Wednesday, March 31, 2010

米国の労働力は長期的に拡大する?

15歳から64歳までの労働力(Labor Force)が2050年まで拡大し続ける国は?

答えは「アメリカ合衆国」だそうである。



Source: How America Will Beat Back China With Its Killer Labor Force (Business Insider, 3/31/10)


以下、記事より。

Thanks to a relatively high fertility rate, plus a rich culture of immigration, America is set to grow its population by another 100 million people through 2050. This is based on U.S. census projections and is supported by other projections as well via New Geography.

(1)高い出生率、(2)移民文化 に支えられ、米国の15歳から64歳の労働人口は2050年までに一億人増加の見込み。(国勢調査に基づくオフィシャルな推計)

China will have to increase worker productivity faster than the fall in its labor force each year just to tread water when it comes to GDP. Meanwhile the U.S. could have zero productivity gains over 40 years and yet achieve a 42% larger economy by 2050. Thanks to healthy demographics.

中国の場合、労働人口の伸びは2020年頃には頭打ちとなり、その後は労働力の縮小分よりも早く労働者の生産性を上げなければGDPは縮小する。一方、米国では、生産性が向こう40年間今と変化がなかったとしても、経済規模は2050年には42%拡大している。これは、健全なデモグラフィクスの賜物だ。(引用終わり)

★   ★   ★

たしかに、この図だけみると「賜物(たまもの)」ではありますが、データのサブセットにも踏み込んで分析する必要がありますね。

どこかに詳しい分析やってるひとが絶対にいるはずだし、面倒なんで自分ではやらないが、表面的な数字だけ、ざっと拾ってみた。

ウィキの『Demographics of the United States』の項をみると、

  • 米国の出生率は女性一人当たり2.05人の子供。先進国の中では最高値。
  • 米国全体の平均年齢は36.7歳。(←働き盛り)
  • 人口の伸び率は全体では年間0.977%だが、人口増加は主としてマイノリティ層で伸びている。
  • 2005年の国勢調査に基づく推計では、5歳以下の米国籍の子供の45%がマイノリティ。
  • 2005年から2006年にかけての人口増加290万人のうち、約半分がラティーノ(ヒスパニック)系マイノリティ。
  • 向こう数十年に渡り、移民とその子孫が米国の人口増加の80%以上を占めると予想。
これらを踏まえ、2008年の人種別の人口分布が、2050年にはどうなってるかというと、以下のようになってるらしい。

  • 白人(ヒスパニック系除く):68%(2008)→46%(2050)
  • ヒスパニック :15%→30%
  • 黒人(ヒスパニック系除く):12%→15%
  • アジア系:5%→9%
ということで、現在マジョリティの白人グループは2005年には、全人口の半分以下になってるという話である。

3月21日付けのMurray Hill Journal記事『子供の教育はPRICELESS』で、米国の場合は子供が減ってるという問題はないものの、子供が高校をドロップアウトするケースが多く、最終学歴によって生涯収入に大きな差がつくという話を書いた。

米国の16歳から24歳の男子の高校中退の比率は18.9%、これを人種別に分けると、
  • ヒスパニック27.5%
  • ブラック21%
  • 白人12.2%
という分布になって、中退者にマイノリティの多いのが目立つ。

また、米国の家庭の平均家計収入(2006年メディアン)は$46,326、これを人種別に分けると、
  • アジア系$51,578
  • 白人$48,977
  • ヒスパニック$34,241
  • 黒人$30,134
となり、やはり、ヒスパニックと黒人層のメディアンが、全米平均より目だって低い。

ということは、ですよ。

国全体の労働人口は、向こう40年間着実に年間1%ほど増加を続けるものの、現在の高校中退問題が手付かずのままいくと、増加した労働人口の最終学歴は低下し続け、スキルの低い労働力の割合が高くなり、米国の生産性は落ちる可能性がある、ってことだよな。

オバマは先日、学生ローン改革法に署名をし、その中で、学生ローン制度の見直しや奨学金拡大のほかに、コミュニティ・カレッジに20億ドルの予算を配分することも盛り込んで、マイノリティの学生の大学進学を援助する方針を示した。

関連記事:Obama Signs Overhaul of Student Loan Program (NYT, 3/30/10)

しかし、問題は、マイノリティの多くが、大学進学前に躓いてしまってる現実である。

やはりMHJ筆者は、コミュニティ・カレッジへの支援もいいが、できるだけ多くの生徒が、ともかく高校卒業はすべきと考えるし、地方自治体の財政難の皺寄せが子供の教育にいかないように、それへの対応を連邦政府はもっと優先的にすべきじゃないか、という思いが強いな。

