China Scientists Lead World in Research Growth (FT, 1/25/10)
記事によると、過去30年間にBRICsの4国から出された科学研究論文10500本を分析したところ、圧倒的に中国が論文数の増加ぶりが目立ち、その増加ペースは30年間鈍ることがなかった、という。研究論文の多さでは、現在、中国は米国の次につけているが、このペースが続くと2020年までには米国はその地位を中国に譲り渡すことになろう、とも書かれている。
中国発の研究論文のクオリティに関しては【玉石混合】の感はぬぐえないようであるが、1981年からの30年間で論文数は実に64倍、現在出される論文のうち9%が少なくとも一人の欧米の研究者が加わる共同研究で、クオリティは確実に上がってきているそうだ。分野としては、とりわけ化学と材質科学(Materials Science)の分野で強みを発揮しているらしい。
(以下FTの記事より抜粋)
(前略) three main factors are driving Chinese research. First is the government's enormous investment, with funding increases far above the rate of inflation, at all levels of the system from schools to postgraduate research.
Second is the organised flow of knowledge from basic science to commercial applications.
Third is the efficient and flexible way in which China is tapping the expertise of its extensive scientific diaspora in north America and Europe, tempting back mid-career scientists with deals that allow them to spend part of the year working in the west and part in China.
中国の科学研究を推進するファクターは次の3つ。第一に、中国政府による巨額投資。科学分野への国家による投資は、小中学校から大学院のすべてのレベルで、インフレ率をはるかに上回るペースで増加している。
第二に、基礎科学から商業分野へのアプリケーションまで科学知識のフローが組織的に体系付けられていること。
そして第三に、中国人研究者は北米と欧州に広く散らばっているが、中堅どころの研究者達に年の一部は欧米で働き残りは中国で働くのを許可するなどして、彼らの専門知識に効率よく柔軟にタップしていること。
FT記事によると、BRICs4カ国を比較すると、なんといっても中国がダントツだが、ブラジルの成長ぶりも目立つ。一方で、インドは成長が鈍りぎみ、そしてロシアは逆に低下しているという。
- ロシアについて。20年前は、ロシア発の科学研究は他の3カ国が発表した論文総数より多く、科学分野のスーパーパワーだった。しかし、2008年になると、ブラジル、インドよりもロシアの論文数は少ない。ソビエト連邦崩壊後に研究開発費の大きな削減が起こり、それが原因だという。そのためロシアの研究者の海外流出が続いた。だが、才能ある研究者はまだ多く残っており、海外との共同出資などの方策を模索すべきだという声がある。
- ブラジルについて。他の3国と比べ、農業、生命科学、環境科学などの分野でとりわけ研究が進んでいる。1981年にはインドの7分の1しか論文生産がなかったが、2008年にはインドと同水準に並んだ。バイオ燃料や航空宇宙エンジンでも世界を牽引している。
- インドについて。中国同様インドも、NRIs(Non-Resident Indians)と呼ばれる海外在住の研究者が大勢いるが、彼らは帰国するとリサーチよりもビジネスに従事することが多い。インドでは、ハイテク産業と地元研究基盤とのつながりが脆弱で、最高学府とされる大学でもトップクラスの教授陣を確保するのが困難。これがインドの大学が国際比較で上位に食い込めない理由になっている。インドの大学が抱えるもうひとつの問題は、インド国内で志願してくる学生や教授に対応するばかりで、国際的な展望のもとに研究所を育て上げてゆくという姿勢に欠けている点。この問題に対し、インド政府は米英の大学とリンクを強める体制に入る予定という。
★ ★ ★
このFT記事を読みながら、MHJ筆者が思い出していたのは、「日本では科学技術関連事業の予算が削減されている」という話だ。
政府のそうした動きに対し、ノーベル賞を受賞した化学者が苦言を呈しているという記事を数ヶ月前に読んだのを思い出し、探してきた。
ノーベル賞野依氏 仕分け批判
(毎日新聞 - 11月25日)
文部科学省の政策会議が勉強会として設置した「先端科学調査会」に25日、ノーベル化学賞受賞者の野依良治・理化学研究所理事長が出席した。野依理事長は政府の事業仕分けで科学技術関連事業の予算削減が相次いでいることに「科学技術は日本が国際競争を生きるすべであり、国際協調の柱だ。これを削減するのは不見識だ」と強く批判した。
野依理事長は、先進国と比べて格段に少ない科学技術関連予算や、米国で博士号を取る人が中国の20分の1、韓国の6分の1しかいない現状などを説明し、「10年後、各国に巨大な科学国際人脈ができ、そこからリーダーが生まれる。日本は取り残される可能性がある」と指摘。「(事業仕分けは)誇りを持って未来の国際社会で日本が生きていくという観点を持っているのか。将来、歴史の法廷に立つ覚悟でやっているのかと問いたい」と疑問を呈した。
MHJ筆者は理系の人間ではないので、研究者の世界のことは何ひとつ知らない。
