Wednesday, July 8, 2009

カリフォルニア州、IOU発行

7月4日の独立記念日の連休でボケてたら、あっというまに8日になってしまった。

さて、6月27日付けのMHJ記事『金欠のカリフォルニア、IOUは回避できるか』のアップデートを少々しておきたい。

結局、あの記事を書いた後も州議会では何も進展せず、同州はIOUを発行する運びとなったのはすでにご承知ですね。

カリフォルニア州が発行したI.O.U.、見たことありますか?こんなのだそうです。




ウソです。

しかし、カリフォルニア州のI.O.U.、発行早々、問題が山積みである。

<問題1> EBAYやCraiglistなどのネットサイトでIOUの売買が始まっちまった。7月だけで30億ドル以上(3000億円以上)のIOUを発行する予定だというのだから、このまま放置してたらIOUのブラックマーケットができてしまう。偽造も横行する。そのため、関係当局は急遽、

州からIOUを直接受け取った本人以外の者(=すなわち、ネットでIOUを買った不特定多数のひと)が換金目的で金融機関にIOUを持ちこんでも、売った本人がその人に売ったと証言する内容の“公的文書”をIOUと一緒に提示しなければ換金できない

ということにして当座しのぎ。これを既存の証券取引所で売買できるようにするかどうかはSEC次第。

で、添付せよという、その“公的文書”なるものは、IOUを州から受け取った本人および公証人(Notary Public)の双方のサインがなければ文書としての法的拘束力はないそうですので、ネットでお買い上げの方は、後日現金化するつもりなら、お気をつけあそばせ。

<問題2> さらに、IOU発行を契機に、格付け会社のフィッチがカリフォルニア州発行の地方債(GO=General Obligation Bond)の格付けを格下げ。フィッチは、ついこの間(6月25日)、同GOをシングルAからA-に一段階格下げしたばかりで、7月6日にさらに2段階のBBBまで下げた。同州はおよそ6兆円近いGOを発行済みだそう。

他の格付け機関(Moody'sとS&P)もフィッチに追随することがほぼ確実。これでカリフォルニア州の信用格付けは全米で最低、「地方債なのに格付け機関各社トリプルBでそろいぶみ」などという、かなり嘆かわしいステータスになりそうな気配である。

ちなみに、日本の地方債でいうと、財政パンクしかけた大阪府ですら、たしか、AA格とかじゃないですか?国家の格付けがトリプルAだってのに、その国で最大の経済圏が発行する地方債がトリプルBって、そんな話、聞いたことないっつーの。

<問題3> IOUを現金化するには銀行に持っていくわけだが、バンカメ、シティ、JPモルガン、ウェルズファーゴなど大手金融機関はどこも、「IOUの持込による現金化は今週の金曜日まで」と宣言。(昨日のウォールストリートジャーナルの記事はこちら。)

銀行の言い分としては、IOUを引き受けても、今度は銀行自身がそれを現金化するためのプロセスが整備されていないし、偽造券が混じる可能性も高いから、そんなもの、たくさん引き受けるのはリスク高くて嫌だ、というんである。

銀行が現金化してくれないと、IOUを受け取った債権者は州が小切手を送ってきてくれる10月まで、その現物をジー・・・と持ち続けて待っていなくちゃいけない。カリフォルニアの小規模コミュニティバンクなどでは引き続きIOUを窓口で換金してくれるそうだが、金額が大きくなったら、自分が口座を持っている銀行で換金するのが最も安全で当たり前。

だから、大手銀行がどこも今週一杯で引き受けてくれないとなると、IOU受け取った債権者の中には、資金繰りで冷や汗かくひともいるかもしれない。

(そうやって、州民の州政府への怒りは、さらに膨れてゆく・・・)