さらに、こちらでよく言われていることとして、マイノリティの経済的地位が向上しない理由のひとつに、政府による「社会福祉や施し」に慣れ切ってしまって、生活保護を受けてるほうが定期収入もあるし居心地が良いため敢えて働こうとしない、という悪循環になっているというものである。

現在の民主党政権の方針の多くは、こうした社会的弱者への対応に余念がない様子だが、ヘルプと言えば聞こえがいいが、施しを期待する人が増えることは、この国の財政には決してプラスには働かない。

労働人口の数そのものが増えても、政府への依存度が高く生産性の低い層が拡大するとなれば、トップに掲げたグラフが単純に示唆するほど、楽観してはいられないだろう。

上のデータで、アジア系の平均所得が白人層をも上回っている事実に目を向けよ。米国に移民したアジア系の家庭の、子供の教育に対する熱意といったら、もうそれはハンパじゃないんである。

ああいう熱意をヒスパニック層や黒人層の家庭につけることができれば、事情は違ってくるかもしれないが・・・。

★   ★   ★

・・・とかなんとか、ウダウダ考えていたんだが、昨夜(30日)の米公共放送PBS局で、ニューヨーク市のブロンクスの高校でマイノリティの生徒達を大学に進学させようと頑張っている中国系の熱血校長先生の姿を追ったドキュメンタリーフィルムが放送されていた。

フィルム紹介サイト:Whatever It Takes(PBS)

『Whatever It Takes』というこのインディーフィルム、エドワード・トム校長の熱意に心打たれたと同時に、頑張ればできるんだという自信を彼らにつけてやることがいかに容易なことではないか、というのも強く伝わってきた。

こういう先生が、これからも、どんどん増えてくれることを切に祈ります。

Thursday, March 25, 2010

【備忘録3】続・豪州の住宅バブル

今年1月1日に、『豪州の住宅バブル:スフレは2度膨らむか』というエントリーを書いた。

オーストラリア経済が住宅価格上昇に牽引されてきたこと、同国のレバレッジ水準が米国のそれに近いことなどを紹介したが、あれからほぼ3ヶ月、オーストラリア経済はその後もなかなか堅調で、住宅価格は引き続き上昇しているらしい。

久しぶりにSteve Keen教授のブログを覗いたら、豪・米・日の住宅価格の比較のグラフがあったので、備忘録として張っておく。(上のグラフが名目、下がインフレ調整後)




米・日・豪のインフレーションの過去20年の推移は、ついったー上で非常にわかりやすいグラフを紹介頂いたので、それも忘れないよう、ここに張っておく。(2000年=100)(Thanks to @kazzmar)




これを見ると、過去20年間、米国とオーストラリアとでは、インフレーションはピッタリ寄り添うように推移したことがわかる。

ところで、キーン氏のブログサイトに寄せられた読者のコメントを読んでいるうち、以下の文章にあたり、筆者はギョッとした。

And that Australia’s record high level of debt is of no concern, because, well, this is Australia and we’re different.

「豪州の過去最高の負債レベルは懸念するに値しない。なぜなら、ここはオーストラリアで、われわれは他国とは違うのだ。」

「我々だけは違う」- このメンタリティが豪州の人々の間に蔓延しているとすれば、筆者としては、ちょっと怖い。右肩上がりが続くはずというのはバブルに酔ってる人間がみせる典型的な態度であって、借金を積み上げ続けて問題が生じなかった国は過去にないからだ。

しかし、豪州には依然として強気のエコノミストが多いらしく、キーン氏の悲観論は、同国では「Controversial」というラベルを付されているらしい。

2010年の後半、豪州経済がどんなことになっているのか、このエントリーを思い出そうと思う。

    ★   ★   ★

ところで、まったくの余談だが、キーン氏は昨年のグローバル金融危機の真っ最中に、豪州経済の経済成長に楽観的だったマッカリー証券のエコノミストRory Robertsonと口論になり、「2009年中にオーストラリアの住宅バブルは破裂すると賭けてもいい!」と発言してしまった。

しかし、住宅価格は2009年を通じて11%以上も上昇し続け、キーン氏は賭けに負けた。

賭けに負けた代償として、氏がやることになっているのは何と、キャンベラから徒歩で出発しコジオスコ山(標高2228メートル)の頂上まで登山するというのだ。

全行程224kmのハイキング。

さすが、オーストラリア大陸のエコノミスト達、やることもスケールでかいな。(笑)

だが、キーン氏が224kmもの距離をひとりぼっちで「負け犬」よろしくトボトボ歩くと思ったら、大間違い。

なんと彼は、Keenwalk.com.au というサイトを作り、「オーストラリアの住宅価格がクレイジーだと思っている同志たちよ!私と一緒にコジオスコ山まで歩こう!!」と呼びかけてるんである。

