Friday, March 12, 2010

『オフショア』から『オンショア』へ-米製造業、自国への回帰?

ちょっと気になる記事があったので、書き残しておきたい。

WSJの記事によると、キャタピラー社は海外の重機生産拠点の一部を、米国内の新工場に呼び戻すつもりのようだ。この動きはGEなど他の製造業でも起こっていて、どうもモメンタムが出てきているような雰囲気だ。


Caterpillar Joins 'Onshoring' Trend (WSJ, 3/11/10)


The trend, known as onshoring or reshoring, is gaining momentum as a weak U.S. dollar makes it costlier to import products from overseas. Manufacturers are also counting on White House jobs incentives, as well as their ability to negotiate lower prices from U.S. suppliers who were hurt by the downturn and willing to bargain.

  • 生産拠点が海外から自国内に戻ってくるのを、onshoring  或いは reshoring と呼ぶ。
  • 米国でこの動きがモメンタムを増している理由は、(1)ドル安、(2)米政府による雇用インセンティブ、(3)景気後退により痛手を受けたサプライヤー達がバーゲンに応じる用意があり、製造側の価格交渉力が上がっている、など。

After a decade of rapid globalization, economists say companies are seeing disadvantages of offshore production, including shipping costs, complicated logistics, and quality issues. Political unrest and theft of intellectual property pose additional risks.

  • 10年以上にわたるグローバリゼーションの動きが一転して国内回帰の動きになっているのは、運送費、ロジスティクス、クオリティコントロールなどの面でデメリットが認識された。
  • また、オフショア先の政治情勢の不安定さ、インテレクチュアル・プロパティの盗難といったリスクも追加的に認識。
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いまから一年ほど前、筆者はこのブログ上で、キャタピラーについて記事を書いた。

オバマは、いつからキャタピラー社の人事部長に? (Murray Hill Journal, 2/15/09)

この記事を書いた去年の2月ってのは、オバマ政権が発足して間もないころで、7870億ドルという巨額の景気刺激策パッケージを(ほぼ独断で)通し、向こう2年間で350万人の雇用創出するぞとぶち上げた頃である。当時のオバマの支持率70%超。

いま、読み返してみると、やはり、世の中そんなに甘くはなかった・・・というところである。

政権発足後丸一年経ったものの、米国の失業統計は、周知のとおり、目を覆うばかりの悲惨な数字。(チャートはCalculated Riskより)



キャタピラー社でも、その後も解雇は続き、上記WSJによれば、建設機械への需要激減を受けて米国内だけで2万人削減、世界全体の同社従業員数は09年中に17%減の93,813人まで減ったそうである。


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オバマは昨日、向こう5年間で米国からの輸出を倍増させる構想を発表した。国務省・財務省・商務省・農務省などの人員から構成される Export Promotional Cabinet と称する「輸出振興パネル」みたいな特別顧問部隊を作るそうである。

Obama Outlines Drive to Raise U.S. Exports
(New York Times, 3/11/10)

オバマは、アメリカの製造業は競争力がある、いまこそ「ものづくりのアメリカ」の本領発揮で、世界にアメリカ製品を輸出しよう!と吼えていた。

米国の産業アウトプットに占める製造業の割合は、70年代から大幅に低下し、その分、金融サービスが膨れ上がった。

だが、オバマは、米国はこれまで「世界の消費者」と言う役割に甘んじてきたが、それではダメなのだ、成長する市場はどこも米国の外にある、ボケーと指を加えて成長市場を傍観してるヒマなどない、我々はそこで他社と競争しなければいけないんだ、と力説した。

たしかに、Big3やTV家電メーカーみたいな凋落組だけ見ていると、どこが「ものづくりのアメリカ」だよと突っ込みたくもなるが、もっとあたりを見渡すと、キャタピラーがいる、ボーイングがいる、軍需産業もデカイ、アップルやシスコみたいな会社も強い、フェデックスやアマゾンみたいなサービス業も強い・・・と、まんざら捨てたもんでもない。

この国も、カネ勘定と遺伝子組み換えトウモロコシの作付けだけにウツツ抜かしてるわけではないんだよなー。(あたりまえか。)

オバマのプログラムは中小の製造業にも支援金を出すそう。キャタピラーのサプライヤーになっているような会社もその恩恵を受ける。

「グローバリゼーション」の掛け声のもとに海外に散らばっていた米企業が、本国に製造基盤を戻し始めているというのは、オバマ構想ともシンクロする動きで興味深い。

なぜかわからないが、この話、いつになく「アメリカの本気」を強く感じる。




11日ワシントンDCの輸出入銀行で行われた、オバマの「輸出奨励イニシャチブ」のスピーチ全編(25分間)。英語字幕付き。(あいかわらず、スピーチ上手い。)

5 comments:

Anonymous said...

やっぱり製造業が国内に無いとお金は回らない。
日本も早くそうすべき。

Anonymous said...

<神戸新聞より>
【ニューヨーク共同】米建設機械大手キャタピラーは11日、日本法人キャタピラージャパンの明石事業所について、現在米国向けに輸出している大型油圧ショベルの一部モデルの生産を米国に移管し、同事業所は中国を含むアジア向けに集中させる方向で生産態勢の見直しを進めていることを明らかにした。近く正式に決める。需要地の近くで生産し効率化を進めるのが狙い。


 経済成長が続くアジア・太平洋地域で需要が拡大基調を強めていることから同社は、米国に一部モデルの生産を移したとしても、長期的には同事業所の生産能力の拡充や雇用の増強を迫られる可能性があるとしている。

 大型油圧ショベルの米国での生産能力を現在の3倍に引き上げ、同事業所で生産している複数モデルの生産を始める。

 キャタピラージャパンによると、明石事業所は主に油圧ショベルを製造しており、約7割は海外向けに出荷。製造、設計の両部門で約1000人が勤務しているという。同社は「今後はアジア向けが増える見込みで、人員にはあまり影響がない見通し」としている。

(2010/03/12 14:14)

Porco said...

金融業がこれまでのような成長力を保持できなと見切っているのでしょうね。正解かどうかは暫くは誰にもわからないと思いますが戦略的であると言う印象を持ちます。

Anonymous said...

<3/12/2010,日経ネットより>

米キャタピラー、油圧ショベルで米国に新工場検討

 【ニューヨーク=小高航】米建設機械大手のキャタピラーは11日、米国に油圧ショベルの新工場を建設する方向で検討に入ったと発表した。現在、明石事業所(兵庫県)で生産し米国に輸出している分を新工場に移管。明石事業所は需要拡大が見込まれるアジアへの輸出拠点になる可能性があるという。

 今後、計画を精査したうえで最終決定する。計画によると、キャタピラーは米国での油圧ショベルの生産能力を現在の3倍に増強。明石事業所はアジア・太平洋地域向けに特化し「生産能力や雇用を積み増す可能性もある」としている。(16:00)

snowbeesコメント:要するに、地域別の需要の変化に対応して、サプライチェーンを修正すると。

モンテカルロ・モナコ said...

基軸通貨国の傲慢は続かないので、貿易収支を改善する方法は、いたって簡単です。

輸入を減らすか、輸出を伸ばす。
前者を強調すれば、自給自足なんです。
部分的にリカードは不要。

次に、金融工学なんて幼稚なんです。

さて、貸出先の信用度によって、貸し出し金利は違いますよね。

どうしてでしょうか。
説明できないでょ。