春といえば、新芽の季節。
英語で言えば、
【Green Shoots】
「経済回復の兆し」みたいな意味で、最近、やたらと、あちこちで耳にする言葉。
3月15日に全米ネットワークで放映されたインタビュー番組で、バーナンキ連銀議長が口にしてからというもの、なんでもかんでも【Green Shoots】である。
この番組でのバーナンキの発言から以下抜粋:
"I think all of our efforts, so far, have produced results. We're buying about $500 billion in mortgages, in package and securities by the G.S.E.s, Fannie Mae and Freddie Mac. And that seems to have brought down mortgage rates significantly. It allows people to refinance. To get out of high rate mortgages. We are seeing progress in the money market mutual funds, and in the business lending area. And I think as those green shoots begin to appear in different markets and as some confidence begins to come back that will begin the positive dynamic that brings our economy back."
「我々がこれまで払ってきた努力は、いまのところ結果を生んでいると私は思う。ファニーメイとフレディマックらGSE(準政府機関)からモルゲージ融資を5000億ドル買い取っているが、モルゲージ金利はそれで目に見えて低下した。これにより、ひとびとは借り換えを行って、高金利のモルゲージを抜け出ることができる。マネーマーケットの投資信託やビジネス融資のエリアでも状況は良くなってきている。さまざまな市場でこれらの若い芽(Green Shoots)がふいてきており、市場コンフィデンスが戻るに伴い、それがポジティブなダイナミクスを生んで、経済回復が始まるだろう。」
このバーナンキ議長のインタビューがあった前週が、NYダウがリーマンショック以来最安値を付けた週であった。その翌週からはNY市場は8週連続上昇を続け、
「普段だったら、すっごく悪く取られる」ようなニュース(例:豚インフルエンザ)
は無視されて、その代わり
「悪いニュースには違いないんだけど、考えてたよりはちょっとマシ」なニュース(例:失業者数)
は、「ちょっとマシ」という部分がすべて【Green Shoots】と解釈されて、ポジティブニュースに成り代わる。
今日のダウは214ポイントも跳ね上がった。
市場が急落した直後に急回復するのを【Dead Cat Bounce (死んだ猫でも、高いところから落とせば跳ね上がる、の意)】と言うけれど、いま起きているのは、バーナンキ議長が言ってたような「市場コンフィデンスの回復」なのか、それとも、死んだ猫が跳ねてるのか・・・。
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今朝(5月4日)も、住宅関連で「悪いニュースだけど、悪いながらもちょっぴりマシ」なニュースが出た。
3月の契約済み住宅個数が先月2月と比べて良くなっている、という、NAR(=National Association of Realtors「全米リアルター協会」)のリリースである。(リリース全文はここ。)
「ちょっぴりマシ」というのは、すなわち、昨今の市場では「すごくポジティブ」という意味になり、このニュースも「住宅市場回復の兆しが見えてきた!」と今朝いちばんの【Green Shoots】な話題になった。
オバマ政権が海外展開するコーポレーションに対する税務上の恩恵を取り消すと言い出しており、インターナショナル企業にとっては税負担が重くなり海外競争力が落ちるというマジな懸念が出されているのだが、そんなニュースなんて、なんのその。
そんな暗い話より、住宅関連で「ちょっぴりマシ」なニュースが出たことのほうが、重要だーい!とはしゃいで、今朝のNY市場では不動産関連ETF(ティッカー:XHB)がびょ~~~~んと7%跳ね上がった。 (下のグラフはXHBの過去5日の動き。)
銀行株のほうも、ストレステストの結果ウェルズファーゴに当局が資本増強を迫っていて株式希薄化しそうというニュースが出たけど、そんなニュースなんて、なんのその。
