決してくれろと懇願した。

しかし、6月15日どころか、今日27日になっても州議内は混乱するばかりで問題解決にむけての最終決着が得られず、サクラメントの州政界は、いまやメチャクチャな状態らしいんである。

Chiang氏が出した5月29日付けの手紙によると、カリフォルニア州のキャッシュ不足は今に始まったことではなく、2007年7月からずっとキャッシュ不足を患っていて、借金の返済日が来たり州政府従業員の給料払ったりするたびに、足りない部分は州の特別基金などから借金するという自転車操業でやりくりしていた。

(Chiang氏の手紙より引用)

The State’s chronic inability to resolve its structural budget deficit, the fact that the State has not had a positive cash balance since July 12, 2007, and has had to borrow internally from special funds,・・・

カリフォルニア州は構造的な会計赤字を解消する能力に慢性的に欠けており、2007年7月12日以来キャッシュバランスがポジティブになったことは一度もなく、そのため特別口座などから借金することでその差を補い続けてきたという事実があり・・・



この10年、ただの一度も黒字にならなかったカリフォルニア州財政



足りない部分は借金で。(あれ?・・・“どこか”で聞いたような・・・)

借金できるうちは、いいんですよ。できるうちは、ね。

(Chiang氏の手紙から引用、つづき)

・・・and the collapse of the global credit markets all have significantly limited the State’s ability to borrow from Wall Street. Simply-stated, the State will not be
able to borrow its way out of this crisis. Tough decisions cannot be avoided.

・・・そこに、グローバルクレジット市場の崩壊が重なって、我が州がウォール街経由で借金する能力は極端に狭まった。要するに、我が州が現在迎えているこの危機的状況を(従来のように)借金で乗り切ることはもはや不可能、ということである。重大な決断をするときが来たのだ。


   ★   ★   ★

2007年ごろからクレジット市場が全般に体調不良を訴えるようになり症状は悪化の一途、2008年に入るまでには地方債(Muni Bonds)に保証を提供する業務を行っていたアムバック(Ambac)やMBIAなどのフィナンシャル・ギャランティ各社の経営が「あの」AIGと同様のサブプライム関連CDS損失問題で大揺れとなり、その余波も手伝って米国の地方債市場は基盤自体もなんとなくグラグラしてて、借り入れ金利上昇の下地はできていた。そこにリーマンショック勃発で、企業債市場のみならず他の各市場でもクレジットスプレッドが異常拡大。

参考までに、カリフォルニア州発行の地方債が、ウォール街でどんな値で取引されているのかを見てみよう。



このグラフは、カリフォルニア州地方債のCDS(5年)の推移である。青線が同州CDS、赤線が全国地方債CDSインデックス、緑線はその差、である。

<注> AIGの一件で、「CDS」というと、なんだか「すべて悪い」みたいなトーンになっちゃってるけど、実際のクレジット取引の世界では、対象になる現物(キャッシュ)債券が存在しさえしていればCDS(←キャッシュ債券のデリバティブス)は必ず存在する。CDSというのは、スペキュレーションに用いられているだけじゃなくて、クレジットの世界では最も一般的に用いられるヘッジ手段のひとつである。CDSは債券の”プライス”に相当し、CDSのレベルを参考にして債券ってのは売買の値段が決まりますからね。カリフォルニア州の信用力が低下すれば、同州が発行する現物債券を対象にしたCDSのレベルは高くなり、逆に信用力が高くなればCDSレベルは低くなる。(信用力とはその債券の発行体がデフォルト起こすかどうかって話だから、デフォルトすると信じる人が多くなればCDSのレベルは高くなる、ってことです。)

地方債市場でもCDS水準は目だって跳ね上がり、いったん急上昇したのちやや落ち着いたが、地方債CDSは現在も全体的に高止まりしている。全国インデックス(赤線)みると、1年前なら50ベーシスポイント(0.5%)で借りれたものが、現在は、CDS買おうとすると200ベーシスポイント払え、ってんだから。つまり、借りる側からしてみると、借り入れコストは1年前の4倍になってる、ってことである。

なかでもカリフォルニア州は、財政悪化の問題が全国的に有名になるに従って、CDS水準が全国レベルを乖離して上昇を続けている。こんな金利水準になっちゃったら、それでなくても歳入が減って予算ギャップが激しくなってる同州が、これ以上借金の利払い分を増やすなんて、現実問題として無理ですよね。

   ★   ★   ★

カリフォルニア州は、住宅バブル崩壊の痛手を最も受けた州のひとつで、いまだに住宅価格が大きく下がり続けている。失業率も5月は11.5%をマークして(全国同比率は9.5%)過去30年で最悪。同州の歳入構造の特徴として、ひとつは固定資産税収が少ない分、個人所得税収への依存度が他州と比べて異様に高く、さらに証券売買キャピタルゲインやストックオプションといった浮動ソースからあがる税収を多分にあてにしてバジェット組んでたところがあり、歳入が激減した。

仕方ないので、州の税率を高くしようと提案したら、州民の8割近くが大反対。税収増加案はお流れに。

歳入増えないんだから、支出減らすしかないわけだが、こちらはこちらで、議会メンバーの政治的思惑が複雑にからまって、バジェット削減の道筋がなかなか見えてこない。

知事のシュワルツネッガーは、ついにワシントンDCにみずからが飛んできて、財務省のドアを叩いて「うちの州がおカネなくて死に掛けてます。お願いです!連邦のお金を恵んでください!どうか助けてください!!」と直談判しにきた。

しかし、わざわざ大陸横断して頼みに来た知事への連邦政府の対応は極めて冷たかった。

ガイトナー財務長官は「残念ながら連邦政府が金融危機対応に用意したお金は、個々の州には使えません。自分たちで収支トントンつけられるようになるには州レベルの財政赤字を減らすしかないけど、それには、州のみなさんに多大な負担がかかりますねぇ・・・大変ですねぇ・・・ふぅぅはぁぁ・・・(A lot of the burden is going to be on them to lay out a path that gets their deficits down to the point where they're going to be able to fund themselves comfortably.)」と、なんだか他人事みたいなセリフを投げつけて、シュワちゃんを追い返したんであった。(6月15日付Washington Postの記事はこちら。)

連邦政府としては、カリフォルニアだけ救済してあげると、全米の州政府が「うちも助けて!うちも助けて!」と次々に救済を求めてホワイトハウスに押し寄せてくるのはわかってるので、ここはポーカーフェイスを保つしかない、というところか。

その代わり、連邦政府は「ビルドアメリカ債」だの「デベロップメント債」だの、わけわからん地方政府支援策を出して、お茶をにごした。

手ぶらでDCからカリフォルニアに戻ったシュワちゃんは、共和・民主の対立激しい同州議会にふたたび予算削減案の最終調整に至急とりかかるようハッパをかけた。「このままじゃ、公立学校の教師は5万1千人がクビ、服役してる犯罪者も4万人釈放するしかなくなるぞ!」と。

4万人の犯罪者が財源不足で牢屋から出てくると脅されたにもかかわらず、議会はポリティクスが先行しちゃって何も決まらず。

バジェットの収支を合わせる作業の締め切りは今月いっぱい。あと数日しかない。なのに、議会は木曜日(25日)に民主党側から提出された予算修正案をめぐって対立・粉砕。

そうこうしてるうちにも、毎分毎秒目の前からキャッシュがどんどん減ってゆくのを見つめている州財政担当Chiang氏は、「もう間に合わない~~、来週早々、I.O.U.を発行するしかない~~~~~!!!!」と天に向かって絶叫した・・・。

   ★   ★   ★

I.O.U. とは、 ”I Owe You"(借りてます)、を意味する借用証書。つまり、現金を渡す代わりに「現金はもうすこし待っててネ、ちゃんと後でお支払いしますからネ!」と宣言する文書のことである。

地元新聞Los Angeles Timesの昨日26日付の記事を読むと、金曜日(26日)、議会はついに折衝しあい、ひとまず7月に必要な50億ドル分の削減を盛り込んだ民主側の修正案を可決して、その日は閉会。そう、マイケル・ジャクソンに黙祷捧げた、あの日である。

しかし、シュワルツネガー知事はじめ共和党側は、「240億ドルの予算ギャップを迎えることがわかりきっているのに、この修正案では7月分として当座必要な50億ドルのキャッシュしか手当てできない。根本的な解決にはほど遠い。この案は阻止する!」とやり返し、筆者が今このMHJ記事を書いている時点では、シュワちゃんも「貧困層や子供達向けの公共サービスは削ってるのに、服役中の囚人の健康管理予算は削減しない、そんな案にはサインできない!」といって、知事としてこの案は否認する意向だという。

カリフォルニア州、ついに、来週、I.O.U.発行か!?!?!

Chiang氏率いるコントローラーのオフィスのサイトには、最悪の場合、どの支払いが7月にI.O.U.発行の対象になるかという一覧表まで用意されている。(一覧表はこちら。)

しかし、I.O.U.を受け取っても、それを店に持ってってその日の晩御飯は買えませんからね。カリフォルニア、この後いったい、どうなるのであろうか・・・。

筆者は、実は、シュワルツネッガー主演のアクションヒーロー映画の大ファンで、なかでも『プレデター』は最高傑作だと思っている。映画『プレデター』といえば、シュワちゃんの永遠の名セリフ、Get to the chopper!(ヘリコプターまで行け!)がある。殺人鬼宇宙人プレデターが眼前に現われ、ヒロインの女性を救おうとして負傷したシュワちゃんが、女性に向かってヘリコプターに乗って逃げろ!と叫ぶ有名なシーンである。(画像クオリティ悪い↓ですが、お許しを。)



カリフォルニアン、いよいよ晩御飯買えなくなったら、知事の指示に従って、ヘリコプターまで走って脱出か。(でも、ヘリコプターが待ってなかったら、どうする。)

長年東海岸の住人のMHJ筆者としては、連日連夜高ストレスにまみれているであろう哀れな財政担当Chiang氏の心臓がマイケルみたいに機能障害を起こさないことを祈るばかり、カリフォルニア州のみなさんの州政界への怒りが静まり心の平和が訪れる日が来るのを祈るばかり、である・・・。

・・・と、筆者もガイトナーの真似して【他人事口調】で締めてみた。

   ★   ★   ★

しかし、カリフォルニア州の問題は、単なる「ひとつの州のローカルな問題」で片付くのであろうか。本当に他人事なのか。

カリフォルニア州は米国最大の製造業人口を抱え、シリコンバレーというハイテク産業の中心地を抱え、住宅ローンのクオリティ悪化の震源地である。州人口も3800万人で全米最大である。

同州のGDPは1.8兆ドルで全米最大、このGDPのサイズは、カナダやブラジルやロシアやインドの一国のそれよりもデカイ、ってんである。

そんな巨大で重要な経済圏がですよ、カネがまわらなくなって、「借用証書(IOU)」発行して実際の支払いを待ってもらうかもしれないってさ・・・。

そして、6月17日付けのウォールストリートジャーナルに掲載された、何気に気味悪い記事。

State Income-Tax Revenues Sink (各州の所得税歳入が急減)
(Wall Street Journal, 6/17/09)

この記事によると、全米の州レベルでの地方所得税収入が、2009年の最初の4ヶ月で26%も低下した、という。

州政府は歳入・歳出のバランスつけることが法律で義務付けられているため、全米のどの州も、公共サービスを削減するなどして支出カットするしかない。

カリフォルニアは何かの予兆か・・・。

こちらのメディア、とくにTV局は、ここ数日というもの朝から晩までマイケル・ジャクソン死亡の報道でびっしりで、そこらへん歩いてるひととか捕まえて「あなたにとってマイケル・ジャクソンとは?」みたいな、はっきり言って「それ知ったから、どうよ」みたいな取材で盛り上がりTVメディアのレベルの低さとアホさ加減丸出し(特にCNN)だが、カリフォルニア州の財政危機については、何故か、メディアは、あまり真剣に詳しく取り上げないんである。

オバマもガイトナーも、見てみないフリしてるしな。

わたしが州税を納めているニューヨーク州・・・うちの州、どうなっているのだろう・・・実はわたしはよくわかってない。

自分のことなのに、情報集めるのが、なんだか怖い・・・。




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Monday, June 22, 2009

求む!(ジェームス)ボンド・アナリスト

ウォール街のクビ切りは相変わらず続いている模様である。

筆者の知り合いの中にも職を失ったひとがここ数ヶ月でさらに数人増えた。業界失業者は、まだまだ増えそうである。

金融関係の職を探している、そこのあなた!耳寄り情報です!

