米国も、ついにゼロ金利の時代に突入した。
15日のFOMCを前に、市場では「連銀はFed Fundレートを1%から50bps(ベーシスポイント)下げて0.5%にする」という見方が大方を占めてたが、今日の発表は、少なくとも75bps切り下げて、ターゲット0%~25bpsにする、というもの。(右グラフ)
米国のFFレート誘導ターゲットとしては、史上最低水準です。
これ以上の経済の悪化を招いてなるものかという、連銀の「強い意志」を市場に見せつけるには充分であったな。
この動きを好感して、今日のNYダウは359ポイント、前日比4.2%上昇して9000ラインに近づいた。
金融株がとりわけ好調で、四半期決算のあったゴールドマンサックス(GS)は21億ドル(2千億円)近くの期間損失出したにもかかわらず「思ったほどひどくなかった」という理由で15%近く上昇。モルガンスタンレー(MS)なんて、一時的に20%も上昇してたもんなー。
でも、ファンダメンタル的には、何ひとつ良くなってるわけじゃないんだから、FFレートの下げ幅が50bpsじゃなくて75bpsだったとサプライズでぬか喜びしてても、株価への効果はどうせ長続きはしない。
それに、FFレートはゼロより低くできないんだから、これ以上金利を下げようにも、もう限界。
ここで、12月1日にポストした記事で紹介した、バーナンキ連銀議長の言葉を思い出して欲しい。
"Although conventional interest rate policy is constrained by the fact
thatnominal interest rates cannot fall below zero, the second arrow in the
FederalReserve's quiver -- the provision of liquidity -- remains effective,"
(通常の金利政策は名目金利がゼロより低くなることはないという事実に制約されるが、流動性の確保という連銀のもうひとつの政策手段は有効に使っていきたい。)
そう、彼が2週間前に発した言葉どおり、米金融政策の次の一手は【量的緩和】(Quantitative Easing)に着手する模様。
量的緩和ってのは要するに、連銀が「おカネの印刷屋さん」になって、経済に出回るおカネの量を増やしてやる、って意味であります。
おカネを刷って刷って刷りまくれ! Print, Baby, Print!
実は、連銀議長ベン・バーナンキには、「ヘリコプター・ベン(Helicopter Ben)」というあだ名がある。
2002年、彼がまだ連銀議長になる前に、ある講演で、「デフレーションの芽が吹いてきたらヘリコプターからカネをばら撒いて(政府が意図的にインフレを誘発し)デフレに対抗するという手がある」と発言したことから、そういうあだ名がついた。
バーナンキが「ヘリコプター・ベン」のニックネームをもらった2002年といえば、当時の日本はまだ金融危機とデフレ対応の真っ最中。
当時は、日銀がコール市場で大量に資金を放出したりして、短期金利をゼロに誘導してた。
この金融緩和政策は1999年に始まったけど、2001年に、こころもち、経済成長が上向いてきたような【雰囲気】が出てくるや、政府当局の気が緩んじゃって、「もう大丈夫よね~」とゼロ金利政策を解除した。ところが、解除するやいなや、すぐに景気は後戻りを始めてしまった。
で、あわてて再びゼロ金利政策に戻して金利低下を押しまくってみたんだが、景気は一向によくなってくれない。それどころか、日本経済は、ずぶずぶとデフレの深みに・・・。
そこで日銀は、量的緩和でインフレ誘発測ろうとしたけど、経済のほうは、日銀の思惑に全然応えてくれなくて、日本のゼロ金利政策は2006年まで続けられたんである。
銀行システムを通じてどんどん資金は放出されたが、日本のクレジット市場が息を吹き返したかといえば、全然そんなことはなかったな。
銀行システム全体の貸出金の残高は一向に伸びてくれず、むしろ、企業はバランスシート調整に入り、資金需要自体が減少。
日銀からドンドコ出されてきた金は、どこにいったかといえば、銀行さんたちが日本国債をどんどん買って、国の国債発行残高だけが増えてゆくという、悲しい結果に・・・。
いくらお上が、「クレジット拡大しろ、もっと融資しろ」とか掛け声だけかけたって、資金需要そのものがないんだからさ。そんな状況では、銀行だって、株式バカスカ買うわけにもいかないんだし、国債でも買うしかないよな。
そうやって国債ばっか買ってるうちに、銀行は、今度は融資のクレジットリスクから、債券保有による金利リスクを大量にバランスシートに抱え込むことになった。
そして、何をやっても株価低迷が続いた日本で、りそな救済を境にして、突然堰を切ったように市場資金が債券市場から株式市場に流れ込んだために、債券市場の需給が急変、金利リスクが突如噴出して、銀行さんたち、またまたバランスシートが痛んで貸し出しできなくなっちゃった・・・。
・・・と、まぁ、日本もかつては、なんとか景気を元に戻そうとして、「ゼロ金利政策」→「量的緩和」というルートをたどったわけであるが、要するに、日本の当時の金融政策は失敗したんである。
今回、米国連銀は、日本がかつて辿ったのとまったく同じ道を歩もうとしているようだが、果たして、バーナンキの
「ヘリコプターから刷り上ったばっかのカネをばら撒いてインフレ誘発する」
というプランがうまくいくであろうか。お祈りしましょう。
ところで、この「ヘリコプター・ベン」だけど、日本の金融関係者なら多くが覚えているエピソードがある。
日本のデフレ基調がとどまるところを知らず崩れてゆくのを見たバーナンキは、
「日銀はトマトケチャップでもなんでも高値で買って、デフレを抑えたらどうなんだ」
と発言したんだ。
このケチャップ発言、アメリカの関係者にはあまり知られていないんだけど、当時の日本の関係者は、「ケチャップを日銀で売れなんて、他人事だと思いやがって・・・」と眉をひそめてたんだよね。
ところが、そのバーナンキ、よりにもよって自分が連銀議長をまかされたとたん、【他人事】どころじゃなくなってきた。
今日のニュースによると、ガソリン価格とコモディティ価格の大幅な下落に引きずられ、アメリカの消費者物価は11月に1.7%も落ちた。エネルギーと食糧を除いたコア消費者物価は横ばいだけど、0%だから、来月はどうなるか、わかったもんじゃない。一ヶ月で1.7%も落ちるなんてのは、1947年に労働省がインフレのデータ取り始めて以来最悪、というではないか。
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=newsarchive&sid=a73N6LrkY5zo
今年のクリスマス商戦は、アメリカ全体で消費意欲の冷え込みで「惨敗」の色が濃くなって、小売店はどこも大出血サービスやって客寄せしてるから、下手すると、もっと下がるんじゃないのか。
デフレの足音は、すぐそこに・・・。
かつて、いつまでたってもデフレから抜け出せない日本の金融政策へなちょこぶりを小馬鹿にしていたバーナンキ。
ヘリコプターでカネばらまくだけではなくて、FRB連銀のディスカウントウィンドウでケチャップ買うようになる日も近いような気が・・・。
いや、ケチャップじゃなくて、金融機関のバランスシートにしこっちゃってる不良資産を市場価格より「高値」で連銀が買い取る、とかになるかも・・・。(笑)
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