週末の土曜日(9日)、NYタイムズを広げた筆者の口から漏れたのは、
「思ったとおり・・・」
の言葉だけ。
9日のNYタイムズの見出し:『米失業率8.9%に:しかし増加ペースは緩和』
U.S. Jobless Rate Hits 8.9%, but Pace Eases (NYTimes 05/09/09)
http://www.nytimes.com/2009/05/09/business/economy/09jobs.html?scp=1&sq=unemployment%20rate&st=cse
さてさて、それでは、どれくらい失業の増加具合が【減少】してるのか、くだんの失業率とやらを見てみることにしようかね。
おや、不思議ですこと、これだと【肉眼】でみただけじゃ減少してるようには見えませんわね。
やっぱし、こういうものは、顕微鏡使わないとダメでしょうか。
微生物か。
それより、もっと面白いグラフを見つけた。
こちらなら、顕微鏡を使わなくても、減少してるならしてる、とハッキリ肉眼でもわかります。
(クリックすると拡大されます。)
このグラフ、雇用がピークを迎えたときをスタート基準にして、そこからリセッション中にどれだけ雇用が減ったかを時系列にしたものである。
縦軸はピーク時をゼロとしたときからの減少率、横軸は再び雇用が完全回復するまでピークから数えて何ヶ月かかったか、を示す。
グラフ中の赤線が現在の米国の雇用状況であるが、これみても、やっぱり「失業増加が緩和してる」とか「回復フェーズに入ってる」とかは、わからん。
っていうか、まだ全然、回復の「かの字」も出てないじゃん。これのどこが「GREEN SHOOTS」なんだっつの。
このグラフ(表2)には、さらに、指摘すべきポイントがある。
それは、「80年代以降、雇用完全回復に要する時間が長くなってきている」という点である。
80年代以前だと、ピークから雇用状況が急激に悪化しても再びピーク時のレベルに戻すまで、わずか2年しかかかっていない。ところが、過去3回のリセッション(81年、90年、01年)では、毎回時間が延びて、前回01年のリセッションのときはダラダラ4年近くかかっている。
過去の事象がどうしてこうなったのかは、【経済の構造変化】という要因がからんでいるような気がするので、その分析はマクロ・エコノミストに任せるとして、筆者が問いたいのは、今回は2001年のときと比べてはるかにインパクトの強い不況に入っていながら、何故、今回は、そんなに早く不況脱出できると誰もが考えてるのか、ということである。
雇用回復しないと住宅市場も経済そのものも回復しない。給料入ってこないのに、どうやって、月々の住宅ローン返済できるんだ?どうやって、消費増やすの?
前回のリセッションでは、マエストロのじっちゃまグリーンスパンが金利ガンガン下げまくりの上にクレジット市場が際限なく拡大するのを黙認したおかげで、消費が促されて(ついでに家計の借金も増やさせまくって)不況脱出できたけど、今回は政策金利はすでにゼロ、クレジットマーケットは凍結したまんま、連銀が銀行の代わりにリスク取ってくれてるから何とか回していけるけれど、これ連銀がバランスシートを縮小し始めたら、リスクは全部、金融機関に【逆流】してくるわけですからね。そうなると、それでなくても萎縮しているクレジットは、さらに萎縮しますよ。
前々から言ってるが、資金は経済の血液、とりわけクレジットは赤血球みたいなもんである。クレジット減ると酸欠でパクパク。利ザヤが潰れてゆくのにクレジットだけ出しまくると、今度は銀行が自己資本不足でパクパク。
失業の増加具合がペース落としてるなんてのは、【微生物レベル】の話である。
そんな話に市場中が思考停止になるようでは、この微生物は豚インフルのウィルスよりも強烈かもしれん。
筆者は、マスクをしっかりつけて、引き続きウジウジした投資スタンスで臨むつもりである。
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※ ただし、誤解のないように付け加えておきますけれど、デイトレの場合は、んなこと、知ったこっちゃないからね。デイトレは投資ではない。あれは市場のモメンタムに乗っかるだけの『波乗りトレーディング』である。波に乗る自信があるひとは、ボラティリティの高いいまこそ、頑張って儲けてくださいな。(4月12日付MHJ記事『波乗りトレーディング』参照)
ただし、大波来ると、プロのサーファーでも溺れますからね。
「チャートでトレードしろ、ニュースでトレードするな」
という【デイトレの鉄則】をくれぐれも忘れずに!(←と、自分で自分に言い聞かせる。)
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金曜日は「失業に歯止めがかかってきている」などという【微生物レベル】の話題で盛り上がりまくったせいで、市場では「10年米国債のイールドが上がってる」という、ものすごく重要なトピックのほうは無視された。
10年米国債イールドというのは、金融機関の調達コストのベンチマークのひとつに使われることもあり、非常に重要な金利。
オバマ政権の施策が一部功を奏してモルゲージ金利が下がってきたというのはMHJ記事でも述べた。
で、そのモルゲージの貸出金利なんですが・・・
上のグラフは、モルゲージ金利(赤線)、10年米国債金利(青線)、それらの金利差、すなわちスプレッド(黒線)である。
スプレッドがここ数年の最低レベルまで落ちてきているのである。
モルゲージ金利が下がってきてるのは住宅市場の需要回復に寄与するから喜ばしいこととしても、モルゲージローンを貸し出す銀行にしてみたら、貸出サイドの金利が下がり調達サイドのベース金利が上がってくると、その2つの金利差にあたるスプレッドは当然縮小するため、銀行収益にはネガティブなインプリケーションがある。住宅ローンのスプレッドの厚みをある程度保つためには、調達サイドの金利上昇分は貸出サイドの金利に転嫁してやらなければならない。
このグラフは、こちらのブログ記事から拝借したものであるが、この記事の書き手は、このグラフが示唆することとして、近いうちの「モルゲージ金利の上昇」を指摘した。10年米国債の金利上昇分がモルゲージ金利に転嫁されるという見方である。
たしかに、それもひとつあるが、ここでモルゲージ金利が上昇したら、住宅市況はさらに悪化する。政治的に、オバマ政権は、銀行が収益確保するためにモルゲージ金利を上げることを黙認するだろうか。
先日のMHJ記事(4月24日付MHJ記事『ワースト・イズ・オーバー』ほんとか?』参照)で、オバマ大統領が懇談会と称して、銀行関係者をホワイトハウスに呼びつけて、クレジットカードの金利を上げるなと圧力かけたと書いたが、政府としては、モルゲージも含めて消費者関連の借入コストを現在以上に上げたくないというのが本音。
となると、ですよ、次に何が予想されるかというと、「モルゲージ金利もあげるな」という政治的圧力である。
公的資金入れてもらって、ストレステストでも手加減してもらって、知らん振りできませんよね、銀行の皆さんも。
つまり、これが何を意味するかというと、景気回復、とりわけ政府が最も着目している雇用回復が本格化するまでは、銀行の金利収支から生まれるコアの収益性は改善しにくい、ってことである。
この程度のことを考えつくのに、顕微鏡なんぞは必要ない。
あれー、でも、ストレステストの結果どの銀行も、たとえ多額の償却費用が発生しても収益で吸収できる、ってことになっていませんでしたっけ?
そして、ちまたの皆さんも、銀行の今後の「収益性」に期待して金融株を先週買いまくってたんじゃありませんでしたっけ?
スプレッドが縮小するかもしれないのに、どこから収益つくるんですか?
いかに現在の株市場のラリーが本質論から目をそむけ、「微生物レベルの期待」をアドバルーンみたいにぶち上げて気分だけで盛り上がっているかということだ。
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