加州の経済危機ひとまず回避、改革法案可決
7月25日21時2分配信
【ロサンゼルス支局】深刻な財政難に陥っている米カリフォルニア州の州議会は24日、巨額赤字の解消に向け、総額約240億ドル(約2兆3000億円)の財政改革法案を可決した。
法案は、教育や医療、刑務所管理の費用などを約150億ドル(1兆4000億円)削減することを柱としている。法案可決で、不況による税収悪化で財政赤字が約260億ドル(約2兆5000億円)まで拡大していた同州は、財政破たんの危機をひとまず回避した。
ただ、税収回復の見通しは立っておらず、近い将来再び財政難に陥る恐れもある。また、弱者切り捨ての歳出カットには、強い反対が上がっている。
同州のシュワルツェネッガー知事は、記者団に、「我々はまだ危機のさなかにある」と強調した。
ここで強調すべきは「ひとまず回避した」の「ひとまず」でしょうか。ひとまずI.O.U.はこれ以上発行しなくて済むようになりました。
社会的弱者にシワ寄せが行くという「削減」の部分にスポットライトをあてるニュースが多いけれど、聞くところ、それ以外にも、いろんな【苦肉の策】が盛り込まれて、ツジツマつけてるそうじゃないですか。
たとえば、歳入策のひとつとして、州の労働者保険(Worker's Comp)を手がける組織の一部を「State Compensation Insurance Fund」として売りに出し、その売り出しから$1ビリオン(10億ドル)のファンドレイジングする予定、というのがあるんだが、LAタイムズによると、方々から反対が出てるらしくて、すでにその案は頓挫しそうで、たとえうまくいっても今年中に$1ビリオンのファンドレイジングができるかは大いに怪しい、という。(予定どおり売り出しできなかったら、$1ビリオンは、どうする・・・。)
さらに、$1.7ビリオンを州内の地公体から借金させてもらうそうだが、これは来年度の歳入からお返ししなくちゃいけないし・・・。
そして、もっと悲しいのは、来年6月末日に払うことになってる公務員給料($1.2ビリオン)を翌日の7月1日に一日延ばすことで、今年度の予算から外した、ってんだから。7月1日は新会計年度の初日ですんで、$1.2ビリオンは来年度予算でよろしく、ってことで。
・・・くっ、くるしい・・・・。
来年度の税収増えなかったら、先延ばし分、どうするんだ?
カリフォルニア州在住のみなさん、荒波は続きそうですが、がんばってください。(←例によって、空しいエール。)
しかし、カリフォルニア州の行方に全世界が注目してるうちにも、他の州や市レベルの財政難は全米で拡大しつづけている様子。
これも聞くところ、ペンシルバニア州フィラデルフィアがどうやらヤバイらしい。カリフォルニア州政府とまったく同じ、予算案をめぐり市議会が対立・凍結、キャッシュフローがまわらなくなって業者向け支払いがストップされている、という。
また、米自動車産業のお膝元ミシガン州デトロイトでは、5月に売れた一軒家のセールス価格のメディアンが6000ドルだった、と聞いた。6万ドル、じゃないですよ。6千ドル、だよ。キッチンなど家の改装費にかけるお金の全米平均が6万ドルだってのに、家そのものが、6千ドル。
デトロイト市では住宅不動産のセールスの相当部分がフォークロージャ物件だそうで、いまだにフォークロージャが止まらず、たとえ買い手が現れても価格はどんどん下がっているという。デトロイト市の予算で「固定資産税」というくくりの収入、どれくらい見込まれてるんであろうか・・・。
全米の地方政府、大丈夫か・・・。
★ ★ ★
さて、本日のタイトル、CalPERS である。
CalPERS = California Public Employees Retirement System (カリフォルニア州職員退職年金基金)
そう、公的年金としては全米最大、投資資産1800億ドル(09年6月末現在)。【物言う株主】【アクティビスト】のお手本とされ、つい最近も、バンカメのCEOケン・ルイスを引きずり下ろせとアピールして話題になった、あの泣く子も黙る、CalPERSである。
24日付けのニューヨークタイムズに、CalPERSの新CIOと今後の投資戦略についての記事が掲載された。
California Pension Fund Hopes Riskier Bets Will Restore Its Health (7/24/09, NYT)
この記事によると、CalPERSは昨年だけで600億ドル目減り、投資リターンも、09年に入ってから、-23.4%にダウン。(下のグラフはNYタイムズより)
このグラフを見ると、最近まで、長期にわたりかなりの好成績を挙げ続けていたことに驚かされるが、CalPERSが公的年金でありながら【高リスク/高リターン】のヘッジファンド的投資スタイルだったことを考えれば納得もいく。
このNYタイムズの記事によると、同社の不動産ポートフォリオは35%の下落、プライベート・エクイティのポートフォリオも31%の下落、しかも昨年は、CalPERSとパートナーシップを組んでいたプライベート・エクイティや不動産投資会社にキャッシュを捻出する目的で株価下落の最中に株式を売却し、損失確定しちゃったという。
今年に入ってからCalPERSはJohn Dear氏を新しいCIOとして迎えたのだが、この新CIOの戦略としては、やはり、プライベートエクイティや不動産などの高リスク投資に資産を多めにアロケートし続ける、そういうスタンスなんだそうである。
グラフでも示されているように、同社の過去20年のリターンは7.75%、過去10年は最近の株市場暴落と高リスク投資の失敗がたたり2.41%。新CIOは、同ファンドの投資リターン目標を7.75%に据え、引き続き【高リスク/高リターン】のスタンスを崩さずに、大幅に失われた価値の回復を目指すそうです。
実際、今日のフィナンシャル・タイムズにも、CalPERSが4年前に売却したショッピングセンター86物件を買い戻すという記事が出てましたね。(前回のMHJ記事で触れたように、UPSが先週「小売業に明るさは全然見えない」と言ってたんだけどね・・・)
Calpers agrees to buy back 86 US shopping centres (FT、7/27/09)
(FT記事から引用)
・・・Mr Dear said in spite of the market downturn and the impact on asset values, he remained convinced that assets such as real estate, private equity and infrastructure assets would deliver higher returns to pension funds than public equities over the long term.
