Tuesday, January 26, 2010

AIG公聴会はオバマの一般教書演説の【前座ショー】(予告編)

明日(27日)、米東部時間午前10時より、米議会の委員会のひとつ『Committee on Oversight And Government Reform』にて、AIG問題に関する公聴会が開かれる。お題は、

”Factors Affecting Efforts To Limit Payments To AIG Counterparties”
(AIGのカウンターパーティーへの支払いを制限する試みに影響を与えた要因)

昨年からずっとグズグズと続いているAIG問題の中でもとりわけ政治問題化したポイント、「AIGのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のカウンターパーティー達が損失を蒙ることなく額面(Face Value)で決済を受けた背景には、一部の大手金融機関への優遇があり、また当時の財務省と連銀がそれを承知で情報隠蔽に積極的に加担したのではないか」という疑惑にフォーカスして話し合いがもたれることになっている。

この公聴会の様子は、明日、同委員会のサイトにてストリーミングされます。興味ある方は、時間になったら、こちらのページの『Connect to the Live Webcast』へ。

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これまでの成り行きを少し整理しておこう。

デリバティブス子会社AIGFPから発生する巨額の損失に耐えられず崩壊寸前にAIGに、2008年の9月に$850億ドルの公的資金による緊急融資がNY連銀経由で融通された。これのおかげでAIGは目先必要なキャッシュをまかない、【流動性枯渇による倒産】を回避できたわけであるが、2009年の1月か2月ごろに、その資金の使い道の詳細を公表するしないで、政界とAIGが揉み合って大騒ぎしてたのを覚えておられる方も多いであろう。

その後、マスコミの攻撃と政界の圧力にさらされて、AIGは去年3月15日、公的資金が流れていった先のCDSカウンターパーティの名前を公表するに至った。(そのときのプレスリリースはこちら。)

ここで公表されたカウンターパーティの名前と額は、こんな感じ。
 ‐Goldman Sachs ($12.9 billion)
 ‐Merrill Lynch ($6.8 billion)
 ‐Bank of America ($5.2 billion)
 ‐Citigroup ($2.3 billion)
 ‐Wachovia ($1.5 billion)

GSの額がなんと言ってもダントツで大きく、AIG救済の真の目的はGS救済だったのではないかという見方が広がった。AIG救済を決定した当時の財務長官だったポールソンが元GSのCEO、ガイトナーは連銀時代からGSと仲良しこよし、さらにはNY連銀ボードメンバーのスティーヴン・フリードマンも元GSのCEOで、GSがカウンターパーティになっているCDSを額面清算するという決定が下された“後”の12月と1月にフリードマンがGS株を買い込んでいたということも判明し、きな臭さが充満した。

AIG問題は、去年の3月~4月にかけて、株急落のパニックと合わせて最高潮を迎え、「ボーナス魔女狩り騒動」に発展したり、「AIGはジャパニーズスタイルでハラキリしてお詫びしろ!」と叫ぶ政治家も出てきたりして、ほとんどワイドショー状態。

だがその後、株価上昇のウキウキ感に消されて人の口の端にあまり出なくなり、この問題も沈静化したかのように一度は見えた。

しかし、去年の11月になり、TARP資金の使途を監視する役目を担った連邦準司法長官(Assistant Attorney General)二ール・バロフスキーが、政府がAIGに融通してやった金のうち$62ビリオンはカウンターパーティとなった一握りの大手金融機関に渡り、当時CDSの市場価値は額面の半分程度だったにも関わらず額面どおり支払ったことで、公的資金が不当にこれらの銀行に流れたという趣旨の報告書を提出。

さらには、今年に入り、AIGとNY連銀とのEメールのやり取りの中に、デリバティブスの満額支払いを公表しないようにという内容でNY連銀からAIGに指示が行っていたというメール群が見つかり、下院議員のダレル・イッサ(カリフォルニア州・共和)がこれについてのインベスティゲーションを提唱し、関係者は議会の委員会に召集された。

AIG救済当時に財務長官だったポールソン、NY連銀プレジデントだったガイトナーは共に、自分らは満額での清算を決定するプロセスには直接関与しなかったし、AIGに対してカウンターパーティ情報の公開を控えるよう圧力をかけたことはない、と嫌疑を否定した。

今回の公聴会には、こうしたインベスティゲーションの一環で、果たしてAIG経由でカウンターパーティに渡った問題のカネが正当なものだったのか、何故カウンターパーティに市場価格ではなくParで支払うことにしたのか、情報公開について隠ぺい工作が行われたのか、などが問われることになる。

そして、世間の興味のあるところとしては、昨年通じて『悪の権化』のように叩かれ続けたゴールドマンサックスの正体が、やっぱり「巨大な吸血イカ」なのかどうか、この公聴会にて暴露されるのを、多くが内心期待してるというのも、事実である。


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27日の公聴会には、ポールソン、ガイトナー、フリードマンのほか、NY連銀の法務責任者トマス・バクスター、AIGの元CFOエリアス・ハバイェブなどが証言者として招かれている。