ある組織で「エコノミスト」や「フィナンシャルアナリスト」を探していますよ!!

この求人広告によると、応募者はあらかじめ以下の条件を満たしていること、とあります。

「経済学、金融学、経営学、国際経営学、経済犯罪マネージメントなどの分野で学士号あるいは修士号を持ち、特に国際フィナンスやバンキングを専攻した者。マクロ経済に強く、金融分析や分析スキルに秀でており、海外経験および外国語のスキルがあれば、それも考慮の対象になる。大学・院での学業成績はGPA3.0以上必須。」

この広告出した会社は、どこのウォール街の会社かって?

いえいえ、ウォール街じゃないんです。

この広告の主は、CIAなんです!

そう、あの、泣く子も黙る、秘密諜報機関 Central Intelligence Anency である!

CIAの広告の現物は、こちらをどうぞ。

証券会社のアナリストと違って、ストックやボンドなどの証券の売買に役立つ情報を発信するのが仕事じゃないですからねー。ボンドはボンドでも、あちらさんは、ジェームス・ボンドだもん。

CIAのフィナンシャルアナリストって、どんな仕事かというと、この広告によりますと「米国の国土安全を脅かすような海外の経済ポリシーや海外金融市場の問題を調査する」んだそうです。

へー、カッコいいなー。応募しようかしら。(笑)

広告の職務内容のところには、こうも書いてあるよ。

There is a particular need for country/regional economists with strong backgrounds in China, the Middle East and South Asia, and for specialists in international banking systems, financial markets, financial transactions, financial instruments, and energy. Economic analysts will also assess illicit financial activities, including networks used by terrorist and criminal groups, financing and procurement of weapons of mass destruction, money laundering and corruption among foreign governments and companies.

いまとりわけ必要とされているのは、中国・中東および南アジアの地域に強い専門性をもつエコノミスト、および、国際バンキングシステム/金融市場/金融取引/金融インストルメンツ/エネルギーの分野のスペシャリストである。経済アナリストの職務には、テロリストや犯罪グループのネットワーク、大量破壊兵器のフィナンシングと調達、マネーローンダリング、海外政府と企業の間の汚職犯罪などを含む一連の不法な金融行為のアセスメントも含まれる。



うーん、実にカッコいい・・・カッコよすぎる・・・。

(ここで、MHJ筆者の脳裏には、ふと、映画「ボーン・アルティメイタム」などジェイソン・ボーン・シリーズの主役マット・デイモンの顔が浮かんだ。)

そういえば、額面13兆円もの米国債をイタリアからスイスに持ち込もうとしてた、自称「日本人」の二人の行方は、その後どうなったんでしょう?ああいう事件も扱うんでしょうか。

映画「ボーン・アルティメイタム」見ると、CIA諜報員になると、複数の国の偽造パスポート作ってもらえるみたいですよね。

もしかして、自称「日本人」の二人は、実はCIAのアナリストだった!とか・・・(←完全にハリウッド映画に感化されてる。)

あっ・・脱線してしまった。求人広告に戻ろう。

このポジションに提示されてる給料は、$48,682 から $95,026*(経験によってはもっと高くなる可能性有)である。

この「最後の一ドルまでキッチリ数字がでてる」ってのが、さすが政府機関ってのか、民間の金融機関じゃ有り得ない給料の提示の仕方ですね。

経済学や金融学専門の高学歴で、MBAとか持ってて、分析スキルも持ってて、海外経験があって、外国語を操ることができて、中国や中東のスペシャリストで、それで10万ドル以下の給料ってさ・・・ウォール街の民間会社じゃ、まず、考えられない給料水準である。

さらに、政府機関の場合は、民間とちがって「ボーナス」ってもんがありませんから、年俸として最初に決められた給料が支払われるのみ。プロ職だから、オーバータイムも一切つかんしな。

でも、政府機関のいいところは、給料は民間より低いかもしれないけど、職の安定度はずっと高いし、福利厚生はシッカリしてるし、いまどきの民間企業じゃ考えられないぐらい好条件の年金も就職初日からつけてくれるし、健康保険も国がバッチリつけてくれるし(5年以上働いたら死ぬまで健康保険は困らないとか聞いた)、従業員へのその手の面倒見はいいんである。

この不安な時代、もらえるかどうかもわからない「ボーナス」なんてものでリスク取るより、「仕事環境は安定第一」を選択する金融プロフェッショナルは、少なくないかもしれませんね。

広告は続く。

Important Notice: Friends, family, individuals, or organizations may be interested to learn that you are an applicant for or an employee of the CIA. Their interest, however, may not be benign or in your best interest. You cannot control whom they would tell. We therefore ask you to exercise discretion and good judgment in disclosing your interest in a position with the Agency. You will receive further guidance on this topic as you proceed through your CIA employment processing.

<重要な注意事項> あなたの友人、家族、職場などは、あなたがCIAのポジションに応募していることに興味を抱くかもしれない。しかし、彼らの興味は必ずしも悪意から出たものではないと言い切れないし、あなたにとって最良の結果をもたらすとも限らない。彼らがその情報を誰に告げるか、あなたはコントロールできない。従って、CIAのポジションにあなたが興味を持っていることを周囲に知らせる際は、十分考慮し最良の判断をされるようお願いしたい。この件については、CIAの雇用プロセスが進行するに従い、より詳しい指示があるでしょう。


うーむ・・・さすがだ・・・。

「CIAのポジションに応募してるんだよ~~~!」なんてことを、調子に乗って、あちこちで吹聴して回るなと、求人広告上でまで釘を刺す念の入れようである。

いや、そういう軽いお調子者には用はない、ということか。

採用に際して指紋取られたりドラッグテストを受けさせられたりして犯罪歴がないか過去を洗われるのは、ウォール街の民間会社でもどこも同じことやるんだけど、CIAの場合は、その「指紋採取」+「ドラッグテスト」に加えて、「ウソ発見器」にもかけられる、って書いてあるよ。

ってことは、わたしみたいなドキドキしやすいオシャベリは、応募しても、きっとダメだな。(笑)

口が堅くてすぐには動揺しないと自分に自信のある方、どうですか、応募してみませんか?

ところで、この仕事の応募締め切り日は、本日6月22日である。

応募したいひとは急ぎましょう。履歴書選別に通ったら、次はこの夏マンハッタンでの面接に呼ばれるそうです。Good Luck!

    ★   ★   ★

前回のMHJ記事でも書いたように、FRB連銀の監督業務の権限が広がりそうで、もしそうなったら、連銀も、金融市場のスペシャリストをもっともっと雇わなくちゃいけなくなる。

米政府もT.A.R.P.などの救済プログラムをいろいろ立ち上げたんで、証券化市場の経験者など新規雇用を数ヶ月前からやっている。(知り合いが応募したいと言っていた。)

SECも、ダークプールの監視を強めるというのを数日前に発表したばかりだし、こちらも、スペシャリストやアナリストがもっと必要になりますね。(「ダークプール」については、6月10日付MHJ記事『薄商いの株価上昇と「ダークプール」』参照。)

現在の金融街は仕事を探してるひとであふれているから、政府系も、いまなら、人材はいくらでも見つかるしな。(問題は給料だな・・・。)

それにしても、米国全体をながめると、失業の状況は悪化の一途を辿っている。

先日、The Big Picture というブログを眺めていたら、興味深い記事が目に入った。

米国の就業人口全体は減少し続けているのに、55歳以上のグループだけは就業人口が増加している、というのである。



アメリカ人の多くは、55歳までには子育てを完了し、引退後は30代あたりで買った家を売ってキャピタルゲインを手にしてフロリダあたりの小さいコンドにでも引っ越して、引退後はのんびり太陽にあたってゴルフでもしながら余生を過ごしたい、と考えているわけ。

しかし、年金として溜めていた401(K)は暴落で半減、子供が巣立って夫婦ふたりには大きすぎる家は売りたくても売れず、仕方ないから、いったん退職しても再び仕事に戻るしかないひとが増えている。それで55歳以上グループだけ就業人口が増えている、というんである。

記事によると、「複数の仕事」を持っている人口も、55歳以上のグループだけが増えているという。

定年退職後も働き続けたくて働いてるひとは、いいんですよ。でも、この統計から浮かんで見えてくるのは、本当はもう働きたくないんだけど、引退後の生活設計がすっかり狂っちゃって働きつづけるしかないという老年組が増えている、という暗い図である・・・。

失業者の増加率が減ってきているという(能天気な)解釈もあったけど、あれだって、「実際にはまだ失業してるんだけど、失業保険をもらえる期間が過ぎてしまって、失業統計には含まれない」ひとが増えているというだけで、失業ペースが減っているわけではない、という分析がある。

求人増やしてるのは、CIAとかFRBとかの政府系だけか?

政府系機関の雇用人口の推移もみてみたいもんである。そういう統計、どこにあるんだろう。ご存知の方、教えてください。



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Saturday, June 20, 2009

金融規制改革案の目玉は改革よりもポリティクス

18日、米上院のバンキング委員会に出席したガイトナー財務長官はオバマ政権の金融規制改革案を説明し、金融システム安定に向けてオバマ案を支持するよう訴えた。(プロポーザル全文は、こちらへ。)

その席で、米議会のバンキング委員長クリス・ドッド上院議員(コネチカット州・民主)が、ガイトナーにこんなことを言った。

(giving the Federal Reserve more authority) “is like a parent giving his son a bigger, faster car right after he crashed the family station wagon.

