Monday, November 30, 2009

ソブリンCDSについて

前回の続き。

ドバイワールドの件は、債務リストラに入るとのことで、債権者との話し合いが始まったようである。

昨夜寝る前にツイッターでも書いたが、UAE(アラブ首長国連邦)の中央銀行がサポートすると言っているのは、UAEで実務を営んでいる銀行(外銀の支店含む)の流動性であって、ドバイワールドやその子会社のNakheelが発行体となっている債務・債券ではない。そもそも、「銀行」でもない不動産のデベロッパーに対して中央銀行が直接保証を出せるわけないからな。

ドバイワールド発行の現物債券には、相当ディスカウントかかってるようだが、今日は買い手が現れず、売買は不可能だったとトレーダーが言ってた。(そろそろ年末ですし、どのファンドマネジャーも、ドバイワールドの名前なんて自分のポートフォリオに持ち越したくないよね。)

融資をしている銀行団の側からしても、できるだけ早くドバイワールドがらみの融資は回収したいはず。

一般に(あくまで一般に、ですが)、これだけ大規模な不動産開発をする場合は、たとえそのプロジェクトが問題がなくても、銀行団は自分達のバランスシートにプレインバニラ※の融資がドカーンと乗っかるままにしておくのを嫌うものなんですよね。

(※Plain Vanilla=“単純な、飾り気のない”を意味するスラングで、plain vanilla loansというと普通の貸付金のこと。)

なぜなら、(1)オンバランスの融資には規制で高いキャピタルチャージがかかり引当金の積立義務が生じるし、(2)商業用不動産は個人向けモルゲージ融資と異なり一本一本の金額が大きくて、(3)それ故にコンセントレーション(Concentration=集中)リスクが表面化しやすく、(4)それがオンバランスになってる間は資金の方もオンバランスで集めてきて割り当ててあげなくちゃいけない、ということで、金融機関のバランスシートをマネージするという観点からすると、できるだけオフバラ化して資金源を預金ベースの外に求めたくなる、そういう性質の融資なんである。(プロジェクトのサイズがでかくなればなるほど、なおさら、その傾向は高まる。)

数日前の報道では、HSBCとRBSを筆頭に英国の銀行がドバイワールドに対して5兆円規模のエクスポージャがあるとか言っていた。

これ聞いて、筆者は思わず「げっ!」と思ってたんだが、今日になったら「ドバイワールドに数百億ドル。でも、この程度のエクスポージャは、HSBC全体のバランスシートの大きさからしたら小さな数字だし、たいしたことない」と言ったTVのコメンテーターがいて、これにも「げっ!」と来た。

このコメントは完全に馬鹿げている。

そりゃーHSBCはバランスシートのサイズはでかいかもしれないよ。HSBCグループの連結総資産2.5兆ドル。三菱フィナンシャルグループの総資産190兆円より、まだデカイ。

でも、だからと言って、あるひとつの融資先に数兆円の融資を集中させるなど、その銀行の連結総資産がデカかろうがなんだろうが、これは「たいしたことない話」などではない。バンカーなら、5000億円ですら、「ん?ちょっとデカイな・・・」と誰だって一瞬感じるもんだよ。それが、今回は、数兆円規模なんですからね。

この金額を聞いただけで、HSBCが「ドバイワールド」というエンティティを「企業リスク」ではなくて「ソブリンリスク」とみなしていた、という証拠をつかむようなもんである。

HSBCのリスクマネージメントにおいては、彼らは政府からの【暗黙の保証】に思いっきり依存してた、だからこそ、こんな金額のエクスポージャになるんである。一般企業向けの融資だったら、こんな額のコンセントレーションリスクは、普通は怖くて取れませんっつの。

それが、フタあけてみたら、ドバイの政府高官から、「政府は保証した覚えありませーん」とか言われて、HSBCは絶句したろうな。でも、暗黙のサポートがあるはずだと見込んでドンドコ貸すのはHSBCの勝手なんだから、言い返す言葉も見つからず。

ま、いずれにせよ、UAEの中央銀行から昨日出されたプレスリリースによると、「UAEの銀行システムは、リテール銀行のみで構成されており、世界で最も優れたシステム」だそうである。

これはこれで、「世界で最良の安定的な銀行システムが、なにゆえ大規模バンクランの心配するんだよ」と思わず小声で突っ込みたくなるものの、そこは抑えて、今後この問題がどう収斂してゆくのか、当面、注目を続けたい。

★   ★   ★

さて、前回のMHJエントリーで紹介したソブリン債のCDSについて、Bespokeのサイトが世界のソブリン債のCDSプレミアム水準について、見やすい一覧表を作ってくれていたので、紹介したい。(以下、ふたつの画像はともに、Bespoke Investment Groupのサイト より拝借。)

まず、問題のドバイ。ドバイのCDSがクライシス報道の前後にビョーンと跳ね上がったということは前回のMHJで、WSJの記事を出して紹介した。下のグラフは、2008年暮れからのドバイCDSの「一年間の推移」を示したグラフだ。