市場下落と資産価値へのインパクトは大きかったが、不動産、プライベート・エクイティ、インフラ資産などの投資資産は長期的に公開株式への投資よりも高いリターンをもたらすと、ディア氏は引き続き確信している。
勇敢だな、CalPERS。
現段階で、これら高リスクの分野に長期投資で入るというのは、並みのリスクテーキングじゃありませんよ。いちかばちかの大勝負だな。しかも、この組織、ファンドの規模がハンパじゃないんだもん。
でも、彼ら、仮にも公的年金でしょ。
CalPERSのパフォーマンスを米国債と比較すると、10年米国債の過去10年のリターンが4.25%、その前の10年が6.5%だそうなので、米国債を20年ひたすらジーと持ってたら、リターンはCalPERSの7.75%と良い勝負だったかもしれない、という見方もある。
州職員の給料を会計年度の末日から新会計年度の初日に一日ずらしてもらうという姑息な方法で、なんとか今年度予算としての「見てくれ」を「ひとまず」整えたというのに、その州職員の皆様(含シュワちゃん)が給料から長年コツコツ貯めてる年金の運用を、プライベートエクイティだの、不動産ファンドだので回して高リターン狙うって、それってどうよ。
(わたしには、ちょっぴり、ギャンブルなかおりがするんですけれど・・・)
★ ★ ★
投資のプロなんだから、【高リスク/高リターン】で勝負したいなら、するがよい。
でも、前々回のMHJ記事でも書きましたが、高リスク投資には、高リターンを得られる可能性と同じだけ、高損失が出る可能性もある、ってことを片時もお忘れなく。投資は自己責任で。
今月のなかば、CalPERSは、多額の「仕組み債(Structured Bond)」投資から発生した損失の責任取れといって、格付け会社3社を相手取り訴訟を起こした。
Calpers sues rating agencies over losses (Reuters, 7/15/09)
CalPERSの訴えによると、同社は【SIV】という種類の仕組み債に投資したが、そこから10億ドル以上の投資損失が発生した。これだけの損失が発生した直接の原因は、格付け会社によるレーティングが「極端に不正確だった(wildly inaccurate)」せいだと怒りをぶちまけ、法廷で戦う覚悟だそうである。
(注)【SIV】という言葉を聴きなれない方のために少々説明すると、SIV=Structured Investment Vehicles というのは、資金のほとんどを短期・超短期のコマーシャルペーパー(CP)市場で調達して極端なレバレッジをかけ、それを、CDOやCLOその他債券のトリプルA部分に投資し鞘を抜く投資手法。米国のCP市場が正常に回っている間は極めて安価で資金調達することが可能だったが、CP市場が2007年あたりから異常な動きを見せるようになり、調達側(バランスシートの負債側)が不安定になる一方で、投資側(B/Sの資産側)のバリューは信用不安で急落するという格好になり、CP市場の閉塞と並行する形で、SIV市場は瞬く間に瓦解した。SIV市場で最も活発だったのはシティグループで、シティの仕組み債関連の損失は、このSIVから多額発生した。
CalPERSがカリフォルニア地裁に提出した訴状の実物は、こちら。
このドキュメントの4ページ目に、「IV.事実背景」という部分があって、そこに、こう書いてある。
Other than the Rating Agencies' evaluation and subsequent credit rating of a SIV, an investor had no access to any information on which to base a judgement of a SIV's creditworthiness.