26日午後になって、ニューヨークタイムズが、フリードマン/バクスター/ハバイェブが翌日の公聴会で述べる予定のスピーチの原稿(※)を入手したとして、それをネットで流した。

A Preview of the House’s A.I.G. Hearing
(New York Times, 1/26/10)

これによると、バクスター氏は、AIGが倒産することになれば、その影響はとめどもないものとなり金融システムと経済に大きなダメージを与える恐れがありAIG救済は必要だったという従来の路線で証言を進めるらしい。

また、AIGのデリバティブス・コントラクトの支払いを額面どおり行ったことについては、「ほとんど時間がなく、実行リスクも膨大で、11月10日の締切日までにディールを完結しなければ多大な被害が起こることが目に見えていた(“there was little time, and substantial execution risk and attendant harm of not getting the deal done by the deadline of Nov. 10.” )としている。

11月10日はAIGの業績発表の日で、格付け機関が格下げしようと待ち構えていた。ここで格下げになると、AIGはさらに担保の提供を迫られ、流動性逼迫の問題はさらに悪化したであろうとバクスター氏のスピーチ原稿にはある。

また、たとえベストのシナリオどおりに行ったとしても、カウンターパーティがディスカウントの条件をのむとは考えにくい状況にあり、そうした状況下では、連銀には全くと言ってよいほど交渉力が残されていなかった、と。(〝Under the circumstances, the Federal Reserve had little or no bargaining power.”)

AIGの元CFOハバイェブ氏は、バクスター氏の証言にほぼ沿った内容を述べる模様。

フリードマン氏も、自分はAIG救済資金の最終決定およびカウンターパーティへの支払いに一切関与しなかったと述べるらしい。また彼は、NY連銀のチェアマンを務めながら、GSのディレクター職も同時に持ち、その彼が(タイミングよく)GS株を購入した点についても触れることになる。(彼がGS株を買った08年12月と09年1月のGSの株価は$70前後。)

このGS株購入のディフェンスとして、フリードマンは彼がGSと関係があるということは当時から周知の事実であったし、GSがAIGのメジャーなカウンターパーティであるということも知られていた。株購入の際には、規定どおりGSとNY連銀の法務部から許可を事前にもらった、としている。

と、まあ、以上が、公聴会の「予告編」であります。(笑)

※3名それぞれが27日公聴会で予定しているスピーチ全文は、上のNYTの記事リンク中にあります。

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MHJ筆者も公聴会は見ようと思っているが、見る前から容易に想像できるのは、

「この公聴会は、質問する側にあたる政治家達のほとんどが、ウォール街関係者を叩きまくることでマスにアピールする絶好のチャンスにしようと手ぐすね引いてる」

ということだ。

前々回のMurray Hill Journalにも書いたが、伝統的に民主優勢だったマサチューセッツ州で、民主党は無名に近かった共和党候補に上院の席を明け渡した。以来、オバマ民主党は、その痛手から一刻も早く立ち直るため、いっせいにポピュリスト路線を強めている。

マサチューセッツでブラウン勝利が決定した日の翌日のロイターに、

「ブラウンの逆転劇は誰も予想しなかった政界のブラックスワン、マ州で敗北をきした民主にとって、残された数少ない実弾のひとつがウォール街叩き。民主サイドのウォール街イジメは激しさを増すだろう

という予言めいた内容の記事コラムが掲載された。

Brown win could spark Obama war on Wall Street
(Reuters, 1/20/10)

そして、実際、補選結果を境にして、この記事通りに事は進んでいる。

先週22日、オハイオ州で一般市民を前に演説するオバマをTVのライブで眺めながら、オバマ自身もポピュリスト路線にクビまで漬かる決心したと感じたというのは、そのときのツイッターでも報告した。

27日の夜には、オバマが大統領になって一年目の一般教書演説が行われる。

金融改革法案、ミドルクラス向け減税案、予算フリーズ、ヘルスケア改革ーー。

これらを引っさげて、オバマは大統領として最も重要な長時間演説に臨む。

この演説で急速に失われている求心力を取り戻し、離れかけている有権者を自分の味方につけなければならない。

失敗は許されない。

そう、27日午前から始まる公聴会、これは同日夜のオバマ一般教書演説を盛り上げるための【前座ショー】なのだ。

27日昼間は公聴会でウォール街を袋叩きにして民衆を味方に付け、夜はオバマの演説で民衆を酔わせ、28日には前日の袋叩きの余韻が冷めぬうちにバーナンキ再任投票で締めくくり、と、まぁ、こういう予定表である。

最終的にオバマにとって吉と出ようが凶と出ようが、いずれにしても、全身青痣だらけになるのは、明日の公聴会に呼ばれた者たちなのだ。

前座ショー閉幕後、ガイトナーが生きて出てこれるか、乞うご期待。





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1 comment:

Anonymous said...

日本でも公的資金入れた時の銀行の高給叩きはすさまじいものがありましたね。しかも宮沢は入れるべき時に入れず失われた10年 20年?を作り出したことを考えればまだましなんでしょうが。