Tuesday, December 30, 2008

アルファベットづくしの2008年、SOS信号は続く

数日前の英フィナンシャルタイムズが、「2008年の金融界は、AAA(トリプルA格付け)からZIRP(Zero Interest Rate Policy=ゼロ金利政策)まで」と言っていた。洒落たことを言うな。
まさにその通り、2008年は、CDSやCDOといったアルファベットが「お茶の間用語」と化す異様な年でもあった。
ザッと思いつくだけでも、
  • CDS (Credit Default Swap)
  • CDO (Collateralized Debt Obligation)
  • CDO2(CDO-squared)
  • CLO (Collateralized Loan Obligaton)
  • CMO (Collateralized Mortgage Obligation)
  • ABS (Asset Backed Securities)
  • MBS (Mortgage Backed Securities)
  • ABCP (Asset Backed CP)
  • HEL (Home Equity Loan)
  • HELOC (Home Equity Line of Credit)
  • SIV (Structured Investment Vehicle)


・・・挙げていったらキリがない。
しかし、これらアルファベットはどれも、3年前なら、クレジット市場や金利市場のプロの関係者しか口にしなかった専門用語ばかり。長年金融業界に住んでても株式市場にしか関っていない者ならば、CDSなんてのは、知ろうが知るまいがどうでもよかった。
それが、この1~2年ばかりの間に、こうしたアルファベット用語がニュースフィードに怒涛のように溢れ返り、クレジット市場関係者のみならず、株式市場関係者、果ては、一般の人たちの耳にまで頻繁に届くようになった。
振り返ると、あれは、2007年の初めごろだったんじゃなかろうか。当時勤めていた会社の米国株トレーダーから、「ABXに含まれてる銘柄の一覧みたいんだけど、持ってる?」と聞かれた。
ABX とは、クレジット・デリバティブスのインデックスの一種で、証券化された住宅ローンのトランシェに対して取引されるCDSを、Super-AAAからBBB-の格付けごとにインデックス化したものだ。Markitという会社がインデックスを作成し、半年ごとに銘柄修正して発表される。
クレジットのトレーダーならいざしらず、株式のトレーダーからそんな質問をされた自分は、一瞬、面食らったのを覚えている。わたし自身、長年クレジットの世界の住人だったわけだが、その私でも、ABXなんていうストラクチャード指標を日常的に見張ってるなんてことはなかった。それだけ専門性が高く狭い市場を扱う「特殊な指標」だったからだ。
でも、2007年初頭に、クレジットの取引に直接関わらない株式のトレーダー達が、仕事帰りにウォール街近くのバーで、ABXやCDXなどというクレジット・デリバティブスのインデックスを肴にビール飲んでた、ということ自体、いま振り返れば、2008年の金融市場の崩壊とそれに続く大津波の【予兆】のひとつだった、ともいえるな。
で、その2008年の年末、例のABXは、一体どうなってるのか、ひさしぶりにチェックしてみた。


(ABX.HE-2007シリーズ2:上からそれぞれAAA、AA、BBBトランシェ)

AAAトランシェ:額面100に対しバリューは40以下。
ホームエクイティローン証券化商品のAAA部分は、売買すると額面に対し60%以上の損失が発生する、という意味。
次のAAトランシェになると、損失幅は一気に拡大して94%。






さらに高リスクのBBBトランシェになると、95%近くのバリューロス。
要するに、これが、マスコミなどが、Toxic Assets(腐りきった資産) と呼んでる "あれ" の一部ですよ。
ポールソン財務長官が7000億ドルも政府に用意させてT.A.R.P.(=Troubled Assets Relief Program)を立ち上げ、金融機関のバランスシートから買い取ろうとした、あの「問題資産(Troubled Assets)」の一部であります。
リーマン破綻の9月半ば以降、政府が公的資金を使って救済するよと言ってるのに、それでも、10月11月と、証券価値は急激下落し続けた。
上の3つのチャートを見ると、AA と BBB クラスのプライス間にほとんど差がないことから、これらインデックスのベースになってるホームエクイティローンの証券化証券の場合、トリプルAの格付け「以外」の証券の取引は実質不可能であり、マーケットに流動性がまったく存在していないことを意味する。(ま、住宅ローンのデフォルト率が連日のように悪化してるんだから、こういう数値になるのは当たり前だけど。)
いちばん「安全なはず」のAAAクラスでも、損失は6割以上。これらをキレイさっぱり手放すには、金融機関自身に巨額の損失を吸収できるだけの相当の資本の厚みがないと、売却はできない。資本金がないのに無理に売却したらみずから【破綻】するだけだもん。
他の証券化商品の取引現場でも、このインデックスが示唆するような状態と大差はなかったんだろうなぁ。米国政府が当初の「資産買取」から慌てて「資本注入」に急遽作戦変更したのも無理はない。
企業債のCDSの水準も、どないなもんか、CDXインデックスをついでにチェックしてみた。
北米のインベストメントグレード(5年もの)のCDSは、08年12月17日付けで、スプレッドは196、ハイイールドになると1141をつけていた。
CDSに1000以上のスプレッドがついてるようじゃ、どっぷりジャンクになったゼネラルモーターズが白旗あげて政府に泣きつくしか手がなかったわけだよ。
CDS、CDX、ABX、CDO、HEL・・・・
三つ文字アルファベットに翻弄された2008年も、残すところ、あと一日。
市場は「SOS」信号を出したまま、2009年に突入する。

Thursday, December 25, 2008

GMAC、悲願の銀行持株会社に(それでも日本政府はいいツラの皮)


GMACは、現在銀行持ち株会社化の可能性について米国当局と協議中です。これが認められれば、公的資金の活用が可能になり、実現すれば、当行のGMAC関連投資についてもプラス要因となります。当行は、本件が議論の過程であり、追加損失のリスクが残っていることを認識しております。



認識しているそうですよ。

あおぞら銀行。

上記は、あおぞら銀行がひと月前の11月28日に行った中間決算インベスター向けプレゼン資料の6ページ目から引用した。(資料を全部見てみたいひとは、あおぞら銀行のサイトのここ(↓)に行って、プレゼンテーション資料「2008年度中間決算説明会」をダウンロードしましょう。(断っておきますが、【物好きなひと】限定です。)

http://www.aozorabank.co.jp/investors/ir/presentation/


GMACはご存知、GMの金融子会社。GMACはかつてはGMの完全子会社だったが、GMが2006年にもキャッシュ不足で死に掛けたとき、当時はクレジットバブルでイケイケだったこの子会社の持ち株の51%をプライベートエクイティ会社サーベラス(Cerberus)に売却し、70億ドルの売却額に加え、運転資金として3年間で140億ドルをサーベラスから融通してもらうという条件も確保して、三途の川を渡らずに済んだ。 (そう、GMが三途の川の手前まで来たのは、今回が初めてじゃない。今回、政府がGMにお情けで貸してあげる当座資金が140億ドル。2年前のクライシスのときも140億ドル。140億ドルという数字が好きなのか、GM!)

そのGMACだが、クリスマスイブの昨日、悲願の(?)銀行持ち株会社になるのをFRBから承認された、というニュースが伝えられた。

普通、銀行持ち株会社になるためには、銀行規制にのっとって充分な自己資本がなければいけないことになっている。だが、GMACの場合、資本金は20億ドル(2000億円近く)も不足していて、資本調達できる目処も立ってない。それでも銀行持ち株会社にしてやるんですって。

規制どおりの資本金は用意できなくても特別OKが出たのは、他でもない、そうしてやらなきゃ、GMACも破綻しそうだから。子会社が破綻したら、政府からの緊急融資でなんとか年末越そうとしてる親会社のGMも、政府援助のかいもなく一緒に三途の川を渡っちゃうかもしれないから、である。(GMACには、米国サブプライム問題の中心にいたResCapという住宅ローン子会社、GMにとっては孫会社もいて、こちらも、ヘロヘロ。)

で、GMACを買収したサーベラスといえば、これもご存知、日本が銀行危機ですったもんだしてるとき、現在のあおぞら銀行(旧日債銀)を当時のオーナーだったソフトバンクらから1000億円程度で買い取った、あの、米投資ファンドサーベラスである。


ガイジンに弱い日本政府のアゴの下に入ってゴロニャンし、同じく買い手になりたいと手を挙げてた三井住友銀行なんぞは蹴っ飛ばして、バナナの叩き売りみたいなお手ごろ価格(しかも、国民負担の瑕疵担保条項などという「体のいいプットオプション」付き)で大手邦銀を手に入れた、あの、サーベラス、である。(日債銀がソフトバンクを経由して米投資会社サーベラスに買われて行った過程にご興味のある「物好き」な方は、ここへ。)

2003年にサーベラスの手に渡った現あおぞら銀行は、2年前の2006年11月にIPO株式公開で上場した。

しかし、この会社の株(公開価格570円)、上場初日に超売り越しで10時を過ぎても買い手がつかず、ようやくついた初値が495円と公開価格を13%も割っちゃった。

その後も、この株、公開価格を上回ったこと、ないねん・・・・・・(涙)。

どーしよーもねー株は世に数あれど、あおぞら銀行株ほどみごとに、公開後下降一直線なチャートを描く会社ってのも、ちょっと珍しいよな。

昨日の終値は、91円でした。100円割れ、しとります・・・。主幹事の証券会社の言うことを鵜呑みにして売り出しに参加した機関投資家の皆様・・・涙をこらえてくださいね・・・。(涙)

で、もっと泣きたくなるのが、この株式公開の際に露わになった「日本国政府の無知ぶり、音痴ぶり」である。

この売り出しに関しては、売り出し人(Seller)には、サーベラスのみならず、日本政府の公的機関である「整理回収機構」も入っていた。

旧日債銀が実質的に破綻したのち、日本政府は「優先株」の形式で公的資金を注入して公的管理に入れたわけであるが、その公的資金の返済は上場時にもまだ終了していなかったんであるな。

この優先株は転換社債の一種であって、普通株式に転換することができた。整理回収機構(預金保険機構の傘下)は、総額3550億円の注入された公的資金の〝一部〝を優先株から普通株に転換し、その普通株をIPOの際に市場売却して返済してもらう、ってことにした。

