Thursday, July 2, 2009

実在するのか?PPT(米国版PKO)

前回のMHJ記事で紹介した、CNBC局のビデオクリップで、先物トレーダーのLarry Livinが「連休前でマーケットがガラガラのときに、あえて雇用統計を発表するなんて、市場予測よりも悪い数字が出されてくるというサインじゃないのか」とジョークを飛ばしていたが、彼の“予言”通りであった。

6月の雇用状況は再びズブズブ、市場予測36万3千人に対し、それより10万人も多い46万7千人が新たに失業者グループに加わった、という。(実際にはいまだに失業してるが、失業保険をもらえる期間が過ぎてしまったがために失業統計から脱落した人数がこの数字には含まれていない、ということも覚えておいてください。)

今回の雇用統計で、さらに筆者の目を引いたのは、政府関係の雇用まで5万7千件も減った、というんである。6月22日付MHJ記事『求む!(ジェームズ)ボンド・アナリスト』で、民間の失業者は減ってるけど、政府関係はどうなんだろうと疑問を持っていた筆者であるが、政府関係機関ですら、就職は難しくなっている様子である。ま、ジェームス・ボンドばかり、何万人も増えても仕方ないからな。 

ダウはこのニュースを受けて、当然、219ポイントもゴーンと下落。

今日もいつものように朝からCNBCをつけっぱなしにしていたのだが、いつもなら、どんな悪いニュースが出てきても経済は回復に向かっているとプロパガンダを流し続けているCNBC局で、キャスターのひとりが、「悪いニュースにはネガティブに反応する、今日は、そういうノーマルな市場に戻っただけ」と言ったのを、筆者は聞き逃さなかった。

ノーマルな市場」・・・・?

じゃ、「いつもはアブノーマル」なんですかい?うっかり本音を出したな!あとで局の上司にしかられるぞ!(笑)

悪いニュース続きなのに株価はあがる【オカルト相場】に4月から6月まで3ヶ月間も付き合わされて、筆者もいよいよ狂ってきてるのだろうか、最近はこうやって、悪いニュースをあえて良いニュースに変えようと努力している輩(やから)の【揚げ足とり】に喜びを感じるくらいしか、やることがなくなってきた。

話はぜんぜん変わるが、これを書きながら、いまもCNBC局をつけっぱなしにして見てるのだが、さっき(7月2日米東部時間午後4時半ごろ)、ペプシコーラ社のCEOが出て「日本経済は景気回復の兆し(Green Shoots)が出てきている、日本市場は明るい!」とこぶし固めてわめいてましたぜ。ふーん・・・日本もいよいよGreen Shoots、力強い景気回復を迎えるときがきたんですねぇ・・・輸出依存の日本経済がねぇ・・・でもつい先日、グローバル・トレード・フローの統計みたら背筋が寒くなるぐらい急降下してましたけどねぇ・・・ペプシの本社ヘッドクオーターはデフレと円高の日本で高い輸入ワインはやめて安いソフトドリンクを今以上にバカスカ飲むようになるのを期待してる、ってことなんでござんしょうかねぇ・・・へぇぇ・・・。

で、日本在住のみなさんは、ペプシコ社のCEOによる「ジャパン・グリーン・シュート説」に賛同しますか?

   ★   ★   ★

さて、今日の本題に入ろう。

【PKO】というアルファベットを見て、あなたはすぐに何を考えるだろうか。

国連による平和維持活動(Peacekeeping Operations)を思い起こすあなたは、『素直ないいひと』です。

【PKO】=Price Keeping Operations と考えるひとは、『スパイ小説やフィクションだらけのノンフィクションの読みすぎか、007映画の見すぎで何を見ても【国家の陰謀】と結び付けてしまうのが癖になっちゃった、そういうどうしようもないひと』か、あるいは、『証券市場に長くいすぎたために性格が歪んでしまったひと』のどちらかです。

MHJ筆者は、もちろん、最後のケースである。(爆)

Price Keeping Operations、名づけて【PKO】とは、政府が介入することで日本株式市場が値崩れを起こさないようにするという意味で、日本の市場関係者の間では、しょっちゅう「今日はPKOが入ったんじゃないのか?」みたいな会話が仲間内で交わされ続けてきた。

いちおう資本主義で自由経済のもとに自由市場を謳歌する日本国であるからして、もちろん政府は、「はい、今日はいっぱいPKOやりましたよ~!」などと言うわけがない。

だから、【PKO】というと、なんとなく、一般大衆の知らないところで秘密裏に行われている「コンスピラシー(陰謀)」の匂いがする、とでもいいましょうか。(笑)