そんな暗い話より、ウォーレン・バフェットがインタビュー番組でウェルズファーゴを褒めてるという情報のほうが重要だーい!とはしゃいで、今日はウェルズ株もびょ~~~~んと24%上昇した。
(バフェットはウェルズの最大株主のひとりなんだからTV出演でわざわざウェルズファーゴをこき下ろして株価下げるようなマネするわけないじゃんかよ・・・なんつーひねくれた話はこの際言いっこなし。)
“死んだネコ” どころか、ベア市場の“ヒグマ”を高層ビルの屋上からトランポリンの上に突き落としたようなウキウキ感である。
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さて、このNARが発表した、契約済み住宅数インデックス(Pending Home Sales Index)の統計であるが、少し詳細をみてみたい。
このPending Home Sales Indexというのは、要するに、「この家買います!」と買い手がついて売買コントラクトが結ばれた段階の戸数をインデックス化したものである。実際には、これからモルゲージローン組んだり、あれやこれやと書類を用意して最終的にクロージングに至り、そこでようやく売買完了(Sold)になるわけだが、コントラクトが結ばれたからとて、それらがすべてクロージングできるわけではない。あくまでも、これから先数ヶ月のうちにクロージングを迎えそうな戸数、という意味であることに注意。
で、この統計がどれくらい「ポジティブ」だったかというと、2月のインデックスより8.5%上昇し、一年前の3月より7.5%上昇した、というもの。NARのエコノミストの分析では、(1)モルゲージ金利が低下した、(2)オバマの経済対策の一環でファースト・タイム・バイヤーに8000ドルの税金の戻し、(3)住宅価格が下落して購入しやすくなった、の3点が、3月は効果を発揮したらしい。
モルゲージ金利が低くなった(30年固定で現在5%以下)ことは、たしかに喜ばしいことである。8%払わされてたのが5%まで下がったら、こりゃー月々の支払額としては大きいですからね。
オバマの8000ドルの税クレジットは、過去3年家を持ったことがなく、年収が75000ドル以下(カップルなら15万ドル以下)で、2009年1月から11月までの間に新居を購入した人を対象に、最高8000ドルまで税控除します、というもの。ファースト・タイム・バイヤーの中には、これを「頭金」として使おうとしてるひともいるらしい。
NARのエコノミストは、このインデックスが連続して向上しているのはポジティブとしながらも、住宅市場が完全に底入れしたかを見極めるにはこのトレンドが維持可能かどうか数ヶ月見守る必要がある、と述べた。
しかし、多くが、維持可能かどうかなんて知ったこっちゃない、最初の「ポジティブ」という部分以外は、誰も聞いちゃぁいませんからね、ハイ。
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さて、三番目の「お買い求めやすくなった」という部分だが、持ち家のAffordabiltyインデックスが高水準にいる、とNARは言っている。(このインデックスは数字が高くなるほど「よりお買い求めやすくなってる」という意味。)
Affordability - すなわち、家を買う能力のことだが、この能力は大きく以下の3つの要因に左右される。
(1) 家の価格
(2) 金利
(3) 収入
NARが出した統計を見ると、いまAffordabilityが上がってるのは、(1)と(2)が下がってるから、というのがわかりますな。
地域差はあるとはいえ、全米の家の価格は下がりっぱなし。
上のグラフは、1970年から直近までの米国の住宅価格を、インフレーション調整して示したもの。インフレ調整かけると、なんと、ここ2年かそこらで1979年のレベルまで急激に落下したってんだからね。すごすぎ。
これだけ急激に下がったら、そりゃーお手頃感も出てくるというもんでしょう。
しかし、問題は、(3)収入の見通し、である。
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NARのAffordabilty Indexの表をみると、この12ヶ月、家計の収入(メディアン)は確実に低下し続けているのだ。(表中「Median Family Income」を参照。)
折も折、ポール・クルッグマン氏がニューヨークタイムズに、この「家計の収入(Family Income)」について昨日付でブログコラムを書いている。
Falling Wage Syndrome (NYT 5/3/2009)
