Friday, January 1, 2010

豪州の住宅バブル:スフレは2度膨らむか

まずは新年明けましておめでとうございます。

昨年は、Murray Hill Journalを応援してくださり、本当にありがとうございました。

今年も書き続けていく所存ですので、引き続き、よろしくお願い申し上げます。

   ★   ★   ★

さて、今年最初のエントリー、前回の「GSE支援拡大」の続きを書く予定でしたが、ちょっと寄り道させてください。

ノーベル経済学者でコロンビア大教授のジョセフ・スティグリッツ氏(Joseph Stiglitz)が、

Harsh Lessons We May Need To Learn Again

と題して大晦日のChina Daily紙に寄稿していた。

2009年を振り返り、我々が得た「教訓」は何だったのかを整理した【きわめて無難】な内容だった。以下簡単にまとめると、

  1. 適切な規制を欠いた市場は過剰に走る。
  2. TBTFは大規模金融機関に過剰なリスクを取ろうとするインセンティブを生む。
  3. ケインズの経済政策は効果的。(例:オーストラリア)
  4. 金融政策がインフレばかりに着目してるとアセットバブルを許してしまう。
  5. 金融イノベーションが必ずしも効率と生産性の高い経済に繋がるとは限らない。

2009年を通じてアチコチで語りつくされたポイントばかりなので、特筆するほどのものではないが、筆者は「教訓3」で、「大型の景気刺激策を用意して早期の段階で大量に財政投与した国ほど回復が早く、財政赤字の縮小を急ぐ国は、総需要(Aggregate Demand)が縮小し、より深いスランプに落ち込む」と主張する同氏が、成功例にオーストラリアをあげたことに、注意を引かれた。

というのは、ここにきて、優等生オーストラリアが抱える負債の問題についても、ちょくちょくメディア上で見かけるようになってきているからだ。

筆者は、オーストラリアの回復を負債の側に着目して分析し、豪米比較のグラフを用いてオーストラリア経済の現状を説明しているブログ記事を先日読んだばかり。ブログの筆者は、オーストラリア在住の経済学教授スティーブ・キーン(Steve Keen)氏。

オーストラリアについてほとんど何も見識を持たないMHJ筆者でも非常にわかりやすい内容だったのと、キーン氏の見方というのは他国にもあてはまる内容だと感じたので、紹介したい。

(以下に使用するグラフはすべて彼のブログサイトから拝借しました。)

It's Debt, Debt, Debt for Australia
(Steve Keen's Debtwatch, 12-29-2009)

   ★   ★   ★

グラフ1:家計部門の負債GDP対比-豪米比較



  • 豪州は世界金融危機から誰よりも先駆けて脱出できたと言って内輪で祝杯を挙げているが、見過ごされている不都合な真実がある。それは、オーストラリアの家計部門の債務はGDP対比で100%、米国よりも3%多いという事実だ。
  • オーストラリアの家計は近年、米国より速いペースで債務を拡大させてきている。米国の家計部門では負債の削減が進行しているのに対し、オーストラリアでは負債は増えている。
  • 家計の負債増加は、オーストラリア政府のポリシーによって意図的にもたらされた
  • 1990年には、米国とオーストラリアの家計部門の債務はそれぞれGDP対比で60%と30%程度であったが、15年後の2005年には86%で並び、その後も増え続けた。

グラフ2: モルゲージ債務のGDP対比-豪米比較



  • オーストラリアでも「ホームバイヤーに政府が補助金を出す」という米国と同様のプログラムが開始され09年はオーストラリア人口の1%以上がこの恩恵を受けた。
  • モルゲージを除く他の債務では家計部門は減少しているが、モルゲージの増加がそれを打ち消し、家計部門全体の債務はむしろ増加。

グラフ3: オーストラリア家計部門の実質可処分所得の増加率



  • オーストラリアがテクニカルな景気後退を回避するのに寄与した要因は次の4つ、(1)ルッド政権による景気刺激策$30bn、(2)追加的モルゲージ対策$40bn、(3)金利引下げ効果$40bn、(4)中国の国内景気刺激策の余波。

グラフ4: 住宅価格と所得の推移(CPI調整済み)、および過去のモルゲージ支援策のタイミング



  • しかし、1986年をベースにすると、2001年ごろに行われた対住宅政策が招いたプロパティ価格のバブルにより、住宅価格が可処分所得を乖離して大きく上回り、ここから先は、政府がなんらかの需要操作でもしない限り、前回同様の効果を出すのは困難。
  • また家計の債務がすでに極めて高水準にいるために、これ以上の借り入れを増やそうとするバイヤーが少ない。
  • そのため、2010年には、上記4つの要因のうち(2)は効果を失う。
  • さらに、(3)の金利引下げ効果も2010年には消費者物価への対抗する必要性で期待薄。