下は、2006年11月6日に、あおぞら銀行株の上場について、日本の預金保険機構の「理事長談話」として記者発表された公式文書からの引用である。(全文はDICのサイトのここ。)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

3.今般、主幹事証券会社より売出価格等の条件が提示されたことを受け、最終的に「当面の対応」の判断基準である

   ・国民負担の回避
   ・金融システムの安定性
   ・金融機関の経営の健全性

の観点から見て特段の問題がないことを確認の上、本日、整理回収機構の取得請求権の行使及び処分の承認申請に対して承認を行ったところである。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

たしかに、この時点では、公開価格570円で、売り出し人は整理回収機構も含め全員ウハウハだった。だって、整理回収機構は、もともと1047億円分に相当する優先株を処分して1326億円を受け取ってるんだもん。(詳細はここの脚注番号41を参照。)

つまり、この上場により、政府(すなわち、納税者)は、「1047億円の公的資金に対して280億円の儲け(プロフィット)」を受け取った、ってことになる。

6年ぐらいで26.7%、年率にしたら4~5%ぐらいの投資リターンでしょ。それ、悪くないよね。理事長さんの機嫌がいいのも、うなづけるな。

しかし、トホホなのは、この理事長さんコメントの日付が2006年11月6日だってこと。

預金保険機構が、280億円ごときの利益で「うわーい!損が出なかった、損が出なかった~!」と乾杯して喜んでる、まさにそのとき、肝心のあおぞら銀行では、Aozora GMAC Investment Limited という関連子会社をロンドンに設立して、サーベラスが組織した出資者グループに名を連ね、GMACに「500億円の出資」をする準備を着々と進めていた。

あおぞら銀行が2006年11月30日に発行した「GMACへの出資について」のプレスリリースを見てみましょう。これによると、Aozora GMAC Investment Ltd.の設立月日は11月6日。

キャッシュ不足で倒産の危機にあったGMは、難航に難航を重ねた末、虎の子GMACの51%をサーベラスへ売却すると4月に合意。サーベラスは買収資金の一部を、自分たちの息のかかった金融機関(シティバンクなど)にも、まかなわせたんである。あおぞら銀行は、そのうち500億円を担当させられた。

だが、ここで、ちょっと考えてみたい。

公的資金(=納税者のカネ)3550億円を受け取ったあおぞら銀行は、株式公開に合わせて、そのうち1000億円ちょっとをお返ししたわけではありますが、上場時点では、まだ2千億円以上も国家に返済しなくちゃならないカネが残ってたんである。

一部しかお返しできない、つまり、残りのカネがなければ、あおぞら銀行は困っちゃう、そういう状態だった。

にも関わらず、海外のノンバンクに500億円出資する、ですと???

そんなカネあったら、納税者に先に返せばよかったんじゃないの?

日本政府は、たかだか280億円程度のプロフィットに目がくらみ、残りの納税者のカネ2千億円をどうやって返してもらうかは後回しにして、サーベラスが500億円の投資資金を公的資金が入ったままの自己資本から『GMAC用に使い込む』ことに異議を唱えなかった、ってのと同じ意味だ。

サーベラスがGMAC買収資金の一部としてあおぞら銀行の資金を使うつもりだったことを、日本の当局が知らなかったとは言わせない。預金保険機構の理事長さんが「(あおぞらの)経営の健全性に特段問題はない」と太鼓判押した日付と、あおぞら銀行がGMACへの投資のみを行う特別目的会社を設立した日付が同じなんだからね。

どうせ、当局のことだから、「株価500円以上なら国側には損が出ないんですから、ね~」とか言って、株価が100円割れするかも、なんてシナリオは、これっぽっちも考えていなかったに決まってる。

しかも上場に伴って、普通配当まで、どうぞどうぞ、と言って許しちゃってるんだから。

配当金だって、本来なら、納税者に返済するための原資として内部留保に貯めとくべき、なのでは?(旧日債銀に課した優先株配当だって、信じられないくらい安い金利つけてやったんだからさ。)

ガイジンにはやたら気前いいなー、日本政府!

さて、その『使い込んだ5億ドル』の行方であるが。

先ほど紹介した、あおぞら銀行の2008年度中間決算プレゼン資料5ページ目によりますと、

(GMACへの)出資額5億ドルに対し、累計で70%、3億5千万ドル(円換算382億円)の損失処理を実施、2008年9月時点のバランスシート計上額は150万ドル(円換算155億円)

だそうである。

日本政府が、あおぞら上場で儲かった、儲かった、と小躍りしてた額280億円。

GMAC向け投資から発生した累損382億円。(下手すると、全損近くになるかも。)

そして、まだ残ってるあおぞら銀行の公的資金2千億円超の返済残高は、どうなるのか。

現在のあおぞらの株価91円、時価総額1500億円。いま普通株を全部現金化しても、公的資金の返済原資としては不足だよ・・・(シクシク・・・)

   ★   ★   ★

ところで、「公的資金完全返済のメドがキッチリ立っていなくても、普通株配当やってもいいよ」なんつーへっぴり腰当局は、日本の当局だけじゃない。

米国の7000億ドル救済資金T.A.R.P.からの大手金融機関への公的資金による資本注入、あれも、優先株についてるクーポン金利はめっちゃ低くてカネ入れてもらう銀行に有利にできてるわ、配当金やボーナスなどへの注文もほとんどつけないわ、で、同時期にイギリスがやった同様の注入案と比較したら、ポールソン率いる米国財務省のプランも、基本的には【納税者をバカにしくさっている】プランである。

今日付けの「GMAC銀行持ち株会社化」についてのニュースを読むと、資本不足のくせに銀行持ち株会社にしてもらう特別扱いの見返りとして、サーベラスは最大株主としての地位を捨てろ、とFRB連銀に言われたそうである。サーベラスのGMAC持ち株分51%のほとんどを外部投資家に配分し、サーベラスの議決権は大幅に低下するらしい。http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=newsarchive&sid=auUKiUZKeVMs

サーベラスの放出価格によっては、あおぞら銀行が負担しなくちゃいけないGMAC向け損失額も、もっと増える可能性がある、ってことだ。

でも、ResCapというサブプライム爆弾抱えてるGMACの株を欲しがる投資家って、どこの誰?そんなひと、いまどき、いるのか?

ブッシュが辞める前に、FRB連銀がサーベラスからGMACの普通株を買う、なんつーことを言い出しそうな一抹の不安・・・そんなことになったら、あたしゃ、マジ怒るよ!!!

Sunday, December 21, 2008

パームビーチに響く質屋の高笑い









金融史上最大規模の「ねずみ講」事件が発覚してからはや1週間。

中心人物バーナード・メードフ(右写真)。元ナスダック会長。

クライアントの数4000件、被害総額500億ドル(約4.5兆円)。

リーマン破綻後の暴落で、預け入れた資金の現金化(70億ドル)を顧客が要求し始めたのが、事件発覚のはじまり。償還用の資金繰りに詰まり、メードフはついに降参した。

19日付けニューヨークタイムズにメードフ事件の背景が掲載された。

Madoff Scheme Kept Rippling Outward, Across Borders http://www.nytimes.com/2008/12/20/business/20madoff.html?_r=1&em=&pagewanted=all




この記事によると、メードフは長いことNYはじめ全米のジューイッシュ(ユダヤ系)コミュニティの英雄的存在で、今回の詐欺にあった被害者の多くも、ジューイッシュ・コネクションを通じてメードフに紹介され、彼のレピュテーションを信じて巨額の財産を預けていたそうである。

「口利き」と「紹介」のみで作られたリレーションシップの網の目をつたわって流れてゆく巨額の投資資金―。あの、お堅いカルチャーで知られるスペインのサンタンデール銀行の関係会社や、アラブの巨大ソブリンのアブダビのファンドまでが、この網の目にスッポリはいっていたんだから。

しかし、常識で考えたって、マーケットが良くても悪くても恒常的に10%のリターンを挙げ続けるなどという芸当は無理。でも、メードフならできる、と思わせる「何か」がメードフにはあったんである。

それは『Aura of Exclusivity』=排他のオーラ。

彼のサークルには誰でも彼でも入れるわけではなかった。彼のファンドは基本的に「クローズド(Closed)」であったが、メードフとなんらかの個人的なつながりがあれば、「特別な計らい」で仲間に入れてもらえる、そういうやり方で、メードフは顧客を集めた。

そして、いつしか、顧客サイドに「自分はメードフに資産を預けている」という、その事実そのものが「自分は特別な人間なんだ」という気持ちが産まれ、「特別な自分」というトランス状態が心地よすぎて、メードフの非現実的な運用成績に疑いすら抱かなくなる。

メードフと何のつながりもなかった者達の目には、「エリート主義の成れの果て」と写るだけかもしれないが、「自分は他とはちがう、特別なんだ」という気持ちでいたいというのは、エリートだろうがなかろうが、人間共通の性(さが)なんではなかろうか。

実際、90年代に、アメリカン・エキスプレスが「ゴールド・カード」だの「プラチナ・カード」だのを発行して、中産階級の会員確保で成功を収めた事実もある。あれこそ、まさに、「(プラチナアメックスを持てるほど)特別なステータスの自分」という【心理】をくすぐるマーケティングの勝利だったんだから。

嗚呼・・・人間というのは、どうして、こうなんでしょうねぇ・・・。

上のNYタイムズの記事に「メードフはミステリアスな存在で、オズの魔法使いのようだった」という表現があるけれど、まさに的を得た表現だな。

しかし、メードフの魔法が解けたら、フロリダ州パームビーチの超高級住宅地のジューイッシュ・コミュニティには「被害者」が溢れてるらしい。

そんな中、ひとり高笑いしてるのが、パームビーチの質屋だそうで。ランボルギーニまで質草になってるという・・・(涙)。

http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=98293155


さて。「ねずみ講」ですが、英語では 【PONZI SCHEME】 と呼ばれます。




この言葉の元になったのは、1920年代に、同様の金融詐欺を働いて逮捕されたCharles Ponzi(写真右)。

イタリア移民だった彼は、第一次世界大戦後のインフレにより、イタリア通貨での資産価値が米ドルに対して大幅に下落していることに目をつけ、IRC(International Reply Coupon)と呼ばれる国際郵便システムを利用して儲けることを思いついた。