   ★   ★   ★

しかし、それもこれも、I.O.U.などというシロモノの金融市場での位置づけがアヤフヤなために生じる問題、である。

いちおう、発行体はカリフォルニア州という全米最大の州政府、年利3.75%という金利付き、米国通貨と換金性があるわけだから、表向きは立派な「債券」である。

だが、証券としての位置づけはこころもとなく、いわゆる「SECの規制対象」になっている証券じゃないし、一般証券のように証券取引所で取引されてるわけでもなく、換金ルートがあらかじめ確保されているわけでもなく、偽造だってお手の物、となったら、誰がそんなもんをまともな証券として取り扱ったりトレードしたりしたいだろうか。

でも、年利3.75%と聞いたとき、MHJ筆者は、買えるものなら買いたい、と思った。

だって、このIOUには年利換算で3.75%の利子がつくんだよ。いまどき、3.75%の年利がつく一年ものCDなんて、アメリカにありますか?CD感覚で保有するなら、この利率、悪くないんじゃない?

bankrate.comでいまアメリカで買える銀行発行CDを見てみたら、年利は平均で1.856%。銀行発行のCDは小額ならFDICの預金保険がついているから基本的にリスクフリー。

3.75%と1.85%の差、1.9%(190bps=ベーシスポイント)は、【リスクプレミアム】、つまり、FDIC(米国政府)の信用力とカリフォルニア州政府の【信用力の差】である。

カリフォルニア州政府がデフォルト起こす確率のほうが、米国政府が米国債でデフォルトする確率より高いと考えるひとが多い、すなわち、カリフォルニア州の【クレジットリスク】は米国のそれよりも高いと思われてるわけである。

さらには、一般の地方債(GO)とちがって、IOUは換金したいときにスンナリ換金できるかわからんという【リクイディティ(流動性)リスク】も、偽造かもしれんという【オペレーションリスク】まで高レベルで一緒にくっついてくるわけだし、(これは筆者には定かではないが)IOUは弁済順位から言っても一般債券(GO)よりも順位が低いんではなかろうかと思われるため、全体のリスクプレミアムとして190ベーシスポイントが妥当かどうか、意見は分かれるところでありましょう。

で、債券市場参加者の意見として、(もしIOUを一般債券としてトレードできるとしたら)どうかというと、「んなもん、額面どおりに買えますか。トレードしたけりゃディープ・ディスカウントかけてね。」というのが大勢のようである。

つまり、額面100ドルだったとしたら、90ドルとか95ドルぐらいにしてトータルリターン上げてくれないと、表面利率(クーポン)の3.75%だけじゃ割りにあわない、証券としては買いたくない。

これからさらなる格下げが待ってる州なんですもん、クレジット投資としては、ディスカウント要求するのがあたりまえ。

怖いのは、IOUをどう取り扱うかというルールや法的整備が整う前に、カリフォルニア州のIOU発行が呼び水となって、全米にいろんな州発行のIOUや準紙幣が出回り始めることである。

そして、連邦政府も、大型景気刺激パッケージを再度用意する必要があるとあちこちで言われてて、そのうち、こんなのまで、ちまたに出回るのでは、と不安である・・・。



これを持参すれば(正規の)米国通貨に換金してくれる銀行窓口は日銀だけ、とか・・・。


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だが、I.O.U.はともかくとして、一般地方債(GO Bond)のほうはどうだろう。

筆者は個人的には、カリフォルニア州政府がGO(一般地方債)でデフォルトを起こす確率は極めて低いと実は考えていて、前回同件について書いたときに紹介したカリフォルニア州地方債のCDSのグラフを見たとき「安い!買いだ!」(←「CDSを売る」というのと同義)と直感的に思った。もっと安くなりそうだ。いまだに現役でアナリストやってたら「カリフォルニア買う準備しろー!」とわめいてることであろう。(笑)

しかし、残念ながら、CDSの売買ってのは一本10万ドルからですので、筆者みたいな「蚤以下の個人投資家」の出る幕などどこにもない。債券ってのは、個人が積極的に参加できる株式とちがって、プロ限定の世界ですかんね・・・。

デフォルト、すなわち、債務不履行ってのは、「予定通りにお支払いいたします」という契約を破る行為であるが、ひとつには、(1)クーポンで払うといっていた利子を払わずに踏み倒す、ってのと、(2)支払いを延期してもらう、ってのと、ふたとおりある。(1)の場合は投資家に実損が生じるが、(2)の場合は定義上はデフォルトだけど経済的な損失は限定的なものになる。