しかも、ただ歩くんじゃなくて、彼の意見に同意する人たちから募金も集めて、オーストラリアのホームレスのために寄付しようというプロジェクト。

さらには「キーンと歩こうオリジナルTシャツ」まで作って、一枚21豪ドルで売って、その売り上げもチャリティに向けるという。

このTシャツのデザインが実に可笑しくて、胸に、

“I was hopelessly wrong on house prices. Ask me how”

という文字が書かれ、それに対して

  • Timing
  • Our Debt Bubble
  • Government manipulation of the market in the form of the First Home Owners Grant.

のいずれかがグラフィクスで書かれているというんだから笑える。

このチャリティ・ウォークには、キーン氏の意見に賛同するエコノミストらがすでに何人も申し込んだそうだ。一般のひとも、もちろんKeenWalk.comでレジストレーションの手続きをして参加できる。

224kmの壮大なハイキングは、来る4月15日、いよいよ開催。参加者は例のTシャツを着込んで、キャンベラの議会前に午後2時に集合。「オーストラリアの住宅価格はクレイジー!」と訴えながら、最終日23日まで歩き続けるそうである。

遠くから、陰ながら、キーン氏を応援したい。(笑)

米国のソーシャル・セキュリティ・ベネフィット

24日付のNYタイムズに、気になる記事。

Social Security to See Payout Exceed Pay-In (New York Times, 3/24/10)

ソーシャルセキュリティの支給額が納付額を上回ることになるのは、予定より7年も早まって、今年からそうなるらしいんである!

   ★   ★   ★

アメリカのシステムに詳しくない方のために、簡単に説明する。

ソーシャル・セキュリティの給付というのは、要するに、リタイア後に国から受け取る年金のこと。米国で仕事する者は全員、ソーシャル・セキュリティ番号を付与されて、その番号に対してせっせと給与から毎回タックスの形で天引きされ、積み立て続ける。

ソーシャル・セキュリティ・ナンバー(SSN)を持っている者には全員、毎年、誕生日近くなると、関係省庁からステートメントが送られてきて、これまで自分のSSNには毎年いくら積み立てられて、引退後はいくらもらえる予定なのか、ということが明記されてくるんである。

支給開始の時期は、62歳から70歳までの間にどの年齢から受け取るかを自分で決められる。

※ もらう時期を早くすれば毎月払い込まれる額は当然少なくなる。下のグラフは66歳で月額1000ドル支給される人が、支給時期を早めたり遅らせたりしたら、月々の支給額がどれぐらい変わるかを示した表↓ (Source: Social Security Online)




引退者への支給額(=Outlay)は、現役で仕事しているひとからの納付額(=Revenue)から払うようになっているため、【Pay As You Goプログラム】と呼ばれている。

   ★   ★   ★

記事によると、1980年代からこれまで米国では、Revenueとして入ってくるキャッシュフローの方が、Outlayとして出てゆくキャッシュフローを上回っていたおかげで、その差額の累積約$2.5兆ドルが貯金されている状態である。

昨年度の米国政府の見積もりでは、Outlay > Revenue という状態が始まるのは、2017年から、ということになっていた。

ところが、(1)失業増大で給与からSocial Security Taxとして引かれるRevenueが縮小、さらに(2)リタイア時期を早めるひとが増えてOutlayが前倒し、という事態が起こり、連邦政府がもう一度計算してみたら、Outlay > Revenue という状態は今年にも始まってしまう、というではないか。

下の画像は、左が昨年の見積もり、右が今年の見積もり。(Source: NYT)




政府によるプロジェクションの詳細数字は、こちら

会計上の取り扱いとしては、支給額を上回った納付額は「保有米国債」という勘定に入れられ、そこからペーパーゲイン(実際のキャッシュを伴わない会計上の収益)の「金利収入」が発生する。今年のようにOutlayがRevenueを上回っても、その差額はこの金利収入が埋める格好になり、金額的にはカバーするに十分、とのこと。(あくまでも会計上は。)

政府によると、ソーシャルセキュリティ用の「貯金」が底を尽くであろう年は2037年と去年推計された。(その前は2041年とされていた。)

これらのプロジェクションに去年用いられた前提は、2009年の失業率が8.2%、今年が8.8%。

(だが現実には失業率は10%に近い数字のため、2037年がさらに近未来へと前倒しされる可能性は払拭できないですな・・・。)