ポンジーが考え付いた方法というのは、(1)米国で投資家から資金を集め、(2)その資金をイタリアに送金し、(3)イタリアでIRCを安く買い、(4)米国にIRCの現物を送付させ、(5)米国の郵便切手に変換し、(6)その切手を売って現金化する、というものだった。

IRCとは一種の「返信用国際郵便切手」に相当し、イタリアで買い求めたIRCはイタリアの郵便料金に従って価値が決まるが、それを使って米国からイタリアに返信する場合は、米国の郵便料金相当の切手と交換できた。つまり、イタリアから米国への送料と、米国からイタリアへの送料には、当時相当の差異が出ており、その差額を現金化すればリターンが生まれる、そういう仕組みであった。

今風に言えば、いわゆる「アービトラージ」であるが、IRCを利用したアービトラージを禁じるルールは当時存在しておらず、チャールズ・ポンジーの考えたスキームは充分「合法」だったのである。

ポンジーに「手数料」を支払った投資家達は、当初約束どおりのリターンを受け取り、そのリターンが破格なレベル(45日間で50%!)だったことから、ウワサがウワサを呼んでポンジーに金を預けてIRCアービトラージで儲けようとする者の数は増え続けた。

しかし、ポンジーは「手数料」はすべて自分のフトコロに仕舞ったものの、実際にIRCを買う手間は省き、新規の顧客が払い込んだ金を既存の顧客に約束したリターンにあてて、いかにも儲けが続いているように見せかけていたのだった。

ボストンで繰り広げられていたこの夢のような成功話に、やがてボストンの新聞記者が疑問を抱き、当局の捜査も入ってポンジー・スキームは破綻する。

亡くなる前に行った最後のインタビューで、ポンジーはこんなことを言っている。


"Even if they never got anything for it, it was cheap at that price. Without
malice aforethought I had given them the best show that was ever staged in their
territory since the landing of the Pilgrims! It was easily worth fifteen million
bucks to watch me put the thing over."

「(わたしに金を預けた者は)結局何も手にすることはなかったが、それでも、安いもんじゃないか。別に殺意を持ってたわけじゃなし、ボストンの連中にとっては、ピルグリムの到着以来最高のショーを見せてやったんだから。わたしが繰り広げたステージの観劇代に1500万ドル(15億円)の価値は充分あったんだよ。」


投資家からポンジーに渡った金は、どこをどう流れていったのか、結局わからずじまいだった。

メードフの500億ドルも、どこに消えてしまったのか、その詳細はわからないまま終わるような気がする。



忘れるなかれ。ポンジー自身がフトコロに仕舞ったのは「手数料」だったということを。

そして、スキームがクルクルとうまく回っているあいだは、流れ込んだカネは参加していた投資家達に「儲け(リターン)」として実際に分配されていた、ということを。今は質屋に走ってる投資家達も、高リターンを受け取って喜んでいた時期があったということを。

ねずみ講の被害者達は、被害者でありながら、同時に、加害者でもあったのだ。



Tuesday, December 16, 2008

ヘリコプター・ベンがケチャップ買いになる日



米国も、ついにゼロ金利の時代に突入した。

15日のFOMCを前に、市場では「連銀はFed Fundレートを1%から50bps(ベーシスポイント)下げて0.5%にする」という見方が大方を占めてたが、今日の発表は、少なくとも75bps切り下げて、ターゲット0%~25bpsにする、というもの。(右グラフ)

米国のFFレート誘導ターゲットとしては、史上最低水準です。

これ以上の経済の悪化を招いてなるものかという、連銀の「強い意志」を市場に見せつけるには充分であったな。




この動きを好感して、今日のNYダウは359ポイント、前日比4.2%上昇して9000ラインに近づいた。

金融株がとりわけ好調で、四半期決算のあったゴールドマンサックス(GS)は21億ドル(2千億円)近くの期間損失出したにもかかわらず「思ったほどひどくなかった」という理由で15%近く上昇。モルガンスタンレー(MS)なんて、一時的に20%も上昇してたもんなー。

でも、ファンダメンタル的には、何ひとつ良くなってるわけじゃないんだから、FFレートの下げ幅が50bpsじゃなくて75bpsだったとサプライズでぬか喜びしてても、株価への効果はどうせ長続きはしない。

それに、FFレートはゼロより低くできないんだから、これ以上金利を下げようにも、もう限界。

ここで、12月1日にポストした記事で紹介した、バーナンキ連銀議長の言葉を思い出して欲しい。


"Although conventional interest rate policy is constrained by the fact
thatnominal interest rates cannot fall below zero, the second arrow in the
FederalReserve's quiver -- the provision of liquidity -- remains effective,"


(通常の金利政策は名目金利がゼロより低くなることはないという事実に制約されるが、流動性の確保という連銀のもうひとつの政策手段は有効に使っていきたい。)



そう、彼が2週間前に発した言葉どおり、米金融政策の次の一手は【量的緩和】(Quantitative Easing)に着手する模様。

量的緩和ってのは要するに、連銀が「おカネの印刷屋さん」になって、経済に出回るおカネの量を増やしてやる、って意味であります。

おカネを刷って刷って刷りまくれ! Print, Baby, Print!



実は、連銀議長ベン・バーナンキには、「ヘリコプター・ベン(Helicopter Ben)」というあだ名がある。

2002年、彼がまだ連銀議長になる前に、ある講演で、「デフレーションの芽が吹いてきたらヘリコプターからカネをばら撒いて(政府が意図的にインフレを誘発し)デフレに対抗するという手がある」と発言したことから、そういうあだ名がついた。

バーナンキが「ヘリコプター・ベン」のニックネームをもらった2002年といえば、当時の日本はまだ金融危機とデフレ対応の真っ最中。

当時は、日銀がコール市場で大量に資金を放出したりして、短期金利をゼロに誘導してた。

この金融緩和政策は1999年に始まったけど、2001年に、こころもち、経済成長が上向いてきたような【雰囲気】が出てくるや、政府当局の気が緩んじゃって、「もう大丈夫よね~」とゼロ金利政策を解除した。ところが、解除するやいなや、すぐに景気は後戻りを始めてしまった。

で、あわてて再びゼロ金利政策に戻して金利低下を押しまくってみたんだが、景気は一向によくなってくれない。それどころか、日本経済は、ずぶずぶとデフレの深みに・・・。

そこで日銀は、量的緩和でインフレ誘発測ろうとしたけど、経済のほうは、日銀の思惑に全然応えてくれなくて、日本のゼロ金利政策は2006年まで続けられたんである。

銀行システムを通じてどんどん資金は放出されたが、日本のクレジット市場が息を吹き返したかといえば、全然そんなことはなかったな。

銀行システム全体の貸出金の残高は一向に伸びてくれず、むしろ、企業はバランスシート調整に入り、資金需要自体が減少。

日銀からドンドコ出されてきた金は、どこにいったかといえば、銀行さんたちが日本国債をどんどん買って、国の国債発行残高だけが増えてゆくという、悲しい結果に・・・。

いくらお上が、「クレジット拡大しろ、もっと融資しろ」とか掛け声だけかけたって、資金需要そのものがないんだからさ。そんな状況では、銀行だって、株式バカスカ買うわけにもいかないんだし、国債でも買うしかないよな。

そうやって国債ばっか買ってるうちに、銀行は、今度は融資のクレジットリスクから、債券保有による金利リスクを大量にバランスシートに抱え込むことになった。

そして、何をやっても株価低迷が続いた日本で、りそな救済を境にして、突然堰を切ったように市場資金が債券市場から株式市場に流れ込んだために、債券市場の需給が急変、金利リスクが突如噴出して、銀行さんたち、またまたバランスシートが痛んで貸し出しできなくなっちゃった・・・。

・・・と、まぁ、日本もかつては、なんとか景気を元に戻そうとして、「ゼロ金利政策」→「量的緩和」というルートをたどったわけであるが、要するに、日本の当時の金融政策は失敗したんである。

今回、米国連銀は、日本がかつて辿ったのとまったく同じ道を歩もうとしているようだが、果たして、バーナンキの

「ヘリコプターから刷り上ったばっかのカネをばら撒いてインフレ誘発する」

というプランがうまくいくであろうか。お祈りしましょう。

ところで、この「ヘリコプター・ベン」だけど、日本の金融関係者なら多くが覚えているエピソードがある。

日本のデフレ基調がとどまるところを知らず崩れてゆくのを見たバーナンキは、

「日銀はトマトケチャップでもなんでも高値で買って、デフレを抑えたらどうなんだ」

と発言したんだ。

このケチャップ発言、アメリカの関係者にはあまり知られていないんだけど、当時の日本の関係者は、「ケチャップを日銀で売れなんて、他人事だと思いやがって・・・」と眉をひそめてたんだよね。

ところが、そのバーナンキ、よりにもよって自分が連銀議長をまかされたとたん、【他人事】どころじゃなくなってきた。

今日のニュースによると、ガソリン価格とコモディティ価格の大幅な下落に引きずられ、アメリカの消費者物価は11月に1.7%も落ちた。エネルギーと食糧を除いたコア消費者物価は横ばいだけど、0%だから、来月はどうなるか、わかったもんじゃない。一ヶ月で1.7%も落ちるなんてのは、1947年に労働省がインフレのデータ取り始めて以来最悪、というではないか。
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=newsarchive&sid=a73N6LrkY5zo


今年のクリスマス商戦は、アメリカ全体で消費意欲の冷え込みで「惨敗」の色が濃くなって、小売店はどこも大出血サービスやって客寄せしてるから、下手すると、もっと下がるんじゃないのか。

デフレの足音は、すぐそこに・・・。

かつて、いつまでたってもデフレから抜け出せない日本の金融政策へなちょこぶりを小馬鹿にしていたバーナンキ。

ヘリコプターでカネばらまくだけではなくて、FRB連銀のディスカウントウィンドウでケチャップ買うようになる日も近いような気が・・・。

いや、ケチャップじゃなくて、金融機関のバランスシートにしこっちゃってる不良資産を市場価格より「高値」で連銀が買い取る、とかになるかも・・・。(笑)