グラフ5: 家計部門とビジネス部門の対GDP債務



  • オーストラリアでは、デレベレッジはビジネス部門で2009年中に始まっているが、家計部門では、政府のモルゲージ振興策のおかげ(?)で、家計の債務はむしろ上昇。

グラフ6: 借り入れにより誘発された需要と失業率-米国(右軸が失業率、上下逆転に注意)



  • 家計の債務が50年代や60年代のように低水準であれば債務縮小による需要減少は軽微ですむ。しかし、債務のレベルが高いほど、そのインパクトは大きくなる。他のOECD諸国ではこれが景気低迷を深める力になっている。

グラフ7:借り入れにより喚起された需要と失業率-オーストラリア



  • オーストラリアの場合は、ビジネス部門のデレバレッジは進捗しており、米国と同様に、借り入れにより喚起される需要は実際下降している。
  • 結論として、家計部門に債務を追加させる政策は、単に他国が経験している状況を遅らせているだけで、景気後退を阻んだわけではない。

   ★   ★   ★

大型の財政出動が景気拡大に効果を発揮したと言い、オーストラリア政府の政策を称えるスティグリッツ氏。

いやちがう、オーストラリアでは景気が拡大しているのではなく、政策が債務を膨らませた結果として景気後退が他国より遅れているだけ、と主張するキーン氏。

以下は、キーン氏の言葉:


This is the real folly of boosting the economy by enticing households to take our more debt. Since spending is the sum of income plus the change in debt, increasing debt levels provide a strong boost to the economy. But that same process can work in reverse if households decide that they’re carrying too much debt: then their attempts to reduce their debt—”deleveraging”—necessarily reduces their spending.


家計部門にさらに債務を取らせることで経済拡大を試みるのは笑止千万だ。消費とは所得と債務の変化分の合計なのだから、債務水準を高めれば、経済は力強く拡大する。だが、消費者が借金しすぎていると自ら決断したときには、それと逆のプロセスが起こる。家計が債務を減らす(デレバレッジする)動きに出れば、消費は縮小するのだ。


筆者はマクロ経済学が専門ではないけれど、

「今回の問題は家計部門のレバレッジのかけすぎが原因なのに、それを、ふたたび家計部門にレバレッジを推奨することで問題解決しようとしている」

というキーン氏の指摘には、うなづけるものがあるな。

年始早々、遠くオーストラリアまで寄り道してしまったが、米国のファニーとフレディの問題を見る際も、これとまったく同じ分析をあてはめることができると思うんである。

米国とオーストラリアとでは、経済規模も経済の構成要素もずいぶん違う。

だが、住宅市場の活性化を政策の中心に据え、住宅価格上昇とレバレッジで消費拡大に期待しているという意味では、どちらも同じ。家計部門の債務がGDP対比100%に近いという点も、そっくり。

キーン氏によると、最近オーストラリアでは「保証人ローン」というのを銀行がやたら薦めてて、どっかから保証人を引っ張ってくれば、物件の市場価格の110%を借りられるという。米国は民間銀行が腰ひけちゃってるんで、FHAがガンガン保険を出してやって、条件緩めの住宅ローンのオリジネーションを援助している。

GSEの不良債権問題については、現存のポートフォリオから発生するであろう将来損失をキャピタルに吸収させるだけならば、従来枠の4000億ドルの資本注入額で十分と多くのアナリストが試算していた。

ところが、上限をまるごと撤廃しちゃったわけだから、誰もが直感として思うのは、GSEの資産サイズについては、実質的には制限がなくなった、ということだ。

GSEが取り込む信用リスクをさらに肥大化させることに繋がったとしても、米政府は、米国民に、もっともっと借金してもらい、家を買ってもらい、消費してもらいたがっている。

2009年12月21日付けのMHJ記事『米国債発行上限問題は来年度も蒸し返し確実』で出てきたモルスタ作成のグラフで見たように、2008年から09年の米国では、個人と企業がともにデレバレッジのフェーズに入り、替わりに政府がせっせと借金こしらえて国家全体の債務は増えている、という図であった。

2010年、米国民が【自力】で再びレバレッジモードに復活するとはいささかも想定できないので、政府は引き続きなんらかの形で国民の「借金」を応援してデレバレッジングのトレンドに歯止めかけてやらなくちゃいけない。

連銀は今年3月にてエージェンシー債の買取りを終了する予定。9月に連銀はエージェンシー債の保有残高を少しづつ減らしてゆくとか言ってたくせに、全然減ってないみたい。減らそうにも、市場に買い手がいないんだから、無理な話。