それでも、この10年ほどの間に「技術の日本」の衰退振りが目に余るほど感じれられるようになり、正直、愕然としている。「日本が衰退した」というよりか、「他国の追い上げがすさまじすぎて、日本の優位性が相対的に低下した」と言う方が正確なのかもしれない。
筆者のような一般素人の目からみて、それがハッキリ感じられるぐらいなのだから、科学研究に実際に携わっている者達は、どんなに強い苛立ちを感じているだろうか。
これについては、本ブログではなくて、ミクシィ日記の方で何度か苦言を述べさせてもらったのであるが(こことか、こことか、こことか、古いところではこことか)、そこでも書いたように、筆者がMBA取得のために大学院に通ってた頃(90年代初め)すでに、アメリカの大学院の理学部は、中国・韓国・台湾・インドからの留学生で埋まっていた。
あれから15年以上が経った。
一般消費者向けの電子機器やホワイトグッズなどの消費者グッズに関して言うと、ひとりの消費者としての筆者の感想は、「日本勢は韓国に完全に負けた」。
米国の消費者市場においては、自動車やカメラなど一部を除いて、正直なところ、日本メーカーは存在感すらもうあまり残っていない。今後、筆者がどんな消費者グッズを買うにしても、日本メーカーにこだわることは、もはやないだろうと思う。
産業用技術の分野は筆者はまったく知らないが、仕分けがどうしたとか言ってる国と、方や30年間ぶっ続けで科学分野に多額投資し続けた国と、科学ド素人の筆者ですら、なんとなく将来の想像がつく。
BRICsの中で中国が突出することになった「3つの要因」のうち、日本が勝ち目があるものが、果たしてあるのか。
インドは遅れを取っていることを自覚し、国家戦略として、科学分野での国際協調を押し進めようとしているとのこと。
筆者は数年前、投資機会を求めてブラジルに数度視察に行った事があるが、そこで実際に目にしたブラジルのアッパーミドルクラス以上の生活水準の高さは、筆者が想像していたレベルをはるかに超えるものだった。現地で出会ったブラジル人の多くが放つ上昇志向の強烈さは、日本の高度成長期時代の迫力を彷彿とさせるものだった。
中国もブラジルも、ものすごい勢いで上昇してきている。インドも遅ればせながら追いつこうとしている。
冷戦時代に米国と争って宇宙工学に燃えたあの国が、研究費がないために頭脳流出が起こり、いまでは、ブラジルよりも研究論文が少なくなっているという記述にも驚いた。
今朝、このFTの記事を読み、10年後、日本の科学技術の世界の中における位置はどうなっているのだろう・・・とまじめに心配になった。
「科学技術は日本が国際競争を生きるすべ」という野依氏の言葉に深く同調する。
日本政府が率先して、明確な国家戦略を立てて科学技術の分野で競争する構えを見せなければ、資源を持たない国に、この先何が残るというのか。
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4 comments:
いつも参考にさせていただいております
twitterでもよく拝見していますが、だから日本はダメだ的な論調になってしまうのはいかがなものかと思います
中国や韓国製の家電の中には日本でしか製造できないキーデバイスがたくさん含まれており、これが日本の輸出を支えていることも事実としてあると思います
金融では数字を踏まえた見解をされているので、テクノロジーの分野でもそのようなご意見を期待しております
>Anonymousさん、コメントありがとうございます。
この件は、「だから日本はダメだ」というのがポイントではなくて、「だから早急になんとかしないと本当にダメになる」というのがポイントではないかと思います。
日本でしかできない技術がある・・・そう考えていた結果、世界の携帯市場で、日本は化石と化した。日本製の携帯などほしがるひとは、世界中探したって、日本国内以外では、もう、どこにもいやしない。アメリカでは全く相手にもされていない。
わずか数年前、日本に行ったとき、日本では誰もがアメリカの携帯って遅れてるよねー、とバカにして笑っていた。実際そうだったのです。数年といえない短期間のうちに、日本の携帯メーカーは、実際に全滅したのではないのでしょうか?
中国や韓国製の家電に含まれるキーデバイスも、数年のうちに相手に真似されるか時代遅れにきっとなる。わたしはテク関係はド素人でありますが、その変換の速さから考えても、「今どうか」より、数年先のことを考えて国ぐるみで戦略を立てて本腰いれない限り、日本の将来は非常に暗いものになるという危機感を強く感じています。
また忌憚ないご意見、聞かせてください。
Trinity @ NYCさん
1番目にコメントした者です(名前を入れるべきでした...
返信ありがとうございます
日本の携帯電話についてはそのガラパゴス性によって、最初から海外のユーザーに見向きもされないものになってしまってますね
これについては、日本国内でのシェア維持とトレードオフになっておりましたが、iPhoneとGoogleの進出でこれも危うくなってきていると思います
これまでの日本の技術は国策ではなく民間企業の努力によって成り立ってきたと感じております、これはアメリカも同様だと思います
あるべき論はあまり好きではないのですが、テクノロジーについては国が後押しする形ではなく、邪魔をしないことが一番だと考えます
税金による補助金ではなく、非生産的な規制や既得権益を排除していくことで新たなイノベーションが生まれていけばよいのではないかと思います
スマートフォンでは東芝が再び奪回していますね
サムスンは大量の不良品出荷をしてしまって全滅です
外国人には相手にされなかった日本製携帯も最近はどんどん注目されるようになっています
後、韓国や中国の企業が強いのは技術が優れているからでは無くて韓国および中国の政府の強力な補助金があるからです
韓国では生産にかかるエネルギーコストに対して補助がありますし、中国では設備投資に政府が補助を出して工場および従業員宿舎を格安で建てていたりします
だから、日本から見れば
「なぜこんなに安くできるのか理解できない」くらい安く物を作れるのです
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