Friday, December 12, 2008

ビッグ3救済劇:T.A.R.P.の出番

資金繰り倒産が現実問題としてすぐ目の前まで迫ってきている、米ビッグ3。

この年末を乗り切るための「つなぎ資金」として、とりあえず、$14 Billion (140億ドル)だけでも貸してくれと米政府に泣き付き、ナンシー・ペロシ率いる下院(←民主党マジョリティ)は通過したものの、昨日(木曜日)、上院の共和党から激しい反対に会い、政府からの借り入れプランは頓挫した。

救済反対に回った共和党員の代表格は、今月12日の記事でも紹介した、テネシー州選出の上院議員Bob Corker。カネ恵んでもらう前に、Debt-Equity-Swapの手法を使ってビッグ3のバランスシートをまずは改造せよと主張した、あのCorker氏である。

Corker氏の25分に渡る「反論」は、なかなか聞き応えあり。
http://corker.senate.gov/public/index.cfm?FuseAction=NewsRoom.NewsReleases&ContentRecord_id=28057bfc-d31e-b4d4-de97-8ffea70f4aca

彼は、「貸してちょーだい」と言われて国民の税金を「ほいほい」と安易に貸すのは許されない、株主も、債券ホルダーも、ビッグ3の経営者も、そして、組合員労働者も、全員煮え湯を飲むということに同意しない限り救済案には賛成できない、と強硬姿勢を貫いた。

経営者のボーナスはもちろん無し、組合員に将来支払われる福利厚生の2分の一を株式に転換、債券ホルダーも額面の3分の2を株に転換しろ、というのだ。

Corker氏が代表するテネシー州というのは、日本の車メーカー達が米国の現地生産の拠点として工場を作った州でもある。失業対策として海外の製造業を積極的に誘致した南部の州のひとつ。そういう背景もあるのか知らないけど、Corker氏の勧める案というのは、実質的に会社更生法で処理しろ、と言っているのに近い。

たしかに負債を資本に転換することで自己資本を高めることは、ビッグ3の場合は必要だからな。

それでなくたって、ものすごくレバレッジが掛かっているバランスシート構造をしてるのに、そこにさらに政府からの負債も抱えるとなると、企業体として抜本的にヘルシーさを取り戻すのは、不可能に近い。

わたしもCorker氏の意見に賛成だな。

ただし、Corker氏は、企業というのは資金繰り(流動性)に支障を来たすと、たとえ資本金が充分にあっても突然倒産する、という事実をすっぽり忘れてる。

ビッグ3にとっては、いまはバランスシート改造よりも、目先の流動性をどうするか、ってことで手一杯のときだからね。

上院でNO!を突きつけられたものの、ワシントンDCでは、米国の労働人口の10%を占める自動車産業を倒産させることだけは絶対にできない!の大合唱。

議会がウンと言わないのなら財務省が面倒見ましょうとばかり、例の7000億ドルのT.A.R.P.資金を使って救済しよう、という話になった。
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601087&sid=aTnH1AC8JU3g&refer=home


10月の時点では、ポールセンは、T.A.R.P.はあくまで金融機関向け、一般企業は議会で勝手にやってくださいねーと見てみないフリしてたくせに、急にやさしくなったのはなぜか。

ここでビッグ3がChapter11で清算モードに突入すると、1000億ドルではきかない巨大な負債がデフォルト起こし、クレジット市場がまたまた強度の心不全を起こす可能性がある、ということに、ポールセンもようやく気づいたからに違いない。(これについては12月4日付けの記事『ビッグ3救済劇:倒産と負債』で書いた。)

クレジット市場では、セカンダリー市場で企業債についてるスプレッドはいまだに遠くぶっ飛んだ水準にあって、プライマリー市場で資金調達ができない状況が今尚続いている模様。

(セカンダリー市場でのプライシングが全く正常化してない状態なのに、プライマリー市場でスルスルと資金が回り始めるなんつーシナリオは、キャピタルマーケットではありえない。)

T.A.R.P.は当初「証券化されたモルゲージ債などの問題資産を買い取る」ということで発足したのに、それがいつしか、「金融機関への資本注入」に姿を変え、「モルゲージだけじゃなくてクレジットカードも」という大義名分もくっつき、今度は「一般企業も助けちゃお!」と、どんどん姿を変えていってる。

わたしが考えるに、T.A.R.P.を用いて対象外の一般企業を救済しようとするならば、T.A.R.P.から$140億ドルに必要なリスク・キャピタルを銀行に注入してやり、政府が保証をつける形で商業銀行から融資をまわし、短期の流動性については中央銀行がシンジケート群の後ろ盾に回ってあげる、という3人4脚のやり方するっきゃないんじゃないかと思うんだけど・・・。

詳細は今週末にでも出てくると思われる。具体的に、どうやって、T.A.R.P.の仕組みで合法的にブリッジローン(つなぎ資金)をビッグ3に融通するのか。楽しみに詳細を待ってることとしよう。

『合衆国の世紀』は実際に終わっていたのか・・・

ここのブログで米国債が一人勝ちしてる 状況は何度か記事に書いたが、グラフでイールドの推移をみると、その凄まじさがハッキリと見える。

(下グラフは、30年トレジャリーのイールドインデックスTYX過去1年。債券はイールドが低下すると価値が上昇するので、左のグラフは米国債の価値が上がっている、という意味。)


















言っとくが、米国債のサプライは減ってるどころか増えていて、今後もさらに増えるんだからね。






債券サイドがこうして【バブってる】のに対し、対する米株式市場はというと、ボラティリティが連日すんごいことになってる。

下グラフは、S&P500のインプライド・ボラティリティを示す指標であるVIXの過去5年の推移。

これみたら、深く考えなくても、異常事態だというのが手に取るようにわかる。



















先月90をヒットするかってときは、どうなるんだとドキドキした。

少々おさまってきたとはいえ、まだ50超のレンジにいる。

去年VIXが40超えたと言って市場で騒いでいたのが、なんだか、すごく遠い昔のよう・・・。

そして、今日メールで送られてきたチャートを見て、おもわず、ゲッ!と声が出た。


















NYダウがピークをつけたのは去年10月だけれど、同インデックスを国際通貨(金価格)でノーマライズ(Normalize)してやって、米国株の過去30年のパフォーマンスを眺めると、2000年前後をピークにして、その後はずっと下降トレンドを辿っていたんである。

この8年ほど、世界の中における合衆国の「相対的な競争力」が全般に下がってるな~・・・と漠然と感じることしきりであったが、このチャートみたら、その感覚とみごとにシンクロしてるではないか。

21世紀に入ってからは、ずっと下降線・・・『アメリカの世紀』は8年前に終わっていたというのか・・・

この下降トレンド、どこぐらいまで落ちて行くのだろうか。

少なくとも、いま、米自動車産業で起こってることを見る限りは、まだ底は見えてないということか・・・。

Wednesday, December 10, 2008

米連銀、「自前」で資金調達?

ここのブログで、12月1日の記事に、

「連銀自身のバランスシート大丈夫か・・・」

と書いたが、やはり案の定のニュースが今朝のウォール・ストリート・ジャーナルに出てた。

http://online.wsj.com/article/SB122888021757894023.html

中央銀行がみずから債券を発行し、市場から直接資金調達したいと言い出してる、というのである。

債券出すのは財務省、おカネ出すのはFRB、といちおう役割分担してるんだが、FRBも債券の発行体になりたい、と。

WSJによると、8月から現在まで、FRBのバランスシートは何と!$900 Billion からあっという間に$2 Trillion に膨れ上がった、という。 (ゲッ!)

流動性が完全に失われてしまったクレジット市場では、CPだMBSだRepoだと、何でもかんでもFRBがスーパーヒーローよろしく自分のフトコロに抱え込んで、その場凌ぎやりまくってるんだから、数ヶ月でバランスシートが2倍に膨れるのは、当たり前である。

財務省は財務省で、7000億ドルのT.A.R.P.金融市場救済資金を調達するのに、米国債をだしまくらなくては間に合わないと言う状況で、国が発行できる債券の額の法的上限に近づいてしまうかもしれないというのが、FRBが自前発行するという案の背景にあるらしい。

「皮算用」としては、政府が発行しようが、国の中央銀行が発行しようが、発行体が変わるだけで、どっちも国の信用力だからさー、と市場をまるめこもうとしてるのはアリアリ。


しかしね・・・その皮算用は、おおいに甘いな。

わたし自身がトレーダーなら、対トレジャリーでスプレッド乗っけてもらわなきゃ、んなもん、絶対にトレードしたくないね。 誰が買うのさ。

発行体としてみた場合、バランスシートが一気に2倍以上に膨れ上がったと聞いてイヤ~な気分なのに、貸した先のいくつかは将来デフォる可能性が高いうえに、政府からの無条件保証もつけてもらえないのだろうから、国家(ソブリン)の信用力よりリスク高いの、当たり前だもん。

今日は、保険会社AIGが実はまだ$10 Billion もの隠れ損失を抱えてるというのWSJのすっぱぬき記事もあったし。
http://www.reuters.com/article/newsOne/idUSTRE4B911320081210


AIGを筆頭に、膨れ続ける一方の金融機関のリスク量を、どんどん国や連銀に【飛ばし】続けているのが、実態だ。

この前代未聞の壮大なるリスク・トランスファー。いつまで、どこまで続けられるものやら・・・・。


連邦準備銀行法はFRBが直接起債調達する権限を明文化しておらず、この案が実現するかは不透明。でも、FRB債発行の可能性を書いたWSJの記事は、いろんな意味でけっこう重要なんで、ここに全文張っておくことにする。


Fed Weighs Debt Sales of Its Own

Wall Street Journal, December 10, 2008

By JON HILSENRATH and DAMIAN
PALETTA

The Federal Reserve is considering issuing its own debt for the first time, a move that would give the central bank additional flexibility as it tries to stabilize rocky financial markets.

Government debt issuance is largely the province of the Treasury Department, and the Fed already can print as much money as it wants. But as the credit crisis drags on and the economy suffers from recession, Fed officials are looking broadly for new financial tools.

The Federal Reserve drained $25 billion in temporary reserves from the banking system when it arranged overnight reverse repurchase agreements.

Fed officials have approached Congress about the concept, which could include issuing bills or some other form of debt, according to people familiar with the matter.

It isn't known whether these preliminary discussions will result in a formal proposal or Fed action. One hurdle: The Federal Reserve Act doesn't explicitly permit the Fed to issue notes beyond currency.

