Wednesday, May 13, 2009

春一番は増資の嵐

春一番の突風のように、【増資の嵐】が米市場を襲ってきた。

発行体は金融機関だけじゃない、他の事業会社も申し合わせたように一斉にエクイティ発行で、5月だけですでに発行額が300億ドル(約3兆円)超えた、ってんだから。

真性マゾと化した米株市場が「もっと、もっと増資してーー!」と叫び悶えている、とは先週5月6日のMHJ記事に書いた。

しかし、いくらマゾでも、「自分の生命に関わるかも」という気配に気づいたら、さすがに「正気」に戻るもんであるな。

週明けの月曜(5月11日)はストレステストを終えた金融機関たちが一斉に増資の発表をし、米株市場は金融株の下げ主導でインデックスを下げた。

月曜日に出てきた発表だけでも、

   * BB&T 15億ドル普通株増資 (このニュースで月曜日の同社株価3.5%ダウン)
   * US Bancorp 25億ドル増資 (同じく4.9%ダウン)
   * Capital One 株数で560万株増資 (8.9%ダウン)
   * Key Corp  7億5千万ドル増資 (4.7%ダウン)
   * Principal Financial  株数で4225万株増資 (10.3%ダウン)
   * Berkshire Hills Bancorp 3千万ドル増資 (3.6%ダウン)

規制当局の検査を受けて「資本金足りない」と指摘されたら増資しなくちゃいけない、というその当たり前のことに、月曜まで気づかなかったのであろうか。

そして、昨日も、いまこれを書いている水曜の午前も、冴えない展開・・・。ショートスクイーズも一巡したみたいだし。

米市場では、今年3月の新株オファリングは約100億ドル、4月になると200億ドルに増え、5月はまだ半分経ってないのに既に300億ドル超。もしも、バンカメが150億ドルのオファーを今月やると、450億ドルになるかも、ですって。

先週からの新株発行のすさまじさを見たい方は、こちらのリストを参照ください。

   ★   ★   ★

言っておくが、これは【株式】だけの話。

これの他に【債券】も、リファイナンス分も含めて、新規発行が続々来るらしい。

先日はマイクロソフト社が初の普通社債を発行するというニュースが伝わり注目を集めた。マイクロソフトが普通社債発行するのは初めて。

この件に関し読売新聞の記事には、こうあった。

 Microsoftの取締役会は2008年9月、同社が最大60億ドルの債券を発行することを承認した。Microsoftは既に、コマーシャルペーパーとして知られる短期借入金を20億ドル分発行している。これを考慮すると、Microsoftはこの新しい債券発行計画の一環として、40億ドル分を発行する公算が大きい。この計画では、債券は3回に分けて発行されることになっており、満期日はそれぞれ異なる。

 債券発行で得られる資金の使い道について、Microsoftは「企業活動に関連する一般目的」に使用するという、画一的な発言をするにとどめ、具体的なことは何も述べなかった。Microsoftによると、一般目的には運転資金や設備投資、同社株式の買い戻し、買収などに必要な財源が含まれる可能性があるという。


ふむ・・・どこもバランスシートの見直しで、大変であるな・・・。

新株発行も旺盛、新発の債券発行も旺盛、となると、市中の資金はそちらに一部吸い取られるね。

企業の資金繰り、で思い出したが、つい先日、米コマーシャルペーパー(CP)市場が引き続き、ひでーことになっている、という記事をFTで見かけた。

上述の読売の記事でも出てきた、マイクロソフトがコマーシャルペーパーで20億ドル調達して短期運転資金を手当て、という、その「コマーシャルペーパー」である。

米国CP市場は、優良企業が30日とかの短期資金が必要になったときに、市場の流動性が高く安価に調達できるとして、従来から、極めて重要なマーケットとして認識されてきた。(日本のCP市場とは、意味合いも違うし、市場規模もぜんぜん違う。)

一般的なCP(キャッシュCP)だけのころは、トリプルA格とかダブルA格とかの高格付けを保持している発行体しか参加できないマーケットだったんだけど、証券化手法が使われるようになってからは、本体の信用力は低い企業でも、証券化することでCP市場でも短期資金を調達することが可能になった。(←Asset Backed Commercial Paper、略して ABCP というヤツです。)

しかし、2007年の中ごろから、このCP市場で、気味悪い動きが立て続けに起こるようになり、これまでスムーズに短期資金を調達できていた企業達も、CP市場でなかなか貸してもらえなくなってきた。

マイクロソフトはトリプルA格の超優良企業だから、20億ドルぐらいの短期資金はアッというまに出てくるだろうが、そうじゃない企業になると、短期の資金繰りがヤバくなってくるところが続出。すなわち「バランスシートの流動性低下」ってやつである。

そのいい例として、つい先日までトリプルAだったGEの子会社GEキャピタル(GECC)なんて、金融不安のせいで調達スプレッドにものすごいプレミアムがつけられて、事実上、資金市場から締め出しにあっていた、というのは3月4日のMHJ記事『オバマによると株は買い時』の後半でも言及した。

GEという会社は米CP市場では最大規模の発行体なのだが、そのGEですらも、資金繰り不安がささやかれるような、そんなギクシャクした状況だったんだよな。

FRB連銀は米CP市場の動きを毎日サイトでアップデートしてくれている。

FRBのCP市場データはここです:
http://www.federalreserve.gov/releases/cp/


久しぶりにこのサイトを覗いてみたが、やっぱり、相変わらずひでぇ状況だな・・・。

今朝、ガイトナー財務長官がコミュニティバンクの集会で「リーマンショック後と比べると資金市場はずっとスムーズになってきた」と述べてるスピーチをライブで聴いたけど、そりゃー確かにショック“直後”と比べるとマシにはなりましたけどさ、CP市場の機能麻痺が続いてることは、連銀サイトを見れば一目瞭然。

とりわけABCPは、悲惨である。心拍数がさらに弱くなってる雰囲気・・・。

かつて日本の不動産価格のグラフを見て富士山を連想したひとが多くいたように、米ABCP市場の発行総額のグラフをみて、マッターホルンを思い出したイギリス人もいたらしい・・・(涙)。

ABCPのマッターホルンFT Alphavilleより)


短期資金市場がここまでヘロヘロなことになってるあいだも、会社さんたちは運転資金はどこも必要ですからね。企業は、多少コスト高くついても、別の形で資金繰りの手当てしてやるっきゃない。(これまで起債する必要のなかったマイクロソフトが普通社債市場に出てくるように、ね。)だから起債は続く。

そして、証券化市場が活気を取り戻してくれないと、企業のバランスシートはどうしてもデカクなっちゃう、というもうひとつの負の効果がある。

バランスシートがでかくなると、自己資本がその分余計にかかるから、キャピタル足りない会社(←銀行とか)は今回みたいに増資しなくちゃいけないんで、普通株も発行株式数はもっともっと増えるかも。たとえ増資が必要ない会社でも、「普通株のバイバックで一株あたりの価値上げよう」なんつー話は夢の夢。

そうやって、市場には、株でも、債券でも、供給圧力が生まれ、証券プライスに下方にのしかかるんである・・・。

(資金需給の動向について興味があるので、最近いいリサーチや読み物が出ていれば、ぜひ筆者に紹介してください。)


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