為替の世界での日銀介入や、債券の世界での国債買取、みたいのは、むかしから世界中どこでも行われているし、政府が介入するのは別に珍しくもないのでは?と考えるひともいるかもしれない。

しかし、国有化は別として、政府が「株式のオープンマーケット」で民間会社の株式を買うという行為は、自分達が発行元の国債や為替の需給調節とはワケがちがう。政府がエクイティを買うってことは、キャピタリズムの哲学自体にかかわってくる話であって、株価形成と透明性という側面でも物議をかもし出すのは必至だから、表立って正々堂々と政府が市場から株式買いあげても許されると公言するような政府は、まずいないんである。

日本には、“公的”に認められているPKOの形態として、政府が銀行のバランスシートから直接株を買い上げる「株式買取機構」や日銀による株買取りってのがありますね。日銀が2002年に株買うってことになったときだって、当時の日本では相当の物議があがった。(政府の銀行からの株買取については、2月3日付MHJ記事『保有株買取のデジャブ』参照。)

しかし背に腹は変えられない、ってんで、結局、日銀はものすごいマーケットリスクを日銀自身のバランスシートに抱えることになるのを承知で銀行から株式を買い取り、民間銀行から中央銀行へとリスクトランスファー(Risk Transfer=リスクの移転)したのであった。もしも日銀もBIS規制の対象銀行だったら、あの当時、日銀がBIS規制で求められる自己資本比率をクリアできたのか、わかったもんではない。

しかし、強烈な金融危機がふりかかって市場がパニックしている最中は、んなこと言ってられない、ってのもありますからね・・・。

<注> BIS自己資本規制というのは、銀行が抱えるさまざまなリスク(クレジットリスク/ソブリンリスク/マーケットリスク/金利リスクなどなど)に対して自己資本を保持することが求められる。株市場のボラティリティが上昇すると、保有株式という資産に内在するリスク量が上昇し往々にして含み損が発生するため、コストベース会計で表記された名目残高(簿価)が変化しなくても、必要となる自己資本額は上昇し、自己資本比率の低下を招く。この問題に対処するには、規制対象の資産そのものを減少させてリスク量を減少させる必要があるが、それは株市場に大量の「売り」が発生するというのと同義になるため、すでに株式市場が極端に低迷していた2002年当時の日本では、銀行から日銀へのリスクトランスファーによって各民間銀行のリスクアセットを低減させて、銀行自己資本の温存に努めたのであった。


   ★   ★   ★


米国でも株価急落の場面は何度も起こっているが、そのたびに、市場関係者の間でささやかれるのが

Plunge Protection Team(略してPPT) 

の存在である。

日本の市場関係者たちが「今日もPKOが入ったな」と囁き合うのとまったく同じ様にして、アメリカでは「PPTが動いているのかな」といった会話が起こるのである。

【Plunge Protection Team】という言葉が広く市場で用いられるようになったのは、1997年2月23日にワシントンポストに掲載された同名の記事が最初といわれている。

ブラックマンデーが起こった1987年10月19日の半年後、88年3月に、当時大統領だったロナルド・レーガンの直礼(Executive Order No. 12631)で急激な市場環境悪化にどう対処するかを話し合うワーキンググループが作られた。メンバーは、財務長官、連銀議長、SEC議長、コモディティ扱うCFTC議長の4人と、そしてもちろん、大統領自身であった。

【PPT】の意味は、Plunge (株価急落)、Protection(防衛)、名づけて『株価急落防衛チーム』!とぉーっ!

当初は、Plunge Protection Teamという名称はこのワーキンググループのニックネームのように使われていたが、次第に「株価操作」というネガティブな意味が前面に出てくるようになった。【政府介入というコンスピラシーの疑惑】が市場内に持たれるようになったのは、2005年、カナダのヘッジファンドSprott Asset Managementのアナリスト2人がまとめた某レポートが巷で話題を呼んだのが発端であった。

Sprottが顧客に配ったこのスペシャルレポートは、

『Move Over Adam Smith: The Visible Hand of Uncle Sam』
(アダム・スミスよ、そこ除けろ:アンクル・サムの見えてる手)

というタイトルがつけられ、延々40ページ以上にわたり、合衆国政府が株式市場にひそかに介入し株価操作を行っているという“アネクドータルな証拠”を集めた内容である。(アンクル・サム=Uncle Sam=合衆国政府のニックネーム)

