数日前の英フィナンシャルタイムズが、「2008年の金融界は、AAA(トリプルA格付け)からZIRP(Zero Interest Rate Policy=ゼロ金利政策)まで」と言っていた。洒落たことを言うな。
まさにその通り、2008年は、CDSやCDOといったアルファベットが「お茶の間用語」と化す異様な年でもあった。
ザッと思いつくだけでも、
- CDS (Credit Default Swap)
- CDO (Collateralized Debt Obligation)
- CDO2(CDO-squared)
- CLO (Collateralized Loan Obligaton)
- CMO (Collateralized Mortgage Obligation)
- ABS (Asset Backed Securities)
- MBS (Mortgage Backed Securities)
- ABCP (Asset Backed CP)
- HEL (Home Equity Loan)
- HELOC (Home Equity Line of Credit)
- SIV (Structured Investment Vehicle)
・・・挙げていったらキリがない。
しかし、これらアルファベットはどれも、3年前なら、クレジット市場や金利市場のプロの関係者しか口にしなかった専門用語ばかり。長年金融業界に住んでても株式市場にしか関っていない者ならば、CDSなんてのは、知ろうが知るまいがどうでもよかった。
それが、この1~2年ばかりの間に、こうしたアルファベット用語がニュースフィードに怒涛のように溢れ返り、クレジット市場関係者のみならず、株式市場関係者、果ては、一般の人たちの耳にまで頻繁に届くようになった。
振り返ると、あれは、2007年の初めごろだったんじゃなかろうか。当時勤めていた会社の米国株トレーダーから、「ABXに含まれてる銘柄の一覧みたいんだけど、持ってる?」と聞かれた。
ABX とは、クレジット・デリバティブスのインデックスの一種で、証券化された住宅ローンのトランシェに対して取引されるCDSを、Super-AAAからBBB-の格付けごとにインデックス化したものだ。Markitという会社がインデックスを作成し、半年ごとに銘柄修正して発表される。
クレジットのトレーダーならいざしらず、株式のトレーダーからそんな質問をされた自分は、一瞬、面食らったのを覚えている。わたし自身、長年クレジットの世界の住人だったわけだが、その私でも、ABXなんていうストラクチャード指標を日常的に見張ってるなんてことはなかった。それだけ専門性が高く狭い市場を扱う「特殊な指標」だったからだ。
でも、2007年初頭に、クレジットの取引に直接関わらない株式のトレーダー達が、仕事帰りにウォール街近くのバーで、ABXやCDXなどというクレジット・デリバティブスのインデックスを肴にビール飲んでた、ということ自体、いま振り返れば、2008年の金融市場の崩壊とそれに続く大津波の【予兆】のひとつだった、ともいえるな。
で、その2008年の年末、例のABXは、一体どうなってるのか、ひさしぶりにチェックしてみた。
(ABX.HE-2007シリーズ2:上からそれぞれAAA、AA、BBBトランシェ)
AAAトランシェ:額面100に対しバリューは40以下。
ホームエクイティローン証券化商品のAAA部分は、売買すると額面に対し60%以上の損失が発生する、という意味。
次のAAトランシェになると、損失幅は一気に拡大して94%。
さらに高リスクのBBBトランシェになると、95%近くのバリューロス。
要するに、これが、マスコミなどが、Toxic Assets(腐りきった資産) と呼んでる "あれ" の一部ですよ。
ポールソン財務長官が7000億ドルも政府に用意させてT.A.R.P.(=Troubled Assets Relief Program)を立ち上げ、金融機関のバランスシートから買い取ろうとした、あの「問題資産(Troubled Assets)」の一部であります。
リーマン破綻の9月半ば以降、政府が公的資金を使って救済するよと言ってるのに、それでも、10月11月と、証券価値は急激下落し続けた。
上の3つのチャートを見ると、AA と BBB クラスのプライス間にほとんど差がないことから、これらインデックスのベースになってるホームエクイティローンの証券化証券の場合、トリプルAの格付け「以外」の証券の取引は実質不可能であり、マーケットに流動性がまったく存在していないことを意味する。(ま、住宅ローンのデフォルト率が連日のように悪化してるんだから、こういう数値になるのは当たり前だけど。)
いちばん「安全なはず」のAAAクラスでも、損失は6割以上。これらをキレイさっぱり手放すには、金融機関自身に巨額の損失を吸収できるだけの相当の資本の厚みがないと、売却はできない。資本金がないのに無理に売却したらみずから【破綻】するだけだもん。
他の証券化商品の取引現場でも、このインデックスが示唆するような状態と大差はなかったんだろうなぁ。米国政府が当初の「資産買取」から慌てて「資本注入」に急遽作戦変更したのも無理はない。
企業債のCDSの水準も、どないなもんか、CDXインデックスをついでにチェックしてみた。
北米のインベストメントグレード(5年もの)のCDSは、08年12月17日付けで、スプレッドは196、ハイイールドになると1141をつけていた。
CDSに1000以上のスプレッドがついてるようじゃ、どっぷりジャンクになったゼネラルモーターズが白旗あげて政府に泣きつくしか手がなかったわけだよ。
CDS、CDX、ABX、CDO、HEL・・・・
三つ文字アルファベットに翻弄された2008年も、残すところ、あと一日。
市場は「SOS」信号を出したまま、2009年に突入する。
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