Just exploring the idea underscores many challenges the ongoing problems are creating for the Fed, as well as the lengths to which the central bank is going to come up with new ideas.

At the core of the deliberations is the Fed's balance sheet, which has grown from less than $900 billion to more than $2 trillion since August as it backstops new markets like commercial paper, money-market funds, mortgage-backed securities and ailing companies such as American International Group Inc.

The ballooning balance sheet is presenting complications for the Fed. In the early stages of the crisis, officials funded their programs by drawing down on holdings of Treasury bonds, using the proceeds to finance new programs. Officials don't want that stockpile to get too low. It now is about $476 billion, with some of that amount already tied up in other programs.

The Fed also has turned to the Treasury Department for cash. Treasury has issued debt, leaving the proceeds on deposit with the Fed for the central bank to use as it chose. But the Treasury said in November it was scaling back that effort. The Treasury is undertaking its own massive borrowing program and faces legal limits on how much it can borrow.

More recently, the Fed has funded programs by flooding the financial system with money it created itself -- known in central-banking circles as bank reserves -- and has used the money to make loans and purchase assets.

Some economists worry about the consequences of this approach. Fed officials could find it challenging to remove the cash from the system once markets stabilize and the economy improves. It's not a problem now, but if they're too slow to act later it can cause inflation. Moreover, the flood of additional cash makes it harder for Fed officials to maintain interest rates at their desired level. The fed-funds rate, an overnight borrowing rate between banks, has fallen consistently below the Fed's 1% target. It is expected to reduce that target next week.

Louis Crandall, an economist with Wrightson ICAP LLC, a Wall Street money-market broker, says the Fed's interventions also have the potential to clog up the balance sheets of banks, its main intermediaries.

"Finding alternative funding vehicles that bypass the banking system would be a more effective way to support the U.S. credit system," he says.

Some private economists worry that Fed-issued bonds could create new problems. Marvin Goodfriend, an economist at Carnegie Mellon University's Tepper School of Business and a former senior staffer at the Federal Reserve Bank of Richmond, said that issuing debt could put the Fed at odds with the Treasury at a time when it is already issuing mountains of debt itself.

"It creates problems in coordinating the issuance of government debt," Mr. Goodfriend said. "These would be very close cousins to existing Treasury bills. They would be competing in the same market to federal debt."

With Treasury-bill rates now near zero, it seems unlikely that Fed debt would push Treasury rates much higher, but it could some day become an issue.

There are also questions about the Fed's authority.

"I had always worked under the assumption that the Federal Reserve couldn't issue debt," said Vincent Reinhart, a former senior Fed staffer who is now an economist at the American Enterprise Institute. He says it is an action better suited to the Treasury Department, which has clear congressional authority to borrow on behalf of the government.

米国と二人三脚で笑ってた中国、今度は米国を糾弾

昨日(9日、火曜日)、米国債(3ヶ月短期)のイールド、ついにネガティブ圏でトレードされてた。1929年以来のことですって。

イールドがゼロ以下ってことは、100ドル投資しても、満期になったら100ドル以下になってる、って意味である。

それでも、米国債に突っ込んだほうがマシ、と思ってるひとがワンサカいるんである。


つい一週間ほど前、12月1日に、【Flight to Quality】で、米国債の一人勝ちになってるという記事をここのブログに書いたけど、株式や社債マーケットから流出している資金がどんどん安全度の高い資産に向かっていて、この傾向は、

もうどうにも止らない。


昨日オークションだったトレジャリーノート(4週間)なんて、クーポン0%ですと。
http://online.wsj.com/article/SB122883278593491329.html?mod=article-outset-box


今日10日は、財務省の高官がトレジャリー大量発行(2兆ドル!)になりそうと発言し、需給懸念でイールドは少し戻してたよう。
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601009&refer=bond&sid=aExnCKhMHGro


でも、1~2年前からトレジャリーに投資してた人たち、この【米国債バブル】に笑い止らんだろうな。

あの、PIMCOのビル・グロスまで、「トレジャリー、もっと買っておけばよかったよ~~ん、失敗したよ~~~ん」と泣きごと言ってた。(笑)


で、その「トレジャリーをガンガン買ってた」中国でありますが。

先週、中国政府と米国が通商・金融などについて2国間で話し合う、US-China Strategic Economic Dialogue (SED)が開かれて、ポールセンが中国に行っていた。

その席で、中国側のお偉いたちは、「現在のこの事態を招いた責任は米国にある!中国の輸出も減少してるし、困るじゃないか!くれぐれも中国の投資に損が出ないようにしてくれたまえ!!」とアメリカを辛らつに批判・糾弾したそうだ。
http://www.iht.com/articles/2008/12/05/business/paulson.php


こういう言葉は、中国人一般のみなさまには“わかりやすい政治的プロパガンダ”として通用するけど、米国の市場関係者からは「ケッ、(世界最大のトレジャリーの投資家が)何言ってやがる・・・」という声が聞こえてきそう。

中国元のバリューをアーティフィシャルに低く抑えて内需拡大より輸出優先の自国の経済政策に没頭してたのだって、あんたら自身でしょ。

米国の消費者市場を、ウォルマートとつるんで隅から隅まで Made In China の製品で埋め尽くし、貯蓄率ゼロになっても買い物に走ってるアホウな米国人消費者の姿を遠くからニンマリ笑って見てたのは、他の誰でもない、中国なんだからね。

その中国が「米国の行き過ぎた消費とクレジットの拡大が諸悪の根源である!米国はおおいに反省すべし!」などとレクチャーかましてくれちゃったそうである。

それを聞いて、わたしの口を付いて出たのは、


Look Who’s Talking.


(ちなみに、今年9月末時点で中国が保有する米国債は$5850億ドルで世界最大の米国債保有者。)

Sunday, December 7, 2008

リーダーシップの定義

毎週日曜の午前、NBCで政治ニュース番組『Meet the Press』があるが、今日放映されたのは選挙後初のオバマの独占インタビュー。
http://www.msnbc.msn.com/id/28096219/

この番組収録中にオバマはSecretary of Veteran Administration にハワイ生まれの日系人のエリック・シンセキ氏を起用することを公言し、話題になっている。


米国政府の閣僚メンバーにアジア人が選ばれるのは初めてだそう。

1942年ハワイ生まれ。 ハワイといえばパールハーバー、そのハワイで日本に対する敵意が最高潮のころに、彼は日本人の両親のもとにアメリカ人として生まれたんですね。

シンセキ氏の名前を聞いてすぐにはピンと来なかったけど、イラク戦争が始まるときに、あの戦争の仕掛け人ラムズフェルド国防長官(当時)にたてついて、徹底的に苛め抜かれたあげくにクビにされた軍人と聞いて、「ああ、あのひとか!」と思い出した。

イラク戦争開始前のストラテジー構築の段階で、ラムズフェルドとチェニーを筆頭としたネオコン派と、軍の最高指令官たちの間で意見の対立が激しさを増していたが、その軋轢を公の目にさらしたのが、シンセキ氏だった。

戦争が終了してからのイラクの国家再建にはどれぐらいの兵士を送り込む必要があるかという点について、ラムズフェルドは15万人と公表していたが、陸軍最高司令官のひとりだったシンセキ氏は議会の公聴会で「50~60万人(several hundred thousands)の兵士は必要になるだろう」と述べてラミーの逆鱗に触れた。


その問題の発言は、ここ。(イラク戦争についてのPBSのドキュメンタリーから。08:00ぐらいからシンセキ氏の公聴会のシーン。)
http://www.youtube.com/watch?v=h_yaFyErTaM&eurl=http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1017054305&owner_id=2556070


2003年2月の公聴会でのこの問題発言。3月にはイラク開戦。その後ラミーは、シンセキ氏をいじめるにいいだけ苛めまくり、シンセキ氏は同年6月に退官に追い込まれた。


そのお別れスピーチでのシンセキ氏の言葉は印象深い。彼は米陸軍のChief of Staffとして若い士官達の訓練や教育の面倒を見てきたひとだが、自分のあとに残る者達に残した言葉は、自分自身にとって上司にあたるラムズフェルドやブッシュとの困難な関係をそのまま反映していたようにも聞こえる。


"You must love those you lead before you can be an effective leader. You can certainly command without that sense of commitment, but you cannot lead without it. And without leadership, command is a hollow experience, a vacuum often filled with mistrust and arrogance."

「有能なリーダーになれるかどうかの前に、諸君は自分が指揮する部下たちを愛さなければいけない。命令を下すだけならコミットメント無しでもできるだろうが、リーダーとして指揮を取るにはコミットメント無しには不可能だ。そして、命令だけでリーダーシップが伴わないとき、それは空虚な経験となり、その空っぽの部分には不信と傲慢が充満することになる。」



ここ数年、合衆国がおかれてた状況ってのは、まさにこれ。

リーダーシップの欠如、そして、国全体が自信喪失と不信で覆われていた。

今日放映された『Meet The Press』で、オバマがシンセキ氏起用をパールハーバー攻撃の起こった12月7日に正式発表する、と述べた部分のビデオは、ここ。
http://www.youtube.com/watch?v=vXiAAeSTAhk&eurl=http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1017054305&owner_id=2556070


このビデオのいちばん最後で、インタビュアーのトム・ブロコウが「彼にはブッシュ政権に不利な発言をして職を追われた経歴がありますよね」と言うと、オバマは間髪いれずに「He was right.(シンセキ氏が正しかったのだ。)」と言った。

この短いセンテンスを発した際の絶妙なトーンとタイミングで、何故シンセキ氏が彼の政権のこのポジションに最適な人物かを強調し、直属の部下になる者へのリスペクトと信頼関係をオバマは視聴者に印象付けた。

こういう直属上司を持ってるひとが、世にどれほどいるだろうか・・・。

オバマの静かな、しかし、芯のあるリーダーシップに期待しようと思わせるインタビューだった。

どっちを向いても希望を持つのが難しい、そんな毎日だからこそ、なおさら。




ちなみに、ハーバード大学のケネディ・スクールに招かれたシンセキ氏のインタビューと講演のビデオを見つけた。

この中で、シンセキ氏は興味深いことをいくつか述べている。エンジニア関係の学位を持った者が多い軍隊で彼はデューク大学の大学院で英文学を専攻した変わり者だが軍隊で適切なコミュニケーションを取るのに国語力が非常に役立ったということ、また、戦闘経験の少ない自分が士官として配属された部隊では自分は正直お荷物になるところだったが直属の部下の的確な判断と協力で難関を乗り切ることができた経験から、強力な部隊というのはリーダーだけいてもダメで部下との強い信頼と協力関係を築く必要がある、この部下から多くのことを学ばせてもらった、彼のことは今でも自分にとってヒーローだと思っている、など。