筆者は地方債市場は本業としてやったことないんで、ややいいかげんな知識しかないが、カリフォルニア州の場合、GO債券のホルダーである債権者は、州法で決められている教育関係の支払いが済んだら、すぐその後に、同州から支払いを受ける「権利」を持っており、シュワちゃんの部下達の給料よりも優先的にGO債権者は利子をキャッシュで受け取れることになってるんである。

だから、州の金庫にキャッシュが足りなくなってきたら、シュワちゃんの部下達は給料をIOUで受け取る羽目になるかもしれないけれど、GO債券の保有者は優先的にキャッシュを受け取る。

利払いに必要なキャッシュもなくなっちゃったら・・・その場合は、もう仕方ない、債権者に頭下げて待ってもらうしかない。

だが、「GO保有者がカリフォルニア州政府から利子踏み倒されて経済的損失蒙る」という(1)のシナリオは、「州職員全員が雇用主の州政府から給料踏み倒される」というシナリオより先に実現する可能性は低い。

逆を言えば、州職員の給料払うためには、まず債権者への利子を優先して払うっきゃない。つまり、(1)で定義されるデフォルト可能性は極めて低い、という解釈である。

ただし、カリフォルニア州の問題は、遠くから眺めるかぎり、どうやら州議会の面々が、DCの中央議会の政治家に負けないへっぽこぶりで、そういう市場ルールをぜんぜん理解できずにポピュリズムを振り回す議員がそろってる様子なので、完全にポイントはずした議論を持ち出してきて政治問題化させる、そういうリスクがなきにしもあらずである。

いまどきの米国の地方債市場でいちばん大きいリスクは、この手の政治リスクかもしれない。


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さて、同件について書いた6月27日のMHJ記事に登場した同州の財政担当コントローラーのJohn Chiang氏であるが、7月5日のニューヨークタイムズ日曜版マガジンに掲載された超長文記事『Who Can Possibly Govern California?』を読んでたら、

The state faces a $24 billion deficit, and Schwarzenegger recently joked that his finance director has been placed “on suicide watch.”

同州は240億ドル(2兆4千億円)の財政赤字に陥る可能性を控えており、シュワルツネガーは最近、彼の財政担当ディレクター(=Chiang氏)に
自殺しないように見張りをつけてる、と冗談を飛ばした。

という一文があった。

シュワちゃん、ジョーク言ってる場合か・・・。

Chiang氏よ、どうか気を確かに持ち続けてください・・・。


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ところで、以前も述べたが、地方政府の財政難はカリフォルニアのみならず全米に広がっている。全米州政府の困窮振りを書いた英エコノミスト誌の記事の翻訳版がJBPressに掲載されているそう。(元ネタはPorco Rosso Financial Blogより。)

我がニューヨーク州も、ご多分にもれず、かなりヤバそうである。

それの一種“象徴的”な話を、ウォールストリートジャーナルで読んだ。

911テロで崩壊したワールドトレードセンターの跡地であるが、あそこに新たに追悼ビルも含めた5本の超高層ビルを建築中だが、その跡地新開発プロジェクトが、どうやら、クレジット市場の緊縮と州の財政難のダブルパンチで、頓挫しかかっているらしい。

WTC Talks Approach Stalemate (WSJ 07/08/09)

記事から引用。

A 2006 development agreement that divided responsibility for building on the site has unraveled as Mr. Silverstein has failed to secure financing for his buildings there, and the Port Authority has failed to meet its own scheduling and budget targets.
(中略)New York City Mayor Michael Bloomberg, who is running for re-election this year, said the project is "closer to stalemate" Monday, and urged the Port Authority to meet Mr. Silverstein's financing demands. Mr. Bloomberg serves as chairman of the effort to build the memorial at the site, but the fate of the overall project lies with New York and New Jersey's governors, who control the Port Authority.(中略)The Port Authority, primarily a transit agency, refuses to finance more than one of Mr. Silverstein's office towers, fearing that doing so would prevent it from fulfilling its core mission of operating bridges, tunnels, ports and airports.

