Monday, June 1, 2009

保護貿易のお約束:GM更正は労組の勝ち

“・・・the cars of the future are built where they’ve always been built -- in Detroit and across the Midwest -- to make America’s auto industry in the 21st century what it was in the 20th century -- unsurpassed around the world.・・・” (Remarks by President Barack Obama, 3/30/09)

「これまで自動車製造の中心地はデトロイトと米国中西部だった。未来の自動車製造も、やはりこの地域が世界の中心になることに変わりはない。20世紀のアメリカ自動車産業がそうであったように、21世紀の自動車産業も、世界のどこにも引けをとらないものになる。”(オバマ大統領の発言、09年3月30日)


(せいぜい)がんばってください。

それ以外に、どんな「はなむけの言葉」があろうか。

米国政府はGMの60%株主となった。

オバマは今日(月曜日)行った記者会見で、「米国民は嫌々ながら大株主になった」と述べ、最大株主ではあるものの、米政府はGMのオペレーションにいちいち口を出すような、そういう株主にはならない、と明言した。

ウォール街の給与体系には口を出し、キャタピラー社の雇用予定にも口を出してたオバマが、60%株主になった会社に対しては口は出さない所存だそうです。

(キャタピラー社については、2月15日MHJ記事『オバマはいつからキャタピラー社の人事部長に?』参照)

へぇ~~、さようですか。オバマのこの言葉を信じるひと、挙手願います。

過半数以上を保有する最大株主の米政府が口出さないなら、代わりに誰が口出すんだ?カナダ政府(12%)か?(笑)

あっ、忘れてました、17.5%株主のU.A.W.がいましたね。GMの「モノ言う株主」は労組です。

今回のGM会社更生案の折衝の席でU.A.W.は、

(A) 現従業員については、減給も福利厚生の減額補正もなし
(B) OPALは売却先の欧州から米国+中国向けに小型車売っちゃいけないという条件つけて売却
(C) 中国GMで生産される車は基本的には中国国内で消化、中国から米国への輸入は別の話

という要求を米政府に突きつけたんである。

(A)について言えば、米国産自動車がグローバルで競争力を失った理由のひとつである【高雇用コスト】については、再建後も手付かずのまま。

(B)と(C)については、海外から米国への小型車輸入に規制かけるという【保護貿易主義丸出し】の内容ではないか。

U.A.W.の最高責任者ロン・ゲットルフィンガーは先週28日、アメリカの公共局PBSのニュースTV番組に出演し、そのインタビューでこんなことを言った。(インタビューのトランスクリプト全文はここへ。)


PAUL SOLMAN: But G.M. is going to be making more cars in China and sending them back here, as I understand it, while you're losing jobs and plants here?

RON GETTELFINGER: Well, we hopefully got that stopped in this agreement. One of the things that we were able to conclude in this agreement was -- and we did put a lot of pressure on, a lot of public pressure on.

And we, quite frankly, put pressure on the White House, the task force, the corporation. We had other constituent groups out here with us trying to make the point that we've got to go back to an industrial base in this country.

We don't have an industrial policy. And the corporation had rolled out, as part of their initial plan, was to bring in imports from China and additional imports from South Korea.

So what we did in this particular case was we got the corporation to agree that they would build a small car platform in this country. And incidentally, no manufacturer to date builds what's referred to as a B-car in this country, which is smaller than a Focus or a Cobalt or a Caliber. Now we've got that commitment here.


<ポール・ソルマン(司会者)> しかし、米国での従業員と製造拠点は削減される一方で、GMは中国でもっと自動車を製造しそれを米国に輸入する予定なのではないですか?わたしはそう理解してますが。

<ロン・ゲットルフィンガー> いや、今回の同意にあたり、そこの部分は終止符が打たれることになるはずです。そこのポイントこそが、今回政府案に同意する際に互いに決着をつけた事柄のひとつです。これについては、公の場でも、我々からずいぶんとプレッシャーをかけましたからね。

正直に言いましょう。「製造業のベースは合衆国に呼び戻さなくてはいけない」という我々の言い分を貫くために、ホワイトハウスにも、タスクフォースにも、会社側にも、我々は実際にプレッシャーをかけたのです。我々に賛同してくれる有権者グループ達もいましたし。

この国には製造業に関わるポリシーというものがないも同然なのですよ。当初の計画では、会社側は中国のGMプラントで製造された自動車を米国に輸入し、さらに韓国からも追加的に輸入する、というものでした。

それについて、我々労働組合側は今回、小型車製造のプラットフォームは米国内に作るということで会社側に同意させたのです。フォーカス、コバルト、カリバーといった小型車モデルよりもさらに小型の自動車、これを我々は「B-Car」と呼びますが、「B-Car」を製造できる会社は米国には目下存在していない。会社側は組合側の要求どおりにするというコミットメントを出したのです。