「(FRB連銀に今以上の権威を与えるのは)ファミリー・ステーション・ワゴンで追突全損事故を起こした息子に、もっと大型でもっと速度の出る車を、親が買って与えるようなもの」


うむ・・・言い得て妙、であるな。

上記のドッド議員のセリフに代表されるように、オバマの金融規制改革案に対する議員達の反応は、概して懐疑的だった。

とりわけ、中央銀行がシステミック・リスク・レギュレーター(Systemic Risk Regulator、略してSRR)に指名されフィナンシャルシステム全体のお目付け役という大役を担うことについて、いまひとつ反応が芳しくなかった。

議会側には、ひとつには「中央銀行の独立性」が脅かされるのではという懸念があるようである。

しかし、この「独立性」云々については、MHJ筆者から言わせてもらえば、「何をいまさら」である。

FRB連銀の行政からの独立性など、グリーンスパンの時代から、とっくにどっかへ行ってしまっているではないか。

いまから9年近く前、2000年11月12日付のワシントンポストのフィーチャー記事は、1992年当時、長期金利を下げたいと思っていたグリーンスパンと、財政赤字の削減を実現したいと思っていた新大統領ビル・クリントンが手を組み、中央銀行は独立性をあえて捨てて、連邦政府とビジネスパートナーの関係になることを選択したといういきさつを詳述している。

この記事の書き手は有名なジャーナリストのボブ・ウッドワードだが、彼が後年出版した著書『マエストロ』によれば、就任式を控えたクリントンのもとにグリーンスパンがベンツェン議員(クリントン政権下で初代財務長官をやった)の紹介で訪れて経済分析を披露したという。傾聴していたクリントンは、増税→長期金利の低下→好景気→財政収支改善という「グリーンスパン流一石二鳥セオリー」にいたく興味を示し、クリントンは傍らに座っていたゴアに向かって、「(連銀と)ビジネスができそうだな。(We can do business.)」とつぶやいた、という。

バーナンキの時代に移っても、両者の仲良しこよしぶりは誰の目にもあきらかで、前財務長官のポールソンの時代から、バーナンキは貞淑な妻のようにぴったりとポールソンに寄り添ってたし、現財務長官のガイトナー自身だって元NY連銀のトップだったんだからバーナンキとはツーカーなわけだし、FRBは財務省とは切っても切れない関係である。

上述したバンキング委員会の席では、別の上院議員マイケル・ベネット(コロラド州、民主)が、

「もし仮に規制当局の枠組みがもっと早くに今回のオバマ案と同じ状態であったなら、今の惨状は回避できたのか」

という(誰にも答えられない)質問をぶつけていたが、そういう質問が出てくるぐらい、今回の改革案骨子は「だからどーした」指数が高いんである。

規制の目をくぐって拡大しまくってAIG崩壊に至ってしまった問題のクレジット・デリバティブスにしたって、本案では、CDS市場参加者は全員規制当局に報告義務があるようにするとかなってるが、そもそものところで、規制側にデリバティブス市場の実務知識は欠けているし、報告義務ってのは往々にして事態の後追いになるのがオチで、規制当局が「把握」したころには、市場ではきっと規制の網目をかいくぐった新たな金融商品が出現して市場はそちらにシフトしてる、そういう「いたちごっこ」になるに決まってるんだから。

筆者も、今回出された規制改革案について、あちこち記事やオピニオンを読んでみたけれど、この改革案が通ることで、現在の金融システムのどこが大きく変わるのか、そこらへんの本質論や具体論はボンヤリしていて、筆者にはよく見えてこなかった。

しかし、今回の改革案で、はっきり見えたこともある。

それは、この案どおりに連銀に権威が集中すれば、連銀と財務省のビジネスパートナーシップは従来以上に強固なものとなり、他の規制当局(とりわけFDIC)の存在感は確実に低下するだろうということだ。

   ★   ★   ★

周知のように、米国には複数の銀行規制当局が存在し、権限もあちこちオーバーラップして、それが当局同士の権力争いや足の引っ張り合いを招いてきた。(2009年4月9日付MHJ記事 『ストレステストでストレス感じてる規制当局』参照。)

それと同時に、米国の役所も日本同様、自分の縄張り以外の問題には無関心を装うという悪い癖があり、実際に問題が起こると指の刺し合いが始まるという、もうひとつの面も抱えてて、銀行の規制環境としては、この国は実に非効率な状態を長らく続けていた。

また、規制される側の金融機関の立場からしても、やれ連銀(連邦レベル)の規制だ、預金(FDIC)の規制だ、州の免許の規制だ、SECの規制だ、バーゼル(BIS)規制だ、と何重にもかけられた規制にがんじがらめになっており、それぞれの監督エージェンシーから定期的に監査に送り込まれてくる検査官にはいちいち対応しなくちゃいけないし、当局対応のためのオペレーションコストも余計にかかるしで、ウンザリしているというのが実情だろう。

米国の現行の銀行規制の枠組みは、世界大恐慌の頃、その大まかな姿ができあがったが、その当時のポリティカル・マントラというのは「哀れな孤児(みなしご)と未亡人のなけなしのお金(=銀行預金)を金融危機の犠牲にするわけにはいかない」というものだった。

つまり、「あわれな孤児(みなしご)と未亡人の最後のお金」をいかに守るかが、当時の銀行規制当局に与えられた最大の使命であって、証券などの預金“以外”の金融資産については、市場規律に丸投げで勝手にやっててもらいやしょうという、そういうスピリットで動いていたんである。

この「あわれな孤児と未亡人」というテーマだが、驚くなかれ、1980年代のS&L危機のときにも、それはまだ生きていた。

「Too Big To Fail(大きすぎてつぶせない)」という有名なフレーズは、1984年のコンチネンタルイリノイ銀行破たん救済を指して、ニューヨーク連銀トップだったジェリー・コリガンが使ったフレーズだが、このコンチネンタルイリノイの救済も含めた80年代の米銀危機と当局側の対応を当局自身が後日まとめた分厚いレポートを読むと、「みなしごと未亡人(Orphans and Widows)」という言葉が実際あちこちに登場するんである。

80年代から90年代初頭にかけての米銀危機は、まだグラス・スティーガル法が有効の時代だったから、銀行規制当局は、もっぱら「預金取扱金融機関」に焦点を絞って預金者保護とシステムの健全性確保だけに着目してれば、それでよかった、そういう幸せな時代だったんであるな。

銀行自己資本規制の国際ルールである「BIS規制」だって、1988年ごろに出てきた当初は、基本的に「資産側のマジョリティは貸出金、負債側のマジョリティは預金」という極めてオーソドックスな銀行バランスシートの構造を前提にして作られていた。

しかし、90年代に入り、金融商品の複雑化と種々デリバティブスの台頭が顕著になり、「みなしごと未亡人」どころじゃなくなってきた。

銀行のバランスシート構造も大きく変化し、オンバランスの融資資産の利ザヤ収入よりも、オフバラ化された資産からあがってくる収益や手数料が重要な収益源になってきた。グラス・スティーガル法も撤廃されて「預金取り扱い金融機関」と「それ以外(証券やノンバンク)」の境目がわからなくなってきた。

金融市場が90年代を通じて大きな構造変化を迎えていたのに、連銀も含めた銀行監督規制当局側ときたら、あいかわらず「みなしごと未亡人」のメンタリティをひきずったまま21世紀に突入し、2009年現在、いまだに「預金を受け入れるか否か」をベースに規制権限の線引きしてるぐらいなんである。

   ★   ★   ★

規制当局の数が多ければ全体隙間なく網羅されているというのは間違いで、当局の数が多いというのは、すなわち、「これこれこういう場合は、この当局が管理する」みたいなルールだらけだ、という意味である。

それは、逆の方角から眺めると、「これこれこういう場合じゃなければ、その当局の管理下にはいらなくてもよい」という解釈を可能にし、その結果として、【レギュレーター・ショッピング】(Regulator Shopping=自分の都合のいいようにレギュレーターを選別すること)という問題も生じた。

今回の金融危機で、ゴールドマンやモルガンスタンレーら証券大手やGMACのようなノンバンクが、「銀行持ち株会社」になることを選択した(預金が主要な調達手段でもないくせに)のは記憶に新しいが、これだって、レギュレーター・ショッピングのリバース形である。

GSやMSなんてのは、羽振りのいいころは、自分たちは商業銀行じゃありませーんという顔をして連銀の監督監視を逃れ、商業銀行部門を持つために銀行規制から逃れようにも逃れられないJPモルガンやバンカメらがガシガシの規制で身動きとれないのを哀れんで横目で見てたくせに、危機勃発で資金流動性が極度に低下し手持ち資金が干からびてきた途端にあわてちゃって、次々と銀行持ち株会社に変身し、自らすすんで連銀の監視下に入ることにした。連銀が提供する流動性資金にタップするためには「銀行持ち株会社」というステータスを持つことが現行規制では必須条件だったからだ。

市場参加者からみれば、証券系か銀行系かなどの“カルチャーの違い”は別として、ゴールドマン(純粋証券会社)とJPモルガン(銀行系証券会社)が提供する投資銀行業務や証券業務に極端な差異はみられないのに、現行規制の定義上のステータスでは、「預金が資金源であるか否か」で、両者にはしっかり差がついていた。

オバマ案は、そういう前時代的かつ非効率な規制環境にメスを入れ、より現状に即した規制基盤を整えて将来の危機回避をはかろうとしている。

そこの部分は、おおいに歓迎すべきことなんじゃないでしょうか。

   ★   ★   ★

しかし、そこでスンナリいかないのが、「知」より「欲」が先に立つ人間という動物の困ったところである。

「みなしごと未亡人メンタリティ」の最高峰といえば、FDIC米預金保険機構。

連銀の監督権限が「銀行持ち株会社」に限定されてるのに比べ、FDICは資産総額の大小に関わらず預金受け入れ金融機関8000なにがしのすべてを管理下に置いているから、FDICには銀行規制の主役は自分達であるという強い自負がある。

だが、今回の金融危機勃発後は、システミックリスクに関わる大手金融機関がらみの重大事項については、財務省は普段からベッタリ仲良しのFRB連銀ばかりを表舞台で重宝し、自分たちFDICは、潰れても誰も話題にしないようなちっちゃな地方銀行の破綻の事後処理ばっかやらされて、なんとなく隅に追いやられてるような、そういう不愉快な思いをしていた。

(注:ちなみに、先日また新たに3行つぶれ、今年の破綻銀行数は40に!ニュースはこちら。)

そして、今回の改革案で財務省は、その連銀に「仲良しこよしという既成事実」のみならず、「システミック・リスク・レギュレーター」などという派手な称号付きのスターの座を【法的に確保】してやりましょうという内容を盛り込んだのだから、FDICが黙っているはずがない。

FDICの現会長シーラ・ベアーは、強烈な個性と頑固者という評判で通っている人物だが、彼女はポリティカルな立ち振る舞いでもなかなかのやり手で、一筋縄ではいかない女性トップレギュレーターである。

去年、当時のポールソン財務長官とバーナンキ連銀議長が、倒れかけてた大手銀行ワコビアの受け皿としてシティバンクを使い救済合併に持ち込もうとしたときに、彼女がそのディールに強硬に反対した、といういきさつがある。