   ★   ★   ★

1980年代の初頭にも、ソーシャル・セキュリティ・プログラムはクライシスを迎え、当時、アラン・グリーンスパンが指揮を取り、プログラムの建て直しを図った。

70年代の経済不振が尾を引いて、同プログラムは破綻寸前になっていた。その解決策には、①増税、②支給減額、③国庫からカネを引っ張ってくる、の3つしかなかった、とグリーンスパンは振り返る。政治的にもっともやりやすかったのは③だが、それをやってしまうと同制度はただの福祉に成り下がるとの懸念が出され、③はあきらめた。

(ウィキによると、このとき、短期的にRevenueを増やすために高所得者層に支給額への課税を行い、また、彼らへの支給時期についても半年間遅らせるなどして、乗り切ったとある。まさに「綱渡りのキャッシュフロー作戦」。)


   ★   ★   ★

 
以下、NYT記事から。

After that, demographic forces are expected to overtake the fund, as more and more baby boomers leave the work force, stop paying into the program and start collecting their benefits. At that point, outlays will exceed revenue every year, no matter how well the economy performs.

(政府見積もりで2014年と2015年に一時的にキャッシュフローがポジティブになるが)その後は、ベビーブーマー達が納付する側から支給される側にどんどん振り変わってくるために、米経済がどんなに好調になっても、支給額が納付額を上回る状態が続くようになる。

記事は、こうも書いている。

Analysts have long tried to predict the year when Social Security would pay out more than it took in because they view it as a tipping point — the first step of a long, slow march to insolvency, unless Congress strengthens the program’s finances.


アナリスト達はソーシャル・セキュリティの支給額が納付額を上回る年は転換点(a tipping point) になるとみなして、どの年にそれが始まるかを予想しようとしてきた。それが始まるということは、このプログラムの財務を強化してやらないかぎり、長期に渡り、ゆっくりと、破綻へと向かい国が歩を進める、その第一歩となるからだ。


連邦予算を扱うCongressional Budget Officeによると、その記念すべき「第一歩」は、今年なのだという。

80年代にグリーンスパンらが迫られた3つの選択。

それらを再び持ち出してきて、思案を重ねねばならぬ時が、予定外に早く到来したようだ。


Related Articles: http://www.theatlanticwire.com/opinions/view/opinion/Can-We-Save-Social-Security-2983

Sunday, March 21, 2010

子供の教育はPRICELESS

3月8日のウォールストリートジャーナルにこんな記事が載った。

財政難に苦しむ米公立学校、週休3日制を導入 (WSJ日本語版 3/8/10)
(オリジナル英文記事:Schools' New Math: the Four-Day Week )

「予算の穴埋めと教員の解雇防止を目的として、全米で週休3日制を採り入れる学校が徐々に増えてきている」というのである。

全米1万5000以上ある学区のうち、少なくとも17州100学区で週休3日制をすでに採用しているというのだから驚いた。

一日短縮されても、その分の学習時間は、残りの4日間に振り分けられているから大丈夫という。しかし、カリキュラムで組まれている時間どおりこなしてればそれでよしという問題だろうか。

この記事を読んですぐに思ったのは、これは働く母親たちに多大な負担を強いることになるのではないか、ということだ。

筆者には子供がいないので、そこらへんの具体的なことについては正直実感は持てないのだが、以前働いていた会社の同僚に小学校低学年の子供を持つ母親が複数おり、学校はお休みでも会社は休みでない日は、その度にあれこれ手配をせねばならず余分な経費もかかり大変だ、とこぼしていたのを思い出したのだ。

ベビーシッターが見つからなくて休暇を取らざるを得ない母親の同僚もいた。

父親も子育てに積極参加するのは当たり前になってきている米国でも、こうした事態が発生すると、どうしても母親側にシワ寄せがいく。ベビーシッター見つからないからという理由でミーティングをすっぽかした男性の同僚を、わたしは20年間、ひとりも知らない。

そして、もうひとつ思ったのは、州や自治体の予算不足という「経済問題」を、学校という場でつじつま合わせようとすることが、子供達にとって果たしていいことなのか、そして、長期的な国家の競争力維持という観点から、こうした動きは、この国(米国)にとっては最終的にマイナスに働くのではないか、ということだ。

   ★   ★   ★

とか思っていたら、昨日(20日)付けのWSJに、まさにその点について、アジアの現状も交えて問題提起するエッセー記事が掲載されており、興味深く読んだ。記事には、米国の教育現場を垣間見る具体的な数字もあり、書き留めておきたい。

エッセーの書き手は、米国の小中学校の問題提起やリサーチに携わるノンプロフィット研究所Thomas B. Fordham Institute所長で、過去に政府の教育庁副長官を務めたこともあるチェスター・フィン氏。

