投資に関わるものなら、誰だってそう思いますよね。法的な裏づけが明確じゃないというのは、それ自体が「リスク」だもん。
極端な話、MHJ筆者が紙ナプキンの裏に万年筆で「借用書」とサラサラ書いて支払い待ってもらうのと基本的には同じなんだから、そんなもんにフツーの値段つけて売買できますか。
この問題に対し、SECは9日付けでリリースを発行し、市場のこうした懸念にいちおう答えた。リリースによると、
(1) IOUは連邦証券法のもとで「証券」であるとSECは考える。
(2) 従って、IOUをの売買に関しては、詐欺行為などを禁止する証券法が適用される。
(3) 証券法が適用されるということはつまり、売買を仲介する者(あるいはシステム)も、ブローカーとしてSECに登録しなければいけない。
(4) ということはつまり、IOUの仲介者とセカンダリー市場を提供するものはSECの監督下に入る。
ということで、Craiglist や eBay がわざわざ自ら進んでSECの厳しい監視に入ってまでIOUを売りたいかというと、疑問である。でも、証券法の目の届かないところで売買しても、それは正規の売買とは認められない、という意味でもあるのだから、eBayで買っても後日換金できないかもな。個人で売買しようとしてる方は、あらためて、お気をつけくださいネ。
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SECが正式に「IOUは地方債の一種である」とお墨つけてくれたんで、高リターンを狙うヘッジファンドが興味示すかもしれない、という記事が今朝のウォールストリートジャーナルにのっていた。(記事はこちら。)
もし大手銀行がIOUの引き受けを拒否し続けるのであれば、IOUのセカンダリー市場を立ち上げようと考えている会社があって、需要サイド(機関投資家)の興味もすでに結構出てきているという。
このカリフォルニアのIOUは、7月2日に発行されて、償還は3ヵ月後の10月2日。年率にして3.75%の利子がつくことになっている。それのどこがそんなに魅力的なのか、って?
表面利率だけみたら、一般銀行発行のCD(一年もの)のレートよりいいってぐらいで、「高利率」という感じはしないけれど、【トータルリターン】でみたら、ディスカウント次第では、これが結構魅力的になるんですよね。
【トータルリターン】(Total Return)というのは、表面上ついている利率に従って支払われる利子収入(株式の場合は配当収入)とキャピタルゲインで得られる利益の総額が、投資額(コスト)に対して生んだリターンのことである。
上のWSJに、こんなくだりがある。
・・・even if they bought the IOUs just a month before the payment date at 99 cents on the dollar, they would collect the full interest of 3.75% and earn 1% for the month. On an annualized basis, that is 15.75%.
・・・仮にIOUを償還日のひと月前に額面1ドルに対して99セントで買ったとすると、年率3.75%の利子に加え、その月だけで1%のキャピタルゲインも得る。年率換算すると、これは15.75%に相当する。
コストとして99支払ったものがひと月後に100になって償還されるというキャッシュフローは1%のキャピタルゲインを生む。ひと月で1%ということは、1%x12ヶ月=年率12%、それにクーポン3.75%で、合計15.75%、という意味だ。
今すぐキャッシュがないと困っちゃう売り手にしてみたら、額面100に対し99にディスカウントして売り払うのは、さほど悪くないかもしれない。一方、それに投資する側にしたら、年率15.75%の投資リターンなんだから、結構オイシイ話ですよね。
実際問題として、全米最大の州政府がデフォルト起こすというのはやや非現実的なシナリオなんだから。
前回のMHJでは95とか90とかにディスカウントしてくれないと買う気ないと書きましたけどね。
仮に、筆者がこれを、いますぐ95のディスカウントで買ったとすると、償還までほぼ3ヶ月あるから、5%÷3ヶ月=ひと月あたり1.67%のキャピタルゲイン。年率換算すると、1.67%x12ヶ月=20%。それにクーポン3.75%が加わって、年率23.75%である!
リスクフリーに近い発行体が出す「証券」のトータルリターンが23.75%!!!