このインタビューでも、前述のお別れスピーチで述べた言葉と同じ、「リーダーとして指揮を取る(to lead)」のと「命令を下す(to command)」のとでは違う、と述べています。

USミリタリー陸軍で38年の経験を積んだ高等指揮官シンセキ氏のリーダーシップ論は、政界で公職につくもののみならず、企業の経営者にとっても示唆するものが多いレクチャーと思いました。

ケネディ・スクールは政治学とパブリックサービスを専門とする名門大学院。この講演は『公職につく者のリーダーシップ』をテーマに各界からさまざまなゲストを招き討論するという趣向の催しのようです。講師・司会者は同校のパブリック・リーダーシップ・センターのディレクターでCNNのシニア・ポリティカル・アナリストでもあるDavid Gergen。

米国の大学院ではこの手のレクチャーを実に頻繁に開きます。ハーバードの教室に座ってる気持ちになりたい方はどうぞ。(ただし3時間だよ。笑)


レクチャー第一部(52分):
http://www.youtube.com/watch?v=ORbN0FNCYFU

レクチャー第二部(50分):
http://www.youtube.com/watch?v=NYt5SowreCY

インタビュー(57分):
http://www.youtube.com/watch?v=4ZLeaVJLxP8


戦後、日本の自衛隊や防衛大学が、何故日本が敗戦に至ったかの背景をミリタリーの見地から冷静に分析した『失敗の本質』という名著があります。

そこには、リーダーシップの欠如、軍部の信頼関係の崩壊などが指摘されており、シンセキ氏の言葉を読んでこの本のことを思い出しました。

Saturday, December 6, 2008

GMトップ、自社製の高燃費車でキャピトル入り

金曜日の米議会では、ビッグ3向け救済案が認められるかどうかをめぐり大詰めを迎えた。

先月の議会出席のとき、ビッグ3のお偉い3人が、それぞれプライベートジェットを一機づつチャーターしてワシントン入りしたことが議会のみならず米国中のヒンシュクを買い、「カネ恵んでほしいなら、もっと謙虚になれ、謙虚に!」という非難が轟々と渦巻いた。

その【反省】もあってか、今回、GMのトップは、デトロイトから自社製の高燃費車を運転して来たそうだ。ChevyのMalibu、4ドアセダン、ですって。燃費いいのか?
http://www.cbsnews.com/stories/2008/12/02/ap/business/main4642482.shtml

デトロイトからワシントンDCまでとなると、東京から大阪にちょっと車で出張、という距離じゃないよ。

いったいどれくらいの時間がかかるのか、早速、グーグルマップで調べてみた。

距離にして524マイル、運転時間8時間49分。

プライベートジェットから、4ドアセダンへ・・・それにしても、極端なひとたちである・・・。誰も飛行機に乗るな、と言ったわけではない。エコノミークラスのチケット買えば、1時間半で着いたのに。

そこで、元アナリストの血が騒ぎ、さっそくコスト対比をしてみることにした。

ディスカウントチケットのTravelocityによると、デトロイトからワシントンまでのいちばん安いチケットは往復$170程度。

Chevy Malibu のハイブリッド車のMPGは 34 Mile /Galon。(へー、この燃費なら、Toyota並みじゃん!)両地点往復1048マイルにかかるガソリンは31ガロン。ガソリンがいまガロンあたり$2ぐらいまで下がっているから、なんと、Chevy Malibu Hybrid 2009に乗れば、$70もあれば往復できるということが判明した。9時間運転する体力さえ厭わなければ、コスト効率は最高である。

(これで、ビッグ3のエグゼクティブが3人で一台の車に相乗りしてきたら、ひとりあたり20ドルちょっと、というコストである。ただし、それやると、3社のうちどの会社のどの車に乗るかでもめて、いつまでたってもデトロイトを出発できそうもないので、このシナリオはボツ。)

それにしても、わたしもヒマだな。




さて、ここからが本題。

ビッグ3の公聴会では、米議会の焦点はもっぱら、失業、失業、失業。

昨日のニュースでは、米国のペイロール(就業者数)の減少が50万人を超え、過去30年で最悪、という真っ暗闇の数字が出されていたし、失業率は先月より0.2%上昇して6.7%になっちゃった。政治家の頭の中は【失業】の二文字で一杯になってるのは当たり前。
http://www.ft.com/cms/s/0/d7c916cc-c2cf-11dd-a5ae-000077b07658.html?nclick_check=1


公聴会をしばらく聞いたが、どの議員だったか忘れたが「いまここで国がビッグ3を助けてあげないと、あなたの会社の社員は失業する、つまり、そのひとは住宅ローンが払えなくなる、つまり、もっとアメリカの住宅価格はもっと下がる、そういう意味合いもありますね?」などという幼稚園児みたいな質問をぶつけてる民主党議員もいたが、概して民主党サイドは「失業対策」を御旗に掲げ、Chapter 11は何がなんでも選択せずに、ビッグ3向けにブリッジローンを出すという方向に持っていきたいみたいである。


対する共和党側には、市場規律の最後の砦はゆずれない、と考えている議員も少なくなく、テネシー州の共和党議員Bob Corkerなどは「(クライスラー社の大株主である)プライベートエクイティのサーヴェラス社がやらないのに、何故、政府がキャッシュを入れてやる必要があるのか」という、この問題の核心に触れる質問をぶつけた。Corkerはまた、労組UAWのトップに対し、ビッグ3の財務の重しになっている組合向け健康保険のObligationsを何故エクイティにスワップしないのか、とたずね、労働組合側に努力の姿勢が足りないと暗に非難した。(Corker氏、素晴らしい質問ばかり!)
http://www.breakingviews.com/2008/12/04/Cars.aspx?sg=breakingstories


ビッグ3の中で長期的に生き残る確率がいちばん低いと見られているクライスラー社が、倒産(Chapter 11)を前提にした処理にとりかかるため既にアドバイザーを雇った、というステートメントも市場の取引中に出され、話題になった。
http://voices.washingtonpost.com/economy-watch/2008/12/chrysler_hires_bankruptcy_expe.html?hpid=topnews


こうして、ビッグ3のトップ達、さんざん議会でいじめられたが、結局、議会は最終的に$17Billion~$19Billionのブリッジローンを提供することで合意しそう、と昨日フィナンシャルタイムズが報じた。
http://www.ft.com/cms/s/0/cd01e9b8-c350-11dd-a5ae-000077b07658.html


9時間も車を運転してきた労をねぎらったわけでもあるまいが、失業率がドツボにはまっているタイミングで米国最大の製造業を見殺しにするわけにはいかんという政治的配慮が、Corker氏が提言した市場規律より優先される、というのは予想どおりの展開だ。

とはいえ、いまここでビッグ3を倒産させたら、倒産コストはものすごく高くつく。1年後、2年後に結局倒産するにしても、最終的に経済全体にのしかかる負担を考えたら、いま時間稼ぎしてやって、コストが低くなるタイミングで倒産させたほうがマシ、という考え方は一理あるからね。




しかし、ここでふと考えた。

米国の大手金融機関はどこも最近、例の7000億ドルの救済パッケージ(T.A.R.P.)から$25Billionぐらいづつ、多額の資本注入を受けている。

ジャーナリストも含め、よく世間一般では誤解されてるんだが、$25Billionの資本金は、そのまま横流しされて、$25Billionの貸出金になるわけではない。

金融機関にとっての資本金というのは、レバレッジをかけるための「種(たね)」なんである。種だから、発芽して大きくなるんである。

たとえば、「$1」の資本金があれば、だいたいその「25倍」の貸出金を創造することができる。

ビッグ3が政府に「カネ貸して」と泣きついた額は、わずか$34Billion。$34Billion の融資をするには、その額の25分の1、$1.4Billionの資本金さえあれば、できるんです。

ところが銀行側のほうは、政府から2千億ドルできかない資本金を注入してもらいながら、そのうちわずか14億ドルをビッグ3向けとして、よけておいてあげることができない、ってんだからなぁ。

それは、ビッグ3向け融資の倒産リスクがべらぼうに高い、って意味だし、そのリスク見合った金利を払えるだけのカネがビッグ3側に残ってない、って意味だし、企業に流動性を提供する側にいるはずの銀行自身が流動性の問題を抱えてる、という意味でもある。

クレジット市場の問題は、まさに『複合汚染』の様相である。

Thursday, December 4, 2008

ビッグ3救済劇:倒産と負債

今日、ビッグ3の経営者達が、政府からのローン借りるために、ふたたびDCの議会を訪れる。

昨日のCNNの世論調査では、60%以上の一般米国人がビッグ3の救済に反対、という意見だった。

下院議長のナンシー・ペロシなどは「米国の失業へのインパクトが大きいから、倒産(Chapter 11)は視野に入ってない」と力説して、断固として政府が救済すべき、という立場を取ってるけど、救済したって、ビッグ3が競争力ある企業体として甦る確率は低いんだから、救済したからどうよ、と思ってしまう。

前回、デトロイトの本社からプライベートジェットに乗ってノコノコとワシントンまで出てきたら、議会に「顔洗って出直してこーい!」と叱られて、今回ばかりは、さすがの労組UAWもヤバイと感じてるのか、政府救済と引き換えにGMは3万人のクビきりを即座断行する、という条件をのんできた。

オバマの経済チームは、Chapter 11みたいなやり方じゃなくて、ある程度、事前にコーディネートして、倒産の事後ショックをできるだけ和らげるようなやり方で、しかし最終的には会社清算の方向に持ってゆく、という“ハイブリッド”なパッケージ・オプション(Pre-Pack Bankruptcy)を模索しているみたいだ。
http://www.rgemonitor.com/globalmacro-monitor/254529/obama_team_considering_a_pre-pack_auto_bankruptcy


