Saturday, December 6, 2008

GMトップ、自社製の高燃費車でキャピトル入り

金曜日の米議会では、ビッグ3向け救済案が認められるかどうかをめぐり大詰めを迎えた。

先月の議会出席のとき、ビッグ3のお偉い3人が、それぞれプライベートジェットを一機づつチャーターしてワシントン入りしたことが議会のみならず米国中のヒンシュクを買い、「カネ恵んでほしいなら、もっと謙虚になれ、謙虚に!」という非難が轟々と渦巻いた。

その【反省】もあってか、今回、GMのトップは、デトロイトから自社製の高燃費車を運転して来たそうだ。ChevyのMalibu、4ドアセダン、ですって。燃費いいのか?
http://www.cbsnews.com/stories/2008/12/02/ap/business/main4642482.shtml

デトロイトからワシントンDCまでとなると、東京から大阪にちょっと車で出張、という距離じゃないよ。

いったいどれくらいの時間がかかるのか、早速、グーグルマップで調べてみた。

距離にして524マイル、運転時間8時間49分。

プライベートジェットから、4ドアセダンへ・・・それにしても、極端なひとたちである・・・。誰も飛行機に乗るな、と言ったわけではない。エコノミークラスのチケット買えば、1時間半で着いたのに。

そこで、元アナリストの血が騒ぎ、さっそくコスト対比をしてみることにした。

ディスカウントチケットのTravelocityによると、デトロイトからワシントンまでのいちばん安いチケットは往復$170程度。

Chevy Malibu のハイブリッド車のMPGは 34 Mile /Galon。(へー、この燃費なら、Toyota並みじゃん!)両地点往復1048マイルにかかるガソリンは31ガロン。ガソリンがいまガロンあたり$2ぐらいまで下がっているから、なんと、Chevy Malibu Hybrid 2009に乗れば、$70もあれば往復できるということが判明した。9時間運転する体力さえ厭わなければ、コスト効率は最高である。

(これで、ビッグ3のエグゼクティブが3人で一台の車に相乗りしてきたら、ひとりあたり20ドルちょっと、というコストである。ただし、それやると、3社のうちどの会社のどの車に乗るかでもめて、いつまでたってもデトロイトを出発できそうもないので、このシナリオはボツ。)

それにしても、わたしもヒマだな。




さて、ここからが本題。

ビッグ3の公聴会では、米議会の焦点はもっぱら、失業、失業、失業。

昨日のニュースでは、米国のペイロール(就業者数)の減少が50万人を超え、過去30年で最悪、という真っ暗闇の数字が出されていたし、失業率は先月より0.2%上昇して6.7%になっちゃった。政治家の頭の中は【失業】の二文字で一杯になってるのは当たり前。
http://www.ft.com/cms/s/0/d7c916cc-c2cf-11dd-a5ae-000077b07658.html?nclick_check=1


公聴会をしばらく聞いたが、どの議員だったか忘れたが「いまここで国がビッグ3を助けてあげないと、あなたの会社の社員は失業する、つまり、そのひとは住宅ローンが払えなくなる、つまり、もっとアメリカの住宅価格はもっと下がる、そういう意味合いもありますね?」などという幼稚園児みたいな質問をぶつけてる民主党議員もいたが、概して民主党サイドは「失業対策」を御旗に掲げ、Chapter 11は何がなんでも選択せずに、ビッグ3向けにブリッジローンを出すという方向に持っていきたいみたいである。


対する共和党側には、市場規律の最後の砦はゆずれない、と考えている議員も少なくなく、テネシー州の共和党議員Bob Corkerなどは「(クライスラー社の大株主である)プライベートエクイティのサーヴェラス社がやらないのに、何故、政府がキャッシュを入れてやる必要があるのか」という、この問題の核心に触れる質問をぶつけた。Corkerはまた、労組UAWのトップに対し、ビッグ3の財務の重しになっている組合向け健康保険のObligationsを何故エクイティにスワップしないのか、とたずね、労働組合側に努力の姿勢が足りないと暗に非難した。(Corker氏、素晴らしい質問ばかり!)
http://www.breakingviews.com/2008/12/04/Cars.aspx?sg=breakingstories


ビッグ3の中で長期的に生き残る確率がいちばん低いと見られているクライスラー社が、倒産(Chapter 11)を前提にした処理にとりかかるため既にアドバイザーを雇った、というステートメントも市場の取引中に出され、話題になった。
http://voices.washingtonpost.com/economy-watch/2008/12/chrysler_hires_bankruptcy_expe.html?hpid=topnews


こうして、ビッグ3のトップ達、さんざん議会でいじめられたが、結局、議会は最終的に$17Billion~$19Billionのブリッジローンを提供することで合意しそう、と昨日フィナンシャルタイムズが報じた。
http://www.ft.com/cms/s/0/cd01e9b8-c350-11dd-a5ae-000077b07658.html


9時間も車を運転してきた労をねぎらったわけでもあるまいが、失業率がドツボにはまっているタイミングで米国最大の製造業を見殺しにするわけにはいかんという政治的配慮が、Corker氏が提言した市場規律より優先される、というのは予想どおりの展開だ。

とはいえ、いまここでビッグ3を倒産させたら、倒産コストはものすごく高くつく。1年後、2年後に結局倒産するにしても、最終的に経済全体にのしかかる負担を考えたら、いま時間稼ぎしてやって、コストが低くなるタイミングで倒産させたほうがマシ、という考え方は一理あるからね。




しかし、ここでふと考えた。

米国の大手金融機関はどこも最近、例の7000億ドルの救済パッケージ(T.A.R.P.)から$25Billionぐらいづつ、多額の資本注入を受けている。

ジャーナリストも含め、よく世間一般では誤解されてるんだが、$25Billionの資本金は、そのまま横流しされて、$25Billionの貸出金になるわけではない。

金融機関にとっての資本金というのは、レバレッジをかけるための「種(たね)」なんである。種だから、発芽して大きくなるんである。

たとえば、「$1」の資本金があれば、だいたいその「25倍」の貸出金を創造することができる。

ビッグ3が政府に「カネ貸して」と泣きついた額は、わずか$34Billion。$34Billion の融資をするには、その額の25分の1、$1.4Billionの資本金さえあれば、できるんです。

ところが銀行側のほうは、政府から2千億ドルできかない資本金を注入してもらいながら、そのうちわずか14億ドルをビッグ3向けとして、よけておいてあげることができない、ってんだからなぁ。

それは、ビッグ3向け融資の倒産リスクがべらぼうに高い、って意味だし、そのリスク見合った金利を払えるだけのカネがビッグ3側に残ってない、って意味だし、企業に流動性を提供する側にいるはずの銀行自身が流動性の問題を抱えてる、という意味でもある。

クレジット市場の問題は、まさに『複合汚染』の様相である。

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