やっぱり、欲しいな、IOU。(笑)
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SECというオーソリティが「プライスの交渉可能な(negotiable)証券」である、と、お墨つけてくれたのは、(eBayとかじゃなくて)正規のセカンダリーマーケットが生まれる、というのと同じ意味。
このセカンダリーマーケットの市場規模がどれくらいになるかという話だけど、これ、供給増えてくれば、結構繁盛するのではなかろうか。
(ま、見方によっては、「売り手側がキャッシュがないと困るのに、議会がだらしないからIOUなんて発行しちゃって、もらったほうは、それにディスカウントかけてでも現金化するっきゃない」という、いわば、【州政の失敗に付け込んだ、あこぎな取引】ではありますけれども・・・。)
カリフォルニア州の議会はいまも相変わらずウダウダとポリティクスやっていて問題解決には近づいていないらしく、今月だけで30億ドル(3千億円)のIOU発行予定だが、このままウダウダが続けば、もっともっとIOUを発行するかもしれない。
さらに、最近読んだNYタイムズの記事によると、我がニューヨーク州もカリフォルニア州に負けないくらい州議会がグチャグチャになっていて、やれ民主だ、やれ共和だと分かれて、本質論から離れたところで政治議論を繰り返しているらしい。ということはですよ、下手すると、NY州からもIOUが発行される運びになるかもしれないし、そうなると、セカンダリー市場に流れ込んでくる供給も、もっと増えるかも。
IOUのセカンダリー市場、さて、どこまで繁盛するのか。
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ところで、まったく話は変わるが、去年共和党のマケインの副大統領候補として出たサラ・ペイリンが、連休寸前に突然、アラスカ州知事の役職を辞任。
なぜ今辞めたのか、ということで、方々でスペキュレーションが続いている。
2012年の大統領選に出る準備を開始する気なんじゃないかとか(←冗談じゃない!)、トークショーホストになってTV番組に出演するんじゃないかとか(←目立ちたがりの彼女なら、やりかねない)、いろいろ言われてるが、実際のところは、彼女が知事を勤めている間にさまざまな「権力の乱用」が目立ち州財政に190万ドルの損害を負わせたというクレームに対する調査が入っており、それのディフェンス/リーガル費用がすでに50万ドルを超えていて、現職を退かない限り、リーガル費用がどんどん膨れ上がって個人破産するかもしれないから、という有力説が浮上している。
今回の突然の辞任にあたり、
I quit this job because I'm not a quitter!
(わたしは途中で物事を投げ出すような人間じゃない、だから、この仕事を辞めるわ!)
と言ったとか、言わないとか。(相変わらず、彼女の言ってることは意味不明だが。)
MHJ筆者は、去年の選挙中にサラ・ペイリンがTVに登場するたびに虫唾が走っていたひとりなので、彼女が破産しようとどうなろうと知ったことではないのだが、さっきこんな写真をみつけてしまったので、今日のMHJエントリーは内容も薄いことだし、薄いついでにお詫びもかねて、最後にくっつけておきたい。
アイダホ大学時代のサラが来ているTシャツの胸には、なにやら予言めいた内容が・・・。
I may be broke but,
I'm not flat busted.