このゲットルフィンガーの発言は要するに、「コスト競争力のない会社が、組合側の言い分に押し切られ、まだ作ったこともない小型車の製造拠点を米国内に作り、海外からの競争圧力に対しては輸入制限でも関税でもなんでもいいから政府にバリア張らせて、GM製の小型車を米国内で売るつもり」――そういうことですな。

筆者は今日1日の午後に開かれたGMのCEOヘンダーソンの記者会見をテレビでライブで見てたんだが、この中国から米国へのGM車の輸入については、中国人のジャーナリストから実際に質問が出された。だが、ヘンダーソンCEOは「中国向けには基本的に中国内で生産し、サプライチェーンを短くし、現地生産を推進する」みたいな的外れの答えをして、ごまかした。

組合側に中国から輸入しませんとコミットメント出した、ってんだもん、ごまかすしかないでしょ。

でも、「A-Car」だか「B-Car」だか知らんが、そもそものところで、「アメリカのメーカーは小型車作らせたら最悪」という評価をアメリカ人消費者から受けたために、小型車市場では日本のメーカーにシェアを取られ続けたのは周知の事実。

これは日本の自動車メーカーの関係者から直接聞いたんだけど、自動車というのは、車体が大きくなればなるほどマージンが高くなる、そういうもんなんだそうである。小型車でエコカーなんてのは、マージンが低い【薄利多売】型の製品なんだそうである。そのために、GMやクライスラーは、小型車製造の技術力では海外勢に勝ち目なしとさっさとあきらめ、SUVやピックアップトラックのようなマージン高い大型車の製造に傾倒していった。

このグラフを見ると、小型車に見切りつけて高マージンの大型車に経営資源を移していった様子がハッキリわかる。(グラフはNY Timesより)



小型車製造の技術力では本国の消費者にすら見放された自動車会社が、オバマ政権が推進する小型エコカーの製造を一気に引き受ける???

でもって、【技術力】で足りない部分は【政治力】でカバーする

でも、それって、ブッシュ政権時代に高マージンの大型車を売るために、自社に好都合になるように税制変えろと政府にロビイしまくってた昔のGMと、発想としては、まったく同じに聞こえますけど。

メンタリティ変えずして、この会社更生プロセスで、旧GMと新生GMの何が変わるというのか。

前々から申し上げているが、労働組合が最大のモノ言う株主(でもって、60%オーナーの民主党政権は労組の味方)みたいな会社に株式投資するなんて、筆者なら絶対に嫌だね。金融社会主義は、まっぴらごめん。

でも、筆者がいまさら何をわめこうが、納めた税金はすでにオバマによって投資されてしまった。筆者は新生GMの立派な間接株主である。

こんなお先真っ暗の会社のために、米国民が“投資”した額は総額500億ドル。これが60%に相当するわけだから、筆者も含め米国の納税者にとっての損益分岐点(Breakeven Point)は、市場価値にして新生GMが800億ドルをマークするとき。

でもさ、GMの株価がピークをつけた2000年当時ですら、同社のマーケットキャップは最高560億ドルにしかならなかったんだよ。

冒頭で紹介したオバマの名調子にウットリ騙されてる場合じゃない。だいたい、オバマは、アメリカ社会が自動車に頼りすぎているとして、日本や欧州をモデルとした公共の高速鉄道網を米国でもインフラ整備すべき、それにより雇用創出できると騒いでいる張本人ではないか!

コストについては労働組合に押し切られ、日本のメーカーですら「マージンが低い」と言ってる小型車の販売中心のビジネスモデルで、新生GMのマーケットキャップが800億ドルになるくらい収益を挙げるためには、現在の何倍の小型車を販売しなくちゃいけないのか。

GM経営陣は、債務リストラで借り入れコストが低減する点をやたら強調しているが、財務をどんなにいじっても、自動車会社は自動車売れなきゃ、話にならん。フランチャイズがボロボロなのに財務リストラだけで不死鳥のように蘇った会社なんて、聞いたこともない。

米国納税者が、GMへの“投資”からリターンを得る日は、おそらく永遠に来ない。そう考えたほうがよさそうである。


   ★   ★   ★


週末から、GMのチャプター11申請に関する新聞やブログ記事が膨大に出回っていたが、その中に、ジャーナリストのP.J. O'Rourke氏が5月30日付でウォールストリートジャーナルに寄せたオピニオンが光っていた。彼は、米国自動車産業の衰退を、いわゆる経済分析とはまったく異なる、もっと個人的・感情的な視点から眺めていて、非常におもしろい。

The End of the Affairs (5/30/09, Wall Street Journal)

P.J. O'Rourke氏はアメリカではかなり名の知れたジャーナリストで、彼の書く皮肉たっぷりで少々自嘲的な記事やエッセーは、アメリカでは一部で大変人気がある。筆者もファンの一人である。

この記事のはじめのほうに、こんな文章がある。

The fate of Detroit isn’t a matter of financial crisis, foreign competition, corporate greed, union intransigence, energy costs or measuring the shoe size of the footprints in the carbon. It’s a tragic romance—unleashed passions, titanic clashes, lost love and wild horses.

