http://www.msnbc.msn.com/id/28096219/
この番組収録中にオバマはSecretary of Veteran Administration にハワイ生まれの日系人のエリック・シンセキ氏を起用することを公言し、話題になっている。
米国政府の閣僚メンバーにアジア人が選ばれるのは初めてだそう。
1942年ハワイ生まれ。 ハワイといえばパールハーバー、そのハワイで日本に対する敵意が最高潮のころに、彼は日本人の両親のもとにアメリカ人として生まれたんですね。
シンセキ氏の名前を聞いてすぐにはピンと来なかったけど、イラク戦争が始まるときに、あの戦争の仕掛け人ラムズフェルド国防長官(当時)にたてついて、徹底的に苛め抜かれたあげくにクビにされた軍人と聞いて、「ああ、あのひとか!」と思い出した。
イラク戦争開始前のストラテジー構築の段階で、ラムズフェルドとチェニーを筆頭としたネオコン派と、軍の最高指令官たちの間で意見の対立が激しさを増していたが、その軋轢を公の目にさらしたのが、シンセキ氏だった。
戦争が終了してからのイラクの国家再建にはどれぐらいの兵士を送り込む必要があるかという点について、ラムズフェルドは15万人と公表していたが、陸軍最高司令官のひとりだったシンセキ氏は議会の公聴会で「50~60万人(several hundred thousands)の兵士は必要になるだろう」と述べてラミーの逆鱗に触れた。
その問題の発言は、ここ。(イラク戦争についてのPBSのドキュメンタリーから。08:00ぐらいからシンセキ氏の公聴会のシーン。)
http://www.youtube.com/watch?v=h_yaFyErTaM&eurl=http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1017054305&owner_id=2556070
2003年2月の公聴会でのこの問題発言。3月にはイラク開戦。その後ラミーは、シンセキ氏をいじめるにいいだけ苛めまくり、シンセキ氏は同年6月に退官に追い込まれた。
そのお別れスピーチでのシンセキ氏の言葉は印象深い。彼は米陸軍のChief of Staffとして若い士官達の訓練や教育の面倒を見てきたひとだが、自分のあとに残る者達に残した言葉は、自分自身にとって上司にあたるラムズフェルドやブッシュとの困難な関係をそのまま反映していたようにも聞こえる。
"You must love those you lead before you can be an effective leader. You can certainly command without that sense of commitment, but you cannot lead without it. And without leadership, command is a hollow experience, a vacuum often filled with mistrust and arrogance."
「有能なリーダーになれるかどうかの前に、諸君は自分が指揮する部下たちを愛さなければいけない。命令を下すだけならコミットメント無しでもできるだろうが、リーダーとして指揮を取るにはコミットメント無しには不可能だ。そして、命令だけでリーダーシップが伴わないとき、それは空虚な経験となり、その空っぽの部分には不信と傲慢が充満することになる。」
ここ数年、合衆国がおかれてた状況ってのは、まさにこれ。
リーダーシップの欠如、そして、国全体が自信喪失と不信で覆われていた。
今日放映された『Meet The Press』で、オバマがシンセキ氏起用をパールハーバー攻撃の起こった12月7日に正式発表する、と述べた部分のビデオは、ここ。
http://www.youtube.com/watch?v=vXiAAeSTAhk&eurl=http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1017054305&owner_id=2556070
このビデオのいちばん最後で、インタビュアーのトム・ブロコウが「彼にはブッシュ政権に不利な発言をして職を追われた経歴がありますよね」と言うと、オバマは間髪いれずに「He was right.(シンセキ氏が正しかったのだ。)」と言った。
この短いセンテンスを発した際の絶妙なトーンとタイミングで、何故シンセキ氏が彼の政権のこのポジションに最適な人物かを強調し、直属の部下になる者へのリスペクトと信頼関係をオバマは視聴者に印象付けた。
こういう直属上司を持ってるひとが、世にどれほどいるだろうか・・・。
オバマの静かな、しかし、芯のあるリーダーシップに期待しようと思わせるインタビューだった。
どっちを向いても希望を持つのが難しい、そんな毎日だからこそ、なおさら。
ちなみに、ハーバード大学のケネディ・スクールに招かれたシンセキ氏のインタビューと講演のビデオを見つけた。
この中で、シンセキ氏は興味深いことをいくつか述べている。エンジニア関係の学位を持った者が多い軍隊で彼はデューク大学の大学院で英文学を専攻した変わり者だが軍隊で適切なコミュニケーションを取るのに国語力が非常に役立ったということ、また、戦闘経験の少ない自分が士官として配属された部隊では自分は正直お荷物になるところだったが直属の部下の的確な判断と協力で難関を乗り切ることができた経験から、強力な部隊というのはリーダーだけいてもダメで部下との強い信頼と協力関係を築く必要がある、この部下から多くのことを学ばせてもらった、彼のことは今でも自分にとってヒーローだと思っている、など。
このインタビューでも、前述のお別れスピーチで述べた言葉と同じ、「リーダーとして指揮を取る(to lead)」のと「命令を下す(to command)」のとでは違う、と述べています。
USミリタリー陸軍で38年の経験を積んだ高等指揮官シンセキ氏のリーダーシップ論は、政界で公職につくもののみならず、企業の経営者にとっても示唆するものが多いレクチャーと思いました。
ケネディ・スクールは政治学とパブリックサービスを専門とする名門大学院。この講演は『公職につく者のリーダーシップ』をテーマに各界からさまざまなゲストを招き討論するという趣向の催しのようです。講師・司会者は同校のパブリック・リーダーシップ・センターのディレクターでCNNのシニア・ポリティカル・アナリストでもあるDavid Gergen。
米国の大学院ではこの手のレクチャーを実に頻繁に開きます。ハーバードの教室に座ってる気持ちになりたい方はどうぞ。(ただし3時間だよ。笑)
レクチャー第一部(52分):
http://www.youtube.com/watch?v=ORbN0FNCYFU
レクチャー第二部(50分):
http://www.youtube.com/watch?v=NYt5SowreCY
インタビュー(57分):
http://www.youtube.com/watch?v=4ZLeaVJLxP8
戦後、日本の自衛隊や防衛大学が、何故日本が敗戦に至ったかの背景をミリタリーの見地から冷静に分析した『失敗の本質』という名著があります。
そこには、リーダーシップの欠如、軍部の信頼関係の崩壊などが指摘されており、シンセキ氏の言葉を読んでこの本のことを思い出しました。
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