The Case for Saturday School (WSJ, 3/20/10)

記事によると、中国の小学生は米国の小学生より年間41日多く学校に出席しており、授業時間も30%多い。シンガポールでは学校は週40時間と決められている。韓国や他のアジアの国々では土曜日も学校があるのは当たり前で、日本も1998年に土曜日の午前中の授業を廃止したがまた考え直している。アジアの国々の子供達が理科と数学の国際試験でアメリカ人の子供よりも成績がいいのは、こうやって勉強に費やす時間が長いからだ、とフィン氏は主張する。

米国には「知識はちからプログラム」(Knowlege Is Power Program = KIPP)といって、全米で80の学校(主として親の所得が低くマイノリティの多い地域)が参加して、一日の授業時間8時間から10時間、土曜の午前も授業をし、夏休みも短縮して勉強にあて、アメリカの通常の公立学校より60%も多い授業時間を課すというプログラムがあるそうで、成果を上げているそうだ。

5月までせっかく学んだ知識も、長い夏休みから戻ってくる8月末までには子供達はずいぶん忘れてしまっていて、高校を卒業するまでに最高1.3年分の授業分がフイになっているという推計もある。

アメリカの典型的な子供は、(幼稚園から高校卒業するまで、落ちこぼれず授業に出席したとしても)18歳になるまでの人生のたった9%しか学校で過ごさない。他の時間はテレビやインターネットやビデオゲームや携帯電話などで時間を費やしているが、平均すると一日それらに7.5時間も使っていて、週53時間。これに対して、学校で授業を受けている時間は週30時間。

アメリカの小中高生が他国と比べてずっと勉強時間が少ないというのは、前々から知られていることだ。ハイスクール(アメリカの場合は日本の中3から高3までの4年間)になると、フランスの高校生が3280時間の授業を受けているのに、アメリカの高校生は1460時間。ドイツの子供は毎晩2時間は宿題に時間をとられ、日本の中学3年生の半数が毎日塾に通って課外授業を受けている。

単純に授業時間の長さを比較するだけなら、米国は極端に劣っているわけでもない。だが、その時間の中に、体育だの、ホームルームだの、映画を見る時間だの、ホリデーをお祝いする時間だのがずいぶんと混じっている。それらの時間は無駄だとは言わないが、大学進学の準備に必要な、国語や地理や算数といった【コアになる授業】を勉強するために費やされているわけではない、と氏は言う。

過去の調査研究では、米国の義務教育のカリキュラムとして、授業時間そのものを伸ばす必要はないが、その時間内の配分としては、国語・理科・算数・地理といった【コア授業】を毎日5.5時間にすべき、という推薦がまとまったらしい。

だが、現在、公立学校でそれらのコア授業に振り向けられている時間というのは、5.5時間どころか、その半分程度だという。

前述したKIPPの学校では、コアになる知識をつけるための授業時間を最大限にして、もしその場で分からないことがある子どもがいても、あとから先生と携帯を使うなどして質問できるようにして、授業中にその子一人のための説明が終わるまでクラス全員を待たせておく、というやり方はできるだけ削っているそうだ。その結果、KIPPに参加する学校のテスト・スコアは上昇した。

記事にはほかにも興味深いデータが示されている。

  • 2009年秋に「公立」の小中学校に在籍している子どもの数:4980万人
  • 2009年秋に「私立」の小中学校に在籍している子どもの数:580万人
  • 公立学校の教師一人あたりの生徒の数:15人
  • 米国の朝鮮戦争との関わりを答えられた高3生徒(2006年調査):全体の14%
  • グレート・ソサエティ政策の重要理念を指摘できた高3生徒(同年):67%
  • 高校卒業後すぐに大学進学した生徒の数:68.6%
  • 週にいちどはクラスで授業中に中断が起こったと報告された中2(米国):55%
  • 週にいちどはクラスで授業中に中断が起こったと報告された中2(日本):8%

   ★   ★   ★

日本でも、教育の現場は、学級崩壊やいじめ・自殺など多くの難題を抱えているが、米国には「米国なりの問題」が山積みのようだ。

MHJ筆者自身は、米国では大学と大学院しか通ったことがない。米国の大学に在学中は、その宿題やレポートの多さに辟易していたものだが、言葉に問題のない米国人の学生でも、図書館が閉館になる深夜まで缶詰になって勉強するのはアメリカではごく普通の風景で、日本の大学との違いに、正直愕然とした。

「遊ぶ」と「学ぶ」の両方を徹底的にやる米国のキャンパスの様子をみて、「学ぶ」に関して生ぬるい日本の大学教育のあり方は根本的に改革しなければマズイと強く思ったし、このままでは、日本の高等教育の質の低下は止められないことは火を見るより明らか、その結果、日本国は国際競争力をいつかきっと失うのではないかという懸念を、私自身は20年以上も前に抱いた。