デトロイトが辿った運命は、金融危機問題でも、海外勢との競争問題でも、企業のグリードでも、労働組合の強硬姿勢の問題でも、エネルギーのコストの問題でも、カーボン排出計測の問題でも、そのどれでもない。それは、解き放たれた熱情、タイタニック級の沈没、失われた愛、荒くれ馬、それらが登場する悲劇的でロマンチックな物語である。


O'Rourkeは、アメリカで自動車を生み出してきた歴代の偉人達はみな【ロマンチックな愚か者(romantic fools)】ばかりで、産業の発展の結果として自動車産業に成功した日本のケースとは違うのだ、とまで言っている。都市部から郊外へと生活空間が拡大していった戦後の米国では、自動車はただの「動くカップホルダー」に成り下がったのだ、と。

GMの崩壊は愚か者のロマンスの終焉。こんにちのアメリカ人にとって、GMとは何を意味するのか――。世界一の車社会を標榜してきたアメリカとアメリカ人の失望や怒りを強く感じさせる秀逸記事である。ヒマがある方は一読を薦めたい。

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さて、5月1日付けのMHJ記事『ベイルアウト、タイムアウト、ホールドアウト』で、クライスラーの債権者がオバマのタスクフォースが折衝案として提示した条件に難色を示し、債権者達はチャプター11に持ち込むことで法的に有利な判決がでるようにと望みをつないだ、と書いたのを覚えておられるでしょうか。

あの記事で、オバマ案が、清算価値支払いの優先順位ではシニアに位置する債権者を、劣後の債権者(=U.A.W.)の後に置き、長年、債務の世界で尊重されてきた「支払い順位」を無視するような真似をしたのだから、債権者が怒りまくるのも当たり前、とも書いた。

あの話の後日談を書いておきたい。

「有担保(Secured)」の債権者にまで劣後債権者より多額の損失を取らせるという当初のタスクフォース案は、さすがにそれはまずい、ということになったのか、結局クライスラーの「有担保」債権者分については政府側が折れて担保価値を無視したりしません、ということになった。

GMの更正案では、有担保債権者から再び同じクレームが出されることが予想されたため、タスクフォースは最初から有担保の債権者にまで劣後債権者以上の損失を取らせる「荒業」は持ち込まなかった。

だが、クライスラーの「無担保(Unsecured)」のシニア債権者は、やはり、劣後債権者であるU.A.W.が優先されるという案のまま進むことになった。

クライスラーの債権者(債券ホルダー)達は、クライスラー社を2分割して資産をフィアットに売却するのは違法であるという申し立てをしていたが、GMがチャプター11を申請したのと同じ今日6月1日、クライスラー社のケースを扱っていた判事は債権者側の言い分をあっさり退けたのである。(ブルームバーグの関連記事はこちら。)

この判事の判断により、クライスラー社は、ギャーギャーうるさい債権者を蹴散らして、本日を持ってチャプター11のプロテクションから脱し、予定通り資産整理を行って、新生クライスラーに再構築されることが決定した。(債権者の言い分が通ると資産売却が遅れ、更正プロセスに時間がかかるという懸念があった。)

これを「お手本」にして、GMの無担保シニア債務者も同様に、U.A.W.向け債務のほうが優先的な地位におかれ、シニア債権者が劣後債権者よりも多額の最終損失を負担する、という結末になる公算高し。

将来、GMが政府の庇護から脱皮して、一人前の会社に戻る日が来たとしよう。そのとき、新生GMは、事業拡大のために資金が必要になるかもしれない。株式発行もいいけれど希薄化しちゃうから借金しようとするとしますね。そうやって、企業債市場に出て行って「債券発行しまーす!誰か買いたいひといませんかー!」と掛け声をかけたとしよう。

そのとき、企業債市場の参加者は、GMに何というであろうか。

「どのツラ下げて」

で終わりである。

個人層へのアクセスだって、ダメである。だって、今回いちばん理不尽な扱いをうけたシニア債権者の多くは、引退したおばあちゃんとか年金ファンドとかの一般個人投資家のカネだったんだもん。いちどでもワケわからん理由で借金踏み倒されて、またホイホイ貸しますか?

