5月の雇用統計が出されてきた。米失業率は9.4%に悪化。
しかし、マスコミは、何が何でも、これを「明るいニュース」として伝えたいらしく、「ジョブカット数が減少している」という部分に焦点を当てた新聞見出しが目立った。
- Hints of Hope Even as Jobless Rate Jumps to 9.4% (NY Times)
(失業率9.4%に上昇しながらも一縷の望み―NYタイムズ)
- US job losses slowed in May (Boston Globe)
(失業数、5月は減少―ボストングローブ)
- Slower US Job Losses Signal Recession Is Starting to Ease (Bloomberg)
(失業数減速でリセッション緩和の兆し―ブルームバーグ)
株式市場も「市場があらかじめ織り込んでいた数字より良好だった」ってことで妙に盛り上がり「明るい材料」(例の『Green Shoots説』)にしていたな。
さすが、株式サイド【ウキウキ組】。どこまでもあくまでもポジティブなのは、撃たれても撃たれても死なないロボコップかターミネーターのようなしぶとさである。
一方の債券サイドは【ウジウジ組】の本領発揮、どよよ~~~~んとインフレの心配して、クヨクヨしてましたね。能天気の株式サイドとちがって、相変わらず暗いですね、債券サイドは。
しかし、「5月の就業者の減少数が前月比較で減った」とはいえ、それでもまだ、34万5千の職が失われているんである。
この「34万5千人」という数字が、マクロのインパクトとしてどれくらいのスケールの話をしてるのか、元メリルリンチのシニアエコノミスト(現在はカナダにあるGluskin Sheffという別会社に移籍)のデヴィッド・ローゼンバーグ(David Rosenberg)が過去の数字を挙げて比較してくれている。
(ローゼンバーグは、米国のエコノミストの中でも極めつけのベア派代表で、メリル/バンカメを去る前の今年2月に、米国の失業率は現状を反映しておらず実際には14%近くになっていると試算して話題を呼んだひと。)
そのローゼンバーグによると、リーマンショックの直前までの月間失業者の数は17万5千人で、今回の半分以下だったのに、当時は誰も喜ばないどころか株市場はクヨクヨ暗くなっていた。また、2001年の911テロの直後のペイロール数は32万5千の減少、さらに1990年~1991年にかけてのリセッションのときでも、ペイロール数の減少は最悪30万6千件だったそう。すなわち、今回の「34万5千件の減少」というのは「どっぷりリセッションに首まで漬かっている」状態である、とローゼンバーグは言う。
彼はさらに、「職数」が失われているだけじゃなくて、就業者ひとりあたりの「就業時間」も週33.1時間に減少していると指摘。仮に「就業時間に変化はなかった」という前提を置いて、ペイロール数減少を逆算すると、月間92万7千人が職を失ったのに相当すると試算している。
92万7千のペイロール数減少って・・・。
★ ★ ★
米国の失業の現状がいかに深刻かを、別の切り口で示してくれた、こんなグラフも見つけた。
下のグラフで、赤で示されてるのは「求人数(A)」、青で示されてるのが「失業数(B)」で、過去9年間の推移である。
そして、失業数(B)を求人数(A)で割った割合を示したのが、下のグラフ。不景気時には求人が減り、それと同時に失業が増えるという関係自体はめずらしくもないが、求人数に対する失業数のペースが今回のリセッションでは急激に速まっており、現在、求人数に対しその4倍以上の失業者がいるという状態である。
★ ★ ★
景気回復の芽が出てきたと騒ぐのは構わないが、オバマが大統領に正式に就任してからまだ4ヵ月半しか経っておらず、彼の超大型景気刺激策が議会を通過してからまだ3ヶ月も経っていないんだよ。
それで、もう効果が出てきたというのか?それ、ちと、早すぎませんか?
だが、サンフランシスコ連銀のトップ、ジャネット・イェレンなどは、ペイロール減少の度合いが鈍化していることも理由のひとつにあげて、そろそろゼロ金利政策を解除したほうがいいのでは?などと言い出している。(イェレンの6月5日のワシントンDCでのスピーチ全文は、ここへ。)
失業事情は上述したとおり。
住宅市場も、いまだにズブズブ。
それでも、インフレ懸念から、ゼロ金利解除で金利上昇ですか・・・?
★ ★ ★
10年以上日本市場を見てきた方なら、覚えていますね?