ドバイの熱狂不動産開発バブルがピークを迎え、ドバイの資金繰り問題はかなり前から表面化しており、このマーケットに詳しいものなら今年の初めにもドバイがアブダビに支援を仰いでいたことはよく知られた話だったようだ。(筆者は知らなかったけど。)

このグラフでは、たしかに今回のショックでCDSは670台まで跳ね上がったものの、今年の初めには、ドバイCDSは1000bpsに近づいたときもあり、それと比べると、今回跳ね上がったといっても「たいしたことない」、つまりは、そういうことを言いたいグラフ、である。

Bespokeはさらに、世界39カ国のCDSのレベルを、現在、09年の初頭、08年初頭、と、それぞれ並べて示してくれた。(グラフをクリックすると拡大します。)



こちらは、左から、(A)最近のCDS取引水準、(B)08年12月31日の段階、(B)から(A)までの増減%、そして、08年はじめ、である。増減率のコラムに注目すると、各国のソブリンCDSは、金融危機が深刻さを増していた昨年末と比較すると、目立って低下しており、デフォルトリスクのパーセプションはグローバルで和らいだというのがわかる。今年はじめに金融市場を覆っていた危機感と、今回のドバイショックとでは、同じ危機感といえども、インパクトが全然違う。

ガイトナー財務長官などは、議会のヒアリングに呼ばれるたびに、世界中のクレジットスプレッドが目だってタイトニングしてきたことを話題にし、政府による危機対応策がいかに金融市場の正常化に効果を発揮したかを主張する。

従来、市場で民間の企業や金融機関が取ってきたデフォルトリスクを、危機勃発後にすみやかに政府(ソブリン)がせっせと吸収してくれたおかげで、破滅にむかって暴走していた金融市場が落ち着きを取り戻したというのは、それはその通りだから、ガイトナーの言葉を否定するつもりはない。

でも、リーマンショック後、株最安値をつけるまでの世界の金融市場の状態というのは、大震災直後の神戸みたいな大混乱の状態だったわけで、あれを基準にしたら、一年後には何でもよくなっているように見えるのは、ある意味【当たり前】

むしろ、危機の前のレベルと現在を比較したほうが、面白そう。

というわけで、約2年前と比べるとどうなったか、めぼしいところを比較してみた。

* アルゼンチン:460(01/02/2008) to 985(now) =114%UP
* ロシア: 87 to 218 =150%UP
* アイスランド:64 to 398 =521%UP
* ポーランド: 26 to 123 =373%UP
* メキシコ:70 to 159 =127%UP
* ギリシャ:22 to 205 =731%UP


この表にリストされた中で、2008年初頭よりも現在CDSレベルが下がっているのは、2007年~2008年の内乱で強い政情不安を抱えていたレバノンのみ。

2008年年初と比べ、国家レベルの信用力は、グローバル全体で、低下している。金融危機後の急激なグローバル景気後退により、どの国も、多額の景気刺激策を出し続け、国家レベルの財政状態は一般に苦しくなっている。

これらCDSのレベルがドバイ・ショック前のレベルにふたたび戻るかどうか。

個人的な感触に過ぎないが、筆者は、簡単には戻らないような気がしている。ドバイの一件は、国家(ソブリン)の保証能力にも限界があることを世に示してしまったわけだし、こういうことが一度起こると、クレジット市場というのは、なかなか忘れてくれないからね。

これが、ほんとうに「たいしたことない話」なのかは、今はまだ、誰にも判断できない。

それにしてもですね、今回のドバイショックで、ソブリンリスクに注目が集まって「次のドバイはどこだ?」みたいな話になったとき、こちら欧米のメディアで、エマージング市場以外に、ひときわ注目を浴びた国は、どの国だと思いますか?

日本国である。一笑に付すなかれ。

上のBespokeの表を見てたら、一番下に日本ソブリンのCDSの数字が出てきて、ギョッとした。

日本ソブリンのCDS1/2/08 = 8 bps
12/31/08 = 44 bps
Now = 81 bps

表にリストされてる39カ国の中で、一年前の金融危機の最中よりもCDSレベルが上昇した国は、日本だけ。2008年初頭からの上昇率をとると、実に912%。

ギリシャどころの騒ぎじゃない。

繰り返すが、CDSのレベルが上昇するというのは、債務の支払い能力(信用力)が低下している、すなわち、デフォルトリスクが増加していると【市場が判断している】という意味だ。

81bpsって、ほとんど中国(87bps)や不動産バブル破裂でニッチもサッチもいかなくなってるスペイン(86bps)のレベルであるよ。南米チリが69bpsである。先進国では、英国68bps、米国が32bsp、ドイツ24bps、オーストラリア34bps・・・グローバル市場における日本の国家の信用力は低下の一途を辿っている・・・。

ドバイ関連の記事を読んでたはずなのに、なぜか、最後は、暗く日本に行き着いてしまった・・・。




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11 comments:

nav said...

いつもためになる記事を面白く読ませていただいています。
些細な事かもしれませんが、Bespokeの話の前あたりで「UAE」が何ヶ所か「AEU」になってたのが気になりましたのでお知らせしたく思いました。
これからも楽しみにしていますので、気楽に?がんばってください!

Moss said...