ワコビアは最終的にウェルズファーゴが買収したわけだが、このときの当局同士の激しい対立は、ベア氏率いるFDICの存在は「疎ましいもの」という印象を財務省その他関係当局内に残すことになった。(関連記事はこちら。) 

そのせいかどうかわからんが、今回の規制当局改革案をまとめる場に、どうやら、ベアは参加させてもらえなかったらしいんである。また、どこが漏らしてるのかは知らないが、「ベア会長はチームプレーヤーじゃない」という人物評も、ジワジワとマスコミ経由で流されている。

だが、その手の姑息(?)な手回しにくじけるようなベア会長ではなく、華々しいスーパースター・レギュレーターの座を連銀だけに独占的に渡してなるものかと、ひと月以上前から政界方々に手をまわしたりして、この件は、いまやパワーゲームの様相を見せてきている。

関連記事:
FDIC Chief Sheila Bair says new oversight power could be shared by FDIC, Fed, other regulators. (Bureau News, 5/6/09)

FDIC’s Bair Pushes for Greater Systemic Risk Powers (Bloomberg, 06/19/09)

先週はCNBC局のインタビュー番組にも出演し、「Too Big To Failというポリシーは止めなくてはいけない」と訴え、オバマの規制改革案はその始まりとなるべきだと述べて、昨年のリーマンショック以来「Too Big to Fail」を呪文のように唱え続けて危機対応してきたバーナンキとガイトナーを暗に批判した。(バーナンキがTBTFを物怖じすることなく公言するようになった時期については、09年3月11日付MHJ記事参照。)

‘Too Big to Fail’ Policy Must End, F.D.I.C. Chief Says (NY Times
6/19/09)

議会は議会で、ガイトナーのベビーフェースから「金融市場の小難しいことは、財務省と連銀にまかせとけ、(どうせ、あんたらにはボーナス以外の話はわからないんだから)」という本音をなんとな~く感じ取っていて、連銀(&財務省)にパワーを集中させる改革案に難色を示し抵抗している。(ま、実際、議会の多くは何もわかってないというのはAIGの一件で暴露されたわけなんだが。笑)

ベア会長は、そういう議会の不安を利用して自分の味方につけることで、連銀の権力拡大を阻止し、己の野心を果たそうとしているようにも見える。

連銀にシステミック・リスク・レギュレーターを勤めさせようとするオバマ案に真っ向から対立し、システミックリスクに対応する責任ある機関にはFDICも当然参加すべきと議会を巻き込んで訴えるベア会長。

ベア会長、ついにFRBに宣戦布告であるな。

2009年1月27日付MHJ記事 『「魔の山」はブルジョワ去ってアイボリータワーの住人来たる(成金は下界で戦死)』では、今後話題の主は、従来の金融界のスター達から規制当局の皆様に移りそうということを書いたが、規制改革案の登場で、彼らの戦いが俄然熱を帯びてきた。

改革案自体は、さすが学者のセンセ達が考えただけあって観念的な部分がやたら目立ち、退屈でぜんぜん面白くないけれど、それをめぐる関係者同士の露骨な権力争いとポリティクスは、今後ますます面白くなりそうで目が離せない。



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Tuesday, June 16, 2009

「ブルドーザーで生き残り」、フリントのプラグマティックな選択

以前この場で、映画監督マイケル・ムーアが金融危機をテーマにした新作を作ってることを紹介した。(2月13日付けのMHJ記事『M・ムーアの次の映画の「標的」は金融街』)

数日前、ロサンゼルス、ニューヨークなど、大都市部の一部の映画館で、この新作映画『Bailout(仮題)』の予告宣伝が出現した。

最近の日本の映画館はどうか知らないが、アメリカの映画館では予告編の前後によく慈善団体による募金呼びかけの宣伝が流されたりする。M・ムーア、明らかにそれのパロディで、この予告編を作ったのね。

『Save Our CEOs』と書かれた入れ物を掲げ、

「これから映画館の通路を、この募金箱を持った係りが回ります。シティ、バンカメ、AIG、ゴールドマンサックス、JPモルガン・・・などなど、あなたの助けを必要としているCEOのために募金をお願いします。すでに救済資金を出してあげたじゃないか、って?わかっています。でも、そこをなんとか、もっと募金をお願いできませんか。きっと気持ちがよくなりますよ。」

モルガン・スタンレーさん、予告編の中でムーアに名前を挙げられなくてよかったですね。(って、そういう問題じゃないか。笑)

フィルムの最後に、「This time it's personal.」というコピーが出てくる。「パーソナル」=「私的感情丸出し」。

でも、ムーアが作った映画に、「パーソナルじゃない」映画って、ありましたっけ?


   ★   ★   ★

ムーアが全米で有名になったのは、彼が1989年に製作した『Roger & Me』という映画。

当時ゼネラルモーターズのCEOだったロジャー・スミスをムーアが直撃取材しようと試みるドキュメンタリーである。

マイケル・ムーアは、ミシガン州フリント市の出身。ミシガン州フリントといえば、1908年にGMが産声を挙げた町で、GMの看板ブランドBuickはここで誕生した。米自動車産業の興亡をともにした【車の町】である。

前回のMHJ記事でも触れたが、80年代初頭のボルカーの高金利政策により米自動車産業は大きな痛手を受けた。ちょうどその頃、日本から入ってきた安くて燃費の良い小型車が米国ではマジな脅威となり始めていた。日本製品の脅威は政治問題と化し、電化製品も含めた日本製品の米国への大量流入をなんとか阻止しようと、ワシントンDCのキャピトル(国会)の前で日本車やステレオなどを、政治家が寄ってたかってハンマーでぶち壊すという派手なパフォーマンスも、80年代を通じて繰り広げられていた。

MHJ筆者はニューヨークに移住する前の一年、1983年に、ミシガン州にある大学に留学していた。当時、米自動車産業は自国の金融政策と海外競争という両面から強いプレッシャーを受けており、デトロイトの繁華街には「Remember Pearl Harbor」と書かれたポスターが当時あちこちに貼られていた。

80年代当時のデトロイトでは反日感情がすごいことになっていて、筆者がミシガン州に到着する直前の1982年に、デトロイトでは、日本人と間違われた中国人青年が解雇された地元の自動車工数名にバットで撲殺されるという悲惨な事件が起こっていた。(この事件とそれに続く公判はドキュメント映画になり、日本でも『誰がヴィンセント・チンを殺したか』という邦題で公開されている。)

ミシガン留学中デトロイト市内に一週間だけ研修に行くことになったとき、筆者のホストファミリーとして親切にしてくれたアメリカ人家族はとても心配して、デトロイトでは日本人であるという素性は隠しなさいと助言されたことをいまだに覚えている。(実際行ってみると、そんな必要はなかったが。)

80年代の競争圧力に対処するためGMはいくつもの自動車工場を閉鎖した。マイケル・ムーアの生まれ故郷フリントという町はGMのビュイック工場の城下町で、フリントのブルーカラー労働者の多くも職を失った。

89年作のムーアの映画『Roger & Me』は、地元のそういう状態を見て怒りの塊りとなったムーア監督がGMのヘッドクォーターに直訴しに行く、という私的感情丸出しの内容である。

筆者はムーアの映画は全般に好きではないが、『Roger & Me』だけは傑作中の傑作だと思う。お勧めします。

   ★   ★   ★

そのフリントの名を、2009年になって、経済問題の前線でふたたび目にした。

ついひと月前のMHJ記事で、カリフォルニアの新興住宅地がフォークロージャの波に勝てず、まだ誰も住んだことのない新築の家をブルドーザーでぶっ壊している動画をご紹介したのを覚えてらっしゃるでしょうか。(5月15日付MHJ記事『住宅売れなきゃブルドーザーで在庫調整』)

なんと、あの【ブルドーザー大作戦】を、オバマ政権が真面目に考慮してる、という話を読んだ。

英テレグラフ紙がこんな記事を伝えている。

US cities may have to be bulldozed in order to survive
(Telegraph, 6/12/09)

記事によると、全米でも最も貧困な町のひとつフリント市は、市の40%にあたる地域の家々をブルドーザーで破壊して更地に戻し、町に散らばっていた住民とビジネスをもっと狭い地域に集中させてやるプランが現在実行中だという。

テレグラフの記事から引用。

The radical experiment is the brainchild of Dan Kildee, treasurer of Genesee County, which includes Flint. Having outlined his strategy to Barack Obama during the election campaign, Mr Kildee has now been approached by the US government and a group of charities who want him to apply what he has learnt to the rest of the country.

このラディカルな試みはフリント市があるジェネシー郡の財務担当者ダン・キルディーが発案したもので、オバマがまだ大統領選で遊説中だった頃、キルディー氏は現地を訪れていたオバマに対し、この案の概要を説明したのだという。それが最近になり、キルディー氏のもとに、彼がフリントで経験したことを全米の他都市にも適応してくれるよう、米国政府と非営利団体グループから依頼が来た。



米政府に強い影響力を持つワシントンDCのシンクタンク、ブルッキングス・インスティチューション(Brookings Institution)は、ラストベルト(Rust Belt=中西部工業地帯)と北東部を中心に、50の町を【フリント式サバイバル】の候補地としてすでにピックアップしたらしく、キルディー氏はこの50都市に当面集中して町の縮小実行に向け助言するそうだ。

「衰退はフリントにとっては受け入れるしかないもの。それに抗おうとするのは重力に抗うのと同じ。("Decline is a fact of life in Flint. Resisting it is like resisting gravity."」とキルディー氏は言う。

フリントではかつて市民の76000人がGM工場で働いていたが、いまはGM従業員は8000人まで減少、衰退の一途を辿った。現在まで、フリントではすでに1100軒の家屋がブルドーザーで破壊され、これからさらに3千軒の家屋が破壊される予定だという。

記事は続く。

・・・Mr Kildee, who has lived there nearly all his life, said he had first to overcome a deeply ingrained American cultural mindset that "big is good" and that cities should sprawl – Flint covers 34 square miles.

"The obsession with growth is sadly a very American thing. Across the US, there's an assumption that all development is good, that if communities are growing they are successful. If they're shrinking, they're failing."