1999年ごろからITバブルの影響で日本経済も【なんとなく持ち直してきてる雰囲気】が充満し、景気回復と錯覚した日銀が、2000年8月にゼロ金利解除の宣言を出したことを。
ところが、その直後から、景気はふたたび、ズブズブと音を立てて後退。
そして、2001年2月には、日銀はまたまた実質ゼロ金利政策へと後戻りせざるを得なかった、あの苦々(にがにが)しい日々を、忘れていやしませんね?
現在のアメリカで、この段階で、金利が再び上がりだしたら・・・あぁ、そんなこと、考えるのも恐ろしい。
失業もハウジング市場もぜんぜん立ち直っていない惨状に上塗りするように、
これから商業不動産は渦巻いて襲ってきそうだし、
クレジットカードなどの消費者金融も残高が急降下してると確認されたし、
企業向けホールセール貸し出しも借り入れ需要減退から残高は伸び悩んでいるし。
LIBOR金利がかなり下がったことで調達金利は正常化してきた、なんて言ってるひとがいるけれど、誤解してるな。あれは銀行に対する信用回復で低下したんじゃなくて、銀行の後ろに政府がついててバックアップしてるという、その理由のみで下がったんだよ。
銀行のバランスシート、右側も左側も、地雷だらけじゃないか。
これだけ政府と連銀がカネばら撒いてるのに、実体経済のフロントでは、正直なところ、クレジット市場が正常化・拡大・回復してる気配は、ないんである。
こんな状態で、あなた、金利があがってごらんなさい。
しかし、国債市場はインフレ懸念が膨張し、国債需給の悪化とマネタリーポリシーの変化を見越して、10年国債のイールドがとんでもないことになっている。国債イールドをインデックスにしてる住宅ローンなんて、あっという間に、30年固定が5%台半ばに飛び上がった。
日本がゼロ金利解除直後から景気後退に入ったのは、ITバブルの崩壊の影響というよりも、あれは、病み上がりの金融機関が病気をぶり返したせい、と筆者は思う。
97年の山一・拓銀破綻、98年の長銀・日債銀の破綻、という金融大ショックのあと、99年にはなんとなくフワッと景気が持ち上がるような雰囲気漂ったんだが、銀行群の財務状態は実際はぜんぜん完治してなかったもんだから、一時的に収まってるように見えてた症状のすべてが、ゼロ金利解除後にふたたび表面化してきた。
病み上がりが一番怖い。
先月5月4日に、バーナンキが議会証言をして、そのときに、こんな発言をした。
“A relapse in financial conditions would be a significant drag on economic activity and could cause the incipient recovery to stall,”
(金融市場のコンディション悪化が再発すると、それが経済活動の大きな足かせとなって、回復をとどまらせる可能性がある。)
ゼロ金利解除後の日本で起こったことは、まさに、その【Relapse】=【悪性コンディションの再発】であった。そして、ゼロ金利解除後は、それ以前の金融危機の規模をはるかに超えるショックに日本は見舞われ、激しい信用不安から株価は暴落。
現在のアメリカは、ゼロ金利解除に踏み切った当時の日本――景気回復が始まったと錯覚したあのときの日本――に、どことなく似ている。
大手金融機関たちが、財務内容の実態はひどい状態なのに、やたら強がって独り立ちできると胸張っていたところも、そっくり。
だが、アメリカの場合、日本より始末悪いのは、アメリカのインフレ懸念はホンモノだ、ということだ。
★ ★ ★
雇用統計の上っ面の数字ながめてウキウキしてる株式市場参加者の皆さんに、このグラフをプレゼントしたい。
米国債10年と2年のスプレッド(オレンジの線)とS&P500(白の線)は、この10年、みごとに負の相関を示す。
ただし、ここ最近を除いては――。
★ ランキングに参加してます。よろしければ投票クリックお願いします。★
↓↓↓↓↓
にほんブログ村 アメリカ経済
人気ブログランキングへ
9 comments:
先日はMIXIでマイミク追加ありがとうございました。今日の記事も興味深いですね。
最近になって金融に興味を持ち始めたので、日本のバブルの話なども交えて頂くといっそう理解が深まります。
「金利が上がれば血祭りになる。」との事ですが、金利を上げないと長期国債の需要がさらに無くなります。国債が買われなくなれば、アメリカはドルの発行だけで成り立っているという事で一種の破産宣告になり、インフレの懸念が短期間でいっそう強まるからではないでしょうか?