http://www.nytimes.com/2009/05/04/opinion/04krugman.html?partner=rssnyt&emc=rss
『Falling Wage Syndrome』(給料減少のシンドローム)というタイトルで書かれたこのコラムで氏は、アメリカの労働者が職をキープするために給料減額を呑んでいるが、どの会社も一斉に従業員の給与を減らしているので、コスト削減による企業の競争力上昇という経済効果は望めず、逆に、それは、個々が抱える借金にかかる金利の実質的な上昇を意味する、と述べている。
そして、給与の減少がスタグフレーションに寄与した例として日本を挙げ、日本の給与が1997年から2003年まで年率1%下がり続けたことが日本の景気回復を遅らせたと指摘している。
米住宅価格はまだ下がりそうだが、上のグラフで示したようにインフレ調整をすれば30年前の水準まで落ちているということなので、数年のうちに底入れする可能性はありそう。
ただし、トレンドラインを乖離して上がりすぎたものは、次は、コレクションの過程で、いったんトレンドラインを大きく下回った後にトレンドラインに回帰するというのは、これ、レグレッションの常識。従って、米国の住宅価格は、このコレクションのモメンタムによって、さらに下がることが予想される。
さらに、短期的要因として、銀行によるフォークロージャの「モラトリアム期間」が終了したため、今後、市場に放出されてくるフォークロージャ物件のサプライ(供給)が需要に対してどれくらい増えるかによっても、住宅価格は下げの圧力を受けるかもしれない。
NARのインデックスのように、住宅価格の低下度合いが給与の低下度合いを上回って進行しさえすれば改善値を示すような単純なインデックスの場合は、今後もさらに「Affordability」は改善されるかもしれない。
しかし、クルッグマン氏が指摘するように、「家庭の収入の減少が実質的にモルゲージ金利の上昇を招く」のならば、NARのAffordability Indexがどう改善しようとも、家計のデレバレッジ(deleverage=借金返済)は継続されるだろうし、とりわけ、収入の見通しが不透明な中で持ち家のように年収の4倍も5倍もするような大きな買い物をデカイ借金を組んで手に入れようという行為は、心理的にもブレーキがかかる。
家計が安定しないうちから、住宅販売だけが順調に伸びるものだろうか。それって、筆者には、ちょっと想定できないんですけど・・・。
春の新芽も、土の上に頭が出ても、その後ちゃんとお水をやらないと伸びませんしね・・・。
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5 comments:
メディアの言い方で、市場ってそんなに変わるんですね。
アメリカンアイドルの、サイモンの意見のような効果?笑
サイモンの意見のような効果--うまいこと言いますね、チーさん。いまの市場をみていると、サイモンがさんざん相手をこきおろしているのに、「彼の表情は笑顔だった」みたいな部分に明るさを見出して喜んでる、ってな感じです。(笑)
いつも楽しく読ませて頂いております。株式市場の上げと、現実の経済状況や、金融機関の状況には、何故だかギャップを感じます。米国ではこの相場に関しては普通の認識なんでしょうか?それと、今後の相場はこのまま上げで、もう危機は去ったと思って良いのでしょうか?何か不思議です。教えて頂ければ幸いです。
涼さん、コメントありがとうございます。
米株式市場の上げは、ひたすら「株式市場は常に現実の経済状況より半年から1年先を走っている。現在の状況がどんなに悪く見えても、状況は確実に改善に向かっている。」というラインに乗っかって動いている、という印象が強いです。
最新の記事にも書きましたが、金融機関の財務の現状は非情に弱弱しい。多額の損失を吸収できる利益を計上できるのか(←できなければ当期損失に至る)、そこのところがはっきりしていないにもかかわらず、「できるはず」という前提がすでにあって、それで動いているという気がします。
危機は去ったというムードがはびこってきていることは確かですが、回復が急激すぎるため、個人的にはどこかの段階でコレクションが入る、と考えてます。
ありがとうございます。半年~1年先を先読みして銀行は大丈夫なはずって、とても恐ろしいです。冷静になればわかりそうな気がするんですが、興奮状態なんですか?。やはり調整はどこかで入りますか。どこまでも上げていくような気がして、驚いて見ていました。これからも有意義な情報を楽しみにしています。
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