初めまして、こんにちは。
ほんとだ。。CDS81になってますね。。でも円高止まり。。Why?  あんまり関係ないものなんでしょうか・・・?

TrinityNYC said...

>navさん
コメントありがとうございます。AEU・・・ほんとだ・・・。すみません、訂正しておきました。せっかくの機会ですので、AEUで調べたところ、Australian Education Union(オーストラリア教育連合?)、あるいは、American Ethical Union(米国倫理連合?)という団体があることを知りました。(調べてどうする。)今後もよろしくお願いします。


>Mossさん
そうなんですよね、信用力落ちて貨幣価値高まる。日銀もどうするつもりなんでしょうか・・・。CDS売買市場の参加者と、為替市場の参加者が同じじゃないために、トレンドに一時的に断絶が起こることはいたし方ないのかもしれませんが、均衡を欠いてることは確かですね。

vespa said...

こんばんは。

CDS81で、5年JGB50、そして円高。日本の国内投資家とCDSが分断されているのでしょうね。
絶滅品種(?)ですが、日本国CDSだけでレバレッジ5~10倍程度のシンセティックCDOなんて、国内機関投資家は如何ですかね?

TrinityNYC said...

>vespaさん
シンセチックCDO・・・残念ながら、AmbacもAIGもご承知のとおり。スーパーシニアのトランシェのリスクをCDSで引き受けてくれる先がないため、その案は没でしょう・・・。(笑) CDSマーケットの参加者の割合は圧倒的にガイジン投資家が多いし、ここのところ、日本の債務の高さが頻繁に話題に乗りますから、スペキュレーション先行でCDSが上昇というテクニカル要因が大きいのかも・・・などと思ってます。しかし、現物を大きく乖離してCDSが先行したケースといえば、2007年初頭のサブプライムですよ。最初はサブプライムリスクのスペキュレーションやってんだろ、とか言ってたひとがほとんどだったけれど、結果は周知のとおり。ヘッジコストの高い債券を誰が欲しがるだろうか。日本国債は国内投資家に依存している部分が大きいからサブプライムとは同じ土俵では語れないとは知りつつも、なんだか、デジャブ・・・。

vespa said...

おはようございます。

CDSの予見性、確かにブキミですね。

JGBもJPYキャッシュも日本の債務でしょう(いかに日銀が固陋であっても...)。

CDSは債務とキャッシュの交換契約ですので、円建てのJGBのCDSの場合は同一人の債務の入れ替えにすぎず、現実的にはデフォルトはないと思うのですが....

やっぱり、JGBの消化困難化の予想、いつかきっと、JGB金利が高騰するでしょうね。
経常収支が恒常的に赤字になって、蓄積された貯蓄が取り崩されていって、...
いまのところまだ逆方向ですが...

TrinityNYC said...

>vespaさん

JGBが実際にディフォルトを起こすというシナリオはものすごーーく現実味がないですが(そもそものところで、信用格付けがAの字ついてるようなところで実際にデフォルというのが極まれなわけなので)、それでも、信用力のスペクトラムではスプレッドに差はつきますからねぇ。

GDP対比の日本国債残高は減少どころか増加の一途ですよね。分子ふくらみ、分母縮む。現在の日本で、国債の利払い分に歳入のどれだけが消えているのか私は調べてないんでわからないですけれど、これだけ借金抱えていてもやっていけてるのが、すごい。日本国は「出口対策」をこれまでも提示してこなかったし、現在はもっと、提示できる状態にいない。それゆえに、スペキュレーターならばvespaさんの書いてくれたシナリオに従いイールド上昇、というシナリオにベットするのも無理はない、という気もわからなくもないですね。(たとえ、実際にディフォルトが起こるとは誰も信じていなくても、ね。)

米国も、アフガン3万人増兵とか言ってて、国内だけでもアプアプなのに国外のほうも全然進歩ないですからねぇ・・・。ファンダメンタルズでは低金利をサポートできても、国債イールドのほうは需給にも左右されるから、財政赤字に当面苦しみそうな米国も日本も、気を抜けないですね。

Anonymous said...

2010年日本株急反発だと
http://fund.tyabo.com/

TrinityNYC said...

>Anonymousさん

リンク、ありがとうございます。拝見しましたが、消去法で日本円に資金が向かったように消去本で日本株に買いが入る・・・そうなってくれると、ほんと、いいなぁ・・・と思います。というのも、自分のポートに長期で持っていたくない日本株が数社あるんで、自分は、急反発したあたりで全部売り抜けて一生オサラバしたいから(笑)。添付してくださったサイトの方がおっしゃってるように、日本株が下がるときも上がるときも他の市場より大きく振れる、というのはその通りでしょうが、そうなる理由は、日本株市場はガイジンの短期の買い越し・売り越しの動きに左右されやすい(言い方を変えれば、腰の弱い)市場だから、ですよね。日本株の場合は、売りの8割がショートセル、とか聞いてますんで、悲観論者は多そうですね。日本株弱気派が一転買いに入る材料としては、「ブック割れ」だけではやや弱いという気もします。

Anonymous said...
This comment has been removed by a blog administrator.
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