とりあえず金利を上げ国債が買われてる事でアピール、会計基準の変化ででバランスシートの状態は分かりにくくなっているし、アメリカ国内の企業に対しては金利の影響が出るのも時間差があるはず。
金利を上げる事で時間稼ぎ、インフレの発生を遅らせる事が出来るからでは無いでしょうか?
>akirano13さん、こんにちわ。コメントありがとうございます。「金利が上がると国債需要が高くなる」という部分がちょっとわからないのですが・・・債券は金利が上がると現在価値が下がるため、証券としての魅力は落ちるのですけれど・・・。
金利上昇は米国債を保有する債券投資家にとっては、ありがたくない話。国債市場では「金利上昇の気配」は「売り」と判断する材料なのはご存知ですよね。現在、10年債イールドが上がっているのは、今年の9月までに金融政策に方向転換(緩和から引締めへ)する、と内外の米国債トレーダーの間でコンセンサスが生まれており、それで「売り」が優勢になっているためです。
また、米国債の最大の買い手である中国が、10年物を買い控えて2年物に最近シフトしたのも、米国債ポートフォリオのデュレーションを短めにすることで将来の金利上昇というシナリオに対処するための、ディフェンシブな動きです。おなじく米国債の買い手としては大御所の日本勢も、今の地合いで長期米国債を積極的に買い進めるのは無謀と判断してデュレーションを短めにしていると推察します。(数字をちゃんと調べたわけじゃないので、推察ですが。)
もしも、「クーポン金利の高さ」という意味でおっしゃっているのなら、それは満期保有するという前提に限ります。米国債を満期保有する投資家は、個人ならいると思いますが、機関投資家では、長期米国債を10年も30年もジーと満期保有するのは極少数派。トレーディング目的で保有するのが普通です。米国債をトレーディング目的で保有すると、金利上昇で含み損が拡大した場合は、時価会計により即マイナスが生じます。
Trinityさん、わざわざ返信ありがとうございます。言葉足らずですいません。
Trinityさんがおっしゃっているのは、国債の流通市場での話ですよね?私が言いたかったのは政府が資金を調達するための米国債の発行市場での話です。
新規に米国債を購入する場合、金利が低ければ、将来金利が上がり価値が減少するリスクがありますし、そもそも金利が低ければ利回りが低く魅力がありません。
そういった意味で政府が国債から資金調達をする場合は、新規発行する国債の金利を上げる事が重要なのでは無いかと思ったのです。
新規の米国債の需要が無くなれば、巨額の財政赤字と多額の救済をドルの印刷で補っているのがあからさまになり
インフレ懸念が急激に進行すると思います。それがバーナンキの恐れている事で、それを避けるために国債の金利を上げ、国内の景気を犠牲にしてでも「時間稼ぎ」をするつもりなのでは?と私は思ったのです。
そもそも、
今回から雇用統計の集計方法を変えたらしいですよ。
ちなみに前回までの方式だと、減少数がさらに20万程増えて、-60万近いとか。
なんでもありですはい。
こういうのの積み重ねが次の『谷』をさらに深くするのですねぇ。
こわいこわいです。
補足ですが、
Birth/Death Model
でググるといろいろ出てきます。では
>akirano13さん
昨日、返信をポストしてから、自分が書いたレスが貴方の書き込みに対して嚙みあってないような気がしてました。やっぱり・・・(笑)。再レスありがとうございます。
国債金利ですが、プライマリー市場の参加者は基本的にセカンダリー市場の参加者であることと、米国債市場というのは非常に流動性の高い市場でプライマリーで買われた債券は発行直後から膨大なトレーディングが始まりますので、プライマリーでの国債プライシングとセカンダリーの市場で示唆されているプライシングが極端に乖離することはありません。
>巨額の財政赤字と多額の救済をドルの印刷で補っているのがあからさまになりインフレ懸念が急激に進行すると思います。それがバーナンキの恐れている事で、それを避けるため
akirano13さんが書かれているこの部分は【すでに世界中にバレバレ】で、従って、そのインフレ懸念をセカンダリー市場がプライシングに織り込んでいるわけですよね。(詳細な数字は忘れちゃったのですが、数日前に読んだものでは、現在の10年国債イールドは1.4%ぐらいのインフレ率を織り込んでいる、とありました。)
国債金利の上昇は、国内景気への悪影響(住宅ローン、消費者ローン金利含む貸付金利の上昇など)のみならず、国家のフトコロにかかる金利負担と言う意味でもネガティブですから、【すでにバレバレ】の事柄を隠して先延ばしする目的で金利上昇を選択、というのは、わたしには、ちょっと考えられないと思うのですが、いかがでしょう。