今年1月26日付けのMurray Hill Journal記事『科学技術への投資(中国、恐るべし・・・)』で、中国が主として欧米の一流大学院に優秀な若い科学者を送り続け、国家を挙げて科学者育成に注力しているという話を紹介したが、大学以上の高等教育になると、米国には世界中の優秀な頭脳を引き付ける大学や研究所が数多くある。

ところが、【大学に行く前の段階】で教育システムから落ちこぼれてしまう子どもが、この国には非常に多い。

この国の教育システムの問題は、ハイスクールまでの段階に集中しているかのようである。

16歳から24歳までの若者のうち、高校を卒業しなかった、あるいはできなかった生徒の数がアメリカには620万人もおり、これは同年齢層の男子の5人に一人、だというのである。全人口対比の16%が高校をドロップアウト。まさにドロップアウト・クライシスである。

'High school dropout crisis' continues in U.S., study says (CNN News,  5/5/09)

このCNNの記事(2007年調査)によると、16歳から24歳の「男子」の18.9%が高校をドロップアウトするが、そこには人種による違いが明確に出る。(ヒスパニック27.5%、ブラック21%、白人12.2%、という分布)。

そして、高校を終了しているといないとでは、生涯収入に大きな差が出る。成人男子の場合、18歳から64歳までに累計される収入に50万ドル近くの差が生じる、とのことである。

米国の貧富の差を語る際に「人種」は必ず登場するファクターだが、それは単に肌の色だけではなく、最終教育水準の違いという派生形となって、ボディブローのように効いてきているのだ。

   ★   ★   ★

フィン氏は記事の中で、コア授業に5.5時間使うにしても、他の授業を減らすなど変更を加えるのは実質困難で、無理に変更しようとするよりかむしろ、今ある形の上に“追加してやる”方法が手っ取り早いだろうと説いている。また、現行のやり方を変更しようにも、教師のコミットメント、予算、親の都合、その他もろもろの問題もかかわってくる。

学習時間の確保に向けて、長期的には、テクノロジーの進化が時間的・金銭的・場所的に、より柔軟な道を拓いていってくれると期待はできる、とはしながらも、氏はこう続ける。

While glitzy technology will make such things more tempting for more kids, and well-organized (and prosperous) parents can help make that happen, millions of girls and boys are likely to continue doing most of their academic learning in places called school, during "school hours" and under a teacher's supervision.

華やかなテクノロジーが子供たちの学習意欲をかきたて、手際がよくて前向きな親たちがそれを可能にしてゆくだろうが、何百万人という少年少女たちはおそらく、学校と呼ばれる場所で、学校に行っている時間内に、教師の監視のもとに、ほとんどの勉強を済ませる、という形はこの先も変わらないだろう。



学校が2時半で終了し、夏休みが3ヶ月もあることは、多くの親にとってはベネフィットよりも苦痛のほうが先にたつだろうし、とりわけ低所得者層の家庭にとっては、子供が学校で勉強しながら過ごす時間は長ければ長いほうがいい(学校以外の場所で悪さを覚えるなどもあるので)と思っているだろう、と氏は言う。

MHJ筆者が思うに、自治体の予算不足で教師を雇えないとか、学校の時間を短くしなくちゃいけないとかに直面しているのは、往々にして、中流以下の家庭が集まる地域なのではなかろうか。

ニューヨーク市近辺を見回しても、ウェストチェスター郡のスカースデールとか、コネチカット州のグリニッジ周辺など、比較的裕福な住民が固まる地域は地域税も高いが、学区としても優秀なことで知られ、当然ながらそこの親達は非常に教育熱心だ。

そうした富裕層地域の公立学校が、カネが足りないという理由で週休3日にしました、などと言い出すとは、筆者には到底考えられないのである。

州や自治体の予算不足という経済問題が、最初から経済的に不利な地域の子供を直撃しているとすれば、そんなアンフェアなことはないし、それでなくてもすでに顕著な最終教育水準の格差は、ますます拡大してしまうのではないのか。

以下はフィン氏の結論だ。

Disadvantaged youngsters really need—for their own good—the benefits of longer days, summer classes and Saturday mornings in school. But nearly every young American needs to learn more than most are learning today, both for the sake of their own prospects and on behalf of the nation's competitiveness in a shrinking, dog-eat-dog world. Yes, it will disrupt everything from school-bus schedules to family vacations. Yes, it will carry some costs, at least until we eke offsetting savings from the technology-in-education revolution. But even Aristotle might conclude that this is a price worth paying.