2005年にこのレポートが話題を呼んだ当時、このレポートを紹介したユタ大学のサイトに、こんなパラグラフがある。

The Plunge Protection Team was institutionalized in 1989 as a follow-up from this working group, and originally included the top public-sector financial authorities. Its role was apparently tested with the Friday, October 13 1989 stock crash. In this case, too, a sudden rush of aggressive buying of index futures contracts via the MMI saved the day. There appear to have been a considerable number of interventions in the wake of that, with the group expanding to include the heads of major banks. Thus, for example, the markets after September 11, 2001, received a heavy dose of intervention. The need for this intervention was so great that its outlines emerged quite clearly in the press.

PPTは1989年にこのワーキンググループのフォローアップとして結成され、当初は他の規制当局も含まれていた。PPTの役割は1989年10月13日に株価が急落したときに明らかにテストされていた。
このときも、MMIインデックス(Major Market Index)のフューチャー・コントラクトのアグレッシブな買いが突然膨大に流れ込み、その日の急落を救った。そのときから、メジャーな金融機関のトップ達が関与してオペは拡大し、そうした市場介入は何度にもわたり行われているようだ。たとえば、911後のマーケットでは非常にヘビーな市場介入が散見された。(911直後の)介入の必要性はあまりにも明らかで、そのためマスコミの目にも留まるようになった。


「インデックス・フューチャーのアグレッシブな買いオーダーが突然膨大に流れ込んだ」ですと。

あれっ?それって、つい最近どこかで聞いた、取引終了間際にインデックス・フューチャー20万本とかいう話に似てませんこと・・・?(笑)

だが、実際に【PPT】が市場の現場で暗躍しているのかどうかは、無論、誰にもわからない。

【PPT】を信じる人もいる。

陰謀ストーリーが好きなブログ連中の空想物語、という人もいる。

従って、公の場で【PPT】の話を真面目にとりあげるものはいないし、それを真面目に取り上げようとすると、みんなで寄ってたかって、「んもー、そんな陰謀説、作り話だよ~、フィクションの読みすぎだってばー」ってな感じで、周囲から苦笑を招くのがオチである。

去年のリーマンショックの熱が覚めやらない頃も【PPT】の話題はあちこちで耳にした。去年11月、CNBC局でまさに「その」話題が取り上げられたときのクリップをYouTubeで見つけた。



上のクリップでは、去年11月18日のCNBC局の番組中に、FortressのトレーダーのScott Nationsが【PPT】による介入と株価操作が行われている可能性があるとコメントしたのだが、同局のキャスター達は全員がスコットの発言を一笑に付し、「そんなこと真面目に信じてるなんて馬鹿みたい、ぷぷぷ」という目を向けていたのがよーくわかる。

だが、スコットがこのときしゃべった内容は、前回のMHJ記事でとりあげた同じCNBC局の番組クリップに登場したLarry Livinがしゃべった内容とは、基本的に同じなのだ。

去年11月にはニヤニヤして真面目に取り上げなかったCNBC局のキャスターふたりは、数日前の番組でもLarry Livinと一緒に登場している。だが彼らは今回は、Larryに対してはScott Nationsに対して見せたような「馬鹿にしくさった態度」は見せていない。それどころか、「Larryの言うことに同意する」とまで言っている。

断っておくがMHJ筆者は陰謀説にはほとんど興味ない。ロスチャイルドがどうした、とか、フリーメーソンがどうした、みたいな話を聞くと「かんべんしてくれ」ってな感じ。このブログも政府陰謀説を広めるために立ち上げたわけではない。

しかし、こと市場の動きに関してだけは、何度にもわたりここMHJで書き続けたように、3ヶ月ぶっつづけで、自分自身が「なんだか変」と感じ続けたのは事実だ。

自分のガッツフィーリングが正しいなんて述べる気も、毛頭ない。だが、長いこと市場の近くにいて「市場の動き」と「(分析以前に)感覚的なものとして得られる実体経済の強弱」とが、ここまで長期にわたって整合しなかったことはこれまで一度もなかった、と正直思っている。

そして、市場でそれなりにリスペクトを得ているプロ達が主要メディアのあちこちに登場して同じことを述べてるのがいい例で、「何か変だ」と感じている者は、半年前と比べ、明らかにその数を増している――。

   ★   ★   ★

この2005年に出されたSprott Asset Managementによるスペシャルレポートだが、オリジナルはここで読める。全41ページの長いレポートだが、興味のあるかたはどうぞ。

このレポートの中には、日本政府も米国政府に加担している、というくだりがあっておもしろい。今日は長くなってしまったので、次回のMurray Hill Journalで、その部分をちょっと紹介したい。(今すぐそこの部分を読みたいひとは、オリジナルレポートの34ページ目からです。)




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8 comments:

Porco said...