(デベロッパーとポートオーソリティ=NY/NJ州交通局=との間で)2006年に結ばれた同意書ではWTC跡地の建設の責任所在は分割されることになっているが、シルバースタイン氏(デベロッパー)はビル建設に必要な資金を市中で確保するのに失敗し、ポートオーソリティ州側はスケジュールとバジェット調整に失敗した。(中略)次期再選をもくろむブルームバーグNY市長は月曜日、「プロジェクトはステールメイト(前にも後ろにも進まない)の状態に近づきつつある」と述べ、ポートオーソリティ側に、シルバースタイン氏が要求している資金確保に早急に手をつけるよう促した。ブルームバーグNY市長は追悼碑建設に関わるプロジェクトの会長だが、このプロジェクトそのものが成功するか否かは、ポートオーソリティを管轄下に納めるNY州とNJ州の知事たちの決断にかかっている。(中略)ポートオーソリティは主として交通機関を司るエージェンシーだが、シルバースタイン氏が経てようとしている5本のビルのうち一本しか資金支援はしたくない模様で、それ以上このプロジェクトに資金を都合すれば、橋やトンネル、港湾や空港、といった彼ら本来のコアミッションを遂行することができなくなることを懸念している。


WTCの跡地は、あの事件からすでに8年近くが経っているが、いまそこに足を運んでも、生々しい記憶が蘇る。

びっしり隙間なく高層ビルが立ち並ぶマンハッタン島の中に、あんなに巨大な空間が、いまだに「空地同然」で残っていることで、あの事件を忘れたくても忘れられないひとのほうがニューヨークには多い。

州の財政難が続き、あの場所も、当分は放置されてしまうのだろうか・・・。

それでなくても気の滅入る話が多いのに、WTC跡地のプロジェクトも頓挫しそうと聞いて、また暗くなった。




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2 comments:

haustin said...

初めてコメントします。私はプロではないので、何気に50%くらいのディスカウントなら換金してあげてもいいなーなどと、適当にブログに書いておりました。
http://haustin.exblog.jp/8556656/
(ちなみに、引用させていただいたところがあります)

まったく税金は上がる一方で、破綻ってどういうことだ、と怒り心頭です。

今日新聞で見たところによると、9月ごろに現金なくなるとChiangさんが言ってましたが、伸びたのですかね。。?

これからもブログで勉強させていただこうと思います!よろしくお願いします。

TrinityNYC said...

>haustinさん

コメントありがとうございます。

いえ、私も適当に90とか95とか言ってただけで、どの程度のディスカウントが妥当と思うかは、ひとさまざまでいいと思います。(何せ、カリフォルニア州のIOUがどの程度の値段を目安にすべきかは、ベンチマーク、ってものがないわけですから。)7月に発行されて10月に償還、つまり期間3ヶ月しかないので、そこで値段が半額となると、サブプライムも真っ青のディスカウント率にはなってしまいますけれども・・・(汗)。

Chiang氏が前回(6月10日)に50日でキャッシュ枯渇とわめいていたということは、8月の半ば過ぎには一銭もキャッシュがなくなる、という意味でしたから、伸びたとしても9月では、彼の心の平穏は取り戻せませんね・・・。(哀しいChiangさん)

今後同州のキャッシュ不足分については、とりあえず短期で借り入れする目処をつけてゆくしかないでしょう。すでにカリフォルニア州は全米一の「自転車操業州政府」ですが、いまカリフォルニア州が置かれている状況だと、長期(借り入れ期間が1年以上)の安定した資金を調達できる状態ではないので、数ヶ月ごとに返済しなくてはならない短期資金をグルグルまわしてキャッシュ不足を補ってゆく、そういう果てしない資金繰り地獄を強いられるのでは、と推察します。

おカネがなくなりそうだとうなされる日々は続きそう・・・かわいそうなChiangさん・・・Chiangさんから Suicide Watch が取れる日はくるのか・・・。