政治サイドは、常に「失業率」のことしか頭にないし、金融取引の詳細にうといから、ともかくビッグ3の倒産を阻止しないと、すでにボロボロになってるこの国の雇用状況が悪化することばっか、考えてる。

でも、Chapter 11 にファイルしたからといって、対象になる企業がその日を持って、すべての工場を閉鎖して従業員とその家族が全員路頭に迷う、という意味ではない。とりわけGMのような超巨大企業が風呂敷に荷物まとめて夜逃げするなんて、現実問題としてできないんだから。




政治フロントに張り付いてビッグ3救済問題を取材しているTVジャーナリズムでは、ほとんど語られない、重要なイッシューがある。

それは、ビッグ3が財務でかかえてる「巨額の借金」どうするんだよ、って話だ。

Chapter 11で清算処理に入ると、株券はゼロになるから、株式の投資家はもちろん投資額=全額パー。株はこういうときはAll or Nothingで単純だから、いいな。

でも、借金主のほうは株主みたいに、あっさりとゼロにならない。裁判所のもとで清算手続きが始まり、債券のシニオリティ(Seniority)に従って、取り分がどれくらいになるかをグチャグチャ決めてゆく。 しかも債券ってのは、カスタマイズがいくらでも効くんで、処理するのは面倒くさいしやたらと時間もかかるんだなー、これが。

金融機関の場合は【(システミックリスクのインプリケーションが)大きすぎて潰せない(Too Big To Fail)】という考え方が(賛否両論あるにせよ)関係者のあいだにある程度浸透していて、その考え方をサポートするアカデミック理論も積みあがっている。

今回、リーマン破綻後に具現化したシステミックリスクの火消しのために、ポールセンが用紙の裏に手書きで作った7000億ドルの金融市場救済策を、米国政府が即決できたのは、そういう理論的裏づけがあるからでもある。

でも、一般の大企業の場合は、アカデミックな理論サポートとか、そんなもん、ない。だから、ただだか300億ドル貸してくれというビッグ3の申し込みにも、政府はすぐにクビを縦にふらない。



ただし、大企業になると、バランスシートがでかいし、借金の額もハンパじゃない。この借金は、みーんな金融機関や市場から借りている。

大企業が突然死すると、この借金の清算過程において、市場が混乱する恐れが多分にあって、貸した額を取り戻せなかった金融機関がそのあおりで自己資本が激減する。

すると、金融機関の資本基盤の弱体化が引き金となって、システミックリスクの具現化につながってゆく、という“間接的”な悪循環が起こる懸念が出てくる。

Too Big To Fail というより、Too Big To Liquidate(=清算するにはでかすぎる)ってやつだ。



今朝のCNNの経済ニュースでは、キンパツのネーちゃん記者が「政府が7000億ドルも銀行に使わなければビッグ3も、もっと簡単に国から借金できたのに。」と言ってたけど、このネーちゃん記者は、まったく何もわかっていない。

あの7000億ドル救済措置の前例がなかったら、GMなんぞがノコノコでてきたって、議会の扉すら開かんだろーが。「どの面下げて」と門前払いに決まってる。

300億ドルや400億ドルなんて借入金は、シンジケートローンの世界では、小さくないけど、銀行からしてみたら、組めない額ではないんである。

じゃ、どうして、銀行は貸してあげないの?というと、倒産リスク高すぎて、怖くて貸せないんである。

そうした「恐怖」を払拭してやるためには、政府が、倒産リスクを無条件で保証(unconditionally guaranteed)してやるから貸してやってくれ、とでも言わなきゃ、銀行側は能面のまま動かない。

で、実際に、そういう折衝が行われていたんだよね。でも、誰も貸してくれないし、貸してくれても法外なリスク・プレミアムふっかけられるから、ビッグ3の資金繰りは日に日に悪化、しかたないんで、政府に「お願い・・・」と頭下げに行った、という図。



実際のところ、ビッグ3の借金って総額いくらかというと、GMだけで$66Billion (6兆円)もあるというんだ。6兆円の借金!どひーー!

GMが今回政府に頭さげた額は、連邦融資$12Billion、クレジットライン$6Billionの合計$18Billion。当座の流動性をまかなうためにはこれぐらい必要、ってことらしい。

でも、6兆円も借金があったら、借りてる相手の数だってハンパじゃないでしょ。世界中に債権者が散らばってる模様です。

6兆円も借金してたら、どこかの銀行だけが借金を取り返しそこなって損こいて終わり、ってわけにはいかないんだよな。

GM倒産の被害は世界中に散らばる・・・そして、ふたたび、リーマン破綻直後のように、グローバルでシステミックリスクの懸念再燃・・・そういうシナリオが、米政府にとっていちばんこわい。デトロイト周辺の失業者がどうなる、なんつーローカルな懸念とは、スケールちがう。

ということで、わたしは最終的には、政府はビッグ3の要求は呑まざるをえないと思う。

昨日3日のNYタイムズに、GMが債権者との間でデット・エクイティ・スワップ(Debt Euity Swap、略してDES)の交渉をしてることが報じられてた。
http://www.nytimes.com/2008/12/04/business/04swap.html?ref=business

いま、GMと米国の金融機関がオタオタしている状況は、日本が金融危機で大騒ぎしてた2000年代入りたてのころ、ダイエーがまさに現在のGMのような状態にあり、当時数兆円もあったダイエーの債務をどうしたらいいんだ、清算したら大損出した銀行も共倒れするぞ、ということで、日本の銀行群がみんなでワーワー悩んでたのを彷彿とさせる。

あのときも、当時ダイエーの主力行だったUFJ銀行が、ダイエー発行の劣後債を優先株にDebt Equity Swapするといって騒いでたのを、急に思い出しました。

あのときの騒ぎとまったく同じ。ただし、ダイエーは日本の外には迷惑かけなかったけど、ビッグ3の場合は世界中に迷惑かかりそうだからな。米国政府にとっては深刻である・・・。

市場の取引現場では、GMのクレジットスプレッドは滅茶苦茶に拡大していて、額面に80%のディスカウントかかって取引されてるいるらしい。ということは、ある程度の評価損は、金融機関側でもすでに計上して吸収してあると見られるから、債権者の側からみたら、GM債務の最終実現評価額が、オリジナル額面の20%以上に決着すれば、むしろ喜ばしい、ということになる。

NYタイムズの記事に紹介されてるアナリストの試算では、GMの無担保債の最終価値は1ドルに対し少なくとも40~50セントにはなるはず、という。ということは、現在の取引額20セントよりも多いわけだから、債権者にとっては、「清算しちゃったほうが、お得」という図である。

政府がウンと言っても、少しでも損失を少なくしたい債権者の集団(しかも、その額6兆円分)が、キャピトル・ヒルを出てきたビッグ3のエグゼクティブ達を渋面で待ち構えている。

政府へのお願い$18Billionで、今年の年末を乗り切るだけで$4Billion、来年$14BillionないとやっていけないとGMは認めたそうだ。でも、$14Billion って、$66Billionの4分の1以下。

政府の登場に不愉快さを隠さない債権者たちは、償還の時期がめぐってくるたびに、GMに難癖つけるだろうな。

債権者の圧力で、GMのバランスシートは縮んでゆく。そして、こういう企業の場合、バランスシートの縮小は、そのまま「失業者の増加」を意味する。株主だって収益が落ちてゆく会社に投資し続ける旨みなんてないから、逃げるが勝ち。

つまり、政府が今回とりあえず救済ローンを提供しても、清算への時間稼ぎになるだけで、自動車業界の失業者の数は増え続ける公算が高いってことだ。

何のための救済なんだか・・・。

Wednesday, December 3, 2008

30年物住宅モルゲージ5.47%に低下、住宅市場快復の兆し?

先週のFRB(米連銀)の発表 ― 準政府系金融機関(GSE)が発行する債券とMBSをそれぞれ$100Billion と $500Billion、合計6000億ドルを“直接”買い取る意思 ― を受けて、米国の住宅モルゲージローン金利が一気に低下した。



モルゲージ・バンカーズ協会(MBA)によると、FRBの発表直後から、固定・期間30年が前週の5.99%から先週は5.47%に、固定・期間15年が5.78%から5.18%に、それぞれ50bps以上もドロップした、という。



30年固定が5.47%は、たしかに、いい金利であります。米国の住宅ローンは、固定30年ものは6%切ると一般に安い、と感じるからね。



FRBの政策が金利をガンと下げ、金利がガンと下がったおかげで、住宅ローンへの申し込みが活発化、前週より112%(季節調整後)も跳ね上がった。

http://www.marketwatch.com/news/story/big-rate-drop-sends-mortgage/story.aspx?guid=%7BABF1DD99%2D9E4D%2D4F47%2D94EE%2D7E0956A6FE64%7D&dist=TNMostRead



どの金融機関も申込者への審査を厳しくしてるから、112%増のアプリケーションがそのまま住宅ローン発行残高を持ち上げる、という意味にはならないのはもちろんだけど、「住宅投資をあきらめたひとばかりじゃない」ってことで、ちょっと幸せな気持ちにしてくれる(笑)ニュースだな。



で、米株市場も、このニュースで幸せになって、今日のダウの終値は前日比172ポイント上昇した。









幸せなときは、幸せな発言をするひとも増える。今日のこの他のハッピーニュースは、「米国の住宅価格は下がり続けているが、長期ファンダメンタルズから判断すると、3.8%アンダーバリュー」と言い出してるエコノミストがいるみたいだし、
http://www.marketwatch.com/news/story/home-prices-now-undervalued-economists/story.aspx?guid=%7BE5CF55AB%2D4E86%2D4D86%2DB888%2D4EAFF46B4B97%7D&dist=TNMostRead

今日、ブルーグバーグラジオを聞いてたら、やっぱり、どこかのエコノミストだかアナリストが、「雇用統計はたしかにドン引きするぐらいひどいけど、雇用統計ってのは、Lagging Indicators で、Leading Indicator じゃないんだし、そろそろNY株価の底はできてきている、連日ボラティリティがものすごいのも、その証拠だ、などと言ってた。(ロイターの記事にこんなのhttp://jp.reuters.com/article/wtInvesting/idJPnJS829459820081203 が載ってたけど、わたしがラジオで聞いたひとが同一人物かは知らない。)