これを、世では一般に、「信用力の欠如」と呼ぶ。

労組の言い分を優先するあまり、支払い順位というキャピタルマーケットの鉄則を完全無視したツケは、この先、GMに永遠に残るでしょう。政治圧力で市場ルールを押し曲げるのを厭わないようなリスキーな会社に、安い金利でカネ貸してあげる殊勝なクレジット投資家って、FRB連銀以外に、誰?

債券市場にアクセスできないとなると、資金調達はこの先もっぱら株式調達か?

ということは、ケッ、この上さらに、希薄化かよ。

オバマ本人が、個人的に、こんな会社に『株式投資』したいと本気で思っているかどうか、是非とも聞いてみたいところである。



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4 comments:

Porco said...

またまた面白い記事ありがとうございます。  後半の弁済順位のところはクライスラーも含めて日本でもニュースになってますが、前半の労組とのお約束は全く知りませんでした。  対従業員債務がデット・エクィティ・スワップで株式になってレガシー・コスト大幅ダウンと受け取っていましたが、そうでも無いのですか?

TrinityNYC said...

Porcoさん、こんにちわ。コメントありがとうございます。労組との「お約束」は、(B)については実際にコントラクトに明文化されているそうなんですが、(C)については、GMのCEOヘンダーソンの記者会見でのゴニョゴニョ振りから判断するに、この「コミットメント」は明文化された法的拘束力があるものではなく、「経営側はそれに向けて最善を尽くします」と言いました、ってな感じのやりとりだったのでは、と私は勝手に想像しています。

労組U.A.W.の強硬姿勢は今に始まったことではないですし、ゲッテルフィンガーがPBS局でそう発言したとしても、それは、実態としては、労組の希望的観測の域を出ないのではないか、と。

いま、ちょうどガイトナーが中国に行っていて、GMの中国から米国への自動車輸出についても当然話し合われているはずで、「U.A.W.と約束したんで、その話は忘れてね!」と軽くあしらえる話とはとうてい思えないのです。

中国との貿易については、為替および米国債購入との絡みで、米国にとっては切り札にも負け札にもなる話なので、慎重に進めていると思います。現在、中国の米国債購入は短期に集中しているようで、それがますます10年物の金利を押し上げるようになっており、これ、モルゲージ金利にヤバイです。米国経済にとっての中国は、こんな安普請のコミットメントで片付くとは思えないので、その局面が実際に来たら、また政治問題になると予想します。

レガシー・コストについては、過去の従業員に約束して既に債務化された部分をヘアカットして削減しDESでオーナーシップに変換するわけですから、過去のレガシーについてはお考えの通りですが、【現行の従業員】については従来どおりの雇用経費が今後も発生するらしいので、オンゴーイングの経費ストラクチャーとしては、やはり競争力は低い、とわたしは思います。  

riot said...

はじめまして。

たとえ契約になくとも、法的に担保されていなくとも、UAWなら延々ストでもやって、自分の我が儘ねじ込もうとするでしょうね。

私のブログにも書きましたが、オバマは別に自動車産業がどうなろうがしったこっちゃないから、こういうディールをやるんだろうなあ、と思いました。

TrinityNYC said...

riotさん、こんにちわ、コメントありがとうございます。U.A.W.ならほんと何やりだすかわからないですよね。でも、いまや彼らも最大株主のひとつ、延々スト繰り返して会社の業績に響くようなことになったら、自分で自分のクビ締めることにもなりますよね。彼らは彼らで、「労組でありながら株主」という本来相容れない立場におかれることで、新たなジレンマを迎えると思います。オバマ自身は頭脳明晰で現在おこっていることの意味は本人はハッキリ理解しているのだとわたしは思っていますけれど、やはり政治家としての顔は崩せない、ということなのでしょうかしら。

わたしが一番ウンザリしているのは、共和党の連中に引けをとらない民主党連中のポピュリストぶり。民主党の議員の多くは金融経済音痴で、あたま悪すぎ。(日本の同名の政党もそうだと思いますけれど。笑)現在、議会で行われている経済問題を話し合う公聴会などで聞かれる質疑応答のほとんどが、単なる【政治的パフォーマンス】で、レベルの低い質問ばかりで時間をつぶしているということにウンザリ。あの議員連中の給料も、わたしが納めた税金から出てるのかと思うと、ここでまた怒りが・・・(笑)。

今回、労組と政府が交わしたコントラクトは2年後に見直しだそうです。2年後は、また大統領選の動きが始まってる時期なので、GM問題は2年後にふたたび「政治問題」として浮上しますよね。そのとき、GMがどんな財務状況におかれているのか、再建がどれほどはかどっているのか、見ものですね。