国債市場はクーポンの高低というポイントポイントでの絶対値よりも、金利が上昇するのか下降するのか、現在どの局面にいるのかというトレンドの見通しに反応するマーケット。ここで連銀が少々金利を上げても、国債オーバーサプライによる需給悪化というテクニカル要因による金利上昇懸念は即座に払拭されないでしょうし、この懸念が残っている間は多少のクーポン上昇がプライマリー市場での需要喚起に寄与するとは思えないし、逆に、金利上昇(引き締めモード)のインパクトはクレジット市場経由で即座に実体経済に響いてきますので、国債需給が正常化する以前に、高金利の影響によって実体経済が負のマルティプライアーかかってズブズブになるというシナリオのほうが、よりリアリティがある、とわたしには思われます。
>kamさん、コメントありがとうございます。
Birth/Deathについては、わたしも昨日読みました。ほんとうに、何でもあり、ですよね。こうやって小刻みに明るい材料を出し続け、マスコミ操作で相場を支える。Kamさんのおっしゃるとおり、こういうことの積み重ねが、結局は米国という国家の信用力を失わせるし、小刻みに支えられなくなってきたどこかの時点でドカーンとくる下地作りになると思うんですけれどね・・・。
そうそう、「小刻み」といえば、米株市場で「売り」が優勢になってくると、なぜか決まって、某大手銀行による「小刻みな買い」がSPYに入り、SPY低下を阻止している模様です。
これも、なんでもあり、のひとつかと。(笑)
今後もよろしくお願いします。
>akirano13さんへ追伸
akirano13さんがおっしゃっているポイント(→クーポンを高くしてやらないと米国債の買い手がいなくなっちゃう)について、PIMCOのビル・グロス氏が、今月のニュースレターに同様のことを書いています。ただし、そうした場合のConsequences がいかにシビアかについても。債券投資のストラテジーとしては(レスに書いたように)デュレーションを短くしてPrice Fluctuationに耐えられるようなポートを組んでおくこと、しかし、そうすれば、リターンも下がるが、それに慣れるしかないのだ、とあります。このニュースレターの内容こそ、現在の米国債市場の参加者のコンセンサスだと思います。もう、お読みになったかもしれないけれど、まだでしたら一読の価値あり、と思いましたので、ここにアドレス張っておきますね。もしご興味あれば。
http://www.pimco.com/LeftNav/Featured+Market+Commentary/IO/2009/IO+June+2009+Staying+Rich+in+the+New+Normal+Gross.htm
Trinityさん
返信ありがとうございます。
>ここで連銀が少々金利を上げても、国債オーバーサプライによる需給悪化というテクニカル要因による金利上昇懸念は即座に払拭されないでしょうし、
この懸念が残っている間は多少のクーポン上昇がプライマリー市場での需要喚起に寄与するとは思えないし、
逆に、金利上昇(引き締めモード)のインパクトはクレジット市場経由で即座に実体経済に響いてきますので、
国債需給が正常化する以前に、高金利の影響によって実体経済が負のマルティプライアーかかってズブズブになる
なるほど、そうですね。確かにクーポンが微々たるほどあがっても、需要喚起にはつながりませんし、実態経済における負の影響の方が大きいですね。
納得しました。
一昨日、金利の引き上げがあるかもっていう推測が出てたのは、米サンフランシスコ地区連銀のイエレン総裁が米国債利回りに関してのコメントが原因だったんですね。
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-38426220090606
結局、昨日のレス後、ブルームバーグの統計で米国債のプライマリーディーラー達もTrinityさんと同じように
金利は近い将来には上がらないだろうとい推測をしていたようです。
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601109&sid=acRC951WK1iw
>PIMCOのビル・グロス氏のニュースレター
ニュースレターを読みました。米国債ホルダーのコンセンサス参考になりました。通貨の分散というのもその通りだなと思います。
おもしろいリンクありがとうございます。
Post a Comment