数日前もTVでやってましたが、今日本は割安自動販売機がシェアを伸ばし競争が激化しています。
以前はKOやPEPとかKirinとかベンダーの所有する販売機が主流でしたが、最近はジャパンビバレッジとか八洋だとか自販機専門の会社が出てきて、土地保有者が販売機を買い切ると言う傾向があります。 オーナーはメジャーでは無い(と言っても結構有名)ドリンクを安く仕入れ、自販機で安く販売します。 緑茶系飲料はベンダー系で500cc 150円ですが、こういったところでは100円で販売しています。最近では缶コーヒー50円なんても出てました。
サッポロ のリボンシトロンソーダとか懐かしいブランドに会える事もあります。  ペプシはNEXTが好調かな? 実感ありません。

Chee said...

私も陰謀説って大嫌いです!
でも、なにこれ~!と叫ぶときはあります。笑
日本に、Green Shootsがあるかどうかというと。。。

あると思います!
日本の方が、不況に素直な反応だっていう印象なんです。だから枯れるところは枯らしといて、少しでも生やそうっていう気持ちは強いような。。。
単に私の印象だけの話ですけれど。

でも、スウェーデンの方がもっと素直?

Sweden Cuts Deposit Rate to NEGATIVE .25%
http://globaleconomicanalysis.blogspot.com/2009/07/sweden-cuts-deposit-rate-to-negative-25.html

Anonymous said...

政府雇用の減少について、日本のテレビでは来年の国勢調査に向けてのチュートリアルのための一時雇用があったようだ、とのことでした。そういうのは後付けでなく先月の雇用増加のときに言って欲しかったものですね。

TrinityNYC said...

>Porcoさん

こんにちわ、コメントありがとうございます。50円の缶コーヒーですか・・・ソフトドリンク業界は、まさに薄利多売モードに突入しているのですね。でも、それで、採算あうのでしょうか。ペプシコは自分で投資したこともないし、よくわかっていないのですが、以前、コカコーラのCEOのプレゼンを聞く機会があり、日本での成功について、それがKO全社にどれだけ貢献しているか、力説してました。わたしが当時勤めていた会社のお偉いさんが京都に行ったときに、金閣寺の前にズラーと並ぶKOの自動販売機に感動して、「KOのCEOが自慢するだけある!」と言って、パシャパシャ写真撮ってましたわ。(笑) でも、モデルは変化してきているのですね。昨日の番組で聞いた限りでは、ペプシコのCEOの頭の中は、コカコーラジャパンのモデルそのままじゃん・・・って雰囲気がしないわけでもなかったのですが、さて、競争圧力高まる日本市場におけるPEPの戦略はいかに!?

TrinityNYC said...

>Cheeさん

日本のほうが不況に素直ですか?そうですか、それはちょっと意外な・・・。スウェーデンの銀行システムについては詳しくないのですが、レポ・レートを0.25%まで切ったという報道は読んだので、それで、デポジット・レートがそれにつられて現行の0%からネガティブ0.25%に落ちた、ということですよね。銀行に預金してたら余計にカネがかかるのだから、もっとお金を使おうというインセンティブを生むということで、そうなったのでしょうね。これ、ゼロのままにしておくと、銀行が利ザヤがなくなっちゃって赤字になって信用不安が拡大するわけですから、苦肉の策、なのでしょうね。スウェーデンも、急激で強烈なデフレに見舞われているようで、レポ・レートは2010年まで0.25%を継続するという中央銀行の方針のようです。

TrinityNYC said...

>Anonymousさん

コメントありがとうございます。そうですか、国税調査の調査員雇用が背景にあったわけですか。なるほど・・・。先月の雇用統計が出されたときは、集計手法を変えたとかなんとか方々で言われてましたが・・・。

phon_bb said...

いつも勉強させていただいております。
ブログで提供されている情報を、勝手に利用させて頂きました。

よろしければご笑覧ください。

TrinityNYC said...

>phone_bbさん

phone_bbさんのブログ、拝見いたしました。紹介していただき、ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。