生涯のほとんどをフリントで過ごしたキルディー氏は最初、自分の中に深く巣食っている「大きいことはいいことだ」、「市町村は拡張すべき」というアメリカンカルチャーのマインドセットに打ち勝つのに自分自身が苦労したという。フリント市は34マイル四方に広がる。

「成長することに執着するのは、悲しいかな、非常にアメリカ的なものです。デベロップメントこそがいい、コミュニティが拡大するのは成功の証拠、そういう考え方は、全米にはびこっている。縮小は失敗を意味するのだとね。」


しかし、いま、もしプラグマティックに縮小を選択しなければ、コミュニティは破産の道を辿る。

フリントで家屋が破壊された地域は、そのまま放置され、森や原っぱになって「自然に還って」いっているそうだ。

拡大か縮小か。「大きいことはいいことだ」のアメリカン・カルチャーは、ついに岐路を迎えたのか。

フリントの衰退は、日本との貿易摩擦のはるか前、第一次オイルショックの1973年ごろから、すでに始まっていたという。

衰退を A Fact of Life として受け入れるのに、フリントは30年以上を費やした。

カルチャーはそう簡単には変わらない。縮小候補となった他の50都市でも、市民はアメリカン・カルチャーとアメリカン・プラグマティズムの間で揺れ動く日々が続くのかもしれない。

マイケル・ムーアには、ウォール街を題材にした安っぽい勧善懲悪劇よりも、20年ぶりにフリントを主題にした映画を作ってもらいたい。



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Sunday, June 14, 2009

長引きそうなインフレ懸念

13日付けのブルームバーグにこんな記事:

米財務長官:政策抑制への移行は時期尚早-金融規制改革案公表へ
 6月13日(ブルームバーグ):ガイトナー米財務長官は13日、 主要8カ国(G8)財務相会合の閉幕後の記者会見で、「経済成長を引 き続き主な焦点とすべきだ」と述べ、G8各国が「政策抑制に移行する のは時期尚早だ」との認識を明らかにした。米財政赤字に関しては、 2011年度(10年10月-11年9月)から財政赤字を「持続可能な水 準」に引き下げる方針を改めて表明した。(日本語記事全文はこちらへ。)

日本語の翻訳記事では端折られてしまっているが、オリジナル英文記事では、こう続く。

...“It is too early to shift toward policy restraint.”

The Obama administration and other G-8 governments are facing calls to rein in spending on concern that swelling budget deficits will fuel inflation. The yield on benchmark 10-year Treasury notes reached 4 percent on June 11, the highest since October.

...「政策抑制に移行するのは時期尚早だ。」

膨れ上がる財政赤字がインフレを助長するという懸念が広がり、オバマ政権とG8各国政府は、これ以上の財政投入を控えるべきだという声に直面している。ベンチマーク10年米国債イールドは6月11日に4%を超えた。これは10月以来の最高値。(訳 by MHJ)



その10年債も、与謝野財務・金融・経済財政担当相が、「米国債に対する信任はいささかも揺らいでいない」と発言して、3.79%まで下がった、というではないか。(ブルームバーグ記事はここ。)

与謝野様サマサマ。

(いまこれを書きながら、なぜか突然、前々回のMHJ記事で発狂ついでに紹介した動画#1の中で登場した「日本が最期の頼みだ。念を押しておけ。」「日銀は自国の通貨の強さに無自覚です。それが混乱を引き起こしてます。」という台詞が、筆者の脳裏をフトよぎったのだった・・・。)

   ★   ★   ★

与謝野様が米国債に対する絶大なる信頼を確認している、ちょうど、その頃。

北京では、中国を訪問中のオバマ政権の最高権威経済アドバイザーで元連銀議長ポール・ボルカーが

「(景気回復には相当の時間がかかるであろう)現在の経済環境では、インフレ圧力の発生は、当面ない。」(““This is not an environment in which inflationary pressures are at all likely for some time to come.”)

と発言し、話題になってた。(記事はこちらへ。)

ポール・ボルカーといえば、インフレ。

インフレといえば、ポール・ボルカーである。

1979年から1987年まで連銀議長を務めたボルカーは、グリーンスパンの前任者。彼が連銀議長を務めた頃の米国は、ベトナム戦争の痛手とオイルショックの痛手を引きずり、高インフレに苦しんでいたころ。

戦費と景気後退まかなうのにドル紙幣を印刷しすぎて、インフレの抑えがきかなくなり、1981年当時の米国のインフレ率は13.5%だった、ってんだから。それを1983年にはインフレ率を3.2%まで急激に低下させた武勇伝で、ボルカーの名は米国金融史に永遠に刻まれることとなった。

ボルカーがどうやってインフレ抑えようとしたかといえば、そりゃー、あなた、「金利引き上げ」に決まってるじゃないですか。

ボルカーが就任した翌年の1980年、米銀の当時のプライムレートはなんと21.5%をマークした、ってんですよ。プライム・レートが21.5%って・・・新興国かよ・・・。81年には米国の消費者は自動車ローンやモルゲージローンが借りれなくなり、82年には事業ローンの需要が激減し工業出力が12%低下、米自動車産業は特に痛手を受けて34%の出力低下。(ちょうどこの頃ですねー、日本車メーカーが、安い円を背中にしょって、疲弊していた米国自動車産業に殴りこみかけたのは。GMの運命はボルカーの時代に種がまかれていたのか・・・。)

そして、82年終盤には、米国の失業率は10.8%まで上昇した。

ボルカーの荒療治、恐るべし。

しかし、この荒療治が効を奏して、インフレは沈静化。レーガン政権のもと、1987年のブラックマンデーまで経済拡張の下地を作り始めることになったわけである。まさに【インフレ問題の神様】。

で、そのボルカーさんが「インフレの心配はしなくていい」って言うんですもん、あら、そうなのね・・・と思う・・・・・・




・・・わけねーだろ。

ボルカーは、わずか3ヶ月前にウォールストリートジャーナルが開催した某講演会で、こんな発言をしたんである。

Volcker, who as head of the White House’s Economic Recovery Advisory Board is a key adviser to President Obama, expressed concerns about inflation as a way of dealing with mounting debt. “One historic way of getting yourself out of this situation — or trying to — is to inflate. Either you do it deliberately or you allow it to happen,” he said. “And if we permit that to happen then I think all these dollars will come tumbling down on us.” He said the U.S.’s greatest strength is its history and reputation, and suggested that shouldn’t be put at risk.

ホワイトハウスの経済回復アドバイザリーボードのヘッドでオバマ大統領の最重要アドバイザーであるボルカー氏は、積み上がる債務に対処する方法としてのインフレーションについて懸念を示した。
「現在の米国が抱えている状況から脱する方法として歴史的に使われてきたもののひとつは、インフレーションを起こすことである。意図的にやるか、それが自然発生するのを待つか、いずれにせよ、インフレ発生を容認したら、米ドルは我々の頭上に崩れ落ちてくるだろう。」米国が持つ最大の強みは、その歴史とレピュテーションであり、その強みを揺るがすような真似をしてはいけない、と述べた。


(Volcker: China Chose to Buy Dollars(3/24/09, WSJ)


オバマ政権の経済ブレイン達は「意図的に」インフレを起こそうとしてるのか。

もちろん、そうですよね。(それが、ヘリコプター・ベンが、デフレに悩んでた日本に送ったアドバイスだったんだし。)

「インフレをわざと起こす」という表現が政治的に不適切というなら、「少なくともデフレが深まるのを回避しようとした」わけですよね。


今年一月オバマが就任後、新政府の’要人たちは、膨大な政府支出を議会に承認させる目的で「米国は日本の失敗を繰り返してはならぬ」という発言を繰り返していた。

日本が危機脱出に手間取った最大の理由は、【できるだけ迅速にできるだけ大量に政府がカネ使ってメルトダウンを阻止する】をやらなかったからだという発言を、オバマからも、ガイトナーからも、バーナンキからも、筆者は耳にタコできるほどテレビで聞かされた。(その例は09年1月22日付MHJ記事『ガイトナーの殺し文句は「モタモタしてたら日本みたいになるぞ」』参照。)

日本政府が政治的駆け引きに時間を費やし、モタモタ、ノロノロ、グズグズしてたのが悪い、と。

(ま、たしかに、そのとおりなので反論できませんが。)

それほどまで胸を張って「日本みたいにモタモタしないぞーっ!」と繰り返すくらいなんだから、実績を日米比較で見てみようではないか。

   ★   ★   ★

以下の3つのグラフは、Pacific Capital Associates という会社が今年3月に発行したリサーチペーパーから拝借。

[図1]クレジットバブル崩壊後14ヶ月間のマネーサプライ(M2)の月次累積成長率
(日本の起点は92年4月、米国は07年12月からの伸び)




[図2]クレジットバブル崩壊後12年間のマネーサプライ(M2)の年次成長率
(日本の起点は92年4月、米国は07年12月からの伸び)




[図3]クレジットバブル崩壊後12年間のマネタリーベースの年次成長率
(日本の起点は92年4月、米国は07年12月からの伸び)



日本が量的緩和を行ったのは、バブル崩壊後、実に10年後であった、と同レポートは指摘する。

「こんなにトロトロやってたんじゃ、日本がデフレ圧力には対抗できなかったはずですよね。量的緩和やったってだけで、日本と米国を比べても、意味ないよ。」というのが、同レポートの結論である。

しかし、それも言い換えれば、強いデフレ圧力には強いインフレ圧力で立ち向かうしかないという意味に他ならないわけで。

   ★   ★   ★

たしかに、米国政府は【迅速に、大量に】カネ使いましたね。「日本とは違う」と胸張るだけあります。

日本のようにダラダラとデフレが続く可能性は、アメリカでは薄い、ってことは、上の3つのグラフを見てよーくわかりました。

しかし、現在の懸念の焦点は、もはや「日本みたいになったら」ってことじゃなくて、そのインフレ圧力が「強すぎ」たら、どうなるのか、ってことなのでは?

経済学者ポール・クルッグマンは、5月28日付けのNYタイムズのコラム『The Big Inlation Scare』で、「90年代の日本でも現在の米国が直面しているような状況を迎えたが、消費者物価はどうなったと思う?下がったのだ。」と言い、市場で取りざたされるインフレ懸念は行き過ぎであると書いていた。

でも、クルッグマン先生、あなたのそのポイントは数ヶ月前に結論出てて、いまさら説得力はないんですよね。

市場で吸収しきれなかった米国債を今は連銀がホイホイ買ってるけど、バランスシートが膨れ上がってる連銀がいつまで買い続けることができるのかも不透明だし、そもそも、世界中に米国債オーバーサプライを吸収するだけの資金、そんなにあまってんのか?

ボルカーやクルッグマンらが言うように、現在の経済ファンダメンタルズの側面から見れば、インフレ圧力はいますぐには表面化しないかもしれない。でも、イールドには需給バランスというテクニカル要因も作用しますんでね。微妙なバランスがバランスを失ったとき、イールドは跳ね上がる。その懸念と兆候は、、2月9日付MHJ記事『タイミング悪い米国債のイールドトレンド』にも書いたように、年初からすでに見え始めていた。

6月11日付のウォールストリートジャーナルの記事中に張られた下のグラフを見て、「ゲッ!」と思わなかったトレーダーなんていないっしょ。

1961年から現在までのマネタリーベースの推移


『Get Ready for Inflation and Higher Interest Rates』というタイトルの、このWSJの記事の中に、こんなくだりがある。

It's difficult to estimate the magnitude of the inflationary and interest-rate consequences of the Fed's actions because, frankly, we haven't ever seen anything like this in the U.S. To date what's happened is potentially far more inflationary than were the monetary policies of the 1970s.