金銭的に余裕のある家庭に生まれなかった子供達にとっては実際、学校にいる時間が伸びること、サマークラスに出席すること、土曜日の朝にも学校に出席することは、彼らのためにも必要なのだ。だが、子供達自身の将来のためにも、そしてますます厳しい競争を強いられている我々の国家のためにも、アメリカのほぼすべての子供達は今よりもっともっと勉強しなければならない。確かに、スクールバスのスケジュールや一家のバケーションの予定など、あらゆることに支障が生じるかもしれない。テクノロジーが教育にもたらす効果で貯金が溜まってくるまでは、コストも今よりかかるかもしれない。だが、アリストテレスもきっと、それは支払う価値のあるものだと結論づけてくれるはずだ。


そう、そのとおり。

子供の教育は、PRICELESS(値をつけられない)。

お金がないからといって、子供を学校から追い出すようなまねだけは、どうかしてほしくない。


☆☆ このトピックと関連したエントリー: 3/31/10付MHJ『米国の労働力は長期的に拡大する?


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Sunday, March 14, 2010

【備忘録2】LA港が忙しい

ロスアンゼルス港とそのお隣のロングビーチ港は、海上輸送される輸出入物資の取扱コンテナ数で全米の約4割を占める重要港湾地区。

2009年には、太平洋を挟み港湾から港湾を結ぶルートが80本から56本へと激減し、昨年の取扱高は2003年以来最悪であった。

だが、今年2月のコンテナ数をみると、かなり目立って良い数字。


Source: Trade numbers climb sharply at Southland ports
(Los Angeles Times, 3/13/10)

At the Port of Long Beach, which is second only to Los Angeles among ports that move mostly cargo containers, imports and exports increased 39.3% and 32.8%, respectively, compared with February 2009, although officials cautioned that last year's numbers were the worst since 2003.

At the Port of Long Beach, imports climbed to 207,920 containers in February from 149,299 a year earlier. Exports rose to 123,208 containers, compared with 92,781 in February last year. Overall traffic at Long Beach increased 29.9% to 413,134 containers.
  • ロングビーチ港のコンテナ数、09年2月から、10年2月へ、前年同期比%。
  • 輸入は、149,299から207,920へ、39.3%の増加。
  • 輸出は、92,781から123,208へ、32.8%の増加。
  • トラフィック全体では、413,134へ、29.9%の増加。

At the Port of Los Angeles, the growth was almost as strong, and officials there managed a rare victory in trade between Asia and the West Coast. They won some new business after a year in which port-to-port transpacific shipping routes, known as strings, had dropped to 56 from 80 as ocean carriers scaled back to stem huge losses. Imports through Los Angeles rose 29.8% and exports grew 32.6% compared with February of last year.

At the Port of Los Angeles, imports rose to 267,361 containers in February from 206,035 a year earlier. Exports came in at 147,926, compared with 111,595 in February 2009. Overall traffic at Los Angeles was up 27% to 525,459 containers.

  • 同じくロスアンゼルス港について。
  • 輸入は、206,035から267,361へ、29.8%の増加。
  • 輸出は、111,595から147,926へ、32.6%の増加。
  • トラフィック全体では、525,459へ、27%の増加。

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シンガポールの幽霊船、年末商戦を占う (Murray Hill Journal, 9/15/09)

Friday, March 12, 2010

『オフショア』から『オンショア』へ-米製造業、自国への回帰?

ちょっと気になる記事があったので、書き残しておきたい。

WSJの記事によると、キャタピラー社は海外の重機生産拠点の一部を、米国内の新工場に呼び戻すつもりのようだ。この動きはGEなど他の製造業でも起こっていて、どうもモメンタムが出てきているような雰囲気だ。


Caterpillar Joins 'Onshoring' Trend (WSJ, 3/11/10)


The trend, known as onshoring or reshoring, is gaining momentum as a weak U.S. dollar makes it costlier to import products from overseas. Manufacturers are also counting on White House jobs incentives, as well as their ability to negotiate lower prices from U.S. suppliers who were hurt by the downturn and willing to bargain.

  • 生産拠点が海外から自国内に戻ってくるのを、onshoring  或いは reshoring と呼ぶ。
  • 米国でこの動きがモメンタムを増している理由は、(1)ドル安、(2)米政府による雇用インセンティブ、(3)景気後退により痛手を受けたサプライヤー達がバーゲンに応じる用意があり、製造側の価格交渉力が上がっている、など。

After a decade of rapid globalization, economists say companies are seeing disadvantages of offshore production, including shipping costs, complicated logistics, and quality issues. Political unrest and theft of intellectual property pose additional risks.