格付け会社によるSIVの評価と格付け以外には、投資家はSIVの信用度を判断するに必要な情報にはまったくアクセスできなかった。
ほぉ、なるほど、「自分達が何に投資してるのか全然わかってなかったんだけど、格付け信じて買っちゃった」ってことですね。
でも、「それでも買う」って決めたのは、自分たちなんでしょ?
しかも、カリフォルニア州の不動産の上がり方、ちょっと異常なんじゃないのかと、誰もが口に出していた2006年に、集中的にサブプライム関連のSIVに投資してた、というじゃありませんか。
SIVってのは、すごっくレバレッジ効かせて、流動性の低い長期資産を、超短期の資金で回す、そういうビークルですよ。
筆者から言わせてもらうと、詳細な情報へのアクセスがどうした以前に、長短のミスマッチがここまで極端な投資方法って、そのストラクチャーを聞いただけで、プロならすぐにリスク感じるでしょ?いちおう警戒しませんか?格付け高いから大丈夫だと思って何千億円も投資した、その責任取れ、ってさぁ・・・。
別に格付け会社をかばう気はありませんが、そんな言い分、うちのお母さんが証券会社のセールスマンに薦められるまま投資して、失敗して泣きべそかいてるのと大差ないじゃん。
投資界の雄CalPERS、いつの間にか「べそっかき小僧」か。
★ ★ ★
米議会は、AIGやウォール街関係者やバーナンキを血祭りに挙げたように、次は格付け会社各社を呼び出して同じように公聴会で責めまくる準備を着々と進めている。
このCalPERSの訴訟の件は、きっと、公聴会でも議員から質問が出されて話題になるな。
議会のことだから、CDSのときのように、信用格付けに関しても、またまたミョウチクリンでズレた質問が次から次へと飛び出すこと、間違いなし。
AIGの一件では「CDS」に関して議員連中によるヘンテコな質問の嵐だったけど、次回は「CDO」「CLO」「SIV」の番かもな・・・。さ~、またまたアルファベット3文字の登場ですよ~、みなさん!(笑)
ところで、以下はどうでも良い話だが、おもしろいから書いておく。
上にくっつけたCalPERSがカリフォルニア地裁に提出した実際の訴状の14ページ目、項目番号74番で、格付けスタッフをちゃんと訓練してなかったのも悪い、と言うくだりがある。その「証拠」として、当時の格付け会社のスタッフによるEメールが紹介されてて、
“WARR - don't ask [絵文字ニコちゃんマーク]”(Weighted Average Recovery Rate=加重平均リカバリー率が何のことかなんて、聞かないでネ!)
と書いてあった、というんである。
格付会社の担当スタッフが、こういう(不真面目な)やり取りをしているのは、格付けにあたるスタッフがSIVの仕組みをちゃんと理解しておらず、対象債券をモニターするのに必要なスタッフを確保していなかった格付け会社の怠慢であるとわめいてるんである。(しかも、さすが法的文書なだけあって、「このコンピューターによるスマイルの顔はオリジナル文書にあるとおりです。」とわざわざ但し書きあり。爆)
実際のページはここ(↓)。拡大して笑ってください。
もし近く公聴会で、この【ニコちゃんマーク】付きのEメールについて議員から真面目に質問が出てきたら、筆者はきっとその場に倒れてそのまま動けなくなるであろう。
そして、【ニコちゃんマーク】がどうしたよりも、CalPERSに預けてる公的年金のほうを心配しろ、と言いたくなるであろう。
引退後の年金まで、I.O.U.でもらっても、みんな困るんだからな。
★ ランキングに参加してます。よろしければ投票クリックお願いします。★
↓↓↓↓↓
にほんブログ村 アメリカ経済
人気ブログランキングへ
2 comments:
カリフォルニア住民に応援ありがとうございます(苦笑)
給料の支払いを一日延ばしたのもがっくりですが、さらなるアカウンティングマジックは、10%Tax withdrowを増やすつもりのようだということです。
http://www.mercurynews.com/ci_12919685?IADID=Search-www.mercurynews.com-www.mercurynews.com
フォークローズ対策と一緒で、先延ばしにしてるだけのような気がするなぁ・・・
>haustinさん
住民のみなさんから、住民税を10%前倒しでお借りする、ってことですか?2010年にお借りした税金は、2011年にリファンドします、って、それって、なんだか怪しい・・・(笑)リファンドするんだから、一時的に借りるだけで「増税」じゃない、ということなのでしょうけれど、確かにそうかもしれないけれど、集めるものは前倒しで集め、払うものは先延ばしで待ってもらう・・・くっ、苦しいですね・・・
でも、我がニューヨーク州も他人事とは言ってられなくなってきてます。州レベルでも、シティのレベルでも、歳出入のギャップが大きくてワナワナですよ。どうするんだろう・・・
Post a Comment