この連銀アクションがもたらすインフレ圧力とそれに続く金利情勢のマグニチュードを推し量るのは困難である。何故かと言えば、率直に言って、我々はかつて米国でこのような事態を目撃したことがないからだ。今日までに起こってきたことは、1970年代に米国が取った金融政策をはるかに凌ぐレベルのインフレ圧力を潜在的に生んでいるのである。


文字通りの【前代未聞】の事態。

1970年代の金融政策の後始末をまかされたポール・ボルカーですら経験しなかった、想像できないレベルだというのだ。



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Wednesday, June 10, 2009

薄商いの株価上昇と「ダークプール」

ここ最近の米株相場、下がってくると「何者」かが「小刻み」な買いに入り、インデックスを支えるという気持ち悪い動きが続いている。

株価下落のモメンタムが生まれそうになると、誰かが出てきてそれを阻止するんである。ショートもできんし、ロングになるほどコンビクションも持てないし、で、筆者はいま、この米株相場でどう動いてお小遣い稼ぎしようか、考えあぐねて日々イライラしている。

数週間イライラが続いていたため、ついに昨日の朝は発狂して、前回のMHJでは、

「景気回復の芽(Green Shoots)が出てきてるだとぉ?失業の増加ペースが減ってるだとぉ?冗談こくのもいいかげんにしやがれ、この、くそったれがぁぁぁあああああ!!!ドルは暴落、原油は2倍、米国最大の企業だったGMは破産して、代わって最大になったウォルマートは従業員の4割が政府援助を受けて生活してる、米国の製造業雇用数は39ヶ月連続減少、こんな国のどこが「Green Shoots」だってんだ、マザーXXXカー、グォワーーーーッ!!ギエーーーッ!!」


と叫びながら、バットでPCモニターをメチャクチャにぶっ壊す男の動画(#2)を紹介してしまった・・・。

昨日の朝の筆者の心中は、まさに、ああいう荒れ切った状態であったのだ・・・。

乱れたところをお見せしてしまった・・・お許しください・・・今日はもう少しマジメに書きます。

   ★   ★   ★

しかしね、イライラして気分が荒くれてくるのも仕方ないではないか。

個別株の商いがやたら薄いのに、インデックスだけはジリジリ上げてゆくんだから。

相場全体の商いがすごく薄い。先日なんて、某大手金融株をリミットかけて200株売ろうとしたら、100株、60株、40株と、五月雨式に時間差ついて、ようやく売れてやんの。

たかだか200株の話ですよ、2千株とか2万株じゃないんだよ。取引金額にしてせいぜい5000ドルとか7000ドルとか、そんなハシタ金の取引ですよ。ブルーチップ株がこんな蚤以下、いや、バクテリア以下の小口でチマチマ取引されてゆくって、いったい、どういうことなのさ。

「低ボリュームで株価上昇」という状況について、一ヶ月ほど前の記事でちょっと古いが、Shocked Investor というブログサイトがチャートを示してみせてくれてる。

5月初旬の段階でインデックスEFTの取引高が目だって減少し続けているという話である。

”Spider”の愛称で親しまれるSPY、同じく”Diamond"という通称のDIAの人気インデックスETFの取引高が過去一年間の平均値と比べると、それぞれ32%、55%も下がっている。

ところが、価格のほうはジリジリ上げているんだよな。(チャートはどちらも、Shocked Investor より)

【SPY】の取引高とプライストレンド


【DIA】の取引高とプライストレンド


イントラデーの売買の取引パターンも気味悪い。

5月29日のMHJ記事の最後にも書いたが、SPYが、一日中ほとんど取引なかったのに最後の一時間だけグワーーーーーッと買いが入って、もともと薄商いなもんだから、猛烈に上がったりする。

Shocked Investorの投稿者は、こう書いている。

”A rally without volume is one to be very worried about. Is the current rally being fabricated, or have investors simply lost their money and can't get back in the market, or have they lost faith in the stock market?”

「5月初旬の株価ラリーは、なんらかの操作が働いているのか、投資家がカネがなくなってマーケットに戻ってこれなくなってるのか、あるいは、株式市場に対する信頼に傷が付いたのか。いずれにせよ、ボリュームが無い中で価格だけが上昇するのは非常に不安な気がする。」


そう、普通はそう思いますよね。

筆者も、4月後半からずっと気持ちが悪いと思っていて、5月も気持ち悪くてキャッシュ握り締めたまま脇に退いてマーケットを傍観していたが、6月になっても気持ち悪さは治まらず、手錠足かせかけられてるようにフラストレーションたまりまくって、昨日、筆者はついに発狂し、あのYouTubeのように、モニターをバットでぶっ壊したくなったんである。(アブナイ・・・)


   ★   ★   ★


いったい誰がSPYを買いまくって支えてるのかを、Zero HedgeというブログサイトがちょこちょこブルームバーグのIOIA(Indication of Interest画面=クォートの実況中継)をアップデートして見せてくれてるんだけど、少し前はゴールドマンの独壇場だったみたいだが、ここ最近はJPモルガンのトレーディングデスクがブローカーになって、かなりご活躍のご様子

6月8日午後3時半(米株市場が閉じる30分前)にJPMが「小刻みな連続買いオーダー」入れてる図(↓)


SPYが下がりそうになってくると、GSやJPMのトレーダーに電話してSPY買わせてるのは、どこのどいつだ?

   ★   ★   ★

ブルームバーグのIOIA画面に出てくるのは、パブリックオーダーでの取引なので、誰がオーダー出してるか、こうして丸見えだけど、これとは別に【丸見えにならないオーダー】があって、4月、5月は、どうやら、その秘密の香り一杯のオーダーが、米株市場でずいぶん活躍したらしい。

DARK POOL LIQUIDITY と呼ばれるオーダーブロックである。

「ダークプール」というのは、欧米の大手ブローカーや大手金融機関が自分達の顧客(機関投資家が多い)と直接売買をするオーダーブロックを指し、パブリックオーダーのブックとは別に管理される。ダークプールは、パブリックオーダーではないのでインディケーションを公に出さずに金融機関の壁の内側で独自に取引され、プライスは売買が成立した後に「結果」としてしか公表されないから、ブルームバーグのIOIA画面にも出てこない。つまり、値付けの過程が丸見えにならない。

6月3日付けのロイターに、こんな記事が載った。

Bank-run dark pools swelling in U.S. stock markets
「金融機関によるダークプール、米株市場で膨張」

ダークプールはもう何十年も存在していて、それ自体は目新しいものではないものの、ダークプールでの取引は、エグゼキューションの迅速さや手数料の低さなどが寄与して年々増加傾向にある。この記事によると、過去8ヶ月には、米株市場全体の9%がダークプールでの取引だったという。つまり米株市場のおよそ10分の一が、それを取引する金融機関の(ほとんどが大手金融機関)インハウスの資金(自己勘定資金)と混ざり合い、パブリックオーダーとしてプライスクォートもされないので、パブリックの目には触れないところで売買が成立している、というのである。

(ロイターの記事より)“Dark pools allow anonymous matching of large share trades with prices posted only after completion of the trade. They are increasingly popular among institutional and high frequency traders who find it hard to get large orders transacted on regulated exchanges because orders on such so-called public order books are becoming smaller, increasing the risk of markets moving against the originator of a large order.”

「ダークプールは大口のトレードを無記名で行うことが可能で、価格はトレード成立後にポストされる。規制がかかっている取引所でのパブリックオーダーはどんどん小口になっており、大口のオーダーを入れる投資家には逆作用になることがあり、そのため機関投資家や高頻度で売買を繰り返すトレーダーの間で、ダークプールの使用に人気が集まっている。」



しかし、市場の一割が、筆者も含めた「その他雑魚」投資家のみならず規制当局の目もとどかないところで取引されているというのはよろしくない、とSECは感じてるらしくて、昨日のフィナンシャル・タイムズでは、このダークプールの動きを監視するため取引のトラッキングを始めるという記事(↓)が伝えられていた。

NYSE Euronext and Liquidnet launch 'dark pool' tracking service

果たしてダークプールの存在が、4月、5月の気持ち悪い相場に何らかの影響を及ぼしたものなのか、ダークプールをもっと監視・規制することで、株価形成の透明性を高める効果につながるものなのか、筆者には皆目見当もつかない。

だが、取引のボリュームが全体的に薄いというのは、筆者と同じように、ここからどういうストラテジーで動くべきなのか考えあぐねて、脇に退いて様子見になっている投資家がけっこう多い、という証拠じゃないのか。

マスコミは市場が落ち着いてきた、安心感が広がってきた、とオウムのように繰り返しているけれど、商いの薄さを見る限りでは、マスコミのトーンを鵜呑みにはできないよ。

3月の売られすぎ(Oversold)から、4月・5月はショートカバーで持ち直し、そこの部分は修正されたかもしれないけれど、現時点でどれほどの市場参加者が「これでもう大丈夫」という強い安心感や、買い進もうというコンビクション(Conviction)を持っているのでしょうか。

むしろ、6月にはいってから、市場の空気に覇気が薄れ、なんとなく、どよーんと淀んできていると感じるのは、このわたしだけですか?



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Tuesday, June 9, 2009

雄弁な・・・

どんなに多くの言葉を並べても、なかなか気持ちが伝わらないことがある・・・。

そんなとき、それをヴィジュアルに表現することで、こちらの気持ちを相手に伝えることができるかもしれない・・・。

画像は雄弁・・・。


   ★   ★   ★


いつもダラダラと駄文長文を書きなぐっている Murray Hill Journal であるが、たまにはダラダラ書くのを止めて、ヴィジュアルに、いまの筆者の気持ちを伝えようとおもう。

今日はYouTubeで見つけたビデオを2本紹介することにした。


   ★   ★   ★


ビデオ#1:日本語です。(4分43秒)

すでにごらんになった方も多いと思いますが、2009年6月現在、ふたたび見るとまた笑える。

どなたが作られたのか知りませんが、見事な出来栄えに脱帽です。この動画がもともとポストされた時期が、リーマンショック直後だったというのも感服。



URL: http://www.youtube.com/watch?v=0WCLZbFhp_8


   ★   ★   ★


ビデオ#2:某友人から回されてきた。いまこれを書いている間にも、ウォール街のトレーダーの間でまわされてる話題のビデオ。全編英語。(10分15秒)

そう、これがトレーダーの【本音】だ。(大笑) 

(注)Fワード満載ですので、取り扱い注意。(でも、アメリカ口語の勉強になります。←うそ)



URL: http://www.youtube.com/watch?v=KWu-efNN8PM

Saturday, June 6, 2009

病み上がりが一番怖い

一ヶ月前の5月10日に、『「雇用統計」には顕微鏡を用意しろ』というMHJ記事を書いたが、あれから、もうひと月も経ったのか。時間が経つのは早いですね。

5月の雇用統計が出されてきた。米失業率は9.4%に悪化。

しかし、マスコミは、何が何でも、これを「明るいニュース」として伝えたいらしく、「ジョブカット数が減少している」という部分に焦点を当てた新聞見出しが目立った。

- Hints of Hope Even as Jobless Rate Jumps to 9.4% (NY Times)
    (失業率9.4%に上昇しながらも一縷の望み―NYタイムズ)