  • 10年以上にわたるグローバリゼーションの動きが一転して国内回帰の動きになっているのは、運送費、ロジスティクス、クオリティコントロールなどの面でデメリットが認識された。
  • また、オフショア先の政治情勢の不安定さ、インテレクチュアル・プロパティの盗難といったリスクも追加的に認識。
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いまから一年ほど前、筆者はこのブログ上で、キャタピラーについて記事を書いた。

オバマは、いつからキャタピラー社の人事部長に? (Murray Hill Journal, 2/15/09)

この記事を書いた去年の2月ってのは、オバマ政権が発足して間もないころで、7870億ドルという巨額の景気刺激策パッケージを(ほぼ独断で)通し、向こう2年間で350万人の雇用創出するぞとぶち上げた頃である。当時のオバマの支持率70%超。

いま、読み返してみると、やはり、世の中そんなに甘くはなかった・・・というところである。

政権発足後丸一年経ったものの、米国の失業統計は、周知のとおり、目を覆うばかりの悲惨な数字。(チャートはCalculated Riskより)



キャタピラー社でも、その後も解雇は続き、上記WSJによれば、建設機械への需要激減を受けて米国内だけで2万人削減、世界全体の同社従業員数は09年中に17%減の93,813人まで減ったそうである。


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オバマは昨日、向こう5年間で米国からの輸出を倍増させる構想を発表した。国務省・財務省・商務省・農務省などの人員から構成される Export Promotional Cabinet と称する「輸出振興パネル」みたいな特別顧問部隊を作るそうである。

Obama Outlines Drive to Raise U.S. Exports
(New York Times, 3/11/10)

オバマは、アメリカの製造業は競争力がある、いまこそ「ものづくりのアメリカ」の本領発揮で、世界にアメリカ製品を輸出しよう!と吼えていた。

米国の産業アウトプットに占める製造業の割合は、70年代から大幅に低下し、その分、金融サービスが膨れ上がった。

だが、オバマは、米国はこれまで「世界の消費者」と言う役割に甘んじてきたが、それではダメなのだ、成長する市場はどこも米国の外にある、ボケーと指を加えて成長市場を傍観してるヒマなどない、我々はそこで他社と競争しなければいけないんだ、と力説した。

たしかに、Big3やTV家電メーカーみたいな凋落組だけ見ていると、どこが「ものづくりのアメリカ」だよと突っ込みたくもなるが、もっとあたりを見渡すと、キャタピラーがいる、ボーイングがいる、軍需産業もデカイ、アップルやシスコみたいな会社も強い、フェデックスやアマゾンみたいなサービス業も強い・・・と、まんざら捨てたもんでもない。

この国も、カネ勘定と遺伝子組み換えトウモロコシの作付けだけにウツツ抜かしてるわけではないんだよなー。(あたりまえか。)

オバマのプログラムは中小の製造業にも支援金を出すそう。キャタピラーのサプライヤーになっているような会社もその恩恵を受ける。

「グローバリゼーション」の掛け声のもとに海外に散らばっていた米企業が、本国に製造基盤を戻し始めているというのは、オバマ構想ともシンクロする動きで興味深い。

なぜかわからないが、この話、いつになく「アメリカの本気」を強く感じる。




11日ワシントンDCの輸出入銀行で行われた、オバマの「輸出奨励イニシャチブ」のスピーチ全編(25分間)。英語字幕付き。(あいかわらず、スピーチ上手い。)

【備忘録1】GSEが所有する物件数はSF市の規模

借り手がデフォルトを起こした結果、ファニーとフレディが2009年末時点で所有することになった一戸建て住居の数は、サンフランシスコの持ち家数とほぼ同じ。

According to their respective filings with the Securities and Exchange Commission, Fannie's inventory rose to 86,155 units from 63,538 in the previous year, even though the agency disposed of 123,000 homes in 2009.  Freddie Mac owned 45,047, up from 29,340 at the end of the previous year.  It sold 69,406 homes during the year.

The number of owner-occupied units in San Francisco is estimated at 127,625, according to the U.S. Census Bureau's 2008 American Community Survey.

  • SECにファイルされた資料によると、ファニーメイの一戸建て在庫は09年末で86,155戸、08年末の63,538から35.5%増加。2009年中に売却した数は123,000戸。
  • フレディマックは09年末で45,045戸、08年末の29,340戸、53.5%増加。09年中に69,406戸を売却。
  • 2社合算だと、09年末の在庫は131,200戸。
  • 2008年の調査によると、サンフランシスコ市の持ち家数は推定127,625戸。


(Source:Breakingviews