連銀という大口の買い手が消滅し、エージェンシー債市場が回らなくなったら、「国民にもっと借金させよう計画」は根底から崩れてしまう。だから、前回記事の最後に述べたように、ファニーとフレディを利用したさらなる大規模支援策を政府はもくろんでいるのでは・・・と筆者は考えてしまう。

だが、米国の一般家庭の多くが借金返済に追われているのが現状なのに、さらに借金上乗せを奨励する施策をどんなに政府が講じたところで、それが持続性のある(Sustainable)強腰の景気拡大をもたらすものかどうかは、筆者は個人的に疑わしいと感じている。

キーン氏のブログに紹介されてた豪州のポール・キーティング首相(1991~96)の印象的な一文。

A souffle is unlikely to rise twice.
(スフレは2度膨らまない。)

ケインズを信奉する学者達にとって、2009年のオーストラリアは【サクセスストーリー】だった。

2010年のオーストラリアで、スフレは再び膨れるか。

米国経済の先行きを占う羅針盤のひとつとして、注意を払ってゆこうと思う。






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4 comments:

Chee said...

あけましておめでとうございます!

オーストラリアでも同じような現象が起きているのですね。

今後のGSEがどうなっていくのか気になって仕方がありません。
それによって、我が家の計画も左右されそうです。^^;

やはり、今の家計をこれ以上借金漬けにするのはかなりきついと思います。
家計の借金の中で、レバレッジといえるのって住宅くらいだったのに、それが失速しているんですもん。
収入も伸びないし。
債務が低くなるまで、どうしても何かがしぼまざるを得ないような気がします。

vespa said...

こんにちは。

明けましておめでとうございます。
今年も応援させてください。

オーストラリアのモーゲージの対GDP倍率、すごい上昇ですね。
2000年時の0.5倍から0.9倍へ、完全に米国のような家計中心のレバレッジですね。
米国のように、証券化→モラルハザード→低品質のクレジット混入→住宅価格下落→プライム層もクレジット悪化→価格下落のスパイラル、みたいな経路があるかは知りませんが、本格的な住宅価格下落がいつ起きてもおかしくはないグラフですね。

それとも、銀行が慎重に審査していて、持ち堪えられる人にだけ貸しているのかしら(な訳ないと思いますが)。

日本のバブルは企業借入が1.2倍まで上昇しその後0.8倍にデレバレッジした企業部門中心のバブル(家計は0.6~0.7倍で安定)でしたので、いまひとつ家計のバブル崩壊は想像しにくいのですが、日本と違って経常赤字で過剰消費国ですし、影響はより深そうですね。

スティグリッツさん、今は違うかも知れませんが中国の経済政策を褒めたり、時折“あれっ”と感じます。

Trinity @ NYC said...

>Cheeさん

遅いですが、あけましておめでとうございます。収入はしばらく伸びそうもないとみんな気づいているのに、政府から借金しろ、借金しろ、と言われても・・・ですよね。今年は3月、4月ごろに、またドッチャーと、Foreclosureなりショートセールが増えそうな気配。

Trinity @ NYC said...

> vespaさん

オーストラリアって、国の面積としては合衆国とと大きさはそんなに変わらないと聞いたことがあります。でも、人口は米国3億人に対して豪州22百万人。十分の一もないですから、シドニーなどの都市圏への集中がすごいんでしょうかねぇ・・・。オーストラリアは、なにせ自分には土地勘が全くないし、豪州の証券化市場についても完全無知ですんで、腹の底で『実感』というのをなかなか持ちにくいです。GDP対比の数字だけ見ると、結構スゴイことになってるんだな・・・とびっくりしますが。

オーストラリアの銀行のNPL比率や引当率のトレンドをよく見たことがないので、住宅融資のポートのクレジットクオリティが、いまどこら辺にいるのか、それも、私はよくわかってないです。少し調べてみますね。

vespaさんご指摘のとおり、日本のバブルは今の米国の住宅バブルとは様相の違うものでしたね。怖いのは、日本型のコマーシャルプロパティのバブル崩壊と同様の後遺症(日本ではバブル破裂の3年後からさらに悪化した)が、アメリカには今年以降に来るんじゃないかという不安・・・(汗)。CREの場合は、ハウジングと違ってGSEみたいのは基本ないですからね。わたしは今後GSEが、大規模住宅プロジェクトなどを中心に、CMBSにも相当クビ突っ込んでくる、と予想していますけれども。

豪州は中国との関わりで今後の展開が大きく変わるという特徴もありそうだし、規模や見た目で判断される以上にダイナミックな経済なのかもしれないですね。少し勉強しなくちゃ・・・。