(スッカラカンでも、へこたれない。)
恐るべし、サラ・・・とことん、がんばるつもりか・・・。
トークショーの番組持つのはかまわないけど、次期大統領選に出てくるのだけは、どうかかんべんしてね。
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7 comments:
こんにちは。
IOUの話は興味深いです。
IOUを割り引いてすぐ現金が欲しい業者さんは、きっと資金繰りが厳しい会社ですね。そんな業者さんはこの割引によって更にもらえるキャッシュが減っていくのですから、きっと経営がどんどんヤバイことになるんでしょう。
それと素人考えですが、一般の州債券よりもIOUの方がお得だとIOUと州債券とで裁定取引が行われ、州債券の金利が上がっちゃうんじゃないかという事もふと思いました。
財政の厳しい州達がやたらとIOUを刷りまくる、という状態になるとやっぱり最後は地方債の金利上昇という結果になるんでしょうか。
セカンダリーマーケット、偽物かどうかの見極めが難しそうですね。でも、一時のHigh Yeildの債権なみのリターンは魅力ですね。
ところで、ペイラン辞めてたのですか。ぜんぜん知りませんでした。私も本当に嫌いで、マッケインと二人で選挙戦に出てるのを見るたびに、虫唾が走っておりました。これでしばらく見ることがなくなると、私もうれしいですが・・・
>Opocoさん、コメントありがとうございます。
IOU市場の出現がアービトラージ機会を生んで地方債の金利上昇を結果として招くのではないかという疑問、いいポイントですね!わたし自身の見方としては、結論から申し上げると、地方債市場全体へのアービトラージのインパクトは限定的なんじゃないか、と考えています。
たしかに既存の一般地方債とIOUとでは、ディスカウントのかかり方にどれだけの差が生じるのかが今はまだよく見えないのでなんとも言えませんので、あくまで感覚的にそう思う、という話ですけれど。
わたしがそう考える理由は、ひとつにはアメリカの地方債(GO)市場はおよそ3兆ドル市場と言われる巨大な市場で、IOUの発行残高はそれに比べると非常に小さい規模にとどまると考えられること、もうひとつは、一般地方債の償還期限が一般に超長期であるのに対し、IOUは償還までせいぜい数ヶ月という短期債であるので、もともとのところで投資家層が異なるのではないか、というのもあります。IOU市場の流動性が高くなれば、むしろプライシングのいびつさは解消される方向にすすむ(IOUがカリフォルニア州の信用力にみあったレベルに回帰する)可能性もあるかな、と思ってます。
むしろ、わたしが懸念してるのは、実務の部分でサブプライムに似た問題が出てくるのでは、ということです。一般地方債と異なり、IOUの場合、あらかじめ「売り手」は資金繰りに詰まっている弱小の売り手であるということ、一方の「買い手」は生き馬の目を抜くヘッジファンド、という
「自由市場としてはいささか不健康な力関係」
が最初から存在している、という点じゃないかと思うのです。短期債であるにもかかわらず、最初からディープ・ディスカウントがかかりやすい。
買い手がプロの投資家になると小口の売買はコストがかかりすぎるためいちいち直接関わりませんので、準仲買人のような存在が登場してくる可能性があり、そうなると、もともと足元見られている弱小の売り手にとって不利になる値決めがされるかもしれない。SECが現段階でそういう実務上生じてくる細かい問題まで視野に入れてるとは思えないし、当局というのは問題が生じてから対処するのが常(サブプライム・ブローカーの問題しかり)なので、市場立ち上がりのころは、問題を抱えるかもしれないという気が今からしてます。
>haustinさん
ペイリン辞任の「記者会見」は、7月3日、アメリカ中が連休モードにすでに突入しているときを狙い、彼女の自宅の裏庭で行われたようです。会見参加者は、家族、および、近所のひと。(爆) 「Quitterじゃない」ということですから、これで永遠に消えてくれると安心するのは、まだ早いかも、です。
CAのIOUですが、当分、地元の銀行は口座保持者にたいしてIOUの額面でも現金化を進めてくれそうです。でもこの騒動に便乗して、割り引いた価格での引き取りする業者もかなり増えています(笑。
Trinity @ NYCさん、丁寧な解説をいただき、ありがとうございました。
なるほどです。
期限の長いIOUが出てきたら・・・というところですね。もしそんなものが出てくるようだと、本当になんでもあり状態ですけど。
いろいろな州が発行する長期IOUをまとめてから細切れにしてCDOを作って、AAAのラベルを貼って売る、みたいな商売ができたらしたいなあ。
>Genさん
上でOpopoさんへのレスで、「足元みた準仲介業者」が出現して弱小の売り手に不利な取引になるんじゃないかと心配してると書いたのですが、そうですか、やっぱり、早速、買い取り業者が出てきている・・・さすがですね、こういう方がたは、本当に行動起こすのが早いってのか。(笑)
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