これらがその通りなら、株はいよいよ「買い時」ですかな。



でも。でも、である。



クレジット市場はまだ、本調子じゃないんだよなー。上述したモルゲージ金利低下の恩恵がしばらく継続することが重要だ。 



Flight to Quality(質への逃避)が続いているせいで米国債の一人勝ちだってのは数日前にもこのブログに書いたけど、企業債のスプレッドはまだタイトニングのトレンドが固まったとはいえないし。



クレジットスプレッドが全般に継続的にタイトニング・トレンドを描く、という手ごたえを感じるようになってきたら、自信を持って株を買おう。



株式サイドってのは、いつも「幸せを追い求める市場」。ここが一時的に幸せを感じて上昇しても、一時的で終わる可能性は常に高い。金融危機でクレジット市場がぶっ飛んだままだと、「株価の底」は見せかけに終わる可能性あるから。(これは、90年代終盤から2000年代初めにかけての日本市場が実際そうだったからね。)



わたしがいちばん注目してるのは、Citi の救済案で実行に移したプランを、あといくつ、他の金融機関にあてはめて処理するんだろう、ということです。



Citiの救済プランは、Citiにとっては、Good Deal なんてもんじゃない。最終処理コストは額面の20%で済むんだからね。残りのロスはみーんな国につけるんだから。プットオプションだーい!(詳細は別途書くつもり。)



Toxic Assets の売却損に20%のフロアつけられるなら、政府への不良資産売却は他行でもきっと進捗する。そうすれば、他の大手金融機関も売却を始められるだろうし、かなりの自己資本がフリーアップされるから、クレジットの再拡大も夢物語じゃなくなるもんな・・・・。不良資産がB/Sに現物で乗っかったままだと、信用拡大しろといわれたって、銀行だって、できないじゃん。



でも、こういう自己資本とクレジット拡大のリレーションシップなどが全然理解できないひとたち(代表者=マイケル・ムーア)が、マスコミに登場して、Citiは救済するのにGM救済しないのは変!とか、わめくんだよなぁ。マイケル・ムーア、今日もMSNBCのキース・オルバーマンの番組に出演して吼えてたけど、このひとって、毎度のことだけど、ウザイったらない。

仕事は24/7・・・か?

ペンシルバニア州知事エド・レンデル(民主)が、オフレコ(のつもり)で洩らした「一言」を批判され、謝罪した。
http://firstread.msnbc.msn.com/archive/2008/12/03/1697576.aspx

次期大統領に選出されたオバマは、移民政策も含めた国土保障局の総指揮責任者としてアリゾナ州知事(民主)ジャネット・ナポリターノに白羽の矢を立てた。

アリゾナ州はメキシコと国境を接しており、同州のメキシコからの不法移民問題でナポリターノ氏は経験を積んでおり国土保障局の局長として最適、いうのが理由らしい。

その彼女をつかまえて、レンデル氏ったら、 Janet Napolitano is perfect for the position of Homeland Security Secretary, in part, because she "has no family." (ジャネット・ナポリターノはこの役職にはぴったりだな、彼女には家族もいないし。

レンデル知事、マイクは切れてると思い込んでたらしいんだが、マスコミのマイクにこのひと言がシッカリ入ってしまったんですなー。

レンデルさん、本音を洩らすときは、まわりにマイクロフォンがないかどうか、今後よーく気をつけましょうね。(笑)

レンデル氏は「わたしが言わんとしたことは、ジャネットはわたしと同じで休みなく一日24時間、週7日働きまくる、そういう人だ、という意味だ。」と釈明したが、「家族のいる女性は、仕事の優先順位が低くなる」という意味に解釈したひとのほうが多かったようだ。


レンデル発言とは逆に、「家族がいない女性」だから職務遂行に重要な「何か」が欠けている、という意見を吐いたひともいた。

2007年1月の議会公聴会に召集されたライス国務長官に対し、カリフォルニア州選出議員のバーバラ・ボクサーが「(ライス氏は独身で家族がいないから)イラク戦争で兵士を失った家族のように失うものはない」とライス氏を個人攻撃したのだ。

このボクサー発言も、後日方々で批判されたし、ホワイトハウス報道官は「フェミニズムの後退」とも表現した。

「女性のプロフェッショナルに家族がいる、いない」が、どうして、その人のプロとしての仕事ぶりや判断力に対するイッシューになるのか。

家族がいると仕事の妨げになる?

家族がいないと職務を遂行できない?

どっちだ?(笑) 

どっちでもいいだろ?

女性だろうが、男性だろうが、プロフェッショナルなんだから、「家族あるなし」じゃなくて、「プロフェッショナルとしての仕事ぶりと結果」で能力を判断してよね。

自分の中で「家族」や「仕事」の優先順位をどうつけるかは、男女にかかわらず、各人がつけるもの。

他人にとやかく言ってもらいたくないし、他人の入り込む話でもない。その人その人のチョイスなんだからさ。

かくいう私自身も、ふりかえれば、文字通り【仕事は24/7】のライフスタイルを20年近く続けた。

20年間の過去をやり直すわけにもいかないし、そのときはそれが最良と思っていたんだし、得たものもそれなりに大きかったのだから、自分の選択を後悔しているわけでもない。

でも、素直な気持ちで振り返ると、他のやりかたもあったかもな・・・と正直思う。でも、それは、わたしの、わたしだけのための「反省」ね。



ところで、ぜんぜん話は変わるが「反省」で思い出した。

妻のヒラリーが国務長官になるのを控え、夫であり元大統領であるビル・クリントンが今日のCNNの独占インタビューに出ていた。
http://www.cnn.com/video/#/video/politics/2008/12/03/bts.bill.clinton.rao.cnn

そのインタビューの最後のほうで、「(大統領が)家族と過ごす時間」について話題が変わり、そこでビル・クリントンがふと述べた言葉は、わたしがずっと感じていたこと、そのものだった。

言葉通りではないかもしれないが、趣旨としては、彼は次のようなことを述べたのだ。



「いま自分が現役で政治家をやっていたころのことを振り返ると、わたしは、いつも疲れていた。自分は仕事をするときは、いつも仕事にのめりこむ。でも、そのために、わたしは、いつも疲れていた。人間は疲れていると、最良の判断ができなくなるものだ。」

ビル・クリントンという政治家は骨の髄までポリティシャンで、政治的野望のためには手段を選ばぬ策士という側面もなきにしもあらず。Slick Willie というあまり有難くないあだ名までつけられたひと。

でも、こういう言葉が彼の口から出てくるとき、何故、ビル・クリントンが一般大衆に人気の高い政治家だったかが見えるな。

このひとは、 I am one of you. というメッセージをさりげなく伝える天才。

Monday, December 1, 2008

感謝祭後は悪いニュースばっか、米国債の一人勝ち



今日のNYダウ、700ポイント近くも下げて、先週の上昇分の半分以上を一日で吹き飛ばした。



NBERによると、米国のリセッションは1年前から始まってたそうである。http://www.marketwatch.com/news/story/Recession-began-a-year-ago/story.aspx?guid=%7BFDD60E1C%2DDD65%2D49AB%2D8421%2D507B79C14220%7D

NBER(National Bureau of Economic Research)ってリサーチ機関は、米国の景気の状態に「お墨をつける」のが唯一仕事のような機関。そこが「米国はどっぷりリセッションだ」と言ってるというだけで、こうしてニュースになる。

しかし。

そんなわかり切ったことをいまさらNBERに確認してもらったって、こちらとしては「はぁ、やっぱりそうでしたか・・・お疲れ様でした・・・」と弱々しくねぎらうしかない。



ブラックフライデーの売り上げが3%増だの7%増だの、そんなのも、どうでもいい話。売り上げは確かに伸びたが、客寄せのためにディスカウントかけすぎて、原価割れして、“ブラック(黒字の)フライデー”のはずが”レッド(赤字の)フライデー”になったトホホな小売業者もいるらしい。前回も述べたが、長期的に下向きの状況下で一時的な売り上げが増えるか減るかなんてのは、デイトレーダーは別として、トレンド眺めてる連中には、一切無意味な議論だよ。



12月15日に、連銀のFOMC(ポリシー会議)があるが、さらなる金利の下げを市場は期待してる。FFレートは現在1%、2003年と2004年の金利水準と同じ。これ以上のFFレートターゲットは歴史的な低金利水準となるが、今日のテキサス講演でのバーナンキ連銀議長の発言にも出てたけど、(日本のように)政策金利をゼロまで落とす、ってのは、すでに連銀の視野に入ってるのは明らか。

"Although conventional interest rate policy is constrained by the fact that
nominal interest rates cannot fall below zero, the second arrow in the Federal
Reserve's quiver -- the provision of liquidity -- remains effective,"

(通常の金利政策は名目金利がゼロより低くなることはないという事実に制約されるが、流動性の確保という連銀のもうひとつの政策手段は有効に使っていきたい。)

Wall Street Journal 09.12.01 : http://online.wsj.com/article/SB122815304785769411.html


でも、ゼロまでは100bpsしか残ってない・・・。


ではどうやって市場の「流動性」に手を打つかというと、米国債やGSEなどの政府保証債の【買い戻し】を進めるらしい。


この発言を受けて、今日の米国債の長期イールド、当然ながらドバーと20bpsも低下した。30年債なんて26bps低下でイールド3.182%、1977年以来の低水準ですと。米国債の一人勝ち。


でも、この一年ぐらいの連銀みてると、保証は出しまくるわ、CPは買いまくるわ、ローンは出しまくるわ、訳わからん資産を担保にレポ結ぶわ、さらにはエージェンシー債も米国債もドーンと買いましょう!と胸張るわ。


この、「連銀への市場リスクの一極移動集中」を連日見せられてたら、こちらも部外者とはいえ、「金融機関のバランスシートも心配ですが、中央銀行自体のバランスシート、そちらも大丈夫なんでしょうか・・・」と心細くもなるではないか。


で、注目のクレジット市場はどうだったか、というと・・・


IG企業債CDSインデックス、今日だけで23bps拡大して263bps、ヴァリューで史上最悪まであと一歩の77まで落ち込んでるという。
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20602007&sid=aCCUwx_JVw4w&refer=govt_bonds


ダメじゃん・・・


金融機関のCDSになったら、見るのも怖いから、あえて確認しない。(笑)