- US job losses slowed in May (Boston Globe)
    (失業数、5月は減少―ボストングローブ)

- Slower US Job Losses Signal Recession Is Starting to Ease (Bloomberg)
    (失業数減速でリセッション緩和の兆し―ブルームバーグ)


株式市場も「市場があらかじめ織り込んでいた数字より良好だった」ってことで妙に盛り上がり「明るい材料」(例の『Green Shoots説』)にしていたな。

さすが、株式サイド【ウキウキ組】。どこまでもあくまでもポジティブなのは、撃たれても撃たれても死なないロボコップかターミネーターのようなしぶとさである。

一方の債券サイドは【ウジウジ組】の本領発揮、どよよ~~~~んとインフレの心配して、クヨクヨしてましたね。能天気の株式サイドとちがって、相変わらず暗いですね、債券サイドは。

しかし、「5月の就業者の減少数が前月比較で減った」とはいえ、それでもまだ、34万5千の職が失われているんである。

この「34万5千人」という数字が、マクロのインパクトとしてどれくらいのスケールの話をしてるのか、元メリルリンチのシニアエコノミスト(現在はカナダにあるGluskin Sheffという別会社に移籍)のデヴィッド・ローゼンバーグ(David Rosenberg)が過去の数字を挙げて比較してくれている。

(ローゼンバーグは、米国のエコノミストの中でも極めつけのベア派代表で、メリル/バンカメを去る前の今年2月に、米国の失業率は現状を反映しておらず実際には14%近くになっていると試算して話題を呼んだひと。)

そのローゼンバーグによると、リーマンショックの直前までの月間失業者の数は17万5千人で、今回の半分以下だったのに、当時は誰も喜ばないどころか株市場はクヨクヨ暗くなっていた。また、2001年の911テロの直後のペイロール数は32万5千の減少、さらに1990年~1991年にかけてのリセッションのときでも、ペイロール数の減少は最悪30万6千件だったそう。すなわち、今回の「34万5千件の減少」というのは「どっぷりリセッションに首まで漬かっている」状態である、とローゼンバーグは言う。

彼はさらに、「職数」が失われているだけじゃなくて、就業者ひとりあたりの「就業時間」も週33.1時間に減少していると指摘。仮に「就業時間に変化はなかった」という前提を置いて、ペイロール数減少を逆算すると、月間92万7千人が職を失ったのに相当すると試算している。

92万7千のペイロール数減少って・・・。

   ★   ★   ★

米国の失業の現状がいかに深刻かを、別の切り口で示してくれた、こんなグラフも見つけた。

下のグラフで、赤で示されてるのは「求人数(A)」、青で示されてるのが「失業数(B)」で、過去9年間の推移である。



そして、失業数(B)を求人数(A)で割った割合を示したのが、下のグラフ。不景気時には求人が減り、それと同時に失業が増えるという関係自体はめずらしくもないが、求人数に対する失業数のペースが今回のリセッションでは急激に速まっており、現在、求人数に対しその4倍以上の失業者がいるという状態である。




   ★   ★   ★


景気回復の芽が出てきたと騒ぐのは構わないが、オバマが大統領に正式に就任してからまだ4ヵ月半しか経っておらず、彼の超大型景気刺激策が議会を通過してからまだ3ヶ月も経っていないんだよ。

それで、もう効果が出てきたというのか?それ、ちと、早すぎませんか?

だが、サンフランシスコ連銀のトップ、ジャネット・イェレンなどは、ペイロール減少の度合いが鈍化していることも理由のひとつにあげて、そろそろゼロ金利政策を解除したほうがいいのでは?などと言い出している。(イェレンの6月5日のワシントンDCでのスピーチ全文は、ここへ。)

失業事情は上述したとおり。

住宅市場も、いまだにズブズブ。

それでも、インフレ懸念から、ゼロ金利解除で金利上昇ですか・・・?

   ★   ★   ★

10年以上日本市場を見てきた方なら、覚えていますね?

1999年ごろからITバブルの影響で日本経済も【なんとなく持ち直してきてる雰囲気】が充満し、景気回復と錯覚した日銀が、2000年8月にゼロ金利解除の宣言を出したことを。

ところが、その直後から、景気はふたたび、ズブズブと音を立てて後退。

そして、2001年2月には、日銀はまたまた実質ゼロ金利政策へと後戻りせざるを得なかった、あの苦々(にがにが)しい日々を、忘れていやしませんね?

現在のアメリカで、この段階で、金利が再び上がりだしたら・・・あぁ、そんなこと、考えるのも恐ろしい。

失業もハウジング市場もぜんぜん立ち直っていない惨状に上塗りするように、

これから商業不動産は渦巻いて襲ってきそうだし、

クレジットカードなどの消費者金融も残高が急降下してると確認されたし、

企業向けホールセール貸し出しも借り入れ需要減退から残高は伸び悩んでいるし。

LIBOR金利がかなり下がったことで調達金利は正常化してきた、なんて言ってるひとがいるけれど、誤解してるな。あれは銀行に対する信用回復で低下したんじゃなくて、銀行の後ろに政府がついててバックアップしてるという、その理由のみで下がったんだよ。

銀行のバランスシート、右側も左側も、地雷だらけじゃないか。

これだけ政府と連銀がカネばら撒いてるのに、実体経済のフロントでは、正直なところ、クレジット市場が正常化・拡大・回復してる気配は、ないんである。

こんな状態で、あなた、金利があがってごらんなさい。

あたり一面、血祭りになるよ。


しかし、国債市場はインフレ懸念が膨張し、国債需給の悪化とマネタリーポリシーの変化を見越して、10年国債のイールドがとんでもないことになっている。国債イールドをインデックスにしてる住宅ローンなんて、あっという間に、30年固定が5%台半ばに飛び上がった。

日本がゼロ金利解除直後から景気後退に入ったのは、ITバブルの崩壊の影響というよりも、あれは、病み上がりの金融機関が病気をぶり返したせい、と筆者は思う。

97年の山一・拓銀破綻、98年の長銀・日債銀の破綻、という金融大ショックのあと、99年にはなんとなくフワッと景気が持ち上がるような雰囲気漂ったんだが、銀行群の財務状態は実際はぜんぜん完治してなかったもんだから、一時的に収まってるように見えてた症状のすべてが、ゼロ金利解除後にふたたび表面化してきた。

病み上がりが一番怖い。

先月5月4日に、バーナンキが議会証言をして、そのときに、こんな発言をした。

“A relapse in financial conditions would be a significant drag on economic activity and could cause the incipient recovery to stall,”

(金融市場のコンディション悪化が再発すると、それが経済活動の大きな足かせとなって、回復をとどまらせる可能性がある。)


ゼロ金利解除後の日本で起こったことは、まさに、その【Relapse】=【悪性コンディションの再発】であった。そして、ゼロ金利解除後は、それ以前の金融危機の規模をはるかに超えるショックに日本は見舞われ、激しい信用不安から株価は暴落。

現在のアメリカは、ゼロ金利解除に踏み切った当時の日本――景気回復が始まったと錯覚したあのときの日本――に、どことなく似ている。

大手金融機関たちが、財務内容の実態はひどい状態なのに、やたら強がって独り立ちできると胸張っていたところも、そっくり。

だが、アメリカの場合、日本より始末悪いのは、アメリカのインフレ懸念はホンモノだ、ということだ。


   ★   ★   ★


雇用統計の上っ面の数字ながめてウキウキしてる株式市場参加者の皆さんに、このグラフをプレゼントしたい。

米国債10年と2年のスプレッド(オレンジの線)とS&P500(白の線)は、この10年、みごとに負の相関を示す。

ただし、ここ最近を除いては――。





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Monday, June 1, 2009

保護貿易のお約束:GM更正は労組の勝ち

“・・・the cars of the future are built where they’ve always been built -- in Detroit and across the Midwest -- to make America’s auto industry in the 21st century what it was in the 20th century -- unsurpassed around the world.・・・” (Remarks by President Barack Obama, 3/30/09)

「これまで自動車製造の中心地はデトロイトと米国中西部だった。未来の自動車製造も、やはりこの地域が世界の中心になることに変わりはない。20世紀のアメリカ自動車産業がそうであったように、21世紀の自動車産業も、世界のどこにも引けをとらないものになる。”(オバマ大統領の発言、09年3月30日)


(せいぜい)がんばってください。

それ以外に、どんな「はなむけの言葉」があろうか。

米国政府はGMの60%株主となった。

オバマは今日(月曜日)行った記者会見で、「米国民は嫌々ながら大株主になった」と述べ、最大株主ではあるものの、米政府はGMのオペレーションにいちいち口を出すような、そういう株主にはならない、と明言した。

ウォール街の給与体系には口を出し、キャタピラー社の雇用予定にも口を出してたオバマが、60%株主になった会社に対しては口は出さない所存だそうです。

(キャタピラー社については、2月15日MHJ記事『オバマはいつからキャタピラー社の人事部長に?』参照)

へぇ~~、さようですか。オバマのこの言葉を信じるひと、挙手願います。

過半数以上を保有する最大株主の米政府が口出さないなら、代わりに誰が口出すんだ?カナダ政府(12%)か?(笑)

あっ、忘れてました、17.5%株主のU.A.W.がいましたね。GMの「モノ言う株主」は労組です。

今回のGM会社更生案の折衝の席でU.A.W.は、

(A) 現従業員については、減給も福利厚生の減額補正もなし
(B) OPALは売却先の欧州から米国+中国向けに小型車売っちゃいけないという条件つけて売却
(C) 中国GMで生産される車は基本的には中国国内で消化、中国から米国への輸入は別の話

という要求を米政府に突きつけたんである。

(A)について言えば、米国産自動車がグローバルで競争力を失った理由のひとつである【高雇用コスト】については、再建後も手付かずのまま。

(B)と(C)については、海外から米国への小型車輸入に規制かけるという【保護貿易主義丸出し】の内容ではないか。

U.A.W.の最高責任者ロン・ゲットルフィンガーは先週28日、アメリカの公共局PBSのニュースTV番組に出演し、そのインタビューでこんなことを言った。(インタビューのトランスクリプト全文はここへ。)


PAUL SOLMAN: But G.M. is going to be making more cars in China and sending them back here, as I understand it, while you're losing jobs and plants here?

RON GETTELFINGER: Well, we hopefully got that stopped in this agreement. One of the things that we were able to conclude in this agreement was -- and we did put a lot of pressure on, a lot of public pressure on.

And we, quite frankly, put pressure on the White House, the task force, the corporation. We had other constituent groups out here with us trying to make the point that we've got to go back to an industrial base in this country.

We don't have an industrial policy. And the corporation had rolled out, as part of their initial plan, was to bring in imports from China and additional imports from South Korea.

So what we did in this particular case was we got the corporation to agree that they would build a small car platform in this country. And incidentally, no manufacturer to date builds what's referred to as a B-car in this country, which is smaller than a Focus or a Cobalt or a Caliber. Now we've got that commitment here.


<ポール・ソルマン(司会者)> しかし、米国での従業員と製造拠点は削減される一方で、GMは中国でもっと自動車を製造しそれを米国に輸入する予定なのではないですか?わたしはそう理解してますが。

<ロン・ゲットルフィンガー> いや、今回の同意にあたり、そこの部分は終止符が打たれることになるはずです。そこのポイントこそが、今回政府案に同意する際に互いに決着をつけた事柄のひとつです。これについては、公の場でも、我々からずいぶんとプレッシャーをかけましたからね。

正直に言いましょう。「製造業のベースは合衆国に呼び戻さなくてはいけない」という我々の言い分を貫くために、ホワイトハウスにも、タスクフォースにも、会社側にも、我々は実際にプレッシャーをかけたのです。我々に賛同してくれる有権者グループ達もいましたし。

この国には製造業に関わるポリシーというものがないも同然なのですよ。当初の計画では、会社側は中国のGMプラントで製造された自動車を米国に輸入し、さらに韓国からも追加的に輸入する、というものでした。

それについて、我々労働組合側は今回、小型車製造のプラットフォームは米国内に作るということで会社側に同意させたのです。フォーカス、コバルト、カリバーといった小型車モデルよりもさらに小型の自動車、これを我々は「B-Car」と呼びますが、「B-Car」を製造できる会社は米国には目下存在していない。会社側は組合側の要求どおりにするというコミットメントを出したのです。


このゲットルフィンガーの発言は要するに、「コスト競争力のない会社が、組合側の言い分に押し切られ、まだ作ったこともない小型車の製造拠点を米国内に作り、海外からの競争圧力に対しては輸入制限でも関税でもなんでもいいから政府にバリア張らせて、GM製の小型車を米国内で売るつもり」――そういうことですな。

筆者は今日1日の午後に開かれたGMのCEOヘンダーソンの記者会見をテレビでライブで見てたんだが、この中国から米国へのGM車の輸入については、中国人のジャーナリストから実際に質問が出された。だが、ヘンダーソンCEOは「中国向けには基本的に中国内で生産し、サプライチェーンを短くし、現地生産を推進する」みたいな的外れの答えをして、ごまかした。

組合側に中国から輸入しませんとコミットメント出した、ってんだもん、ごまかすしかないでしょ。

でも、「A-Car」だか「B-Car」だか知らんが、そもそものところで、「アメリカのメーカーは小型車作らせたら最悪」という評価をアメリカ人消費者から受けたために、小型車市場では日本のメーカーにシェアを取られ続けたのは周知の事実。

これは日本の自動車メーカーの関係者から直接聞いたんだけど、自動車というのは、車体が大きくなればなるほどマージンが高くなる、そういうもんなんだそうである。小型車でエコカーなんてのは、マージンが低い【薄利多売】型の製品なんだそうである。そのために、GMやクライスラーは、小型車製造の技術力では海外勢に勝ち目なしとさっさとあきらめ、SUVやピックアップトラックのようなマージン高い大型車の製造に傾倒していった。

このグラフを見ると、小型車に見切りつけて高マージンの大型車に経営資源を移していった様子がハッキリわかる。(グラフはNY Timesより)



小型車製造の技術力では本国の消費者にすら見放された自動車会社が、オバマ政権が推進する小型エコカーの製造を一気に引き受ける???

でもって、【技術力】で足りない部分は【政治力】でカバーする

でも、それって、ブッシュ政権時代に高マージンの大型車を売るために、自社に好都合になるように税制変えろと政府にロビイしまくってた昔のGMと、発想としては、まったく同じに聞こえますけど。

メンタリティ変えずして、この会社更生プロセスで、旧GMと新生GMの何が変わるというのか。

前々から申し上げているが、労働組合が最大のモノ言う株主(でもって、60%オーナーの民主党政権は労組の味方)みたいな会社に株式投資するなんて、筆者なら絶対に嫌だね。金融社会主義は、まっぴらごめん。

でも、筆者がいまさら何をわめこうが、納めた税金はすでにオバマによって投資されてしまった。筆者は新生GMの立派な間接株主である。

こんなお先真っ暗の会社のために、米国民が“投資”した額は総額500億ドル。これが60%に相当するわけだから、筆者も含め米国の納税者にとっての損益分岐点(Breakeven Point)は、市場価値にして新生GMが800億ドルをマークするとき。

でもさ、GMの株価がピークをつけた2000年当時ですら、同社のマーケットキャップは最高560億ドルにしかならなかったんだよ。

冒頭で紹介したオバマの名調子にウットリ騙されてる場合じゃない。だいたい、オバマは、アメリカ社会が自動車に頼りすぎているとして、日本や欧州をモデルとした公共の高速鉄道網を米国でもインフラ整備すべき、それにより雇用創出できると騒いでいる張本人ではないか!

コストについては労働組合に押し切られ、日本のメーカーですら「マージンが低い」と言ってる小型車の販売中心のビジネスモデルで、新生GMのマーケットキャップが800億ドルになるくらい収益を挙げるためには、現在の何倍の小型車を販売しなくちゃいけないのか。

GM経営陣は、債務リストラで借り入れコストが低減する点をやたら強調しているが、財務をどんなにいじっても、自動車会社は自動車売れなきゃ、話にならん。フランチャイズがボロボロなのに財務リストラだけで不死鳥のように蘇った会社なんて、聞いたこともない。

米国納税者が、GMへの“投資”からリターンを得る日は、おそらく永遠に来ない。そう考えたほうがよさそうである。


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週末から、GMのチャプター11申請に関する新聞やブログ記事が膨大に出回っていたが、その中に、ジャーナリストのP.J. O'Rourke氏が5月30日付でウォールストリートジャーナルに寄せたオピニオンが光っていた。彼は、米国自動車産業の衰退を、いわゆる経済分析とはまったく異なる、もっと個人的・感情的な視点から眺めていて、非常におもしろい。

The End of the Affairs (5/30/09, Wall Street Journal)

P.J. O'Rourke氏はアメリカではかなり名の知れたジャーナリストで、彼の書く皮肉たっぷりで少々自嘲的な記事やエッセーは、アメリカでは一部で大変人気がある。筆者もファンの一人である。

この記事のはじめのほうに、こんな文章がある。

The fate of Detroit isn’t a matter of financial crisis, foreign competition, corporate greed, union intransigence, energy costs or measuring the shoe size of the footprints in the carbon. It’s a tragic romance—unleashed passions, titanic clashes, lost love and wild horses.

デトロイトが辿った運命は、金融危機問題でも、海外勢との競争問題でも、企業のグリードでも、労働組合の強硬姿勢の問題でも、エネルギーのコストの問題でも、カーボン排出計測の問題でも、そのどれでもない。それは、解き放たれた熱情、タイタニック級の沈没、失われた愛、荒くれ馬、それらが登場する悲劇的でロマンチックな物語である。


O'Rourkeは、アメリカで自動車を生み出してきた歴代の偉人達はみな【ロマンチックな愚か者(romantic fools)】ばかりで、産業の発展の結果として自動車産業に成功した日本のケースとは違うのだ、とまで言っている。都市部から郊外へと生活空間が拡大していった戦後の米国では、自動車はただの「動くカップホルダー」に成り下がったのだ、と。

GMの崩壊は愚か者のロマンスの終焉。こんにちのアメリカ人にとって、GMとは何を意味するのか――。世界一の車社会を標榜してきたアメリカとアメリカ人の失望や怒りを強く感じさせる秀逸記事である。ヒマがある方は一読を薦めたい。

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さて、5月1日付けのMHJ記事『ベイルアウト、タイムアウト、ホールドアウト』で、クライスラーの債権者がオバマのタスクフォースが折衝案として提示した条件に難色を示し、債権者達はチャプター11に持ち込むことで法的に有利な判決がでるようにと望みをつないだ、と書いたのを覚えておられるでしょうか。

あの記事で、オバマ案が、清算価値支払いの優先順位ではシニアに位置する債権者を、劣後の債権者(=U.A.W.)の後に置き、長年、債務の世界で尊重されてきた「支払い順位」を無視するような真似をしたのだから、債権者が怒りまくるのも当たり前、とも書いた。

あの話の後日談を書いておきたい。

「有担保(Secured)」の債権者にまで劣後債権者より多額の損失を取らせるという当初のタスクフォース案は、さすがにそれはまずい、ということになったのか、結局クライスラーの「有担保」債権者分については政府側が折れて担保価値を無視したりしません、ということになった。

GMの更正案では、有担保債権者から再び同じクレームが出されることが予想されたため、タスクフォースは最初から有担保の債権者にまで劣後債権者以上の損失を取らせる「荒業」は持ち込まなかった。

だが、クライスラーの「無担保(Unsecured)」のシニア債権者は、やはり、劣後債権者であるU.A.W.が優先されるという案のまま進むことになった。

クライスラーの債権者(債券ホルダー)達は、クライスラー社を2分割して資産をフィアットに売却するのは違法であるという申し立てをしていたが、GMがチャプター11を申請したのと同じ今日6月1日、クライスラー社のケースを扱っていた判事は債権者側の言い分をあっさり退けたのである。(ブルームバーグの関連記事はこちら。)

この判事の判断により、クライスラー社は、ギャーギャーうるさい債権者を蹴散らして、本日を持ってチャプター11のプロテクションから脱し、予定通り資産整理を行って、新生クライスラーに再構築されることが決定した。(債権者の言い分が通ると資産売却が遅れ、更正プロセスに時間がかかるという懸念があった。)

これを「お手本」にして、GMの無担保シニア債務者も同様に、U.A.W.向け債務のほうが優先的な地位におかれ、シニア債権者が劣後債権者よりも多額の最終損失を負担する、という結末になる公算高し。

将来、GMが政府の庇護から脱皮して、一人前の会社に戻る日が来たとしよう。そのとき、新生GMは、事業拡大のために資金が必要になるかもしれない。株式発行もいいけれど希薄化しちゃうから借金しようとするとしますね。そうやって、企業債市場に出て行って「債券発行しまーす!誰か買いたいひといませんかー!」と掛け声をかけたとしよう。

そのとき、企業債市場の参加者は、GMに何というであろうか。

「どのツラ下げて」

で終わりである。

個人層へのアクセスだって、ダメである。だって、今回いちばん理不尽な扱いをうけたシニア債権者の多くは、引退したおばあちゃんとか年金ファンドとかの一般個人投資家のカネだったんだもん。いちどでもワケわからん理由で借金踏み倒されて、またホイホイ貸しますか?

これを、世では一般に、「信用力の欠如」と呼ぶ。

労組の言い分を優先するあまり、支払い順位というキャピタルマーケットの鉄則を完全無視したツケは、この先、GMに永遠に残るでしょう。政治圧力で市場ルールを押し曲げるのを厭わないようなリスキーな会社に、安い金利でカネ貸してあげる殊勝なクレジット投資家って、FRB連銀以外に、誰?

債券市場にアクセスできないとなると、資金調達はこの先もっぱら株式調達か?

ということは、ケッ、この上さらに、希薄化かよ。

オバマ本人が、個人的に、こんな会社に『株式投資』したいと本気で思っているかどうか、是非とも聞いてみたいところである。



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